やっと目覚めた術式のせいで呪詛師認定されそうな件 作:へーれ
「
「これ私には使えないのか?」
尋ねる真希に隆景は答える。
「呪力のない真希は術式対象にするのは難しい。通常の領域では捕捉できないのと同じ理屈だと思うが、これは不便だな。『閉じない領域』は恐らく対象を生得領域内に限定せずに術式を適用できる。そうなると渋谷で建造物とかの無機物が丸々粉微塵にされたように真希自身も『
決戦に備える中の時間を縫って自身の疑似領域『
これはその時の一幕。
「それでも3人は宿儺の領域内でも自由に動けるってことだろ?十分にアドじゃね?俺はその間に「大当たり」が出れば鎧を他の奴に回しても良いし。」
「そうそう。コレ、付いている間はなんか身軽になるし。」
疑似領域について自身の「大当たり」時の無敵時間も含めて有用性を見出している秤と効力を試すように30メートルほどの垂直跳びを繰り返す虎杖。
(((((お前の感覚は参考にならねぇよ。))))
真希以外の全員が脳内で突っ込む中で隆景は説明を続ける。
「簡易領域も一応領域の一種だからな。術者の俺が許可していれば付与者にも領域のバフで身体と呪力操作のキレが増すくらいの恩恵はあると思う。」
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(さっきまでとは体の軽さが段違いだ!)
超人の身体を持つ虎杖だがここまでの連戦で著しく体力を消耗しており体捌きにも影響が出ていたが、『
攻撃後の崩れた体勢の虎杖が東堂と入れ替わる。彼は既にダブルスレッジハンマーの体勢を整えており、黒閃を食らった直後の宿儺は反応が間に合わない。
虎杖と同じく東堂も黒閃をキメ、二人は
(東堂君には領域のことは説明してないんだけど何で躊躇いなく動けてるんだ?)
「阿弥陀流 真空仏陀斬り!」
得意の斬撃波は体表の簡易領域を離れた途端に『
(やっぱり簡易領域から出たら必中術式の対象になるか。だけど!)
『
(『シン・陰流 上段 滝落』!)
自重と落下速度を重ねた斬撃が宿儺に叩き付けられる。
上の主腕を交差させてそれを防ぐ宿儺だが呪力強化だけでは完全に防ぐことは出来ない。足を地にめり込ませ瓦礫を生みながらようやく受け止めるも腕に傷を負う。
東堂はそのチャンスを見逃さない。
瓦礫と虎杖を入れ替えることですぐさま攻撃機会を作り出す。
そして繰り出される虎杖悠仁渾身のアッパーカット。
『
アッパーを受けて空中に浮いた宿儺に対して虎杖は続けざまにショルダータックルをぶちかます。極限まで身体能力を引き出された虎杖悠仁の打撃は黒い火花を引き寄せる。
水切石が跳ねるかのように地を転がる宿儺。軌道を読んでいた東堂は既に先で待ち構えている。
東堂の右脚の蹴りによって宿儺は再び虎杖の元へ弾き返される。
その軌道を読んでいた虎杖は既に右拳を構えている。
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新宿決戦の火蓋が下ろされる直前。宿儺と裏梅は虎杖悠仁の出生について言葉を交わしていた。宿儺は双子として産まれる運命だったが、飢えを凌ぐために母親の胎内でその片割れを喰った。曰く、その片割れの生まれ変わりと羂索が番って産まれたのが虎杖悠仁だろうと。
呪術の世界では双子は凶兆とされてきた。一卵性双生児は呪術の法則上、同一人物と見做される。そのためいくら鍛錬し能力を磨こうとしてもその恩恵は二人に分散されるし縛りを結んでも両者がそのルールを遵守しなければそれは縛りとして機能しない。何をするにしても半分の効力しか得られない。それが呪術界で双子が忌み子とされてきた理由である。
宿儺は半身を喰らうことで双子としての運命を退け術師として大成した。二対の腕と口を持つその異形も自身の片割れを喰ったことが影響しているのかも知れない。
片割れの魂は術師としての能力を宿儺に奪い尽くされている。生まれ変わったところで術師としての能力に恵まれることはない。だが、虎杖悠仁の場合は事情が異なった。
一つは母体たる羂索が胎児の時点で悠仁に封印を施した“宿儺の指”を埋め込み、“指”への耐性を着けるために胎内で調整を行ったこと。これにより並の術師すら凌駕する身体能力を備えて虎杖は産まれた。
もう一つは虎杖自身が片割れの魂を継いだ訳ではなかったこと。片割れの魂を継いで産まれたのは虎杖の亡き祖父、倭助であり羂索と子を為した亡父の仁との親子3代の繋がりの中で虎杖は宿儺に似た形の魂を持って生まれた。
虎杖にとって宿儺はいわば大叔父にあたり、羂索の仕込みも相まって彼は呪いの才能を色濃く受け継いで産まれたのである。
つまり、虎杖悠仁は宿儺の呪術的な双子ではなく、その系譜としての資質を備えていたのである。
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再び振るわれる渾身の一撃。呪いの王の血を引く者。彼の肉体と魂に秘められた潜在能力が黒い火花と共に解放される。
全体重と全呪力を乗せた右ストレートが突き刺さる。この一撃には斬撃も加わっている。虎杖悠仁の肉体には“指”の影響で宿儺と同じ『
打撃と同時に放たれた『解』は宿儺の胴に×字の傷を刻む。即座に反転術式で傷を治す宿儺だがその隙に虎杖は再び拳と斬撃を叩き込む。
今や虎杖は宿儺の呪力防御を物ともせずにダメージを通している。
『
踏み締めた地点から放射状に「切り取り線」が伸びて虎杖の『解』が発動する。斬撃によって作り出された多数の瓦礫の内、簡易領域外へ漏れ出たものは『
『
上段の蹴りを宿儺の頭部に見舞い、その勢いのまま後ろ回し蹴りを叩き込む。この間に東堂の術式が再使用可能となり更なる位置替えで連撃を繰り出す。無理な運用を行ったことが祟って連発に制限が掛かっていた『
(『シン・陰流 脇構え 一薙ぎ』!)
そして隆景はこの攻勢が途切れないように虎杖と東堂の連携の合間に斬撃を仕掛ける。受肉体でなくなった今の宿儺に『浄の力』は有効打とならない。忍術も領域内の術式で妨害される以上、今の隆景には高火力の攻撃オプションは無い。そのため東堂の術式再発動の時間を稼ぐことに全力をかけていた。
馬力の高い虎杖がメインアタッカー、優れた戦闘IQと術式を誇る東堂がサポーター、二人の連携を補助する隆景がサブアタッカーを務めることで3人は宿儺に猛攻を仕掛けていく。
(流石宿儺と言うべきか、これだけ反転術式を使わせても未だに呪力の底が見えん!)
(それでも攻め続ける!領域を維持出来なくなるまで殴り続ける!)
領域を崩すことが出来れば、『
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現在の状況は一見すると宿儺が劣勢に立たされているようだがそれは誤りだ。今の彼は時間経過を待っているだけでありそもそも攻めに転じる気を持っていなかった。
(受肉体でない俺に小僧の「魂の境界」を捉える攻撃は最早脅威ではない。受けた傷は反転術式で治せばいい。そして時間は俺の味方だ。)
3人の連携に対して宿儺は積極的な抵抗をせず致命傷を防ぎながら攻撃を凌ぐことに努めていた。
その思惑は程なくして的中した。
「!?」
紫眼の術師が五条悟と同様に鼻から血を流して膝を付く。
(やはり凡夫にこの曲芸はかなりの無茶だったようだな。)
「簡易」とはいえ3人分の領域を維持するためには高度な結界術の運用が必要となる。
平凡な術師が行うには無謀な行為だ。宿儺はその限界を見越して敢えて無理に現状を打破しようとしていなかったのだ。
その限界は思ったよりも早く来たようだ。
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隆景の限界が近付いていた。
羂索の飼っていた呪霊を分解し取り込むことで緒戦で消耗した呪力を補充はしていたが、本来の呪力総量を大きく超える呪力を溜め置くことは出来なかった。
『餓鬼道』で取り込めたのは精々が本来の呪力総量の5割増程度。出力上限は上がっていない。限界以上に呪力を振り絞ることで結界を維持して来たがそれも限界が近付いている。
(このままじゃ二人を領域に取り残すことになる…!)
卍解によって生み出した「
「何だコレ、抜けねぇ!先輩、何する気だ!!」
(『
『
「必死だな。先ほどの蘇生の儀、肉体と魂を黄泉から呼び出したわけではなく、その場にあるものを結び付けただけだとしても随分と命を削る術のようだ。捨て身でなければ俺には勝てんと踏んだんだろうが、貴様程度の命、例え捨てたところでこの力の差はどうにもならんぞ?」
酷薄な笑みを浮かべる宿儺に対して脳裏によぎったのは夕暮れの教室で交わした恩師との会話の記憶。
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「これは恵にも言ったことだけど…、“死んで勝つ”と“死んでも勝つ”は全然違うよ。」
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「何も捨てちゃなんかいない。俺は!ただ“賭け”てるんだよ!」
これだけ密着していれば『
自身と宿儺の足元に隆景は底無し沼を作り出す。脚の自由を奪えば時間稼ぎにもなるし、勿論次撃も当てやすくなる。
次に発動したのは雷遁忍術。『千鳥』が発生させる高圧電流を浴びせられれば更に動きを鈍らせられる。
だが。
「領域展延か!」
渋谷の特級呪霊達の例によれば領域展延と生得術式の同時使用は出来ないとのことだった。だが、現に宿儺は領域を展開したまま同時に展延を発動して電撃を防いでいる。
(宿儺は領域を使いながら展延も使えるのか、出鱈目だな!)
「どうした? 五条悟はこの程度では顔色一つ変えなかったぞ。」
「先生と一緒にするな、よ!」
会話の合間に隙を突こうと『黄泉沼』を片足分だけ解除して横蹴りを腹部目掛けて放つが宿儺は副椀でいとも容易くそれを防ぐ。
「キモいんだよ!虫みたいで!」
(とはいえ直に対峙して初めて分かる。4本腕がここまで戦闘で厄介だとは。)
隆景がそう思考したところで宿儺は正しくその異形の価値を発揮させるために主腕で閻魔天の掌印を結んでいる。
(追加の掌印! 「世界を断つ斬撃」か? いや…これは結界要件の変更!)
隆景の予想は正しく、宿儺は領域の効果範囲を半径200メートルから150メートルに絞ることで効果圏内での威力を引き上げ隆景の『
隆景が脱出させようとしている虎杖と東堂は領域の中心から60メートルの地点にいる。これだけの負荷を掛ければ数秒内に簡易領域の維持は出来なくなり二人が領域外に離脱することは叶わないと宿儺は予測していた。
「仕上げだ。」
切断音と共に底無し沼で大地に拘束したはずの宿儺が拳を構える。隆景が『黄泉沼』を解除したわけではない。
(自切したのか! まだ二人は領域の効果圏内。アレは簡易領域と同時には使えない!)
『解』による自らの足の切断。脛より先を切断した宿儺は反転術式で既につま先までの再生を終えている。
展延を纏った宿儺は着地しても『黄泉沼』に足を捉われること無く、渾身の力で拳を振り抜く。
黒い火花は微笑む相手を選ばない。
辛うじて展開し続けていた『
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『
「「『シン・陰流 簡易領域』!」」
虎杖と東堂らは間一髪で自前の簡易領域を展開することで辛うじて宿儺の刃を防いでいた。『
「Mr.賀﨑!」
自分達は防御が間に合ったがこれまで3人分の簡易領域を展開し続けていた結界の主はどうか?東堂達だけでも逃がす判断をしたということは自身の消耗を重く見ていたということである。その状態で瞬時に簡易領域の再展開が可能なのか。仮に叶ったとしても目の前には宿儺がいる筈だ。
(生存は絶望的かッ!)
一瞬で思考した東堂だがその一方で虎杖は領域の外苑へ視線を向けていた。
そこでは黒髪の術師が薬師如来の掌印と共に呪力を迸らせている。
術師の足元から伸びる影は世界を形作っていく。
それは五条悟ですら成し得なかった絶技。『閉じない領域』。
影の世界が王の領域を塗り替えていく。