刹那の旅路   作:靴下9153

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 祐一郎 は異世界で亜人に奴隷として売られてしまう。
 同郷の奴隷達から、人間だけの理想郷の噂を聞かされるが、拳銃ダークエルフの女イーレシスンに買われた。
 そして因縁の青髪と赤スカーフの二人と思いがけず遭遇。イーレシスンの魔法でお互い大したけがもなく事なきを得るが、ほとぼりが冷めるまで国を離れることに。
 
 0012〜0013のの出来事を細かく描写します。
 
 一日目:2つの村を横切る。第二の太陽は一時間周期。
 一部他人のステータスが覗けるようになった事に気づく。
 
 二日目:廃村で幽霊に襲われる。
 村落が点在する一帯で足止めされる。
 
 三日目:祐一郎はアイスという少女と出会う。
 ガラの悪い男に絡まれて少し足止めを喰らうが、アトーエにあるダンジョンを目指し船を乗り継いで港へ辿り着く。
 魔法鍛冶師の老人の家に泊めてもらうことになった。
 異世界言語を翻訳できるチャットウィンドウのログから呪文メモの内容を参照できるようになる。
 工房から出発した祐一郎達を見計らったかのように、襲撃を掛けるタリマヌとその部下達に絶体絶命と思われたその時。祐一郎達が戻ってきてレイネ誘拐を阻止したのであった。
 そしてイーレシスンに回避不能攻撃が放たれる。
 
 この章の登場人物{
  チン・チキ:鍛冶魔法師(フォージマンサー)の顔役
  レイネ:鍛冶魔法師(フォージマンサー)。チン・チキの孫。女性
  シスド:レイネの兄
  キ・ロガ:レイネの幼馴染で、独断でアトーエからリクルートにやってきた
  タリマヌ:キ・ロガの旅仲間でダークエルフ
  火傷の仮面の男:チンピラ
 }
 
 其の十五
 
 イーレシスンの口調は、onepieceの女海賊をイメージしてます。



0012_15 追加分/一週間に起こった出来事 その十六 しぶといイーレシスンと早く主人公になりたい祐一郎

 

 

 

「——言っていいことと悪いことがあるんだぜ!

 ババァ!

 死ねぇ!

電界(サージ)

「≪痛み(ペイン)≫」

 ぐあぁっ!」

 

 

 ——パァン

 

 

 耳を(つんざ)く轟音が空気を切り裂いた。

 しかし悲鳴を上げたのは、果たしてタリマヌの方だったのである。

 

「(馬鹿だね! 

電界(サージ)≫の弱点は誤爆だ!)」

 

 腕の向けた先によって3次元上の指定座標を設定する≪電界(サージ)≫は発射直前に目標が決定づけられる。

 指定座標に最も近い伝導体を目標とするのだ。

 

痛み(ペイン)≫とはターゲットに激痛を与える魔法である。

 見えないレーザーポインタを操るイメージで、更に距離設定を行い励起する。

 発動体の精度は 杖>>指>>意識 で、イーレシスンは意識のみで発動して腕に命中させた。

 非常に高度な技術なのだ。

 

 激痛を再現する魔法により腕を上げることが出来ない状態で対象とするのは、つまり自分自身である。

 彼も同門で高いレジストを持つが、≪痛み(ペイン)≫は特殊でフィジカル・レジストで抵抗する。

 フィジカル・レジストはほぼ体格と比例するため、小柄なタリマヌには通ると≪痛み(ペイン)≫に掛けたのだ。

 

 ——レザーアーマーを着こんでいたタリマヌは何とか意識を持ちこたえたが右足の機能を失った。

 

 果たして轟音に仰け反るタリマヌに彼女の言葉が聞こえているのか——

 

 すでにレイピアによって、喉を貫通された彼に対して確かめる(すべ)はない。

 

 

 

 

 

 

 ——火傷の男はこん棒を振り回す。

 

 ココ近辺では銅すら手に入りにくい有様で、幸か不幸か怪力を誇る男には殺傷力を発揮しうる棒だけでモンスター相手には十分糊口(のりくち)(しの)げていた。

 そして武器に金を掛ける必要のない事は大きな強みにもなるのである。

 

 男は分厚いクロースアーマーを(まと)っていた。

 

 

 対峙する祐一郎は盾一つで、既に認識速度16倍の加速状態に入っている。

 

 

 男はすり足で得意げに得物を回し、嗜虐心に歪んだ口をひらいた。

 

「へ、あの時みたいに足場は助けにならないぜ?

 覚悟するんだな」

 

 一切顔色を変えない祐一郎に違和感を覚えた——。

 

「なんだ? 言葉が解らないのか。

 ……ち、まぁいい。

 どのみち同じことだな」

 

 視界の邪魔になるので祐一郎は言語翻訳機能のあるチャットウィンドウを閉じていたので、男の話す言葉はまったくわからなかったが、会話を打ち切って本格的に戦闘を開始するというニュアンスは雰囲気として受け取り改めて盾を構え直した。

 

 

「——いくぜぇ」

 

 

 パガァン——

 

 

 祐一郎の両腕が痺れた。

 それほどの衝撃だったからだ。

 受け流さず止めたのも悪かっただろう。

 

 

 ガァン——ガス、ガッ!

 

 

 狂戦士のような猛烈な連打が続く中、祐一郎の盾は悲鳴を上げていた。

 ただでさえ中古でぼろい物だ。

 こん棒が打ち付けるたび何らかの破片が飛び散っていってしまう。

 

「ああ!? どうした?

 ママンを頼りにして時間稼ぎかぁ?」

 

 男は嗜虐的に歯をむき出しにしてこん棒を大きく振りかぶる——その一瞬。

 祐一郎は大きく踏み込み胴に盾の縁を叩きつけた。

 

 

 ド

 

 

『ッ——』

「? ハハッ!

 ばぁか!

 きかねェよ!」

 

 分厚く柔らかな素材に衝撃を吸収され祐一郎の攻撃は届かなかった。

 いくら認識速度16倍の恩恵によって超人的な反射神経を得ていたとしても、筋力やスピードは増したりはしない。

 純粋な防御力と堅実な戦略の前には無力なのだ。

 

 祐一郎はこん棒の石突きで背を打ち付けるられると距離を取った。

 距離が近すぎるためこん棒の本来の攻撃力は発揮できなかったが、体格差がある以上組み付いた状態を維持するのは祐一郎にとって不利になる。

 男は余裕たっぷりに無駄口まで叩いて見せる。

 祐一郎を敵とすら認識していないのだ。

 

「盾一つでどうにかなる訳ねーだろ!

 タコみたいに全身砕いてやんよ!」

 

 火傷の男は再び祐一郎を滅多うちにし始める。

 

 明らかに祐一郎にとって敗色濃厚であった。

 なにせ盾による打撃がまったく効いてないのだ。

 さらに朝方イーレシスンにボコボコにされた傷は完治しておらず、尚更(なおさら)に形成は悪い。

 

 

 ガス——ゴン

 

 

 このままでは、程なく削り切られてしまうだろう。

 あたりまえだが火傷の男は祐一郎の命など虫ほどにも気にかけていない。

 

 抵抗を止めれば嬉々として命を奪いに来ることは明白である。

 

 そして抵抗する体力すら無くしてしまう、そのボーダーラインは残酷にも刻一刻と近づいていたのである。

 

 

 ガン——ス——ガ!

 

 

 ——やがて受けそこない流しきれなかった打撃が腕や肩を打ち付けるようになっていった。

 

 

 

「——はぁ、はぁ。

 畜生——なんなんだ……」

 

 

 一方。男のほうにも疲労が溜まってきたようで、滝のような汗を流し始めていたのであった。

 

「ゲホ。なんだ……暑いな」

 

 それもそのはず。真上の中空には太陽がぎらぎらと照り付ける中、分厚い布の鎧を着こんで激しく動き回っていれば疲労してしまう。

 

 火傷の男もようやく祐一郎の企みに気付いたのだが、同時に違和感も覚えていた。

 それは経験的にこれほど早く、暑さによる疲労を感じたことが無かったからだ。

 

 とはいえ、実際にそんな状態に陥っている以上そう考えるしかない。

 体調が悪かったとか、今日は特別暑いとか偶然が重なった結果だと結論づけた。

 

 悪運と悪知恵だけの生意気な奴隷に後れを取ったと思った悔しさから、男は歯をむき出しにして激情に身を任せた。

 

 

「——そうか、わかったぞ!

 この炎天下で俺が疲れるのをまってやがったんだな!

 そういうのを小賢しいって言うんだよ!」

 

 

 ドガッ!

 

 

『ぐえェ——』

 

 ついに男の蹴りが祐一郎の腹を捕らえ意図せず声が漏れ出る。

 彼は前のめりに頭頂部を(さら)したのである。

 

 ——もはや、勝敗はついたといっていいだろう。

 

 

 祐一郎の目論見は男の体力を削り切る前に潰え去った。

 所詮戦い慣れた人間に対して、小賢しい小細工に過ぎなかったのだ。

 

 

 ——祐一郎の物語は意味も無く。ただただ唐突に。ここで終わりを迎えることになる。

 

 

 認識加速があったとしても、言葉も(ろく)に理解できない奴隷の異世界人がのうのうと生きていけるほど甘くは無い。

 

 肉体労働で酷使されて使い潰されるのがオチである。

 この世界では1年も持たないというのはよく聞く話だ。

 

 本来なら彼が現れたあの場で果てていてもおかしくは無かった。

 なぜなら都合よく親切にも村の近くに置かれている、というのは不自然極まりないからだ。

 

 ランダムに配置されるなら海上でも良かったはずである。

 地球上では面積の7割が海だからだ。

 

 はたまた人里から1km程度離れた森林地帯であっても十分死ねるだろう。

 適当な刃物がある状態でも藪を掻き分けて道なき道を進む場合時速0.1kmがいいところ。

 最短10時間。しかも人里の境界は歪である。

 最寄りの民家へ到達できると考えるのは都合が良すぎる。

 

 仮に街道沿いにあらわれたとしよう。

 しかし遭遇するエルフが友好的とは限らない。

 よくて奴隷として使い潰される運命——。

 

 

 ——Payback.

 

 

 彼の強運は今、この場で(ようやく)く払い戻しが行われるのだ。

 

 ——その命によって。

 

 贖われる

 

 

 傾いていた平均値は修正され、偏差も誤差範囲内へと戻ってゆく。

 

 生命を(つな)ぐ体温が偶然にブラウン運動によって外気へ逃げ去って行くように。

 或いは、偶々(たまたま)に風で痕跡すら跡形も無く消滅する屍のように。

 灰は灰に。土は土へと。運命づけられた本来あるべき姿へと還る。

 エントロピーは例外を好まない。

 かくあるべしと拡散してゆく。

 彼は死ぬべくして死ぬのだ。

 

 ——この世界では名も無き一人の日本人は、誰の記憶にも残らず。ただただ悪戯に。ただただ無意味に消え去る。

 その肉袋は斬首刑をまつ罪人のように項垂れるのみである。

 

 

 

 そして——火傷を持つエルフの大男は、無慈悲に、残虐で、凶暴な、殺すためだけ以外に存在し得ない、ただの棒を振り上げるのだ。

 ついに処刑人は残忍な笑みを浮かべ死の宣告を行い、その日本人の命を奪った

 

「しぶとかったが……所詮奴隷だな。死ね——」

 

 

 

 ——かに思えた

 

 

 

 こん棒を大きく振り上げた……が、何かがおかしい。

 視界が一瞬暗くなったのだ。

 それにコゲ臭い。

 男は立っていられずよろけるようにその場に尻もちをついた。

 

 

「なん……だ、コレ」

 

 

 男は急激に悪くなる気分に眩暈(めまい)を覚え、吐き気を必死にこらえた。

 

 

 

 ゆらり——

 

 

 

 まるで幽鬼のように上体を持ち上げたのは日本人奴隷の亡霊であった。

 その奴隷はにたり(・・・)と笑い男を見下ろしたのだ。

 

 

 

『勝った——』

「ああ!?

 ……てめぇ!

 何がオカシイんだ!

 笑ってんじゃねぇぞ!」

 

 

 男は気勢を上げたが所詮勢いだけの代物で迫力に欠けたこけおどしに過ぎなかった。

 すでにそれほど消耗していたのである。

 

 

 パガ

 

 

 奴隷は渾身の力で男の顎を打ち抜くと、あっさり男はその場に仰向けに倒れたのであった。

 

 

『ふぅ……危なかった』

 

 

 ——さて、なにが起こったのか。

 

 

 

 ボゥ

 

 

 突如、男の分厚いクロースアーマーが燃え始めた。

 

 いや。既に燃えていたといったほうが正確だろう。

 

 

 低温火傷というものがある。

 多少熱い程度でも長時間(さら)されれば深刻なダメージとなる現象だ。

 

 

 そう。祐一郎がタックルしたとき男の布製の分厚い鎧の下を

発火(イニシャライズフレイム)≫で燃やしたのだ。

 

 

 魔法的な炎は本来火が付きにくいような素材でも容赦なく火口とする。

 更に炎天下で重要臓器を加熱し続けたのである。

 ただでは済まない。

 

 体の機能を整える根幹たる臓器を攻撃され続けた男は、もはや立つこともままないのであった。

 

 これは無自覚にクリティカルな内臓への炎上ダメージを積み重ねていった結果である。

 

 あたかも男の火傷痕は、低温火傷により敗北する未来を暗示していたかのようでもある。

 

 

 そして祐一郎の勝利である。

 

 

 彼の強運はまたしても命をつないだのだ。

 

 

 




鍛冶魔法師編は次回で最後です。読了ありがとうございました。
次はヴァンパイア編の予定です。引き続き読んでくだされば幸いです。
所持品

 装備:服 1kg
 装備:ズボン 1kg
 装備:インナー 0.5kg
 装備:靴下
 装備:靴 0.5kg
 装備:円形盾 4kg
 装備:円形盾 4kg
 リュック20L 10kg{
  水袋 4L 0.5kg{
   水4kg
  }
  水袋 4L 0.5kg{
   水4kg
  }
  小麻袋 1L{
   干し肉0.3kg
  }
  小麻袋 1L{
   干団子0.4kg
   干団子0.5kg
  }
  陶器の瓶0.75L 1kg{
  }
  小型ナイフ0.5kg
  包帯0.5kg
  小袋 0.2L{
   木の小物入{
    裁縫道具
   }
  }
  小袋 0.2L{
   火口 0.04kg
   火打石 0.2kg
  }
  靴 0.5kg
 }
 
 Total:32.94kg
時系列順設定集 0000〜0013+0012蛇足へ
時系列順設定集 0012_00〜0012_09へ
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