聖女『あかん、こんなんじゃ勇者が死ぬぅ!』   作:『?』

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勇者、デカい女に脅される

 聖女ちゃんの容体はあからさまに重傷であった。

 その筈なのに、どうしてか彼女は「勇者様が無事で良かったです」なんて言って、フラフラとした足取りで部屋から出て行こうとしている。

 そんなことをみすみす見逃すなんて、到底出来そうになかった。

 彼女がドアノブに触れたかどうかと言ったところで、引き留めるために声を投げかける。

 

どこに行くの?(どこ行こうって言うんや?)

「自分の病室に…っ!?」

 

 その病室がどこにあるのかは知らないが、もしすぐ隣にあったとしても、送り出すことは無かっただろう。どうせ病室に戻るなら、結局どこでも変わらない。

 彼女が返事をしながらこちらに振り向いた瞬間、手をぐいと引っ張って体勢を崩す。

 

「わっ…!」

 

 そして倒れ掛かっている聖女ちゃんを、半ば強制的に持ち上げた。

 これが噂のお姫様抱っこだ。…体格差のせいで絵面こそ不格好かもしれないが、ワイは美幼女TS最強勇者なので全く問題はない。

 というか聖女ちゃん軽すぎ!!流石に心配なるわ!

 

「まっ、またですか…!?」

 

 ()()…?妙だな…。

 流石に寝惚けてお姫様抱っこなんてしないだろうし、やっぱりワイが寝てる間、身体ちゃんと聖女ちゃんでイチャイチャしてたんだろ!

 そうだ。そうに決まってる、間違いないね。ワイには特別な知恵があるんだ。

 まぁ、事の次第は後から妄想すればいいとして、とりあえず聖女ちゃんをワイが寝ていたであろうベッドまで運ぶ。

 そして有無を言わさず寝かせて、上から毛布を掛けてやった。

 一方、ワイは聖女ちゃんを観察するために、ベッドの直ぐ側に置かれていた適当な椅子に座り込む。

 

「あの、勇者様?その、これは一体…?」

聖女様…寝てないとダメだよ(聖女ちゃん…無理したらいかんでしょ)

「えぇ…?」

そんな体調で動いたら死んじゃうよ(そんな体調で動いたら死ぬで)

 

 なぜか起き上がろうと動き出す聖女ちゃんを止める。

 なんだってそう、君は身体に対して根性があるんだ!ほぼ死にかけの癖に自分の部屋に戻ろうなんて、そんなことしなくていいから…

 先程は色々あって失念していたが、正直聖女ちゃんはもうやばいと思う。

 ちょっと冷静になれば「奇跡なんて使ってる場合じゃないだろ!」ってなるレベルだが、表面上全くそんな振る舞いを見せないので分かりづらいのだ。

 

 シャンクス状態だったり、ガリガリなのも問題…というか論外って感じだけど、それに加えて熱もひどい。

 抱き上げたときに違和感を覚えて、寝かせるついでにおでこを触ってみたら、死ぬほど熱くてびっくりしたわ。

 そもそもの問題、なんでそんな状態なのにワイの部屋に来てるんですか?

 いくら異世界の英雄とは言っても、この…少なくとも40度以上は確実な高熱状態で活動しようとするのは、ほとんど自殺行為ではないだろうか。

 

「勇者様、私戻らないと…」

「…起き上がるのはダメだからね?(起き上がろうったってそうはいかんぞ?)

「気付かれたら怒られちゃいます…」

 

 えっそれは…

 怒られるってどういうことですか、聖女ちゃん…まさか抜け出してきたんか?この中の中で!?

 出会った頃は良識が服を着て歩いてるみたいな性格だったのに、大分ロックな性格になってしまったなぁ。聖女ちゃんをこんなにしたのはいったい誰や!…いや、ワイや。

 

「勇者様…だめ、ですか?」

だっ…だめ…っ!(かわっ…いや、だめやで!)

「うぅ…」

 

 そんな表情で見られても駄目なものは駄目です。

 熱で火照ってる感じが非常にえっちだけど、ワイの意思は硬いんや。

 

 そんなやりとりをすること十数分。

 そろそろ聖女ちゃんも観念して、大人しくなってきた頃合いであった。

 不意にギィという軋む音と共に病室の扉が開かれる。

 

「んぇ…!?勇者様、生きてる!?嘘ぉ…」

 

 声の主は部屋にも入らないまま驚愕を露わにしていた。

 彼女は…どうやら聖女であるらしい。

 特徴的な金の装飾が施された白いローブを身に纏っており、左手薬指には教会の刻印が施された指輪を着けている。

 聖女ちゃんとそっくりそのまま同じ衣装、きっとこれが『聖女』という役割の正装なのだろう。

 彼女は少し窮屈そうに身を縮めて扉を潜ると、まず部屋を見渡して「うわぁ」と若干引いたような感嘆を零した。

 

「勇者様…とっくに死んでるものと思ってたんスけど、流石ッスね〜。もしかしてさっきの揺れとか…」

 

 彼女の何気ない目配せに釣られて床を見れば、そこには室内に有り得ないような大穴がポッカリと空いていた。それを中心として部屋中に広がったヒビは、もはや取り返しがつかないレベルで深いように見える。

 見ろよこれなぁ、この無残な姿をよぉ…

 

「そこの床も勇者様がやったんスか?」

ごめんなさい…(許してクレメンス!)

「えと、まぁ…床とか部屋は別にいいんスよ。気にしないでください」

ありがとう。(ありがとナス!)その、お金とか無いし魔法も使えないけど(弁償とかできんし、魔法も使えんけど)片付けとかなら、お手伝いするから…(手伝いなら出来るからなんでも言ってな)

「いや、本当に気にしないでください。直す子たちも大分暇そうにしてますし、たまには仕事させたほうが良いッスからね」

 

 私の謝罪に少し驚いたような反応を示すものの、別に怒っているような様子はなかった。なんとかッス口調の子は優しいって、それ一番言われてるから…

 

「あ〜、思ったより良い子じゃないスか…」

…………(デッッッッ)

 

 そんなことを呟きながら、こちらへと歩いてくる彼女。

 歩くと、こう…まぁ、はしたないので具体的に何がとは言わんけど、主におっぱいが揺れているのがよく分かる。

 やっぱりデカいっていいですよね。なんていうか、八尺様って感じだ。こんな身体で聖女やってるとか各方面に失礼だよねってスタイルも非常にそそるものがある。

 さて、そうしてワイの直ぐ側までやってきた彼女は、しゃがみ込み、こちらに目線を合わせてきた。

 

「んん~??やっぱ…勇者様、めっちゃ元気じゃないスか」

元気だよ(元気やで)

「…マジで?」

 

 彼女はそのデカい手をワイの額に当て…

 

「口開けてほしいッス」

 

 ワイの口内を覗き込み…

 

「普通に全快って感じスね。勇者様、本当に人間ッスか?それとも姉さんの奇跡がすごいってことスかね…」

 

 そう言うと「なんかもう分かんないッスね」と呟き、立ち上がった。

 それにしても、こういう…いわゆる「診療っぽいこと」をされたのは、転生して以来初めてな気がするなぁ…

 聖女ちゃんも教皇も謎の奇跡で身体スキャンしておしまいだったし、そういう医術的な概念はこの世界に無いのかと思ってたわ。 

 

それで、あなたは誰…?(そんで、姉ちゃん誰や?)

「ん〜?あそっか、そういえば初めましてだったスね。アタシはヒセンと言いまして、この診療棟の看護婦やってる聖女ッス」

そうなんだ…(ふ〜ん、えっちじゃん)

 

 やはり、その名前に聞き覚えはなかった。

 聖都暮らしの聖女なら一度は会ったことがありそうなものだけど、正直全く見覚えがない。聖女ということは、少なくともワイよりは古株のはずだが、今までどこに隠れていたのだろうか。

 まさかこんなスケベ女が聖都に居たとは…読めなかった。この勇者の目をもってしても!

 

「…私はフェイリア(ワイはフェイリア)勇者だよ(勇者やっとるで)

「うん、知ってるッス。お噂はかねがね…って奴ッス」

 

 まぁ、これまでのやり取りから分かっていたことだが、どうやら彼女はワイのことを知っているようだ。

 わざわざ勇者宣言する必要なんて無かった気もするが、自己紹介は大事だし多少はね?

 

「それでですね、勇者様。アタシが勇者様の容態を見たのは物のついででしてね、ホントはそこ…」

 

 彼女は途中で言葉を区切ると、聖女ちゃんの方へと目を向けた。そして、一呼吸挟んでから続ける。

 

「そのベッドで寝てる方を探してたんスよ。ねぇ、姉さん」

「ヒセン…あの、これは…」

「病室抜け出して何やってんスか」

 

 なにっ…!姉さん!?

 君、聖女ちゃんの妹だったの…?

 顔はともかく、主に体付きとか全く面影がないんだけど!聖女ちゃんはもっと、こう…具体的に何がとは言わないけれど、おっぱいとかお尻が慎ましやかなんだけどな。決して小さいわけじゃないし、むしろ大きい方なんだけど、こんな怪物レベルのブツは持っていないはずなんだけど…

 声掛けられた瞬間、ビビり散らかしてしどろもどろになってる聖女ちゃんもかなり興味深いけど、それ以上にその姉妹云々について詳しく聞かせてほしい。

 

ね、姉さんってどういう…?(おまいら姉妹やったんか…?)

「どうしたん…あ〜、勇者様?なんか、大分面白い顔してるッスね。…でも多分、勘違いしてると思うッスよ」

…?(どゆこと?)

「アタシと姉さんに血の繋がりはないんス」

 

 ワイの頭にポンと手を置くと、彼女は聖女ちゃんを見下ろしながら続けた。

 

「まぁ、姉さんはアタシらのいた場所でも、とっても強い人だったってことッス。尊敬してるんスよ」

「ヒセン…」

 

 感慨深そうに説明する彼女に対して、聖女ちゃんは嬉しそうな表情を浮かべていた。

 敬意の念で人を兄貴姉貴と呼ぶのは大体ホモだと思うので、多分ヒセンちゃんはホモですねぇ!とか言おうと思ってたけど、こんなしんみりとした空気感でそんなこと言えないねんな…

 

そういうことなんだ…(そういう…関係だったのか…)

「まぁ…尊敬してた姉さんがこんなことしてるだなんて思わなかったんスけど」

 

 その言葉に只事ではない反応をしたのは聖女ちゃんだ。ビクッと身体を跳ねさせたかと思えば、分かりやすく彼女から目を逸らし、とてつもなく気まずそうな表情をする。

 

「姉さん。貴女、自分の病床あるのに死に掛けてた子のベッド奪って何してるんスか?まぁ…そこら辺で倒れられるよりはずっとマシですけど」

「こっ…これは、その…違くて!」

「ハイハイ、全く…勇者様。しばらくの間、姉さん借りてくッスよ〜」

 

 彼女は仰向けになっている聖女ちゃんを、片手でひょいと持ち上げると肩に担ぎ上げた。そしてズンズンと部屋から出ていこうとする。

 看護婦と名乗った時点で聖女ちゃんが連行されることは確定的に明らかであったので、まぁ残当といったところだろうか。

 

 そこでワイも着いていこうと立ち上がったら、その瞬間、ピタリと足音が止まる。

 何か忘れたのかと思って彼女の方を見上げると、こちらに振り返って、光無き眼で見下ろしてくるヒセンちゃんの姿があった。

 体格差もあって、威圧感がエグい。顔は笑ってるのに目が笑ってない。

 

「病み上がりに散歩とは良いご身分スね…?勇者様も自分の病室から抜け出すんスか?」

うぅ…大人しく、寝てます…(おっ…大人しくしてますぅぅぅ…)

「良い子ッスね」

 

 あんな怖い笑顔で見つめられてしまったら、もうどうしようもないだろう。

 ワイは無力や…っ!

 

「それじゃ、勇者様…また後でッス〜」

また後でね(また後でな〜)

 

 そうしてワイは、ひらひらと手を振りながら出て行ってしまったヒセンちゃんと、その肩に担がれながら力無く手を振っていた聖女様を見送った。

 

「ゆ、勇者様…またあと――」

 

 なお、聖女ちゃんの台詞は扉の閉じる音に遮られ、力無く途切れたのであった。かなしいね。

 


 

 久しく会っていなかった妹分は、この数年間の内に随分と成長していたらしい。

 まず、背が伸びた。私が旅に出る前から大きくて、ほとんど身長差なんてなかったけれど、今となっては頭一つ分以上に差をつけられてしまった。

 そして何よりも、精神が成熟していると思うのだ。

 その堂々とした立ち振舞いには、常日頃から不安そうな表情を浮かべていた物静かな少女の面影は見えない。人一倍ナイーブな性格をしていたはずだったのに、こんなにも立派になったのだ。

 

「ヒセン、その…大きくなりましたね…見違えました。」

「…そういう姉さんは子供っぽくなったッスね」

「そうでしょうか…?」

 

 彼女はとてつもなく大きなため息を漏らした。それから若干投げやりに「そうッス、言うこと聞かないし」と返答する。

 どうやら、呆れられてしまったらしい。

 一応、自分が異常な行動を取っていた自覚はあったのだ。まさかヒセンに迷惑を掛けているとは思わなかったけれど。

 きっとこれは、散々やらかした末路ということなのだろう。

 

「その、すみません…」

「謝るくらいなら最初から抜け出すのやめてくれないッスかね…」

 

 それはそう、としか言えなかった。

 とても耳が痛いことである。

 

「はぁ…これも、勇者様の影響なんスかね?」

「えと、あはは…私には分からないのですが、もしかするとそうなのかもしれませんね」

「…ねぇ、姉さん」

 

 ふと、彼女がその場で立ち止まった。

 私を担ぎ上げる腕に力が籠もって、しかし何かを堪えるように少し震えている。

 後ろ向きに担がれているからヒセンの顔は見えないけれど、これは…怒っているのだろうか?

 

「姉さんがそうなったのは、勇者様のせいなんスか?」

「…どういう、ことですか?」

「その左腕。…万能薬(エリクサー)を使ったんスよ。でも、治らなかった。元通りにならなかったんス。」

万能薬(エリクサー)!?どうしてそんなものを持って…」

 

 万能薬(エリクサー)とは、文字通り万能の薬と聞いている。怪我や病に始まり、呪いに至るまでの全てを快癒させる究極の治癒薬…しかし、今は教会の秘宝として、厳重に管理されている。

 それは大司教や教皇の権限で使用を許されるもので、決して一聖女が扱うことの出来るものではないはずだ。

 

「…どうでもいいじゃないッスか、そんなこと」

「どうでもいいなんて…」

「だからどうでもいいって言ってるんス。…姉さんの、その身体に比べたら些末なことじゃないッスか」

 

 やけに情緒の薄い声だった。

 あるいは湧き上がる感情を必死に押さえつけるような、無理にでも感情を押し隠そうとするような意図を感じる。

 

「…ねぇ、姉さん。姉さんが言ったんスよ。聖女たるもの、他の誰より自分を大切にしなさいって」

「それは…」

 

 あぁ、それは間違いなく私が教えたことだ。

 かつて孤児院に居た頃、自分よりも幼い聖女見習いの子達に、何度も言い聞かせてきた言葉だった。

 

『より多くを救うためには、自らを犠牲にするようでは足りません。故に私達は、例え汚濁に塗れようとも生きて、より多くの人に救いの手を差し伸べるべきなのです。』

 

 それは詭弁だ。

 愚かしい私が、ただそうあれかしと信じていただけの願い事に過ぎなかった。

 私は…私のことを真剣に見上げて、黙々と話を聞いている小さな妹達。彼女たちが生きている理由を、ただいつか死ぬためであるのだと信じたくなかったのだ。

 

「嘘だったんスか?…いや、知ってます。嘘だったんスよね」

「嘘なんかじゃ…」

「じゃあ、どうして姉さんはそんな有り様を晒しているんスか?全部全部、姉さんが聖女だから…そうじゃないんスか?」

 

 何も言い返せなかった。

 黙っていてはダメだと言い訳を探しては、それが何の意味もない戯言であると自覚して、棄却することを延々と繰り返していたのだ。

 無感情な沈黙が場を満たす中、先に言葉を発したのは、またもやヒセンだった。

 

「姉さんが勇者様と旅に出てから、もう4年が経ったんスね」

 

「その間に、アタシ以外の皆は…吐いて捨てるほどいる魔王を倒すでもなく、ただ聖都から遠ざけるためだけに死にました」

 

「最初の襲撃ではエイダがいなくなりました。魔王に使った転送の奇跡で『聖別』して灰になったんス」

 

「去年の襲撃では、とても大きな戦闘が起こりました。アビゲイルがまるで嘘みたいにバラバラにされてしまって、最終的にはサラが『聖別』することで、なんとか魔王を撃退できたんス」

 

「皆で雁首揃えて懸命に戦って、魔力も何もかもスッカラカンになって…最後は『聖別』が全てを終わらせました。結局、アタシたちの力じゃどうしようも無かったってことッス」

 

「…クララとモイラが死んだのは、つい昨日のことッスよ。ただ時間を稼ぐためだけに『聖別』しました。二人はね、全くそんなつもりなんて無かったのに…教皇の指示を受けた瞬間、まるで人が変わったみたいに従順になっちゃったんス。…アタシはあの双子がどう死ぬのかを見届けることすら許してもらえなかった」

 

 彼女の語り口には、どこか諦念にも似た深い悲しみがあった。

 エイダ、アビゲイル、サラ、クララ、モイラ。そして、ヒセン。みんな、私が面倒を見ていた子たちである。

 聡明で、信心深くて、それで…とても純粋だったのだ。

 

「そんな、ことが…あったのですか…?」

「…本当に色々あったんスよ?」

 

 少し震えた声で言葉が続けられる。

 

「結局聖女なんて、聞こえが良いだけの死兵じゃないッスか」

 

 それはきっと、否定しようのない事実だろう。

 大抵の聖女は、それを自覚することなどない。聖女を讃える市民達も、そうであるとは思っていないものが大半だ。…しかし私達の本質とは、死んで救う英雄だった。

 それを証明するように、聖女の奇跡は自己犠牲極まる性質を持っている。『ウテルス』は術者の負担が限りなく大きい業だし、『聖別』に至っては、死と引き換えに奇跡の威力を大幅に引き上げるものだ。

 

「アタシは…もう無理ッス。だって姉さんも、いつかはそうなるんでしょう?アタシが先かも知れませんが、でも…きっとどこかで灰になるんスよね?」

「ヒセン…」

 

 違うとは、言い切れなかった。

 勇者様が本当に勇者が辞めるとしても、この絶望的な世界で平穏に生きられるとは思えない。いつか、選択を強いられる時が来るかもしれないのだ。

 それならば、言えることなんて一つしか無いだろう。

 

「そうならないように頑張る…では、だめですか?」

「もう、姉さん。そうやってまた無理なことばかり言って、駄目ッスよ…?」

 

 ヒセンは呆れたようでいて、しかしどこか嬉しそうな声で、そのように言った。…思うに、彼女は私がどのように返答するのか分かっていたのではないだろうか?

 

「すみません。姉さん…あんなのは、ただの八つ当たりです。皆死んじゃったけど、それは姉さんのせいじゃない。分かってます。ただ…そう、ただ巡り合わせが悪かっただけッスから。聖女なんて、そんなものでしょう?」

「そうですね…」

「それなら…。あぁ、もう…諦めが付くってもんスよ」

 

 止まっていた足が、再び動き出す。

 すっかり大人になったなと思っていたけれど、きっと彼女はそうなることを強いられただけに過ぎなかったのだろう。

 生き残った聖女は、そのうち信仰…あるいは絶望で心を殺すようになる。きっとヒセンは後者を選ぼうとしているのだ。

 どちらも選べないで感情に振り回されている私と違って、聖女に相応しい存在になろうとしている。

 

 果たしてそれは、喜ばしいことなのだろうか?

 

 そこまで考えて、ふと気が付いた。

 ずっと感じていた自己犠牲への嫌悪、その正体に。

 

 私は『聖女』が…そして、聖女が無ければままならない『世界』が嫌いだったのだ。

 

 私自身も聖女であったから、ただそれだけを理由に見ないふりをしていただけなのだろう。

 本当は…ずっと昔から、こんなにも嫌いだったのだ。

 何せ、聖女の人生は酷いものである。

 物心付かない内に死ぬための改造を施され、文字通り最期の瞬間まで英雄たれと求められる私達は、紛れもなく世界の犠牲そのものじゃないか。

 勇者様の惨憺たる生き様を、あれ程までに忌まわしく感じていたのは、そのようにして死んでいった沢山の先輩と、後輩を見送ってきたからだ。

 

 そして気付くと同時に、自分がどれほど聖女として相応しくないのかも理解した。…だってこの世界は、私の愛した人たちの命をこんなにも吸って、それでも足りないと言わんばかりに死にかけているのだ。それでも尚、聖女の役割は無くならず、勇者様に救世を望んでいるというのだ。

 なんて厚かましいことだろうか!

 

「姉さん…?なに、笑ってるんスか?」

「あぁ、いえ…なんでも。…私、笑っていましたか?」

「いや、まぁ…クスクスいってたッスけど…」

「そう、ですか…」

 

 昂った不快感を努めて鎮める。

 それにしても、ただ気づいただけなのに、こんなにもスッキリするものか。

 全く盲点だったな。まさか聖女もそうだったなんて!

 あぁ、なんて気持ちの悪いことだろうか。あぁ、なんて罪深いことなのだろう。

 

「本当に、大丈夫ッスか?」

「あぁ、ふふふ。うん、大丈夫…。大丈夫ですよ、ヒセン…」

「ダメそうッスね。姉さん、部屋に着いたら…残ってる万能薬(エリクサー)全部、姉さんに飲ませるッスから覚悟しておいてくださいね?」

「ふふ…えっ、いまなんと?」

 

 ぼんやりしている間に、この子は一体何を口走ったのだ?

 

「だから、万能薬(エリクサー)全部飲ませるって言ったんスよ」

「えぇ?それは、えっと…大丈夫なのですか…?」

「そんな訳!怒られるってレベルじゃないでしょうね。…でも、どうせ大司教の奴らには、端から気付かれてると思わないッスか?」

「えぇ、まぁ…」

 

 大司教は得体の知れない存在だ。

 どこまで見られていて、どこまで知られているのか分からない。少なくとも聖都内の出来事は、全て把握されていると思ったほうが良いだろう。

 先の戦いの前、オルクス様は自らを聖女の成れ果て…『醜い塊』と称したが、果たして本当のところは何者なのだろうか?

 教会の最上層に潜み、人々を導く怪物。

 確かに彼等と教皇が居なければ、世界は今まで存続していなかっただろう。間違いなく偉大な先達ではあるが、もはや尊敬など出来そうにない。

 嫌いである以上に、恐ろしいと思うのだ。

 人という種のために、あまりにも人心を捨てている。

 

「いずれにせよ、アタシが今こうして喋っていられるってことは、許してもらえてるってことじゃないスか」

「そうなのでしょうか…?」

「そうッスよ」




アタシの姉さんのここがヤバい!
・聖別で片腕を欠損してる
・聖別で内臓を欠損してる
・体重30%OFF
・身体への負担がデカすぎて瀕死状態
・何故か病室から抜け出して勇者様(死人)の様子を見に行く
・一時間に一回は脱走してる
・ベッドに縛り付けたらロープが千切れていた
・結界で封鎖したら当然のように解呪されていた
・扉を封鎖したら粉砕されていた
・生き返っていた勇者様のベッドを奪って寝ていた
・前触れもなく突然笑い出す
・マジムカつくぜコイツ〜〜!!まぁ好きなんだけど!!!

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=329382&uid=297431
↑ストーリーラインに乗せられそうにない設定諸々を雑に撒き散らしておきました。(読む必要はあんまり)ないです。
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