女の子が苦しんでいるのを肩代わりしてしまう少年の話   作:二本角

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私の中のサノバヒロインの印象。

綾地さん:黙って自慰するのは仕方なく許してくれそう。

因幡さん:そっち系の同人誌とかゲーム持ってても許してくれそう。

戸隠先輩:エロDVD持ってても最終的に許してくれた。

仮屋さん:描写はないが海道とかとつるんでいるのでそっち系の理解はありそう。

椎葉さん:全部アウト(柊史くんの○液は全部ワタシが受け止めるとか言ってるので・・・)




休日の公園にて②

 初夏の昼下がりの公園。

 暑すぎず寒すぎず、過ごしやすい絶好のピクニック日和である。

 賑やかな街中からやや離れた閑静な住宅街の中にある公園に人気はなく、ベンチに座るオレと椎葉さんだけしかいない。

 そんなオレたちの膝の上には、お互いの手作りの弁当箱。

 年頃の男女が2人だけで、公園で弁当を広げているとなれば、もうどう見てもデートをしているようにしか見えないだろう。

 会話はなく、なんとなく気まずい空気にはなっているものの、仲が悪いような感じはしない。

 オレだって、もしもそんな2人を傍から見ることがあったのなら、そう思うに違いない。

 

(けど、違うよな・・・うん。違うハズなんだ)

 

 けど、当事者であるオレとしてはとてもそう思えなかった。

 オレなんかと椎葉さんが釣り合うワケがない。

 たまたま呪術師だったオレと、たまたまオレに都合のいい代償と優しい性格をした椎葉さんという偶然かみ合うピースが揃っただけのこと。

 色気のない言い方をすればビジネスライクな関係であり、お互いの実利が合わなければ成立するはずもなかった縁だ。

 だから、オレはコレをデートだと思えなかったし、椎葉さんに悪いと思っていた。

 椎葉さんくらい可愛い子なら、本当ならオレなんぞよりももっとレベルの高い相手と素敵な時間を過ごせていただろうにと。

 その気持ちそのものは今も変わらない。

 だが。

 

(・・・さっきの椎葉さん、どういう意味だったんだろう?)

 

 当の椎葉さんから、本気でその考えを否定されたのだ。

 

 

--・・・ワタシは保科君と一緒にいて、嫌だとか気持ち悪いなんて思わないよ

 

 

 昔から、オレはチカラのこともあって他人に避けられてきた。

 そりゃあ、海道や仮屋のように友達としていてくれる気のいいヤツらもいる。

 けど、あいつらはあくまで友達であって、今の椎葉さんのように男女の仲と思われかねないようなことをしたことなど一度もない。というか、海道は男だ。

 だから、これが初めてなのである。

 

(・・・女の子とこういう空気になって、それを嫌がられていないのは)

 

 椎葉さんに、代償の関係で他に頼れる人がいないであろうというのはあるだろう。

 しかし、オレの術式は今の椎葉さんがオレといるのを嫌がっていないと教えてくれている。

 そこに『この人に取り入っておけば都合がいい』といった打算もない。

 むしろ、さっきのオレの発言に対する怒りがあるくらいだ。

 

「うう・・・」

 

 その椎葉さんはさきほどからオカズを摘まみつつ、あっちを見たりこっちを見たりと公園中を見回しているが、ふとした瞬間にチラチラとこちらを見ているのがわかる。

 なぜなら、オレも同じように目線を一所に落ち着かせずにあちこちを見て、肌にチリッと撫でられるような感覚がするたびに椎葉さんの方を見ているからだ。

 そのときに、視線が合うのである。

 

「「う・・・・・」」

 

 ほら今も。

 ・・・こうして視線がかち合っては反らし、またしばらくしてお互いを見合って視線を外すのだ。

 そんなことを何度も繰り返してしまっている。

 

(まさか、椎葉さん、オレのことを意識してる?さっきのも・・・いやいや!!ないない!!椎葉さんはオレと一緒にいるのが嫌じゃないってだけで、別に好きとまでは思ってないだろ!!)

 

 オレの術式は、感情を五感で感じ取るチカラが備わっている。

 これによってなんらかの感情を込めて視線を向けられたときに触覚でわかるのだ。

 だから、椎葉さんがオレに頻繁に目を向けているのもすぐにわかった。

 そして、他人に見られているとき、そこに悪感情が込められていると痛みを感じるのだが、今の椎葉さんが向けるモノは痛みではなくて・・・

 

(・・・あったかい)

 

 まるで、真冬にかじかむ手を握ってもらったときのような。

 そんな温かい手で撫でられたような感じ。

 術式となる前からこのチカラと長年付き合ってきたオレだが、それでも感じたことのない不思議な温もりだった。

 羞恥が混ざっているのはわかるが、この熱はそれだけじゃない。

 オレの知らない何か。でも、決して悪いものじゃない。

 

(これが何かはわからない。でも)

 

 温かい手で触れられるというのは、知らない人間だったら、いくら良く思ってもらっていても喜べたかは微妙だが、他ならぬ椎葉さんだ。

 どうしても思ってしまうのだ。

 ほんのついさっきまで、オレのようなロクでもないヤツが椎葉さんと一緒にいるのなど申し訳ないと考えていたばかりだと言うのに。

 

(もっと、欲しくなる)

 

 この温かい感触を、女の子の服に着替えるときにくれる、極上の感情を。

 それがどれほど身の程知らずでおこがましいことかなど、自分でもわかっているはずなのに。

 

「・・・・・」

 

 物欲しさと、後ろめたさ。

 二つの感情がぶつかって、とてもじゃないが椎葉さんの方を見れなかった。

 椎葉さんにはオレの術式のようなチカラなどないから、オレがどんな気持ちでいるかを直接感じ取ることはできない。

 それでも、今のオレの顔を見られたら、オレの卑しい考えを見透かされそうだと思ったのだ。

 そうして、オレは椎葉さんの視線を感じつつ、それに気付いていないかのように公園の中に視線を向ける。 

 そのときだった。

 

 

--ブ~ン・・・

 

 

「あ、蠅頭だ」

「え?何?ヨウトウ?」

「あれ?椎葉さん見えないの?」

「う、うん。何かいるの?」

 

 ちょうどオレたちの方に、一匹の虫のようなナニカが飛んできた。

 羽の生えた土偶のような、ぱっと見ちょっとキモい天使のように見える。

 椎葉さんには見えていないようだが、これは蠅頭といい、人を呪うほどのチカラもない最下級の呪霊である。

 四級は希にしか見ない。三級は初めて出会ったときから自然発生したものは一度も見ていない。

 だが、蠅頭はそこそこ見かけるので、こんな場所にいてもおかしくはない。

 

「よっと」

 

 せっかくなので、近くに来た蠅頭を捕まえてみる。

 蠅頭はジタバタと暴れるが、オレの手から抜け出せるほどの力はない。

 そうして捕まえた蠅頭を、椎葉さんに近づけてみた。

 

「今、ここに蠅頭っていう一番格が低い呪霊がいるんだけど・・・やっぱり見えない?」

「呪霊?」

「うん。呪う霊って書いて呪霊」

「霊!?お、お化けってこと!?」

「まあ、言ってしまえばそうだけど、今オレが捕まえてるのは人間になにかできるほどの力もないヤツだよ・・・とりあえず祓っておくか」

 

 少し手に呪力を集中させ、蠅頭を握りつぶすと、体液をまき散らすこともなく一瞬で消えた。

 ありがとう。お前のおかげで気まずい空気が消えた。お前のことは忘れない。

 

「ど、どうなったの?」

「うん。オレが祓った・・・いや、成仏させたよ」

 

 オレが気まずい空気を払拭してくれた蠅頭に感謝していると、恐る恐るというように椎葉さんが聞いてきた。

 あの蠅頭はオレが祓ったが、成仏したかどうかはわからない。

 そもそもあの世があるかどうかは呪術師であるオレにもわからないのだ。

 先生だって、『死後の世界ねぇ・・・私は見たことがないな。空港は通ったけどね』とよくわからないことを言っていた。

 だが、これもいい機会だ。

 椎葉さんのボディーガードに付けることができるかどうかを試しておくのも悪くない。

 

「椎葉さん。コレは見える?」

「コレ?」

「うん。さっきのヤツより格が上の呪霊」

 

 オレはちょうどストックしていた四級呪霊を取り出してみるが、これも椎葉さんには見えていないようだ。

 帳が見えるのだから、呪霊が見えないこともないと思ったのだが。

 

「じゃあ、コレは?」

 

 オレが持っている呪霊はほとんどが術式を持つ準一級以上だ。

 だが、準一級以上の呪霊は見た目がアレなモノが多く、その中でもマシな虹龍を取り出してみた。

 すると・・・

 

「な、なにこれ!?り、龍!?」

「おお、特級は見えるんだ」

 

 空に浮かぶ巨大な龍に、椎葉さんは驚いて叫ぶ。

 特級は見えていることから、ある程度格の高い呪霊からは見えるようになるのだろう。

 いきなり特級を出してしまったから、何級から見えるのかはわからないが。

 

「ほ、保科君!!この龍は何!?」

「コイツは虹龍。オレが先生からもらって調伏した呪霊だよ。すごい速くて、オレはこの虹龍に乗って姫松からここに来てるんだ」

「そ、そうなんだ・・・前々からどうやって毎日ここに来てるか不思議だったんだけど、この子に乗ってたんだ・・・」

「触ってみる?」

「・・・いいの?」

 

 最初こそ少し怯えていたようだが、オレが毎日乗っていると話すと警戒が解けたらしい。

 虹龍が『龍』という神秘的な生き物とよく似た姿をしており、大人しく浮いているだけなのもあるのだろう。

 オレが指示すると、虹龍が地上まで降りてきて、おっかなびっくりといった感じで椎葉さんが虹龍の鱗に触れた。

 

「わっ、硬い」

「そうでしょ?コイツは、オレだけじゃなくて、呪霊を何千も持ってる先生の手持ちを合わせてもトップクラスの防御力があるんだ」

「へぇ~・・・」

 

 ひとしきり虹龍を触って感心した様子の椎葉さん。

 オレは虹龍を呪霊玉に戻すと、呑み込んだ。

 

「相変わらずマズいな・・・」

「そうなの?どんな味?」

「・・・ゲロを拭いた雑巾みたいな味」

「・・・そ、それは最悪だね。でも、わかるなぁ」

 

 椎葉さんも代償が代償だ。

 これまで何度も吐いたことがあるからこその、実感のこもった台詞だった。

 ・・・椎葉さんがオレに親近感を持ってくれたからなのか、味が少しマシになった。

 

「・・・ねぇ保科君。呪霊のこととか呪術のこと、もっと教えてもらってもいい?」

「え?ああ、うん。別に大丈夫だけど・・・どうして?」

「えっと、蠅頭だっけ?とにかく、そういうお化けがいるんだよね?だったら、一応対策とかそういうのは知っておきたいかなって・・・それに」

「それに?」

「う、ううん!!それだけ!!それだけだから!!」

「そ、そう?」

 

 何かを言いかけて、顔を真っ赤にしながらこれで終わりと言い張る椎葉さん。

 若干の薬臭さから、明らかに嘘だとはわかるのだが、同時に感じる恥ずかしさと温かい謎の感触から、悪い意味で何かを隠そうという気はないみたいだ。

 なら、敢えて聞くまい。

 それに、呪霊のことを怖いと思っているのも本当のようだし。

 

(椎葉さん、ホラー系苦手なのかな?)

 

 さっき呪霊という単語の意味を教えたときも怯えていたし、椎葉さんはホラー系が苦手なようだ。

 オレも昔は苦手だったが、今はもう呪術師だし、先生に呪力のコントロールのためにホラー映画を大量に見せられたこともあるので慣れてしまったが。

 

「わかった。でも、安心してくれていいよ。オレも呪術師になって6年くらいだけど、人を呪えるくらいの呪霊って滅多にいないから」

「そうなの?」

「うん。呪霊っていうのは、人間のマイナスの感情から生まれるお化けなんだけど・・・」

 

 そうして、オレは呪霊のこと、さらに準一級以上の説明から派生して呪力や術式のことも話し始めるのだった。

 

 

-----

 

 

「術式は、ゲームのキャラが持ってるスキルとか魔法、いや魔法だと紛らわしいな。うん、超能力みたいなものだよ。呪力っていうマイナスの感情を源にするエネルギーを動力にして発動するんだ」

「へぇ~・・・マイナスの感情から生まれるエネルギーって、なんか心の欠片みたい」

「うん。先生もそう言ってた。オレたちの呪術と魔法は似ているところが多いんだ」

 

 柊史の呪術に関する講義はしばらく続いた。

 紬は柊史の話す内容を聞き漏らさないように注意する。

 どうしてそこまで真剣に聞いているかと言えば、それはさきほどにあった心境の変化が大きな要因だろう。

 もっとも、その種は柊史と放課後に出会うようになってから少しずつ育っていたものではあるのだが。

 

(保科君のこと、もっと知りたい)

 

 思えば、紬が柊史のことで知っていることと言うのは案外少ない。

 とはいえ、好きな食べ物だとか、得意な科目、趣味。

 そういったモノならばこれまでの会話でもある程度掴むことができている。

 これが普通の人間ならばそれくらい知れていれば十分だろうが、柊史は、そして自分も普通の人間とは言いがたい。

 そして、柊史は魔女である自分よりも輪をかけて色々と『特別』だ。

 

(保科君の過去にあったこと、時々心配になるところ・・・多分、そういう特別な部分が関わってるんだと思う)

 

 時折柊史が見せる、『オレなんて』という己を貶めるような言い方。

 さきほど見た暗い表情。

 これまでの人生で辛いことと言えば、自業自得としか言えない理由で代償を背負うこととなったこと以外に特にない紬には、言い換えれば普通の人間には想像もできないような『何か』があったのだ。

 

(その『何か』を知らなきゃ、保科君を本当の意味で助けられない。そんな気がする)

 

 今の椎葉紬という少女には味方と呼べる存在がほとんどいない。

 男装を強制されているのだから当然と言えば当然で、しかも身から出た錆としか言えない理由であるし、その理由を他人に明かすこともできないのだから。

 彼女の両親は紬のことを心配してくれているがすべての事情を話せるわけではないし、逆に事情を知るどころかある意味共犯者と言える存在は悪い子ではないし、『人間の感情の機微が理解できていないわけではないが』まだ勉強中であり、紬がどうして困っているのか完全にはわかっていないし、そもそも最近姿を見せない。というか、あの子については逆に紬が色々と面倒を見てあげなければならない事の方が多い。

 だからこそ、そんな中で唯一と言っていいほど親身になって、苦しい思いをしてまでアルプでもどうにもできなかった紬のやりたいことをやらせてくれている保科柊史に対し、とても強い感謝の念を抱いている。

 呪術と魔法という違いはあれど、他の人には話せない秘密を共有できていることで普通の友達に抱くそれより大きな仲間意識や親近感もある。

 そしてその感謝の念と親近感、生来のお人好しな性格が、保科柊史の抱える闇を祓えと訴えかけているのである。

 柊史の抱えるモノを解決するためには、柊史の住む世界について知る必要がある。

 故に、紬は柊史の語る『呪術の世界』の話を真剣に聞いているのだ。

 まあ、魔女と意外と共通点があったり、未知の世界の話そのものが面白かったりで別に苦ではないのだけど。

 

(さすがに、さっきの・・・えっと、『虹龍』だっけ?あの龍を出したときは驚いちゃったけど)

 

 見えないだけで実はそこら中にお化けがいる話をされたときとか、そのお化けの中でも一番強いレベルの龍を出されたときは驚いた。

 でも、柊史が傍にいて、『それは大丈夫』と言ってくれたから、紬も平気だったのだ。

 他ならぬ、『椎葉紬の絶対的な味方である』保科柊史がいるから。

 そして同じように。

 

(ワタシにとっての保科君みたいに、保科君にとって今味方になれるのもきっと『ワタシだけにしか』できないことだから)

 

 今の柊史の味方になれるのは、柊史を癒やしてあげられるのは、自分しかいない。

 その確信が紬にはあった。

 ほんの少し前、ちょっとだけ柊史のチカラ、術式があれば柊史の気持ちがわかるのにと思ってしまったが、やっぱり自分なら耐えられないし、柊史だって辛そうだ。

 だと言うのに毎日ここに紬に会いに来るのは、紬の代償をどうにかしたいと思ってくれているのもあるが、縛りによって自身を癒やしたいという思いがあるからのはず。

 今も柊史の話に出てくる『先生』と呼ばれている人は気になるが、どうにも中々会えないようだし、他に頼りになる人がいるのなら、縛りを結ぶ前に柊史が言った、自分こそが『理想の契約者』などという言葉が出るはずもない。

 だから、自分なのだ。

 

(ワタシが、保科君の味方になる。保科君がワタシの味方になってくれてるみたいに。ワタシ『だけ』でも)

 

 熱い決意が紬を満たしていた。

 同情、親愛、感謝、友愛、慈しみ。そして、紬も未だに気づいていない、『唯一味方になって自分を助けてくれている相手。しかも、頼れるだけでなく、自分こそが支えてあげねばならない脆い部分もある男の子』に向けて育ちつつある『何か』。

 様々な感情が入り交じって紬の中で渦を巻いている。

 それは、柊史にも伝わっているのだろう。

 呪術のことを語っていた柊史が、少し驚いたような顔をしている。

 少し恥ずかしかったが、それでもその気持ちが萎えることはなかった。

 

(多分、この気持ちのことはバレちゃってるよね。でも、前に保科君が言ってた『エンパス』・・・少し調べてみたけど、それなら何を考えているのかは、わからないよね・・・?)

 

 柊史の術式は、他人の感情を読み取ることはできるが、『どうしてその感情を抱くに至ったか?』といった理由まではわからないし、エスパーのように思考を読み取ることもできない。

 だから、紬が柊史のために熱い想いを燃やしていることはわかっても、何をしようとしているのかはわからないはずだ。

 ならば、いい。

 どうぞ、自分のこの気持ちをくみ取って欲しい。

 言葉にするのは恥ずかしいが、感情を読み取られてしまうのならしょうがない。

 

(これは、ワタシなりの決意表明なんだから)

 

 ・・・椎葉紬という少女は、優しく、母性に溢れ、困っている人を放っておけない善人だ。

 

(ワタシがなってあげなきゃいけないもんね)

 

 だが、彼女がここではない別の世界で歩む道筋(ルート)を紐解くと、ほんのわずかであるが欠点もある。

 いや、欠点と言うと語弊があるかもしれない。

 それは彼女の美徳の裏返しとも言えるのだから。

 

(ワタシが、保科君の味方になってあげるんだ)

 

 椎葉紬という少女は善人であり、自分の芯というものが強い人間だ。

 やり遂げると決めたことはやり抜く覚悟をもっていて、入れ込んだ者には誠心誠意尽くす。

 言い換えれば、やや頑固なところがあり、己が『こうだ!!』と思ったことを押しつけてしまうこともある。

 そして、ある世界において柊史の周りに現われる5人の少女たちの中でも、紬がもっとも尖っていると思われる部分がある。

 

(そう。ワタシ『だけ』しかなれないんだから)

 

 独占欲。強い愛情の裏返し。

 『ワタシはアナタだけのモノ。その代わり、アナタもワタシだけのモノ』

 心に決めた相手を、決して他の誰にも触らせないバラのトゲのような。

 今の紬に、否、別の世界の紬にもその自覚はないだろう。

 だが、この世界において、本人も、感情を読み取れる柊史も気づけないほどわずかであるが。

 

(ワタシは、保科君の『理想の契約者』なんだから)

 

 その黒い種は、静かに芽吹きの時を待つのだった。

 

 

-----

 

 

(・・・椎葉さん、すごい熱心だな)

 

 椎葉さんに頼まれて呪術の概要を教えているのだが、椎葉さんはまるで学院での授業のようにまじめに聞いている。

 このベンチで弁当を食べ始めたときからテンションが上がっており、オレの不用意な発言のせいでその勢いを消してしまったと思っていたのだが、蠅頭が現われて呪霊のことを話してからまた再燃したようだ。

 一体どうしてそんなことになったのかはわからないが、今の椎葉さんはオレへの様々なプラスの感情で燃え上がっていて、オレとしては非常に気分がいい。

 それに、オレのアイデンティティーと言えるチカラ、呪術のことに本気で興味を持ってくれているのはなんか嬉しい。

 

「ふぅ・・・こうして聞いてみると、ワタシたち魔女の魔法って術式と似てるんだね」

 

 一通り話し終わって一息ついていると、同じように集中していた椎葉さんも軽く伸びをしながらそう言った。

 オレは、伸びによって強調されたお山に視線を向けないように全力で椎葉さんの顔以外見ないようにしながら答える。

 

「・・・うん。オレもそう思う。あと、魔法は呪霊とも似ているんだ」

 

 まず、心の欠片と呪力は似ている。どちらも感情を元にしたエネルギーだ。

 願いを叶える魔女のシステムを術式として見た場合、心の欠片≓呪力を注ぐことで発動する結果=願いということになると言ってもいい。

 さらに、心の欠片を原料に発動する魔法とマイナスの感情の具現化した存在である呪霊。

 これらもその在り方が似ている。

 呪霊の中には『自然呪霊』という火山や海のような自然そのものへの恐怖や畏れが具現化した存在がいるらしいのだが、これは魔法と特に在り方がよく似ているようで、先生は『純度100%の自然発生した魔法と言えるんじゃないか』と言っていた。

 他にも、オレが呪霊玉を吸収できたように、呪霊は心の欠片とも似ていると言える。

 そもそも、呪力と呪霊はどちらもマイナスの感情を源としていて、それそのものがよく似ているのだが。

 ともかく、呪術と魔法はよく似た点が多いのだ。

 

「ところで、呪力ってワタシにもあるの?」

「椎葉さんにも、っていうか、人間は誰でも呪力を持ってるよ。縛りが椎葉さんと結べたのも、オレと椎葉さんの両方に呪力があるからだね」

「じゃあ、術式は?」

「術式は、オレだとわからないな。術式を持ってる人は、生まれつき脳の一部が普通の人と違う構造をしてるんだって。でも、椎葉さんの場合だと呪力が少なくてあっても発動できないのかも」

「そうなの?ワタシは魔女なのに?」

「これは先生が言ってたんだけど、魔女のチカラは、あくまで『借り物』なんだって。用途も限定されてて、『心の欠片を集める』、『普通の人から見えなくなる』以外のことには呪力、いやこの場合は魔力が使えなくなっているみたい・・・オレも、椎葉さんが魔女だって見ただけだとわからなかったんだ」

 

 先生が言っていたが、『生涯で一度きりかつアルプに代償を支払う必要があるが、心の欠片を集めることで願いを叶える権利を手に入れられる』という魔女のシステムは、『この世界そのもの』との縛りで得られる術式と言えるモノらしい。

 先生曰く『天元様の結界・・・いや、似たようなシステムをよく知っているんだ』とのこと。

 魔女の存在に気づきにくい理由も、もともとの所有者が世界であるためじゃないかと思っている。

 言わば、魔女が変身を解除して元に戻る際に残穢に至るまでの魔力も回収してしまっているという感じだ。

 だから、椎葉さんも最初に見たときに魔女かどうか見ただけではわからなかったのではないか。

 ・・・なお、この魔女の契約は、あくまで『この世界』との契約であり、アルプはその仲介者でしかない。

 魔女としての能力はどの魔女にも共通であり、千差万別の代償はその魔女の願いと資質で決定され、アルプにもどんな代償になるかはわからない。

 要は、魔女ごとに生じる違いはその魔女固有の要素であり、どのアルプと契約しても同じ結果が得られるのに変わりはないのだ。

 アルプが術者ならば、そのアルプ独自の色が全く出ていない。

 その点で言うと、椎葉さんが契約したアカギというアルプはその世界との縛りに色々と手を加えているだけ個性があると言えるが、あくまで縛りの内容を少しいじっただけで、大本は変わりない。

 その根幹を変える力はアルプにもないし、アルプは魔女が集めた心の欠片を自分のモノにもできない。

 願いを叶える魔法を使えるのは、アルプではなく欠片を集めきった魔女しかいないのだ。

 

「椎葉さんは、例えば魔女がもう1人いたとして、変身してなかったら見ただけだとわからないんだよね?」

「うん。アカギもそう言ってた。魔女どうしは心の欠片をめぐって争いになることもあるらしいから、他の魔女には気をつけろって。でも、魔女が見ただけじゃわからないって」

 

 やはりそういうモノらしい。

 しかしそうなると・・・

 

(そうなると、綾地さんは本当に魔女なのかもな。できればあんなとんでもない異能とか存在して欲しくないんだけど・・・綾地さんも同じことを考えてそうだな)

 

 ここ最近の悩みの種となっている学年一の美人のことがふと思い浮かんだが、胸がときめくことはなかった。

 あの発情の強さと頻度は異常であり、異能が関わっているんじゃないか?と最近は真剣に思っていたところだ。普通に本人が異常性欲者なだけという可能性もまだあるが。

 椎葉さんの話によると魔女どうしは争いになることもあるらしいが、仮に綾地さんが魔女で椎葉さんと出会っても、この2人なら平和的に解決しそうである。

 まあ、オレの事情的に会って欲しくないけど。

 そして。

 

(因幡さんに魔法をかけた魔女はどこにいるんだろう?多分、姫松のどこかにはいるよな?っていうか、魔女って結構たくさんいるのか?先生はそんなにいないって言ってたけど)

 

 因幡さんに残っていた残穢を見るに、魔法の痕跡、すなわち魔女でなくなる直前の残穢は残るようだ。

 ならば、因幡さんに魔法をかけた魔女にも残穢は付いているはずなのだが、学院でそんな生徒は見たことがない。

 あれほど強い願いを宿した魔法をかけるくらいだから因幡さんと親しいと思うのだが、彼女はオレと同じボッチであり、近くにそんな友達がいるようにも思えない。

 まあいずれにせよ・・・

 

「う~ん・・・」

「保科君?どうしたの?」

「あ、いや。オレが最初に出会った魔女が椎葉さんでよかったなって」

「ふぇっ!?」

 

 何やら不意打ちを食らったかのような声を出す椎葉さん。

 しかし、オレとしては正直な感想を言ったに過ぎない。

 

「魔女なら誰にでも事情を話せるわけじゃないし、オレが肩代わりできない代償かもしれない。それに、反転術式も・・・ああ、マイナスのエネルギーである呪力と呪力を掛け合わせて、癒やしの力をもったプラスのエネルギーを作ることを反転術式って言うんだけどね?椎葉さんのプラスの感情はすごく質がよくて、プラスのエネルギーをたくさん作れるんだ」

「そ、そうなの?質がいいってどういうこと?」

「う~ん・・・プラスの感情は普通は何のエネルギーも生み出せないんだけど、オレの術式の場合は取り込んだプラスの感情の分、プラスのエネルギーを生み出せるんだ。それで、取り込むプラスの感情が大きいほど。そして、オレに向けられているほどその効率がよくなる。つまり、それだけ椎葉さんがオレに対して強く感謝とかをしてくれてるってことかな」

「そ、そうなんだ・・・じゃ、じゃあ」

「?」

 

 そこで、椎葉さんが何かを言いよどんだ。

 同時に伝わってくるのは、恐らく、『不安』と『期待』。

 割合的に期待の方がかなり大きいが、何かを聞こうとしているのだろうか?

 

「じゃあ、ワタシは保科君の理想の契約者ってこと?」

「理想の契約者?・・・ああ、そうだね。縛りを結ぶときにも言ったけど、椎葉さん以上に条件がいい人なんて考えられないよ」

 

 椎葉さんの聞いてきたことは、オレにとって当たり前のことである。

 秘密を共有できて、それでいてとんでもなくいい人で、お互いに得のある契約を結べる相手など、日本どころか世界規模で見てもそうはいないに違いない。

 だから、オレは何のためらいもなくスラリと答えることができていた。

 

「ふ、ふ~ん、そっか。やっぱりそうなんだ・・・えへへ。ねぇ、保科君」

「うん。何?」

 

 オレの返事を聞いた椎葉さんはとても嬉しそうだった。

 その気持ちがオレにも伝わって、オレもなんだかテンションが上がってくる。

 椎葉さんが嬉しくて、オレも嬉しい。

 本当はいけないことなのに、少し前に抱えていた後ろめたさが消えていくようだった。

 そして。

 

「ワタシ、頑張るよ!保科君がワタシを助けてくれているみたいに、ワタシだって、保科君をいっぱい助けるから!!だから・・・」

 

 

--これからも、よろしくね?

 

 

 花が咲くような笑顔で、そう言ってくれた。

 その笑顔を見て、オレもまた。

 

「うん!!こちらこそよろしく!!」

 

 いったいいつぶりかと思えるくらい久しぶりに、思いっきり笑顔を浮かべながらお礼を言ったのだった。

 

 

-----

 

 

「じゃあ、また着替えるね。体調悪くなるなら、すぐに言ってよ?」

「わかってるよ。でも、今のオレのコンディションは椎葉さんのおかげで最高だからね。これならさっきの服でも耐えられると思う」

「もう!!ワタシは保科君が苦しむかもしれないのにってときに素直に喜べないんだからね?」

「わかってるって」

「む~、不安だなぁ」

 

 あれから弁当箱を片付け、オレたちはまた実験を始めることにした。

 オレとしては全然いける気がするのだが、椎葉さんの断固とした反対により、午前中に着た服はナシで、組み合わせもさっきよりプラス寄りにすると決まった。

 そうして、オレは帳に入っていく椎葉さんを見送ったのだが・・・

 

(・・・幸せ過ぎる。明日は交通事故にでも遭うのか?)

 

 オレはついさっき椎葉さんからもらったこれまででも最高クラスの感謝の念を恍惚とした気持ちで味わっていた。

 オレは酒を飲んだことはないが、気持ちよく酔えたらこんな気分なのだろうか?

 それくらい、オレは浮かれていた。

 だから、それは必然だったのだろう。

 普段のオレは、先生との訓練で鍛えられていることもあり椎葉さんの着替えを待っているときは警戒を怠らない。

 まるで、その隙を突くかのように。

 

 

--ビュンっ!!

 

 

「っ!?」

「きゃぁっ!?な、何っ!?」

 

 ナニかが、高速で帳の中に突っ込んだ。

 中から、椎葉さんの悲鳴が聞こえてくる。

 その声を聞いた瞬間、浮かれていた気分が瞬時に冷え込み、『カチリ』と頭の中でスイッチが切り替わったような感覚がした。

 オレは、一瞬で呪力を指先に集めながら走る。

 

(・・・オレの帳の中に普通の生き物は入れない入れるのは呪力か魔力を持った存在のみそして今のスピードを考えると入ったヤツは人間じゃない呪霊か?関係ない何が相手でも椎葉さんを傷つけるのなら殺す)

 

「グラニテ・・・」

 

 そして、オレは帳の中に駆け込み、中に入った愚か者に指を突き付けて・・・

 

「紬!!早くここから逃げろ!!あの小僧は危険だ!!」

「ちょ、ちょっといきなりどうしたのアカギ!?ワタシ、今着替えてて・・・え?保科君?」

「・・・・・」

 

 オレの視界に広がるのは水色。

 オレが指を突き付けた先にいるのは、水色の髪をツーサイドアップにした少女、いや幼女。

 そして、その幼女がしがみつく椎葉さんも、奇しくも水色だった。

 

「きゃあああああああああああっ!?????」

「も、申し訳ありませんでしたぁああああ!!!!」

 

 そのキメ細やかな柔肌を包む水色のブラとショーツ。

 余りにも刺激の強い、特級呪具を越える破壊力を持った兵器をそれ以上目に焼き付けぬよう、オレはすぐさま地に伏せるのだった。

 




次は異能力バトルの方か、本作か決めかねております。
Pixivでも連載してるので、こっちでも最新話にブックマークとか付けてくれると嬉しいです。

https://www.pixiv.net/novel/series/12446456

この作品をご存じでしょうか?①ダークギャザリング、②死印、③東方Project

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