女の子が苦しんでいるのを肩代わりしてしまう少年の話   作:二本角

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サノバウィッチ10周年おめでとうございます!!
後、めぐるの一人称が名前呼びの前は『私』じゃなくて『自分』で、保科君のことはカタカナで『センパイ』って呼んでました!!間違えててごめんなさい!!


R7年5月24日。
ラストのシーンをDX鶏がらスープ様に描いていただきました!!
https://www.pixiv.net/artworks/130744668
https://www.pixiv.net/artworks/130826742


人気者への第一歩。そして痴女との遭遇

「う~ん・・・?」

「・・・?保科センパイ?どうかしたんですか?」

「ああ、いや・・・なんでもないよ」

「いやいや、なんでもありますって!!さっきから何もないところでガードしたりステップしてるじゃないですか!!」

「あ、本当だ」

 

 姫松学院での昼休み。

 オレは今日も、椎葉さんとの契約に続いてルーチンとなっている、因幡さんとの昼食兼モン狩りに勤しんでいた。

 弁当を食べ終わり、ゲーム機をONにしてゲームをスタートし、いつものように因幡さんの足を引っ張っているのだが、その足手まといっぷりが半端ではない。

 気が付けば因幡さんの言う通り、モンスターのいないところで武器を振るわ、回復薬を体力満タンなのにも関わらず飲むわ、挙句の果てに因幡さんのアバターにチャージを仕掛けてブレスの前に突き飛ばすやら、因幡さんじゃなければ二度と一緒にプレイをしてもらえないくらいのことをやらかしている。

 今日はいつもよりも集中力が欠けているというのは自覚があったが、自分でもこれにはドン引きだ。

 

「はぁ~・・・保科先輩、今日はちょっとやめませんか?このまま続けても意味がないですよ」

「あ~、ごめん。悪いけどそうさせてもらうよ」

 

 さすがに因幡さんからダメ出しが入り、オレはゲーム機のスイッチを落とした。

 そして・・・

 

「・・・・・」

「あ、あの、保科先輩?めぐる、何かしました?」

「え?いや、因幡さんはとくに何もしてないよ」

「で、でも、保科先輩、さっきからめぐるのことチラチラ見てますよね?」

「・・・そんなに見てた?」

「はい。ぶっちゃけ言うと、ちょっとキモイなと思うくらいには」

「キ、キモイ・・・そ、そっか」

 

 ストレートにキモイと言われてショックを受けたが、同時に仕方がないとも思う。

 確かに因幡さんが言う通り、オレは今日因幡さんと会ってから気になってしょうがないことがあり、その正体を確かめるべく因幡さんを頻繁に見ていたからだ。

 実際には術式を使って因幡さんを探っていたのだが、因幡さんからはわかるはずもない。

 集中して使っていたし、多少はキモイと思われるのも仕方がないと思っていたが、そこまでストレートに言われるほどとは。

 だが、そう言われたとしてもオレが抱いた疑念を晴らすことはまだできておらず、キモイと思われながらも調べるのをやめる気にはなれなかった。

 しかし、今の因幡さんからは本人がそう言っていたように多少の不快感と恐怖が感じられる。

 大部分は困惑が占めているが、このまま続けていると逃げ出してしまいそうである。

 

(仕方がない。ここははっきり聞くか)

 

 これ以上続けると因幡さんとの人間関係に致命的な亀裂が入りそうだし、ここはもうストレートに聞いたほうがいい。

 もちろん、呪術のことはぼかしてだが。

 そう思いながら、オレは口を開いた。

 

「因幡さんは、変なカラスを見たことある?」

「か、カラス?」

 

 オレが質問すると、因幡さんは『何を言っているのだろうこの人は』という、驚きと呆れが混ざった顔をした。

 オレの術式もそういった感情を感知したから、まず間違いない。

 まあ、因幡さんからしたら意味不明な問いだろうが、オレとしてはかなり重要なことである。

 なにせ・・・

 

(因幡さんにまだ付いている残穢・・・本当にごくわずかだけど、アカギにも付いていたんだ)

 

 オレがアカギを初めて見たときに覚えた既視感。

 家に帰ってからもその正体はわからなかったのだが、因幡さんと今日会ったとき、いまだに因幡さんにくっついている残穢と非常によく似ていると思ったのだ。

 その疑念を確信に変えようと調べてきたが、見れば見るほどアカギから感じ取った『何か』に似ている。

 アカギはアルプであり、彼女自身が魔力あるいは呪力を放出しているためにわかりにくかったが、それでも感じ取れるほどに『真新しい』ものだった。

 つまり、最近になってアカギが因幡さん、もしくは因幡さんに魔法をかけた魔女と接触した可能性が非常に高い。

 残穢が付着するほどに接近したのなら、気が付かないはずはない。

 例えアルプだとは気が付かなくとも、カラスが体に触れることができるくらいに自分のすぐそばに来たのなら、覚えているだろう。

 そう思って聞いてみたのだが。

 

「いや、全然見たことないですけど・・・」

「え?そうなの?」

「はい。自分とカラスに何の関係が・・・?」

「え~と、それじゃあ、小さい子供と会ったことは?これくらいの背丈で、髪をツーサイドアップにしてるような」

「う~ん、小さい子に会ったこともないですね。妹がいる知り合いもいないですし」

「そ、そうなんだ・・・」

 

 どうやら、因幡さんとアカギが接触したことはないらしい。

 カラスの姿ではなく、子供の姿で近づいたのかとも思ったが、そちらもハズレのようだ。

 

「あの、保科先輩。どうしてそんなことを聞くんですか?」

「あ、ああ。それは、その・・・オレの知り合いで小さい子がいるんだけど、最近その子が因幡さんみたいな感じの女の子がカラスと一緒にいたって言っててさ。それで気になって」

「そ、そうだったんですか・・・いや、まあ、そうでもなきゃそんな変なこと聞きませんよね」

 

 案の定、因幡さんはオレの質問を不審に思っていたが、とっさに考えた言い訳で躱す。

 苦しい言い訳だったが、質問そのものが荒唐無稽であったために納得はしてもらえたようだ。

 しかし、因幡さん本人に心当たりがないとなると・・・

 

(アカギが接触したのは、因幡さんに魔法をかけた魔女の方か)

 

 実を言うと、オレも因幡さんに魔法をかけた魔女のことは気になっていた。

 だが、それとなく校内を探し回ってみたのに見つからない。

 だから、オレも少し探してそれきり忘れていた。

 

(これだけ濃い残穢を付けるくらいだから、強力な魔法だったんだろう。そして、魔女の魔法は願いが大きいほど代償も大きくなるし、必要な心の欠片の量も増える・・・よほど、因幡さんのことが大事だったんだろうな)

 

 残穢とは、呪力の残り香のこと。

 魔法の残滓を残穢と呼ぶのは厳密には違う。

 それを裏付けるように、オレは因幡さんに付いた魔法の残滓から呪力にはない、『願いのもとになった感情』を感じ取ることができていた。

 

(椎葉さんにプラスの感情を送ってもらえたときみたいな・・・暖かい想いだ)

 

 マイナスの感情など一切含まれない、因幡さんを心から想ったことがすぐにわかるほどの気持ち。

 これを見れば・・・

 

(もしもアカギがその魔女の契約を取り持ったのなら、やっぱりアイツは良識のあるアルプなんだな)

 

 アカギがオレに取った態度について、理由はわかるがいまだにオレは納得はしていない。

 だが、最初に会ったときにアカギを悪意をもったアルプだと疑ったことは、今の因幡さんを見ていると申し訳なくなってくる。

 こんなにプラスの感情にあふれた願いを叶えたくらいなのだから、アカギも悪い奴ではないのだとはっきりとわかったからだ。

 ・・・今度会ったら謝っておくか。

 

(でも、そうなるとその魔女はどこにいるんだ?)

 

 しかし、アカギが因幡さんに魔法をかけた魔女と接触していたというなら、気になることがまた出てきた。

 椎葉さんがいる街とこの姫松はかなり距離がある。

 オレは旅客機並みのスピードがある虹龍がいるから難なく通えているが、カラスのアカギはどうなのだろう。

 鳥だから空を飛んで障害物を無視することはできるが、それでも椎葉さんと契約しながらこの姫松まで通うのはかなりハードに思える。

 人間の姿になれるとはいっても、せいぜいが小学生低学年のアカギでは公共交通機関を使うのも難しそうだ。

 そもそも、お金を持っているかも怪しい。

 まあ、椎葉さんと初めて会ってからアカギに会うまでかなり時間がかかったことを思えば、アカギがしばらく姫松に滞在していたのだろうが・・・それなら、この学院で一度くらいはアカギを見たっていいはずだ。

 アルプに会うのは初めてだったが、例え動物の姿だったとしても、あの特徴的な魔力を放つようなカラスを見逃すことはない。

 学院で件の魔女を見かけないことも併せて考えると、その魔女はもしかしたら姫松には、少なくともこの学院にはいないのかもしれない。

 

(因幡さんがボッチなのも、その魔女が引っ越したかなにかでいなくなったのなら納得だしな・・・いや?)

 

 因幡さんは今この時のように教室に居づらくてこの特別棟で一人弁当を食べている。

 それも、その魔女がこの学院にいなければ納得だ・・・と思ったが、オレは違和感を覚えた。

 

「・・・・・」

「セ、センパイ?言っておきますけど、自分は本当にカラスなんて知りませんよ?」

「あ、いや。それはわかってるよ。因幡さんは嘘を付けるようなタイプじゃないし」

「・・・なんか、自分のこと単純バカって言ってません?」

「そんなことないって」

 

 またも因幡さんをじっと見つめてしまい、弁解するが少し怒らせてしまったようだ。

 まあ、因幡さんが単純バカ・・・とまでは言わないが隠し事をしようとしてもボロを出してしまうタイプだとは思うけど。

 だが、オレが気にしたのが因幡さんの性格だというのは正解だ。

 正確には、こんなところでボッチ飯をするような人付き合いを忌避する内面にそぐわない、コギャル風と言うような外見とのミスマッチが。

 

(なんで因幡さんは、人付き合いが苦手そうなのにこんな格好してるんだろ?)

 

 友達がいなくなって、一緒に過ごす人がいなくなるのはわかる。

 でも、こんな格好をしているのなら、ほかにも友達がいてもおかしくないはずだ。

 いや逆に、オレのように人間関係を構築するのが苦手な人間なのに無理をしてギャル風にしているのか。

 だとしたら、その理由は何だろう。

 

「・・・・・」

「ま、また見てきてる・・・今日は本当になんなんですか、保科センパイ・・・」

「いや、なんで因幡さんがそんな陽キャな恰好してるのに、こんなところにいるのか気になって」

「っ!?そ、それを聞いちゃいます・・・?」

「あ、ごめん。話しにくかったなら全然いいよ」

「・・・いえ。ちょうどいいかもしれません。自分も、誰かに相談したいって思ってましたから」

 

 またもオレの悪い癖が出て、思ったことを口に出してしまったが、今回はプラスに働いたらしい。

 因幡さんからは、少しの羞恥と、強い覚悟を感じる。

 

「自分がここにいる理由ですけど・・・まあ、ぶっちゃけると高校デビューに失敗したんです」

「高校デビュー・・・」

「はい。自分で言うのもどうかと思うんですけど、今の自分と中学の頃の自分ってかなり見た目が違いますよ」

 

 高校デビュー。

 それは、中学まで地味だったような子が高校に上がる際に思い切ってイメチェンしてみることだ。

 理由を聞いてみたら、因幡さんが性格と合っていない恰好をしている理由として納得しかなかった。

 だが、失敗とはどういうことなのか。

 

「失敗って言うと、ギャルっぽすぎて引かれたとか?いやでも、因幡さんくらいの恰好してる子は結構いるし・・・それに、かなり似合ってるからそれはないか。普通にかわいいし」

「っ!!」

「因幡さん?」

「な、なんでもないです!!・・・というか、めぐるが高校デビューに失敗したのは、入学してすぐに一週間くらい休んじゃったからなんです!!」

「入学してすぐに、そんなに休んじゃったのか・・・それじゃあ、もう大体グループが固まってるな」

「そうなんです・・・めぐるが復活したときには、もうクラスで人間関係ができちゃってて。高校デビューする気ではいたんですけど、もう完成しちゃったグループに声をかけて仲間に入れてもらうのはさすがに・・・」

「あぁ~・・・それは厳しいね」

(っていうか、いつの間にか一人称が『めぐる』に変わってるな・・・まあ、今は突っ込まないでおくか)

 

 さっきから、因幡さんの一人称が『自分』から『めぐる』と名前呼びに変わっているのに気付いたが、話の腰を折りそうなので黙っておくことにする。

 ともかく、オレは一年の頃から付き合いのあった海道や仮屋がいたから孤立まではいかなくて済んだが、因幡さんは一年生で、通っていた中学とは違う学区から来た生徒も多かっただろう。

 そのうえで高校デビューなんて言うくらいだから、中学時代もあまり友達がいなかったのではないだろうか。

 だが、そもそもどうしてそんな因幡さんは高校デビューしようなどと思ったのだろう。

 

「それは・・・めぐるは、人気者にならなきゃいけないんです」

「人気者に?どうして?」

「・・・それは、すみません。さすがに今は言えないです」

「そう・・・気にしないで。話したくないことなら話さないでいいって言ったのはオレだしね」

「保科センパイ・・・ありがとうございます」

 

 なにやら、因幡さんには重い事情があるようだ。

 オレが因幡さんと出会ってから、まだそこまで時間は経っていない。

 オレとしては椎葉さんほどではないが、それなりに良い関係を築けているとは思っていたけど、さすがに自分の事情をすべて話せるほどではないというのは仕方がないことだ。

 オレだって、自分が呪術師だということは話していないし。

 ただ・・・

 

(なんとなくだけど、因幡さんが人気者になりたいっていうのは、因幡さんに魔法をかけた魔女が関わってる気がする)

 

 その魔女は地味だったころの因幡さんと深い仲だったと思われるが、今は傍にいない。

 オレの憶測でしかないが、そのことと因幡さんが高校デビューして人気者になろうとしているのは、何か関係があるような気がしてならない。

 そして、そもそもの話だが。

 

(その魔女が願った願いは、何だったんだろう?)

 

 さっきも思ったが、これほどの残穢が残るほどの大きな魔法だ。

 代償も大変だったろうし、心の欠片を集めるのも並大抵の苦労ではなかったはずだ。

 そこまでのことをして、一体どんな願いを叶えたのだろうか。

 因幡さんにプラスの影響がある願いだったことは間違いないだろうが、それはどんなものだったのか。

 もしかしたら、因幡さんの傍からいなくなったのはその願いを叶えたことが、あるいは代償が関係あるのではないか。

 大きな願いの代償は、その魔女を死に至らしめることすらあるのだから。

 いや、アカギが最近接触しているのなら生きてはいるのだろうけど。

 

(今度アカギに会ったら聞いてみるか?・・・素直に教えてくれるかわかんないけど。っていうか、そこまでプライベートなところまで突っ込むのもなぁ)

 

 アカギからすれば、オレはまだまだ信用できる存在ではないだろう。

 そんなオレが契約していた魔女のことを聞いたところで疑いを深めるだけのような気はする。

 さらに言うと、赤の他人のオレが因幡さんの事情にそこまで踏み込むのはやりすぎのような気もするけど。

 いや、そもそも今はそれよりも、因幡さんの抱える悩みの方が大事か。

 

「人気者になる方法ね・・・」

 

 因幡さんに魔法をかけた魔女のことは一旦置いておく。

 因幡さんだって、高校デビューに失敗したという恥をさらしてまで教えてくれたのだ。

 オレがここで一緒にいるのはオレ自身の興味が大きいが、因幡さんのことを放っておけなかったのもある。

 ここはしっかり考えてあげるべきだろう。

 とはいえ、因幡さんの持ってる武器を考えれば難しい話ではない。

 

「男子からは人気あるんじゃない?その格好だってすごい似合ってるしさ。因幡さん、普通にモテると思うよ?」

「っ!?」

 

 因幡さんは普通に見た目がいい。

 高校デビューを目指して色々と勉強した結果なのだと思うが、『自分を可愛く見せる』という点では余裕の合格点だ。

 だから、因幡さんが気付いてないだけで男子からはかなり好印象を持たれているのではないかと思う。

 同じ男子としての忌憚のない意見だ。

 

「・・・セ、センパイって、その、結構経験豊富だったりするんですか?なんか、女の子を褒めるの手慣れてるような」

「え?あ~、まあ、他の人を褒めるのは慣れていると言えばそうかな」

「そ、そうなんですか・・・」

 

 『褒め言葉をストレートに、でも大げさにならない程度に言う』

 これが、生まれつき他人の感情を強制的に味わわされるチカラを持っていたオレの処世術だ。

 人間、自分が誇りに思っていることや自慢したいことを褒められて悪い気がするなんてことは滅多にない。

 だから、オレは他人と話すときは相手を褒めるような言い方が染みついているし、今さっき因幡さんに言った台詞も自然と出てきたものだ。

 ついでに言うと、最近は椎葉さんをかなりの高頻度で褒めているので、より磨きがかかっていると思う。

 けど。

 

「でも、因幡さんがモテそうって思ったのはお世辞でも何でもないよ。オレの率直な印象」

「っ!!?」

 

 お世辞を言い慣れていると思ったのか、なんだか複雑な表情をしていた因幡さんだが、今は顔を真っ赤にして驚いたような顔をしている。

 もしかして照れているのだろうか。

 

「ほら。明らかにお世辞だとか、イジってると思われたら怒る人もいるでしょ?だから、オレは心にもないようなお世辞は言わないよ」

「わ、わかりました!!わかったからちょっと落ち着く時間をください!!」

「それはいいけど・・・でも、人気者になるんだったら、これくらいの褒め言葉を言われるのなんてしょっちゅうだと思うよ?因幡さんなら間違いなくナンパとかしてくるヤツもいるだろうし、免疫付けといた方がいいと思うけど」

「ナ、ナンパ・・・めぐるが、ナンパ・・・っていうか、まさに今」

 

 なにやらブツブツと呟く因幡さん。

 オレとしては、そんなに大げさな言い方をした覚えはないし、因幡さん相手ならもっとグイグイ攻めてくるようなヤツが出てもおかしくない。

 人気者になるのなら、オレの褒め言葉程度で狼狽えるようではいろいろ不安である。

 だがまあ、因幡さんのコミュ障具合を思えば、いきなりその方向で行くのは今は厳しいかもしれない。

 ならば。

 

「まあ、見た目でも十分行けるけど、人気者になるのなら他の方法もあるよ。『ソレ』を使えばね」

「え?」

 

 オレの言葉で俯いて何事かを小声で囁いていた因幡さんが顔を上げ、オレが指さしたモノを見る。

 

「3DW?」

「うん。因幡さん、ゲームの腕には自信あるでしょ?実際スゴい上手いじゃん」

「ま、まあ、ゲームのことなら早々他の人に負ける気はしないですね。特にモン狩りなら・・・」

「でしょ?それをみんなに見せてあげればいいんだよ」

 

 オレが指さしたのは、さっき閉じたばかりのゲーム機だ。

 そう、因幡さんの持つもう一つの武器は、そのゲームの腕前だ。

 オレは素人に毛が生えた程度の寄生虫だが、そんなお荷物がいても最高難易度のクエストをノーダメージでクリアできるのが因幡さん。

 そして、もうすぐ新作が出ることもあって、今はモン狩りがまた流行だしているタイミングだ。

 今のうちにそのテクニックを披露し、新作を周りのみんなとプレイできるようになればあっという間にクラスの英雄(ヒーロー)になれるに違いない。

 ・・・という作戦を因幡さんに話してみる。

 

「それならめぐるにもできそうです!!・・・でも、どうやってクラスの人に話しかければ・・・」

「ああ、考えてみればそれもそうだな」

 

 ゲームの腕を見せつけるのはいいアイデアだと我ながら思う。

 だが、それを実行するのは因幡さんなのだ。

 そして、同じコミュ障として、あまり話したことがない相手にゲームでパーティを組んでくれと言うのがかなりハードルの高いことなのは自明の理。

 

「う~ん・・・あ、そうだ!!オレと会ったときみたいにすればいいんじゃないかな?」

「センパイと会ったとき?・・・あ、野良パーティ」

「そう!!」

 

 考えてみれば、オレと因幡さんがこうして昼休みを過ごすようになったのもモン狩りのおかげだ。

 そしてそのきっかけは、たまたま組んだ野良パーティでお互いの正体がわかったこと。

 ならば、今度はそれを意図的に起こしてやればいい。

 

「教室の中で集会所に入って待っていれば、1人はパーティ組んでくれる人がいるんじゃないかな?その人を起点にすればいいんだよ」

「確かに。それに、めぐるだってゲームの中でなら他の人に話しかけるのはできますし・・・」

「それを繰り返せば、因幡さんの腕前なら絶対にクラスの中で話題になるよ。そこで名乗り上げればいい」

「う゛・・・そ、そこはちょっと難しそうですけど、でも、人気者になるにはやらなきゃですね!!」

 

 オレもそうだが、因幡さんもゲームの中では他人との間にある壁を意識しないタイプらしい。

 この方法でなら、クラスメイトとも打ち解けることが、ひいてはクラスの人気者になることができるだろう。

 はっきりとしたプランができたことで希望が見えたのか、さっきまでアワアワとしていたのが嘘のように力強い声でそう言った。

 

「それじゃあ、せっかくだから練習してみる?」

「練習ですか?野良パーティの?」

「そう。まだ昼休みの時間はあるし、ちょっと場所を変えればモン狩りやってる人はいると思うんだよね。そういう人を探してみようかなって」

「え?センパイも手伝ってくれるんですか?」

「うん。言い出しっぺはオレだしね」

 

 昼休みの最初の方で因幡さんの残穢が気になったおかげで、時間にはまだ余裕がある。

 提案したのはオレなのだし、オレとしては珍しく、先輩としていいところを見せたいという気持ちもある。

 それは、相手がオレとよく似た部分があって親近感のある因幡さんなのだからだろうけど。

 そうして、オレと因幡さんは弁当を食べた教室を抜け出して、3DWを片手に人のいそうな場所を探し始めたのだが・・・

 

「あ、めぐるのクラスの人だ」

「・・・いきなり本番か」

 

 中庭で、ベンチに座って話しているグループがいる。

 男女が交じっているようだが、そのうちの2人が3DWを持ってゲームをしていた。

 オレは、耳に呪力を少しだけ集中させる。

 

「・・・あの2人、モン狩りやってるな」

「え!?ここからわかるんですか!?」

「・・・いや、この時期に2人並んで3DWしてるなんて、モン狩りしかないって思っただけだよ。とりあえず、オレたちも集会所に入ろうか」

「は、はい!!」

 

 因幡さんのクラスメイトとは、そこそこ距離が離れている。

 オレは呪力で感覚を強化したからゲームのBGMが聞こえたが、それを言ったところで信じてもらえまい。

 適当にごまかして、オレたちも近くのベンチに座り、モン狩りを始める。

 

「わ・・・ちょうど2人部屋にいますよ」

「よし・・・話しかけてみるか」

「セ、センパイ頑張って!!」

 

 オレは、術式の関係で他人と直接交流を持つのは苦手だ。

 だがその分、因幡さんと出会ったときのようにこういうゲームでの繋がりを作るのはたまにやる。

 因幡さんはどうやらまだ緊張しているようなので、ここは先輩としてオレが話しかけに行くとしよう。

 

『こんにちは。いきなりですみませんが、クエスト手伝ってもらってもいいですか?』

『クエスト?』

『別に大丈夫ですけど・・・』

 

「よし、OKだ!!因幡さん!!」

「は、はい!!」

 

 オレが話しかけたところクエストを一緒に受けてくれることになった。

 どうやら、付き合いの悪い人たちではないらしい。

 それがわかったところで、因幡さんのアバターも挨拶をする。

 

『よろしくお願いします』

『こっちこそよろしく。ウナジさんと・・・ラビーさんでいいの?』

『はい。ラビーで大丈夫ですよ』

 

 こちらも問題なく挨拶ができた。

 やはり因幡さんもゲームの中でなら自然に振る舞えるようだ。

 

「よし・・・ここまではいいですね」

「うん。後は因幡さんが普段の実力を発揮できるかどうかだ」

「それなら大丈夫です!!モン狩りのことでめぐるがヘマするなんてありえませんから!!センパイじゃあるまいし」

「・・・オレのプレイングが下手なのは否定しないけど、初めて会ったときには結局因幡さんも乙ってたよね?」

「あ、あれはノーカンですよ!!ノーカン!!野良プレイしてて、リアルで偶然会えるなんて思ってもいなかったんですから!!」

 

 因幡さんと言い合いつつ、そして向こうの様子を確認しながらクエストを開始する。

 因幡さんには聞こえないだろうが、オレには向こうの声も聞こえる。

 この作戦がうまくいってるかどうか、リアルタイムで拾うことができるのだ。

 そのアドバンテージはしっかり活用させてもらうことにしよう。

 そう思いながらクエストに挑んだ。

 挑んだのはよかったのだが・・・

 

『か、川上君!!このウナジって人おかしくない?』

『ああ。なんかヤバいな。かなり下手なのはまだわかるけど、ドリンク忘れるわ、モンスターがいるのに採取ばっかしてるわ、他のプレイヤーのこと考えずに攻撃するわ・・・典型的な地雷だな』

『だよね・・・』

 

 オレの耳に、ボロカスな評価が飛び込んでくる。

 

「あの、センパイ。ドリンク忘れるのはまだいいですけど、なんでモンスターいるのに肉焼いてるんですか?」

「あ、ごめん、つい・・・っていうか、オレもなんで肉焼きセット持ってきてるのかわかんない・・・」

「ええ~・・・」

 

 因幡さんの様子を見ながら向こうの会話を聞き、さらに自分のアバターを動かす。

 反転術式に比べればまだ楽なのだが、呪術と違ってゲームの才能がないオレにはかなり厳しかった。

 いつも以上に操作をミスり、モンスターがブレスを吐くすぐ手前で焼き肉を始める始末。

 あ、キャンセルしたら避けれた。

 

『か、川上君!!この人本当におかしいよ!!モンスターの前でこんがり肉焼いてる!!』

『本当だ。けど、なんだかんだ避けて・・・あ、当たった。乙りそうだぞ。前田さん、粉塵持ってる?』

『ごめん、持ってない・・・あれじゃあ、一乙しちゃう・・・』

 

 ミラクル回避が成功したかと思えば、尻尾回転をまともにくらいHPがギリギリになるオレのアバター。

 あわや、後輩3人の前でまっさきに乙るかと思ったそのとき。

 

「何やってるんですかセンパイ!!粉塵使います!!」

「おお、因幡さん!!」

 

 危険域にあったHPが回復し、攻撃を食らってもキャンプ送りになることはなかった。

 そのまま吹っ飛ばされてモンスターから離れることになったが、結果オーライである。

 

「まったく!!絶対こうなるって思ってました!!粉塵持ってきてよかったです!!」

「いや、本当に助かるよ」

 

 さすがはオレの介護のプロと言えるほどに熟達した因幡さん。

 ガンナーらしく回復弾で掩護してくれることが多いのだが、今回はパーティということもあって離れたところにいる味方を回復させるアイテムを準備してくれていた。

 

『あのラビーって人、すごいな・・・』

『ね。ウナジさんを介護しながらなのに、一番ダメージ出してるよ・・・』

『ああ。アイテム使うタイミングも、モンスターの怯みを狙うタイミングも完璧だ・・・あ、部位破壊した』

 

「やったね因幡さん。作戦は順調だ!!あっちの2人、因幡さんに一目置いてるよ!!」

「嬉しいですけどそういう台詞は死にかけていないときに言ってくれます!?さすがに怒りますよ!?っていうかランスなんだからちょっとはガードしてくだい!!」

「ご、ごめん・・・」

 

 作戦が上手くいったことで嬉しくなって因幡さんに報告するが、空中からの毒爪攻撃でまたもHPギリギリかつスタンしているオレに回復弾を撃つので忙しい因幡さんにガチ目で怒られ、しばらくはゲームの方に集中するのだった。

 

-----

 

「ふぅ~・・・なんとかクリアできた」

 

 そうして、オレたちはどうにかこうにか誰1人乙ることなくクエストを終えることができた。

 

「はい。ほんっとうに、な・ん・と・か!!クリアできましたけどね!?誰かさんのせいで本当に大変でしたよ!!見てください!!粉塵も回復弾ももうゼロですよ!!」

「う、うん・・・本当にごめん」

 

 向こうのベンチに座っていた川上君と前田さんも因幡さんほどではないが上手い方だったようで、一番下手なのはオレであった。

 後半はオレも本気でゲームに取り組んだのだが、それでも何度も乙りかけ、他3人には大変お世話になった。

 センパイの威厳など影も形もない。

 しかしだ。

 

「でも、途中でも言ったけど作戦は成功してるよ。他の2人も因幡さんのことをすごいと思ってるみたいだし」

「いや、なんであんなに離れてるのにそんなことがわかるんですか・・・まあでも、最後の方にはあの2人とも息が合ってましたけど」

「因幡さん、今がチャンスだよ。こっちから仕掛けよう。今ならオレたちがさっき一緒にプレイしてましたって言えば、すごいアピールになる」

「えっ!?い、今ですか!?」

「うん。こんなチャンスは滅多にない。因幡さんが教室で大勢相手にアピールするより、あっちの数が少ない今の方がだいぶやりやすいはずだ」

「そ、それはそうですけど・・・」

 

 オレたちの目的は、因幡さんを人気者にすることだ。

 そして、さっきまでのゲームはその布石。

 オレの術式によれば、向こうから感じる感情にマイナスはない。

 それに、さきほどまでのオレを介護しながらのスーパープレイ。

 因幡さんは緊張しているようだが、オレは今なら確実に因幡さんのプロデュースはうまくいくという確信があった。

 そうだ、これだけ強い興味の感情を持たれているのなら、向こうの反応に期待できる・・・

 

(いやでも、妙に感情が大きいな?これだけ離れてればそんなに強く感じないはずなんだ、けど?)

 

 オレの術式は、相手との距離が近いほど吸収できる感情の大きさも、生成できる呪力量も増える。

 そして今、距離があるにしてはやけに強く感情を感じると不審に思って向こうのベンチを見たのだが・・・

 

「あ、あの~」

「もしかして、ラビーさんとウナジさんですか?」

「「えっ!?」」

 

 気が付けば、ベンチに座っていた2人と、彼らの周りにいたクラスメイトが近くにいた。

 どうやら、ゲームや因幡さんとの会話に気を取られて気が付かなかったようだ。

 

「っていうか、因幡さんだよね?」

「そっちの二年生の先輩は知らないけど・・・」

「え、その、あの・・・」

 

 突然話しかけられてパニックになる因幡さん。

 オレも驚いていたが、そんな因幡さんを見ていたら落ち着いた。

 もとより、驚くようなことがあってもすぐに冷静にならなければ、先生との訓練ですぐにやられてしまうから、落ち着くように努めるのは得意だと言っていい。

 

「そうだよ。オレは保科柊史で、アバター名はウナジ。こっちは因幡さんで、アバター名はラビーであってる」

「セ、センパイ・・・」

 

 不安そうな顔でオレの方を見る因幡さんだが、今のオレの頭は先生との訓練のときのように切り替わっている。

 こんなチャンスを見逃すつもりはない。

 なんとしても会話を続けるのだ。

 

「ところで、どうしてオレたちのことがわかったの?」

「いや、先輩たちの声、こっちまで聞こえてたから・・・」

「はい・・・因幡さんが怒鳴ってる声は特に。それで、どんな人たちがプレイしてるか気になって」

「うぇっ!?」

「そ、そうか・・・それはなんというか申し訳なかったかな?ところで、因幡さんのテクニックはどう思った?すごかったでしょ?」

「ええ、素直にすごいと思いました」

「私たちも結構モン狩りはやるんですけど、クラスの中でも一番上手いんじゃないかなって」

「だってさ、因幡さん」

「ええっ!?・・・あ、あの、その・・・あ、ありがとう」

 

 オレたちは結構大きな声でゲームをしていたようで、その内容からオレたちが一緒にクエストをしている相手だと気付いたらしい。

 それで、どんな相手なのか気になってここに来たようだ。

 オレとしては好都合であり、早速因幡さんのモン狩りの腕を売り込むが、予想通り好印象だ。

 ・・・肝心の因幡さんがいきなりの展開に萎縮してしまっているけど。

 

「でも、保科先輩もすごいと思ったよ」

「はい。因幡さんと同じくらい、保科先輩も並外れていたと思います」

「え?オレが?」

 

 そこで矛先が急に変わり、オレの話になった。

 何だろう。オレは足を引っ張ることしかしていなかったと思うが。

 

「いや、その足の引っ張り具合がすごくて。俺、あんな地雷プレイヤーネットの作り話でしかいないと思ってました」

「私も、モンスターの前で肉を焼く人は初めて見ました・・・」

「あ、そう・・・そうだよね、はは・・・」

 

 オレの足手まといっぷりは、因幡さんのテクニックと同程度に尖っていると思われていたようだ。

 ベクトルは正反対だけど。

 

「いやセンパイ。笑い事じゃないですよ。さっきのセンパイはいつもよりも輪をかけてド下手でしたからね?」

「あれ?因幡さんは保科センパイとよくモン狩りするの?」

「え?う、うん・・・センパイとは、たまたま野良パーティ組んだときに会って・・・それで、あまりにもド下手だからクエストを手伝ったりしてる、よ」

「そうなんだ・・・後輩にクエスト手伝ってもらう先輩って・・・」

「う・・・」

「手伝ってる自分からしても、どうかと思いますよセンパイ。情けなくないんですか?」

「なんか今日の因幡さんいつもより辛辣じゃない?オレなんかした?」

「いや、さっきまでの先輩の介護を見てれば仕方ないと思いますよ」

「わ、私もそう思います」

「でしょ?ちょっとくらいトゲのある態度をしても罰は当たらないよね?」

「うんうん」

「さっきの川上たちのプレイ見てたけど、マジでそう思うわ」

「・・・ここにオレの味方はいないのか?」

「ふふん!!いるわけないじゃないですか!!まったく、今日も大概でしたけど、普段のセンパイのプレイだってヤバいんですから自覚持ってくださいよ?」

「え?今日みたいな地雷プレイ連発してるの?先輩?」

「ど、どんなことがあったの?」

「え~と、例えば動画で見たって言う回避プレイに憧れてランスなのに回避性能に振り切った装備してたり、武器を太刀に変えてみたら周りのこと考えないで振り回すし、アイテムキレたらハチミツくださいってねだってくるし・・・」

「うわ、マジで典型的な地雷じゃん・・・」

 

 いつの間にか、オレ1人VS因幡さん率いる後輩軍団の構図ができあがっていた。

 最初はビクついていた因幡さんも、オレの地雷っぷりを晒すときには生き生きとしており、いつの間にかクラスメイトたちと自然に話すことができていた。

 オレとしては、少々不本意な部分はあるが・・・

 

(まあ、作戦成功か)

 

 内心で、小さくガッツポーズを決めるのであった。

 

 

-----

 

 

「それじゃあ、そろそろ時間だし教室に戻らない?」

「そうだね。あ、因幡さんも戻ろう?」

「え?あ、でも・・・」

 

 そうして時間は過ぎて、昼休みがそろそろ終わりそうになっていた。

 後輩たちも教室に戻るために弁当やらゲーム機を持って立ち上がる。

 その中には、因幡さんを誘う声もあった。

 因幡さんは、オレの方をチラリと見るが・・・

 

「あ~、オレはトイレ行っときたいから、みんなと一緒に戻ってなよ。どのみち、オレたちの教室は三階だから」

「そ、そうですか、わかりました・・・あの、センパイ」

「ん?」

 

 せっかく因幡さんがクラスメイトと打ち解けられたのだ。

 邪魔をするのも悪いと思って、適当に理由を誤魔化して因幡さんをみんなと帰らせようとすると、因幡さんもオレの意図に気付いたようだ。

 他のクラスメイトが校舎に歩いて行くのに着いていこうとして、その前にオレに向き直って。

 

「センパイ、今日は本当にありがとうございました!!」

 

 花が咲くような笑顔で、オレにお礼を言ってきた。

 

「いや、因幡さんが輪に入れたのは、因幡さんの実力だよ。オレの力じゃないさ」

「いやいや!!センパイが誘ってくれなかったら、みんなとあんなに話せませんでしたから。それはセンパイのおかげですよ」

 

 オレではなく、因幡さん本人の実力と、なんだかんだ言ってその容姿が決め手になったんじゃないかと思うが、それでも因幡さんはオレにお礼を言ってきた。

 まあ、そう言うならば素直に受け取っておこう。

 昨日、術式反転を使ったせいで実は飢餓感が残っていたりするのだ。

 

「なら、オレと因幡さんの2人の功績ってことで。因幡さんの腕前と、オレが誘ったこと。これが噛み合ったからだよ」

「はい!!」

 

 オレがそう言うと、因幡さんは元気よく応えてくれた。

 初めて会ったときには焦ったような、寂しそうな顔をしていたのに、短い間に変わったモノだ。

 そう思えば、さっきのオレの足手まといっぷりも無駄ではなかったということだ。

 

「オレの地雷プレイも怪我の功名ってことだな。話のネタになったし」

「・・・それはそうかもしれませんけど、さすがに今日くらいヤバいのは直した方がいいですよ?割と本気で」

「・・・はい」

 

 さすがにさっきのは因幡さんから見てもヤバかったらしい。

 しっかりと釘を刺されてしまった。

 

「それじゃあ!!」

「うん、じゃあね!!」

 

 そうして、因幡さんは待っていてくれていた前田さん、川上君と共に、先に歩き出していったクラスメイトと合流するのだった。

 

「因幡さん、よかったな・・・でも」

 

 それを手を振って見送るオレだが、一つ不可解なことがあった。

 

「・・・プラスの感情が、思ったより少ない」

 

 さっきの因幡さんの笑顔や感謝の言葉は、心からのモノだったというのは間違いない。

 オレの術式は、因幡さんが義務感やお世辞を言ったのではないと証明してくれている。

 しかし、術式が吸収した感情の量が妙に少ないのだ。

 そして・・・

 

「因幡さんといるときに感じる変な痛みも、消えていない・・・?」

 

 初めて会ったときから感じていた、身体の芯に針が突き刺さるような痛み。

 その痛みは、笑顔を浮かべる因幡さんからも何一つ変わることなく伝わってきたのだった。

 

 

-----

 

 

「それにしても、変な先輩だったな。保科先輩」

「うん。悪い人じゃなさそうだけど、すごい地雷だったよね」

 

 クラスに戻る道すがら、因幡めぐるはさきほど知り合った川上と前田と共に廊下を歩いていた。

 話題に上がるのは、珍プレーを連発していた柊史のことである。

 

「でしょでしょ?センパイって、すごい変わってるんだよ?ゲームも下手だし、いっつも自分がフォローしないとクエストクリアできないんだから!!」

「そ、そうなのか・・・」

「まあ、そんな気はするね」

((因幡さん、すごい嬉しそうだなぁ・・・))

 

 柊史のことをこき下ろすめぐるだが、その顔はとても嬉しそうでありながら、どこか誇らしそう。

 口では散々なことを言っているが、めぐるとしても柊史とモン狩りをするのは満更でもないようであると、2人は悟った。

 

「因幡さんは本当にゲームが上手かったよね。保科先輩のサポートもすごかったし」

「クラスでもダウンロードクエストクリアできないって言ってるヤツラがいたけど、因幡さんが手伝ったらクリアできそうだな」

「うん!!自分、ダウンロードクエストも全武器種でクリアしてるから、どんな武器の人でも手伝えると思うよ」

「全武器でクリア!?」

「ぷ、プレイ時間はどれくらいなの・・・?」

「え~と、700時間くらい?」

「「は、廃人だ・・・」」

 

 めぐるのゲームへの入れ込み具合に震え声を出す2人。

 なお、引いているようだが、畏怖とか尊敬の気持ちの方が強く、別に引いているワケではない。

 

「まあ、自分はセンパイの介護やりなれてるからね。あのセンパイだってクリアまで持って行けたんだから!!センパイに比べれば、ちょっと下手なくらい何でもないよ」

「あはは・・・さっきのを見てたら、本当にそう思うよ」

「けど、それじゃあ保科先輩も困るかもな」

「え?」

 

 そこで、川上が言ったことに、めぐるはきょとんとする。

 どうして、柊史が困ることになるのか?

 

「ああ、因幡さんが私たちのクラスの人たちを手伝ってたら、保科先輩の手助けはできないもんね」

「学年も違うし、毎回は混ざりにくいだろうし」

「あ・・・」

 

 そこで、めぐるはようやく気が付いた。

 

(そうだ・・・センパイの作戦がうまく行ったら、昼休みに特別棟に行けなくなっちゃう)

 

 人気者になりたい。

 これは、めぐるの中に変わらずある想いだ。

 まだまだ人気者になったとまでは言えないが、クラスメイトと打ち解けられたのは少し前までと比べれば大前進と言っていい。

 そのことは素直に嬉しいし、きっかけを作ってくれた柊史にはとても感謝している。

 だが。

 

(センパイとモン狩りができなくなるのは・・・嫌だな)

 

 さっきまで饒舌に喋れていたのに、喉に何かつかえたように押し黙ってしまう。

 

「・・・別に、いつもウチのクラスにいなくてもいいんじゃないか?」

「そうだよ。因幡さんとゲームするのは楽しそうだけど、因幡さんを縛り付けたいなんて思ってないよ」

「え?」

 

 その様子を見ていた川上と前田は、どちらともなく顔を見合わせて苦笑すると、めぐるの背中を押した。

 

「ウチのクラスに、保科先輩並みに地雷なヤツはいないからな」

「そうそう。保科先輩も困っちゃうだろうしね。因幡さんが保科先輩を手伝いたかったら、手伝いに行っても全然いいと思う・・・あ、言っておくけど、私だってまた因幡さんとモン狩りしたいって思ってるよ?」

「俺もだな。あの超絶テクはまた見てみたい。けど、因幡さんが保科先輩を手伝うのは自由だ」

 

 その言葉通り、川上も前田も、めぐるのことを疎んじているから柊史のところに行けと言っているワケではない。

 むしろ、めぐるとまたゲームで遊びたいと思っている。

 それでも、めぐるが柊史のところに行きたいのなら、それを無理して引き留めようとまでは思わないというだけだ。

 そんな2人の気遣いは、確かにめぐるに伝わった。

 

「ふ、2人とも、ありがとう・・・よし!!」

 

 そして、めぐるは決意した。

 

「これからは、ウチのクラスのモン狩りも手伝うけど、週に何回かはセンパイのところに行って一緒にプレイする。クラスと、センパイのサポートを両立させよう!!」

「うん、いいんじゃないか?」

「クラスの子にも、それとなく言っておくね」

「まあ、保科先輩のネタプレイのこと話したらみんな納得すると思うけどな」

「うん!!」

 

 かつての過ちを繰り返さないための目標に向けて、めぐるは一歩進むことができた。

 だけど、歩いてきた道を少し戻るくらいはしてもいいとも思った。

 なぜなら、今日みたいに少しの勇気を出すだけでも、前に進んでいくことができるとわかったから。

 それを教えてくれたセンパイへの恩を返せないようでは、それこそ親友に会わせる顔がない。

 そして。

 

(めぐるは友達ができそうだけど、センパイは独りぼっちのままになっちゃう。なら、めぐるだけでも傍にいてあげないと!!)

 

 あの死んだ魚のような眼をして特別棟でボッチ飯をしていた柊史に、自分以外の友達がいるとは思えない。

 ならば、自分の願いを叶える手伝いをしてくれた柊史へのお礼として、『自分だけでも』友達になってあげねば。

 ・・・柊史に対してひどく失礼だが、まったく外れているワケでもない先入観をもとに、めぐるは心の中に灯った種火を奮い立たせる。

 

「よし!!これからもビシバシ行くから覚悟しててくださいよ、保科センパイ!!」

 

 そうして、3人は自分のクラスに戻っていくのだった。

 

 

-----

 

 

「・・・は?」

「・・・え?」

 

 

 その日の放課後。

 いつものように椎葉紬に会いに行こうとして、運悪く教師に雑用を押しつけられてしまった柊史は、図書室に本を運ぼうとしていた。

 そして、本を抱えて図書室に入ろうとした瞬間、驚きのあまり抱えていた本を取り落としてしまった。

 なぜならば。

 

「・・・ほ、保科君?もしかして、見えてるんですか?」

「・・・・・」

 

 柊史の目の前に痴女がいた。

 図書室からいきなり現われたその痴女が、自分の名前を呼んでいる。

 そう思った瞬間、柊史の思考はクリアになった。

 

「お、おっといけない!!本を落しちゃった!!手が滑ったなぁ!!」

「・・・・・」

 

 全力で見えてないフリをする。

 これまで物騒な目にはたくさん遭ってきた柊史だが、役者の経験をしたことはない。

 咄嗟に己のやるべきことを決められたのは訓練の賜物だが、悲しいことに技量がそこに追いついていなかった。

 簡潔に言うと、柊史の演技はすさまじく棒だった。

 そして・・・

 

「お父さん、七緒!!先立つ私を許してください!!」

「待った待った待った!?早まっちゃダメだ綾地さん!!」

 

 廊下の窓を開け、遙か下の地上に向かって身を投げようとした痴女を全力で止める羽目になるのだった。

 




ところで、サノバウィッチを少し見直してたら『アルプは魔力の管理と魔法が発動するまでの管理をしてる』ってあったんですが、具体的な描写ってありましたっけ?
寧々ルート見てても、願いが叶う瞬間に能動的に何かしたような描写はなかったんですよね・・・心の欠片の管理も、穴に吸い込まれるとかしてるところ見ると特にやってなさそうだし、七緒さんが魔法をキャンセルできるならそうしてたでしょうし・・・誰かそういうシーンがあったら教えてください。

後、呪術廻戦だと呪霊のネームドって自然呪霊組くらいしかいないので、保科君の手持ち呪霊は他作品ネタになると思います。とりあえず、出すかはわかりませんが、ダークギャザリングと死印、東方あたりからネタの拝借を考えています。
なお、夏油の手持ちは彼自身が習得した術式反転で超絶強化されてます。この作品の保科君が真正面からぶつかっても物量と質で負けます。

この作品をご存じでしょうか?①ダークギャザリング、②死印、③東方Project

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