やっと目覚めた術式のせいで呪詛師認定されそうな件   作:へーれ

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セリフがチェンソーマンになり過ぎたので初投稿です。


第六話 恩人

ウチの一族では5歳になると素養に関わらず全員が術師としての訓練を始める。

そして10歳を目安により厳しい修行に入っていく。

その1つが、一族が管轄する霊地でのサバイバル訓練である。

 

訓練に使用される霊地は、人の怨念が溜まりやすい自殺未遂スポットや人死が多く出る場所の中から選ばれる。

 

俺が送り込まれたのは、標高の低い山地の近くにある河川で、水深が深く水難死が発生しやすいスポットだった。

 

当時は知らされていなかったが、訓練に際しては、監督役の術師がこっそり同行しており、能力をチェックしている。

言わば物騒な「はじめてのおつかい」みたいなものだ。

 

この訓練は子供が命を落とすことは想定していない。

実践の修羅場を経験させて成長を促し、いざとなれば監督役が子供を救助する。

それがこの訓練の概要だ。

 

「例外なく全員」という所に術師の旧家としてのアレな性質を感じるが、当時は疑問や反発を覚えることはなかった。

何しろ幼い頃から「かくあるべし」として育てられたのだ。

よっぽどの天才児であれば、その伝統に逆らうこともあったろうが、凡庸であった隆景少年はそれが当然のことと受け止めていた。

 

賀﨑家の通過儀礼でもあったこの訓練で、若干10歳の凡庸な少年は運悪く、恐らく特級相当であろう呪霊に襲われることになった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「おや、管理人に見つかってしまったかな。これは困った。」

 

眼前の男はそう言うと、何でもない様子で呪霊と思しき霊体を出現させた。

 

「仕事の最中でね。術師を手に掛けるのは本来避けたいのだが、仕方あるまい。運が悪かったということで諦めてくれ。」

 

俺は硬直しかけていた脳をフル稼働させて、攻撃を仕掛ける。

呪霊を操ると思われる術式、そして高専を離反する前の顔写真で確認した人相。

目の前の男は、かつての特級術師にして、今や国内最悪の呪詛師、夏油傑に間違いない。

 

そんな男がなぜここに?

思案している暇はない。

相手が術式を発動させた以上、一刻も早く反撃しなければ殺される。

 

靴底に仕込んだ火遁の呪符と服に仕込んだ姿勢制御用の風遁の呪符を同時に起動して、今の俺に出来る最速で目の前の男に斬りかかる。

 

水に変質させた呪力をジェット水流の如く刀身に纏わせる。

 

「『シン・陰流 上段 半月』! 」

 

夏油の頭を目掛けて刀を振り下ろす。

 

甲高い音が響く。

決死の一撃は巨大な亀を思わせる呪霊にいとも簡単に阻まれた。

 

「念の為、鼈甲を出していて良かったよ。普通の剣術じゃないね。」

 

「涼しい顔して防ぎやがって!」

 

呪霊を出す暇を与えない様、こちらの間合いで戦いたかったが、先程の一刀を防がれた衝撃で夏油との距離が開いてしまった。

 

「見張りに来た賀﨑の術師かと思ったが、先程の斬撃。君が悟の所に出奔したっていう賀﨑隆景か。」

 

(俺のことを知っているのか!?)

 

攻撃で正体がばれたということは、向こうは俺の術師としての特性も把握しているということだ。

 

(まずいぞ、特級が簡単に逃がしてくれる筈がない。そう踏んで、初見の攻撃で作った隙に逃げる算段だったがこれじゃあこちらの手の内はバレているも同然だ…!)

 

いくら特級だろうと、初見で奇想天外な技をかませば虚をつけるかもしれない。

俺の素性が奴に知られているのであれば、その目論見も成り立たない。

 

「私の術式の都合でね、低級の呪霊を補充するためにこういった霊地を回っているんだ。まあ、そろそろ足が着く頃合いかとも思っていたがね。」

 

夏油は大量の低級呪霊と思しき物体を弾丸のような速度でこちらに放ってきた。

 

「例えば蠅頭レベルの呪霊だろうと、こうすれば十分に使い道がある。」

 

そういって更に発射速度を高める。

全力疾走で何とか射線を逃れようとするが、このままではいずれ捉えられハチの巣だ。

 

(『シン・陰流 簡易領域 正眼 別滝(わかれだき)』!)

 

やむを得ず、刀で銃撃を受ける。

『別滝』は賀﨑で生まれた変形の型だ。

刀を中段で構えることで、攻撃への対応を素早く行えるようにし、自動迎撃を付与した簡易領域を展開することで、賀﨑の技では最速の迎撃速度を誇る。

 

刀による弾のはたき落としと、簡易領域による威力の減衰、この二つを組み合わせても防ぎきれない物量の攻撃が徐々に身体の傷を増やしていく。

 

「なかなかやるね。それならこれはどうかな?」

 

そう言うと、夏油は手元から出現させた巨大なミミズ型の呪霊を突撃させてくる。

 

「ぐっ!」

 

圧倒的な質量に構えを突き崩される。

何とか刀を左手で支えて持ちこたえるが、突然目の前のミミズが姿を消す。

 

瞬間、左顔面に夏油の拳が突き刺さり、意識が飛びかけるほどの衝撃とともに数十メートルを吹き飛ばされる。

 

(こいつ!術式だけじゃなく体術もとんでもないレベルだ!)

 

脳裏に走る「敗北」の2文字を振り払い、高速で印を結ぶ。

 

「『水遁 水龍弾の術』!」

 

背後の河川の水を用いて、水で象った龍を5体作り出し、夏油の四方を囲むように突撃させる。

 

「なるほど、印を高速で結ぶことを縛りの条件として、術式並みの大規模な呪術行使を可能としているのか。」

 

感心したように言いながら、夏油は呪霊から取り出した三節棍で水龍を弾き飛ばしていく。

砕かれた水龍は形を失い、辺りに大量の水として巻き散らされる。

 

術によって出来た隙に回り込んだ死角から抜刀術を放つが、三節棍に防がれ、刀を巻き取られる。

このままでは新たに呪霊を出されると対応できない。

やむなく刀を手放し、印により術を放つ。

 

(『水遁 水断波』!)

 

刀を取り戻すために三節棍を狙うが、狙いを見切られ躱される。

 

「賀﨑の術師は旧体制の象徴のような人間ばかりだと聞いているが、君の思考は随分と現代寄りだね。」

 

得物を奪ったことで、もう俺を脅威と見做さなくなったのだろう、奴は語りかけてくる。

事実、刀を取られた今の俺に打てる手は殆ど無い。

 

「私としては術師の仲間は大歓迎だ。どうだい、私のもとへ来ないか?」

 

奴は笑みを浮かべながら自分の同志となるよう誘いの言葉を口にする。

 

「俺も呪詛師になれと?ふざけたことを言うんだな。」

 

「私も君の事情は耳にしている。家の権勢を保つために、捨て駒同然の扱いで東京高専へ送り込まれたのだろう?悟なら君のことも悪くはしないだろう。」

 

だが、と言葉を区切り奴は続ける。

 

「非術師のために術師が犠牲になる現在の世界、この変革が私の大義だ。私の志が成れば、君も自分の命を他人に翻弄され続ける人生から解放される。私たちは同じ道を歩める。そう思わないかい?」

 

ああそうだ、夏油傑という男は、そんな目標を掲げて呪術界に反旗を翻したと記録で目にした。

 

確かに、現在の呪術界の構造が塗り替われば、これまでの様に理不尽な戦場に孤立無援で放り込まれることも無くなるだろう。

実家の保身欲によって、俺は一般的な術師以上に多くの命の危機に瀕してきた。

そのしがらみから解放される事は確かに魅力的ではある。

 

それに非術師が居なくなることは呪霊の減少にも繋がるらしい。

だったら、呪霊との戦いそのものが殆どなくなり安寧の日々を送れるかもしれない。

 

だが、

 

 

「術師の中に漫画を描くやつはいるのか?」

 

俺の言葉に夏油は困惑を浮かべるが、奴自身の中で得心がいったようで、こう答えてきた。

 

「今後、漫画を読めなくなるのかという話かい?個人の趣向まで強制はしないよ。私自身は好まないが、家族たちが非術師の作った食事や娯楽に興じるのはそれぞれ自由だ。」

 

「そういう問題じゃないんだ。」

 

俯いたまま俺は言葉を続ける。

 

「俺も世の中には駄作が山ほど溢れていると思う。出来不出来に関わらず読者に不誠実でムカつかせてくる作品もある。」

「だからといって、優れた作品のみを選んで残し、気に入らないものは排除するなんてのは傲慢で的外れだ。」

 

「それぞれの人間が自身の奥底にあるものを必死に表現する、その工程にこそ価値がある。出来上がったものの価値なんてものは受け取った人間が感じるだけのものだ。」

 

「術師であるかどうかなんて基準で生存を許される世界で面白い漫画が読めるとは思わない。」

「世界は余分を許容するべきだ。それが弱者であろうと、強者を蝕むものであろうと。」

 

俺は腰に指していた鞘を抜き、呪力を纏わせて代用の武器とする。

そして眼前に立つ「敵」に向かってその「武器」を構える。

 

「だから俺はあんたの理想には共感出来ない。あんたと志を共にすることは出来ない。」

 

決別の言葉を口にした俺に対して…

 

「君の境遇なら、私の元に来てくれるだろうと期待していたんだがね。かつて命を助けたこともある間柄だからね。」

 

何かを懐かしむかのように夏油はそう口にする。

何を言っている?奴とは初対面のはずだ。

 

「気が変わったのならまた声をかけてくれ。私はいつでも君を歓迎するよ。」

 

そう言うと、夏油は新たな呪霊を呼び出す。

 

「ひとまずはこいつと戯れてもらおう。過去を思い出してもらうのにも最適な筈だしね。その間に私はお暇させてもらうよ。」

 

呪霊は周囲に濃厚な呪力を展開していく。

俺の脳裏にかつてのトラウマが想起される。

先ほど夏油が呼び出した呪霊、それはかつて10歳の俺を襲った因縁の呪霊だった。

 

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