やっと目覚めた術式のせいで呪詛師認定されそうな件 作:へーれ
「グオッ…」
蘇生術による魂への働きかけ。最後の“指”を取り込んだことによる器の完成度の向上。そして虎杖悠仁の黒閃が伏黒恵との魂の境界線に打ち込まれたこと。
宿儺は最早伏黒の身体に留まることが叶わなくなっていた。
「ゲアァァァァァッッ!!!!!!!」
受肉体としての宿儺が限界を迎え、目玉の化生が抜け落ちる。
化生は修復された遺体へ取り付くと同時に周囲に呪力を撒き散らし始めた。一体化の過程なのだろう。その呪力の様はさながら嵐のようで、攻撃を仕掛けるどころか吹き飛ばされないように堪えるので精一杯だ。
(どうにか伏黒は取り戻せた。後の問題は…。)
「恵っ!」
その暴風の中で何とか近づいて来た来栖華に伏黒の身柄を預ける。憂憂は既に本来の限界以上に転移術式を使用している。動けない彼に代わって来栖が来たのだろう。
「彼を頼みます。そして出来るだけ遠くまで逃げてください。」
「もとより私達は十全には戦えないがそれでも少しは力になれるかもしれない。それでも離れていろと?」
天使が問う。
「万が一、伏黒の身柄を奪われて再受肉なんてされる方が危険です。俺達との戦いで宿儺は『十種影法術』を使わなかった。恐らく五条先生との戦いで『魔虚羅』も含めた『十種』の術式は使用不能になったんだと俺は踏んでいます。『
『魔虚羅』は100%のバッドエンドだが、『
「…分かった。だが乙骨君との連携のことは忘れないでくれ。彼が復帰するときは私たちも一緒に戻る。」
そういって離脱を開始する来栖たちを見送ったところで何とか東堂葵が合流する。
「
あの呪力の奔流の中では気配を辿るのも困難だったのだろう。元々、宿儺から身を隠すために遠方に配置していたことも合流を遅らせた一因だった。
「東堂! ケガ治ったんだな!」
喜色を隠さずに虎杖が答える。
「あぁ、そこのMr.賀﨑が提供してくれた義手のおかげでな。今は俺の左腕として馴染んでいる。」
東堂の左腕は渋谷での特級呪霊との戦いで欠損していたが、宿儺の肉体を研究する過程で開発した生体義手を接続し外科的、呪術的な治療を施すことで今は元の腕と運動能力的には遜色ないレベルまで回復を果たしている。最も術式の構成要素として馴染むのには時間を要し、術式自体の改造も含めた準備で決戦の開始には間に合わなかったが、この土壇場に駆けつけて来てくれた。
ちなみに隆景が先刻、羂索との戦闘で失った右腕を補うために使用した義手も同様の経緯で製作されたものである。宿儺の肉体を再生させる中で万能細胞技術を使った肉体の製造は混迷を極め、大量のストックを生み出すことになった。東堂の治療にはその中で最も状態の良い左腕部が使用され、残りのストックの中から右腕部に該当するものを隆景が使用して『輪廻眼』の『修羅道』を用いて文字通りの義手としたという経緯だ。
「東堂君、助けてもらって早々で悪いが
「無論、と言いたいところだが万全ではないな。遠距離の入れ替えに想定以上に難儀した。しばらくは通常の入れ替えも数秒のインターバルが必要だろう。」
東堂は左腕のリハビリ時に自らの術式の改造を行い、一定時間の性能低下と引き換えに術式範囲の拡大を可能としていた。『
「何だ。つまらんな。」
暴風の如き呪力の乱流が収まったかと思いきや既に隆景は宿儺の拳を受けていた。
「入れ替え術式の味噌は連発出来るところだ。連発出来るからこそ
解説するかのように語りながらも宿儺は虎杖と東堂の連携攻撃を術式も使わずに捌いて彼らを殴り飛ばす。
(これが正真正銘、完全体の宿儺。自分で蘇らせといてなんだが、さっきまでの受肉体とは次元が違う。マトモにやり合えるイメージが浮かばないな。)
ふらつきながら隆景は立ち上がる。先程の宿儺の打撃も本気では無いだろう。
「なんでその体で動けるんだよ…。わざと神経をバラバラに繋いでおいたのに平気で動き回りやがって。」
口内に溜まった血を吐き出して隆景が毒づく。魂が器と認識するように臓器や骨格、筋肉を正常に回復させたのは確かだ。だが、蘇生後の戦闘力を削ぐために神経系だけはわざわざデタラメに接合していた。だというのに眼前の悪魔は自在にその体を操っている。
「あぁ、それで思うように動かないのか。まぁ慣れれば何ということはなかったぞ。その神経系とやらの乱れも込みで動くだけだからな。」
反転術式すら使っていないのかと最早呆れの声が出てしまう。
「それより良いのか? 今の俺には五条悟が遺した脳のダメージもなく、お前達には俺に張り合えるほどの領域使いは居ない。この意味はわかるだろう。」
言葉とともに宿儺は閻魔天の掌印を結ぶ。そう今の宿儺に脳の後遺症は無い。伏魔御厨子も制限無く使用出来る。
このままでは宿儺の領域で虎杖、東堂と共に全滅だ。
「何の対策もない?んなねぇわけねぇだろ!」
そう叫んだ隆景は抜いた愛刀
(こっから先はマジで出たとこ勝負。けど今更ビビんな!ハナから全開の宿儺を殺すつもりでこっちは来てんだ。)
放った
落下してきた刀身に隆景の貌が二分されるかのように映る。
隆景はそれに合わせて “最後の解放”の呪詩を唱える。
瞬間、その刀は古来の姿を現代に取り戻す。
“三明の剣”として伝承に伝わる三振りの霊剣としての姿を。
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「坂上田村麻呂」と「鈴鹿御前」の伝承に登場する“三明の剣”。この刀は伝承において果たす役割の大きさと比べて不自然な程その刀自体の詳細は現代に伝わっていない。ほとんどの伝承においてこの三振りの剣は物語の登場人物の命運を左右するほどの力を持ち主に与えており、これを失ったがゆえに加護を失い命を落とすことが殆どだ。
だが、その名称や来歴には様々なパターンがあり、特に鈴鹿御前の死後には多数の説がある。例えば、田村麻呂と彼と鈴鹿御前との間に生まれた娘「小りん」に分けて譲られるなど“三明の剣”という割には別々の人物が所有者となったり、朝廷に献上されたりする他に別の刀へと打ち直されるなどその顛末は多岐にわたる。
そのいずれにおいても3本の剣がそのまま後継されるといった逸話は伝わっておらず、そのこともこの刀が何処かの宝物庫に保管されず模造品と誤認されて闇のオークションに流れていた理由でもある。
当時を知らぬ以上、伝承の真実は隆景にも当然分からない。しかし、この刀を愛刀として研鑽を積み呪力と正のエネルギーを注ぎ続けた彼の中にはある仮説が生まれていた。
伝承における三刀はそれぞれが別々の性質を持っていたという逸話はない。三刀を揃い持つものが加護を得て、一つでも失えばその加護は失われる。語り継がれてきた伝承に真実があるならば霊剣としての力を現代に遺すこの刀にも他の二刀の力が遺されていてもおかしくはない。
そう思考を飛躍させた隆景は自身の呪力を大量に注ぎ込み潜在能力を引き出す“卍解”という形で“三明の剣”を現代に蘇らせた。
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隆景の周囲を三本に数を増した刀が舞う。
「今度は曲芸か。器用さだけは褒めてやるがそれももう飽いた。」
付き合うのはここまで、と言わんばかりに呪力を昂らせ掌印を結んだまま呪詩を唱える。
だが、奇妙なことに宿儺の眼前の隆景も掌印を結んでおり、合わせて呪詩を唱えようとしている。
宿儺にはその行動の真意が掴めなかった。
(この男の領域擬きは恐らく術者自身に限って敵対する術式を無効化する鎧。今更小僧とチョンマゲは見捨てるというのか?)
宿儺の呪力が王を奉る禍々しい本堂を形作っていく一方、紛い物の領域使いである隆景の周囲に形成されるものなどは当然存在しない。
だが、周囲を浮遊していた刀のうち二刀は虎杖と東堂の元へと飛翔した。
鏖殺の伏魔殿が完成する時、隆景が作り上げたのはやはり鎧であった。
但し、それは刀を分かち合った仲間のためのもの。
“三明の剣”を解放することで隆景は刀を預けた仲間を守る鎧を作り上げた。