刹那の旅路   作:靴下9153

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 読みずらかったので、さらに、修正しました。
 
 祐一郎 は異世界で亜人に奴隷として売られてしまう。
 
 同郷の奴隷達から、人間だけの理想郷の噂を聞かされるが、拳銃を突き付けるダークエルフの女イーレシスンに買われ、盾を渡される。
 
 そして因縁の青髪と赤スカーフの二人と思いがけず遭遇。イーレシスンの魔法でお互い大したけがもなく事なきを得るが、ほとぼりが冷めるまで国を離れることに。
 
 0012〜0013の一週間の出来事を細かく描写します。地の文中心です。
 
 異世界の生活? を実感し始める。酷い前文明的な道行に辟易する。
 
 一日目:2つの村を横切る。第二の太陽は一時間周期。ハンモックとスケルトン。初めての野外で夜を明かす経験。初めてのノグソ。異世界の通過儀礼は厳しすぎた。
 ムラムラが収まらず気もそぞろで夜の森に迷う。湿った地面に長いこと座り込んでいて、ケツが濡れた。
 ステータスウィンドウでイーレシスンのステータスが覗けるようになった事に気づく。そして偽名である事が判明? ステータスウィンドウ上ではヤシンタが彼女を表す名称であると類推した。
 
 二日目:眠れなかった。干し肉が傷み始めている。
 沼で巨大ダンゴムシを目撃。眠らなかったせいかテンションがおかしくなる。
 夕方から夜にかけて雨に見舞われる。芋の葉を傘代わりにやり過ごす。
 干し団子が腐っていた。峠を超えて人の住む土地に辿り着く。
 しかし、無人の廃村となっており、動物達の楽園と化していた。
 
 其の四



0012_3 追加分/一週間に起こった出来事 その四 幽霊と鬼ごっこしよう

 祐一郎とイーレシスンは、廃屋の戸棚で見つけた幼児の遺体を埋葬した。

 

 そして、その後。村で泊まることになった。

 

 

 埋葬に思いのほか時間がかかり、中途半端な時間帯となってしまったためだ。

 

 二人は比較的ましな家屋を選んで上がり込んだ。まぁ、地球では不法侵入になるが、見つかったとしても(とが)めだてする人間は、おそらくもう存在しないかこの付近には居ないだろう。

 

 

 この島は温暖で湿潤である為、湿気を逃すため床下に空間を設けた造りとなっている。床は板張りで植物で編んだマットが敷いてあった。靴を脱いで上がるのがこの地方の慣習なのだ。

 

 漂着後、イーレシスンは慣れずに辟易することなどは無かった。

 

 彼女の故郷である北の大陸は、赤道に近く大変に暑い。なので、靴を履きっぱなしでは、蒸れて歓迎されない疾病を足へと迎え入れてしまう。

 

 

 

「ようやく眠れる……」

 

 これまで、まともに眠ることが出来なかった祐一郎には、まさに天の助けであった。とはいえ、ふかふかの布団があればなおいいのだが……。

 

 イーレシスンは既に干し団子を食べ終えて、荷物を枕に横になっている。

 

 祐一郎はダメで元々で家の中を探すことにしたが、予想通り荒い植物の繊維を編んだ布くらいしか見つからなかった。

 

 彼は左側を下にして眠る習慣がある。取り敢えずそれを巻いて枕にすると、ちくちく耳と顔の側面に刺さって不快だった。仕方ないので仰向けになるが暫くすると、こんどは腹に違和感を感じ何時までも寝付けない。

 

 眠れずにモンモンとしていると、夜が深くなってきたのか、寒さを感じ荷物を体の横に寄せてみたが、もはや慰め程度にしかならず諦めモード。

 

 

 カサカサ――

 

 

 眠れないと音に敏感になる。時折、小動物と思しき物音が聞こえる事があった。夜行性の動物が活動を始めたのだろう。

 

 

 カツカツカツ……

 

 

 祐一郎の真上の天井から、爪が木の床に当たる足音が聞こえる。

 

 この小屋には既に入居者がいたわけだ。

 

 

 カツ……カツ……

 

 

 暫くすると、音は遠ざかって聞こえなくなった。彼は、餌でも探しに出ていったのだろうか、とどうでもいい疑問を浮かべた。眠れず(ひま)なのだ。

 

 

 

 

 

 

 ――

 

 

 

 

 

 

 ――やけに静かになった。

 

 

 

 

 

 

 静かだと逆に不安になる。彼はさっきの動物たちの活動音が恋しくなってきた。

 

 

 

 

 

 

 バゴン

 

 

 

 

 

 

 屋内に唐突に打撃音に似た振動が響いた。屋鳴りだ。気温差による熱収縮によって組み合った木がずれて、思いの外大きな音が聞こえることがある。風雨にさらされて傷んだ家屋だから、なおのこと大きな音がするのだろう。

 

 

 

 

 

 

 パン

 

 

 カン――カンッ

 

 

 

 木が割れたような異常音に、祐一郎は驚いた。柱に亀裂が走ったのかもしれない。

 

[この家、いきなり倒壊したりしないよな……]

 

 不安から、周囲の闇へ目を凝らしたりするが結局意味の無い行為でしかなかった。

 

 太陽の無い夜の間は気温が下がり続ける。明け方まで屋鳴りは続く可能性があった。

 本格的に冷え込み始めた部屋に、祐一郎は体を震わせた。よくこんな状態で眠れるものだと、イーレシスンへ目をやると彼女は首を起こして気配を伺うような仕草を見せていた。

 

「!?」

 

 祐一郎は驚いた。彼女が身を起こしたということは何かがいる、ということだ。

 

 

 ゴクリ――

 

 

 音を聞き逃すまいと集中すればするほど、体の代謝機能は反逆してくる。急に来る便意やら喉の渇きに(しば)し苦しむ祐一郎。(昼間の団子がまだ尾を引いているらしい)

 

 

 闇に目を凝らすと、壁に何か浮かび上がった気がした……

 

 ――人の顔……だろうか!?

 

 天井に張り付いてこちらをじっと見つめているのだ! 大きさで言えば60cmはあるだろうか。差し込む第二の太陽のお蔭で割とはっきり見えるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――さむいよ

 

 

 

 凍り付くような感覚に襲われた! 突然の事に祐一郎は、とっさに背中へ襲い掛かった冷気に反応する!

 

 背中へ力が入らず、飛び上がるつもりで前へつんのめった。その際、近くへ置いていた荷物へ足の指をぶつけて、悶絶した!

 

 

 ――果たして背後に現れたのは、ぼんやりと青白く発光する幼児の輪郭であった。

 天井の顔はただの染み似すぎ無かった。本物はすぐ真後ろに()()のだ。

 

 

 祐一郎は片足を庇いながら、外へ体当たりで飛び出した。

 

 脆かったせいか、思いの外勢いよく木性の扉は吹き飛んでいって、庭の若木に跳ね返って来たので、武器になるかはなはだ疑問だが、それを掴んで板越しに向き直った。

 

 イーレシスンは家の中で幼児の幽霊を前に硬直していた。目を見開きなんとも言えないような表情で、その場で身を起こして座ったまま動く事を忘れたように、

 

 

 ――ただ子供の霊を見ていた。

 

 

 祐一郎からすれば意味が分からないだろう。彼女が故郷へ残してきた小さな記憶の中の子供を連想し、目の前の幼子(おさなご)に何を思ったか、など知る由もない。当然と言えば当然なのだが、なにか追い払う手段でもあるのかとすら思った。そう、魔法だ。

 一部の魔法には発動までに時間がかかることは、以前の赤スカーフと青バンダナの二人組と揉めたときに体感している。発動準備中なのではないか、と思ったのだ。

 

 

 だが――

 

 

「イーレシスン! 何してんだよ! 早く逃げろよ!」

 

 抱き着かれていた――声を上げたその時には既に遅かった。

 

 人であれば、動き出す前兆を感じ取れるものだが、如何(いかん)せん生物ですらない異世界の霊的存在に、先読みを試みるのはムリが過ぎる。意識の隙を突くように、いつの間にか接近していたのだ。

 

 

 子供の霊に取り付かれた彼女の口から白い息が漏れ出す……。深夜とはいえ亜熱帯といっていいような気候だ。吐息が煙るほど冷え込むことなど考えられない。霊は生物の熱を奪うのだ――

 

 

「あー……クソ!」

 

 イーレシスンが吹き飛んで子供の霊から離れた。彼が体当たりを喰らわせたからだ。そして彼女を抱えると霊を素通りして外へと出た。

 

「重っ……、」

 

 通り抜ける瞬間、体温を吸い取られたが、勢いをつけて突っ込んだため致命的な足止めを食らうことは無かった。果たして遠近感の無い子供の霊は、その場でゆっくり振り返るとこちらへ向かって加速しているようだった。

 

 

「ステータスオープン!」

 

 思考速度が加速し、世界がゆっくりと行き過ぎてゆく。祐一郎がステータス加速と呼ぶ、このゲームのような仕様の現象は、ユーザビリティでも意識しているのか、周囲の動きがゆっくりになるのだ――

 

 

 そのとき彼はとあることを想起(そうき)した。それはステータスウィンドウでの加速中の動作だ。

 

 加速中は、何をするにしても初めはゆっくりと動き出しやがて速度がついてゆく。そういった世界だった。幽霊の動きも似ているように感じたのだ。初めはゆっくりで徐々に速度が出てくるような動きだ。マリオカートでいうクッパのような重量級カートの遅い加速と似ていると思った。

 

 このままイーレシスンを担いで逃げると、足が遅くすぐ追いつかれそうだが、これならジグザグに逃げれば何とかなりそうだ。

 

 現在、月は真上にあり、十分に明るく周囲の様子は確認できた。第二の太陽も登っていれば、昼間の曇天の下にいるような明るさが期待できるだろう。彼は足元を確認せずとも走れると確信した。

 

 そして前方の空は白み始めていた。

 

 

 

 ――鬼ごっこ? あそぼうよ

 

 

 ザサッ! ザサッ! ザサッ!

 

 

 ――無軌道に繁茂した下草に邪魔されながらも、林の中を彼女を抱えて走る。

 

 彼女は驚くほど冷たかった。それでも、抱えられながら揺動(ようどう)の度に体を強張(こわば)らせるのが伝わってきて、意識を保っていることが分かった。

 

 この世界に来て一回も風呂に入っていない。相当に臭うはずで……密着しているにも関わらず、冷え切っているという事が関係しているのか、それほど匂いを感じなかった。祐一郎には、それが彼女の生命力が失われていることの証左(しょうさ)であることのように感じられた。

 

 

 祐一郎は逃げながら、このまま彼女を放り出して一人で逃げることなどが頭をよぎった……。このまま逃げれば彼女はどうなるか分からないが、自分は奴隷から解放されるのかもしれない。

 

 ――しかしだ。現在言葉が通じるのは彼女と、同じ日本人奴隷だけだ。逃げた先で都合よく、言葉が通じて自分を奴隷として扱わない人間に助けられることなど期待できるだろうか。

 

 彼にはどうしてもそんな楽観的な考えにはなれなかった。これまでそんな人に出会ったことが無かったからだ。仮にそんな人間が居ても出会える可能性は極めて低いように思われた。

 

 それに、こんな人里離れ、幽霊の実在する廃村に、一人取り残されるなど正に悪夢だ。この世界での生きる術も何も知らず(ほう)り出されるわけだ。アレコレ理屈を()ね回して、何とか彼女を助ける為の打算に(まみ)れた予定調和の妥協案(だきょうあん)()り出すことだろう。

 

 

 ジグザグに、幼児の霊を(かわ)しながら逃げてはいるが、ステータスによれば彼女の体重は60kgピッタリで祐一郎は(ひざ)に痛みを感じ始めていた。

 

 そのせいか、カーブの(たび)に追いつかれ霊から体温を奪われることが時間と共に増えていった。ステータス加速は万能では無いのだ。

 

 距離にして200mも走っていないだろう。しかし、まるで長距離を数時間走ったような疲労感があらわれるようになった。それに(ともな)い体温を奪われる頻度(ひんど)は増していった。

 

 

 

「ハァ、ハァ……ハァッ!」

 

 ――気付けば、幼児の白骨死体を埋葬(まいそう)した村はずれへと追い込まれていた。

 

 

 幽霊の姿は闇に溶けて見えないが、追ってきているのは確実だろう。

 

 ここは平坦で川に面しているが、川から高い位置で大雨で氾濫(はんらん)しても冠水しないであろう場所であることが埋葬場所として都合が良かったため、この場所へ(ほうむ)ったのだ。

 

 埋葬地の手前は枯れ沢となっており、右手から左手側へかけて落ち込んでいた。必然的に左へカーブする小径(こみち)辿(たど)る。

 奥は登りであり、手前は川へ落ち込む急な斜面となっている。昼間と印象の異なる土地勘の無い場所でL字型の袋小路へと迷い込んでしまっていた。

 

 山側の木々がざわめく。地面へは(こずえ)に遮られた月の光がピンホールカメラ(さなが)ら、スタンプのように欠けた月が無数に投影されて揺れていた。

 

 程なく小さな霊体は、揺らめくように闇の中から姿を現した。

 

 

 

 ――鬼ごっこ

 

 

 

 もはや疲労困憊(ひろうこんぱい)であった。さっきのようにムリして通り抜ければ大幅に体温を奪われて、動けなくなってしまいかねない。

 

 

 まるで、甚振(いたぶ)るかのようにじりじりと迫ってくる。

 

 

「くそ……」

 

 

 

 万事休す――かに思われた。だが、追い打ちをかけるかのように、更なる災難が襲い掛かる。

 

 

 

 ――ォォォォォォォ……

 

 

 

「――うそ……だろ、」

 

 

 

 二人の背後。

 

 墓のある斜面側から、大人ほどの大きさの新手の幽霊が(にじ)み出してきた――

 

 

 

 挟み撃ちだ

 

 

 

 

 

 

 ザサァァァァァァ……

 

 

 

 

 

 

 ……まるで時が止まったかのように、誰も動かない。認識速度が16倍となっている祐一郎には殊更に堪え、神経がすり減ってゆく。

 

 

 

 

 

 何時しか吹いていた風も凪ぎ、辺りは静けさに包まれた――

 

 

 

 

 パキ、パキ

 

 

 

 パキ

 

 

 

 

 ――森には枝の落ちる音と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キーーーーン――

 

 

 

 

 静寂のみ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――やがて渓谷から見下ろす稜線(りょうせん)には、朝日が降りつつあった。

 

 見上げる山の上から東を見れば太陽が昇る様子が確認できるだろう。

 

 

 

 子供の幽霊は朝日が迫る中、揺らめきながら徐々にその姿を薄れさせていった。

 

 気が付けば背後の墓の方向の、大人の幽霊も消え去って何処にも見当たらない。

 

 

 

「助かった……?」

 

 

 

 祐一郎はイーレシスンを背中に背負ったまま、その場に座り込んだ。

 

 

 

 ピ、ピー

 

 

 

 鳥達の(さえず)りが、祐一郎を徐々に現実へ引き戻していく。

 

 

 朝靄煙(あさもやけむ)る木々の隙間に影落ちる地面には、長く引き延ばされた二人の写像が投影されていた。

 

 

降雨時に川となる窪んだ地形




所持品

 装備:服 1kg
 装備:ズボン 1kg
 装備:インナー 0.5kg
 ヤシンタ 60kg{5kg}
 
 Total:67.5kg
時系列順設定集 0000〜0013+0012蛇足へ
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