やっと目覚めた術式のせいで呪詛師認定されそうな件   作:へーれ

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呪術廻戦(モジュロ)を読んで急いで仕上げました。後で直すところがいつもの数倍多いと思います。すみません!


第六十三話 東京クリーン作戦

 

東京都渋谷区、渋谷駅跡地の上空に飛来する影があった。

 

渋谷事変以降、国の情報操作によって日本国内の呪霊発生はその多くが東京23区を中心とする関東地方の一部に集中していた。一方で戦闘の中心であった渋谷駅地下5階近傍は五条悟が0.2秒の領域展開を行った際の残穢の影響で呪霊が寄り付かない空白地帯となっていた。そこに目を付けた連中がいた。日本各地から逃走してきた呪詛師達である。

 

五条悟の不在、首都が停止したことによる混乱。各地の呪詛師達はこれ幸いとばかりに活動を活発化させ、殺し、奪いと暴虐の限りを尽くしていた。だが蜜月の時間にも終わりは来る。

 

宿儺と羂索の死亡以降、徐々に日本国内の秩序が回復していく中で呪詛師達は次第に追い詰められていく。そうして彼らはこの渋谷の地に逃げ込むことになった。

 

国内の騒乱の初期段階で放棄が決定されたこの地域には多くの呪霊がひしめき合っているが、そこをくぐり抜け渋谷駅跡地に辿り着けさえすれば、今度は呪霊が自分達を守る壁となる。

術師達による討伐を逃れた呪詛師達はこの地を砦として現在まで生き延びていたのだ。

 

術師達もこの地域への対処は急がなかった。ひしめく呪霊により包囲が困難な状況で掃討作戦を行えば多くの取り逃しが起きかねない。ならばまずは他の地域の平定を優先させ、渋谷の地は後回しとすることにしたのであった。

 

そうした経緯で呪詛師の最後の安息地となっていた渋谷だが…

 

ヒュオッ

 

上空で停止した物体が今度は地表へ向けて落下を始める。背部の4つの放熱板のような翼(パイル)。そこから放射されるエネルギーによって物体は落下どころか飛来時よりもさらに速度を増して大地に迫る。

 

ズドォォ

 

弾丸と見紛うほどの威力で落着した1人の男。彼によってその安寧は崩壊することになる。

 

 

 

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2019年11月27日 東京都三鷹市 旧住宅地街

 

「これより“東京クリーン作戦”の実施にあたり最終確認を行います。」

 

伏黒が隆景の下を訪れてから半月あまり。帰国した彼らは他の高専術師勢らとともにある作戦に従事するために、臨時の前線基地に集合していた。この基地は住宅街のうちの廃棄されたある邸宅を改装して作られたものだ。

 

(ネーミングセンスの善し悪しはともかく、縁起の悪い作戦名だと感じているのは俺だけなんだろうなぁ。)

 

大地を豪快に均しながら進行するバイク型戦艦を脳裏に思い浮かべながら作戦概要を確認している隆景だが、本作戦へ参加するためには諸々の準備が必要であった。それらを猛スピードで無理やり解決して何とか作戦参加が叶ったという形である。

 

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隆景の帰国直後に話を戻そう。

 

元々が不法出国での海外渡航だったために帰国手続きにも(書類偽造を含む)様々な手間を要したが、それ以上に難儀したのは生家である賀﨑家本家への復帰、並びに当主への返り咲きと家の立て直しのための方策立てであった。

 

帰国後に即刻京都の本家に向かった後は現在の当主に掛け合い緊急の会合を開いてもらった。

緊急の開催であるにも関わらず多くの出席者が集まったのは、初代『華咲』による呪いが解けたことについて困惑が広がっていたためでもあった。

 

会合の議題は隆景の当主復帰と家の運営方針の変更であった。

 

まず当主の交代については大きく意見が分かれた。隆景に大役を押し付けられた現当主は家の運営に大変難儀していたらしく、当主を譲ることには前のめりで賛同してくれた。

 

彼は死滅回游の時にその座を簒奪された元当主ではない。国外へ失踪する前に隆景が指名した人物である。重視したのは血筋よりも思想面だった。

賀﨑の術師はその体質故に能力に関してはどの人物もほぼ横並びである。故に順繰りにする形で各家系の代表が当主の任を担ってきた。本来であれば隆景の前の当主を再び指名することが道理である。

しかしそうはしなかった。元の当主は賀﨑家の術師としての思想、「我々は道具である」という教育を濃く受け継ぎすぎている人物だったために呪術が公のものとなる戦後の体制には不向きであると考えたためである。

だが突如抜擢された後継当主はその役割が自分に務まるものではない、周囲も認めていないと萎縮してしまうことが多かったようだ。

 

一方で、いきなりの話に困惑する者も多く、すんなりと多数の賛成が得られるわけには行かなかった。

元々の経歴に傷があり、加えて殆ど無断で当主を辞し海外へ出奔した人間を再び当主に据えることは内部的にも対外的にも反感を買うことは目に見えていた。それだけでなく実務の面から見ても隆景の当主復帰は混乱を生むという意見が強かった。

現在の賀﨑家の主たる業務は死滅回遊の監視・コントロールである。このタイミングで体制を刷新すれば組織内の混乱からその役割を果たせなくなるのでないか、という懸念が反対派の主張であった。

 

この懸念については、隆景がある策を東京から持ってきていたため、その結果を待ってから判断しようということで一応の解決を見た。

その策とは、「天元型基礎結界である“浄界”の解体と呪術運用の新体制への移行」である。

 

羂索の死亡が死滅回遊の終了に繋がらないことは以前から予測されていた上に、その羂索が追加したルールによって青森と桜島コロニー以外は解体が出来ず、他のコロニーの解体にも大量のポイントが必要になった。

そのため死滅回遊を終わらせるためには浄界の解体の他に手はないが、その後の呪霊対策を考えると実行は躊躇われるという二律背反の状態にあった。

 

隆景が持ち込んだのは、天元の結界術に依らない新式の結界理論とその構築のためのロードマップ。

計画作成は進んでいたが、実行に必要な強力な反転術式使いの確保がネックとなり机上の空論とされていたものだった。だが、隆景の健康問題がクリアされたことで実現の見通しが立ったものである。このプランを隆景は交渉材料としてこの会議に持ち込んでいた。

 

持ち込んだ交渉材料はもう一つあった。

それは、再開発・再編成される東京における利権である。

 

現在は価値が底値にまで落ちている東京だが、呪霊と呪詛師の排除が完了すれば空白地帯となったそこに再び人とモノが集まりだすのは自明の理と言える。

呪霊の存在が公のものとなり、術師も今後は公的な存在となる。そうなれば、東京に優先的に地盤を築けるというのは投機的な考えで見れば魅力的だ。

今回の危機を経て政府・経済金融の機能は分散されることになるが、それでもなお広大な平地と(大規模な修繕が必要になるとはいえ)交通網や送電網などの莫大な規模のインフラ施設を持つ東京は未だ潜在的な価値を持つ。

 

「“賀﨑隆景が個人として東京平定作戦へ参加し、同作戦を成功させる”という条件を達成すれば、東京の再開発において官公庁に匹敵する優先権を与える」という破格の報酬を隆景は持ち帰っていた。

 

賀﨑の人間が持っていた「全員が戦闘要員レベルの術師足りえる」という特性が失われた今、資本の面で他家を出し抜ける機会というのは賀﨑家の面々にとって魅力的なものであった。

加えて賀﨑隆景は現呪術界の中心である「五条派」に深く食い込んでいることからもこの約定が反故にされる可能性は極めて低く、失敗したとしても失われるのは当主就任前の術師一人の命だけ。この条件は低リスクかつ高リターンなものである。隆景はこれの達成と引き換えに当主の座に返り咲く約束を取り付けたのであった。

 

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2019年11月27日 東京

 

そして再び現在。

 

前述の経緯により隆景は東京に居着く呪霊と呪詛師を掃討する“東京クリーン作戦”へと臨んでいた。

 

「本作戦は関東一帯から呪霊・呪詛師を排除して停止している都市機能を復活させるための最初の作戦となります。」

 

そう説明するのは伊地知潔高“跋務(ばつむ)庁次官”。そう「跋務(ばつむ)庁」の「次官」である。

 

渋谷事変で呪霊の存在が公表されて以降、これまでは機密機関の一員のような立場であった呪術師達も公の組織に組み込まれる必要が生じた。呪霊という超常の存在に対応する人員・組織がなければ国民の悪感情を抑えることができず、更なる呪いの跋扈を許してしまうためである。

そうして設立されたのが跋務(ばつむ)庁である。呪術総監部は腐敗の末に(一人の暴走のせいで)壊滅したため、組織の根幹は東京・京都の各高専の組織が担うことになった。もっとも高専も多くの補助監督と「窓」を失った直後のため人員不足であることは否めず、瀕死の重傷から目覚めて間もない夜蛾正道1級術師を長官に据えざるを得ないほど人事に苦慮している。

 

これは同氏が負傷の後遺症で前線に出ることが難しい一方で、東京高専の学長としての経歴から実務能力は十分に備わっており、社会性に乏しい傾向にある呪術師の中では特にその能力は飛び抜けているためであった。現役を退けず、さらなる激務を担わされたのは彼の不運である。

同じく京都高専の学長であった楽巌寺嘉伸は国内有事に対応するための部署、内事局の主力として前線で活躍している。夜蛾としては年長者であり実務経験も長い彼に長官の座を譲ろうとしたが、

 

「おぬしの所の家出小僧(賀﨑隆景)に好き放題殴られた借りを返しておらんからの。椅子にふんぞり返っていては鍛え直すことが出来ん。」

 

と言って楽巌寺自身がこれを固辞した。

そして今や国内各地の呪いが関わる案件に出向いては勇名を響かせている。呪具化させた音叉をアンプの代わりとして全身に纏い、式神のバンド隊を引き連れて重厚なインストソング*1を鳴らしながらあらゆる敵を粉砕するその様は呪詛師の間では「騒音枯れ木爺」と畏れられている程だ。

 

「官僚が一生懸命考えたらしいですよ。跋務(ばつむ)庁が外務省の外局として設置されたものの、一般官僚に呪術関係の専門家は居ませんからね。自衛隊でもないから補給計画とかの作戦立案も専門外。せめて作戦名だけは自分たちで決めて、現場をコントロールしているように見せたいんでしょう。無理に現場に口を出してこないだけでもありがたいと思わないとですね。」

 

表の組織に組み込まれた故のしがらみに溜息を吐きながら隆景の隣に腰掛ける伏黒がそう愚痴をこぼす。彼も今回の作戦に参加するが禪院家当主としての仕事も放ってはおけないのだろう。先ほどまで携帯端末で通話をしていたが、内容は京都の本家へ指示出しだろう。

 

ちなみに「跋務(ばつむ)庁」に所属するにあたって呪術師たちは表向きには新たな職名「跋務(ばつむ)官」を名乗ることになった。名前というものは得てして無意識を誘導するものであり、幾ら呪霊退治を引き受ける組織・職務であるとはいっても、公の組織や職名に「呪」と物騒な名がつくのはよろしくないだろうということでつけられた名称だ。隆景たちも今後は「跋務(ばつむ)庁」所属の「跋務(ばつむ)官」や「跋務(ばつむ)師」、「跋師」と名乗っていくことになる。

 

「自衛隊の指揮系統に組み込めば、術師…いや跋師は軍事力ではないっていう外への体裁も厳しくなるからなぁ。かといって海外での活動が得意じゃない警察庁の所管だと大義名分のひとつ。“呪術研究の為に拉致された邦人の保護”という業務に障りが出て、今度はその瑕疵を責められる。実際のところいい落としどころだとは思うよ、外務省の一組織だっていう今の方便は。将来も通用するかは知らんが、その辺は俺たちの仕事だな。」

 

跋務(ばつむ)庁を立ち上げるにあたって組織としての立ち位置の議論は二転三転して現在の“外務省の外局”という状態にある。理由付けは先に隆景が述べた通りではある。自衛隊所属であれば、海外に出向くたびに軍事力の海外派遣の是非について国政での審議が必要になる。(まぁ自衛隊は軍隊ではないので問題はない筈なのだが、日本人なら何となく感覚で難しいところがあるというのは分かってもらえるであろう。)

だが、そうなると国内の呪術事件に外務省が首を突っ込んでいるという矛盾が生じる。今後も政権交代やそれに伴う組織改編の度に跋務(ばつむ)庁の立ち位置は変わっていくだろう。そしてそれを考えるのは元御三家の当主である五条悟や伏黒恵――当主就任が叶えば隆景もそこに含まれるのであるが――らの仕事になる。

 

「これからは憲法やら国際法やらも勉強していかんとな~。いっそ通信制の大学にでも行ってみようかな。」

 

「それ、本気なら自分も混ぜてください…。今のままじゃいつカモられるか分からなくて怖いです…。」

 

これからの跋師は大卒レベルの教養を身に着けることがスタンダードになるだろう。やることが山積みの未来に想いをはせて二人は溜息をつく。

 

「ところで、賀﨑先輩の家の方は上手くいきそうなんですか?」

 

「うーん。良くも悪くもこれからの作戦次第ってところかな。ここで武勲を立てて東京のお偉方からの覚えが良くなれば何とかなりそうだよ。」

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

もう1点。隆景が家中の支持を掴んだのには理由がある。

それは賀﨑家の新たな運営方針を明確に示し牽引していくリーダーシップの片鱗を見せたからだ。

 

解呪後の賀﨑家には呪力を持って生まれる子が少なくなる。これをそのままにしておけば一族の没落を招く。没落するだけなら隆景も黙っていたが、元は呪術界の下働きをする家系でありながら死滅回遊を機に権力図の上位側に移ったというのが賀﨑の一族だ。そんな連中が権力を支える根底の力を失えばどうなるかは想像に難くない。嫌がらせ程度ならまだましで恐らく恨み・逆恨みからの暴力沙汰が多数発生するだろう。

 

隆景が東京再開発における利権を欲したのはこうした懸念を見越しての判断だった。

 

賀﨑の特異体質が失われても、その伝統までもが失われるわけではない。幼少期から徹底して行われる洗脳もとい“教育”の手法は健在である。そして呪いの稼業がお役所に組み込まれるのであれば大量の文官が必要となる。

 

隆景はここに目を付けた。

 

呪術界の捨て駒ではなく、呪術界と一般社会を繋ぐ人材の供給源となる。

これが隆景が見出した賀﨑一族の生存戦略だ。

 

新体制の中に身内を組織の深くまで浸透させれば次代の人材登用においてもコネによって有利な環境を作ることができる。これが叶えばそうそう食い扶持を失くすことはない。

 

教育関係にまで食い込めれば尚よい。

 

これからは跋師が一般教養を身に着けていかなければならないことと同様に、今後の日本社会では呪いに関する知識は必須教養になる。義務教育のレベルで実施される身を守る手段としての避難訓練や水泳の授業。これらと並ぶ形でこれからは呪いへの簡単な対処方法が教育カリキュラムに盛り込まれる予定である。そしてこの訓練の中で呪術の素養の検査も行われる。つまりこれまでは細々としか行われなかった一般家庭からの跋師の発掘が健康診断と同規模で行われるようになるのだ。そこで“素養あり”と診断された者には特別講習が施されることになる。

呪詛師のほとんどは、幼少期に呪力の暴走や周囲の無理解などにより孤立し、一般社会に馴染めなかった者たちだ。呪力教育を浸透させることでそうした者らの孤立を防ぐことができれば、呪詛師の発生数を減らすだけでなく跋師の候補者確保にもつながる。

 

この仕組みの確立には教育や行政に従事する者らへの教育機関が必要だ。そしてその設立には呪いに精通した人材をある程度の規模で確保しなければならない。だがそこで教鞭を取る人間には呪力の素養は必須ではない。

日頃の座学は“呪力は無いが呪いの専門教育を受けた”賀﨑の人間が担い、実技の指導は“呪力を持った”賀﨑の人間が担当する。

呪力持ちの人材は学校教育における保健体育の教員程度の割合で確保できれば良いし、そのすべてを賀﨑家で独占しようとする必要はない。呪力持ちが足りなければ他家に協力を請えばよいし、座学担当も同様である。重要なのは“創立初期”の顔ぶれに一族をねじ込めるか、だ。

封建制や家父長制は廃れて久しいが、師弟関係というのは現代社会でも根強く残っており、実態は呪いにも等しいというのに“美しい”ものとすら誤認されている。

その隙を利用して、今後の日本という国家の運営に僅かながらでも関係を残す。それが叶えば、賀﨑の一族は呪いを手放して徐々に一般社会に回帰していけるだろう。

 

そのための東京での利権の確保。

荒れ地となった東京に私財を投じて教育機関を設立し、国家に寄進する。更にはその初期稼働のために一族総出で東京に移住し身を粉にして働く。

一見すれば美談に見えるが、その実は自らの生き残りのための投資に過ぎない。

 

“利権の確保が叶えば”との条件付きだが賀﨑家の面々はこの方針に賛同した。元々、位の低い下働きの一族だったのだ。御三家に成り代われるかもと夢を抱いたこともあったが、ここらが引き際だと弁えることが出来たのは権力を手にしてからの日が浅かったためだ。皆、心のどこかでは思っていたのだ。

「出来過ぎだ」と。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

旧渋谷駅へ垂直落下した隆景は、その地下構造を崩壊させた。勘の悪い呪詛師は生き埋めになっていることだろう。“数”という厄介な要素は潰したが、それは同時にこれから出てくる敵は手練ればかりということでもある。事実、その紫眼は敵性の呪力を既に幾つも感知している。

 

隆景の任務は、国内有力術師による渋谷周辺区域の封鎖中にエリア内の呪詛師の一切を手段を問わずに無力化すること。この任務のために本来なら国内外で警戒に当たるべき特級、1級の術師たちが一時的にこのエリアに集結している。目的は襲撃を受けた呪詛師らが呪霊の壁改め“呪霊の檻”を突破して逃亡することを阻止すること。

関東平定を急ぐために立案されたこの作戦は他地域の警戒を緩めるというリスクを対価に成り立っている。渋谷に引き籠った呪詛師をエリア外へ逃せば国内治安は再び悪化する。それを防ぐためには突入した隆景が迅速に檻の内部の呪詛師を殲滅し作戦を早期に終了させる必要がある。

 

感知した呪詛師に超高速で接近し、切り捨てる。それを10度ほどこなした隆景の周囲に突如数百にも迫る数の呪霊が沸き上がる。

 

五条悟の残穢を嫌って呪霊はこのエリアには近寄らない。ならばこの呪霊は呪詛師に操作されたものである。

 

「呪霊操術の使い手と二度も戦えるとは光栄だね。」

 

だが、強敵の襲来に備えて構えなおす隆景の前に現れた呪詛師はそれを否定する。

 

「呪霊操術じゃあない。こいつは『呪霊贄術(しじゅつ)』。」

 

呪詛師は異様な外見をしていた。痩せぎすでその体はあちこちが噛み千切られ、傷口からは今もなお血を流している。それにも関わらず纏う呪力は絶大な妖気を放っている。

 

「君は賀﨑隆景だろ? 知っているよ。だから本気だ。」

 

男はあろうことか自分の前腕の肉を千切り、周囲の呪霊に“喰わせる”。

 

「自らの呪力、血肉を呪霊に(にえ)として捧げることで、力量差を無視して使役する。術式の開示も済んだ。言ったろ? 本気だって。」

 

いうや否や、男の操る、いや祈りに応えた呪霊らはその力を幾倍にもまして隆景に襲い掛かる。

 

「やるね。こいつは厄介そうだ。」

 

跳躍し、その軌道を制御しながらも言葉とは裏腹に隆景は笑みを浮かべていた。

 

「これは“全力全開”でやらなくちゃなぁ!」

 

言葉と同時にその胸から眩い“星の輝き”が放たれる。

 

「『関係形成(アプリポワゼ)』!」

 

その光を纏った隆景は着地と同時にその余波で周囲の呪霊を消し飛ばす。

 

(何だ!? 奴の領域は防御特化のものだったはず! あそこまでの破壊力があるはずがない!?)

 

呪術にかかわる人間ですら異様としか形容しがたい光景を前に呪詛師は思わず硬直する。

 

「丁度試し切りがしたかったところだ! 術式の開示なんてセコイことはしねぇからよぉ。

すぐにくたばんじゃねぇぞ!」

 

*1
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