女の子が苦しんでいるのを肩代わりしてしまう少年の話   作:二本角

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休日の公園にて①

「うぐっ!?・・・きょ、今日も可愛いよ・・・椎葉さん」

「ちょっと!?ほ、保科君!!顔が真っ青だよ!?」

 

 今日も今日とていつもの公園。

 だが、今日の椎葉さんの格好はキャミソールの上にシアーシャツを羽織り、下はフレアスカートというこれまでの中でも最も女の子らしい姿をしている。

 ものすごく、それはもう本当の本当に目の保養になっているのだが、椎葉さんの代償によるマイナスポイントもそれ相応らしく、いまにも戻しそうなくらいの吐き気が襲いかかってきていた。

 

「す、すぐに着替えるからもうちょっと頑張って!!」

「ま、待って!!せ、せめて写真を・・・それか、もう少しでいいから目に焼き付けたい・・・」

「ええっ!?・・・じゃ、じゃあ10秒!!10秒経ったら絶対に着替えに行くからね!!」

 

 オレの体調を心配して、すぐに帳の中に戻って着替えようとする椎葉さん。

 しかし、ここまで女の子らしい姿をした椎葉さんは激レアだ。

 どうにか写真だけでも撮らせてもらおうと頼んだらOKをもらえたので、オレの限界が来る前にスマホで写真を撮るも・・・

 

「くっ・・・手ぶれしてる。しかも、椎葉さんの表情が・・・し、椎葉さん、笑顔はできる?」

「そんな顔色がひどい人が必死で写真撮ろうとしてるときに笑顔なんかできないよ!!もう戻るから!!」

「あ、そ、そんな・・・」

 

 オレの制止も虚しく、椎葉さんは駆け足で帳の中に戻っていき、オレの吐き気が和らいだ。

 しばらくして、この公園に来たときのポロシャツにジーパンというボーイッシュな服に着替えた椎葉さんが戻ってきた。

 

「大丈夫!?保科君!?」

「あ、うん。体調も元に戻ったよ・・・別に、そこまで男の子っぽい格好にならなくてもよかったのに。それはそれで可愛いけど」

「あ、あんなに調子が悪そうだったんだから女の子の服なんて着れないよ!!保科君はもう少し自分のことを気遣って!!」

「ご、ごめん・・・」

 

 割と本気で怒っている椎葉さん。

 伝わってくる炎のような熱から察するにガチだ。

 椎葉さんを怒らせると大変恐ろしいのは身を以て知っているので、オレは平謝りする。

 しばらくプンプンと怒っていた椎葉さんだったが、少し経つと落ち着いたのか、伝わってくる熱がヌルくなった。

 ・・・前に怒らせたときは炎というより氷のような冷気が伝わってきたことを思えば、今日の怒り具合はそこそこで済んだようだ。

 

「ふぅ・・・それにしても、さっきくらいの服を着たらダメかぁ」

「そうみたいだ。ごめんね椎葉さん」

「あ、謝らないでよ!!もともとはワタシの自業自得だし、保科君のおかげで学校の制服を着れるのも嬉しいって思ってるんだから」

「それでもだよ。これは椎葉さんの気持ちが足りていないんじゃなくて、オレの呪術師としての腕の問題だから」

「保科君・・・」

 

 今日は休日。

 先日、椎葉さんが学校の女子制服を着たときにも話し合ったが、今日は長く時間が取れるので思い切ってどこまで椎葉さんの代償を肩代わりできるか実験することにしたのだ。

 そこで、椎葉さんが持っている服の中でもそれっぽいモノをワザとポイントがマイナスになるように組み合わせて着てもらったのだが、結果はさっきの通りである。

 あそこまで行くと、オレの反転術式の出力を超えてしまっているようだ。

 椎葉さんからのプラスの感情はしっかりともらっているのに吐き気を中和しきれないのは、オレの腕前の問題である。

 決して、椎葉さんのせいではない。

 だから、そんなに曇った表情はしないでほしいのだが、椎葉さんの性格では難しいか。

 

「とにかく、オレも休めたし、検証の続きをしようか。時間はまだあるけど、こうやっていろいろ試すのは平日だと難しいし」

「無理はしちゃダメだからね?またさっきみたいなことになりそうなら、ワタシが着替えてるときでもいいから声をかけてくれないと怒るよ?」

「大丈夫大丈夫。わかってるって」

「・・・なんか不安だなぁ」

 

 時間は有限なので、次の実験を始めたいと思うのだが、椎葉さんがチベットスナギツネみたいな顔をしている。

 オレってそんなに信用がないだろうか。

 

「まあまあ・・・今日持ってきている服で一番女の子らしいのがさっきの組み合わせだったんでしょ?ならさっきよりマズいことにはならないよ。っていうか、あれより女の子らしい服ってまだあるの?」

「え?う~ん・・・ワタシ、可愛い服は好きなんだけど、実はそこまでたくさんそういう服持ってるわけじゃないんだよ」

「そうなの?意外・・・」

 

 これは意外だ。

 可愛い服、女の子らしい服にこだわりのある椎葉さんなのに。

 

「うん。ワタシの家はちょっと変わった仕来りがあってね?小さい頃は男の子の格好をして過ごしてたんだ」

「へぇ~?魔除けみたいな感じ?」

「そうらしいよ?でも、そんなに古いものじゃなくて、おばあちゃんが小さい頃に病気がちだった頃に占い師さんに相談したら、『男の子の格好をしたら元気に育つ』って言われたみたいなの。それ以来、ウチの家は女の子には男の子の格好をさせるようになったんだって」

「・・・一種の縛りか何かか?いや、ただのおまじないかな?」

 

 一瞬、呪術関係のことかと思ったが、椎葉さんからは殊更強い呪力を感じられない。

 昔にはそういう迷信というかおまじないはよくあったから、そこまであり得ない話でもないか。

 というか、椎葉さんの代償を周りはともかく両親がそのままにしているのは、そういう仕来りがあったこともあるのかもしれない。

 

「それで、小さい頃から男の子の格好をしてたんだけど、そのうちに『なんかおかしい』って気付いて・・・でも、急に治すのはなんか恥ずかしくて、少し前まではボーイッシュな服ばっかり着てたんだ」

「ああ。だから男の子っぽい服は種類が多かったのか」

 

 この公園での実験では椎葉さんはいろいろな服を持ってきていたが、その大半はポロシャツやTシャツなど、レディース向けであるが男でも同じ種類の服が販売されているものばかりだった。

 しかし、それではどうして可愛い服にこだわりを持つようになったのだろう?

 

「う~ん、ワタシもよく覚えてないけど男の子の格好を治そうとしたときくらいからかなぁ?恥ずかしいけど『可愛い服を着てみたい!!』っていうのはずっと思ってたんだよ・・・うん。考えてみたらいい機会かも」

「?」

 

 可愛い服のストックが少ない理由はわかったが、椎葉さんは何かを決心したように頷いていた。

 どうしたのだろう?

 

「あのね、保科君。保科君には、ワタシが魔女になった理由を話しておこうと思うの。こうやってお休みの日に女の子の服が着れるようになったのも保科君のおかげだし、ワタシは保科君が、えっと、呪術師だってことを一方的に知ってるワケだし」

「それは・・・気にならないと言えば嘘になるけど、いいの?言いたくないなら無理をしなくてもいいんだよ?」

 

 椎葉さんが魔女になった理由。

 すなわち、椎葉さんの願い。

 これまでも気にはなっていたが、『常時男装しなければ即嘔吐』という重い縛り、否、代償を背負わせるような願いだ。

 魔法に呪術の縛りの概念が共通しているかはわからないが、もしもそうならかなりデリケートなことなのではないかと、椎葉さんから話すまで待っておこうと思っていたのだ。

 それでも、話すのが嫌なら無理にとまでは・・・という感じである。

 

「う゛、そう言われると・・・でも、話しておくよ。できればでいいんだけど、笑わないでね?」

「え?笑う?」

 

 しかし、なんか雲行きが怪しくなった。

 

「さっきも言ったけど、ワタシ、可愛い服を着たいってずっと思ってたんだけど、踏ん切りが付かなかったの。でも、たまたま、ワタシにすごい似合いそうな服を見つけて、『この服が欲しい!!』って思ったんだ」

「・・・まさか、その服が欲しいっていうのが願い?」

「違うよ!!ちゃんとお金はバイトして貯めたもん!!・・・でも、ワタシがお金を貯めたときには、その服がなくなっちゃってたんだ。ワタシ、すごいショックで、つい泣いちゃって・・・そこで、アカギに会ったの」

「アカギ?確か、前にも聞いた名前だったと思うけど・・・」

「うん。ワタシが契約したアルプだよ。そういえば、最近見てないなぁ・・・っと、話が逸れちゃったけど、それでアカギに願ったの。『もう一度あの服をお店に並べて欲しい』って」

「・・・それだけで、そのぐらい重い代償になったの?いや、まあ、呪術の縛りは術者にとって厳しいほど強くなるからわからなくはないけど」

 

 縛りは、術者にとって厳しいものほどその効果も大きくなる。

 あくまで『術者にとって』厳しいのが重要であり、他から見てどうでもいい条件でも、術者にとって難しいものなら強力な縛りとなる。

 その理屈で言うと、可愛い服にこだわりのある椎葉さんが心の底からそう願ったのなら、まああり得なくはないだろう。

 

「うう・・・実は、まだ続きがあって、本当は魔女の願いは心の欠片を集めきってからじゃないと叶わないんだけど、ワタシはどうしてもその服が欲しくて・・・願いの前借りをしちゃったんだ」

「願いの前借り・・・本来の手順を無視して無理矢理結果を引き寄せたってことか。なるほど」

 

 縛りの原則は等価交換。

 何かを得るには何かを捨てなければならない。

 どうやら魔女のシステムもそこは同じのようだ。

 もともとその服に強い思い入れがあった椎葉さんの願いに、その前借りのペナルティーが加わって今の代償があるということか。

 しかし、それなら。

 

「椎葉さん、運が良かったね」

「え?」

 

 もしかしたら笑われるかもと思っていたのかもしれないが、まさか普段気にしている代償を『運が良かった』と言われるとは想像もしていなかったのだろう。

 椎葉さんは何を言われたのかわからないような顔をしていた。

 だが、これはオレの、呪術師としての素直な感想だ。

 そりゃ、男装しなければ吐き気がしてしまうのも、周りから変な目で見られるのも辛いだろう。

 折角買った服が代償のせいで着られなくなったのも悲しかったはずだ。

 しかし、オレは、『その程度』で済んだことが、とても・・・とても『羨ましかった』

 

 

 

--俺はオマエが●を憎み、恐れた腹から生まれた××だよ

 

 

--いちいちキレんなよ、××の戯言だろ?

 

 

--お前は俺だ、保科柊史

 

 

 

 かつて、オレが軽い気持ちで『やらかした』ある出来事。

 あの頃のオレは、調子に乗っていた。

 呪術という、そこらの人間は持っていない特別な『チカラ』。

 それも、それまで持っていた自分を苦しめるだけだったモノとは違い、その気になれば気に食わない感情をまき散らしているヤツを好きなように黙らせることだってできるほどの代物を手に入れたのだ。

 自分は呪術を使ってどこまでも行けると思っていた。

 自分がどこまで行けるのか知りたかった。

 ちょっとした好奇心のつもりでやったことが、ちょっと『やってみたい』と思った結果で直視することになったモノと、その『チカラ』で己が成してしまったこと。

 椎葉さんのやったことはオレよりも全然スケールは小さいが、ほんの些細な欲望の結果が己に返ってくるというのは、とても笑う気にはなれない。

 むしろ、オレのように重大な事態にならなくてよかったと心から思えるくらいだ。

 

「う、運が良かったって!!そ、そんな言い方!!」

「あ、ごめん!!そんなつもりじゃなくて!!オレも昔、一時の感情でとんでもないことをしでかしたことがあるんだ。それでなくても、前にも言ったけど他者との縛りっていうのはすごい重い。契約の前借りなんてしたら、この先一生女の子の服が着れなくなるとかもあり得たかもしれない。それでその縛りを破ったら、それこそ死ぬくらい体調が悪くなることが起きてたかもって」

「死ぬ!?」

「うん。本気でね」

 

 オレの言い草に腹が立ったのか、にわかに怒った椎葉さんだが、オレが本心から『死のリスク』があり得たと言っているのがわかったのだろう。

 一転して、顔が真っ青になる。

 ・・・これ以上は空気が悪くなるし、この辺でこの話は終わりにしよう。

 

「オレも、椎葉さんと同じように後のことを考えないで行動して、すごく後悔していることがある。だから、絶対に椎葉さんのことを笑ったりなんかしない。むしろ、オレみたいなことにならなくて良かったって、本気で思ってる。だから・・・気に障ったなら謝るよ。ごめん」

 

 このときのオレは、一体どんな顔をしていたのだろう。

 

「・・・ううん。ワタシも、辛いことを思い出させちゃったみたいでごめんね」

 

 さっきまで怒っていたとは思えないほど、椎葉さんは心の底からオレに謝ってくれていた。

 

 

-----

 

 

「じゃ、じゃあ、そろそろお昼にしようか」

「う、うん。ワタシ、ちょっとお手洗いに行ってくるね」

 

 そろそろお昼時。

 なんとなく居心地の悪い空気を変えるべく、2人は昼食を摂ることにした。

 その前に、紬はトイレに向かう。

 尿意があったのは本当だが、整理したいことがあったのだ。

 

(保科君、昔に何があったんだろう・・・?)

 

 紬は、柊史の顔を思い返しながらそんなことを思った。

 

(ひどい顔だった・・・)

 

 自分の代償を『運が良かった』と言われたときはさすがにカチンときた。

 だが、そのときの柊史の顔を見て、そんな怒りなど吹き飛んでしまった。

 

(まるで、この世界全部に絶望しちゃったみたいな、ものすごく暗い眼)

 

 もともと、柊史は眼に光がないというか、死んだ魚のような眼というか、とにかく気力があまり感じられない眼をしている。

 実を言えば、初対面のときにはあんまりな出会いだったこともあって少し怖かったくらいだ。

 まあ、話してみると意外と気さくだし、頼りになるし、優しいし、ものすごくいい人なのは間違いないとわかっているが。

 容姿にしたって、他人の眼が直にわかる影響からか身だしなみにはかなり気を遣っているようだし、なんなら『そこらの女の子をナンパしてるんじゃないよね?それで女の子本気にさせてないよね?』と疑ってしまうくらいには評価している(※紬の贔屓目による補正あり)。

 だが、さっきまでの柊史の眼はそれらとは格が違った。

 よく物語の表現で、『古井戸のような眼』というものがあるが、まさに『穴』だった。

 一切の光のない、よどんだ黒い闇。

 そんな闇が柊史の眼に宿っていたのだ。

 

(前々から思ってたけど、保科君、ちょっと不安なところがあるんだよね)

 

 紬にとって、保科柊史という少年は、『抜けているところもあるけど、魔女のことを隠さなくてもいい、頼りになる優しい人』という印象だ。

 だが、時折、妙に心配になることがある。

 今日もそうだったが・・・

 

(自分のことを大事にしていないっていうか・・・いくら傷ついてもいいって思ってるような)

 

 自己肯定感が低いという言い方で合っているのだろうか?

 どうにも、自分を低く評価しているような気がするのだ。

 紬からすれば、柊史はとても、とっっても素晴らしい人だというのに。

 今まではそんなに気にしなかったが、さっきの様子を見るに、過去に何かがあったのだろう。

 自分の契約と代償のことなど、完全に自業自得な上に笑い話にしかならないようなしょうもない話だが、柊史の抱えているモノはそれとは比べものにならないくらい重いモノだという確信があった。

 

(なんとか、してあげられないかな・・・)

 

 今、紬と柊史は契約を結び、お互いが得をするような関係を築けている。

 紬は代償を短い間とはいえ無くすことができ、柊史はプラスの感情を得て美味を味わいつつ飢餓感を癒やせる。

 しかし、さっき考えていたように自分の代償は完全に自業自得だ。

 ならば、自分の取り分を減らしてでも、柊史の得るものを増やしてあげたいという気持ちがあった。

 

(そもそも、『他人の感情を四六時中五感で感じ取れる』なんて、ワタシだったら耐えられないよ・・・)

 

 この代償を背負ったからこそわかる。

 他人に悪意を向けられるのは、とても辛くて苦しいことだ。

 それを、柊史の場合は実際の感覚としても感じ取ってしまうという。

 しかも、己に向けられたモノ以外でも。

 紛うことなき善人である紬とて、クラスのみんなが、街ですれ違う人たちみんなが、いつも和気あいあいとできていると思っているほどお花畑ではない。

 人間なのだから、人間関係や性格の相性はあるし、いろんなことが原因でイライラすることだってある。

 それすら、すべて感じ取ってしまうというのなら、それは一体どれほどの苦しみだろう。

 だから。

 

(縛りのことなんかなくても、保科君のこと、助けてあげたいな)

 

 保科柊史は、もう少し報われたっていいんじゃないか。

 本人が聞いたら『椎葉さんと出会えた時点で十分すぎる!!これ以上は罰が当たる!!』と全力で否定するだろうが、そこまでナルシストでもない上に今は男装しかできないという負い目のある紬にそんなことが想像できるはずもない。

 前々から芽生えかけていた、『保科柊史を癒やしてあげたい』という想いが、この日確かに一歩を踏み出した。

 

 

-----

 

 

「やっぱり、椎葉さんは相当レベル高いね。これの味付けどうやってるの?」

「あ、それはタレをね・・・でも、保科君のお弁当も美味しいよ?」

 

 なんとなく気まずい雰囲気になってしまったオレたちだが、気まずくてもお腹は空く。

 そして、今日は長い時間を取って検証をすると決めていたため、お互いに弁当を作って持ってくることになったのだ。

 公園のベンチで弁当箱を開け、さっそく中身を摘まむ。

 そして、興味もあったのでおかずの交換を提案したのだが、前から思っていたように椎葉さんの料理スキルはオレよりも格上であるとわからされてしまった。

 椎葉さんの家はオレと同じく両親が仕事で遅くなることが多いらしく、その関係で家事も上達したらしい。

 経緯はオレと同じなのに腕前に差が出るのは、才能か本人の気質か。

 自分の料理の腕にはそれなりに自信があったので少し悔しい気持ちはあるが、お互いに共通する特技ということもあって料理関係の話はかなり弾んだ。

 なんか、トイレから戻ってきた椎葉さんがやけに熱心に話を振ってくるのもあるけど。

 おかげでさっきまでの気まずい空気がなくなったので良しとしよう。

 というより。

 

(女の子と外で一緒に弁当食べるとか、もうこれってデートなのでは?)

 

 オレたちがいる公園は人気がなく、ファミレスやコンビニはちょっと離れたところにある。

 それに、椎葉さんも周りの目が気になるのか、それとも知り合いに会うのが嫌なのか、あまり人の多いところに行きたくないようだったのでこういう形になったのだが、考えてみるとかなりハードルの高いことをしているような気がする。

 弁当を作って持っていくときにも思い浮かんではいたのだが、今の今まで実験やら何やらで忘れていたのである。

 

「?保科君?どうしたの?」

「あ、いや、これなんかデートしてるみたいだなって」

「ふぇっ!?」

「あ」

 

 そんなことを考えてボーッとしていたのが悪かったのか。

 オレの様子がおかしいと思ったのか、椎葉さんが声をかけてくれたとき、つい反射で思っていることを口に出してしまった。

 

(オ、オレのバカ!!なんてことを!?)

 

 前に、椎葉さんに『思ったことをなんでも口に出してしまう』と言われたときは自覚できなかったが、本当にそういう悪癖があると思い知らされた。

 

「ご、ゴメン!!変なこと言っちゃった!!今のナシで!!オレなんかじゃキモイし、あくまで、『みたい』だからこれはデートじゃ・・・」

「そんなことない!!」

「ないし・・・え?」

 

 オレと椎葉さんが打ち解けられたのは、椎葉さんが魔女の契約によって代償を背負っていたのと、それをオレの術式で解決ができたからだ。

 それがなければ、オレのような冴えない死んだ眼をしたヤツが椎葉さんレベルの子とこうして休みに過ごすことなどできるはずもない。

 いつかは終わる関係だし、椎葉さんにはもっと相応しい相手がいる。

 オレは本気でそう思っていたし、せっかくの椎葉さんのデート歴をオレのようなヤツが汚すのも申し訳ないと思っての弁解だった。

 けど。

 

「・・・ワタシは保科君と一緒にいて、嫌だとか気持ち悪いなんて思わないよ。保科君にも目的があるからだけど、ワタシの代償のことでこんなに必死になってくれるのは、保科君だけだもん。だから、自分のことに『なんか』なんて付けないで。ワタシのために頑張ってくれてる人を馬鹿にするのは、ワタシを馬鹿にするのと一緒だよ」

 

 椎葉さんは怒っていた。

 オレが無理したときや、さっき代償を運が良かったと言ったときよりも。

 同時に、焼けるような熱でなく、オレの身体の芯まで包むような穏やかな温もりも感じる。

 本当に、心の底からオレのことを思って言ってくれたのだとわかった。

 だから。

 

「わ、わかりました・・・」

 

 オレは大人しく返事をするしかできなかった。

 若干、椎葉さんの小柄な身体から放たれる気迫にビビったこともなくはないが。

 

「「・・・・・」」

 

 また、気まずい空気が満ちる。

 ただ、今度は少し種類が違う。

 

(椎葉さん、オレと一緒にいるのが嫌じゃないって・・・いやいや!!勘違いするな保科柊史!!あれは椎葉さんがいい人だから言ってくれたんだ!!そう言う意味じゃない!!)

(ワ、ワタシ、もしかしてすごい恥ずかしいこと言っちゃった・・・?ど、どうしよう!?さっき考えてたことでもあるし、嘘なんかついてないけど、保科君はどう思ってるのかな・・・っていうか、もしかして保科君ならワタシがどういう気持ちでいるかバレちゃってる!?)

 

 椎葉さんが言ったのはオレを否定するのではなく、逆に肯定する言葉。

 『あなたと一緒にいるのは嫌ではない』ということ。

 文字にすればそれだけのことなのだが・・・

 

((気恥ずかしい!!))

 

 お互いに、なんだか恥ずかしくなってしまったのだ。

 

(ヤバい。こういうとき、なんて言えばいいんだ?というか、またオレが喋ったら変なことを口に出しちゃうんじゃないか!?)

(うう・・・沈黙が辛い。でも、どうやって話しかければいいんだろう?保科君、今何考えてるのかな?ワタシにも、保科君みたいなチカラがあれば・・・)

 

 決して険悪ではない。

 だが、何も言い出せないむず痒くなるような空気に耐えるのが厳しくなってきて、お互いに視線があっちを向いたりこっちを向いたりと安定しなくなる。

 少しでも自然に喋っていない時間を引き延ばそうと、弁当を食べるのを再開するが、もともと料理の話で盛り上がっていたときに結構おかずを交換していたこともあり、すぐに食べ終えてしまう。

 このままの空気で午後に突入するのはなんか嫌だとお互いが思っているのに、この状況を打開するきっかけを口にできなかったのであった。

 




連載は遅いですが、Pixivでも本作を連載してます。
異能力バトルと併せてこっちにもいいねとかブクマ付けてくれれば励みになります。
なお、今回は長すぎて分割しているので、次もサノバウィッチ更新になります。

https://www.pixiv.net/novel/series/12446456

この作品をご存じでしょうか?①ダークギャザリング、②死印、③東方Project

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