やっと目覚めた術式のせいで呪詛師認定されそうな件 作:へーれ
「先生ってビームとか撃たないんですか?」
「え?いつも撃ってるじゃん、『茈』。見たことあるでしょ?」
五条家私邸内の訓練場。当時高専1年生だった隆景は『凝固呪法』の存在を隠すために五条家の私有地で訓練を積むことが多くなっていた。
この日はスケジュールが合ったため五条悟に指導を受けていたのだが、その中で不意に発したのが先の言葉である。
「勿論そっちは見たことありますよ。先生、割と気軽にぶっ放しますからね。僕が言ってるのはもっとアニメ的なビームです。フリーザのデスビーム*1 みたいな。」
それを聞いた五条は呪力弾を隆景の股間に向けて無言で放つ。
「危なッ!何すんすか!」
すんでの所で躱した隆景は抗議する。
「いや…なんかムカついたから…。いいかなって…。」
「危うく玉に掠るとこでしたよ!まあ、当たらなかったからいいか…?」
正気の沙汰とは思えないやり取りだが、二人にとっては日常茶飯事だったためそのまま会話は続く。
「圧縮を扱える無下限と原子レベルで呪力を扱える六眼の組み合わせなら行けると思うんですよ。ガンダムのビームライフルとか。」
「大丈夫?ガンダムの話題は荒れるよ?」
「僕らしかいないのになんの心配してるんですか。」
明後日の方向に警戒を飛ばす五条にツッコミを入れつつ隆景は続ける。
「シリーズによって設定は違うんですけど、宇宙世紀系は概ね『圧力』でビームを作ってるんですよね。」
「宇宙世紀は特に荒れやすいよ?本当に大丈夫?」
「さっきからなんなんすか。ていうか結構、詳しいんですね。話を戻しますけど、宇宙世紀系作品ではミノフスキー粒子だったりメガ粒子*2だったり重金属だったりと元にする物質は違うんですけど、それにレーザーとかで圧力をかけるんですよ。そうやって核融合反応を起こして、それをミノフスキー粒子で囲んでその圧力を逃がさないように維持し続けることで莫大なエネルギーを得る設定らしいんすよ。媒体によって結構バラつきもあるし僕の知識も完全じゃないから間違いもあるかとは思うんですが。」
早口で宇宙世紀のSF考証を語る隆景は続ける。
「要は、先生ならこれを一人で実現出来るんじゃないかって話です。『蒼』で圧力を掛けるのなんて朝飯前、六眼なら原子の観察も楽勝でしょ?オマケに呪力切れも起こさないから圧力は掛け放題。これならミノフスキー粒子が無くてもガンダムのビームを作れると思うんですよね。」
「確かにイケると思うけど、そんな手間を掛けるよりも『茈』を撃つ方が手っ取り早くない?その方法だと圧力が高まるまで攻撃出来ないじゃん。」
「まあ、それはそんなんですよね。現状で六眼と『無下限呪術』のコンボは順転、反転、虚式で弱点無しの最強ですからね。でも、ロマンありませんか?現在の科学技術じゃ核融合反応は起こせはしても反応の維持が難しくて融合反応の発生に注ぎ込む費用以上のエネルギーを取り出せていません。悲しいことに現状の使い途は原子爆弾の破壊力を圧力に利用して瞬間的に核融合反応を起こすことでそのエネルギーを兵器として使う水素爆弾くらいです。核融合の安全な利用はまだまだ夢の技術です。でも先生なら科学と呪術を組み合わせて実用化出来るんじゃないかって思い付いたんです。」
隆景が語ったのは少年の抱く夢。「あんなこといいな、できたらいいな。」という程度の妄想。六眼と無下限呪術を使いこなす五条悟が既に完全無欠の強さを誇る以上、新技の習得に時間を費やすよりも術師としての業務に精を出す方が世の為というものであろう。
だが、最後に隆景はもう一つの可能性を示していた。本人は無意識だったのかもしれない。それでも五条悟はその言葉を記憶に残していた。
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【あんまり意味はないんですけど、他の無下限の術式と違ってこの方法だと“呪力で構成されていないエネルギー”が出来上がると思うんですよね。核融合反応を引き起こすのは術式ですけど、発生した反応から生まれるエネルギーは純粋な物理現象から生まれたものの筈です。『茈』に耐える物質が存在しない以上、呪力以外の攻撃手段が求められる状況は想像出来ないですが。】
昏倒状態から覚醒した五条が目にしたのはタイル貼りの天井とLED電灯だった。
懐かしい夢を見たものだ。『百鬼夜行』前はああして鍛錬の様子を見てアドバイスすることもあった。隆景の鍛錬は見ていて飽きることがなかったので、ちょっかいついでによく様子を見に行っていた。
「五条!」「先生!!」
同じ医務室で手当てをしていた硝子とその手当てを受けていた憂太、2名がこちらに目を向ける。
「意識が戻ったんですね!」
と自分の傷も構わず涙ながらにこちらを心配する憂太。
「身体はまだ起こすなよ。倒れた原因はまだ分かっちゃいないんだ。私がもう一度診るまでじっとしてろ。」
とこちらに殺気を飛ばすのは硝子。
わかった、わかった、と五条は降参の意を込めて両手をあげて起こしかけた上体を再び診察台に預ける。
寝ていろとは言われたが、何もするなとまでは言われていない。得意の屁理屈を展開して身体の調子を確かめる。
六眼は問題なく機能している。呪力量の方は宿儺戦の疲労が尾を引いているのか本調子にはほど遠いが、幸い反転術式の出力は問題なさそうだ。
自身で身体に反転術式を走らせたところ、外科処置では手が出せなかった箇所も含めて治療することが出来た。
脳の方は…相変わらず領域の使用は叶わなそうだが、無下限呪術自体は使用出来そうだ。
そこまで自己点検を終えた所で外の戦況を尋ねることにした。
「ところでさぁ…。」
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「以上が先生が倒れてからの戦況です…。」
悔しさを滲ませながら報告する乙骨。
先に目覚めていた彼は治療を受けながら冥冥の烏経由で伝えられている情報をまとめて五条に報告していた。
日車寛見の『
高専側にとって手痛いのは主にこの4点だろう。
しかし、想定外の幸運も幾つかあった。
ひとつは、羂索を排除し天元を奪還出来たこと。これにより死滅回遊の最終目標は阻止出来る。
もうひとつは、伏黒恵の体を宿儺から奪還出来たこと。これまでは伏黒の肉体が消滅しないようにしながら宿儺と戦う必要があったが、宿儺が伏黒の肉体から分離し元の肉体に移った今、周囲の環境諸共消滅させる手段も取れるようになった。
せっかく奪った領域と反転術式が再び使えるようになったことは好ましいことではないが、報告によると宿儺は今、隆景が発動した『
縛りの条件を満たす機会が無かったことから五条も『
結界の内部で戦う隆景が宿儺に勝つことは不可能だろう。手助けをしようにも、あらゆる呪力を否定する結界に対して外部から呪術で干渉することは『茈』でも叶わない。仮想の質量を押し出す『茈』も呪力による現象であることは、自爆覚悟で発動させた無制限の『茈』によるダメージが発動者である五条と攻撃を受けた宿儺とで大きく差があったことからも明らかだ。
このままでは結界内の隆景は死亡し、反転術式で全快した宿儺が解き放たれることになる。それは戦術的にも上手くない。
だから五条はとっておきの新手を使うことにした。
「憂太、術式はもう回復した?」
「え?はい。先生みたいに無理矢理治したわけではないですけど、今は自然回復してます。」
家入の診断を終えた五条はその長躯を立ち上がらせ、大きく伸びをしながら乙骨に告げる。
「それじゃあ、化け物退治と行こう。二人で力を合わせて。」
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「ここらでいいかな。」
五条と乙骨は『
そして徐に五条は自身の左目をくり抜く。
「はい。
「簡単に引っこ抜くなぁ…何だか複雑な気分ですね…。いや、やりますけど。お願い、「リカ」。」
五条の目玉を受け取った乙骨は「リカ」にそれを捕食させて『
「それじゃあ憂太は『蒼』で中心核の方をお願い。元々呪力量は憂太の方が多いし、今の僕は普段よりもパワーが落ちてるしね。それに圧縮だけなら六眼が無くても問題ないと思う。要は一点に圧力を掛け続けるだけだからコレに向かって全力で術式を回して。」
そう言って五条が手渡した金属塊にはこれから起こす核融合反応の媒体となる重水素が封じ込められている。
「分かりました。早速始めてもいいですか?」
「うん、始めちゃって。砲門代わりの筒は僕が作る。狙いも僕の方で付けるから憂太は『蒼』にだけ集中してくれればいい。」
「はい!」
乙骨が『蒼』の発動を開始する。渡された媒体に向かって圧力を加え続けていく。
圧力の高まりに応じて物体から熱と光が生じ始める。だがその熱は『蒼』の障壁により乙骨の手を焼くことはない。
反応が臨界に到達し、蛍光ピンクの光が溢れ始める。それを確認した五条は「砲身」の形成に取りかかる。
リニアモーターがプラスの電荷とマイナスの電荷を並べることで吸引と反発を交互に引き起こして物質を加速させるように、“引き寄せる”力の『蒼』と“弾く”力の『赫』を交互に発生させ筒状に並べることでエネルギーの発散する方向を指定する「砲身」を作り出す。
「憂太、良いよ。」
合図に合わせて乙骨は五条の指示する方向に向けて『蒼』を弱める。
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不可視の結界内の宿儺に対してどうやって五条は狙いを定めたのか。
『
つまり六眼であれば物体の影響で生じる呪力の濃淡から内部の物体の位置を観測することは出来る。
五条には二人分の人影が見えていた。そして好都合にもそのうちの一人は常人とかけ離れたシルエットをしている。
狙うべきは4本腕の異形。
解放されたエネルギーは宿儺の脳天を過たず貫いた。
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呪力は丹田から生じるが反転術式は頭脳で操作する必要がある。それ故に反転術式使いを仕留めるためには頭部を狙うことが定石だ。
理外の存在である両面宿儺や五条悟であれば頭蓋に銃弾や刺突を受けた程度であれば、その瞬間から反転術式を全開にすることで脳機能が停止する前に損傷を回復することが出来るだろう*3。
だが『蛍』はその貫通力に加えて莫大な熱も備えており、貫通箇所の近傍をその熱によって焼き焦がしていく。炭化した細胞は当然、本来の役割を果たすことは出来ない。
故に宿儺が最期に知覚したのは自らの頭蓋に何かが衝突したことだけだった。それ以降は脳組織が機能を停止し反転術式はおろか、自分の身に何が起こったのかさえ理解することは無かった。
呪いの王、史上最強の術師。呪物となってまで時代を渡り、数多の畏れを集め続けた男は最期に呪詛の言葉を遺すことも出来ずにその生涯を終えたのであった。
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敵対者の死亡により『
崩壊した結界の傍らに五条と乙骨の2名が立っていることを視認した隆景は先ほどの極彩の光の矢が彼らによるものだったことを理解した。
「先生、やっぱりビーム撃てたじゃないですか。」
そう言って疲労で座り込みながらも笑顔で隆景は溢す。
「まあね。僕、最強だから。」
お決まりの台詞と共に五条は笑顔でそれに応えた。
今回は前話の別視点という内容です。それなら連続投稿すべきでは?という話ですがこの体たらく。
それと『蒼』だけなら六眼無しでもいけんじゃね?ってことで乙骨君に頑張って貰いました。いけない気もします。