やっと目覚めた術式のせいで呪詛師認定されそうな件 作:へーれ
あの戦いから2ヶ月が経った。
宿儺の死亡後、おかっぱの呪詛師(裏梅と呼ばれていたらしい)はすぐに自決したとのことだ。何でも主君が斃れたのならば当然後を追うと言って自決した、というのが秤からの報告だ。
それからは
死滅回遊の儀式はまだ終了していない。天元様の結界を基底として成り立っているために下手に回游を終了させようとすると、日本全国の浄界も影響を受け最悪消失することにもなる。
そのため現在は日車が追加した『
羂索が追加した
現在は、東京に依然として大量に残っている呪霊を祓いながら、有力な術師が各
渋谷事変以降、多くの術師が殉職した。
この戦力を補充するために、殺す寸前まで追い詰めた相手に対して、命を助けることと引き換えに戦力として引き込んでいるのだ。こういった連中とは違って縛りこそ結んでいないが、元は羂索の一派だった脹相や回游中に大量殺人を行っている鹿紫雲も同様に高専の戦力として活動している。
彼らの場合、高専の活動に協力する限りはかつての罪については不問とするという形で契約を結んだそうだ。脹相は弟である虎杖と共に在ること。鹿紫雲の場合は強い術師や呪霊と戦える環境がある限りは高専に協力するらしい。
ちなみに、発動すれば最後。術式の終了と共に絶命するはずだった鹿紫雲だが、宿儺が使用した呪具であり術式の無効化という効果を持つ『
『幻獣琥珀』の再発動は不可能になったが彼の肉体は物質と電気の中間の性質を持つことになり、水による強制放電などの弱点は悪化したが、総じて使い勝手は以前よりも大きく向上した。
彼の態度が軟化したのもこの変化が寄与しているのだろう。これからはより自由に戦いを愉しめると笑っていたのが印象的だった。
羂索の足跡調査はまだ時間が掛かるだろう。何しろ最低でも千年もの間活動してきたのだ。全国の霊地の再調査、歴代上層部の記録の監査、貯蔵していたであろう呪物や呪具の捜索とやることが山積みだ。
御三家内にどれだけ食い込んでいたのかも調査が必要だ。家を乗っ取られていた加茂家は勿論、五条と禪院も入り込まれていないとは限らない。
この調査は御三家側の反発で難航することが予想されたが力業で案外すんなりと調査が進んでいる。
主要人物が皆殺しにされて骨抜きになった加茂家。五条先生のワンマン経営の五条家。この二家はともかく禪院はとにかく手が掛かるだろうと誰もが思っていたが反発する者は皆ねじ伏せられ言うことを聞かざるを得なくなったからだ。
逆らう連中を黙らせたのは五条先生ではない。伏黒恵だ。
宿儺に身体を奪われ未曾有の呪術テロに加担したとして戦後すぐは当主の座から退くことが当然と責め立てられた彼だったが、宿儺に身体を使われた経験は彼を“最強の術師の一人” と称えられるほどに強くした。
神がかった呪力効率と操作技術、それから反転術式と術式反転を身に着け、『閉じない領域』をも会得した彼は禪院家の主要術師を一度に相手取り、これを単独で完全制圧した。
元々、禪院家最強の相伝『十種影法術』を唯一現代で受け継いだ彼に足りなかったのは「強さ」。
理不尽な迄の強さを手にした彼は今や禪院家を恐怖で支配する暴君として君臨している。それくらいの振る舞いをしないと暴走する輩が出ることを知っているからこそ態々その様に振る舞っているのだろう。当主としての彼の言動の端々には彼の恩師から真似たであろう部分が多々見受けられる。
「禪院」に名を変えずに「伏黒」姓を名乗り続けている辺り、余程の権力を持っているのだろう。
最強の術師の一人、と言ったのでこのあたりにも触れておこう。
結局五条先生は現在も領域を使えないままだ。それと新宿で名を挙げた術師が複数現れたことから、今や最強の名は五条先生一人のものではなくなった。
元々特級術師であった乙骨憂太、先に述べた伏黒恵、特級クラスの裏梅を単独で相手取り続け味方に被害を出さなかった秤金次、宿儺譲りの呪術センスが覚醒し領域も会得間近の虎杖悠仁、呪術の極致である領域展開の天敵であり身体能力のみで呪いを真っ向から叩き潰す禪院真希。
新宿決戦での彼らの活躍はあっという間に呪術界に知れ渡り、五条先生が脳にダメージを負い領域が使えなくなったことも含め、“現代最強の術師は誰か” という話題は最近の呪術界で最もホットなトピックとなっている。
だが、最強の座を脅かされつつある五条先生はこの状況を喜んでいるらしい。
「強く聡い仲間を育てる。」
先生の悲願が叶うのは遠くなさそうだ。
因みにだが戦後に先生の身体を精密検査した際、脳組織の構造が以前と比べて変化していることが分かったらしい。反転術式を使う時にこの変化した部位が活発化していることから、宿儺戦の折に黒閃をキメたことで一度低下した反転術式の出力が回復したことと関係しているのではないかというのが家入先生の推察だ。
となれば領域に関しても何かしらのきっかけで復活することがあるかも知れない。そうなれば本来のスペックの先生が復活することになる。
だがそれでも今後は先生一人が“最強” を背負うことにはならないだろう。
今の彼には並び立つ仲間が大勢いるのだから。
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ここまでが新宿決戦後の大凡のあらましだ。
渋谷事変から続いた大混迷が収まるまでにはまだまだ時間が掛かるだろうが、それでも収束の目処が少しは立ってきていると言うところだ。
この間、俺こと賀﨑隆景は目立った活動はしていない。
喫緊の課題だった禪院家の当主問題は外野が手を出すまでも無く伏黒君本人が解決した。そうなると弱小術師家系の当主に過ぎない俺に出来ることは大して無いわけで、ここ最近は家の人間を各地の
ここでひとつ問題がある。
それは俺の寿命だ。
代々、賀﨑家の人間は短命で長寿の者でも50代を境に急激に老衰して死に至ることが殆どだ。これはシン・陰流門下生の縛りとしてシン・陰流当主に寿命の大半、大体30年分を徴収されているからだ。シン・陰流の当主が東京高専の日下部篤也に代替わりしてから寿命徴収の縛りは無くなったが、それは既に徴収された寿命が戻ることを意味する訳ではない。
先代のシン・陰流当主は色々あって逝去したそうだが、俺も含めた賀﨑家の人間は元より使い捨ての駒として殉職することが多いため他の門下生よりも多めに寿命を捧げている。どうせ死ぬなら捧げものとしてシン・陰流の一派に媚びを売ろうというわけだ。
かく言う俺の両親も30代を迎える前に、父は呪詛師との戦闘で死亡、母は呪霊からの呪いによって死亡している。
加えて、俺は禁術『輪廻天生』の影響で只でさえ短い寿命を更にすり減らしている。京都で禪院真衣の蘇生を試みた際は未遂で終わったため致命的な生命力の喪失は(恐らく)起きていない。だが新宿での宿儺の蘇生では術が完遂している。
追い打ちを掛けるように輪廻眼の負担も体調悪化の要因となっている。新宿ではこの眼が発現したお陰で随分と助かったが、平時においてはこれの負担が中々キツい。この輪廻眼はオンオフの切り替えが出来ないのだ。そのため常に呪力を消費することになり余計に体力を削ることになってしまっている。
残りの寿命がどのくらいあるのかを知る術はないが、新宿以降の俺は端から見ても分かるほど弱っているために、「今にも死にそうな人間を当主に据え続けるのは今後の代替わりを考えるとマズいのでは?」という懸念が家内から上がってきているのだ。これはもっともな心配で、準備もせずにポックリ逝かれたら残された連中が大慌てするだろうからその心配は当然だろう。
そう言う訳でここ最近の俺は次期当主の選定と指名、権限の委譲に関する手続きなどの事務手続きを行っていた。
次期当主には、死滅回遊時に俺が割り込まなければ本来当主に指名されるはずだった嫡流の人物を指名した。ここについては俺に兄弟がおらず父母も既に他界しているため元の筋に戻すということで方々の了承を得られた。
権限委譲については勿論、一般的な財産の譲渡なども行ったが主題は死滅回遊に関する禪院家との約定についてだ。
先にも言ったが死滅回遊はまだ終結していない。そのため「禪院家が回游終結に従事する」という約定はまだ有効である。…なのだがこの縛りに懸念があるのだ。
約定に従う気のない禪院家の連中に対して、「勝ったら約定は無効、負ければ内容に服従する。」という縛りを結んだ上で決闘に勝利したのだが、この縛りが当主交代後も継続することを確定させる必要があるのだ。
そういった訳で次代当主を連れて禪院家本邸を訪ねて向こうの当主の伏黒君に挨拶をしてきたというわけだ。いつの間にかすっかり威厳が備わった伏黒君は家内を完全掌握しているようで俺に因縁をふっかけようとしてきた連中も彼の呪力の昂ぶりを浴びせられればすっかり大人しくなっていた。俺が当主の座を退くことについては何というか引き留めたいような、怪しんでいるような様子を見せていたが、最終的には了承してくれた。事前に体調の件を伝えてあったからだろう。
そうやってあれこれと始末を付けた俺は今、掲示板から拝借して来たチラシを眺めながら溜息をもらしていた。
「このチラシ、五条先生の仕業だな…。」
絶賛行方晦まし中だった。
オリ主の名前について
人名を考えるのが難しくて技名からもじって付けました。
『