Q.『ドキドキ文芸部』ってホラゲーなんですか? A. ギャルゲーです 作:もどき
わたしは昔から重い鬱病とともに生きていた。
いつからそいつがわたしの心の中に巣くっていたのかはわからない。
でも、気が付いた時にはそいつはわたしの心を蝕んで、『
わたしが生きる意味なんてない。
でも……だからこそ、わたしは周りの人を幸せにしないといけない業がある。
そうしないと、本当に私の生きる意味が消え去ってしまうような気がずっと……ずーっとしていたんだ。
だから、私は毎日が苦しかった。
一日を謳歌するなんてできやしないし、かといって
目を覚ましているときの喉をロープで縛られてずっと息を止めらている感覚が
眠っているときの締め付けられているロープが緩んで
頭に
脳に
心臓に酸素が巡っていく感覚が……
ずーっと続いているんだ。
眠っているときだけ私が肯定される気分がするんだ。
なにもしない、なにもできない、そんな自分が肯定されているような気分が。
わたしはずっと必要とされていないと思ってたんだ。
…………でも、そんなわたしをずっと、ずーーっと肯定し続けてくれる人がいるんだ。
その人の出会いはいつからだったかは全然覚えていない。
その人はただの『幼馴染』で、ただただ昔から仲がいい異性の友達というだけだったんだ。
………いつからだったかな? わたしが
惹かれるといっても恋愛的な意味ではないと思う。………たぶん。
わたしは今まで恋愛的に好きな人ができたことがなかったから、わたしがカナトのことを恋愛的に好きなのかはわからなかった。
ただ、カナトと一緒にいるときは締め付けられたロープがほどけていくような感覚がするんだ。
あったかい、やわらかいような感覚。
わたしはこの感覚が好きだった。
カナトと一緒にいるときだけは、わたしの存在が認められているような気がするんだ。
始まりは中学生のころだった。
当時のわたしはすでに『わたしが生きる意味』を失っていた。
みんなと楽しく遊んでいるはずなのに、わたしの胸からはまるで空っぽのドラム缶に物を落としたみたいな、心の中に永遠と反響する空っぽで虚無な気持ちしか聞こえない。
楽しいはずなのに、楽しくない。
でも、きっとわたしの周りにいる人はわたしがいなくなって楽しくおしゃべりしている。
そのどうしようもない現実が私を苦しめた。
いつからか、わたしは同級生と関わるのをやめていく。
周りの人たちも気づいていたと思う。私が全然楽しそうにしていないのを。
中学一年の時は本当につらかった。
2学期、3学期になっていけばわたしはもう誰とも話さなかったし、学校に来る意味もどんどんなくなっていったから遅刻ばかりしていた。
………だから、わたしは2年生になってもこの生活を続けていくんだろうなって思ってた。
進級して2年生になると、学校の前にクラス表が張られていた。
みんながみんな食い入るように見ている中、わたしは身長も低かったからなかなか見ることができない。
正直、わたしが何組になってそのクラスにだれがいるかなんてどうでもいいとは思っていたけど、クラス表を見ないことには教室にすら行けない。
何とか見ようと背伸びしようとして、つま先立ちをすると唐突に前の人がちょっとだけ後ろに下がってきた。
概ね自分がどのクラスか確認したから教室に行こうとしたなんだろうけど、タイミングが本当に最悪だった。
わたしはちょっと小突かれただけでも転んでしまうほど、本当に少ない面積で体を支えていたから、わたしは前の人が動こうとした瞬間、思い切り後ろに倒れそうになった。
走馬灯でも見えそうなくらい、周りがスローモーションになってまるで死ぬ寸前のようだった。
「ああ終わるんだな」とどこか他人事のように考えながら目を瞑る。わたしはどんどん地面に落ちて行って───
「───大丈夫ですか?」
わたしに元に来たのは頭に来る鈍痛な痛みでもなく、背中をやさしく支えてくれる腕だった。
正直なところ、この一瞬で起こった出来事だったから、誰もわたしのことを助けてくれないものだと思ってたからびっくりした。
助けてくれたことに感謝しようと、わたしはその人の顔を見ようとすると……。
「あ、ありがと………え?」
「よかった。大丈夫そう………あれ? サヨリ?」
その人の顔はわたしにとっては馴染みがある顔で、わたしはどうにも呆気にとられてしまった。
わたしは未だに停止してしまった頭を動かすことができずに、黙っていると目の前にいるわたしの幼馴染が代わりに話してくれた。
「久しぶりだね、サヨリ。中一は全然会えなかったけど元気にしてた?」
「え、あ、えっと……うん、元気だよ」
まだ思考がまとまっていないから思ってもいないまともな回答を言えなかった。
そんな私を怪訝そうにしたのか、またすぐに話してくれた。
「サヨリはもうクラス表は見たの?」
「いや、わたし背が低いから見れないんだよ~」
ようやく思考が本調子に戻ってきたので、いつもの人と話すときのテンションになる。
「僕はもう見たけど、サヨリのクラスは2組だったよ」
「あ、そうなんだ。カナトはクラス何組だっ~?」
わたしがそう言うと、カナトは笑みを浮かべながらこう言った。
「……実は僕もサヨリと同じで2組なんだよね」
「………え?」
わたしはカナトが言ったことを全く考えていなかったから再び呆気に取られてしまった。
そういえば、その可能性もあることが忘れてた。
………カナトがわたしと同じクラス。
そう考えると今まで何にも希望がなかった学校生活に一筋の希望の光が注いでいるかのように思えてくる気がする。
「これからよろしくね、サヨリ」
そう言って、カナトはわたしに微笑みかけた。
今日の学校は始業式とこれからの授業の簡単なガイダンスのようなものだけだったから、いつもよりもだいぶ早く学校が終わった。
純粋に学校が早く終わってくれるのは嬉しい。
わたしは新しいクラスで友達作りに励んでいる同級生を横目にそそくさと帰ろうとした。
鞄をもって教室を出ると私と同じように教室から出ようとする人影が見える。
ちらっと横目で見るとそこにはカナトがいた。
「あ、あれ? カナトももう帰るの?」
「うん。久しぶりにサヨリと会ったんだから話したいなって思って」
そういってカナトはわたしの目をまっすぐと見てくる。
よくもそんな恥ずかしいこと言えるよな~。
しかもわたしに。
「じゃあ、一緒に帰ろっか!」
そこからは、わたしたちは他愛もない会話をしながら帰路を歩いていた。
本音を言えば、久しぶりに友達と話したこともあって楽しく思ってしまった。
「そういえば、カナトは友達とかとしゃべらなくてよかったの?」
だから、わたしはこんなことを聞いてしまった。
今考えると、わたしはこんなことを聞くべきじゃなかったかもしれない。
わたしのこの質問とカナトの言葉のせいでわたしの生き方はがらりと変わっちゃったんだ。
「うん。別に明日からでも友達は作れるし。……それに、今日はサヨリと話したかったから」
「べ、別に私と話そうとしなくてもよかったのに……」
今までの周りを見ても灰色の景色しか見えないあの生き方を、ほんの少しの、立った一筋の希望の光でかえてしまったんだ。
「いいや、サヨリと話していると楽しいからさ」
───え?
私は声を出せなかった。
側から見てたら私は目を見開いて口をあんぐりと開けていてさぞ間抜けな姿だっただろう。
「いや……そんなことないよ〜!」
私はそう言ってカナトから顔を逸らした。
……顔を逸らしでもしないとカナトに変な風に思われてしまうと思ったからだ。
だって今のわたしの顔は……絶対ににやにやしていて間抜けな表情をしている。
嬉しさとかが隠せない。
そんなこと、言われたことがなかったから。
今のうまくとりつくろえていない私は醜いと思っていたから。
慰めとか安心させるためだとか、そういうのではない純粋な気持ちからの言葉だったからこそ、わたしはどうしようもなく心が高ぶってしまう。
わたしはその場にとどまるのに耐えれなくなって、小走りでカナトから離れて真っ赤になっているであろう耳を手で覆い隠した。
今思い返してみれば、わたしはこの日からどれだけ変われただろう?
鬱病はまだ治ってないし、朝起きるのもやっぱり億劫だ。
………それでも、前よりも楽になった。
まだまだ中学生のころのカナトとの思い出はたくさんある。
でも、ここで一気に使ってしまうのはもったいないのかもしれない。
幸せのビンは貯めておかないとね。
◇◆◇◆◇
〇月□日
今日から日記を始めることにした!
今まで日記なんて書いたことないからどうやって書けばいいかはわからないけれど、とりあえず書いてみようと思った。
こんないきなり日記を書こうとしたきっかけはわたしの幼馴染の『
どうやらカナトは昨日から日記を書いているらしい。
なんで急に日記を書くようになったかはあまり言われなかったけれど、「カナトがするんだったら私も!」といった感じでわたしもすることにしたわけだ。
……正直、何を書けばいいのかわからない。
日記を書き始めたばかりなのに、もう書きたいことが思いつかなくなった。
カナトはどうやって日記を書いているんだろう?
………せっかくだしカナトとの話でも書こうかな?
…………そうだ! 思い出した!
今日の朝、カナトが遅刻しそうになってたんだ!
こんな感じで、忘れかけてた今日起こったことを思い出すと、クイズの回答をひらめいた時のような爽快感がある。
さてと、順を追って書いていこうかな。
今日の朝はわたしはいつもよりも早く起きていたんだ。
理由は単純で、先日にネットで見ていた可愛い髪形を今日は試したかったからだ。
だからいつもみたいに寝坊をせずに髪をセットすることができた。
昔のわたしに比べて最近のわたしは格段に朝に強くなっていると思う。
もちろん、昔みたいに学校に行く意味が見つからなくて寝坊することも多々あるにはあるけど………。
でも、最近は化粧とか髪をセットしたりとかで前よりは健康的な生活をしているんだ。
前にそれをカナトに話したら、「張り切ってるね」みたいにすごい人ごとみたいな感じで言われた。
ちょっと釈然としない。
……話を戻すと、そんな風にいつもよりも早く起きたから、わたしはカナトの家に早めに行こうとしたんだ。
もちろん!普段のわたしはカナトに迎えに来てもらっている方だ。
だからカナトをびっくりさせようとかそういう思いでわたしはカナトの家に向かったんだ。
いつもとは違う朝はわたしが思っていた以上に楽しかったかのように思えた。
そんなこんなで、わたしはカナトの家の前についていた。
前にカナトから聞いていた話だと、もう少ししたらカナトが出発する時間になる。
わたしはいつも以上にウキウキしながらカナトのことを待っていた。
………でも、いつもならカナトが家を出るぐらいの時間から5分ぐらい過ぎても、なかなかカナトは家から姿を現さなかった。
カナトも寝坊しちゃってるのかな?と思ったけど今までカナトが寝坊したことは一度もない。
わたしがわたしの家を出るときにカナトがいないなんてことは何回かはあったけれど、カナトは寝坊をしてしまうような人じゃない。
1分、2分と刻一刻と時間は空虚に過ぎていく。
もう私の心の中には心配とかの感情ばかりになっていた。
もしかして、カナトは熱を出しちゃったのかな?
それとも、本当にただ単純に寝坊をしているだけなのかな?
それとも………わたしと会うのが嫌になっちゃったのかな?
そこまで考えてわたしは自分の頭を横に大きく振って頭の中にいる雑念を振り払おうとした。
ダメだ。
不安になってしまうとどうしてもこういう後ろ向きな考えが脳裏をよぎってしまう。
それがどれだけありえないことだったとしても、どれだけ可能性が低くても、わたしの頭の中に浮かんでしまった時点で、それは
存在すらしない事象に対して恐怖して、頭の中を永遠に駆け巡る。
それが長い間わたしが患っている鬱病の症状の一つだ。
結局、今でも鬱病の症状は完全には治っていない。
………でも、それを和らげてくれる人はいるんだ。
10分ぐらいたった時、ようやく家の向こうから廊下を走るどたどたという音がこちらに向かって響いてきた。
わたしはその音を聞いて、さっきまで暗い感情だった心の中が、一気に晴れているような気がした。
その足音はどんどん私のもとへ近づいてきて───
「───ホントにごめん!! 寝坊した!」
ようやく、カナトが来てくれた。
そうだ。やっぱりあんな未来なんて私の気のせいだったんだ。
カナトはわたしを裏切るなんてしない。
わたしはわたし自身のことを偽っていただけなんだ。
わたしは極力表情を隠して言った。
「遅いよー! 熱でも出したんじゃないかって心配してたんだよ!」
そこからは普段通りわたしたちは一緒に登校していた。
特に代わり映えもしないいつもの日常だったけれど、わたしにとっては何よりも代えがたい至福の時間だ。
他愛もない話を続けていると、カナトがあることを思い出したようにつぶやいた。
「……そういえば、昨日から日記を始めたんだよね」
「日記か~。どうして日記なんて始めようと思ったの?」
わたしがそう言うとカナトはちょっと困ったような表情をする。
「……あー、まあそれは置いといて」
「えー、教えてよ~!」
「まあまあ、それについてはまた今度ね。それでさあ……」
今思い返してみても雑な返し方だと思う。
カナトは少しわたしのことをなめている節があると思う。
「昨日日記を始めてみたけど、夢中になりすぎちゃってさ。いつも寝る時間の1時間ぐらい遅い時間にようやく書くのが終わったんだよね」
「えー! それで今日は寝坊をしてたわけなの!?」
「………そういうことになるな」
「ちょっと~。熱中するのはいいけどちゃんと寝てよね」
わたしは半目でカナトのことを見る。
カナトは気まずそうに眼をそらしているが私が無理やり顔を合わせに行く。
そうしていると観念したのかカナトはあきらめた表情になって肩を落とした。
「……わかったよ。これからは気を付けます……」
「よろしい。……ホント、カナトはわたしがいないとダメだね~」
そこからはまた他愛もない会話をしながら学校へ向かっていた。
カナトが日記を書くようになった理由はわからないけど、カナトが初めて見たことなんだし、どうせだったらわたしもしてみよう!ということで今も日記を書いているわけだけど……。
意外と面白いかもしれない。
「毎日続けます!」とは言えないものの、興が乗ったときに書いてみるのはいいかもしれない。
明日、わたしも日記を始めたことをカナトに行ったらどんな反応をしてくれるのかな?
想像するだけでも楽しくなってくる。
今日はこれぐらいで終わろうかな?
わたしはカナトみたいに熱中しすぎて寝過ごすなんてことは絶対にしないからね!
………まあ、いつも寝坊自体はしてるけど。