パヴァーヌ編の1章と2章の間に置くのがやはり適してそうな概念ですね。
造花:喘鳴
「…………ん?」
ミレニアムサイエンススクール、そのセミナーの執務室に一人で仕事をしていた早瀬ユウカはふとその手を止めた。
目の前のディスプレイに映るのは、先日の出来事があってから何となく流し見していた生徒の情報。
生徒がミレニアムに編転入学する時点で提出される、入学願書のようなものだ。
この学校の門戸は固く閉ざされている訳ではないが、入学した以上相応の結果や成果が必要になってくる。
それは開発然り、研究然り。
たまに出てくる明らかな改竄の跡は、恐らくヴェリタスの問題児達か特異現象捜査部部長のヒマリ先輩がちょっと遊んだ痕跡ばかりだが、今回は少し違った。
「アリスちゃんは先生からおおまかな話を聞いてはいたけど……何かしら?これ」
ここ最近の事件の中で彼女的に一番大きかった出来事、ゲーム開発部。
その名の通りレトロゲームを主として「最高のレトロゲームを作る」という目標を持った、部内人数ギリギリ四人の部活。
クソゲーグランプリ一位という実質ワースト1の記録から、ミレニアムプライズ特別賞という快挙を成し遂げた後輩達だ。
「アリスちゃんは良いとして、他にも改竄の跡……?……いや、良い訳じゃないけど」
日頃からヒマリ先輩や問題児達のイタズラで感覚が麻痺しているのか、ユウカはこの痕跡について憤る訳でもなく、呆れるのでもなくただただ「なんだろう」という好奇心が湧いた。
「このうちの三人が何かあったのかしら……」
一抹の不安を抱えながらも、その跡をサルベージしていく……のだが。
「……この防壁硬すぎじゃないの?しかもこれ、どんどん深くなってく……」
カタカタカタカタ、と格闘する事30分。
タツン、とエンターキーを押したユウカの額には、少しの汗が滲んでいた。
「っ、ふう……やっと戻せた……でもどうしてこんなかったい防壁を?」
正直言って意味が分からない。
そんなに見られたら嫌なものなのか、そもそもあの子達がそんな事をこれ以上するのか、と色々な疑惑が浮かぶが、一旦それは置いておいてディスプレイに直る。
「さて、何だったのかし、ら…………?」
そうして、座り直したユウカの顔が固まった。
「うぅ……ユウカからの呼び出しとか事実上の死刑宣告じゃん!」
「お姉ちゃん、何もしてないよね……?」
「そりゃそうだよ!…………た、多分」
そんな事を溢す姉に、妹が白い目を向ける。
彼女らが、ゲーム開発部の部員の二人である才羽姉妹だ。
シナリオライターで双子の姉である才羽モモイと、イラストレーターで妹の才羽ミドリ。
双子らしく色が違う事以外は全く同じな制服に身を包んだ二人は、同じタイミング、同じ歩幅で執務室へと向かう。
お互いに何故呼ばれたかは全く分からない。
いつもユウカからの雷を喰らうモモイとしては内容の分からない呼び出しなどライオンの檻に投げられた蛇も同然。
ミドリからはどうせまた何かやらかしたんでしょ、と言わんばかりの視線とオーラが止まらない。
一度1/1スケールモモイ人形を作ろうとして「絵面がエグい」と総ツッコミを喰らった事はあるが、言うてもモモイが覚えてる中で怒られそうなのはそれくらいだ。
「えぇいままよ!ユウカ来たよー!」
「ちょ、お姉ちゃん……」
「あら、来たわね。いらっしゃい」
「……あれ?なんかいつもと違う?」
(モモイ的には)死刑を待つ犯人の立場だったが、ドアを開けた先のユウカの雰囲気からはそんなもの微塵も感じない。
そうなると何だか拍子抜けというか、どうして呼んだのかもっと分からなくなる。
ちょっと疲れたようなユウカに手招きされて、二人はそのままソファに座る。
二人とも座るタイミングが同じだし、その後に首を傾げるのも同じ。
そして同じタイミングでテーブルに置いたジュースを飲む。
そんな双子らしい仕草にユウカの口から笑みが溢れる。
「ふふ、あんた達ってほんと仲良しね」
「え、ユウカ疲れてる?休む?」
モモイからのズバッと差し込むような言葉にも緩く受け流して……いやアレは普通に休もうか考えてるな。
「実はさっきまで名簿記録の改竄を直してたのよね……ヴェリタスとかヒマリ先輩が遊んで人の情報を勝手に変えたりしてて……そうね、後で休もうかしら……休めるかしら……」
「お、お疲れ様ユウカ……」
「っ、あ、はは…」
半分冗談だった発言がこうも本気で受け取られると、流石の才羽姉妹も苦笑いを隠せない。
「っ、じゃなくって、そうよ。その途中で知りたいことができちゃったの。二人なら知ってるかと思ってね」
そうしてユウカは、ノートPCの画面を見せた。
「———ここのミドリの欄、改竄前に一人っ子って書いてあったんだけど」
「———ッ」
三人の中に沈黙が訪れる。
PCの排気音が流れる部屋に、たっぷり10秒の空白が出来上がった。
「モモイの所は特になにもなかったから、なんだろうって純粋な疑問なんだけど……ミドリ?どうしたの?」
ミドリの欄について言及してから、ミドリは俯いて動かない。
いや動いてはいるのだが、なんだか様子がおかしいような……
「っ、ヒュ、ハッ、ヒュッ———ハァッ、フッ、ハァ」
「ちょ、ミドリ!?貴方大丈夫!?体調悪いの!?」
「ぁっ、ちがっ、おね、ヒュ、ゲホッ!!」
ミドリが手に持っていたカップがカタンと床に落ち、オレンジ色の液体が汚していく。
明らかにおかしい、ここまでミドリが荒れるなんてユウカは知らない。
「ミドリ、落ち着いて。大丈夫、私は———」
そして、そんなミドリの様子に至極落ち着いているモモイも、ユウカは知らない。
どうしてモモイはそんなに落ち着けるのだろうか?
「や、ぁっ、ちがっ!!」
そうして二人の差とミドリの錯乱に狼狽えているうちに、ミドリは口元を押さえて走り去って行ってしまった。
「あっ……」
そんな様子を呆然と見ていた私は、すぐに意識を切り替える。
「———っ、モモイ、どうすればいいの!?これ!!」
「んーと、それはなんか話が複雑になるというか……もう限界なのかなぁ」
限界?限界ってどういうこと?
ユウカの頭の中に「分からない」が募ってゆく。
「……うん、ごめんユウカ。今は
「え、えぇ……ちゃんと教えてくれるなら、いいけど……」
「おっけー!じゃあ失礼するね!」
あっけらかんとしたままそう言ったモモイが扉へと向かっていく。
「あ」
そうしてその向こうに消える直前、モモイは思い出したように振り返る。
「ジュースありがと、美味しかったよ!」
私に向かって浮かべた笑顔は本当にいつもの笑顔で、今は逆に不気味だと思ってしまった。
ということで、「才羽モモイが才羽ミドリのレプリカだった概念」です。
ちなみに1/1スケールモモイ人形のくだりなんですが、実はYouTubeにその話題の反応集があります
かなり面白い反応集なのでそちらもおすすめです(一つのエピソードとして作ったりは現段階ではしないかもしれません)