今代の勇者は随分強いと、風の噂で聞いている。
なんでも農民の娘が、素晴らしい素質があるとして徴兵されたらしい。哀れなことだ。
……しかし、勇者が代替わりしたという話を聞くと、今と昔の違いに目眩がしそうになってしまう。勇者を徴兵なんて、てんでおかしな話もあるものだと。
最初、勇者とは見出されたものではなく、魔王を打ち滅ぼすために造られた英雄だった。
当時名を馳せた英雄と賢者の血を結び、そうして生み出されたのだ。最初の勇者は英雄になるべくして生まれ、英雄になるため育てられ、英雄に相応しい仲間をあてられた。そして何もかも
それによって彼女の心が折れてしまったと気付いたものは、果たしてどれほど居ただろうか?
きっと、いなかっただろう。
あの時共に旅をした親しいものは、全て死に絶えてしまっていたから。
勇者は嬲り殺される数多の兵を見捨て、呪いの炎に焼かれる仲間を見捨て、魔王へと剣を突き立てた。そんな勇者を人々は讃えた。それが、駄目だった。堪らなく不快で、気色悪くて、私に憧れの目を向ける人々が恐ろしくて…
多くを捨てた自分が、相応しくない英雄もどきが、あたかも理想の存在であるかのように讃えられる…そんな悍ましい世界を肯定できなかったのだ。
その後、しばらくは世の為、人の為と尽くしたが、5年と待たず勇者は姿を眩ませた。
今は生まれた地より遥か遠く。自らの素性も使命も放棄して、大陸の辺境、名前も無い辺鄙な農村の外れに暮らしている。
それが勇者の…かつて勇者と呼ばれたモノの、成れの果てだった。
「動かないからと来てみれば…なんだ、そのザマは」
そして長い年月を経て、性根腐り果てた私の前に、何故だろうか?あのとき確かに滅ぼした魔王が立っていた。
あの時以上に恐ろしい魔力を迸らせる竜人が、あの時に仲間を引き裂いたギザ刃の魔剣。その切っ先を私に向けて、私を愚物と罵倒した。
シュルシュルとヘビのように鳴く彼は、軽蔑の感情を全く隠さずに言葉を続ける。
「俺を討ち果たした大英雄ならばあるいは、などと考えていた俺が阿呆のようではないか。何故、それ程までに零落れた?」
「気色悪いよ、殺すなら殺すことだね」
そんな目で私を見るなと思った。
どうせなら今代の勇者の下へ…とはさすがに思わないけれど。
勇者は辞めたが、人は辞めていない。ただ徴兵されただけの、勇者とは名ばかりの哀れな天才に、殺されてしまえとは思えなかった。
最初に戦った彼はそれほど…少なくとも、その後に私が戦った魔王たちと比較すると、ずっと強大だった。
そうはいっても、これはないだろうと思う。
こんな世界の果てまでやってきて、何を思ったかそこに城を築き上げた。…その理由がまさか『私』だなんて分かるわけがない。
こんな隠居老人を捕まえて、何を考えているのか。
あれから一体何年経ったか分かっているのだろうか?
間違いなく300年は過ぎている。それで人に変わるななどと…冗談ではない。
まぁ、私がこうなったのは、あれから4、5年も経った頃の話だけど。
「剣を持て、立って…戦え。いっそのこと俺とでもいい」
まるで乞うように魔王が告げる。
魔物風情がなんて顔をしているのか。まるでそれは、…まるで人のような表情ではないか。
「あぁ、傑作だね…私は魔王にそんな顔をさせるような女だったのか?あはは…っ!」
それがあまりにも滑稽で、自らが救おうとしてきたものと変わらない形をしていて、笑いを堪えきれなかった。
なんて皮肉だろう。私はもう、救うべきものと倒すべきものの区別すらつかない。
思い出すのは使命を与えた先生の顔、平和を願った民の顔、己を娘と知らぬ両親の顔。何もかもを取りこぼした私に何を期待しているのか、私を見て何ぞ願うその表情!
そうして笑っている内に、彼の…私を訝しむ目に気が付いた。
「はぁ…そんな目で見ないでよ。…君はさ、今さら私に何を期待しているの?」
とてつもなく冷める。
私を神とでも思っているのか?それで…期待を裏切った私に失望でもしているのか?
その薄気味の悪い感情が、愚かな私を酷く苛むのだ。
「…魔王なんだろ。魔物の願いを人間様が叶えてやると、本気で思っていたの?」
「…っ!」
一瞬、表情を怒りで染め上げたが、すぐに彼は目を閉じ…そして大きな溜息を付いた。
まるで理性的に、怒りを飲み込むように。
「あれほど輝いていた貴様ですら、斯くも容易く崩れてしまうものなのか」
今度は寂しげな表情すら浮かべる様子を見て、随分と感情豊かになったなと思った。
以前は能面のような無表情で「人は儚い」だのなんだの、訳の分からないことを言って暴れ回るだけだったのに。
ただ、感情豊かになったとしても、その本質は変わらないらしい。
「人は…やはり脆く、儚いな」
そう呟くなり、彼は魔剣を高く振り上げた。
あぁ、これは…構えで分かってしまうものだ。
私が何も変わっていなかったとして、きっと彼には敵わなかったろう。どうやってあそこから生還したのか分からないが、果てしない研鑽を積んだのだと直感する。
魔物如きが、高尚なことだ。
「馬鹿を見たね、私なんかに期待してさぁ…」
「…そのようだ」
すぐに振り下ろされた一撃は、まるで処刑人のように無慈悲で、それでいて洗練された剣であった。それに身を委ねようと両瞼を閉じたその瞬間、まるで想定していなかった音と衝撃が辺り一帯に響き渡る。
微かに聞こえた魔王のうめきから察するに、どうやら彼は剣を振り下ろせなかったのだろう。吹き飛ばされたか。…しかし誰に?
目を開いて、私を助けたであろう相手を見遣る。
「…子ど、も?」
その小さな後ろ姿を見て、ありえないと認められず…思考がフリーズした。
子供だ。
まるで実った稲穂のような金の長髪。どこでも作られているような麻のワンピース。その何の変哲もない平民のような格好で、身の丈に合わないロングソードを腰に佩いている。
……しかし、あり得ない。余りにも不自然だったので、それを認識した瞬間、自分の目を疑った。
彼女のような子供が、果たしてどのような素性であったとしても、ここに居るに相応しい道理はない。
何が起こっている?
ずっと遠くの崖にクレーターめいた大穴が広がっているのを見るに、魔王が吹き飛んだのは確かなことだ。
何故、そうなった?
「おねえさん、大丈夫?」
「…へ、あっ」
そう言って、少女が振り返る。
そのどこかで聞いたことのある声と、黄金に輝く瞳を捉え、そこでようやく思考が認識に追いついてきた。…と同時に、少女の姿が古い記憶と被って見える。
他人の空似…?いや、違う。そこではない。
努めて冷静さを保とうと考える。
驚きで忘れていた呼吸を取り戻しながら、辺りを見回す。しかし、この辺りには誰も居らず、寂れた我が家以外何もない。
やはり魔王を吹き飛ばしたのは、彼女ということなのか?…だが、それは絶対に不可能だ。
明らかに私を超越した能力をしている。それは人を超えた力に他ならない。
人を超えた力…
「君は、まさか…」
「…?」
私の呟きを聞いてか、彼女がこちらを向いたまま首を傾げる。やはりそうだと、悪い汗が噴き出すのを感じた。
声だけじゃない。少女の顔には、間違いなく見覚えがあった。
まさか
ずっと忘れていた古い聖堂、秘匿された命の冒涜…自らの生まれを鮮烈に思い出す。
最初から破綻していたという、私の
「があああっっ!!!!」
思考の最中、猛烈な咆哮が響き渡った。
音の由来は…私たちの直上。その大音量は物理的な破壊すら伴って、私の居住を粉砕する。その戦意が故か、迸る彼の魔力が空間を微かに揺らめかせていた。
やはり彼は、前よりも強い。
気付きが誤りでなかったことを確信しながら音源を見上げた。
おそらく転移の魔法で私達の上まで飛んできたのだろう。彼は落下の最中、先ほどとは異なる構えを見せていた。
あからさまに横薙ぎを繰り出そうとしている深い溜め。刀身に纏わせた魔力は黒い輝きを見せ、剣を握る腕は込められた力の程を伝えるように肥大している。
私はそれを知っていた。
思い出されるのは膨大な熱。衝撃波に乗って襲う魔力の本流は、人を遺灰すら残らないほどに焼き尽くすものだ。
……しかし、それは…奥の手ではなかったか?
ふと湧いた疑問のために、魔王の様子を観察すれば…それを繰り出そうとしている訳を悟った。
蹴られたか、殴られたか。いずれにせよ彼は、まるで粘土に体重を掛けた時のように、腹部が酷く陥没していたのだ。
それはほとんどの存在にとって致命傷となるはずの傷であったが、生憎と相手は魔王。流石に重症ではあるだろうが、死に至るにはあまりに遠い。
「あっ、まずい…にげ…」
魔王の構えを見た少女は、その脅威に気が付いたのか、こちらへ呼びかけようとして…今更私が射程範囲から逃れるのは不可能であると悟ったのだろう。続く言葉を止めた。
そしてすぐさま魔王へと向き直すと、腰から剣を抜き取る。無骨な黒鉄、良い造りの逸品。…しかし魔力も神聖も何も込められていない、量産型の域を出ない品だ。
少女はそれを片手に、軽く腰を落として相手を見据えた。
「うおおおおおおおっっっっ!!!!」
長いようで隙のない溜めを経て、魔王がまたもや吠えた。そして剣を振り切る。
その斬撃に合わせるように、私の上方…まるで庇うような位置取りまで跳躍する少女。
やはり迎え撃つつもりでいるらしい。
それはあからさまに愚かな選択だった。
たとえ彼女が
今度こそ終わると悟った私は、愚かな少女。いや、幼い勇者の後ろ姿を最期の景色にしようと、目を閉じた。…目を閉じたのだ。
……認められるか、そんなこと。
勇者ではなく、英雄としてでもなく、ただ人として。そして何より、先に世界を生きた『妹』として、それだけは認められない。
目の前で、自分を守ろうと死にゆく
「『TELEPO』」
辺り一帯が焦土と化していた。
元々は自然豊かな森林地帯だったはずだが、今となっては見渡す限りの焼け野原だ。そこに時折刻まれている巨大なクレーターや底無し穴については、もはやそれが人の手によって為されたものとは。…ましてや、強大な個と個の戦闘により生まれた痕跡に過ぎないとは、到底思えないほどである。
さて、この戦場の中心に残っているものは、たったふたつ。勝者と敗者だけであった。
一方は、仰向けに倒れた竜人。
まだ死んでいないが、やがて死ぬだろう。胸部より下は巨大な質量に押し潰されたような無残な有様、両腕は骨という概念が残っているのかも怪しいほどに砕かれている。
まさしく敗者に相応しい末路であった。
対するもう一方は、幼女だ。
全身が酷く焼け爛れ、右肩から胸の中央に掛けて切り開かれた、何故生きているのかも怪しい有様。しかし、立っている。
それどころか自由に動かせる左の腕で、動かない竜人に剣を向けている様は、もはや只人と表現することは難しいほどの異常事態だろう。
そんなことは…そう。美少女にしか許されない!
並大抵の勇者であればキモすぎた不死ムーヴも、美少女ならば何故か儚い!可哀想で可愛い!!
つまりワイは許された!!
最終的に
というわけで…やぁ、お前ら。ワイやで。スーパーかわいい美幼女TS最強勇者や。またの名を露天掘り厨クソボケ勇者とも言う。
それにしてもワイの全力パンチって、地面に受け流されると底が見えないレベルの大穴開くんやね。初めて知ったわ。草生えん。
次から受け流しにも気を付けんと、ワイが世界を破壊してしまうなぁ。
まぁ、今はそんなことどうでもええんよ。とりあえずワイの話を聞いてくれ。
端的に言うと、ワイは今、正義を謳って人殺しをする人間の屑になりかけとる。
い、いや!違うんよ!!犯人はワイじゃない!
あっ、違うワイや!確かにワイやけど、これには深い事情があってだな……!!
……だって、ぶち殺そうとしてた魔王が、まさか魔物じゃないとは思わないじゃないか!
寸前で気付かなければ、ワイの黄金の鉄の剣(市販品)が火を吹いてたで。
「
「…ッ!がっ、がふ…っ!!」
あっ、もうダメそう…。ダメそうじゃない…?
なんか口から噴水みたいに血を吹き出してるけど…
死にかけとるのに全然魔力に分解されてないし、これもう確定で人だよなぁ。魔物やったらそろそろ身体が魔力になって消え始めてるもんなぁ。
剣で突っついたら、セミみたいに復活して元気になったりせんかな…
あっ、だめ?そう…
様子見に剣で突っつこうとしたら、なんか出来んかったわ。ワイの身体は人道派ってはっきりわかんだね。
ただここまでボロ雑巾になってるものを助けられるとは思えないし、だからと言って介錯するのも流石にキツいし、このまま眺めてるのもええか…
「
いや、さすがに駄目か。駄目だよな…
見捨てるだけならまだしも、殺害するのは勇者としていかんでしょ。
これがもし日本だったら、殺人罪!死刑又は無期若しくは5年以上の拘禁刑に処されてたよ。
まぁ、掲示板のライオンみたいに「それ異世界でも同じこと言えんの?」って言ってしまえばおしまいやけど…
「
正直もう死にかけってレベルじゃないけど、聖女ちゃんならどうにかしてくれるやろ、と。そんな希望を胸に、とりあえず頼ることにする。
ひとまず地面に張り付いた魔王(仮)を引っ剥がすと、赤ちゃんを抱えるように抱き上げた。下半身が無いなってるから、体格差があっても比較的楽に持てるなぁ。
……というわけで、突然飛び出したワイを探してか、この焼け野原を彷徨っていた聖女ちゃんを捕まえるや否や、例の男を治療してもらった訳である。
彼女はそれが魔王であることに気付いていなかったのか、大層困惑しながらも治癒の奇跡を掛けてくれた。
そうして健康体となった彼は、焼け野原に無造作に転がされていた。超綺麗でめちゃ可愛いロリ&お姉さんに見守られながら、こうもぐっすり眠れるだなんて、随分と良いご身分ではないか?
許されるならそうしたいけどなぁ、俺もなぁ。
「しかし勇者様…彼は、魔王ではないのですか……?」
気付いてたんか!?…いや、そら気付くやろ。よく考えたら当然だわ。
こんな森を焼け野原にできるやつなんて魔王くらいしか居らんし、魔王とワイが戦った後に生き物なんて残るわけ無いやろからなぁ…
生存者を連れてくるなんて、そいつが魔王やって言ってるようなものか。
「…
「…」
聖女ちゃんは何かを言おうとして口をつぐむ…そんな様子が見て取れる非常に複雑な表情をしていた。ワイと魔王の間で視線を彷徨わせるクソデカ困惑といったらもう!
その表情は心身の健康に効きますよ。あぁ!彼女はとてもホットです!!
死ぬほどハの字を描いた眉が…うん、おいしい!やっぱり聖女ちゃんの驚いたり困ったりしてる顔は至高の逸品やね。かわいい。
「勇者様はなぜ…っ!?『護りよ!』」
不意に目覚めた魔王が、懐から魔剣を取り出した。戦いの最中、確かに折り砕いたはずの刀身が、音すら超える高速で振り下ろされる様を眺めている。
仰向けの状態から立ち上がり、剣を構え、振り下ろす。狙う先は…ワイの首か?
一連の動作に全く無駄が存在しない凄まじい早業…戦っている時も感じていたことだが、この魔王は非常に武芸に優れているものだ。
その刀身が実際にワイの身体に触れる直前になって、聖女ちゃんの結界が展開される。…が、いくら教会の聖女とはいえ、相手は魔王だ。分が悪い。
魔王と呼ばれる存在は、真っ当な人間の奇跡でどうこうできるものではない。結界は、微かに彼の鱗を焼く程度の効果しか果たさず、展開と同時に砕け散った。
「…っ!」
失敗を悟ってか、聖女ちゃんの表情が絶望と焦りを映す。
そして止められるものが誰一人いなくなった魔王は、ワイの首を半ばまで斬りつけた。…が、振り切らず、途中で手を止める。
ただし、寸止めはしていない。
普通に首から血が溢れている感覚がある。
「
なぜ?理解できぬ。
確かに殺す気はなかったはずなのに…。いやこれ、もしかしてタツジン特有の殺意無く敵を殺す云々ってコト!?でも、それならなぜ首を切り落とさなかったんです??
やっぱ寸止めしたかったってことだよな、でもこれ明らかに薄皮を斬るとかそういうレベルじゃないし…
だいたい三分の一断頭くらいの入刀具合だ。
意外かもしれませんが、実は首に刃物を入れられると、人という生き物は死んでしまいます!
「…何故避けな」
「殺すなら私を」
「『TELEPO』」
魔王の呟きを遮るように叫んだ聖女ちゃんの言葉を、更に遮るようにして魔法の詠唱が響いた。賑やかになってきたなぁ!?
転移の効果とともに、ワイと魔王の間に現れた赤毛の少女は、確かコイツと戦う前に避難させた子…随分参った様子の少女であったはずだ。
いつの間にか剣なんか持ってしまって、しかも強力な洗礼が施された上質なものだ。アス◯ラの直剣なんかより、ずっと強そうな一振りである。
……あれ、君そんな雰囲気やったっけ?
目がギラギラとしててなんか怖いんやけど…
まぁ、雰囲気こそ参っている様子だったが、魔王の必殺技を当たる寸前まで引きつけてから転移の魔法で逃げるという、熟達の魔法使いにしか出来ないチキンレースをしていたのだ。意外とアグレッシブな性格なのだろう。
あの後ワイに詰め寄ってきたものだから、とりあえず気絶させて、わざわざスクロールまで使って遠くに飛ばしていたはずなのだ。それがこうして戦場に戻ってきているのだから、彼女がバーサーカーであることはもう間違いない。
「死ね…っ!」
「貴様は…!?」
そして姿を現した直後に、到底一般人とは思えない鮮烈な太刀筋で、魔王に斬撃を浴びせていた。
それが片手で軽く受け止められたのを見るなり、彼女はすぐに蹴りへと行動を移し、魔王を十数メートルほど後ろへと弾き飛ばす。
「勇者様!!」
魔王の剣が首から抜けると、すぐさま顔面蒼白かつ涙目の聖女ちゃんが、猛烈な勢いで治癒の奇跡を発動させた。
「ぐ、おぉ…これは、…っ!」
一方で、渾身の蹴りを胴で受けた魔王は、自らの腹を手で押さえていた。数瞬の後、ゴポリと口から血液を溢れさせる。ただの蹴りでそんななる??
赤毛の彼女は一体何したんや、魔法も奇跡も発動させてなかったはずやのに…
まさかジュウドウか?
「ぐ、ぬ……何だ、まったく衰えて、いないではないか…」
「…気色悪い」
「大聖女モリオル…貴様も、俺が知るよりずっと…だが、何より」
魔王がニヤリと笑みを浮かべた。堪えきれないと言わんばかりに、腹を押さえたままこちらを見つめている。
なんだその表情は…!?
明らかに幼女を見ながらしていい目じゃないぞ。キモすぎた埋葬。救うべきではなかったもの…あるいはロリコンの諸相。
「…俺は貴様を知らない、イレギュラー。…だがその性能ならば、
「相変わらず、訳の分からないことをっ!」
「今に分かるさ…っ!!」
いかにも重要なキーワードをポロポロ零すわ、赤毛の彼女には意味深な返答を返すわ…
これは大事な場面でシンはワッカとか言ってきて、主人公の動揺を誘ってくるタイプの重要人物ですね、間違いない…
ワイが無知無知すぎて考察のしようがないけど、きっと何かすごい事とか言ってるんやろなぁ…
そんな魔王は、赤毛の彼女と何度か刃を重ねると、一瞬の隙を突いて後方へと激しく跳躍した。そして見せるは大層満足気な表情。なんていうか、こう…フルフルニィって感じ。
明らか隙だらけなのに攻め込まないということは、きっとバーサーカーちゃんも引いているのだろう。
「素晴らしい…やはり技量では敵わない…っ!」
う〜ん、この…
彼は魔剣を手元から消し去りながらも、またキモい感じの台詞を吐いている。
それにしてもあの魔剣、塵となって身体に吸収されるみたいな消え方をしている。もしかして、この世界のつよつよソードにありがちな「やがて魂と結びつき、身体の一部となる」みたいなアレなんやろか?
だったら聖女ちゃんの奇跡で、粉砕した剣が治ってしまったのも納得である。
「そういえば…貴様、名はなんだ?」
おっ、やっぱりワイに興味あるのか?
【悲報】成人男性(亜人)、見ず知らずの幼女に声を掛ける【魔王はロリコン】
「
「…馬鹿にしているのか?」
なんやこいつ…自分から聞いておいて、名乗ってやったら馬鹿にしてるのかって、馬鹿にしてんのはお前やろがい!
急にこっちに話の矛先向けたかと思ったら、一体どういうことなんだ…
やっぱ魔王は碌なやつじゃないな?ワイの分からん意味深なことを説明もせずにぺちゃくちゃ喋るし、何よりワイに斬りかかるし!
「まぁ、構わない。フェイリア…貴様がそう言うのなら、そのまま呼んでやる。あぁ、今日は…今日は良いことを知った」
「逃げる気か!」
瞬間、駆け出す赤毛の彼女…その勢いのままに追撃するも、全く当たる気配はない。痛い目見て反省したのか、どうやら今度はしっかり避けている。
それにしても彼女、魔王が逃げると見てから追撃するまで、ほぼタイムラグなかったけど…やっぱ(戦い)好きなんすねぇ!
「そうだ、勇者よ。俺は逃げる。フェイリア…そいつに気付いた以上、もはや死んでいる暇など無いのだからな…」
今の勇者はワイなのに、なぜか赤毛の彼女を勇者と呼んでみたり、やっぱり意味深な言葉を撒き散らしたり…魔王は結局最後まで場を引っ掻き回していた。
最後、聖女ちゃんに「礼は言わん」なんて、ほぼ感謝そのものなセリフを吐いたかと思ったら、瞬きの間に消え去ってしまったのだ。
「勇者様…っ!ごめ、ごめんなさい!ごめんなさい…っ!痛かったですよね…!」
「
「…ッ!…ごめんなさい、気付いたのに…私が、弱いばっかりに……」
「
「そう、なのですね…?謝ることすら…あぁ、すみません。取り乱しました…」
「
「ええ、はい…いくらでも」
まぁ、聖女ちゃんはワイに夢中で魔王なんか構ってらんないみたいやったけど。なんかもう謝罪が止まらんって感じや。ワイしか見てない。
こうやってワイを抱きしめてる最中も、手先とかプルプル震わせてる。
まぁ、聖女ちゃんを心身共に独占できるのは嬉しいけど、そんな気に病まれると居た堪れないよなぁ。いや、まぁ…守護りたい子を守護れなかったらそうなるのも分かるけどさ。
「もっと、もっと強くなりますから…」
「…
「私は…。私はせめて、勇者様の近くでその傷を癒すことを……許してほしい、だけなのです…」
……次からもっと、ワイの身体にも気を付けて戦わんとなぁ。
・疲れ果てて壊れた古い英雄
・年上の妹
・求められていないが故に届かない謝罪(地獄)
・闇の炎とか、ギザ歯の魔剣とか、竜人とか…
そういうの好き。