刹那の旅路   作:靴下9153

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修正しました
 祐一郎 は異世界で亜人に奴隷として売られてしまう。
 同郷の奴隷達から、人間だけの理想郷の噂を聞かされるが、ダークエルフの女イーレシスンに買われた。
 三日目:イーレシスンは故郷に帰るための魔法のアイテムを求め、ダンジョンを目指す。
 火をつける魔法を覚えるなど、虎視眈々と力をつける祐一郎。
 船を乗り継いで港へ辿り着き、魔法鍛冶師誘拐未遂を防ぐ。
 四日目:ハロが同行。
 イーレシスンと知り合いの兵士が現れ、ヴァンパイアに殺された被害者達を調べることになった。
 第二の被害者クォブを殺害したのは詐欺被害者のギェンであった。
 そして第三の被害者ジャーの邸宅へ向かう途中、下女リヤノを助ける。
 捜索を開始しようとした矢先、衛兵ヴーは蛇に絞殺されていた。
 そんな中、またしても瓶の割れる音が響き渡る。
 其の二十八
 この章の登場人物{
  ハロ:同行することとなった女性。黄エルフ。ゾイと同行中
  ジャグ:兵士。直情的。叔父が権力強め。黄エルフ
  リヤノ:下女
  アナナイ:純正先住ズーラ・ストラ(エルフ)。白エルフ。醜い背曲がり。男性。ジャーに拾われ育てられた。年齢不詳。イヌの世話をしている?
  モラン:執事。大柄な高齢男性。黄エルフ
  レ:衛兵
  ヴー:衛兵、蛇に殺害される
  グエン:衛兵、語尾に「よ」を付けがち
  ファニ:下女
  ウェイ:通いの下女、おばさん
  ダン:屋敷の主人の名前
 }
 捜査メモ{
「ファノ。売春宿の従業員。男性23才。裏路地で倒れていました。契約結婚をしていたようです。親族から苦情が寄せられています」
[/]解決済み:「クォブ。大工。32才。私の担当区域外。屋根補修詐欺の噂がありましたが担当者は賄賂で見逃していたようです。住民には相当不満が溜まっていたようです」
「ジャー。金貸し。43才。飼ってる犬を嗾けて子供に噛みつかせて大怪我を負わせましたが、やはり担当者を賄賂で丸め込んでいたようです。周辺住民は不安を感じていたと耳にしています」
 }
 イーレシスンの口調は、onepieceの女海賊をイメージしてます。


0012_27 追加分/一週間に起こった出来事 その二十八

 

 衛士ジャグは懐から手を腰に当て、祐一郎達を出迎えた。

 すでにジャーの跡取りダンと、執事モラン、ジャーに育てられた先住民(オルムウッド)の錬金術師アナナイが到着していた。

 下女のファニは仕事があるので、この場から去ったようだ。

 

 衛兵のヴーの死体については、もうすぐ日も暮れるため明日だ。

 それから、情報のすり合わせを済ませた一行は、トカゲのばら撒かれていないほう、東側の階段を使って殺害現場へ向かうこととなった。

 

 ——書斎に内側から鍵をかけて亡くなっていたという。

 

 密室殺人という訳だ。ジャグがダンへ当時の状況を確認する。

 

 

「聞いたところによると、ヴァンパイアの噛み跡があったとか。発見時の状況はどんなだったんですか?」

「時間は夕方過ぎでしたね。少し早い夕食を取った後書斎に。書類を整理していたようです」

 

『(——歩きながらだと、チャットウィンドウから文字が断片的にしか拾えないな。

 しかも階段だと余計に……ん? なんだこの染み——)』

 

 階段に液体を溢したような染みがあった。壁から下方向へ放射状に広がるような染みだ。

 恐らく壁に跳ね返ったあと、ステップにぶちまけたのだろう。壁や手すりに点々と跳ねた染みが残り、派手にやらかした様子が分かる。

 溢れた液体も段差状の滝のような染みとなっている。まだ新しいようだ。

 気が付いたジャグが問いかける。

 

「この染みは?」

「そ、それはリヤノがエリクサを溢してしまった物で……彼女は悪くない」

 

 吃音気味に答えたのはアナナイだ。

 

 因みに。魔法の素質を持つものは互いに分るので、少し前にアナナイに確認してもらおう、という話になったのだが、既に確認済みである。

 そして燻煙された【爬虫類忌避(きひ)】のエリクサの存在も、同様に感じ取ることが出来る。

 

 ——アナナイから視線を移したジャグは、後ろにいるリヤノに問う。

 

「もしかして【爬虫類忌避(きひ)】のエリクサですか?」

「ええ……そうです。もうすぐ散布する頃だったのですが、誤ってこぼしてしまって」

 

「ちょっとまって。【爬虫類忌避】のエリクサが撒かれた事を知ってて、さっき黙ってたのか?」

「言い出すタイミングを逃してしまって、他の方も知ってると思っていたので……」

 

「「「????」」」

 

 齟齬(そご)でもあるのか。皆、疑問符を浮かべている。

 ジャグはグエンとレに問いかけた。

 

「衛兵の二人は知ってたのか?」

 

「知らなかった」

「普通に買い出しだと思ってたよ。別にヴーが行ったんだからいいだろ」

 

『(途中で帰っちゃったんだからダメだろ)』

 

「いったいどういうことなんだ。まったく分からん。

 というか、エリクサ用のカバンを持っていたのに気が付かなかったのか?」

「そ、それは。俺が持たせた別の大きいサイズのヤツだ。

 い、いつものは、お父さん(・・・・)の部屋にある」

 

「ふむ。そうなのか——」

「ああ、アレ。エリクサのやつだったのかよ」

「瓶の音がしていたはずだが、気が付かなかったのか?」

「そんな細かいこと、いちいち気にしねーよ」

「……(馬鹿だな。コイツ)」

 

 ——そもそも何故、リヤノがエリクサを買いに行ったのか、である。

 グエンが口を開いた。

 

「元々ジャーの旦那が生きてた頃は、俺がエリクサを買いに行ってたんだ。

 物が多いときは、下女の誰かについてきてもらってたからよ」

「曲りなりにも貴族だろう。配達して貰えばいいじゃないか。何故わざわざ買いに行く?」

「他じゃ知らんがよ。ココじゃそういうやり方なんだ」

 

『(理由になってない)』

 

「少しいいかな——。

 以前は父が直接指示して買いに行かせていたんだよね?」

「ああ、そうだよ」

「アナナイがエリクサが減っていることに気が付いて、恐らくだけど、リヤノに頼んだんじゃないかな? アナナイがまともに話せるのは彼女だけだしね」

 

「——で、黙ってた理由は……勘違いってことでいいのか?」

 

「アナナイの没交渉が悪い!」

「え、い、いや——か…買えさえ、すれば…、いいじゃないか——」

「なんだと!」

「ひっ!」

 

「報告はして欲しかったね」

 

 どうやら、齟齬(そご)があったようだ。報連相がしっかりしていれば防げただろう。

 

 それにしても、である。エリクサの販売者が届ければ済む話だ。しかし、諸事情により、ウアジェトでは(いち)を介して供給される。

 手に入らない特殊なエリクサは、直接出向くか、配達を受けるなどの手段がある。

 しかし、位の低い貴族はその限りではない。特殊なエリクサの製作を行う錬金機関は領主直属。欲しければ自ら取りに来い、という訳である。

 

 

「アナナイさんが、【爬虫類忌避】のエリクサを作ることは出来なかったんですか?」

「む、無理だ。今、【睡眠】のエリクサを作ってる最中だし、【爬虫類忌避】のレシピを知らない……」

 

「エリクサは錬金術師が何週間も付きっ切りであたる必要がある。一種類を一度に大量に作るものだ。何種類も一人で作れるものじゃない」

「なるほど……【睡眠】のエリクサはどういう目的で作っていたんですか?」

「お父さんが、ね、眠れないと。言ってた。だから——」

「ふむ——」

 

 イーレシスンの補足に、アナナイのエリクサ作成。

 ジャグは考えを整理するため、腕を組んで考え込む姿勢を見せた。

 

 続いてイーレシスンが疑問を呈する。それに対し相槌を打ったのだダンである。

 

「——エリクサを買いに、と言ったが。それほど頻繁に買いに行く必要があるのか?」

「そうだね——。

 それは【爬虫類忌避】以外のエリクサも使うからだろうね」

「それが購入頻度とどうつながりがあるんです?」

「ふむ。父は突然苦しみだすことがあってね。【回復】のエリクサを常飲していたんだけど。

 【回復】のエリクサに加えて、特殊な【爬虫類忌避】のエリクサも定期的に必要だったんだ。

 グエンが父から直に命令を受けて買いに行っていたよ」

「それなら、買い溜めしておけばいいのでは?」

「ええ、御尤もです。

 エリクサは基本密閉しておけばいくらでも持ちますからね。

 空間さえあるなら一度に買い込んでしまえばいい訳です。

 たぶんですが、【回復】のエリクサは求める相手が多いせいではと思ってます」

 

 買い物に行っていた当の本人である、グエンは話の内容を理解できてないような顔だ。

 

 事の発端は、リヤノが【爬虫類忌避】のエリクサを割ってしまったのが原因である。

 

 本来なら、跡継ぎの執事かダンへ報告するはずだが、何故かアナナイが介在している。

 ジャグはリヤノへ問いかける。

 

「ふむ、リヤノさん。お金はどうしたんです?」

「もちろん、弁償するつもりです。ただ手元に無くて、丁度その場にいたアナナイさんが立て替えてくれて。

 そのまま流れで買いに行くことになったんです。

 それで、付き添いとしてグエンさん達に頼んだのですが、受けてくれたのはヴーさんだけでした」

 

「——わからんな。なんでリヤノの護衛を断る? 必要なんだろう?」

 

「オルムウッドに尻尾を振る売女だよ」

「ごめんだ」

 

『(なんというか——)』

 

 衛兵の二人のふざけた答え。

 祐一郎はこの構図に心当たりがあるのだ。そう、いじめだ。彼女を孤立化させようという旗振り役がいる。

 

 性欲の強いヴーには下心があったのだろう。彼女の体だ。

 リヤノはヴーの要求を跳ねつけた。その結果彼女を置いてさっさと帰って、ファニに迫ったのだ。

 そこで起こったのが第二の殺人。というより事故であるが——。

 

 何故ファニなのか。

 断られて、何故直行したのか。

 

 性欲モンスターのヴーを引き込むために、ファニは体を使ったのではないか。それともヴーが要求したのか。

 そんな関係性を連想するものがいてもおかしくない。

 

 祐一郎は密かに拳を握り込んだ。

 

 

「——もういいかな?」

「ええ、現場へ案内してください」

 

 

「あの、私はこれで——」

「——すまん、厠が俺を呼んでるらしい」

 

 リヤノの退出と同時にイーレシスンは、唐突にそんなことを口走った。

 

「…っ、厠が、呼んでるのか。それは大変だ。早く駆けつけないとな。案内しようか——?」

「大丈夫だ。分かってる。それから復唱しないでくれ」

 

「台所の横の勝手口から行く事を勧めるよ。裏口からだと犬が(うるさ)いからね」

「そうしよう」

 

『(過剰に介護されるイーレシスン。なんで、始めてきた屋敷の便所の場所がわかるんだ。イーレシスン大丈夫か? 便所を探す魔法?)』

 

 ギン——

 

 祐一郎はイーレシスンの視線に石化した!

 

 

 (かわや)は衛生環境のよろしくないこの地域では、室内ではオマルか、例外を除いて外に(しか)るべき構造物がある。

 案内の打診は勝手にフラフラする事への釘刺しだ。

 

 イーレシスンは唐突に槍を放って渡してきた。

 

『祐一郎。これで蛇とでも遊んでやれ——』

『っと! え? どういうこと!?』

 

「ほう、マジックバッグ ですか」

『(わざわざ口に出すか…)』

 

 槍を取り出したのは、一見片手に収まる こじんまり としたただの革製の小さな鞄だが、中身は2mの槍が3本入るほど底が深い。因みに重量はそのままである。

 

 ——そして非常に希少で価値が高い。

 

 イーレシスンは鋭い視線をダンへ送ると、さっさと勝手口の方へ行ってしまった。

 

 祐一郎は、衛兵二人と執事、ダンと二人でジャグの殺害現場である二階の書斎へ向かう。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 ——まず暑い。戸を開けた瞬間、ムワっとした熱気が首筋を通り抜けた。

 そして、鎧戸のある南向きの大窓が目に飛び込んでくる。

 

「窓を開けてくれないかな」

「了解だよ」

 

 屋敷全体をコの字型に例えるなら、縦棒の中間がこの部屋だ。採光を意識した明るい作りだが、そのせいで暑いのだろう。

 窓を開けた途端、熱風が流れ込み廊下へと抜けていった。スコールで涼しくなったように感じたのもつかの間、暑さが戻ってきたようだ。

 

『(コの字型で南面を最大化したいなら、90度ズレてるよ。二本ある横棒を南北に水平にしないと。

 コの字の角が丑寅(うしとら)(北東)の鬼門になる訳だ。開かずの間があったりして)』

 

 窓に向かって仕事机が置かれ書類が積み上がっているのが見える。部屋の両側の壁には棚が置かれ、巻物や書類、様々な道具が所狭しと並べられていた。

 箪笥のような収納は、主に窓のある南側に置かれているようだ。それが圧迫感を与えている。

 

 

「——ここらへんじゃ珍しい建物ですな。ダンさん」

「ええ、父が大陸から建築家を読んで作ってもらったそうです。

 外の熱気を流すために壁が二重になっていて、地下から冷えた空気を回してるとか聞きました」

「二重? 確かに分厚いですね」

 

 ジャグは入口で頭を出たり入ったりさせている。話が分からないと挙動不審にも見える。

 

 コン——コン——

 

 明らかに空洞が無ければしないであろう反響音が帰ってきた。

 

 

 ドン——ドン——コツ

 

 

 間隔とは外れた場所だ。何かある。

 机の後ろ、なにか隠そうとするならうってつけの場所だ。分かりやすすぎるともいえるだろう。

 

 ズリ——

 

 小さな棚をどけると、戸が外れた隠し扉が見つかった。

 

 

 祐一郎には読めないため内容は分からないが、恐らく権利関係の書類だろう。

 中はかなり荒らされて乱雑となっている。扉が剥がされていた事といい、中身の状況といい、誰かに暴かれた後なのかもしれない。

 

 壁の中は結構広く、上と横方向に続いているようだ。幅20cm以下なら行き来できるだろうか。

 

 

「——おい! 何してるんだよ!

 外に出てろよ、馬鹿野郎——」

 

 すごいで剣幕グエンが祐一郎の肩を掴む。

 何しろ当主の殺された部屋。何より重要書類のある場所。

 当然神経質になる。

 

 殴りかかってきたが、するりと避けた。

 

 祐一郎が狭い部屋の中で2mもある槍を(つか)えないよう回避する様は、まるで舞踊だ。

 

 

 この——この!

 

 

 激昂するグエンの拳を避けているうちに、言われた通り部屋の外へ出てしまう祐一郎。

 

 それに対し、グエンは突き出されて彷徨う拳を人差し指に変え、後退りながら負け惜しみのような台詞を吐いた。

 

「おっ! く……くそ——それでいいんだよ! はぁ、はぁ——」

「——彼は凄いな」

「ぐぅぬぬ……!」

 

 どうやら、余計な恨みを買ったようである。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 ——隠し扉だ!

 

 

 

 遠くで何か聞こえるが、気のせいだろう。

 

『(イーレシスン、うんこ長いなー。どんだけ我慢してたんだよ——)』

 

 祐一郎は(ひま)なので壁にもたれていた。

 因みに荷物は下に置いてきている。流石に衛兵の連れで明らかに荷物持ちの背嚢には手を出さないだろう。

 

 ごそごそごそ——

 

 壁に後頭部を預けていると、背後から音が聞こえた気がした。

 後ろの部屋を覗くと、誰も居ない。

 鬼門の方角にあたるが、流石に異世界にまで来て鬼門はないだろう、と思う祐一郎。

 聞こえるとしたら、壁の中からだが……

 

 思案げに目線を上にやると自然 天井が視界に入る。

 階段の吹き抜けにはトカゲが張り付いていた。

 祐一郎の視線を避けるように、するすると別のトカゲが登って行く。

 

 ——なんとなく摘まんでみた。くねくねと手に張り付いてくる。

 

 足元に落とすと足の間を縫って、背後の壁を一直線に上へ登っていく。

 再び摘まみ、下り階段へ放り投げると、祐一郎へ向かって登ってきた。まるで捕まえられるためにやってくるようだ。

 

 

 ——何度やっても結果は同じだった。

 どうやら、上へ向かおうとしているようだ。

 

 重いガスは下へ向かう。極端に差があればドライアイスのように見えるはずだ。

 もし【爬虫類忌避】のエリクサで発生したガスが下へ溜まるなら、爬虫類は上へ向かうのではないか。

 

『(だから二階にトカゲが大量にいたんだ)』

 

 だが、仮に忌避させたとして、それだけ集まるということは、元々そこにいたということだ。

 この屋敷では定期的に【爬虫類忌避】のエリクサで除けていたのだ。

 そして、餌が無いならさっさと去って行くだろう。

 そもそも、何故この場所に集まって来たのか、である。

 定期的に集まるなら、目撃されていてもおかしくないが、それを祐一郎が直接的に知るきっかけとは出会えていない。

 

 他の理由で二階に大量に現れた可能性もある。

 

『(この屋敷には屋根がある。屋根裏があるはず。まだ爬虫類がいるかもしれない……。

 というか、そもそも。なんで推理物に巻き込まれてるんだ)』

 

 祐一郎が解決のために頑張る必要など無いのだ。それはイーレシスンの役目。

 何よりも、彼は経験を得ることに拘っている。それは傍から見れば焦っているようにも見えることだろう。

 

『(とにかく、魔法とか、技術とか、伝手……はムリかなぁ——)』

 

 気もそぞろに天井を仰ぐ祐一郎。

 天井の板の継ぎ目が黒ずんでいるようにも見える。

 

 ——

 

 音にならない音——産毛を震わす些細な振動。

 

 

 天井全体で何者かが存在を主張している。

 

 

 ワン——ワン——ワンワン!

 

 

 外で犬が吠え始めた。餌の時間だろうか——。

 日が傾き西日は隠れて足元の通路に影が迫る。

 

 急に不吉な気配となる屋敷に、胸騒ぎを感じるのは不自然なことだろうか。

 祐一郎は無意識に緊張しているのだろう。手を握りしめていた。

 

 通路の奥には、さらに上へ向かう階段が背中を向けている。

 

 屋根裏へ向かう天井は、トラップドアでしっかり閉じられており、トカゲや蛇が入り込む余地は無い。

 

 ——開けてみるか!

 

 

 好奇心に突き動かされるかのように、屋根裏へ向かう階段へ近づく。

 

『(またどやされそうだけど……気になる——。

 まぁ、何にせよ、屋敷の中は見て回る訳だし——?)』

 

 さっきの事を思い出すかのように思案気に壁を見つめる。

 

『(いや、まてまて——差し出がましい、ってやつだよ)』

 

 顔を上げ、天井を注視する。

 

『(——絶対に、何かいる…よな)』

 

 ……トカゲで遊んでいた(・・・・・)祐一郎に注意を払うものはいない。

 

 

 ギシ——

 

 

 通路の折れ目の急な階段を上がって行く。軋むステップは、二つの長い板に挟んだだけの簡単な構造だ。

 空いたドアから差し込む西日に、ステップの綿埃が舞うのが見える。

 

 ——埃が舞ったのはこの場所を誰も通らなかった、ということではないか?

 

 予測を裏付ける状況証拠を確信を深めるために、トラップドアへ耳を澄ます祐一郎。

 この先にいる存在に好奇心を抑えられないのだろう。視線はドアを釘付けにして揺るがない。

 

『(もしかして……屋根裏に爬虫類をモリモリ出す何かがあったりして。

 俺と同じように、突然この世界に呼ばれて出る穴がある——!? もしかしてそこから帰れる!?

 そうだ! あれだけの量が屋敷にいるはず無い!)』

 

 そう、他にも爬虫類の存在を仄めかす出来ごとがあった。

 瓶に詰まったトカゲだ。

 それは彼の予測を裏付けているようでもある。

 

 

 ギ——

 

 

 トラップドアに手を掛ける。

 逃げようとも奴隷としての未来しかない。そんな世界から帰れるのだ。

 そんな期待に急かされるかのように、力を込める。

 

 

 重い——!

 

 

 ——本当に屋根裏に何かあるのか? そんな疑念を抱いたのか、祐一郎は動きを止めた。

 

 好奇心と期待。

 

 念のため、ステータスウィンドウを起動し、認識加速状態となる。

 そして、祐一郎は疑問を振り払うように、ドアを力任せに押し上げた。

 

 すると——

 

 

 ドドドドドドドド——

 

『うぉぉぉぉぉぉぉぉ!』

 

 

 ヘビやトカゲが雪崩を打って落ちてくる。爬虫類の滝だ!

 慌てて飛び降りる祐一郎——

 

 

 

「なんだよ!?」

「——げっ!? 蛇ィ!?」

 

 騒ぎを聞きつけて、部屋からドタドタと出て来た。

 ダンとグエンとレに執事、そしてジャグが、その現実離れした光景に驚愕の声を上げた。

 

 祐一郎はもつれるように。しかし、噛みついてくる蛇を紙一重で躱しながら、部屋の前まで逃げる——

 

 

 スィン——

 

 衛兵たちが武器を抜く。

 

 蛇の雪崩は今だ衰えない。

 そして、天井からは巨大な何か(・・)が覗き込んでいた——。

 

 

 

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