どうやら私は寝かされていたらしい。
意識を取り戻して最初に感じたものは、柔らかいベッドの触り心地、そして非常に大きな違和感であった。
それから暫くの間は、"彼"が身体を動かすのを待っていた。…しかし、違和感の原因に気付くと、勝手に身体が動き出すことはないのだと確信する。
取り敢えず、目を開く。
そうすると視界に飛び込んできたのは、特徴が無いことが特徴と言わんばかりの、一面白塗りの天井だった。
寝転がったまま辺りを確認すると、どうやらこの部屋は病室であるらしい。
家具や窓の造りがいかにも教会らしい意匠をしているので、恐らくここは聖都だろう。
「聖女様が助けてくれたのかな…」
薄っすらと状況を察してつぶやく。
その『発声』という行為が何の障害もなく出来てしまうことが、とても恐ろしいことであるように感じられた。
ふと思い立って、手のひらを顔の上まで持ってきてみる。
それを握って、開いて、また握って…何度も繰り返すが、抵抗感のようなものはまるで無く、私の身体は私自身の意志によって、当たり前のように動かすことが出来てしまう。
「あぁ、嘘…」
そんなことは有り得ないはずだった。
この身体は私のものであって、私のものではない。…だが事実として、いつも心中で騒がしくしていたあの人は、目覚める様子がないのである。
それどころか存在自体、強く意識しないと分からないほどに希薄だった。
私は所詮『
その筈なのに、今、私の意識は明瞭そのものだ。
普段の白昼夢めいてぼんやりとした感覚が、全くと言っていいほどに無くなっていて、驚くほどに思考が冴えている。
何故そうなっているのか?
理由は考えるまでもなく明白だった。
私の身体に確かに存在する"彼"の魂、それが壊れかけていたのである。
本来目覚めるべき存在が起きられない状況にあるので、私のような矮小な魂が表層に浮かんできたのだろう。それは、本当は目覚めた瞬間から気が付いていて、ただ認めたくないが為に棄却していた事実だった。
そして、私は"彼"がそうなるに至った過程を、明瞭に思い出すことができるようだ。
身体を同じくしているからだろうか?
過去の記憶を辿ろうとすれば、あの人が見ていた景色から考えていたことまで、自分が経験したことであるかのように知ることができるのだ。
"彼"は大司教様に従って、あるいは無意識下にあった私に強要されて、魔王…いや、呪詛溜まりを殺したのだ。
それはある種、私という存在の本懐であり、それと同時に世界で最も悍ましい禁忌だった。
呪詛溜まり。
それは魔王などという存在が現れるより遥か昔からあった何かであり、教皇の手によって教会内でも固く秘匿されていたものだ。
外目では元が何者であったのかも分からないほど呪われてしまって、自ら死ぬこともできないまま、苦悩の中で変容してゆくことを受け入れることしか出来ない…そんな哀れな存在である。
もっとも、本当にそれだけだったのならば、教皇が『私』を造り上げることも無かっただろう。
呪詛溜まりは恐ろしいほどに世界を恨んでいたのだ。
それは自らを苛む多様な呪詛を増幅し、辺り一帯に撒き散らす災害。ただ存在するだけでも、世界にとって致命的だった。
更に言うと、呪いとは
その膨れ上がった肉体は、生半な実力では殺し切れない。仮に殺せても、それをしたものは呪殺される。教会にとって…いや、世界にとって、呪詛溜まりは対処が不可能な相手であったのだ。
呪詛溜まりを殺せる程の実力者とは、すなわち代替不可能な
この逃れられない滅びへの対抗策、あるいは英雄の死を避けるために造られたのが『私』だった。
それを殺すに足る実力を持ち、かつ失ってもよい存在。単に強いということ以外では、英雄になれないものとして設計されたのだ。…故に、きっとそれは必然だったのだろう。
"彼"と、その内側にいた私は、呪詛溜まりを殺した直後から、得体の知れない不快感に襲われた。
この不快感の正体が、私に存在するはずのない『痛み』であると理解できたのは、呪いを受けた瞬間に"彼"が凄惨な絶叫を上げたからである。
まるで苦しまずに死ぬことは許さないと、そう言わんばかりであった。
肌を突き破って繁殖する植物、それに覆われながら醜く膨らんでゆく身体…それに伴う苦痛を、その機能が無いにも関わらず明瞭に感じることができたのだ。
この地獄は本来、私に用意された特別な末路であり、"彼"のような存在が巻き込まれるべきではなかったものだ。…しかし、それは長くは続かなかった。
このまま死に行くを確信していた折、私を苛んでいた何もかもが忽然と取り除かれたのだ。
決して呪いが治った訳ではなかった。
それでも私の魂に染み付いていた呪詛は剥がれ、あらゆる痛みや苦しみが無くなっていたのだ。
一方で"彼"の絶叫にも似た魂の震えは、今まで以上に激しくなっていた。
"彼"が私を庇ったのだ。
どうやって私の魂から呪いを奪い去ったのか分からなかった。こうして記憶を読んでもなお、彼のしたことが理解できない。
どういう訳か、ほぼ無意識の行動であったようだ。
ただ間違いないのは、そんな事をすれば無事では済まないということ。
呪いによる魂の歪みだけでなく、それに伴う激しい苦痛も人間を壊す要因としては十分過ぎるほどだろう。
私は苦痛に苛まれたショックにより、久しくまともな思考が出来るようになっていた。
少し考えれば、このままだと"彼"が壊れることは理解できたので、酷い焦燥に駆られていたことを覚えている。
庇うことを辞めるように伝えた。
それは私が背負うべきものであるのだと。
「痛いんだよもう!ねぇもう嫌だもう!小生やだ!!ねぇ痛いぃぃぃもう!痛いよ!やだ!やだちょ、痛い痛い痛い!やだああああああ!うう!ああっ!ダイナマイッ!!ライダー助けて!!!!」
"彼"はそれどころではなさそうだった。
その支離滅裂な言葉が入り交じる思考の本流は、ある種の絶叫にも近い様相を呈していたのだ。
それが実際に音として形を為すことはなかったが、
私は何度も"彼"に伝えようとした。
意味が無いと…もはや"彼"に届くことはないと知っていても、必死に叫んだが全て無駄だった。
私は取り返しのつかないことになってゆく"彼"を見届けることすらできず、まるで無責任に意識を閉ざしたのである。
その後、"彼"が壮絶な苦痛の中で激しく悶えている記憶がずっと続いていた。
やがて聖女様の声が聴こえる瞬間まで、途切れることなく「やめろ」「助けて」「殺して」と叫んでいたのだ。
時間にしてみれば数分程度。…しかしそれは、あまりにも長かった。
あるいは体感時間を延長させるような呪いも含まれていたのかもしれない。
いずれにせよ、呪詛溜まりの呪いとは、人が背負うには過ぎたものであったのだ。
思い出すのを止めると、ふと身体の異常に気がついた。
呼吸が乱れ、整えることが出来ない。思考が振れて上手に纏まらず、酷い吐き気と頭痛に苛まれている。
何よりも、全身がガタガタと震えていた。
「…ぁっ…はっ…まさか、こっ…怖いのか?」
記憶は明瞭だった。
まるで自分が受けたことのように、はっきりと思い出すことができたのだ。きっとそれが悪かったのだろう。あのとき"彼"を満たしていた恐怖が、私にも伝播しているのだ。
あぁ、そんなに恐ろしかったなら…
「止せばよかったのに…」
ただ"彼"の言動を縛り付けていただけの残骸に、無意識下でも救いたいと思えるほどの気持ちを抱けるものだろうか。
自ら犠牲になってまで救う価値などあったのだろうか。
そんなもの、無いに決まっている。あの人は私の存在に気付いた時、迷うことなく見捨てるべきだったのだ。
それでも"彼"は、壊れかけの出来損ないに何を見出したのか、私の身代わりになった。
私以外の誰に知られることもなく、あれだけ好いていた聖女様に別れすら告げられず、いなくなろうとしている。
こんなのは、あんまりじゃないか。
私なんかとは違う
それでも、私にはどうすることも出来なかった。
絶望的な状況に呆然としていると、不意に扉の開く音が響く。
「勇者様!?」
それは半ば悲鳴のような、それでいて喜色に溢れた声だった。
声の主は"彼"がとてつもなく好いていた女性、モリオル様だ。…しかし、様子がおかしい。
「聖女、様…?」
「あぁ、起きられたのですね…!」
彼女がいつも着込んでいる衣装には、その左腕の部分にあるべき厚みがなかった。
そこには、ただ布地が垂れ下がっているだけだ。
聖女程ともなれば、ある程度の準備は要するだろうが、奇跡で欠損を治すことも不可能ではないはずだ。…にも関わらず、その左腕は失われている。
まさか、治せないのか…?
いや、そんな筈はないだろう。
魔王討伐後のごたごたで時間が取れなかったか、体力的な余裕がなかっただけだ。それで聖女様と同じくらい奇跡を使える人も居なくて、不幸が重なった結果少し治すのが遅れている。きっと、そんなところだろう。…だって、もし本当に治せないなら、どうして彼女はこんなにも平気そうな表情をしていられるんだ?
「どこか…痛い場所はありませんか?違和感は…っ!」
私に近付く最中、聖女様が地面に躓いて転んだ。
片腕を失っている分、バランスが取りづらいのだろう。
それを認識するなり、ベッドから起き上がって駆け寄る。体格差のせいで倒れる前に支えるというのは厳しそうだったので、上手いこと横抱きにして持ち上げた。
「あっ…ありがとう、ございます…」
少しだけ驚いたような表情をしたが、すぐに状況を理解したのか、彼女は申し訳無さそうに眉尻を下げていた。
"彼"の記憶に強く残っている『聖女様の可愛い表情』そのものだった。いつも通りだ。…そんなはずが無いのに。
「…気にしないで」
「いえ、そういう訳には…あぁ、すみません。もう大丈夫ですので降ろしていただければなと…」
聖女様は腕の中で、こちらを見上げながらそう言う。
私にはそれを聞き入れるだけの余裕が無かった。彼女の体重が、軽かったのだ。
まるで何年、何十年と病んだ身体のようだった。放っておけば遠からず死んでしまいそうなほどに弱々しい。
これならば左腕を治していないことにも納得が行く。
そのような奇跡を行使するだけの体力が無かったのだろう。
「あの…?」
聖女様が私の顔を不思議そうに見つめた。
その落ち窪んだ瞳が痛々しくて堪らなかった。
「聖女様…私は何日寝ていたの?」
「…?まだ、1日も経っていませんよ」
思ったよりもずっと短い時間だった。
それだけの時間でこうまで変わり果てたのだと思うと、一層恐ろしい。呪詛溜まりが遺した呪いに祟られるということは、こういう事なのか。
聖女様は私のような人外ではないのだから、急激な変化は相当に堪えたはずだ。
そして、そのような負担を強いたのは…私だ。
「私…その、ごめんなさい…」
自分の為に大きな苦しみを受けた相手に、一体どのような言葉を伝えるべきか、私には分からなかった。
感謝を伝えるのは、傲慢そのものだろう。かといって、心配するのも他人事かのようだ。
恩人に怯え、謝罪する。それが誠意ある行動であるはずもないが、しかしそれ以外にできることがなかったのだ。
「…勇者様」
そんな酷い臆病者を見た聖女様は、あろうことか私の頭を撫でた。その手つきは痛いほどに優しくて、やわらかい。
「私は…勇者様が居なくなられてしまうことが、何よりも恐ろしかったのです」
「ごめ…」
謝ろうとする私の口を、彼女の人差し指が封じる。
「…でも私は勇者様が無事に帰ってきてくれたのであれば、それだけでもう十分です。だから、どうか謝らないで」
その目は、ただ私の無事に安堵するだけのものだった。
それは、紛れもなく愛であるのだろう。"彼"の聖女様との記憶は、そう確信するに足る証拠となっていた。
「知らない…」
「…?」
あぁ…愛とは、なんて恐ろしいものだろうか。
私には何も返せるものがないのだ。その奉仕に報いることができず、それどころか受け止める方法も分からないのである。
教皇は愛への対処法を教えてくれなかった。
私が生まれてから眠るまでの7年間、私のことを撫でた人間なんて一人もいなかったのだ。また、何故そうしたのかもよく理解できる。
きっとそれは、死ぬために生まれた命が知ってはいけないものだったのだろう。…だってこれは、酷い毒じゃないか。
「どうかされましたか?」
「どうして聖女様は優しいの…?」
「私が、優しい…ですか…??」
あるいは"彼"ならば、それらしい言葉を伝えることができたのだろうか。いや、それが出来るからこそ、彼女に甘えることができたのだろう。しかし、私にはまるで分からない。
理解できないことが、とにかく恐ろしいと思った。
由来の分からない巨大な愛を強く実感していたのだ。そして、それを失いたくないとも思ってしまう。出来損ないのくせに、求めたくなる。
私は彼女の視線に耐えられなくて、さっきまで寝ていたベッドに聖女様を置いた。
「わっ…!」
彼女が驚いたような声を漏らす。
出来るだけ衝撃が無いように気を付けたつもりだったが、それでも少し乱暴だっただろうか?そうじゃなくても弱っているのに、申し訳ないことをしてしまった。
ただ、聖女様が私に向ける感情は…受け止めることができなかったのだ。
「ゆっ、勇者様…?」
体を起こしてこちらを見る聖女様の目には、若干の困惑。そして私への心配が映っている。
あぁ、彼女のその気持ちは…私が"彼"ではないと知ったら、どうなってしまうのだろうか。
ずっとこの身体を操っていた"彼"が覚めない眠りについて、私がその代わりに現れた亡霊に過ぎないと知れば…あっさりと失われてしまうのだろうか。
「勇者様、どうなされたのですか?先程から少し様子が…」
「なんでもない…っ!」
聖女様を直視するのが怖かった。
そんな感情を向けられてしまうと、到底耐えられそうにない。
「…泣いているのですか?」
「え…?」
一瞬、彼女の発した言葉を理解できなかった。
驚いて自分の頬に手を当て、そこで初めて自らが泣いていることに気が付いたのだ。
悲しいなんて思う訳が無いし、ましてや痛くもない筈だった。自覚している感情は、自分自身への名状しがたい忌避感だけである。
私は…私はなんなのだ?
生まれた故すら果たせず、恩人は覚めない眠りについて、どうしてこんな阿呆面を晒して項垂れていられる?
情けない。あまりにも軽薄で気色が悪い。
私は溢れる思考を整理することができず、更に泣いていることを自覚した動揺と困惑も相まって、頭が真っ白になっていた。
「…お辛いことを勇者様ひとりに任せてしまいました」
違う、聖女様。それは見当違いだ。
あれは全て、私の役割だった。辛いことなんかじゃないはずなのだ。…でも、その役割すら"彼"が果たしてしまったではないか。
死ぬために生み出されたというのに、あんな風に庇われて、死に損なって、どの口で「辛くないことだった」と言えば良い?
「私は、ああ…なにをしているの……」
ふと、聖女様が立ち上がった。
覚束ない足取りながらも、着実に近付いてくる。彼女は残った右腕を広げ、それで私を抱き締めようとしていた。
こんな私なんかを、その手で…?
「…っ!」
半ば反射的な行動だった。
私は聖女様の手を振り払おうとしただけ。…しかし、無意識下の行動だったからだろうか。その行為に力を入れ過ぎてしまったのだ。
それは彼女にとって致命的、その身体ごと消し飛ばすに十分な威力となっていただろう。
もし
実際は、そうはならなかったのだ。
聖女様に向かう腕が、ある瞬間から著しく下方へと逸れたのだ。結果として、私は奇妙な挙動で床に手を叩き付けることになった。
ズズッと辺り一帯が振動した。
石製の床に手がめり込んで、そこに大きな穴を開ける。
どうやら腕の方向を逸らす過程で威力が殺され、この程度の被害で済んだようだった。
「勇者…さま……?」
「ん、ごめん…寝ぼけてたみたいや。ちょっと状況教えてクレ
「寝ぼけ、えっ???」
いや、まさか…そんな。
明瞭な気配と、特有の言葉遣い。いつの間に起きていたのか、私の内側で確かな存在感を放っている人が居る。
ありえないと内心思う。しかし、それでも確かな安堵を感じていた。
"彼"の魂が治っていたのだ。
やぁ、お前ら。ワイや。目が覚めたら聖女ちゃんを殴り殺しかけてたバイオレンスな美幼女TS最強勇者ちゃんやで。
これマジ?無意識に人を殺しかねないとかもう勇者失格だろ…。まぁ、実際にやっちまったわけじゃないし多少はね?
「本当に、寝ぼけていただけなのですか…?」
「
「それならそういうことにいたします。私では頼りないかもしれませんが、お辛い時は何でも仰ってくださいね…?」
ん?今なんでも言うこと聞くって言ったよね?
「
「もちろんです!先程のことが原因でしょうか…」
なんとか聖女ちゃんを拳骨しないよう腕を逸らしたら、無茶な動きしたせいか骨が折れたんだわ。衝撃には耐えられても、自分の力には耐えられないみたいね。
絶えず自壊する雑魚の英雄、不遜なる勇者の器。
それに普通に痛いんだわ。痛すぎて泣きそうだし、もぅマヂ無理。…というかワイの身体って苦痛とか感じない特別性じゃなかったっけ??
もしかしてあのクソボケ魔王に呪われた後遺症ってことですか???
アイツ散々痛い目に遭わせてきたくせに、最後まで爪痕残してくるとか最悪スギィ!
もっとこう、相手のことを労ってくれよなぁ。後遺症を残す技はルールで禁止スよね?
「勇者様、腕をお見せください」
「…」
まぁ、そんなこと嘆いたって仕方がないので、聖女ちゃんの指示通りに折れた腕を披露する。物凄い、グロシーン!
肘の関節部分が逆方向に曲がっては行けない方向に畳まれちゃってるんよ。
酷すぎる、こんなの…あんまりだ…!!
「折れっ…こんな怪我をしていたなら、もっと早く言ってください…!『癒しよ』!」
「
あれ、奇跡に詠唱なんてあったんか…。
聖女ちゃんいつも無言で発動させてたから初めて知ったわ。まぁ、いずれにせよ暖かくて気持ちいいし、最終的に治るなら何でも良いんだけど。
やっぱり聖女ちゃんの奇跡を…最高やな!
別に怪我とかして無くても掛けてもらいたいレベルやで。
ただちょっと痛みがね、辛いんよ。これじゃ気持ちよさに集中できないねんな…
「治りましたか…?」
「
それにしても、痛いってこんな感じかぁ。
治してもらったは良いけど、この程度の怪我でここまで辛いようでは、もう魔王討伐とか大分無理くさい気がする。いつも骨折とかそんなレベルじゃない怪我を負ってるからなぁ。
なんなら近付くだけで無条件にダメージ喰らわせてくる奴とかおるし、痛いのが嫌とか言ってたら戦いの舞台に立つことすら一苦労そうだ。
「…
「私は勇者様の意向に従います。…でも我が儘を言っていいなら、その…もう勇者なんて辞めて、どこか…そう、アウロラ様のように、遠くに逃げてしまいませんか?」
「
「…っ、だってあんな…あんな目に遭って、それで…あぁ、勇者様。このようなことを続けていれば、いつか絶対に死んでしまいます…」
う〜ん、確かに…今回はマジで死にかけたしなぁ。
ワイが今も生き残ってる理由は、きっとワイ自身が強かったからではなく、聖女ちゃんが助けてくれたからだろう。気絶する前に聖女ちゃんの声が聞こえたしね。
そして、二度目は無い。
この子は何度でも助けに来てくれそうやけど、多分次同じことになったら二人とも死んでしまう。あのレベルの魔王は、おそらくもう相手に出来ない。
ぶっちゃけ、あんなのが次々と湧くようになったら人類滅亡も時間の問題やね。いや、ワイが勇者を始めた頃から、大概そんな状況ではあったけども。
どうせチート勇者たるワイに無理なら、この世界はどうしようもないやろ。無理ゲー。
「すみません、出過ぎた真似をしてしまいました…」
「…
流石に黙って人類滅亡を見過ごすのも罪悪感あるし、今すぐ「俺もうね、逃げる」とは言えない。…とはいえ、しばらくは休まなきゃいけないのは間違いないね。
ワイも大分戦いづらい身体になっちゃったけど、何よりも聖女ちゃんがヤバいわ。
服の下は骨なんじゃないの?ってレベルでガリガリになってるし、シャンクス状態だし…
まぁ、本気で世界を救いたいなら、死にかけとる聖女ちゃんだけここに置いていくのが安牌なんだろうけどね。
多分、聖女ちゃんがこんなになってるのは、ワイを助けたせいやろ?そんな良い子を放ってまで世界を救いに行こうなんてやってられんわ。
「
「えっ…!?」
その瞬間、聖女ちゃんが物凄い勢いで距離を詰めてきた。
非常に嬉しそうな聖女ちゃんの顔面で視界が占領される。もはや気を付けても吐息が掛かってしまうほどには近い。
なんでそんなやつれてるのに顔が良いんですか?そんなグイグイ来られると恋しちゃうからやめてね。
「本当ですか!!」
「
それでワイの左肩をがっしりと掴むものだから、態勢だけ見るともうマジでチューする五秒前って感じ。おねロリかな?
まぁ、ワイも聖女ちゃんも美少女同士だし、如何わしさとかは無いんやけど…っていうか自動翻訳ちゃん?身体ちゃん??
様子がおかしいけど、どうしちゃったんですか?
なんか顔がめっちゃ熱いんだけど、これ照れてるのワイじゃないよな?
「あっ…すみません、少し…興奮してしまいました」
「
嘘だゾ、絶対大丈夫じゃないゾ。
薄々感じてたんだけど、やっぱりこれ同居人おるやろ。ワイの身体っていうか、身体ちゃんの中にワイがおるんか?
……流石に気付くよね。
身体ちゃんのナカあったかいなりぃ…
何を言ってるの…!?
そう考えると、あの反応…これはキマシタワーを建ててもいいやつですか?これ聖女ちゃんにいきなり抱きついてみたら身体ちゃん反応するかな。
いやでも、これが身体ちゃん(仮称)と聖女ちゃんの百合だと考えると、ワイの意識が残っている状態でそんなことをしてはいけない気がする。
私にとって聖女様はそういう相手じゃないよ…?
ワイは百合の隙間に割り込む間男だった…???
これ、もしかして私の声は聞こえてない…?そんな、謝れると思ったのに…
いやしかし、こんな美少女二人に挟まれてるって思うと興奮してきたな…俺やらしい気持ちになってきました!
ふむ、今夜はこれでいいか…
えっ、それは…どういうことなの…??
「勇者様?どうしたのですか、急に遠くを見て…もしかして、やはり無理を言ってしまったのでしょうか…?」
「
気の所為じゃなければ、ちょっと言い換えに手間取ってたよなぁ。
やっぱり存在を匂わせる発言は止めてほしい感じなのだろうか。それとも別の思惑があってのことなのだろうか。
きっとそれは…貴方にとっても都合が良くないと思う。身勝手で、本当にごめんなさい…
まぁまぁ、ええわ。向こうがバラして欲しくないってんなら、今まで通りに振る舞っていればええだけやしね。
口調とかそれらしい感じにしてくるのに、身体の制御を取り返してこないってことは、ワイに色々任せてくれてるんやろ。いやまぁ、ワイの制御が太すぎて取り返せないだけかもしれないけど、そんなのワイには分からんし…
いずれにせよ、この子が何かしてくるまでは今まで通りやってればいいや。
あぁ、貴方も聖女様も優しすぎるよ…
勇者(転生者)は反省とか後悔とかする機能がイカれてるので戦いを振り返っても「すっげえ痛かったゾ〜(小並感)」程度の感想しか出てきません。