緑の勇者じゃない! それはリンク違いだよ!   作:よもぎだんご

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更新遅れてすみません。
パソコンの調子が悪いのかパソコンがまるで立ち上がらなかったのです。どうすればいいんだ。半年前に買ったばかりなのに。

今回はトアル村のお話。


リンクの格好って着る人を選ぶよね

「あなたは、だあれ?」

「……リンク……君は……」

「わたし? 私はリナリー・リーっていうの」

 

 ゲーム生活2日目、旅に出て10日目にしてやっとトアル村に着いた俺が会ったのは1人の少女だった。緑がかった艶のある黒髪をツインテールにしている4、5歳くらいの美少女で、木の陰から顔だけ出してこっちを見ている。

 

 これもなんかのイベントかな。

 それともRPGゲーム定番の「ここはマッサラタウンです」とか「今は2時30分ですッ」みたいな時報キャラか。いや、名前言っているから違うか。

 

 やっぱりゼル伝の女の子は皆かわいいなあ、と思いながら前作のリンクの家に向かって歩き出した途端に足がふらつき、膝をついてしまった。

 

「だ、大丈夫!?」

 

 リナリーが慌てて駆け寄って来る。

 

「だ……だいじょ、ぶ。ちょっと……疲れただけ……」

 

 凄く、眠い。睡魔のお姉さんがおいでおいでしている。

 

 これは耐えられそうにないな、と頭のどこかで冷静に考える。

 俺の思考とは関係なく体が前のめりに倒れていくのを感じた。

 

「あわわわ、ここで寝たら駄目だよ。死んじゃうよ。ねえ、起きて、起きてってば……」

 

 雪山じゃないんだから、死なないよ。

 だから、そんな泣きそうな顔するな。

 

 これ、俺が死んだらやっぱり泣いちゃうかな。泣いちゃうかもしれん。

 泣き顔は見たくないし、またハイラル平原を後ろ向きにダッシュするのも嫌だし、セーブしとこう。

 

 死んだらセーブした所から復活するはずだ。このゲームがデスゲームでもない限り。

 

 

 

 目が覚めた俺がまず感じたのはもの凄い空腹だった。今なら牛だろうがヤギだろうが一頭丸ごと食べられそうだぜ。

 

 だが、その前に俺には使命を果たす必要があった。俺はこの旅が始まる前から決めていたんだ。

 

「知らない天丼だ……」

 

 やった! 言えた! 第三部、完!

 

 このセリフはさりげなく間違うのがコツだ。一応言っとくが誤字では無い。誤字なんてなかった。

 

「目が覚めたかい」

 

 悦に入っていた俺に聞こえたのは若い男の声だった。

 顔を動かしてみると、そこには中国っぽい民族衣装を着た緑がかった黒髪のイケメンが扉にもたれて立っていた。

 ここはハイラルなのであくまでも中国っぽいだけだが。

 

「リナリーに君が倒れているって聞かされた時は驚いたよ」

 

 イケメンは微笑みながら垂れた前髪をかき上げた。

 

 それにしても俺このゲームに来て、本格的なイケメンに初めて出会った気がする。

 

 高身長、美形、声も仕草もイケメン。腰まで届く長い髪の毛なんか無駄につやつやしちゃってる。当たり前だが現実の俺とは比べ物にならないレベルだ。

 

 美しさは罪ってか。イケメン、爆発しろ!

 

 ゼル伝にはなあ、犯罪者は爆死するっていう由緒正しき伝統があるんだよぉ。色男さんよ。

 

 夢見る島の一撃必殺店主ビーム。

 ムジュラの仮面の泥棒サコンさん。

 

 犯罪者はみーんな跡形も無く爆砕されてきたんだ。

 あんたもそれに倣ってみるかい、ええ?

 

「あ、目が覚めたのね、リンク君」

 

 一人でヒートアップしていた俺の前に今度はスタイルの良い金髪の美人さんが現れた。

 

「……どうして俺の名を」

「リナリーから教えて貰ったの。あなたは村に来てすぐ倒れちゃったみたいだけど、覚えてる?」

「ええ、覚えています」

 

 そういえば俺、彼女に名乗ってたね。

 

 金髪美女はリナリーを呼んでくるねと言って、部屋から出ていってしまった。

 

「えっとあなたたちは……」

「おっと自己紹介がまだだったね。初めまして、リンク君。僕はリナリーの父親のロック・リーって言うんだ」

 

 え、その名前……大丈夫なん? 

 こう著作権的とか商標権的に……また開発スタッフの悪ふざけか。

 

 その名前はせっかくの美形が台無しになると思うの。

 

 か、勘違いしないでよね! 別にこの彼は全身緑タイツも着てないし、ゲジマユでも、おかっぱでもないんだからね!

 

 全身緑タイツ枠は自称妖精中年のためにとってある、なんてことはないんだからね!

 

 俺が精神的に衝撃を受けて混乱していると、聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「リンク!」

 

 扉の前にはお父さんと同じ中国っぽい服を着たリナリーが立っていた。

 

「リナリー……」

「もういきなり倒れるなんて、心配したんだからね!」

「ごめん。それと、助けてくれてありがとう」

 

 彼女に助けてもらわなければ、森で一晩過ごすことになっていただろう。眠っている間に魔物に喰われてゲームオーバーになっていたかもしれない。礼を言わねば。

 

「だめ! 反省するまで許しません!」

「えっと、ロック・リーさん……」

「どうだい、うちのリナリーはかわいいだろう」

 

 ぷんすか怒っているリナリーに困った俺は助けを求めたが、ロック・リーさんはゆるゆるに緩んだ笑顔でリナリーを見ているだけだった。

 

 三日間放置したラーメンよりも緩みきった笑顔はイケメンを完膚なきまでに台無しにしていた。

 

「ああ~、リナリーはかわいいなあ」

 

 ……とりあえずこの人は爆発の必要が無い気がしてきた。

 

 というか仮にも命の恩人なんだから爆破しちゃダメだろ。

 そもそも俺爆弾も爆弾袋も持ってないし。

 

「はいはい、リナリー、そのくらいにしておいてあげなさい。もうお昼ご飯にしましょう。リンク君も食べれそうなら一緒にどう?」

「いただきます」

 

 リンクさんのお腹はぺこぺこですよ。

 

 ロック・リー、食糧の貯蔵は十分か?

 

 

 

「さーて、そろそろどうしてあんなところに倒れていたのか聞かせてもらおうかな」

 

 どこか中華料理っぽい食事を堪能してお腹がいっぱいになった俺にロックさんが改めて向かいなおった。

 

 食事中はがつがつ食べる俺やその姿に目を丸くするリナリーを見てニコニコしていた彼だったが、食べ終わったところで急にシリアスボイスになった。

 

「そうですね……なにから話したものか」

 

 俺のマスターソード探しの旅はゲームだから納得できるけど、そうじゃなかったら一笑に付される類のお話だ。

 

「じゃあまずは君がどこから来たのか、教えてくれないかな」

 

 ロック・リーさんに促される。

 

「俺はここから西にあるロンロン牧場から来ました」

「ロンロン牧場から? それはまた随分遠い所から来たね。ご両親か一緒に来た人はどこにいるか見当はつくかい」

「いません。俺は一人でここに来ました」

「一人で!? 平原には魔物がうようよいるんだぞ! 君のお父さんやお母さんはそれを許したのか!?」

 

 憤慨するリーさん。両親ってまた面倒なところを。

 この世界のリンクだって人の子なのでお父さんとお母さんがいる、またはいたんだろうが、生憎おれは見た事も聞いた事も無い。

 

 まあ歴代リンクはみんなそんな感じなので今まで気にしてなかったが……どう説明しよう。

 ええい、正直に言ってしまえ。

 

「……俺は父親と母親の顔を知りません。会ったことも聞いた事もないです」

「! ……そうか、すまない。じゃあ一緒に来た人はいないのかい。ここと向こうは半年に一回くらい行商人が通っていくが、彼らと一緒に来たのか」

「いえ、一人で走ってきました」

 

 無論、剣を振りながら後ろ向きにね!

 

「走ってきた!?」

 

 再度驚愕するロック・リーさん。この人の反応って見ていて面白いんだが、実はこの人弄られキャラなんじゃないか。

 

「……信じられないがとりあえずそれは置いておこう。君はロンロン牧場から来たと行ったね。そこにはマダム・メロンがいるはずだ。彼女は君を止めなかったのかい。君のその服は彼女が作ったものだろう」

 

 名前に反して鋭い洞察力を見せる彼に今度は俺が驚いた。

 

「お詳しいんですね」

「僕の妻、そう洗い物に行くふりをしてさっきからリナリーと一緒に扉の隙間から覗いているアリア・リーはハイリア人の血を引いているんだ。彼女からハイリア人の風習は聞いているし、今大学に行っている息子のコムイにも同じような物を作ってあげてたからね」

 

 正直絶望的に似合ってなかったけど、と笑うロックさん。

 

 そうかハイリア人が身内にいるのか。じゃあ元になった時の勇者伝説も知っているかな。知っているならマスターソードを探しに来た事を話しても大丈夫だろう。

 

「じゃあこの服の由来はご存知ですか」

「もちろん。これでも大学では民俗学と歴史学を専攻していたんだ。

『ハイラルが、世界が、闇に覆われし時、時を超えて現れる伝説の勇者。新緑の風をその身に纏い、右手には何者も通さぬ女神ハイリアの盾、左手には黄金に輝ける聖三角形、白銀に輝ける退魔の剣マスターソードを持て、悪を討ち祓う若者。人々に時の勇者と称えられし、かの者の名は……』」

 

「「リンク」」

 

 俺とロックさんの声が重なる。

 

 思わず俺も呟いちまったぜ。ちょっと恥ずかしいが、ロックさん凄く語り方が上手でつい引き込まれちまったんだ。

 

「その通りだ。奇しくも君と同じ名前だが、まあイギリス人の男の子にアーサーの名前をつけるのと一緒だろう。そんなことよりマダム・メロンだ。彼女なら絶対に子供を一人で旅に出したりしない」

 

 うーん、メロンさんが意識不明ってことは話さない方が良いよな。ロックさん良い人だと思うけど、情報はどこから漏れるか分からないし。

 

 恩人に嘘をつくのは非常に心苦しいが、クリミアさんやマロンちゃんの生活が懸かっているんだ。ここはごまかそう。

 

「牧場の人たちは渋々とですが俺が旅に出るのを許してくれましたよ。何故かと言うと……」

 

 俺は謎の宗教組織黒の教団とその幹部と思われる謎のショタコンマッドサイエンティストルベリエについて話した。

 

 彼らは理由は分からないが俺に目をつけ、俺の身柄引き渡しを要求してきたのだ。彼らは何やら強い政治的影響力を持っているらしく、慕われているとはいえ1地主でしかないメロンさんは仕方なく俺を旅に出したと。

 

 俺の話を聞いたロックさんは眉根を片手で悩ましげに揉んだ。

 

「……噂には聞いていたが黒の教団か。聞いていた以上に怪しい組織だな。だが旅に出た事情は分かったが、何故この村に? ここは美味しいヤギの乳とチーズ、あとは自然しかないが……」

「……ロックさん。俺は夢で精霊様に啓示を受けました。邪悪な者が目覚めようとしている。東に行き運命の剣を求めよ、と。そしてメロンさんはこう言いました。トアル村のリー一族を頼れ、と」

「…………」

 

 ロックさんは沈黙し、扉の向こうからハッと息をのむ声がした。

 

 ロックさんの奥さんで、リナリーの母。彼女の名前はアリア。

 前作トワイライトプリンセスでこの村に住んでいたリンクのヒロインにして幼馴染の名前はイリア。

 そして時のオカリナでリンクの幼馴染であり、ヒロインであり、森の賢者でもあったサリア。

 

 彼女達の名前が非常に似ていること、俺のゲーマーとしての勘がこれは重要なことだと言っている。

 

「アリアさん。かつて時の勇者と共にハイラルを闇から救った森の賢者サリア様に名前がそっくりですね」

「……ただの偶然だ。君の名前がリンクなのと一緒でな」

 

 顔からは何の感情も読み取れない。だがそれは何かあると言っているようなものだ。

 往生際が悪いぜ、ロック・リーさんよ。さっさとゲロっちまえよ。

 

「そうですか。なら民俗学と歴史学に詳しいあなたがこの村に住んでいる理由はなぜでしょう」

「別に。ヤギの美味しいチーズが好きなだけさ」

 

 うーむ、しぶとい。中々抵抗を止めない。ならばこれでどうだ。秘技・原作知識の舞。

 

 

「禁断の森。森の聖域。朽ちた時の神殿」

 

 ロック・リーさんの肩が僅かにピクッと反応した。

 

 ビンゴだ。

 

 この人はマスターソードについて何か知っている。

 

「恐らくアリアさんは勇者リンクか賢者サリアの子孫。彼女の使命はマスターソードの保護と剣に退魔の力を宿す祈りをささげる事。そしてあなたは研究の末にこの村を突き止め、ここにやってきて、彼女と恋に落ち、ここで彼女と彼女の秘密を守りながら暮らすことを決めた」

 

 風のタクトやトワイライトプリンセス、時のオカリナの知識を総動員して妄想し、当てずっぽうでありそうなストーリーを適当に述べてみる。どれか一つでも事実に掠れば、そこから話を持っていける。そう思っていたのだが……

 

「……全てお見通しってことか」

 

 ロックさんが観念したかのように苦笑してしまった。

 

 手をチョイチョイと縦に振って、覗いていたアリアさんとリナリーを呼ぶ。

 アリアさんも苦笑いを浮かべ、リナリーは難しい話について行けなかったのかきょとんとした表情で部屋に入ってきた。

 

 あれ?

 

「その通りだよ、リンク君。まるで僕らの過去を見て来たように分かるんだね。それも精霊様のお告げにあったのか。それとも時の勇者の実力ってやつなのかな」

 

 参ったよと言うロックさん。両手も上に揚げて降参のポーズだ。

 

 あれれ?

 

「君の言う通りよ。私の一族は代々、時の勇者の使ったマスターソードを守り続けてきた。国が滅び、興り、場所を変えて、私達の事を忘れ去っても、次代の勇者が来る日を待ち続けてきた。緑の衣を纏った時の勇者がいつか現れる、そう信じて」

 

 アリアさんはそう言って豊かな金髪を持ち上げると、そこには尖がった耳。ハイリア人の血を引く証である。

 

「私とリナリー、この村の人たち、あと西に行ったロンロン牧場の人たちは時の勇者の末裔なの。あとはハイラル王国の末裔とゾーラの里の人達の中にも勇者や賢者の血を引くものがいるかもね。そして私とリナリーは森の賢者の血も引いている」

 

 リナリーはいきなり時の勇者や賢者の末裔がどうのとか言われて、混乱しているみたいだ。お父さんとお母さんの顔を見比べておろおろしている。かわいい。

 

 漫画にするならリナリーの心情に“訳が分からないよ”と書いてあるような気がするな。

 

 安心して欲しい。さも全て予想通りだみたいに頷く俺もちょっとついていけてない。

 

「我が家はハイリア人の中ではそれなりに有名でね。マスターソードの事は限られた者しか知らないが、時の勇者が暮らしていたツリーハウスは我々が管理している事は皆に知られている」

 

 だがそんなの関係ねえ、とばかりにロックさんの話は進む。進むったら進む。

 

「だからたまに緑の服を着た人がこの村にはやってくる。聖地巡礼ってやつに近いかな。僕らは最初君もそうかと思ったんだけど、それは違ったようだ」

 

 ロックさんとアリアさんは俺の全てを見通すような、まさしく賢者の眼をしていた。

 

「君には危険な冒険に挑む勇気も、それを乗り越える力も、私達の全てを見通した知恵もある」

 

 ごめんなさい。

 安全を確保した上で借り物の力と原作知識を利用している仮面勇者でごめんなさい。もっと精進して歴代勇者に相応しい漢を目指すから、許して欲しい。

 

「故に君にはマスターソードの試練に挑む資格がある」

「試練……」

 

 ロックさんの言葉に思い出す。そういえば前作ではスタルキッド探しや、石像パズルとか色々やったなぁ。

 

「試練といってもマスターソードを手に取って台座から引き抜くだけよ。資格無き者には決して抜くことが出来ず、邪悪な心を持つ者は触る事も出来ない。他にも2,3個障害があるけど、子供だましみたいなものよ。牧場からここまで来たあなたなら造作も無いはず」

 

 良かった。大した試練は無いらしい。安心して行けるぜ。

 ゲーム的にはたぶん剣は抜けるはずだしな。

 

 いやあ、今回はマスターソードが手に入るのが早いなあ。

 せっかく作ってもらった金剛の剣がもったいないぜ。2刀流って出来ないかな。

 

 

 ……まさか聖地に封印されるとかないよね。

 気づいたら10年後、かつての平和な世界が今では………とか俺嫌だよ。

 

 ま、まあ恐れていても仕方がない。

 

 俺のマスターソードを手に入れるため、禁断の森に、その奥にある時の神殿に向かうのだった。

 




リナリーの両親は原作の描写が無いので、完全にオリキャラ。

ロック・リー リナリーとコムイの父。原作で理由も無くぶっ殺された人。
見た目や言動はほぼ年取ったコムイさん。ただコムイは理系だが、この人は文系。故にメカを作ったりは出来ません。ただ、騒動を起こさないかというと……。ちなみにコムイとリナリーの髪と耳は父親遺伝なので、耳は尖っていません。

アリア・リー 原作でリナリーを悲劇のヒロインとするためにぶっ殺された人。
今作ではサリアやイリアの血を引き、勇者の血まで引いているサラブレッド。見た目は大人になったイリア。まあ、スレンダーなエルフ耳の金髪美女と思ってくれればいいです。

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