やっと目覚めた術式のせいで呪詛師認定されそうな件 作:へーれ
拡張術式『獅子身中』は羂索による呪物埋込みの被害者を解呪するための手段として隆景が高専在籍中に考案したものである。
『退魔の剣』状態の刀を使って被呪者の体内に正のエネルギーを流し込むことで呪物を祓除するというアイデアだったが、『
『
お蔵入りしたこの術式が再び日の目を見たのは伏黒恵の身体を宿儺から取り戻す方策を検討する中でのことだった。
『
一箇所に密集しているのならばとにかく、体内に点在していることが考えられる“宿儺の指”全てにエネルギーを届かせるには大剣を振るう方法は現実的ではない。如何に巨大な刀身を振るうと云っても一度に直撃させられる“指”は多く見積もっても5~6本。“指”全てに攻撃を当てるには4~5回のクリーンヒットが必要となる。
おまけに“指”同士が肉体への定着を補完し合う関係だった場合、連続して攻撃を当てなければ宿儺の魂を剥がし切ることは難しいだろう。
以上の理由から、隆景はかつて没案としたこの拡張術式を宿儺戦に向けて実用化させたのだ。
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(もっとも…。)
日車の領域『
乙骨の
これらをもってしても宿儺の分離に失敗した後にのみ隆景の拡張術式『獅子身中』プランは実行に移される確率の低い手段であり、他の案と違いこのプランでは新たな『危機』を引き起こすことも実行を躊躇わせる理由だった。その『危機』とは…。
(土遁忍術、起動!)
ダメージを受けた宿儺の隙を突いて発動した忍術により義手を呼び寄せたときと同様に地中からコンテナが表れる。ただし今回呼び出したのは2.5メートル程の巨大なものだ。その様は役割も含めて正に「棺」。
隆景は追加の印を結んでコンテナを構築している物質を分解し、内部に格納されていた物体が姿を現す。
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(ここにあったのか。)
隆景の術式によるダメージは致命傷とまでは至らなかったが、乙骨憂太と虎杖悠仁との戦闘で受けた攻撃と合わせて宿儺の魂へのダメージの蓄積は少なくなく、黒閃によるバフを以てしてもいまだ宿儺は五条悟戦以前の全開の出力を取り戻してはいなかった。
その中で彼は目にした。かつての生の成れの果て。即身仏として飛騨霊山浄界に安置されていたはずの自分の遺体を。
遺体の傍らでは紫眼の術師が掌印を結んでいる。
(領域?なら何故わざわざ遺体を持ち出した?いや、アレが俺の体ならばもっと朽ち果てている筈だ。アレは死後間もないといっていいほどに経年劣化していない。そんなものがある筈がない。)
宿儺は自身の遺体がミイラ化した姿を知らない。本来であれば遺体を見たところで即座にそれが自身のものであると看破は出来ない。
現れた遺体は宿儺の生前の姿と同様の状態まで修復されていたために彼はそれが自身の遺体だと認識出来たのだ。
宿儺の疑問が解決する前に隆景は外法の術を発動させる。
結んだのは
一度失敗した術だが今ならこの“眼”がある。
「『外道 輪廻天生の術』。」
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隆景がこの遺体を手に入れたのは偶然だった。死滅回游の対策に全国を飛び回る中でふと思い立ったのだ。天元の築いた浄界に干渉すれば死滅回游自体を停止させられるのではないか、と。
京都
現地で調査を行ったところ分かったのは、日本全体に張り巡らされた天元の結界ごと消去しなければ死滅回游を終わらせることは出来そうになく、それを実行するには絶命の縛りを含む複数の縛りや特級、1級含む多数の術師の挺身が不可欠であり、それでも成功するかどうかは五分五分ということだった。隆景はその場では結論を下さずに問題を持ち帰ったが、術師らの会議でも、宿儺や羂索が存命の状態で多くの有力術師を失えばその後に宿儺らと戦うことになった時に対抗する術もなく日本中の術師が全滅させられ結局は国が滅びかねない、という結論に至った。
このように飛騨霊山浄界への寄り道は無駄足になりかけたが隆景はひとつ収穫物を手に入れていた。それが「宿儺の遺体」である。
隆景は五条悟の復活から新宿決戦までの間、拡張術式『獅子身中』を仕上げる傍らでこの遺体の研究に取り組んでいた。動機は宿儺の肉体を解析し弱点を探ることだったが、解析を進める中で伏黒恵の肉体を取り戻す手段としての使い道に思いついた。
より馴染む本来の肉体があれば魂はそちらに引き寄せられるのではないか*2。
そのために家入硝子の医療技術、実用化前の最新の万能細胞技術、隆景の反転術式のアウトプット、術式の習熟も兼ねた甘井凛による栄養投与を駆使してミイラ状態の肉体を生体同然にまで修復した。
このプランの成功確率は“指”の定着を弱め続けることが出来れば可能性があるという程度で、他の作戦が失敗した時にダメ元で決行するしかないという頼りないものだった。だが既に日車と乙骨がリタイアしている以上はこのプランを使うしかなかった。
そして今の隆景には『輪廻眼』がある。仲間たちが命を懸けている中で今更自分の残りの寿命を気にするつもりは隆景には無かった。元々、真依の蘇生を試みた時からこうなる覚悟はしていたのだ。
だから躊躇は無かった。
今度こそ禁術である『輪廻天生の術』は発動した。
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『輪廻天生の術』により宿儺の蘇生が始まる。だが、宿儺の魂は常世ではなく現世にある。魂が唯一無二のものである以上、蘇生術の成功の成否はその魂が受肉体である現在の宿儺と修復されたかつての肉体のどちらに宿るかに懸っている。
宿儺は自分の魂を引き寄せる力を感じていた。恐らくは紫眼の術師の仕業で、先ほど唱えた「輪廻転生」という呪詩から察するに死者の蘇生を行うことで魂を伏黒恵の体から引き剥がすことが目的であることは想像がついた。だが宿儺が本来の肉体に戻ればこれまで受けたダメージも回復し、領域も反転術式も万全に使えるようになる。そのことを連中が考えていない筈はない、となるとあの肉体には罠を仕掛けてあるのが常道だろうという結論に達した。
(ならば体は連中を皆殺しにしてからでいいな。)
瞬時に宿儺は思考を巡らせた。紫眼の術師を仕留め切れずとも防御の為に構えは解けば術は停止すると予測した。『解』で肉を裂けば猶更だろうとも。
「先輩!」
しかし宿儺にとって折悪しく傷を治した虎杖が隆景の元に駆けつける。それを見た宿儺は組み立てを変える。隆景を庇うために虎杖が間に入って『解』を代わりに受ける遮蔽物となるだろうと予測したからだ。
「『龍鱗 反発 番いの』…。」
閻魔天の掌印を結びながら呪詩を唱える。「世界を断つ『解』」ならば遮蔽物諸共一度に切断できる。
詠唱を見た隆景は印を片手の剣印に切り替えながら懐からある物体を取り出し掲げる。。一か八かの賭けだったが『輪廻眼』の恩恵で幸運にも術の発動は継続している。
言葉を紡いでいた数秒。その隙を突いた隆景のある行動。宿儺の並外れた認識能力はその動作を見逃さずに捉えていた。捉えたからこそ詠唱を僅かに緩めてしまった。それが呪いの王の命運を分ける。
隆景がこれみよがしに掲げたのは20本目の“宿儺の指”。封印術で気配を極限まで隠していたのだろう。今まで気配を感じ取ることは無かった。“指”の周囲には呪力で焼き切られたであろう呪符の燃え滓が舞っている。
宿儺の脳内に乙骨憂太の言葉が思い起こされる。
【“宿儺の指” 最後の一本、回収出来なかったでしょう?】
(
疑問は王に更なる隙をもたらす。
「東堂!!」
最後の“指”を宿儺の遺体に飲み込ませて叫ぶ隆景、咄嗟にその意図を察した虎杖、そして再び鳴り響く拍手の音。
(しまっ…)
自身のかつての肉体を持ち出されたことへの警戒、乙骨が張った
入れ替わったのは宿儺とその遺体。転移した宿儺の前では現代の鬼神が既に拳を構えている。
“指”って何回書いた?