祐一郎 は異世界で亜人に奴隷として売られてしまう。
同郷の奴隷達から、人間だけの理想郷の噂を聞かされるが、拳銃を突き付けるダークエルフの女イーレシスンに買われ、盾を渡される。
そして因縁の青髪と赤スカーフの二人と思いがけず遭遇。イーレシスンの魔法でお互い大したけがもなく事なきを得るが、ほとぼりが冷めるまで国を離れることに。
0012〜0013の一週間の出来事を細かく描写します。地の文中心です。
俺たちはあの後、そそくさと町を出た。
だが、重い! 荷物は あたかもクソの如く重い! いや控えめに言って、クソそのものだ! クソ以外の何物でもない。
軽く40kgは超えているのだろう。リュックを木材の背負子に括り付けているため余計に重い。イーレシスンについてゆけずに明らかに歩くスピードは落ちていた。
「早いですってー」
「甘えてんじゃねぇよ」
ひでぇ! ダークエルフだけにブラックとか笑えん!
ていうか腹減って疲労感が半端ないんだが……。
「飯にしませんかー」
出発したのは朝だが太陽は既に真上へ差し掛かっている。第二の太陽なのだが地平線から登ったところだ。西に向かっているので目の前の空に浮かんでいる。決して眩しいとは感じない程度の光量だ。
「これでもかじってろ」
そういって干し肉を投げてよこした。
途中2つの村を横切っていった。
その間奇妙なことが起こった。また第二の太陽が地平線から顔を覗かせたのだ。
それも3度もだ!
3度めは野営の準備中だった。
ヘンな現象だが。逆に時間が細かくわかるということでもあるはずだ。
野営はハンモックを2m以上の木の高い位置に設置した。イーレシスンは手慣れた様子でロープを編んでいった。
場所は細い獣道のような頼りなげな道を逸れた森の中だ。
俺も見よう見まねでハンモックを作ってみるがうまくいかなかった。
「やっぱ、初見じゃムリか。戦闘以外使えねーな……求めてるとこと違うんだよな……」
「……」
そんなこと言われても……そりゃ、ソロで冒険者やるぐらいだから戦闘も凄いんだろうが。知らんがなって感じだ。おそらくは荷物持ちを期待したのだろうが。
「そんなんじゃ日が暮れちまう。教えてやっから」
俺は彼女に教えてもらいどうにか不格好なものを作ることが出来た。
偏りがあるため、気を付けないと落ちかねない為、何度も初めからやり直す。
そのうちに、すっかり夜の
腹が減って眠れず、ハンモックをぶら下げた木の枝にぶら下げた荷物から干し肉を慎重に出すとこっそり
今夜は月が出ており満月だった。
俺はハンモックの出来が今一で寝付けず月を眺めていたのだが、いつの間にか三日月に変化している。
そしてその横には第二の太陽がしれっと輝いて地上を照らしていた。
それは記憶にあるスーパームーンよりも明るく見えた。
——ガサ
唐突に、イーレシスンがハンモックから身を起こし、一点を見つめて動きを止める。
俺もその方向に目を向けるが、位置が悪いのか何も見えなかった。
彼女はハンモックから飛び降りる。
そして槍を構えた。
待ち受ける構えだ。
何者かが迫っている——。
……サ……
……サ……サ……
確かに音がする! 俺もハンモックから降りようとする。
しかし盾を忘れていた。
荷物袋の横に取りつけてある盾を二つ地面に落とし、俺も降りようとしたが失敗。
ハンモックの
バン!
腰を強打!
「……痛ぇ……!」
「バカ……」
ザス……ザス……ザス……
それを合図にしたのか、何者かは明らかにこちらへ向かってくる様子だ。
音からして二足歩行で一人。
人間……? 真夜中に迫る時間帯であるはずだ。
何故なら第二の太陽がすでに4回は登っているからだ。
おそらくだが1時間程度で一周しているので、仮に6時半日没として6.5+4.xで10.5〜11.5の間だろう——。
俺は悶絶しながらも盾を構えて、その何者かを待ち構えた。
——スケルトン——
薄暗い森の闇に、白い全身骨格が浮かび上がる!
俺はぞっとする感覚に襲われた。
なにせ真夜中森の中で寝ていると、骸骨が走って向かってくるのだ!
異常だ!
もはや怪談の類だ!
実はこの世界はあの世なのでは、などといった考えが一瞬よぎった。
ボロく分厚い服。
武器は持っていないようなのでどうにかなりそうではあるが……
カタカタカタ……
走って上下する度。歯を打ち鳴らし、笑うような音を立てる!
スケルトンはイーレシスンへ肉薄した!
ザ! ザ! ザ!
一歩一歩が大きく早い。
肉が無い分身軽なのだ。
ガ——カン——
それは流れるような動きだった。
肋骨の中央へ蹴りをお見舞いし、軽い体を後方へよろめかせる。
そして、救い上げるように長棒をシャレコウベへ打ち付けた。
最後に真上から脳天へ振り下ろした。
棒の長さは2m。
十分な角運動量と遠心力を乗せた一撃がスケルトンの頭蓋を砕く。
バキ——
というか、いつの間にかイーレシスンは槍から長棒に持ち替えていた。
俺が音の主に気を取られている間に持ち替えていたのだ。
——スケルトンはバラバラになりその場に崩れ落ちた。
「こんな人里近くに、珍しいな」
歩いて一時間位の距離に村があった。この程度だと人里近いという判断なのだろう。
「ゴブリン以外で気を付けるべきは盗賊ぐらいだからな。取り敢えず寝るか」
ゴブリンって、もしかして始めの村にいたあの緑の小人の事だろうか……。やっぱりゴブリンだったのか……。
「……腰が……」
まずい、腰が痛くてハンモックに登れない……。
木の根元で夜を明かすしかないだろう。
目を閉じていると腰を下ろしている枯れ葉が積もった地面から、虫が枯れ葉をまるでアスレチックのように降りたり登ったりと、結構大きい音を立てて終いには足によじ登ってくる始末。手で払うことを繰り返していると眠ることを諦める事にした。明日は辛そうだ……。
昼間は湿度も高く肌にまとわりつくかのような暑さだが、夜は意外と冷え込む。しかも木や地面は決して冷たい訳ではないが、じっと動かずにいると筋肉からの発熱が無いためか、体温を奪われて眠るどころでは無くなってしまうのも大きい。
明るい夜空の元で遠くの林床で、丸い白く光を反射する物が嫌でも目に入る。
スケルトンのしゃれこうべの破片だろう。バラバラになった後イーレシスンが遠くに投げたのを見ている。
なんとなくイーレシスンの方を見上げると、丸くてデカイ尻がハンモックで吊るされて、ネットに入った果物のようだ。
——ガサ
「!」
葉の音だ。大きさは……大きくはない。
スケルトンの出現で神経質になっているのだろうか。
パキ、パキ
小動物だろうか。猪ならもっと大きいような気がする。尤も猪にも遭遇したことは無いし、この世界に存在しない可能性すらある。
ガサ……
やがて音はしなくなった。
少しずつ遠ざかっていくのではなく急に途切れたので、その辺に潜んでこちらを伺っているのかもしれない。
石でも投げてやろうかとあたりを見回したが、枯れ葉しかなく諦めた。
一つため息を吐くと落ち葉の匂いを感じた。なんだか紅茶が恋しくなった。探せばどこかにあるだろうがこれまで見なかった。
そういえば槻山さんはどうしているだろうか……あまりいい想像は出来ない。この考えはやめよう……。
——彼女は相変わらず丸くてデカイ。
いかん、いかん。
——パキ
まただ。
枝を踏むような音がする。葉の音がした方向だ。謎の小動物がこっそり音を立てずに移動していて、誤って枝を踏んでしまったのだろう。
——パキ、パキ
今度はすこし右だ。10mはゆうに離れているはずだ。小動物だろうか、結構なスピードで移動しているようだ。
パキ
始めに小動物が音を立てた場所からだ。戻った? いや、複数いるのか……?
暫く音はしなかったが——
パキ
今度は左! 距離も音の大きさも同じくらい、俺たちを中心に回るように移動しているのか? こちらの様子を伺ってる?
そう思うと森の奥の暗がりに何者かの気配のようなものが感じられるようになってきた。
……モンスターか……?
俺は不安に駆られて二つの盾を高い位置の枝から取り外すべく、幹に背をこすらせながら立ち上がった。
——ガサ
やはり、こちらの動きに反応してる!
一体どんなモンスターなのか……! イーレシスンを起こすか? いや、本当にモンスターなのか……? ただの小動物だった場合、恥をかくだけだ。
周りに気を配りつつ慎重に盾を両手に取った。
ザァァァァァァァ……
風が出てきたのだろう。頭上の葉の房の影がゆっくりとしなるように揺れている。
パキパキパキパキパキ……
直後、俺の周りで一斉に枝の音が鳴りだした! 複数に囲まれていたのだ!
パキ、パキパキ、パキ……
その後も断続的に枝を踏む音が続き、俺は緊張感から便意を模様してきてしまった……
そういえば、この世界に来て一度も大きいほうを発射してない! 最悪のタイミングで、この期に及んで急に大波が襲い掛かって来たのだ!
パキ、パキ。
そんな俺を
カァ、カァ、カァ。
50m位か、
おこぼれに預かるつもりで嗅ぎつけてきたのだろうか。
——暫くは仕掛けてくることは無かった。だが……!
——頭上から枝が降って来たのだ!
『ステータスオープン!』
世界はスローモーションになったはずだが、既に動く物は無くなっていて加速状態であるか確認できなかった。
あまりにも突然だった。何の前触れも無く直径5cmはあろうかという太い枝が落ちてきたのだ! ほんの1m右だろう。重さにして20〜30kgはあるのではないか。勿論枝先には大量の葉っぱもついている。
何者かの攻撃なのか……!? さっきは接近するスケルトンに飛び起きたのに、イーレシスンはすっかり眠り込んでしまっている。
一体どういうことなのか? ただ気付いていないだけの可能性もある。知らせた方がいいのか……?
カァ——カァ——カァ——
俺は錯乱しつつあった。いよいよ便意も強くなって、それが余計に自分の余裕を奪う原因の一つとなっていた。間の長い耳障りな
イーレシスンに知らせて解決できればこの緊迫感から解放されるのだ。そんな誘惑が襲い来るのだが、今一歩モンスターの存在に確信が持てずにいた。
もしモンスターであればどれだけ気の長い相手なのか。
暫く盾を構えたまま動かずに周囲を警戒した。
しかし一向に敵が現れる気配はしなかった。
体感では10分だろうか。
『閉じろ』
俺はステータスウィンドウを閉じて加速状態から戻った——
やはり何も起こる気配は無い。
パキ
まるでこちらの孤軍奮闘ぶりを
そこである可能性に気付いた。ただ枝が自然に落ちているだけなのではないかと。
——そうであるなら、今までの不可解な相手の動きにも説明が付くのだ!
まず一匹だと仮定した場合の高い移動速度、もしくは複数がうろうろと枝を踏む音をむやみに響かせる、その不自然さだ。
逆に全て何者かが原因となる音であれば、枝が一切落ちていないことになる。見える限り地面には枝が無数に見られることから、それは無いと断定できるはずだ。
つまり、俺は今まで独り相撲を取っていた。ということだったのだ。
急にホットしたせいだろう。便意がヤヴァイ。そして何故かムラムラし始めた。多分一週間は確実にオナ禁してるはずだ。
上にぶら下がる丸い尻に『一発ヤラせてくれんかな』とか思いながら、尻を拭くための葉っぱを荷物から取り出した。無論俺の-SHIRI-だ。
どこでも生えているわけでは無いので、イーレシスンから渡されたものだ。俺は荷物を背負っているせいで、屈む度いちいち立ち止まらなくてはならないために、替わりに彼女が見つけては集めていたのだ。
パキ
もはや正体が判明したモンスターなどおそるるに足らず。俺は右手の岩陰に斜面を横切りながら向かった。
たっぷり100mは離れたろう。離れすぎか? 岩棚の下なので迷うことは無いだろう。ただここでモンスターや野生動物に襲われたら自分で撃退しなくてはならない。念のため二つとも盾を持って来た。
そう日本では狼は絶滅して気を付けるべきは熊と猪だが、この世界には狼か或いはそのポジションに収まる野生生物がいるはずだ。
俺にはステータスウィンドウでの加速があるため、おそらくは大丈夫だろうと思われるが、最大限の警戒は怠れない。
用を足すだけなのになんでここまで緊張しなければならないのかと、情けなくなってくるが仕方あるまい……。
まず小用だけ。
そして大の為に盾で穴を掘る。
——とりあえず穴に魚雷投下!
持って来たフキに似た葉っぱで拭いてゆく。
……多分、大丈夫と思いたい……。
「(つめた!)」
下を穿くとなんと湿っていたのだ! 別に拭いていない訳ではない。
そう、幹に寄りかかり直に落ち葉の上に座り込んで濡れてしまっていたのだ。
ズボンの気持ち悪さに辟易しながらも、成果物を確認する。
うん。これは異世界うんこだ。今夜は月も出ていて第二の太陽は北側の崖の向こうだ。はっきりとはいかないが、
五芒星でも描いたほうがいいだろうか。異世界だし。
——しないけど。
来た道を引き返すが、早速何処を通って来たかわからなくなってしまった。仕方ないので右手に岩棚を見て進んでゆく。
と、辺りを見回すと崖が見えなくなっていた! 森しか見えない! 森の奥の暗がりに目を凝らしても見つけることはできなかった。
今立っている場所は平らで、崖の近くのように傾斜は無かった。
見回して崖が無いということは、おそらく進行方向が左にずれたのだろう。90度右に回って進み始めた。
すると今度は下り坂になった! 明らかにおかしい! 崖に近づいているなら登りの傾斜になるはずだ!
本格的に迷いだしてしまったようだ!
俺は上りの傾斜を辿れば崖に行き着くはず、と考えて平らな場所で大きな円を描くように歩き始めた。もはや方向感覚は当てにならないと切り捨てたためだ。
この平らな場所はおそらく広くはないはずだ。
であるなら大きく動けば何時か登りになると考えて右に旋回し始めた。
暫く行くと、またしても下り始めた!
戻ってくだりの淵に沿って歩き適当なところで緩やかに右に回り始める。
するとどうだろうか、案外近くに上り坂を発見! 傾斜に対してまっすぐ登ってゆくと崖にぶち当たった。
おそらくキャンプのある傾斜の下を通り過ぎていってしまったのだろう。俺は崖を左手伝いに進んでいった。
どれくらい進んだろうか、もうとっくについてもいいはずなのにキャンプは見つからない。
……もしかして、俺を置き去りにしてキャンプを畳んでどこかに行ってしまったのか?
いや、それは無いだろう。この暗がりでキャンプを畳むには時間がかかるはずだ。1時間周期の第二の太陽から、いまだ1時間たっていないはずなのでその可能性は薄いだろう。
つまりキャンプを行き過ぎたのではなく、キャンプの手前で遠ざかるように崖伝いにやって来た、ということになる。
俺は疲労感を覚えつつ来た道を引き返し始めたのであった。
——果たしてキャンプはあっさりと見つかった。
キャンプに戻るとイーレシスンは右を下にして寝返りを打っていた……もしかして気付いてる?
安心感からか、どっと疲れが押し寄せてきた。そんなに長い距離を歩いていないはずだが精神的な疲れのせいだろう。
さっき逃げたとしても、森で迷う間抜が生き抜けるほど甘くはないのでは無いか、と思い直したのであった。
迷ってしまった恥ずかしい心持を隠す様に背を伸ばしてしれっと元の位置に座り込んだ。
「(つめた!)」
ズボンの湿り気とさらに、自分の体温で温まっていた木の幹や地面が、外気に晒され本来の温度に戻っていたのだ。
俺は周りの落ちている木を集めて座ることにした。
さっき右1mに落ちてきた枝を手繰り寄せると、葉が全て枯れていることに気づいた。乾いているので丁度良いだろう。
硬いが濡れるよりはマシだ。
彼女の表情はここからでは見えなかった——。
装備:服 1kg
装備:ズボン 1kg
装備:インナー 0.5kg
装備:靴下
装備:靴 0.5kg
装備:円形盾 4kg
装備:円形盾 3.5kg
リュック20L 10kg{
水袋 4L 0.5kg{
水4kg
}
水袋 4L 0.5kg{
水4kg
}
小麻袋 1L{
干し肉0.3kg
}
小麻袋 1L{
干団子0.6kg
}
陶器の瓶0.75L 1kg{
穀物酒1kg
}
小型ナイフ0.5kg
包帯1kg
小袋 0.2L{
木の小物入{
裁縫道具
}
}
小袋 0.2L{
火口 0.04kg
火打石 0.2kg
}
布
ロープ 10kg
}
Total:44.14kg