緑の勇者じゃない! それはリンク違いだよ!   作:よもぎだんご

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前回までの牧歌的なあらすじ

子供リンク「約束された勝利の剣(エクスカリバー)!」
レベル3あくま「ぐわーやられたー!」
子供ロード「勇者君あーそーぼ」

いやあ、平和ですね。

では本編です



第24夜 のびる呪い

「いよいよですね、ルル=ベル様!」

 

 トアル村に続くハイラル平原。そこを走る馬車の中で、気合いのこもった声をあげたのは銀髪を左右で縛った少女ミミであった。白と黒の古風なメイド服を着ており、顔立ちもスタイルも子供っぽいが整っている。

 

「そうね」

 

 冷静に答えたのは男性用のスーツを着た金髪の白人女性ルル=ベル。サングラスで目元を隠してはいるものの、スタイル抜群の美女であることは隠しようもない。

 

 そしてその後ろには緑の帽子や服を被った十数名の男女たち。年齢も性別もバラバラな人々が同じ格好をしているのは、馬車の中ということもあって、異様な光景であった。

 

「ミミ、作戦内容を確認するわね」

 

 ルル=ベルが落ち着きを払った声で問う。

 

「私たちが今から攻撃する森の神殿と時の神殿は互いの距離が近い上に、大妖精と大精霊の結界が強化されている。おかげで3年前のように『箱舟』を使って直接神殿前に乗り込む事が出来なくなったわ。更に二つの神殿の間は深い森と原住民、やっかいな精霊種まで住み着いている。さて、どうするのだったかしら」

 

 ルル=ベルの問いにミミは自信満々に薄い胸を張った。

 

「はい、ルル=ベル様。まず邪魔な原住民と覚醒していない賢者の一族を私たちで一掃します。大妖精と精霊デクの木は強力な力を持ちますが、既に伯爵様が手を打たれていて、基本的にその場を動けないので、抑えにアクマと魔物を大量に残して放置です」

 

 メイド服の少女は淀みなく答えていく。容姿や言動が子供っぽいところもあるが、彼女はルル=ベルの優秀な副官であり、侍女であり、アクマなのである。

 

「その通りよ。注意点としては賢者を殺すと他の者がそれを引き継ぐ可能性がある。だから賢者たちは決して殺さないこと。生きたまま捕らえて伯爵さまの前に突き出すわ」

 

「ルル=ベルさま、他の人間はどういたしましょう。殺してもかまいませんか」

「好きになさい」

 

 その言葉にミミを含めてアクマたちが凶悪な笑みを浮かべた。彼らアクマにとって人を殺すことは任務であり、食事であり、信仰であり、エクスタシーであり、存在価値である。

 

 ルル=ベルは馬車に吹き込んだ埃っぽい風でなびいた髪を払った。そして伯爵の計画に思いをはせる。

 

 ――賢者狩り

 何度掃除しても蛆虫のように湧いてくる賢者とその巣である神殿を、伯爵の戦力をもって文字どおり狩り尽くし、叩き潰す計画である。すでに攻撃は開始されており、いくつか落としている神殿すらあった。

 総大将は千年伯爵、各方面軍の将をルル=ベルを初めとするノアの一族が担当。副将に一部アクマやスカル等の頭脳労働が出来る魔物を配し、兵士としてはAKUMAを使う。

 

 厄介な勇者や賢者、教団の元帥たちに気取られないように、伯爵はアクマを作戦寸前に箱舟で神殿のある地域に少しずつ送り込み、潜伏させている。普段なら最優先目標のエクソシストや元帥を発見しても襲わないことを伯爵自ら厳命し、徹底させた上でだ。

 こうなると旅先でアクマと人間を見分ける技術を持たない人間たちに打てる手はほとんどない。アクマのエサとなる人間の不審死に教団のファインダーやエクソシストが派遣されることはあってもアクマたちは彼らをスルーしてしまう。

 

 教団がアクマを見つけるには地道に調査を続けて殺人の現場を押さえるしかないのだが、黒の教団は年中人手不足なことは調査済み。なかなか結果の上がらない事件に何時までもかかずらっている程彼らは暇ではなく、調査すべき事案は他にも幾等でもあるため暫くすれば勝手にいなくなる。

 

 あとはあちこちふらついている勇者と元帥、各地の精霊や賢者に注意しながら、数で圧倒的に勝るアクマで神殿ごと賢者たちを圧殺にすればよい。

 

「すでに勇者が魂の賢者の前に現れたことを我が主が確認した。いくら勇者が強力でも、体は一つしかない。ならば私たちの勝利は揺るがない。これより作戦を開始」

 

 ルル=ベルが静かに宣言し、配下たちが頷く。ここに神々と悪魔たちの宿命の戦いが、また一つ幕をあけた。

 

 

 

 リナリー・リーはトアル村に住むごく普通の少女だ。数年前から兄のコムイは都会の大学に行っていること、家族がとあるツリーハウスと神殿を管理していること、そして彼女自身が賢者の卵であり、イノセンスの適合者なのを除けば、だが。

 

 彼女の運命は過酷である。本来の歴史なら彼女の村はアクマによって焼き払われ、父母は死に、生き残った彼女も黒の教団に連れ去られて、エクソシストとして戦うことを強要されるはずだった。監禁され、洗脳され、自身の父母や故郷のことすら忘れてしまうはずであった。

 

 しかし彼女はそうはならなかった。時を超えて現れ、歴史を変えていく時の勇者が現れたからだ。勇者の活躍によってアクマは払われ、彼女は元の歴史においてどんなに望んでも得られなかった家族との平穏な暮らしを知らず知らずのうちに手に入れていたのだ。

 

 時の勇者が現れたことで千年伯爵は彼の捜索に血眼になり、アクマたちは無作為な破壊をする暇がなかった。さらに勇者がピロピロと楽しげに吹きまくったオカリナのせいで、眠っていた森の精霊や妖精たち、さらには時の神殿と森の神殿の防御機能が呼び起され、生半可な戦力ではトアル村や神殿を落とすどころか認識することすら出来なくなったという事情もあった。

 

 しかしその状況は変わりつつあった。

 千年伯爵は神殿や森の精霊たちの力の源である水や大地を、配下の魔物やアクマを使って汚染し、彼等を弱体化させていた。森の精霊や妖精たちは迷いの森や霧、封印などの防御や迎撃には非常に優れるが、反面攻撃能力がほとんどなかった。何せ森の守護を司るデクの木は木ゆえに動けず、動ける戦力は妖精やコキリ族、コルグ族、デクナッツたちくらいなのだ。彼らの戦闘能力はお世辞にも高いとは言えない。

 

 そして勇者の位置が分かった現在、神殿には勇者を誘い込む囮としての価値すら失った。故に賢者の一族が住むトアル村と彼らの守る神殿が襲われるのは当然であり、神代の昔より続く神々と魔の戦の舞台となってしまうのも必然であった。

 

 

 堰き止められていた運命が再び動き出した日の朝、リナリーは母のアリアと共にトアル村近くの精霊の泉にいた。山羊同士の喧嘩で脚を怪我してしまったトアル山羊を癒していたのだ。

 とは言っても縫合などの特別な行為をしていたわけではない。アリアたちがやっているのは清らかな泉の水で傷口の草や泥を落とすこと。それだけでもう傷は癒えていた。トアル山羊の方も特に暴れたりすることはなく、泉のほとりでのんびり草を食んでいる。

 

「コリン長老が言うにはね、この泉は精霊ラトアーヌ様や癒しの妖精がいらっしゃるから、どんな病や怪我もすぐ治ってしまうの。時の勇者もここで己と愛馬の傷を癒したと言われているわ……リナリー、聞いてる?」

「…………」

 

 アリアは作業をしながらリナリーにこの地に残る伝説を伝えていたが、ふとリナリーの反応がないことに気付いた。ここではないどこかを見ているような虚ろな表情で佇むリナリーに、嫌な予感を感じたアリアは作業を止めて、強めに娘の名前を呼んだ。

 

「リナリー! どうしたの。ぼうっとしてたけど、疲れた?」

「ううん……違うの。あのね、今どこか声が聞こえたような気がして……」

「声? どんな声で、ううん、なんて言ってた?」

 

 ぼんやりした声で胡乱な事を言い出したリナリーをアリアは無下に扱う事は無く、むしろ真剣そのものの声で尋ねた。なにせ彼女たちは賢者の末裔であり、ここは精霊や妖精が現れると言われる泉。3年前には時の勇者や聖剣の精霊まで現れ、リナリーには賢者の資質があり教育すべきだとまで言っていたのだから。

 

「若い女の人の声、だと思う。それで……」

「それで……?」

 

 トランス状態なのか、途切れ途切れに話すリナリーをアリアは辛抱強く優しく促す。トアル山羊もその独特のドーナッツのような輪を描く角を揺らして、どこか不安げだ。

 

「……ここから、にげてって……」

「逃げる理由は言ってたかしら?」

「もうすぐ、悪魔が、来るから……」

 

 悪魔が来るから逃げろ。その穏やかとは言えないその言葉にアリアは迷わなかった。

 

「リナリー、今すぐ家に帰って支度をなさい。私は村の皆にこのことを知らせてくるわ」

 

 古のハイリア人はその長い耳で神々や精霊の言葉を聞き災厄を逃れたと言われている。

 賢者とはそのハイリア人の中でも特に優秀な魔法使いであり、神々と精霊に仕え、その声を伝える巫女である。ゆえに賢者になる素質を秘めたリナリーなら精霊の声を聴けても不思議ではない。あとは大人の自分が村人を説得するだけだ。そう思ってアリアは駆けだした。

 

 だが、この行動はあまりにも遅きに失していた。

 

 それを示すかのように、神殿の方角から途方もない轟音が響いた。

 

 

 

 

 神殿に轟音が走る少し前、トアル村には一通の鷹文が届いた。

 

「おーい、雑貨屋からの連絡だ。巡礼者の馬車が来たぞー!」

 

 岩で出来た天然の物見台で叫んだのは水車小屋の主人だ。彼の腕には鷹が止まっていて、手には文がある。

 彼の言葉を聞いた村人たちが野良仕事を中断して慌てて家に戻る。そして老人や女子供を家に残し、男衆が鞘に入れた剣やら弓矢やらで武装して集まってきた。

 

 男衆は小走りにトアル村とフィローネの森を繋ぐ橋に向かっていく。その中にはこの村唯一の非ハイリア人であり、民俗学者であり、リナリーの父であるロック・リーの姿もあった。

 

「さてと、盗賊や魔物じゃない本物の巡礼者だといいんだが……」

 

 ロック・リーは不安そうに鞘に入れた剣の柄頭を撫でる。彼の視線は年中通して霧深い谷、そしてそこに架かる木製の吊り橋に向けられていた。

 

 トアル村は一年を通して去年と変わったことの方が少ない平和な村だ。客が来る方が珍しい。そして最近森には魔物が増え、行商人さえ寄り付かなくなっていた。

 他の村人も弓に弦を張り、ボウガンに矢をつがえながらもどこか不安な表情だった。温厚な人間の多いトアル村には不吉な予言や命のやり取りを好む輩はいない。

 

 がっしりした体形でイノシシのような髭の村長が柄の長い鍬を背中に担ぎなおして、ロック・リーに言った。

 

「御者は初めて見る顔だが行商人で、勇者の服まで着ているらしいから、大丈夫だと思うんだが……もしハイリア語が通じなかったら交渉は頼んだよ、ロックさん」

「まかせてください。こう見えても8か国語はしゃべれますからね。そのかわり……」

「ああ、相手が魔物や盗賊なら俺たちの出番だ。たとえ俺やあんたが死んでもアリアやリナリーちゃんは村の皆が守るだろう」

 

 トアル村はかつて魔王を倒した時の勇者や森の賢者を輩出した村であり、時の勇者を信じるハイリア人の中では特別な意味を持つ村だ。勇者の生家や彼の遺産は今でもその子孫であるアリアたちと村人によって大切に保存されている。

 それゆえ熱心な信者がごくまれに巡礼に来ることもあり、彼らの落とすお金や情報は村の貴重な収入となった。だが勇者の遺産や村の子供たちを狙って盗賊や魔物が来ることも皆無ではなかった。だから彼らはこうして普段から交代で見張りを立てて、いざという時の備えも覚悟も怠らない。

 

「おーい、わしはトアル村の者だ。その橋は馬車じゃ渡れない、そこでいったん馬車を降りてくれー!」

 

 村長が橋の向かい側に向かって叫ぶと、馬車は橋の前で大人しく止まった。御者は巡礼を示す緑の勇者の衣装をまとった中年の男。馬車から降りてきたのは、子供を連れた老夫婦と若いメイド、その下男たちだった。

 年齢も性別もバラバラだが見た所武器の類は無く、メイドを除いて皆緑の服を着ている。どうやら盗賊ではなく金持ちの巡礼者のようだった。村長がこっちにこいと手招きすると御者の男を先頭に素直に橋を渡りだした。

 

「乗客は外国人みたいだがハイリア語は通じたみたいだな……」

 

 どうやらこのままいけば殺し合いをしなくて済みそうだ、とほっとしていた村長の後ろに茶色のローブを被った人物が寄ってきた。

 

「嫌な予感がする……油断しない方がいい」

「うおっ、いたのかコリン爺さん、じゃなくて長老。一昨日カカリコ村から帰ってきたばかりで疲れたから寝てたんじゃねえのか」

「寝てたよ、君らの鷹の歌を聴くまではね。あいかわらず微妙な鷹の歌だったけど」

「うるせえ、余計なお世話だ」

 

 ローブの人物はこの村の長老コリン。幼い頃に時の勇者に会ったことすらあるという村一番の高齢だが、鋭い目つきで橋の向こうを睨みつけ、剣と盾を背負った姿はある種の凄みを感じさせる。

 

「それより、警戒してほしい。森がざわめいている。こんなにざわめくのは子供の時以来じゃ」

「森が……ざわめく……ですか?」

 

 ロック・リーの言葉に長老は頷きを返す。

 

「ああ、鳥たちの様子もおかしい」

「そういや鷹笛で来た鷹もちょっと変だったな」

「それにあいつら全員丸耳だが、ハイリア教を信じているのにハイリア人じゃないのか……?」

 

 村人たちがコリンに触発されて疑問を呈しだしたが、ロック・リーは苦笑しながら応えた。

 

「確かに、時の勇者と彼を遣わせる女神ハイリアを信じているのはハイリア人が多いですが、私やゴロン族のように他種族にいないわけじゃありません。それにハイリア人にも尖っていない耳を持つものもいます。うちのコムイやリナリーも丸耳ですしね」

 

 ロック・リーは学者らしく村人の差別的発言にやんわりと釘を刺す。彼の言葉にある程度納得した長老や村人たちは頷きを返した。

 

「だが、油断は出来ない。念のために儂が行こう。万が一のことがあれば橋ごと落としてくれて構わない」

「爺さん、そいつは村長の俺の役目だろう」

 

 コリン翁の言葉にアル村長はイノシシの様な顔をしかめて詰め寄った。並の者ならすくみ上るような大した迫力だったが、長老は小揺るぎもしない。

 

「村長がいなくなったら誰が村の皆を纏めるんだ。こんなことは私みたいな老いぼれに任せておきなさい」

 

 そう言うや否や肩を掴んでいた村長の太い腕を軽やかにすり抜けて、コリンはさっさと橋の方へ歩きだしてしまった。

 

「お、おい待てよ爺さ……」

「村長、長老は僕が」

「ち、ちょっとロックさん……」

 

 ロックもこれまた学者とは思えぬ身のこなしでさっさと歩いていく。

 

「はあ、しかたねえ。お前らまだ弓矢の弦を元に戻すなよ。あいつらがやばくなったら援護だ。あといつでも橋の縄を切れるようにしとけ。ロックさんがいれば長老も大丈夫だ」

 

 村長の言葉に「おう」と応えが返ってくる。なんだかんだで慕われている村長と信頼されているロックだ。

 

 長老と通訳のロック・リーは橋の真ん中で行商人と旅人たちに落ち合った。

 

「はじめまして、僕はこの村に住むロック・リーと言います。彼はこの村の長老のコリンさんです」

 

 だんまりと相手を睨む長老と朗らかに挨拶するロック。対して中年の商人はにこやかに手を差し出した。ロックも手を握手しようと手を伸ばす。

 

 次の瞬間だった。

 

「はじめまして。私の名前はルル=ベル」

 

 長老が背後からロックを崖に向かって突き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 あれ、俺何してたんだっけ。

 たしか……そうだ、アニタさんがガトリング砲ブッパマンに襲われたから、残像剣しながらこっちも聖剣ビームをブッパしたんだ。いやー残像剣の無限に剣の攻撃判定を出し続けるバグを利用して聖剣ビームを連射できないかなーとか思ってたんだけど、そんなことはなかったぜ!

 

 ところでここどこだろう。地平線まででかいチェス盤みたいな地面が続いている。あたりは夜なんだが、月は不気味な笑顔を浮かべているし、本物の熊の倍はでかいテディベアがあちこちに浮いていたり、座っている。デバックモードだろうか。

 

 俺はぼんやりと光っているテディベアの腹をつつきながら、うすら笑いを浮かべた月を粉砕する予定を立てていると、後ろから鈴のような声がかかった。

 

「はろー、勇者くん」

 

 はてここに人などいただろうか。首をかしげながら振り向くと、フリフリの黒いドレスを着た少女がドレスの裾をチョコンと上げてお辞儀した。またファンキーな奴の登場だなー。年頃は中学生くらいだろうか。しかしこれがゴスロリってやつか。実物(ゲームだけど)は初めて見た。

 

「えっと初めまして、かな」

「いやいや、僕達的にはお久しぶりってのが正しいと思うよ」

 

 え、マジで。すでにどこかで会っているとでもいうのか、この僕っ子ゴスロリは。いつだ、いつ出会った。

 俺のゼル伝検索エンジンが光って唸る。ゼル伝の中でドレスと言えば、作品タイトルのゼルダ姫だが、これは違うだろうと思う。ゼルダ姫のドレスはゴシック調ではないし、色も大抵桃色で裾が引き摺りそうなほど長い。何よりゼルダ姫は作品によって性格に差異はあるが、作品の看板娘であることもあってか清楚なお姫様というイメージであるのに対して、このゴスロリさんはアンニュイなマダムと無邪気な少女を足して2で割ったような雰囲気だ。

 ゼルダ姫以外でドレスを着る様な少女……しかもゴシック系の……いたよ、いましたよ。前作トワイライトプリンセスにいましたよ。虫さん王国のプリンセス(自称)のあの人が。

 でもあの人金髪ツインテールじゃなかったっけ。この子は黒髪のショートなんだけど……イメチェン?

 

「あーごめんごめん、気付かなくて。何しろ昔のことだから」

 

 俺の言葉にゴスロリ少女はどこか危うげな笑みを浮かべた。

 

「思い出してくれたならいいんだよ」

 

 虫さん王国のプリンセス(自称)ことアゲハさん。

 彼女はハイラル各地に生息する黄金に光る虫たちに招待状を出してお茶会を催そうとする少女である。彼女は大層なお金持ちらしく、彼女に黄金の虫を持っていくと、初期装備の財布よりいっぱいルピーが入る財布や大量のルピーをもらえるのだ。ちなみに虫を持っているのに渡さずに帰ろうとすると、「持っているくせに……」と呟く黒い彼女を見ることも出来る。

 

 ボス戦後にワープが出なかったのは、きっと黄金の虫を拾ったことでアゲハさんイベントのフラグが立ってしまい、何の因果(バグ)かボス戦後のイベントに割り込んでアゲハさんイベントが発生してしまったのだ。

 

 もちろんそれは通常ではありえない状況、つまりバグだから、ゲーム本体に負荷がかかって処理に時間がかかり、イベントの発生にタイムラグが発生する。そもそもボス撃破の後のボス部屋の結界が解除されるイベントに割り込んでしまったので、結界の解除が行われず、結果としてアニタさんと俺はボス部屋に閉じ込められるという状況になってしまった、というわけだ(親父ぃ風に)。

 

 なんてこったこのゲームも最新のソフトなのにバグだらけじゃないか。最初の町のアンジュさんといい、次の町のアゲハさんといい、人間関係のフラグ管理がガバガバ過ぎる。

 

 まあそれはそれとして、大きな財布が欲しいので、アゲハさんに黄金の虫を渡してしまおう。

 

「では姫、お近づきのしるしにこれをどうぞ」

 

 俺はかしこまって片ひざを折り、森や平原で手に入れた黄金に輝くダンゴムシを恭しく彼女に手渡そうとしたが、彼女は受け取らず、それどころかすごく嫌そうに後ずさった。

 

「いや、そんなのいらないんだけど」

 

 何故かドン引きしたような顔をするアゲハさん(仮)。

 あれ、前作だとどんな虫でもすごく喜んでくれたのに。虫に頬ずりする勢いだったのに。

 渡す虫が悪かったんだろうか。ダブってしまったとか。それともこんなあからさまにバグった空間だからだろうか。

 

「では、これを」

 

 ダンゴムシで駄目なら蝶々でどうだ。俺はカバンから空き瓶に入った黄金の蝶々を取り出した。

 

 今度は彼女の気を引けたようで、彼女は興味深そうに寄ってきた。やはり彼女はアゲハさん(確信)。

 

 ふっふっふ、この蝶は虫網が無かったから頑張って空き瓶で捕まえたのだ。高いところをふわふわ飛び回るのと、足元から食人花(おそらく今作のデクババ)が奇襲してくるのもあいまって捕まえるのに半日はかかったぜ。

 何故かデクババに襲われない吸血鬼みたいな恰好をした男の子の助けがなかったらこの倍はかかったに違いない。この苦労が今報われる。さあ、光輝く黄金の蝶よ、我が大いなる財布となれい!

 

「ふーん、綺麗っちゃ綺麗だけどいらないかな」

 

 なん、だと。

 馬鹿な、俺の、俺の貴重な休日が無駄だった、だと。

 また、小さな財布のせいで出てきたルピーや高額な装備たちを泣く泣く諦める生活が始まる、のか?

 

 いや、まだだ。まだ終わらんよ……!

 

「それより、勇者くん僕は君に聞きたいことがあって」

「なら、この黄金のカブトムシ(オス)を」

「いや、いらないんだけd」

「黄金のカマキリ」

「なんか勘違いしてるみたいだけど、僕そういう虫とかは」

「黄金のカミキリムシ」

「いや、だから」

「黄金のカナブン」

「あの、僕は」

「黄金のカメムシ」

「だから、僕は」

「黄金のホワイトアカガエル」

「いや、だから、僕こういう虫は好みじゃ」

「ところでこの『黄金のホワイトアカガエル』っていったい何色なんですかね」

「僕が知るかーー!」

 

 

 




 今日の勇者伝統の技、押し売り。

 更新遅れたのはホントごめんなさい。きっとこれも原作がどっちも伸び伸びになっているのが悪いんや! 原作でまだ明かされていなかった秘密が…されるかと思うと設定崩れるのが怖くて書けないやんけ!
 嘘ですただ仕事忙しかったから休日寝てばっかだっただけです。許してください、なんでもry

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