刹那の旅路   作:靴下9153

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 祐一郎 は異世界で亜人に奴隷として売られてしまう。
 
 同郷の奴隷達から、人間だけの理想郷の噂を聞かされるが、拳銃ダークエルフの女イーレシスンに買われた。
 
 そして因縁の青髪と赤スカーフの二人と思いがけず遭遇。イーレシスンの魔法でお互い大したけがもなく事なきを得るが、ほとぼりが冷めるまで国を離れることに。
 
 0012〜0013の一週間の出来事を細かく描写します。地の文中心です。
 
 異世界の生活? を実感し始める。酷い前文明的な道行に辟易する。
 
 一日目:2つの村を横切る。第二の太陽は一時間周期。
 スケルトンと遭遇。
 ステータスウィンドウでイーレシスンのステータスが覗けるようになった事に気づく。そして偽名である事が判明? ステータスウィンドウ上ではヤシンタが彼女を表す名称であると類推した。
 
 二日目:沼で巨大ダンゴムシを目撃。
 峠を超えて人の住む土地に辿り着く。
 しかし、無人の廃村となっており、動物達の楽園と化していた。
 そこで、幽霊に襲われ朝日に命を救われる。
 イーレシスンを助けたことで、少し関係が近づいた。と思われたが祐一郎の駄目さ加減が露呈。
 周辺地理と、数多の亜人の存在を聞いた。
 
 其の六
 
 イーレシスンの口調は、onepieceの女海賊をイメージしてます。



ジュゴン人魚誘拐編
0012_5 追加分/一週間に起こった出来事 その六 場末の町をゆく


 倒木が塞いでいたり、藪が行く手を遮ったりすることも多かったが、それでも道がマシになって来て、明らかに人の往来を(うかが)わせるような痕跡を見出すことが出来た。

 

 やがて行く手には古い壁が立ち塞がった。

 

 回り込み進むと年季の入った砦が現れた。そこには老兵が一人いるだけだった。

 

 

 いつの間にか林は途切れ、家屋が増えて村へ入っていることに気付いた。祐一郎の脳裏には"棄民の街"というワードが浮かんだ。

 

 (わだち)のある街道へ合流し日が傾き始める頃には川へ出た。川幅は200mはあるであろう褐色に濁った川だった。

 

 川へ向かう壁は水中へ消えて行く。そこに出入りできる門があった。上から見ると紡錘形の先端部に門があり、両側には壁がやや傾斜した、がっしりとした石組の塔が立っていた。

 

 門の前では軽装の二人組の男達に誰何(すいか)されている。回り込んで壁伝いに歩いて行くと壁の一部が崩れていて、勝手に人々が出入りしていた。

 

『衛兵、意味なくね?』

『モンスター駆除にでも行くのか? いや、お偉方でもいるのか……』

『?』

『まぁ、どうでもいいことだな』

『そう、スね』

 

 祐一郎達が来た方向の、オタからの使者一行なのだが、海路が不通となっているため陸路で移動していて、偶然通りがかったところを目にしたのだ。

 

 

 内側は木造家屋が(ひし)めき人の営みの匂いが強烈に主張してきた。とはいえ人影はまばらだ。

 

 川には小船が何艘も行き交い、ヘビのようにつながった筏が下流へ横切っていった。中には石を積んだものもあり、船の縁ギリギリまで水面が迫り、よく沈没しないものだと引き気味に眺めていた。

 

 川の中から屋根が突き出ている。よく見ると柱があちこちから突き出ている事に気づいた。そればかりではない。川向きに沿うように壁が川底から立ち上がっており、塔のような構造物が川に垂直に並んでいる。単純に水の抵抗の強い部分が流されて、残された部分がそう見えているだけのようだ。

 

 半ば村は水没していた。碌な治水もされていないため増水の度に住処が飲まれてしまうのだが、上流に湿地があるため、それが調水地の役割を果たし、これでも水害をいくらか軽減させていた。

 

 

 川縁には船着き場や、水車小屋などもまれに見られた。

 

 上流側へ歩いて行くとやがて渡し舟乗り場なのだろう。10人に満たない人々が集まっている一角が現れた。思い思いに船を待っているようだ。

 

 二人も合わせて渡し舟に乗り込むと、船はギリギリまで沈み込んだ。日本であれば定員オーバーと見做されるであろう有様である。少し揺れれば沈没しそうだ。

 

 船頭が(かい)を操って船を出すと、案の定船内に水が入って来た。ところが客たちは慣れたもので、誰に言われるまでも無く船底にたまった水を掻き出してゆくのだ。

 

『怖っ!』

 

 沈没したくはないので、荷物から水を掻き出せそうなものを探したが、盾ぐらいしかなく船が狭くて使えそうになかった。イーレシスンに目をやるが、腕を組んで座っているだけだった。

 

 裕一郎は居心地の悪さに、早く着いてくれと、心の中で繰り返した。

 

 

 

 ――向こう岸は崩れた廃屋が疎らに見られ、腰丈のイネ科の植物が広がっていた。

 

 船着き場から降りて、イーレシスンは下流へ向かった。こちらは向こう岸よりも閑散としていて、民家はまばらで畑が目立つ。時折畑の向こうには小さな砦と壁が見られる事があった。

 

 やがて比較的往来のある三叉路を川から離れるように曲がると、空は夕暮れで赤くなり直に夜の帳がおりる時間帯になっていた。

 

「宿、探すか」

 

 その日は、宿とは名ばかりの雑魚寝の場所を提供するだけの木賃宿へ泊ったのだった。

 

 そういえば、イーレシスンが仕事してるところ見てないな。所持金は大丈夫なのかな? と祐一郎は思ったのであった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 翌日市を見つけると、食材を買い込んだ。

 

 やはり干し団子はマストなのか、と祐一郎は思った。他に携帯食料に出来そうな物はあったが、イーレシスンは見向きもしなかった。重度の干し団子ジャンキーである可能性は否定できない。川の近くなので、やっぱり干し魚も少し購入した。そこまで日持ちするものでもないからだろう。

 

 

「お、治癒のポーションだな。掘り出し物だ」

 

 少々割高ということだが、治癒のポーションも売っていたので購入。治癒のスクロールを使い切っていたので、これが生命線となるだろう。

 

『へー、ガラスあるんだなー』

『開けるとすぐに劣化しちまうから一回きりなんだよな、コレ――』

 

 二人共知る由はないが、ガラス瓶は全てPOPしたものであり、ほぼダンジョン産で。この世界での製法は確立されていない。

 

 

 ――買い物を終え、道なりに進んでいくと――積乱雲の下、赤褐色の道の先の民家の隙間から水平線が広がっていた。

 

 

 海へと出たのだ。

 

 

 祐一郎は潮の香りを強く感じた。

 

『――ゴホン……くっさ! ぅぇ』

 

 

 よく見ると家屋の影に貝殻が積み上がっており、空気が澱んでいて臭い。やんわりした表現でいうならば"人の営みの臭い"だろうか。浜に打ち上げられている海産物の腐敗臭と相まって軽くえずいた。

 

 

 基本的に、生活排水や汚物は川へ垂れ流しだ。川に沿って下流へ向かえば、臭いの元と共に河口へたどり着く。

 

 川の流れは一定ではない。緩やかな箇所もあれば、深く流れの速い場所もある。(よど)みには上流からの漂着物が溜まり続ける事がある。川の中に取り残された構築物が流れを複雑にし、停留する流れが出来やすい不衛生な環境を助長していたのだ。

 

 さらにいうなら、とある事情でこの場所は無政府状態に近いものであり、インフラ整備は基本的に()()()()()の自助努力でまかなっており、酷い生活環境となっている理由の一つでもある。

 

 とはいえ、さっさと通り過ぎてしまう彼らには関係もないし、興味も無い事情であるのだが。

 

 同じ空の下で暮らしている以上は、関係ないように見えて何かしら(つな)がりがあるものだ――。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 沖には大きな四角い帆船が帆を畳んで停泊していた。

 

「船が無い?」

「ああ、船を護衛してくれるマーマン達が引き受けてくれなくなったせいで、船が出せないんだ。少し前なら出てたんだが……運が悪かったな」

 

 陸へ上げられた船が並ぶ褐色の砂浜で、ぶらぶらしていたみすぼらしい男に尋ねたところ、服の上からしきりに腹を掻きながらそんな返答を返してきた。

 

 見回すと似たような人が数人いて、時折波打ち際でしゃがみ込んだりしていた。

 

 

 ――祐一郎は彼等の様子に、なんだか身につまされるような気分がした。奴隷である自分の状況が恥ずかしくなってきたからだ。

 

 宙ぶらりんの、糸の切れた凧のような寄る辺なき(おの)が身の頼りなさに、自分がただ一人この広い世界で孤独に切り離されたかのような(おのれ)の姿を幻視した。

 

『(俺はこのままイーレシスンについていって、どうなっちゃうんだろうな……)』

 

 ――実は彼らは、最近上流から流されて来るようになって浜辺へ打ち上げられた宝石ラッシュをいち早く察知した幸運な人々なのだが、祐一郎には知る由もない。

 

『――なぁ、イーレシスン――』「ちょ――」「おっと、こんな時間か。用事があるんで……そんじゃ」

 

 男は突然踵を返すと、足早に立ち去っていった。行き先を尋ねようとした祐一郎と、男に更なる質問をしようとしていたイーレシスンは、二人とも急に梯子(はしご)を外された形で面食らっていると……

 

 

 ――陸地の方向から、特徴的な軽装の男がやって来た。

 

「やぁ、ダークエルフの姉さん。大陸の人かい?」

 

 長い天然パーマの黒髪の黄色エルフの男は痩せているが長身で、絶えずニヤニヤ笑いを浮かべて、親し気に話しかけてきた。

 

「……まぁ、そんなとこだ。あんたは?」

「ここら辺を取り仕切ってる、アヌヒコって人のところで厄介になってるもんで、レーってもんですよ」

「通り抜けるだけで……長居するつもりは無い。面倒をかけるつもりも無い」

「いや、いや、いや。こっちも、面倒事なんてとんでもない。ただね、ちょっとお話を聞かせてもらえれば……という次第で」

「俺たちはこれから船でアトーエへ抜けるつもりだ」

「アトーエ! ウアサハまでなら船で行けますがね、その先へ……? 正気ですかい?」

 

『ウアサハって?』

『滅びたオストレーの東端にある半島だ』

 

「前は半島手前でオストレーに入ってたが……」

「ええ!? 本当ですかい! いやぁ、相当な腕自慢なんですなぁ、あそこらへんは軒並み亜人に取られてますよ」

「いや、5年前だ」

「ああ、なるほど」

 

 この5年の間に情勢が変化したのだろう。

 

「――情報助かったよ、これでいいか……?」

 

 イーレシスンは大きめの硬貨を二枚渡すと、男は難色を示した。

 

「いやー、旅慣れてる()()()()ならもう少し心得てるもんだと思ってましたがね」

「前は――……わかったよ。通り抜けるだけなんだ……本当に勘弁してくれ」

 

 男はもう一枚受け取るが、不服そうだ。だが、彼女の腰に()いた刺突剣に目をやると態度を変えた。

 

「なるほど……そいつは細剣(レイピア)ですねー?」

 

 細剣(レイピア)は比較的値段が高い。金属は貴重であり一般人の1月の収入では手が届かないような価格帯で、さらに折れやすい。そして剣の扱いとは異なる技術が必要となる。当然実用レベルまで体得するには、継続的な耐久資材としてのレイピアや、講師を手配しなくてはならない。

 

 その敷居の高さから、高位の人間が修める最強の対人剣術という、信仰ともいえる幻想がまことしやかに語られていた。

 

 それに、獣相手に細剣は割に合わない。細い剣であるので、折れやすく、破損の度に修復していたのでは赤字だ。時に獣相手の立ち回りを演じるであろう人物が、細剣を腰に()いているのは違和感を感じさせる。レーは様々な事情を想起した。

 

「ところで……棟梁をご存じで?」

「少し仕事をな」

「どんな仕事か、お聞きしても?」

「丘の寺院に墓があんだろう? そこでアンデッド掃除をな」

 

「なるほど、なるほど」

「もう行って、いいか?」

「ええ。どうぞ、道中お気をつけて」

 

 

 

 ――少し離れてから振り返ると、砂浜の丘の影で同じ軽装の集団とレーが話をしていた。祐一郎からは、こちらを見もしないが、意識していることは感じ取れた。

 

『イーレシスン』

『多分、俺たちじゃない。なにか間が悪かったんだろうな』

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 右手に時折見切れる海岸線を見ながら、林や家屋の点在する道を(しばら)く進むと、川に行く手を遮られた。水は茶色く濁っており、上流の茂みにある(よど)みにはゴミが小山となって見えた。集落の一部に入ると、臭いが強くなった。既に鼻は麻痺していたため、たいして気にならなかった。

 

 そこでは、魚っぽい人達とエルフ達が、祐一郎には罵りあいをしているように見る。

 

 彼はべたつく潮風と強い日差しのもと、うんざりした気分になった。偶然に居合わせた彼は、人が争う様子を見てほくそ笑むような人間では無かった。

 

 

 渡し舟のある場所を探して、上流へ向かうが、このままではその場所を通り抜けることになるので、引き返すこととなった。

 

 川の流れに地面が削り取られたのだろう。川の淵は自然の堤防のような傾斜になっていて、迂回しながらも塩風に強い低木越しに、右手で繰り広げられている係争の様子を見下ろすことが出来た。

 

 

 (しばら)く上流へ歩いて行くが、そこでも魚っぽい人達と船頭とその客達であろうエルフが達が騒いでおり、渡し舟は利用できそうに無かった。

 

「参ったな」

 

 イーレシスンは息を漏らすと、額の汗をぬぐった。正午にかけて日が高くなり、既にかなりの高温だ。

 

 (たたず)む彼女の横で、初めて見る魚人に興味の視線を向ける祐一郎。

 

『あれは、なんていう種族なんスか!?』

『マーマンだ。メスは、マーメイド。(さら)ったマーメイドの子供を返せとさ』

『見世物にでもするんスかね。そんなに珍しい種族なんスか?』

『まぁ……たしか、この辺は下半身がジュゴンのマーメイドの種族がいたから、それ狙いじゃねーの』

 

 子供を見世物にする、という発想に彼女は若干だがひっかかるものを感じた。だが――所詮他人の子供だ。彼女にはすべきことがあった。

 

『――ジュゴン……』

 

 ジュゴンとは、人魚の元になったとされる実在の海洋哺乳類だ。

 

『あれだな。』

 

 イーレシスンが指差すその先には、イメージと大分かけ離れた人魚がいた。下半身の魚に当たる部分がジュゴンとなっている。本来ジュゴンの肌は灰白色だが、肌色なのだ。そう、見ようによっては、ただの腰の巨大な、下半身丸出しの女性にも見えてしまう、非常に扇情的な見た目を持っていた。

 

『――なんか、凄い……アレっスね……』

『……』

 

 彼女は表情を硬くして先を急かした。

 

『いくぞ』

 

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