緑の勇者じゃない! それはリンク違いだよ!   作:よもぎだんご

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要望があったので次話投下。

任●堂社員「次のゼルダは空飛ぶ島のお話です」
茅場さん「キターーーー!!!」

この世界のゼルダの伝説スカイウォードソードはVRゲームなのとアインクラッド的巨大ダンジョンが追加されただけで、私達の世界の物とストーリーその他あまり変わりません。主人公のやっているのは完全に別ゲー。
今回はちびっ子サードエクソシスト(未定)と牧場物語をお楽しみください。


これはゲームであってゲームではない。パクリ? そんな言葉は知らないな

 

 下水道から出た俺達はこの町で唯一つの公衆浴場にいた。

 

「リーダー……背中流しましょうか」

 

 後ろからおずおずとした声が聞こえる。俺は冷たく言い放った。

 

「それよりしっかり自分の体を洗ってくれ」

 

 しゅんっとして戻っていくゴウシ君。金髪幼女テワクちゃんかと思った? 残念、巨漢のゴウシ君でした! 子供とはいえ野郎に体を洗われてもちっとも嬉しくないです。

 

 夜の寒さをしのぐために下水道で寝泊まりしていたテワクたちにはすっかり匂いが染みついており、下水道から出た彼らは臭くてたまらなかった。

 

 このままでもプランAには支障は無いが、プランBに差し支える。

 仕方ないので5人以上で来れば半額キャンペーン実施中だった公衆浴場に入った。さりげなく序盤のルピー消費を抑えてくれるなんて、茅場さんの微妙な優しさを感じたね。

 

 お金がかかるのが嫌ならば、そこらの川で水浴びすれば良いよね、と思った其処の貴方、甘い甘すぎる。

 この時代地球、特にヨーロッパでは衛生観念が壊滅的なので、町の川は下水道と大して変わらない汚さだ。下水道は古代ローマ時代に作られた物をそのまま使っているに過ぎない。

 

 その事実を無駄に尊重したのか、この町の中を流れる川は汚くて、身体を洗うなどとても無理だった。そんな所まで凝らなくてもいいのに。

 

 明らかに浮浪児っぽい客に店の親父は眉をしかめていたが、金を払ってしまえばこっちのものだ。

 風呂なんて何か月ぶりだとか言っているマダラオ君たちに戦慄しながら、身体とついでに服とズボンも洗った。

 

 風呂の中で改めて自己紹介する。

 

 テワクちゃんのお兄ちゃんで、リーダー格のマダラオ君。

 手を口元に当てて丁寧語で話すのがトクサ君。

 子供の割に巨漢なのがゴウシ君。

 一番ちっこいのがキレドリ君。

 

 なんか微妙に日本人っぽい名前だが、作っている人が日本人だから仕方がない。

 

 風呂から出た俺達の所にテワクちゃんがちょこちょこと駆け寄ってきた。

 事前にしっかり洗う様によく言い聞かせといたおかげか、彼女は着ている物は相変わらずぼろいけどそれ以外は見違えるように綺麗になっていた。はちみつ色の金髪がさらさらと風になびいている。

 

 ……もしかしてテワクちゃんがゼルダ姫?

 風のタクトのテトラ姐さんのように自分の正体を知らず、中盤で発覚するとか……ないな、きっとない。

 

「これからどうするの」

「ついてきてくれ」

 

 そんなことより、プランAの準備にかかるぜ! 目指すは露天商だ!

 

 

「いひひ、いらっしゃい」

 

 やってきました露天商。売っているのはとんがり帽子を目深に被った小柄な人。そのお姿、どう見てもスタルキッドさんです。本当にありがとうございました。森からの出張ご苦労様です。

 怪しい匂いがプンプンするけど、ここには俺が目をつけていた代物がある。

 

「これをください」

「40ルピーだよ」

「はい」

「おいリンク! いったい何を……」

 

 マダラオが焦った声を出している。40ルピーは俺の、いや俺達の全財産だ。彼からすれば節約すれば数日は生きていけるはずのお金を、あろうことか薬でも食べ物でもない、役に立たない物を買おうとしているように見えただろう。

 

「安心しろ。(ぼっちゲーマーの)俺が意味の無い物を買うはずないだろ」

 

 40ルピーと一見するとちょっと高いが、その効果からすれば安すぎるくらいだ。

 

「ひひひ、まいどあり」

 

 俺は震える手でそれを受け取る。

 重要アイテム(と思われるもの)であり、過去作で散々お世話になったあれを手に入れた喜びが胸の奥から溢れてきた。

 

 耳の奥で“宝箱を開けた時のあの音楽”を聞きながら、衝動のままにそれを天高く掲げる! 

 

 

 妖精のオカリナを手に入れた!

 

 

 ん? なんだか皆の俺を見る目がひどく冷たいような。HAHAHA気のせいだな。

 

 

 ひとしきりオカリナの調子を確かめた(遊んでいたともいう)俺は夕焼けをバックに皆に話しかけた。

 

「さて諸君、プランAもついに最終段階に入った」

「え? そうなの?」

「というか計画的な行動だったんですね。私はてっきり衝動買いかと……」

 

 うるさいぞテワク、トクサ。

 

「これからの行動で俺達の明日が決まる。成功すれば今日の夕食は暖かいシチュー、美味しいパンとミルクつきだ」

 

 皆ごくりと唾を飲む。お腹減ってるもんね。

 

「だが失敗すれば、俺達は寒空の下で夜を明かすことになる」

 

 空気がぴんと張り詰める。いいなあ、こういう素直な反応。俺1人っ子だから弟とか妹と遊んでみたかったんだよね。

 

「作戦はこうだ……」

 

 俺は作戦を語り始めた。

 

 

 この作戦の肝はタイミングだ。敵は1人。攻略対象は2人。合流するのが早すぎても遅すぎても駄目だ。

 部隊は敵を監視する組と攻略する組に分かれ、俺とテワクちゃんは先陣を切って堂々と正面から攻略対象者に挑む。

 

 ロンロン牧場を舞台に彼らの未来と夕食をかけた戦いが、今始まる!

 

 

 

 

 

 結論から言おう。作戦は結果的には大成功に終わった。

 

 俺が企てていた「エポナの歌を使ってマロンちゃんご執心の牛から牛乳を出させて食肉加工を防ぎ、恩を売って彼女の友達の立場を手に入れつつ夕食をねだる」プランは成功した。

 

 時のオカリナやムジュラの仮面で教えてもらえるエポナの歌には2つの効果があり、一つはリンクの愛馬エポナを呼べること、もう一つは牛に聞かせて牛乳を貰えることである。

 どんな牛でもこの曲を聞くと牛乳の出が良くなって、瓶にHPを回復させる牛乳を入れてくれるのだ。

 

 何でエポナの歌を演奏出来んのかって? 皆も小学生のころ練習しただろ。百円ショップのオカリナとゲームについてた楽譜を使って。したよね、したと言ってくれよ、バーニー。

 

 

 現在俺達は暖かい歓迎を受け、夕食をご馳走になっていた。

 

 会場は宴もたけなわ。マロンちゃんと俺の仲間たちが盛り上がっていた。

 俺? 俺は夕食を食べながらインゴーさんの愚痴を聞いている。メロンさんは料理を作りに厨房へ。タロンさんはすでに寝てしまった。

 

 ボッチの業を感じながら木製の器に盛られたクリームシチューやサラダ、パン、搾りたてのミルクを頂いているのだが、このゲームは味や食感も分かるみたい。凄く美味しいです。

 これで味が分からなかったら、リアルに描かれた汚い中年親父の愚痴を2時間近く聞き続けるという苦行に耐えられなかったかもしれない。

 

 しかし俺はあいつらの友達作りスキルを舐めていたね。

 

 俺がお金を集めて、オカリナ買って、牛さんを助けてと地道なフラグ立てをした挙句に、やっと友達になれたマロンちゃんと一時間もしない内に友達になっていた。

 

 これならプランAもプランBもいらなかったよね。

 友達作りに失敗した時に備えて、牛乳だけもらってインゴーさんから逃走する時のルート作りとか明らかにいらなかったよね。

 

 しかもマロンちゃんは俺をリンクさんと呼ぶのに、マダラオたちは君付け、テワクちゃんもちゃん付けである。どっちが親しみを覚えられているのか一目瞭然だ。せめて原作みたいに妖精君がよかった。せっかく「これは妖精のオカリナって言うんだ」ってフラグ立てといたのに。

 

 しかもこっちを見るたびに顔を赤くして目をそらすし。やはり最初にここに来た時に知り合いと偽った事に怒っているのだ。テワクちゃんもその事に気付いているのか俺とマロンちゃんの事をちらちら見ては“むうっ”と難しい顔をしている。優しいなあ、テワクちゃん。

 

 それにしても完全に俺いらない子だよね、もうあいつらだけでいいんじゃないかな? 

 

 これでも端折れるところは端折って来たんだよ。新規ユーザーならオカリナにも気付かなかったろうし、牛に向かって演奏するとか思いもつかないだろうから、タロンさんやインゴーさんや町の人たちにお話を聞きまくらないといけなかったはずだ。

 

 すっかり俺を置いてきぼりにして盛り上がっている彼らを見ていると、ぼっちの業を感じてしまう。盆暮れ正月の親戚との集まりもこんな感じだったな。あれ妙に牛乳がしょっぱいぞ。

 

 でも身体は子供でも心は大人のつもりなので顔には出さない。ええ、出しませんとも。

 

「ありがとね、リンク君」

 

 話しかけてきたのはマロンのお母さんのメロンさんだった。いつの間にか隣の席に座って俺を優しい目で見ていた。俺が友達の輪に入れないから、話しかけてくれたんだろう。やっぱり優しい人だなあ。

 

「あなたのおかげでマロンにもたくさん友達が出来たわ。あんなに嬉しそうに笑っているマロンを見るのは久しぶり」

「いえ、大した事はしていませんよ。俺がやらなくてもあいつらならやってくれたはずです」

「そうかしら。あなたが言うならそうかもしれないわね」

「そうですよ。俺にできる事なんて牛の乳を出させることと、世界を悪いやつから救う事くらいです」

 

 俺の冗談に彼女はころころと笑った。

 

「じゃあ世界を救っちゃう勇者君にはなにかお礼をしないとね。何かして欲しいことある?」

 

 お礼、ムジュラの仮面、クリミアさん、ぎゅうっと……おっといけねえ、せっかくのプランAの最後の詰めを誤る所だったぜ。流石ハイラルとタルミナ、2つの世界で一番の新幹線と言われただけのことはある。……もちろん足の速さの話だよ。

 

「俺達を……雇ってもらえませんか」

「雇う?」

「俺達には帰る家も迎えてくれる親も、明日のパンを買うお金もありません。だから俺達をここで働かせてください」

「それって住み込みで働きたいってこと?」

「はい。俺の寝床は馬小屋でもなんだったら外でも構いませんし、俺はしばらくしたらここを出ていきます。牛乳を出させる妖精のオカリナは置いていきますし、あいつらに弾き方を教えてきます。それから……」

「はい、ストップー」

 

 メロンさんは俺の口に指をあてて俺の発言を封じた。指がひんやりしていて気持ちいい。

 

「まずあなたたちを雇う事についてだけど、良いよ。細かい条件については夫やインゴーさんとも相談しなくちゃいけないけど、住み込みもオッケー。インゴーさんもそうしてもらっているし、部屋も余っているからね」

 

 うち土地だけはいっぱいあるから、と苦笑するメロンさんが一瞬女神に見えた。

 

「ありがとうございます」

「別にお礼を言われるほどの事じゃないよ。正直に言うと牛のお肉ってあんまりおいしくないから、牛乳に比べてかなり買い叩かれちゃうのよ。だから牛をお肉にするのは、一時しのぎにはなっても根本的には解決にならないのよね」

 

 現代の最初から食肉用に育てられている牛と違って、この時代の牛は畑を耕すために働かされている。そのために最初から食肉用として育てられている豚と比べてお肉が非常に硬くて、あまり美味しくなく人気もなかったらしい。対して牛乳は栄養価も高く、美味しい。どっちが高く売れるかなんて明白だ。全部山田先生の受け売りだけどな!

 

「リンク君のおかげでうちも助かる、うちもお金も人手も増えて助かる」

 

 “ねっ”、と小首を傾げて可愛らしく微笑んでいるメロンさん。

 

 だけど信用が大切なビジネスで、体力と経験が必須な牧場仕事で、そのどれもが欠けている俺達を雇ってくれるのはやはり彼女が優しいからだろう。その上で俺が打ち解けられるように気遣ってくれている。やはり女神だったか。そしてマロンちゃんが天使と。

 

 俺の妖精のオカリナだって弾き方さえ分かれば誰でも良いわけだし……あれ? 本当にそうなのか。もしかして勇者リンクが吹かないと効果無しとかない、よな。俺マスターソードを取りにいかないといけないんだけど。

 

 俺が計画の穴に気付いておろおろしていると、メロンさんは何を思ったのか俺を抱きしめた。

 さ、さすが新幹線は伊達じゃねえ。も、もちろん俺に気付かれないで接近する速さの事だよ。

 迷走を深める俺の耳元で彼女がそっと囁く。

 

「だから大丈夫。肩の力を抜いて。今日からここがあなたの、あなたたちのお家よ」

 

 俺の頭を撫でながら“大丈夫、大丈夫”と囁き続けるメロンさん。

 

 うん、大丈夫だよね。大丈夫な気がしてきた。明日でも出来る事は明日すればいいや。

 




ひ、ヒロイン候補がロリと人妻しかいないだと! しかも残りのヒロイン候補であるリナリーもまだロリナリーだと……一体俺はどうすれば……。タロンさんを秘密裏に消してメロンさんをフリーに……駄目だ、諦めろ作者。

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