祐一郎 は異世界で亜人に奴隷として売られてしまう。
同郷の奴隷達から、人間だけの理想郷の噂を聞かされるが、拳銃を突き付けるダークエルフの女イーレシスンに買われ、盾を渡される。
そして因縁の青髪と赤スカーフの二人と思いがけず遭遇。イーレシスンの魔法でお互い大したけがもなく事なきを得るが、ほとぼりが冷めるまで国を離れることに。
0012〜0013の一週間の出来事を細かく描写します。地の文中心です。
異世界の生活? を実感し始める。酷い前文明的な道行に辟易する。
一日目:2つの村を横切る。第二の太陽は一時間周期。ハンモックとスケルトン。初めての野外で夜を明かす経験。初めてのノグソ。異世界の通過儀礼は厳しすぎた。
ムラムラが収まらず気もそぞろで夜の森に迷う。湿った地面に長いこと座り込んでいて、ケツが濡れた。
ステータスウィンドウでイーレシスンのステータスが覗けるようになった事に気づく。そして偽名である事が判明? ステータスウィンドウ上ではヤシンタが彼女を表す名称であると類推した。
二日目:眠れなかった。干し肉が傷み始めている。
沼で巨大ダンゴムシを目撃。眠らなかったせいかテンションがおかしくなる。
夕方から夜にかけて雨に見舞われる。芋の葉を傘代わりにやり過ごす。
干し団子が腐っていた。峠を超えて人の住む土地に辿り着く。
其の三
森の中を進んでいくイーレシスンと祐一郎の二人。
今までの獣道と違い草に覆われているが明らかに人の利用する道に出て、祐一郎は安心感めいたものを感じるのだった。
坂道が多かったが、やがて平らな地面が多くなってきた。……この時イーレシスンは嫌な予感を感じた。
祐一郎の目の前には村に近づくにつれて人工物が現れた。森の小径カーブの先に小屋を発見したのだ。
近づくにつれて屋根に草が生え、壁は縦に裂け完全に打ち捨てられて久しい廃屋である事が分かった。
パキ
そのとき――小屋の影に何者かの気配を感じた。
にわかに緊張するイーレシスンと祐一郎。
「キュ!」
果たして鹿であった。
「鹿!?」
祐一郎からすればこの世界に来て初めての鹿を目撃した訳だが、イーレシスンからすれば見慣れたもので、いちいちリアクションなと取ったりしない。
人が狩りの対象にすれば鹿も警戒し安易に人前に姿を現すことが少なくなる。だからこそイーレシスンはとある確信を得た。
「キー!」
「キー! キーキー!」
数匹の猿達だ。
なんといたのは鹿だけでは無かった。猿の群れが廃屋の影からこちらを伺っていたのだ。大きさは日本猿より大型で手足が長い。
「こりゃ、人は期待できないな……」
人の住処に近づけば追い払うのが正しい行動だろう。田畑が荒らし放題になってしまう。食い扶持であり年貢でもある作物への被害は生活に直に響く致命的な害となる。
しかし目の前に存在する以上、追い払われていないことを示している。追い払うべき人が居ない、ということだ。つまり――
「廃村か……滅びちまったのか。前来たときは人が居たのにな――」
そういってマジックバッグから槍を取り出すイーレシスン。言葉とは裏腹に残念そうな様子は無く緊張感を漂わせている。猿を散らすのにも使えるがそれ以外のもっと厄介な存在を示唆しているのかもしれない。
目の前の猿に呼応するかのように村の奥で彼らの群れが騒ぎ始めた。巨大な群れであったのだ。数で言えば100匹はいるのではないだろうか。
100匹が全て形振り構わず襲い掛かってくればイーレシスンでも覚悟が必要だろう。だが通常の野生の群れであれば数匹倒せば散ってゆくことだろう。
「キー!」
「キーキー!」
時がたつにつれて猿は集まって来た。地面には10匹以上が取り巻いているだろうか。木の上では更に大量の猿の姿が確認できた。すっかり無数の目に取り囲まれてしまっていた。
野生生物は逃げれば追うのが本能。逃走は悪手となる可能性がある。
イーレシスンは槍を構えると手近な猿へ向かって投擲した!
「キー!」
――ザス
槍は地面に刺さった。猿のすぐ横を通り過ぎて背後に突き刺さったのだ。野生の猿の反射神経は大したもので危なげなく横跳びに躱した。しかし――
ヒュン
「キーキーキー!」
――ザス
まるで抜刀術のようにマジックバッグから次の槍を投げつけた。猿が避けた先を狙ったのだ。
何処から取り出したのか分からない槍が猿の意表を突いたのだろう。驚いて猿はその場で二本足で立ち上がると一目散に森の奥へ逃げ出した。
恐怖が伝染していくかのように、算を乱すように次々と森へと消えていった。
――やがて沈黙が訪れた。
猿たちは村から去っていったのだ。
緊張感から解き放たれた祐一郎は、じりっとした湿気を含んだ午前の熱風に汗をぬぐった。
彼女は二本の槍を回収してそのまま村へ入っていった。
祐一郎も後を追う。
「……キー」
森の奥から時折猿の鳴き声が聞こえるのは何処からかこちらを伺っているせいかもしれない。
「――あれだけいると、圧がすごいっすね」
祐一郎は大量の猿を目の当たりにするのは初めてだったので若干面食らっていた。
「猿は群れで行動するからあんなもんだ。――まだ使えるものがあるかもしれないから、別れて探すぞ」
廃村に使えるものがあるか捜索する事となった。祐一郎は何かいいものがあればコッソリちょろまかすつもりだった。しかし結論を言えば見つけることはできなかった。彼女はどうせ何も出ないだろう、と高を括っていたのだ。
――祐一郎がとある廃屋を覗き込んだ時のことだ。
その木造の平屋に近づくにつれて緊張感のような気配を感じた。何故なのか、どんな感じか、と聞かれれば上手く言語化できないが確かに何者かの気配を感じたのだ。
周囲の気温が一段下がった気がした。
『ステータスオープン』
念のため加速状態で身構える。
「ブコヒー!」
猪だ! 廃屋の抜けた床に身を埋めてこちらを伺っていた猪は、祐一郎が覗き込むと唯一の出入り口となっている破れた引き戸に突進。彼の目の前を通り過ぎて茂みへ消えていった。
「ブヒー!」
まるで恨み言のような鳴き声が森の奥から響いてきて、祐一郎は案外猪にも感情豊かなのかもしれないな。などとバカなことを考えていた。
――中を一通り物色するがめぼしいものは見つからなかった。あっても黒ずんで使い物にならなかった。
そう、火事の痕跡が残っていたのだ。
火事の熱はとっくに去って、屋内は更に冷えた空気が漂っていた。そして獣臭さの中に澱んだような嫌な臭いが鼻を突いた。
「……なんだ……あれ?」
部屋の隅にある家具がなんとなく気になった。他は半開きになったり、黒ずんでいたり、取りずらかったりと半端な状態であったのだがそこだけ妙に綺麗で注意を引かれたのだ。
いわば奥行のある食器入れのような見た目で、七段の引き戸があった。上が一番高さが低く、下へ行くほど容積が大きくなっていくようであった。
違和感を感じた個所は一番下で、外から見た感じ子供なら入れそうな大きさではある。
どうでもいいことだが、微妙に横の板が歪んでいてなんとも気持ち悪い。それが気味の悪さを更に煽り立てていた。この時祐一郎は考え及ばなかったが、嫁入り道具として持ち込まれた家具で、この家では比較的上等な部類の代物だった。歪んでいるのは後天的な作用によるものだろう。
――祐一郎からしたらここは異世界だ。何が飛び出してきてもおかしくは無い。実はブービートラップで扉を開けた途端中に引きずり込まれて喰われてしまっても、それがこの世界では常識である可能性も否定できない。
"引きずり込まれて喰われる"というのは大袈裟かもしれないが、何が潜んでいてもおかしくは無いのだ。
馬鹿馬鹿しいと思うかもしれないが、祐一郎からすればシリアスだ。一度のうっかりで大怪我を負いかねない。
こんな人里離れた山の中で大怪我を負って身動き取れ無くなれば、そのまま死へ至る致命傷となる。
たとえイーレシスンに救出されてもただでは済まないだろう。不必要なリスクは本来取る必要な無い。
先ほど猪の気配を感じたように幸いにも何も感じない。
……祐一郎は意を決して床に空いた穴を慎重に避けながら棚へ近づいてゆく。足元が不安定で頼りない。この状態で襲われた場合を考えてなるべく気を付けつつ急いで、雨漏りで半ば腐った床の上を渡ってゆく。
身を引きつつも建付けの悪い引き戸をゆっくりと開けてゆく――。
ギィ……ギギ……
小さな頭蓋骨と目が合った――
冷えた空気の中、嫌な汗が噴き出す。
はたして家具の中で黒ずんだ木板の上に子供の白骨遺体が体を折り畳んだ状態でそこにあった。
おそらくは隠れたまま、煙に巻かれて力尽きたのだろう。
火を使う何者かの襲撃があったというのは想像に難くない――。
――そんな一幕を挟みつつも、結局役に立つものは何一つ見つけることはできなかった。
村の中央にあった井戸も腐り果てていて、落ち葉やら何者かの骨まで出てくる始末であった。
「人の指の骨だな……」
「うゲ」
実は村はただ朽ちているだけでは無かった。
ところどころ黒ずみ火事の痕跡が残っていた……
この村は何者かに襲撃されたのだ。
とはいえ襲われて既に数年たった後である。村の中央には若木が生え始め、木性の家屋の壁には蔦が覆って内部には雨漏りで劣化が酷い。
イーレシスンが最後に訪れたのは3年前のことだ。
――遺骸を土に埋めて墓石代わりの石を積んだ頃にはとうに昼を過ぎていた。
生ぬるい空気が汗ばんだ首筋を通り抜けていく。
森の奥からは圧倒的な容積を持った不吉な
暗雲が祐一郎達へ
ゴロゴロ……
遠くで雷が鳴り始めた。再びスコールがやってこようとしていた。
埋葬の必要があるのかと問われれば否であろう。この世界では死人がアンデッドになったりはしないのだが、墓場にアンデッドが"湧く"のもまた事実であって一概に否定しきれない面もある。
とはいえ長年放置されてスケルトンとなっていないのであれば、アンデッドに変化したりはしない、と考えるのは妥当だろう。
彼女の地元の習慣では死者を弔う際に胸の前で掌を重ね親指同士を合わせて項垂れる仕草が作法となっている。
悲しみに暮れ、溢れだす感情を堪えんとするとき。自然と肘を曲げ手を合わせて、力を相殺する仕草は胸の前へ上がることとなり。胸の前で手を何らかの形で組んだ姿勢で安定しがちになる。
まず感情のまま滅茶苦茶に腕を振り回す仕草は衆目の中ではしずらい。そこでへその前で手を組んで力を込めたとしよう。
ここで更に力を込めた場合、両の手が何の支えも無いまま宙ぶらりんになり納まりが悪い。そこで肘を伸ばしてみたらどうだろうか。股間の前へ両手が降りるだろう。これでは盛って堪えの効かない変質者のように見えてしまう。
そこで肘を伸ばしたまま、肩関節を回して堅の高さまで結んだ両手を上げてみる。これもおかしな仕草だ。
やはり肘を折り曲げるしかなさそうだ。
すると、へその前から顔の前の間に落ち着くことだろう。人に見られることを意識せざるを得ない儀式的意味合いを持たせるには、胸から上に持っていくことになる。
仏教では胸の前で掌を合わせお辞儀をする。キリスト教では胸の前で十字を切る、或いは祈りの姿勢はそういった一連の流れと重なる部分があることは否定できないはずだ。
では親指を合わせる仕草はどうだろうか。
少なくともイーレシスンの地元では魔法は一般的なものでは無かった。しかし魔法が存在することは自明の理であり共通認識でもあった。
そんな環境下で魔法をネタとした詐欺が横行したとして判断が付くだろうか。
彼女の地元では識字率は低かった。魔法も詐欺も信仰も漠然とした世界に混在し、頼れるものは自分の感覚やコミュニティに依存していた。頑固で複雑、融通の効かない杓子定規な慣習に従うのは詐欺に対する、という側面もあるのかもしれない。
その中には"印"という概念があった。実際魔法行使の際、詠唱の手順に印を含む慣習を持つものもあり、それは人目を引くものでもある。
祈りに簡易的な印を組み込む習慣は各地にあり、そこに彼らは様々な意味合いを見出すのだ。
イーレシスンの地元から伝わる祈りの仕草も、そういった流れを汲むものであり、魔除けや道標、交信といった意味合いを持っていると信じられている。源泉は不明でどういったルートでその習慣へ至ったか類推する以外に方法は無いが、文化として様々な広がりを見せている。
呪いの文化は奥が深い。
「深淵を覗き込むものは、また、深淵に覗かれている」深淵さんは自意識過剰なのだろう。エゴサーチも欠かさないに違いない。
例え魔法のように実際の現象が確認できようとも、怪しげな"呪い"が広く信じられているのは、魔法と呪いの区別がついていないからだ。
呪いは暗黙的な決まり事として否定しづらい。深く根付いた文化でもあるという強固な理由がある。
更には、漢方のような薬、鍼治療といった効果の判然としない技術と結びつく事で、その境界はさらに曖昧なものとなり、科学的な手法を阻む要因となっている。
――存在せずとも、現実世界から媒介変数のように様々なものを受け入れて、また現実世界へ波及していく。不確かであやふやな砂上の楼閣のように儚いカラッポの箱。危うい均衡の上に泰然と存在する実体のない物体。呪いとはそういった側面もあるのかもしれない。
土着の地域信仰として、彼女の祈りの仕草には上記のような由縁が。背景が存在するのだ。
――要約するなら。そういうものだから――だろう。
さて、埋葬を強行したのはイーレシスンの希求が強かったからだ。
彼女は子供の白骨死体に強く拘り有無を言わせなかった。例え多くの時間を取られてリスクを被ろうとも、その選択肢を覆すなどありえなかった。
彼女の本名はヤシンタ。イーレシスンは偽名だ。ではその偽名の由来は何処からやって来たのか。それは子供の埋葬行動と強く結びついている。
前話で巨大ダンゴムシを食すと仄めかしていたが、実は彼女の地元だけに伝わる食文化だ。
巨大ダンゴムシは体に大量に雑菌を含んでおり、そのまま食えば死すらありうる猛毒である。
やせた土地で重税に苦しむ彼らは、容易く捕まえられる巨大ダンゴムシを喰う手段を編み出した。
彼女はそんな土地の出身なのだ。
この世界のエルフの寿命は人と大差ない。しかしハイエルフと呼ばれる存在には寿命が無い。本来のエルフのイメージに近いだろう。
トハナ――彼女は幼いヤシンタにそう名乗った。
彼女のライフワークは才能ある"人間"を見つけては弟子にする事を繰り返していた。ダークエルフの幼い少女であるヤシンタに才能を見出したのだ。
ヤシンタは
やがて一人立ちし、二人目の子である男の子を産んだ。それがイーレシスンだ。数え年でもう12才になっている事だろう。父はとあるダークエルフの放浪部族に属していた。
数え年とは年の変わり目で年齢に+1してゆく数え方だ。産まれた直後に1才としてカウントを始める。
ヤシンタはこの島へきて5年になる。元々ダンジョンで1年稼いで戻るつもりだったが、船が難破し漂流の末辿りついたのだ。つまり数え年で5〜6才のとき父方に預けて行方不明ということになっている。
彼女の中では愛息子はつい最近まで
棚の中に小さく体を畳んで横たわっていた子供の白骨死体を目の当たりにして軽い動悸と眩暈を覚えた。もはや過ごした時間より長い間息子を目にしていない。こんな世界だ。死んで骸骨となっていてもおかしくは無いのだ。
これから金がかかるであろう子供のことを考えて、最後と思い極めてダンジョンへ赴いたのだ。いわば三角形の一辺を通るように、船を使ったのは単純に早かったからだ。
何度も潜った勝手知ったるダンジョンだけに心配はしていなかったのだが――まさかの難破であった。
そして長い長い別離がやって来た。決して望まぬ長い別れ――
早く帰らなければならない。はやる気持ちは時に先走り、逆に足を引っ張ることにもなった。
ダークエルフが主要民族である本国アルリカは隆盛華々しく衛星国家へ朝貢を要求するほどであった。
この島も本国から見れば衛星国家の一つにすぎず、官吏を常駐派遣していた。その人物と揉めたのだ。それが島の南部を占めるオタへ近寄れない大きな理由である。
本来であれば邦人保護は本国の威光の為にも疎かにはしないはずだが、彼女の来歴や彼からの要求を跳ねつけたこともあり、彼女はアルリカの人間ではないことになってしまっている。
船の利用が出来れば速やかに帰れるはずだが、彼女の能力の高さを便利に利用しようとしたため渡航許可を渋った。
要求とはいわばスパイだ。長期に取り組むことを臭わせていたため、腹の底から沸き起こる自己の渇望に基づき短気を起こした彼女は彼からの打診を蹴ったのだ。
装備:服 1kg
装備:ズボン 1kg
装備:インナー 0.5kg
装備:靴下
装備:靴 0.5kg
装備:円形盾 4kg
装備:円形盾 3.5kg
リュック20L 10kg{
水袋 4L 0.5kg{
水3kg
}
水袋 4L 0.5kg{
水3kg
}
小麻袋 1L{
干し肉0.3kg
}
小麻袋 1L{
干団子0.5kg
}
陶器の瓶0.75L 1kg{
穀物酒0.7kg
}
小型ナイフ0.5kg
包帯1kg
小袋 0.2L{
木の小物入{
裁縫道具
}
}
小袋 0.2L{
火口 0.04kg
火打石 0.2kg
}
布
ロープ 10kg
}
Total:41.74kg
時系列順設定集 0000〜0013+0012蛇足へ