刹那の旅路   作:靴下9153

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 祐一郎 は異世界で亜人に奴隷として売られてしまう。
 
 同郷の奴隷達から、人間だけの理想郷の噂を聞かされるが、拳銃を突き付けるダークエルフの女に買われ、盾を渡される。
 
 そして因縁の青髪と思いがけず遭遇し感情のまま殴りつける。
 
 あと一歩のところで、何者かに吹っ飛ばされる祐一郎であった。



0012 決闘と地理と逃走

「******。***、*********?」

「***!」

「**、****?」

「****!」

「……*****」

 

 俺は地面から身を起こすと果たして、イーレシスンと青髪が口論の真っ最中であった。何を言っているのか全く分からない。

 

『閉じろ』ステータスウィンドウを閉じて、加速状態を解除する。

 

「*******! **!」

「*****」

 

 ヤバイ……。イーレシスンがレイピアを抜いて、青髪は槍の穂先を相手に向けている。

 

 まるで子供が始めた喧嘩に親が割って入って来たみたいな気恥ずかしさを感じる……。

 

 

 ――俺はどこかで未だに青髪や赤スカーフを憎みきれずにいるのだ。

 

 イーレシスンは言っていた。この世界では人間は先天的奴隷であると。

 

 彼女以外から話を聞いたわけではないから、いまいち信じ切れていなかった。

 

 確かに彼らは俺を売り払った。だが、何か理由があるのではないか。いまだそんな浮ついた考えを捨てきれずにいたのだ。

 

 そんな甘えた考えをどこかで自覚していて振り払うように、甘えた自分をがむしゃらに否定するようにいきり立って大声を上げた。売り払われるような弱い人間ではないんだと強弁せずにはいられなかった。

 

「待てよ! その青髪は俺がぶったおすんだから邪魔すんな……!」

 

 槍vsフェンシング。二人はそんな俺の声をまったく無視した。

 

 俺はなんだか自分の弱気を見透かされたようで尻すぼみになっていった。

 

 そんな俺を置き去りにして場面は展開していく――。

 

 

 青髪はついに槍をイーレシスンに向けて突き出した!

 

 あれは完全に殺す気だ! 躊躇など一切感じられなかった。こうして通常スピードで見ると以前とはすっかり見え方が変わってしまったように思う。力の入れかたや体重移動など意識しなかったからだ。

 

 

 

 彼女は槍を刺突剣のナックルガードで受け流し、胴の皮鎧の側面で流して接近し槍を持つ左手を突き刺す。気付いた時には青髪の(あご)を蹴っていて、怯んだ所に喉元へ切っ先を突きつけた。

 

 

 ほぼ一瞬。わずか3動作での決着だった。

 

 

 青髪が弱いのか、イーレシスンが強すぎるのか、俺には判断付かなかった。加速頼みで俺自体には戦闘技術が無いためだ。

 

 スポーツのルールを知らずに観戦しているようなものだろうか。

 

 定規の長さが0ではどんな長さも比べることすらできはしないように、二人の戦闘力を推し量る事が出来ないのだ。

 

 だが目指すべき到達点を見た気がした。俺には加速がある。加速で動作を目で追い、動きを分析して再現できるはずだ! 幸いにも見て覚えるのにうってつけのダークエルフ教師が目の前にいる!

 

 俺は直前の葛藤などどこ吹く風で目の前の、鮮やかな決着に興奮していた。

 

 

 

 ――喉へ切っ先を突き付けられ、後退って尻もちをついた青髪に声を掛けるものがいた。

 

「サージ! ****!」

 

 赤スカーフだ! 店の奥から喚いている。青髪の名前はサージというらしい。今更名前が判明したわけだ。

 

 赤スカーフは店の中で短槍を構えると、穂先や石突きが一部陳列物を雪崩のように崩れさせて狭い通路を覆ったが、お構いなく踏みつけてイーレシスンへ短槍を突き出してきた!

 

「**!」

 

 店の店主はいい迷惑だろう! 非難するような声色を感じるが誰もが一切聞こえていないかのように自分勝手に激しく動き回る。

 

 イーレシスンは赤スカーフの突きを後退しながら受け流すと、表の出入り口の影に入り追撃を牽制した。二人の間に壁が立ち塞がった形だ。

 

 赤スカーフが蹴り飛ばしたであろう兜が、ゆっくりと通りを転がりながら横切っていった。人の輪がそれらを目で追う。早くも野次馬が集まり始めていた。野次馬というより渋滞だろうが……。

 

 それから血生臭い喧嘩にビビったのか、子供が路地から飛び出して逃げてゆくのが目に入った。尋常でなく取り乱した様子だった。

 

 俺は次々目の前で巻起こるカオスな光景に、ジャッキ〇・チェンの映画を連想した。

 

 

 そんな状況にサージは喉元の刃がなくなると遅れて立ち上がろうとしていた。

 

 イーレシスンが赤スカーフと対峙するなら、俺はサージを抑えようと思い飛び出しかけるが思いとどまった。

 

 今前に出ると店の出入り口の正面に飛び出すこととなり、出てくるであろう赤スカーフに脇腹を晒すことになる。

 

 そうするとサージと赤スカーフの二人を相手取らなくてはならなくなるため、今の俺の実力では抑えられるか自信が無いのだ――。

 

 

「チ、面倒だな……」

 

 イーレシスンはそう言うと、腰の後ろから左手で2m程の杖を取り出した!

 

 明らかにそんなものを持っているようには見えなかったが、目の前で取り出して見せたのだ。

 

 よく見ると腰の後ろには角ばった皮のバッグがあり、そこから取り出したようだった。web小説でおなじみのマジックバッグってやつだ!

 

 

 イーレシスンはレイピアを鞘に納めると長い杖を構えた。

 

 彼女は魔法使いだったのだろうか!?

 

「(≪鏡霧(ミラーフォグ)≫)」

 

 杖をやっと立ち上がったサージへ向けると、彼の顔の周りを鏡のように周囲を写す形容しがたい模様の球体が覆った!

 

 魔法だ! 思えばこの世界では初めて魔法を見たことになる!

 

 ステータス画面では魔力のパラメータがあったことから、魔法の存在は漠然と認識していたが、いざ目の当たりにすると実感が湧いてくる。

 

 

 魔法の掛けられた当の本人は、己の身に起こった事態が把握できず、目の前に突如発生した見たこともない霧を手で掻いて払おうとしている。

 

 ゲーム風に言うならば、[混乱]だろうか。そう形容するにふさわしい有様を晒している。野次馬の受けも良好。彼を指さして明らかに興味を抱いている様子だ。

 

 赤スカーフもその異常な様に、サージの頭から霧を払おうと手を動かしている。

 

 そこへイーレシスンは杖でサージの腹を軽く突いた。

 

 

「(≪解除:鏡霧(ミラーフォグ)≫≪眩惑(ディジネス)≫)」

 

 

 靄は解除されたが、サージは掻いていた手をだらりと下げ、口を開けて空を仰いでその場で立ち尽くした。突如として彼はアホな子になってしまったのだ。

 

 赤スカーフにすれば、術者のイーレシスンを攻撃すればいいように思えるだろうが、一連の出来事は一瞬で起こったものだ。見たことのない現象に的確に判断できる人間は多くは無いだろう。

 

 

「はは」

「***……」

 

 そんな彼を見て野次馬たちは遠巻きにしている。赤スカーフもサージを正気付かせようとゆすっているが効果ないようだ。

 

「行くぞ」

「え、ああ。はい」

 

 えー、いいのかな。いや、俺がやらかしたことは解ってるんだけども……

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 あのあと宿へ戻ってきた俺たち。

 

 イーレシスンは荷物を整理し始めた。

 

「何処かに行くんですか?」

「お前のせいだ、バカが。お前が余計ないざこざを起こしたせいで、ここを離れることにしたんだ」

 

 彼女の立場なら俺に責任を負わせて済んだとおもうんだが……

 

「俺もココじゃ大概目立つ見た目だからな。南東には暫く近寄れないしな。直に厄介な追手がやってくるかもしれない。ほとぼりが冷めるまで身を隠すしかない」

「まじすか……」

「お前戦闘経験とかあるのか」

「無い……いや、無くもない……?」

「仮にも村の常駐兵をタイマンでノスとか、素人じゃ無いだろ。何者だお前」

「いやー。俺は……はは、何なんでしょうね?」

 

 正直俺にもわからないんだ。なんでステータスウィンドウを開けるのかとか。開くと加速するのかとか……

 

「まぁ、何にせよ拾い物だ。ダメもとで買った奴隷で、仕込むまでもっと時間がかかるかと思ったが、いきなり即戦力? 俺はツイてるぜ。いいかバカなことは考えるなよ」

「逃げるなって事ですか?」

「ただでさえ、動きずらいのに今回のゴタゴタで拍車がかかったわけだ。戦いが出来るみたいだが、町の外はヤバイ」

「……」

「何がヤバイかって。町から遠ざかるほど猛獣とありえない頻度で出くわすんだ。分かるか? 奴らがどうやって餌調達してんだって話」

「……? 話が見えない……どういう意味ですか?」

「生態系のピラミッドは分かるか? 最底辺の植物を草食獣が喰うだろ。だから植物の総量より草食獣の総量が多くならない。で、肉食獣の総量は草食獣の総量より多くならないわけだ」

「なるほど――」

「明らかに肉食獣の総量が多すぎなんだよ。分かるか? だからヤバイ。理由が分からないのがヤバイ。経験則が通用しないからだ。これから、そんな環境でサバイバルすんの。理解したか?」

「――ちょっと待ってくださいよ。なにもそんなところに飛び込まなくても……」

「ここは島国なの。概ね2つの勢力が南北に分かれて争ってる訳だ。この島はズーラ・ストラと呼ばれてる。地元の人間はそう呼ばれるのを嫌がるから言うなよ」

「なんで?」

「ストラは国って意味だ。ズーラは……わからん。とにかく南北に分かれて争ってるのに一つの国って括られると過激に反応してくる奴がいるんだよ。余計なトラブルを招きたくなかったら、事情通ぶって余計なことは言うなよ」

 

 つまり……

 

「南北に分かれてるとマズイのはなんで?」

「南北っつても、島を綺麗に分けてるわけじゃない。北部をアトーエ、南部をオタという。覚えられないから北部と南部でいいだろ。あと、ざっくり3つの領域がある」

 

「先ず南部オタの西で北部アトーエの山を挟んで南の領域をアエオラ。山はドラゴンたちの住処だ。たまに北部の人里を荒らしにやってくる。ドラゴンだからって興味持つなよ。ホントにやばいのはドラゴンじゃない。恐竜だ。あと最南端の半島には人が住んでるとか……まぁ、次だ」

 

「北部。オストレー・アーオラ。最北部をアーオラ。北部アトーエに近いオストレー。オストレーという国があったが滅びた。まぁ、別に覚えなくてもいい。(……すぐにオサラバするしな)」

 

「中部。イーノエスス。アトーエとオタの中間だ。この島で中部といえばこの地域のことを指す。峠に有名な要塞がある。色々由縁があるらしいが。まぁ、どうでもいいな」

 

 纏めるとサイコロの5の目の配置で北を上とすると、左上の目が俺たちのいる北部、アトーエ。 右下の目が南部のオタというわけだ。

 

「因みに。多分ここ南半球」

「なるほど」

 

 ふ〜ん。という感じだ。

 つまりどういうことだろうか、話の流れからしてサイコロの5の目の右上から左下の斜め線の何処か、ということだろうが……

 

「海に出る?」

「なんで、そっち行った!?」

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 俺たちはあの後そそくさと町を出た。

 

 だが、重い! 荷物が重いのだ! 軽く40kgは超えているだろう。リュックを木材の背負子に括り付けているため余計に重い。イーレシスンについてゆけずに明らかに歩くスピードは落ちていた。

 

 

 

 ――あれから1週間。

 

 

 

 ……慣れ……とは恐ろしいものだ。……コツは体を上下させないよう気を付けて歩くことだろうか。何故か電車でG〇を思い出した。

 

 このために俺を買ったのだ。荷物持ちという訳だ。おかげでモンスターが出ても俺の出番はない。

 

 そもそも盾しか与えられていないので、出来ることなどたかが知れているが……

 

 このままでは実戦経験が積めないため、思い切ってリュックを足元に落として駆けつけたことがあったが、その際陶器の瓶を割ってしまいメタクソ怒られて、飯抜きとなってしまった。翌日は震えがくるほど疲労してまたしても瓶を割り、悪循環へ陥った。

 

 

 基本的に村の間隔は狭いが、旅人の少ない国の辺境の輪郭をなぞるように進む俺たちには関係の無いことだった。

 

 それでも時折すれ違うことがあり、こちらを伺うような視線はおそらく、ダークエルフであるイーレシスンに向けられたものだろう。

 

 行き過ぎるエルフたちは、東南アジア系のような顔立ちで浅黒い者などの褐色の者が多く見られるようになった。

 

 今は昼過ぎ。太陽を左手に見ながら進んでいるので北へ向かっているのだろう。

 

 その間盾を扱う練習が中心だった。主に受け流しだ。攻撃に関しては一切教えなかった。

 

 言葉は教える気は無いようだ。逃げられる心配をしているのだろう。

 

 魔法も同様だ。この世界の魔法は、代償や発動体も持っていなくとも使えてしまう。それを奴隷に教えることを嫌っているのだ。

 

 だがタダでは転ばない。漫然と旅についてゆくだけではない。道中相部屋になることもある。そんな時は隣人の会話を盗み聞いては単語を覚えることに努めた。

 

 そこで気が付いたのは、言語が日本語と似た文法なのではないか、ということだ。程なく話せるようになるだろう――。

 

 それから体の中の魔力を意識してみた。漠然として手掛かりすら掴め兼ねたが、あるときのことだ。

 

 ぐっすり寝た夢現(ゆめうつつ)で体中に魔力に手を伸ばす感覚を得られた。

 そのまま手を伸ばすと背中とへそを貫くような、体全体を引き摺られるような引力を覚えて慌てて伸ばした手を引っ込めたのだ。

 あの感覚には覚えがある。昔陸上部にいたことがあるのだが、部活の走り込みで自分の限界が知りたくて体からくる苦しい感じを無視してみたことがある。ある点を過ぎると逆に気持ちよくなるのだ。

 そこで恐ろしくなり、極度にペースを緩めるとやがてその感覚は去っていった。あの時のまま突き抜けた感じだ。一体このまま突破してしまったら俺はどうなるのだろうか。

 

 まともな医療技術もないこの世界で、体を壊して取り返しのつかない障害を負うには覚悟が足りな過ぎなのだ。

 

 取り敢えず、魔法の件はこれ以上踏み込まないように慎重に運ぼうと心に決めた。

 

 

 ――道行では、時には地元の人間しか使わない獣道を通ったりもした。

 

 そんなとき道に難儀した事があった。雨季で川が増水し湿地になった一帯に行き当たってしまったのだ。

 

 背より高い丈の長いイネ科の植物を分け入るように(わだち)のような雨筋のある赤土の道は、流れの見えないほど緩やかな流れに没し道行は川面の彼方へと続いていた。

 

 見渡す限りの湿地となっているようだ。

 

 既に遮断されてしまって長いのだろう。上流から流れてきたのか倒木が水面で道を塞いでいる。

 

 濡れる覚悟でなら渡れそうだが……

 

「行かないんですか?」

「ち、仕方ないか」

 

 イーレシスンは顔を手で覆うと天を仰いで大きく息を吐いた。

 

「来いよ」

 

 道を逸れて下流側に向かって、獣道を掻き分け始めた。

 

 そして湿地の手前の開けた空間に出るとこう言った。

 

 

 

「脱げ」

 

 

 

 またかー!

 

手をおおう様な形の剣のツバに当たる部分

槍の尻の部分




所持品

 装備:服 1kg
 装備:ズボン 1kg
 装備:インナー 0.5kg
 装備:靴下
 装備:靴 0.5kg
 装備:円形盾 4kg
 装備:円形盾 3.5kg
 リュック20L 10kg{
  水袋 4L 0.5kg{
   水1.5kg
  }
  水袋 4L 0.5kg{
   水1kg
  }
  小麻袋 1L{
   フキの葉{
    肉 0.5kg
   }
  }
  小麻袋 1L{
   干団子0.8kg
  }
  陶器の瓶0.75L 1kg{
   穀物酒0.2kg
   穀物酒0.4kg
  }
  小型ナイフ0.5kg
  包帯0.7kg
  小袋 0.2L{
   木の小物入{
    裁縫道具
   }
  }
  小袋 0.2L{
   火口 0.05kg
   火打石 0.2kg
  }
  布{
   魔石 0.2kg
  }
  石 0.1kg
  骨 0.1kg
 }
 ロープ 10kg{
  枝の束 4kg
  薬草
 }
 木の枝 1kg
 
 Total:48.7kg
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