中昼の青空には雲を割って
遥か雲の下、大草原に巨大な点描に似た模様を描く者達がいる。
野牛の群れが草原を横切っているのだ。
そんな草食獣を横目に原野を突き進む一団があった。
大きな荷物と槍を背負う10人が列を作り、輝く星を背にただもくもくと歩む。
彼らの足元には二重の影がおちている。
輝く星と太陽が影を二つに分けているためである。
そう、太陽が二つあるこの地は地球ではない。異世界なのだ——。
彼らは丘の尾根に沿って進む。
丘陵の背は岩が露出しがちだ。歩く場所は丘の背骨から少し離れた場所で反対側の景色がギリギリ見えない位置を歩む。たまに向こう側を確認するのは警戒のためだ。
戦う場所として有利なので周囲より突出した個所から少しずれた位置を維持しつつ進んでいく。
——そう、彼らはこれから戦いに
「止まれ……」
最前列の耳の長い男が、槍を地面に置きつつ屈んで岩陰に寄っていく。
「ターゲットか」
「違う。ゴブリンだ」
すぐ後ろについていた耳の長い男が問いかけた。
ゴブリンはいくらでも湧くため、口減らしの特攻戦術をとりがちになる。彼らが出没する地域の討伐では横やりが入りやすく勝手が異なってくる。
「7匹だな」
「じゃあ、サクッとやっちゃいましょう」
「こっちに向かってるみたいだ」
「引き付けてから、丘の上から槍を投げればいいんじゃないか」
「そうしよう。じゃぁ、ゴブリンに合わせて丘の上を移動しよう」
「待った。誰か
同じく長耳の男達の視線が、最後尾のフードを目深にかぶった男に集中する。いや、男というより少年だろうか。上り坂であるにも関わらず前を行く男より頭の位置が高いせいでもあるだろう。しかし彼の顔の幼さから一目瞭然であった。
「分かったよ」
少年は槍を持っていなかった。替わりに弓を背負って丘をフットワークも軽く降りてゆく。
当然ゴブリンたちは、丘から降り下ってくる人間に気付き、一人と見るや
ゴブリン達の武器は粗末だ。石斧に石槍。石をそのまま手に持っているものまでいる。
基本的に彼らとの
少年は丘の背から数歩下がった位置で留まると弓矢を番えた。
そしてゴブリンの先頭が30m位に十分近づくまで待ち。
放った——
カン
「ギャ」
見事命中。其の場に
続いて
カン
「ギャギャ!」
20m
カン
「グゲ」
15m
カン
「ウギャ!」
5m
カン
「グ」
サシュ
居合抜き——のような斬撃を浴びせる。弓を捨てながら目前に迫るゴブリンを斬り伏せると、最後の一匹をほぼ相打ちのような形で切り裂いた。
しかし、少年にけがは見られなかった。身に着けていた皮鎧で十分受け流せる攻撃と見切り、少し体をずらしただけで石斧を鎧で済ませたのである。
——その後、息のあるゴブリンに淡々と止めを刺していく。
だが最後の一匹は少年が近づくと、起き上がって手に持った槍を突き出してきた。
それを軽々と少し体を
——はらりとフードから現れた顔は黒目黒髪。
頬にかかった血を
それは短かった。
その様子を丘の上の9人は——口を開けていることも忘れ呆気にとられて立ち尽くしていたのであった。
日が暮れつつある時間。
赤く小高い丘の枝には旗が
その布には墨で丸が1つ描かれている。
陽光がある限り方向を見失うことは無い。
はためく四角形の中にある一つ
——理想郷を目指す。
その日は最悪だった。学校の帰りに地元の不良グループから見つからないように道を選んだつもりだったが待ち伏せされていたのだ。
よりにもよって地元の半グレまで乗り出してくるとは思わなかった——。
俺は中畝祐一郎、15才の高校1年だ。留年している。これもすべて奴らのせいだ。登校日数が足らなかったのだ。
俺は所謂(いわゆる)ボッチだ。留年していることもあるだろうが、群れることを嫌い力こそ正義と本気で信じてる。だってそうだろ。
告発してつるし上げられる奴もいるだろうがそんなものは氷山の一角に過ぎず、多くの無軌道に振る舞う悪意に満ちた人間は野放しだ。そんな中にあって偽善めいた言いざまなど到底信じられない。
賢(さか)しらぶって頭のいい人間は争いを避ける。なとど言っても、自分勝手で利己的に振る舞ってる、悪意に満ちた人間が取り繕ってるだけだろう。そんな奴らには反吐がでる!
力こそ正義と本気で信じてるが、それも唾棄すべき物とも思ってる。周囲は力の理論を否応なく押し付けてくるから、そういうものだと思ってこちらも殴り返さざるを得ないからだ!
——俺の日常。学校帰りには、学校を特定されないよう、慎重(しんちょう)を期して普段着を用意して着替えて帰っていた、途中のトイレで髪形まで変えて伊達眼鏡も用意した。
というのも、ワゴンを乗り回しているから、きっと不良グループのメンバーの兄貴あたりだろうと思っていたら、少なくとも2台のワゴンで連携して包囲網を仕掛けて来ていたからだ。
見覚えのある目張りされたワゴン。ナンバーまでソラで言える! そこから3,4人のガラの悪い奴らが出てきて、もう一台に合流したのだ。俺はそれを勝手に入った人の家の庭から覗き見ていた。奴らは暫く
我が身可愛さで人の家への侵入などに
——俺は痛みを感じにくい体質だ。だからこそ、心を傷つけられると肉体以上に痛みを感じる。
心を傷つけられて死ぬよりも、肉体の死を選ぶ。死は救いなのだ——
奴らを撒(ま)くために仕方なく山を突っ切ることが多くなったのだが。山から公道に降りる際に、たまたま奴らが二人乗りするバイクが横切ったことがあった。その時バカ大声で話していた。
「ぜってえ、逃げられねぇ」
家は突き止められていないはずだ。何故なら深夜まで山に身を隠してやり過ごしていたからだ。
移動中工場で煙草をふかしていたオッサンの視線がやけに気になったことがあった。
——
俺は今、ひしひしと奴らの気配を感じていた。楽しんでいるんだ、狩りを! 俺を
奴らは、深夜まで俺を
回り込まれている可能性を考慮して山に入った。
その林道は始めてはいる場所で、足元は草むらでまったく見えなかった。スマホで灯すわけにもいかず、
そして、俺は草を踏み抜いた。
草むらに隠れた砂防ダムから足を踏み外したのだ——。
「……ハ、あれ?」
辺りは平原だった。やや遠くにボロ家が見える。朝だろうか? 靄(もや)が漂って視界が悪い。そして蒸し暑い。7月上旬だったので暑いのは当たり前なのだが。
まばらに5m程の低木があるが、まったく見おぼえない風景だった。
公園だろうか、さっきまで山の中にいたはず。
「いて!」
突然
ふと穴の一つから棒が突き出しているのに気が付いた。近づいて確認しようと立ち上がると
——暫く立っていると落ち着いて来る。
確認するために穴の
果たして1m程の穴の底には男が倒れていた。
男は2m弱の槍を抱えて真っ黒な血濡れで、何かのコスプレをしていた。そして、耳が長かった。
「は?」
意味が解らなかった。
——
コスプレ服の下に、何かが動いている……!
ゴク……
俺は男から槍を取り上げると、かるく腹をつついた。
服の下から巨大なネズミが驚いて出てきた! 服の下で
俺は驚くとともに距離を取った。しかし急に動くとふらつくので、意識してゆっくり動く。
辺りをゆっくりと見回した。男に集中していて周りへの警戒を忘れていたからだ。
……しかし、何者も発見できなかった。
——再び男を確認する。未だ音が聞こえる。おそらく一匹どころでは無かったのだろう。男は死体なのだ。そう認識すると、気持ち悪さを覚えた。この感覚は祖父の葬式以来だ。
とにかく、落ち着いて考えなくては……。
夜、森で足を踏み外して気を失ってから、気付くと開けた平原だった。そして目の前にコスプレした男の死体があった……。まったくわからん。
たしか、死体を発見したら110番だったか? 119番だろうか。とりあえず、110番だな。電話を掛けてみる……。
機内モード? ああ、そうだ。節電用に機内モードにしてたんだった。戻して再びかけなおす。圏外。まいったな……。
よし、地図アプリを起動してココがどこなのか…… いくら待っても出ない。灰色なままだ……。
俺は気分が悪くなるのを、深呼吸して必死に平静を保った。
そして途方に暮れて立ち尽くした——。
装備:スピア 2kg
装備:服 0.5kg
装備:上着 0.5kg
装備:ズボン 0.5kg
装備:インナー
装備:ボクサーブリーフ
装備:靴 0.5kg
装備:靴下
装備:伊達眼鏡 -
スマホ -
小銭 ¥361
タバコ 3本
¥100ライター
コンドーム
プラスチック袋{栄養剤 44錠}
ビニール袋{岩塩 -}
カギ