刹那の旅路   作:靴下9153

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 祐一郎 は異世界で亜人に奴隷として売られてしまう。
 同郷の奴隷達から、人間だけの理想郷の噂を聞かされるが、拳銃ダークエルフの女イーレシスンに買われた。
 そして因縁の青髪と赤スカーフの二人と思いがけず遭遇。イーレシスンの魔法でお互い大したけがもなく事なきを得るが、ほとぼりが冷めるまで国を離れることに。
 
 0012〜0013のの出来事を細かく描写します。
 
 一日目:2つの村を横切る。第二の太陽は一時間周期。
 一部他人のステータスが覗けるようになった事に気づく。
 
 二日目:廃村で幽霊に襲われる。
 村落が点在する一帯で足止めされる。
 
 三日目:祐一郎はアイスという少女と出会う。
 ガラの悪い男に絡まれて少し足止めを喰らうが、アトーエにあるダンジョンを目指し船を乗り継いで港へ辿り着く。
 魔法鍛冶師の老人の家に泊めてもらうことになった。
 呪文のメモを取り上げられるが、異世界言語を翻訳できるチャットウィンドウを開けるようになって、ログからメモの内容を参照できることを確認。イーレシスンにざまぁしたのであった。そして翌日――
 
 この章の登場人物{
  チン・チキ:鍛冶魔法師(フォージマンサー)の顔役
  レイネ:鍛冶魔法師(フォージマンサー)。チン・チキの孫。女性
  シスド:レイネの兄
  キ・ロガ:レイネの幼馴染で、独断でアトーエからリクルートにやってきた
  タリマヌ:キ・ロガの旅仲間でダークエルフ
 }
 
 其の十三
 
 舞台:イーノエススの玄関口にある港町
 
 イーレシスンの口調は、onepieceの女海賊をイメージしてます。



0012_12 追加分/一週間に起こった出来事 その十三 市場

「もむ。」

『(レイネさんって言うのかー。お姉様って感じだな……食べてる姿いいナー。)』

「(この奴隷の男の子、昨日こんな感じだったかしら……?)」

 

 一同は朝食を取っていた。

 

 体に良さそうな謎スパイスで黄色くなってしまった指先を葉っぱで拭く祐一郎は、精神速度16倍速チャットモードで無駄な動きが無い為キレキレであり、逆に不自然なことに気付かない。

 

 悪目立ちする彼を横目にレイネは食事をさっさと終えた。

 

 

 その横でチン・シキ老人は白い息を巻いて茶をすすっている。

 

「おじい様。お薬はちゃんと飲んでくださいね」

「……む。分かっとる」

 

 チン・シキは薬を取ったところで多少先延ばしにするだけだと、既に諦観(ていかん)の体であった。

 そのため高い薬代に金を使うぐらいなら孫の為に使って欲しいと思っているのだが、一方で孫の思いも無下にすることもできずに、(ひね)くれたような態度しか取れないため忸怩(じくじ)たる思いを抱えていた。

 

 ——老人は誤魔化す様にイーレシスンへ目を向ける。

 

「ふむ今日はどうするつもりじゃ?」

「装備品やら見てこようと思う。鎧も傷んできてるし。掘り出し物があるかもしれないから、市が立ってたら(のぞ)こうかと思ってるよ」

 

「それほど時間はかからないと思いますが、午後には終わっていると思います。時間を見て母屋(おもや)の裏手を(のぞ)いてください」

「わるいね」

「いいえ。ちゃんとお代金は(いただ)きますから。それにレイピアの()ぎは(ひさ)しぶりなので楽しみです」

「ああ……そう。まぁ、ここじゃレイピアはあんまり見ないしね」

 

 イーレシスンはレイピアなんか他の剣と違いないじゃないかと、変な子と思いながらも相槌を打った。レイネは鍛冶のことになると偏執的な一面を覗かせがちになるのである。

 

「——スペアはブロードソードでよろしいですか?」

「そんなことまでしてくれるのか」

「ええ、おじい様が認めた方なので。信頼できる方だけですよ」

「初対面だけど……まぁ、好意は受け取っとくよ」

 

 祐一郎はそんな二人の会話を、チャットウィンドウ越しに聞いていた。

 

『(加速中だと聞き取りずらいし、チャットウィンドウを目で追いながら聞き耳を立てるのは……頭の血管が切れそうだ……)』

 

 やり取りの間祐一郎は、せわしなくチャットウィンドウと照合して、言葉を(おぼ)えようと奮闘していたのである。

 

 

 

 

 ——祐一郎とイーレシスンは買い出しの為、市を訪れていた。

 

 市は人々で(にぎ)わいを見せており、せわしなく人々が行き交い雑多な音で満たされていて何処ならともなく音楽も聞こえてきている。

 

 祐一郎は背中の荷物を背負いなおすと額の汗を拭った。午前中だが既に日差しも強く昼には人通りも落ち着くことだろう。

 

 背嚢など置いてくればいいものを、中身を選別することを面倒に感じたイーレシスンは彼にそのまま背負わせて連れてきていた。

 

『(他人事だと思って……ヤシンタめェ)』

 

 イーレシスンの本名はステータスウィンドウの仲間の項目から判明していた——とはいえ未確認であるが。

 

 

 イーレシスンは小さめの背嚢で何時もより足取りは軽い。

 

 祐一郎はというと——加速状態でチャットウィンドウを開いているため視界も悪く、足元は覚束(おぼつか)なくなっている。

 

 イーレシスンはうんざりした表情で祐一郎を急かす。

 

『……ったく。なにしてんだ。早く来い!』

『はいはい。わかってるよ!』

 

 祐一郎は言語学習の為に起動しっぱなしにしていたのだが、精神的な疲労も溜まり逆にデメリットのほうが大きいことに気づいて閉じることにした。

 

『(しかたない……閉じろ!)』

 

 チャットウィンドウを閉じると、ステータスウィンドウも同時に閉じた。

 

『(何だよ! 片方だけ閉じられないのかよ!)』

 

 使い勝手の悪いステータスウィンドウに対して心の中で毒づくと、イーレシスンを追いかけた。

 

 

 

 

「——きゃ!」

 

 祐一郎にぶつかって来たのは、丸いものを抱える小さな女の子だった。それを例えるなら巨大なジェリービーンズと言ったら近いだろうか。祐一郎はキモイなという印象を抱いた。

 

『大丈夫か——』

 

 言葉など分かるわけも無いのだが、口からセリフが咄嗟(とっさ)に漏れてしまった訳である。

 

『(まぁ、念のため。ステータスウィンドウオープン。続けてチャットウィンドウオープン)』

 

 ステータス加速で認識速度を16倍にしてから、チャットウィンドウを開く。

 

「待て!」

「なんだ。あんたら」

 

 女の子を追って現れたのは、いかにも商人といった風体の男であった。

 

 小さな女の子は心底おびえた様子で、祐一郎の後ろに隠れた。その様子は震えて今にも泣きだしそうである。

 

「そいつは泥棒だ!こっちへ渡せ!「断る」」

「な!?」

 

『(食い気味に即答! イーレシスンのロリっ子びいきがまた始まったぞ。[泥棒、渡す、断る]は……なるほど)』

 

 祐一郎は発せられた言葉とチャットウィンドウを照合して単語を拾っていく。

 

 視線の定かでない奴隷の少年をスルーして、イーレシスンは男へ向かってぶっきらぼうに問いかける。

 

「買い取ればいいんだろ。何を取ったんだ」

「その卵だ!」

 

 男が指さしたのは女の子が抱える巨大な卵だった。

 

 下手に突き飛ばしでもすれば、その拍子に卵が割れてしまう恐れがあるため、手こずっていたのである。

 

『なんの卵?』

『巨大アリだろうな。恐らくアリの巣駆除の戦利品が市に流れたんだろうな』

『アリ!? 40cmはあるぞ! どんだけデカいんだよ!』

 

「おい! 無視するな! 40ルドだ」

男を無視して祐一郎と会話するイーレシスンにキレ気味に怒鳴った。

「……ほらよ」

「ふん……」

 

 男は金を受け取るとあっさりと諦め雑踏に消えていってしまった——。

 

 

「……ありがとう」

 

 小さな子にとっての脅威が立ち去ると、上目遣いで恥ずかしそうに礼を言った。

 

「ほら、行け」

 

 女の子は再び礼を言うと人ごみの中へ走り去っていった。

 

 

 

 そうして女の子が見えなくなり歩き出そうとしたとき、ふいに声を掛けられた。

 

「——近頃は難民が増えてああいった子もよく見かけるようになったね」

「ん?」

 

 崩れかかった壁にもたれて一部始終を見ていた露天商の男が話しかけてきたのだ。

 やせ形だが筋肉質で良く焼けた肌にしわが刻まれ鉤鼻(かぎばな)が特徴的で、体中に(えぐ)られたような傷が目立つ男である。年齢は20代後半にも見えるし40代にも見える。

 

 彼女は足を止めて振り返ると胡散臭げにオヤジを見下ろした。

 

「(商売の糸口に声を掛けたんだろうが、引退した冒険者か?)……オストレーの難民か」

 

 オストレーとは、ここイーノエススの北西にある空白地域で、モンスターの巣窟と化した広大な地域を指す。

 

「何でもモンスターがなだれ込んであっという間の事だったらしいね」

 

 オストレー壊滅の真相は判然としない。人によって話す内容がまちまちであるからだ。であるのでイーレシスンは何時もの事と話半分で聞き流した。

 

「……ふーん。あんたは何を売ってるんだ」

「いろいろさね」

 

 机の上の敷物の上に並べられているのは様々だ。中でも目についたのは、色取り取りで様々形状のガラス瓶である。中には液体が揺れていた。何故か空のガラス瓶まで置いている。

 

「——へぇ。ポーションか」

「あんた、普通の人じゃないだろ。ダンジョンとか潜る人かね?」

 

 ダンジョンとはイーノエススでは無断の盗掘は禁止とされているが、誤魔化す方法はいくらでもあるのでダンジョン盗掘者は基本放置である。

 

 この地域では未踏破区域も多く、ダンジョンの宝を狙うものも少なくはない。

 

「はは、とんでもない。——それにポーションは間に合ってるんでね」

「そんなことを言いなさるな。どれ、子供を助けた心意気に安く売ってやってもいいよ」

 

 心意気などと言ってはいるが、単に商売の口実にしたいだけなのは見え見えである。安売りといってもあやしいものだ。

 

「……定番の回復ポーション。巨大蜘蛛毒の解毒エリクサに——幻想毒の解毒剤もあるよ。この蛇毒に効くやつは巨大蜂にも効き目があるからお得だよ」

「解毒薬は……遠慮しとくよ。当分出番の予定は無いな。ガラス瓶は割れやすいから、旅の身だと割っちまうし」

「旅人さんかい。なら、回復ポーションは持っておいて損はないよ。布にでもくるんで、木箱にでも突っ込んでおけばそうそう割れはせんだろう。それに薬草もこの通り。腹痛、熱冷まし、ええと。ツワリ……」

 

 露天商の男は箱から顔を出す乾燥して茶色くなったを物色しながら話を続ける。

 

「ツワリって。流石にこの年じゃムリってもんだ」

「そうかね。わたしらにはダークエルフの年齢は解りにくいから、てっきり若いものだと思ってたよ」

「口がうまいな」

「あんたはぶっきらぼうだね」

「あんまり、ここの言語は馴れなくてね。乱暴な物言いになっちまう」

 

 チャットウィンドウ越しに聞いて祐一郎は違和感を覚えた。そもそも祐一郎と日本語で話すときも乱暴なのだ。

 その言いざまでは、この地方の言葉だけ乱暴になる。というように聞こえてしまう。それに対し祐一郎は心の中でツッコンだ。

 

『(いやいや! 元から乱暴だろ! 日本語大分強めだぞ!)』

 

 祐一郎のツッコミなど関係無しに話は進んでいく。

 

「この島に来なさったばかりかね?」

「まぁ、そんな所だ」

「じゃぁいろいろもの入りだろう——糸は足りてるかい? 針は? 加工した魔石もあるよ」

 

『(……加工した魔石ってなんだ? 慣用句の一種かな……ちがうか)』

 

「パワーストーンか。サイズは?」

「サイズ——ちょっと待ってて」

 

 そういうと天秤を引っ張り出し、重さを計り始めた。

 

「魔力1だね」

 

 魔力は重さに比例するため天秤で計ることが出来るのである。

 

「クズじゃねぇか」

「買わんかね」

「ないよりはマシだけど。数が増えると管理出来なくなるからな。それに魔石を元にしたヤツは(もろ)いから——折角だけど遠慮しとくよ」

 

 魔法を使う際。魔力の肩代わりに使うことが出来る代物だが、二つ以上同時に使うことが出来ないため、細かくなると使い勝手が悪くなる。

 

 それにパッと見魔力残量が分からないので、管理が煩雑(はんざつ)になりがちである。

 

 そして、なによりイーレシスンは既に幾つか持っていた。

 

「——回復ポーションはいくらだ」

「550ルドだ」

 

『(高っ! さっきの食べきれないほどの大きさの蟻の卵が40ルドとか言ってたから……14倍弱!? 幽霊に襲われたときに何気なく2本も使ってたけど、そんな高価なものだったのかよ! 大損じゃん!)』

 

「コレ、ダンジョンからの出土品だろ。蓋に開けた形跡が無い。他に無いのか」

 

 ダンジョン産は割り増しになりがちである。

 

「やっぱり、ダンジョン潜る人だったんだね」

「——それを言うと、あんたも潜る人になっちまうぜ」

 

 イーレシスンって理屈っぽいよなぁ。などと独り言ちて成り行きを眺める。

 

「こりゃ一本取られたね」

「オタじゃ一律300ルドだったぜ」

「ここじゃ、回復ポーションは貴重なんだ。これでも良心価格だよ」

「他は?」

「回復の塗り薬が1つだけだね。効果は同じものだよ」

「こっちのはオタから流れてきたものだな」

「塗り薬は使い勝手がいいからね。引く手あまたさ。今だけだよ。(ちな)みにこっちは600ルドだよ」

「400」

「そりゃ! 欲かきすぎってもんだよ——」

「使用済みの瓶が2本あるんだが」

「一つ15ルドで買い取るよ?」

「まぁ、それでいい……か」

 

 オタで売る場合、物によるがこのサイズだと25ルドなので大分足元を見られている。錬金術師が作ったポーションを詰めなおすのだが、イーノエススには少ないのだろう。

 

 しかし、空の瓶を持っていてもかさばるし重いし、割った場合破片で怪我をする可能性もあるためさっさと手放したい思惑もあり彼女は15ルドの売却で応じた。

 

 

 

 そんなやり取りが小一時間も続き、1時間周期の第二の太陽(アソルア)は沈み——

 

 

 

 イーレシスンの周りにはロリっ子が集まっていた。さっきのアリの卵を抱えた女の子が言いふらしたのだろう。

 

『(ヒマだ……でも第二の太陽(アソルア)って不思議だな……NHKの宇宙の番組でやってたけど。たしか公転周期は主星からの距離に比例するって、国際宇宙ステーションって16周/日で高度400kmって言ってたよな』

 

第二の太陽(アソルア)は24周/日だから、国際宇宙ステーションの24/16くらいの周期てことは256kmぐらいの高度に太陽があるのか……? 近すぎね? ヤバくね?)』

 

 そんな事を考えている祐一郎を尻目に商談は無事終了したようだ。

 

「——460ルド。確かに。まいど」

『(やっと終わった……まぁ、第二の太陽(アソルア)とかどうでもいいよな——)』

 

 さすがの祐一郎も途中から翻訳を諦めて、全てのウィンドウを閉じ等速に戻っていた。

 

 結局紆余曲折(うよきょくせつ)あり、イーレシスンは液体タイプの回復ポーションを1つ買ったのであった。

 

 

 




所持品

 装備:服 1kg
 装備:ズボン 1kg
 装備:インナー 0.5kg
 装備:靴下
 装備:靴 0.5kg
 装備:円形盾 4kg
 装備:円形盾 3.5kg
 リュック20L 10kg{
  水袋 4L 0.5kg{
   水4kg
  }
  水袋 4L 0.5kg{
   水4kg
  }
  小麻袋 1L{
   干し肉0.3kg
  }
  小麻袋 1L{
   干団子0.4kg
   干団子0.5kg
  }
  陶器の瓶0.75L 1kg{
  }
  小型ナイフ0.5kg
  包帯0.5kg
  小袋 0.2L{
   木の小物入{
    裁縫道具
   }
  }
  小袋 0.2L{
   火口 0.04kg
   火打石 0.2kg
  }
  靴 0.5kg
 }
 
 Total:32.44kg
時系列順設定集 0000〜0013+0012蛇足へ
時系列順設定集 0012_00〜0012_09へ
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