やっと目覚めた術式のせいで呪詛師認定されそうな件   作:へーれ

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誤字報告ありがとうございます。
見落としが多いので大変ありがたいです。


第九話 五条先生の「なぜなに呪術高専 術式編」

「お疲れ様です。伊地知さん。ただいま戻りました。」

 

「賀﨑君、お疲れ様です。調査の方はどうでしたか?」

 

高専に戻った隆景は早速職員室を訪ねていた。

 

「いや~、さっぱりでした。ただの徒労になっちゃいましたよ。」

 

ハハハと笑いながらひとまず京都で起きたことは隠しながら会話する。

伊地知さんのことは信頼しているが、術式のことを伝えてしまうと事態が露見した時に身に危険が及ぶかもしれない。

 

「あの、今日って五条先生に空いている時間ありますか?」

 

「今日の任務は午後からですから、まだ学内に居るはずですよ。」

 

ちょっと電話かけてみますね、と伊地知さんが携帯電話を取り出そうとしたところに件の人物が現れる。

 

「よーっす、隆景。居残り京都はどうだった?」

 

「五条先生!探してたんですよ。」

 

運良く目的の人物が向こうからやってきてくれた。

早速要件を伝える。

 

「先生、交流会で起きたことの反省をまとめて来たんで指導をお願い出来ませんか?」

 

少し言葉を濁して用事を伝える。

先生は隆景の変化を感じ取ったのか、すぐに意図を察してくれた。

 

「いーよー。早速やろっか。伊地知、第四修練場を午前いっぱい抑えといて。」

 

「えぇ!? 事前申請をするよう学長から最近厳しく言われてるんですよ!?」

 

「だから先に伝えたんじゃん。そいじゃ、よろしく〜。」

 

事前ってのは最低でも前日までにってことですよ、と言い淀む伊地知さんを無視して先生は隆景へ向き直る。

 

「それじゃ、時間もないしチャッチャと始めちゃおうか。」

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

修練場に移動してから隆景はこう切り出した。

 

「この話は俺と先生の間だけに留めたいんですけど。」

 

「了解、ちょっと待ってね。」

 

先生は何か呪力を操りだした。

そして数秒後。

 

「オッケー、監視系の結界をチェックしたけど話の内容を捉えられるものはここには仕掛けられてない。呪力関係も僕の方で誤魔化せるから何でも話してごらん。」

 

この第四演習場は東京高専の敷地外にある演習場だ。高専敷地内には未登録の呪力を検知すると警報を鳴らすなどの多数の結界がある。

さすがに五条先生もその結界を弄るつもりは無いらしく、わざわざ学外のこの演習場を選んだようである。

どうやら先生は隆景の身体に起きた変化までをもある程度察しているようだ。

 

「ありがとうございます。それじゃ、居残りした京都で起きたことからなんですけど…」

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

そうして、京都の鍛錬場での夏油傑との遭遇と戦闘、その後の夏油が残した呪霊との戦闘で起きた諸々を先生に報告した。

 

「そうか、傑か。動向をさっぱり掴めてなくて困っていたんだけど、今はそんなことをやってるのか。」

 

先生は夏油傑の話題について普段は見せない険しさで思案している。

 

「夏油傑と知り合いなんですか?」

 

隆景はつい尋ねてしまった。

 

「高専生時代の同級生で親友だよ。今は捕まえなきゃいけない立場だけどね。」

 

そうだったのか、知らずとはいえ迂闊に話題を出したことに反省していると、

 

「気にすることじゃないよ。あいつ強かったろ?普通なら上位の一級術師でも殺されてる。下手に後を追おうなんてしなくて良かったよ。」

 

それに、と続ける。

 

「術師の仲間集めをしているらしいことも分かったしね。上に伝えると今回の相談もバレちゃうから報告はしないけど。僕が把握していれば問題ない。」

 

それじゃ本題に移ろうか、と先生は話題を切り替える。

その態度から先生と夏油傑の間には何か重大な事情があるのだろうかと要らぬ推測をしてしまったが、隆景も頭を切り替えた。

 

「はい、呪霊の領域で死にかけたのを切っ掛けに反転術式が扱えるようになったみたいなんです。それと同時に急に術式っぽいものが頭に入ってきたというか、蓋をされていたものが開放された感覚です。」

 

「蓋が外れたような感覚ね。術式の自覚は鉄棒で逆上がりが出来るようになる感覚に例える子が多いけど、ニュアンスの違いだけなのかが気になるところだね。反転術式の方は今使える?」

 

質問に頷いて答える。

 

「それじゃ、早速使ってみて。呪力のごまかしはもう始めてるから何時でもいいよ。」

 

先生に促され、呪力の変質を開始し正のエネルギーを作り出し、刀で左手の指先を少し切る。

血が流れる指先に正のエネルギーを集中させると傷口が塞がっていく。

 

「うん、ちゃんと治療能力として機能しているし、反転術式としても異常はないね。気になるとしたら、どことなく硝子の呪力に似た感じがするくらいかな」

 

そのあたり、自覚ある?と目隠しの包帯から水晶の目を覗かせながら先生が訪ねてくる。

 

「確かに。初めて使ったときは家入先生に治療してもらっている時と同じ感覚がしましたし、今もその感覚の延長で使ってますね。」

 

先生の六眼はそんなことまで分かるのかと改めて驚嘆する。呪術なら先生より正確な診断が出来る人などいないことは分かっていたが、呪力の癖まで見抜けるなんて。

 

「次は術式に行こうか。順転と反転が同時に使えるようになったんだっけ?」

 

「そうです。術式を自覚した時には順転と反転の両方の感覚があって…」

 

「それで順転の方が反転術式で動かして、反転の方は普通の呪力で使っていると。隆景の場合、反転術式を使うのに二倍の呪力は必要ないってことだったね。どっちも同じ呪力効率で動かしてるんだから順転も反転も名前にこだわる必要はないかもしれないけど。」

 

「反転…隆景にとっては順転だけど、反転術式を使えることと術式反転が使えることはイコールじゃないことは知ってるよね。術式によっては順転とは逆の作用をイメージ出来ない事が多いんだ。冥冥さんの『黒鳥操術』は烏を使役するけど、これの反転はあまりイメージが湧かないらしい。逆の作用があるとしたら『他人が使役している烏を暴走させる』なんてものになるかもしれないけど、これは相手が烏を使役していることが前提だ。」

 

冥冥さんという術師に面識はないが確かにそうだ。使役形の術式は先生が言ったとおりだし、シンプルな呪殺系の術式であっても呪う対象を他者だと普段から考えていれば、その逆の作用はイメージし辛いだろうが…

ふとイメージが湧いたので口にしてみる。

 

「呪殺系の術式で、仲間を対象にして呪いを取り除く、なんてのはどうでしょうか?」

 

「お!いい発想だね。相手の呪いにもよるだろうけど、それなら反転は成り立つだろうね。」

 

「だけどその術師がそれを思いつけるかとなるとちょっと難しいね。」

 

「どうしてでしょうか。術式覚えたての僕でも行き着いたアイデアなのに。」

 

昨日まで術式の「じゅ」のイメージも掴めなかった隆景がイメージ出来たことが熟練の術師たちに出来ない理由があるだろうか。

 

「術式に精通しているからこそだよ。術師の家系であれば相伝として資料が残されている術式は多い。大抵の術師はそれを元に術式の扱い方を学ぶ。説明書みたいなもんさ。だけど、それに発想が縛られる術師は結構多いんだ。」

 

だから血統主義には嫌気がさすんだけどね、と先生はベロを出したわざとらしいしかめっ面を作ってから続ける。

 

「賀﨑の家でもシン陰についてはみっちり仕込まれたでしょ。独自の型を作ったりする革新系ではあるけど、もっと自由に発想するなら剣術以外の武術も取り込んでるはずさ。」

 

「だけど、術式については対応策くらいしか教わってないはずだ。何しろ使ってないものの説明書なんて作りようがないからね。」

 

一連の説明を聞いた隆景は以前、呪力変質の探求の際にぶつかった術式持ちとそうでない者の差について思い出していた。

術式を持つものは当たり前に世界に自分のルールを押し付ける。だが、そんな異能を振るう者であっても自分自身の常識には縛られてしまうということか。

 

「それじゃ本題に戻ろうか。順転の方から見せてよ。」

 

飛んでいた思考を戻し、先生に答える。

 

「あっはい。じゃあ行きます。『凝固呪法 順転 成形(せいぎょう)』!」

 

術式の起動と同時に正のエネルギーを体外に漏出させ固形化する。形状は刃状にした。

 

「能力自体はシンプルかも知れないけど、アウトプット機能も付いている。シンプルだからこそ応用も考えやすいね。呪霊体の分解とある程度の術式の中和もできるんだよね?」

 

「はい。全力で使ったときは呪霊の領域を分解できましたし、呪霊の体についてはほぼ抵抗なく切れます。」

 

初めて術式を起動した際は、全身全霊で呪力を込めたからか結界を破壊することで領域を破ることが出来た。その分疲労はとんでもなかったが。

 

「接近戦なら強力だね。術式の中和も防御に有用だ。次は反転を見せてよ。」

 

「わかりました。凝固呪法 反転 崩形(ほうぎょう)』!」

 

通常の呪力で術式を起動し、このために捕まえておいた蝿頭に術式を行使する。

崩形(ほうぎょう)はその名の通り「崩す」術式であり、対象は呪力で構成された物体。

対象の強度や呪力量によってかかる時間は異なるが、術式を行使し続けることで対象の形状を崩壊させ、呪力の塊(流体に近い)へと変化させる。

 

術式で崩壊させた物も含めて、呪力の塊であれば更に術式を行使することで呪力を霧散、消失させることが出来る。

だが、形を崩すだけでも比較的長時間術式を掛け続ける必要があり、相手を完全に拘束できない限り、実戦で呪霊を崩壊させて倒すといった運用は難しい。

 

昨日の戦闘でも戦闘に使ったのは順転の成形(せいぎょう)だけで、崩形(ほうぎょう)は現場の残穢を分解して証拠隠滅を行ったときにしか使っていない。

 

掴んだ蝿頭が呪力の塊へ変化し、更に霧散したところで先生に報告する。

 

「先生終わりました。これが反転の術式です。こっちは見ての通り戦闘向きではないのであまり重要ではないと思うんですがどうでしょうか。」

 

声をかけるが先生からの応答は無い。どうやら何か考え込んでいるようだ。

先生の六眼は蝿頭が消失した地点を見つめている。

 

「隆景。」

 

先生の声にはこれまでには無い真剣さがあった。

 

「はい。何でしょうか。」

 

「この術式は僕らだけの秘密にしよう。他の術師はもちろん、高専関係者にも実家の人にも見せちゃ駄目だ。」

 

なかば予想のついていた回答だったが、先生の様子にはただならぬものがある。

実家が術式を惜しんで京都へ戻されることや、検体として呪詛師から狙われるかもしれないといった程度のことは想定していたが、先生がその程度のことでこんな態度になるとは思えなかった。

 

術式露見の経緯で夏油傑との接触が明らかになれば、呪詛師に通じたスパイと疑われる可能性を危惧しているのかもしれない。そう思いつき訪ねてみる。

 

「夏油傑との接触が原因で内通者として疑われる可能性があるんでしょうか。」

 

「いいや。」

 

先生は短く否定する。

 

「反転の崩形(ほうぎょう)が問題だ。その術式があるだけであらゆる呪術的な事件の容疑者に仕立て上げられる可能性がある。」

 

あまりの言葉に絶句する。

 

「順転の成形(せいぎょう)は今後、術式を無効化できる技術として発展させられるかもしれないけど、それでも今の実力を考えればそこまで危険視されるものじゃない。」

 

だけど、と先生は続ける。

 

「反転の崩形(ほうぎょう)は現時点で十分に脅威と見做される。現場の残穢を含む証拠を全て抹消出来るのなら、呪術的な捜査が不可能になる。呪詛師と組めばどんな暗殺も可能だと言い掛かりをつけられかねない。呪力が関わる以上、科学的な捜査も効果は薄いしね。」

 

「この術式が今の上層部に知れると何をされるか分かったもんじゃない。下手すれば即呪詛師認定も有り得る。だからこの術式は絶対に隠し通してね。」

 

 

 

悲報 やっと目覚めた術式のせいで呪詛師認定されそうな件 

 




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