やっと目覚めた術式のせいで呪詛師認定されそうな件 作:へーれ
(追記)千本桜景厳の漢字を間違えてました。不覚。
横薙ぎに抜き放った隆景の剣を宿儺は跳躍して回避する。
たとえ呪いがなかろうとも人間離れした身体能力を宿儺は備えている。動体視力も例外では無く達人から放たれる居合を難なく躱していた。
高く飛ぶ必要はない。反撃に移る暇を失うどころか着地時に隙を晒す羽目になるからだ。
跳躍から着地への動きの中で横蹴りを放つ。その蹴りを隆景は刀の柄で辛うじて受け止める。
(重い!体で受けたら骨までやられるな…。)
お互いに反転術式を使えないこの状況。自身の負傷を抑えつつどれだけ相手に負傷を強いるか。それがこの勝負を左右する。隆景は勿論、宿儺も当然そのことを理解している。
だからこそ戦いは自然と防御を重視した立ち回りとなる。
宿儺の胴には第二の口があり、体内の露出部となっているためここは弱点ではある。だが、宿儺であれば突き立てられた刃を噛んで掴むこともあり得るだろう。故に狙うのは胸骨のあたり。
八相の構えから狙いを定めて突きを放つ。
胴を穿たんとした刺突も半身を切るだけで躱した宿儺に対して、突きの動きから横振りの一閃へと繋げる。
上体を反らした宿儺だったが避けきれずに隆景の刃がその胸板を裂いた。だが傷は浅い。
(なんて硬さ!真剣なのにカッターナイフで刃を立てているみたいだ!)
だったら、と刀を振った勢いのまま横蹴りを繰り出すもその脚を宿儺の副椀が受け止めそのまま抱え込む。
ミシリ、という圧力が掴まれた脚から伝わる。
(まずい!折られる!)
隆景は咄嗟に刀を己の足を掴む腕に突き刺す。大きく肉を引き裂くことこそ出来ないが、噴き出す血と共に腕に込められていた力が僅かに緩む。その隙に何とか掴まれた脚を抜き出すことに成功する。
(同じ人間とは思えない筋力差。しかも4本腕。取っ組み合いになればこちらが不利。)
出来ることならヒットアンドアウェイでダメージを重ねていきたいが、残念ながら肉体スペックはあちらが上回っている。単純な速度で上回れない以上それは叶わない。
(俺が勝てるのは剣速だけ!)
時計盤の4時から10時に向けての角度で切り上げる。刀は空を切り獲物を捉えることは叶わないが、振り上げた状態から手首を返し今度は叩き付けるように刃を振るう。
振り下ろされる刃。だが当の隆景は手応えを感じていなかった。
(踏み込みが浅かった!これじゃまた躱される!)
しかし。
回避されるだろうと予測した斬撃はしかし、宿儺の左腕に受け止められていた。
(しまっッ!)
敢えて刃を受けた宿儺。その右拳が隆景の頭部に振るわれる。
防御のために何とか振り上げた左腕をも押し込みながら宿儺の拳が隆景の左側頭部に激突。殺し切れなかった衝撃によって隆景の体が結界内を激しく転がる。
拳を受けた左腕がじんわりと熱を帯び始めるのを感じる。骨折とまでは行かなくともヒビなど何かしらのダメージが入っているのだろう。
(それでも頭に直に喰らってたら今頃脳震盪で立っていられなかったかもしれない。防御が間に合って良かった。)
一方で宿儺も負傷を負っている。右副腕と左主腕に付いた切創からは今も出血が続いている。このまま時間を稼ぎ続ければいずれ失血死に至る可能性もある。かといって隆景にその手段を取る時間の余裕はなかった。
(今度は胴をやる!)
再び全速で斬りかかる隆景。横振りで胴体を狙った隆景に対し宿儺は神業を見せる。
(嘘だろ!?)
刃は左の肘と膝の間に挟まれて停止していた。
「白羽取り、と当世では呼ぶのであったな。」
再び振るわれる宿儺の拳。今度も狙いは隆景の頭部。直撃は避けられない位置関係。故に隆景が取れる行動は限られる。
「ふんッ!」
避けられないのならば。
(迎え撃って勢いを殺す!)
「!!」
拳に対して自ら額をぶつけることで拳が加速して威力が最大になる前に受ける。苦し紛れのダメージコントロールだったが予想外の行動に宿儺も虚を付かれることになる。
(今!振り抜け!)
ふらつく意識の中で挟んで止められている刀に力を込め直し、今度こそ刀を振り抜く。切り裂かれた宿儺の脇腹から鮮血が散る。
(3箇所目!)
息を切らしながらも何とか構え直す。ここまでの流れはあまり良くない。3箇所の切創を与えはしたが、その間に隆景は二回打撃を受けた。特に二発目は頭部に喰らったためにダメージが尾を引いている。不幸中の幸いか片足立ちの体勢から放たれたために致命傷でこそなかったが、それでもその衝撃は大きく幾度もは受けられないだろう。
反転術式が使えないために宿儺は今も出血し続けているが、元々の体力が優れているためか動きに鈍りは見られない。
「辛そうだな。」
隆景の不調を見抜いて挑発の言葉を宿儺が発する。
「言ってろ!」
そう言って再び斬りかかる隆景だが宿儺はそれを容易く躱す。剣筋が明らかに鈍っていることの証左であった。
「結界術の基本は足し引きだ。あらゆる呪術を封じるというのは凡そ諸人の力で叶うものではない。」
そう言いながら宿儺は隆景の刀を躱し続けている。
「その無理を叶えるためにどれだけの縛りを結んだのかは知らんが、貴様のその様子を見るに随分多くの無茶を重ねているのであろう。」
その推察は正しい。『
羂索戦直後に発動した際には、羂索との戦闘で呪力を消耗しきっていたことと味方が付近に居なかったことから発動条件を満たし、呪力の塊である呪霊は『
呪霊を相手取るのならば大物食いも容易くするこの特性も呪詛師や受肉体を相手取る際には十分に発揮されず、現に生身の肉体を持つ宿儺と戦う今も肉体のスペック差から追い詰められつつある。
その様を宿儺が嘲笑する。
「無駄な足掻きだな。反転術式を封じて俺を消耗させてもこの結界さえ解ければ俺は即座に肉体を全回復させる。お前が必死に付けた傷も失った血も元通りだ。」
「その前に立ってられない程失血すれば腕も足も斬り飛ばせる。その首だってな。ここに引き込まれた時点で俺が盤面を握ってるんだよ!」
体力の損耗によって低下した剣速を補うべく腰から外した鞘から再び抜刀術を放つ。
本来の抜刀術では自身の足を傷つけないように左足を引いて刀を抜く。だがこの技では敢えて左足を前に突き出した状態から抜刀を行い、身体の回転が生み出すエネルギーを最大限に引き出す。
難易度が高いゆえに鞘を腰から外した状態で左手の自由を高めた状態からでしか隆景はこの技を扱えず平時は滅多に使用することはない。シン・陰流特有の呪力で加速させる抜刀術が使えないがためにこの技を使用している。
またも躱されるが今度はそれも織り込み済み。躱した先にこそ隆景は狙いを定めていた。
抜刀を躱した宿儺を左手に握った鉄拵えの鞘で殴りつける。攻撃を躱した油断を突いた一撃。刃こそないものの鋼鉄の強度と抜刀に匹敵する速度によって宿儺の腹部の口腔に鞘を叩き付け無理矢理引き裂く。
(まだだ!)
回転の勢いのまま駒のように再び刃を振るう。
しかしその行動はあまりに迂闊であった。
両の掌の間で受け止められた刀身。隆景の剣が遂に見切られた瞬間であった。
受け止められた刀を渾身の力で引き抜こうとするが万力の如き膂力で掴まれたそれを引き抜くことは叶わない。
「返してやる。」
慌てて飛び退く隆景だったがそれを逃がさずに宿儺は折れた刀身を投擲する。刃が隆景の右上腕に突き刺さる。
左手の打撲と右腕の切り傷。これで両腕に損傷を受けたことになり、隆景はもう満足に刀を振るうことは出来ないだろう。
宿儺はトドメを刺すべく歩みを進めてくる。
絶体絶命。残された手はもうない。宿儺はそう考えているだろう。ならばまだやりようはある。
「もう勝った気か?」
命が潰えるその瞬間まで諦めない。挑発の言葉を必死に組み立てる。
「呪力とそれ由来の正のエネルギー。それらを封じると言ったのは確かだ。だが忘れてないか。」
ブシッ!
掌が切れるのも構わずに右腕に刺さった刀身を無理矢理引き抜く。
「俺の体質は呪力を全く違うエネルギーに変質させる。そっちまで使えなくなったとは言っていない。」
折れた刀身と半ばから刃を失った元の刀を縦に連ねるように地に落とす。
「卍解。」
「『千本桜景厳』」
しかし変化は何も起きない。
変質させようとも呪力は呪力。隆景の特殊体質によって変質した呪力も『
隆景の目的は『
当然、桜の卍解は発動せず分かたれた愛刀はただ地に落ちるのみ。
その、はずだった。
鮮やかな桜色。
五条悟の伸ばした腕とその体を支える乙骨憂太。二人の特級術師によって発動する新たな『無下限呪術』。
莫大な熱を内包する光の束が宿儺の体を真っ二つに斬り裂いた。
天翔龍閃の左足を前に出すと斬り込みが速くなる理論、実はよく分かっていません。