女の子が苦しんでいるのを肩代わりしてしまう少年の話 作:二本角
椎葉さんはともかく、他のキャラはサノバ本編を見直して復習していたのですが、本作での再現に納得がいかず、遅れてしまいました・・・
もしもうまくエミュレートできていなければ、ご指摘いただければ幸いです。
「・・・・・」
「・・・・・」
姫松学院の特別棟にある、オカルト研究部の部室、略してオカ研。
図書室のすぐ隣にあるその一室の中には、重苦しい沈黙が満ちていた。
「・・・・・」
「・・・・・」
部屋の中にいるのは2人。
1人は、この部屋の主であり、オカ研の部長である綾地さん。
そして、もう1人はこのオレ、保科柊史。
クラスメイトであり、顔見知りであるが、さっきからお互いに話しかけることができないでいた。
もともと、オレは綾地さんとは距離を取っていたというのもある。
綾地さんからそこそこの頻度で放たれていた異常な『発情』。
綾地さんほどの美少女であるからにして、クラスのど真ん中で教室の風紀を粉々に破壊しかけたことが何度かあったのだが、そんな事態になれば感情を五感で感じ取ってしまうオレとしては非常によろしくない事態となる。
だから、オレの術式で綾地さんの発情を肩代わりしていたのだが、オレとしてもそう何度も色んな意味でやりたいことではない。
というか、仮にこれが綾地さん側にバレたら、まず間違いなく軽蔑される。
そうなれば、綾地さんの人気を考えるにクラス中どころか学院中を敵に回すことになりかねない。
そういうわけで、オレは綾地さんとの関わりを最低限にしていて、今後もただのクラスメイト以上に話すことはないと思っていたのだ。
だがしかし、そんな前提を吹き飛ばすようなことが起きた。
だから、オレと綾地さんはこうしてここにいるのだが・・・
「あ、あの・・・」
「っ!?な、何かな?綾地さん」
今ここにいる理由を振り返っていると、おずおずと言ったように綾地さんの方から話しかけてきた。
オレは、綾地さんといるときは術式を閉じているため、感情を感じ取ることはできない。
だから、今の綾地さんがどんな心境なのか術式で探ることはできないが、それでもなんとなくわかる。
今の綾地さんが抱いているのは、『羞恥』と『恐怖』。そして『好奇心』だ。
「その、ほ、保科君は、私のことが見えてましたよね?保科君も、もしかして・・・」
「あ~・・・オレは魔女ではないよ。母親が魔女だったんだ。そして、オレの母さんの願いは超能力みたいなチカラを手に入れることだった。そのチカラがほんの少しオレにも伝わっていたから、オレにも魔女が見えるんだよ」
「そ、そうだったんですね。親が魔女・・・だから、私のことも見え・・・見え、見られて・・・う、うう~・・・!!」
「ちょっ!?綾地さん!?どうしたの!?」
突如、机に突っ伏してまさしく怨霊のように『う~う~』と唸りだした綾地さん。
突然の奇行に、オレは驚くことしかできない。
「あ、あんなに恥ずかしい格好をしてるところを見られてしまいました・・・絶対変態だって思われてます・・・も、もう消えてしまいたい・・・」
「・・・・・」
それは、オレに向けて言ったつもりではないのだろう。
己の心の中を絞り出すような独り言。
しかし、奇行の理由はわかった。
(ま、まあ、そりゃあ、顔見知りに『あんな』格好を見られたらこうもなるか)
改めて、オレはこの部室に来ることになった理由を思い返す。
それは、オレがたまたま先生に図書室に納める本の山を押しつけられて、図書室のすぐ前まで来たときのこと。
そこで、オレは痴女と化した綾地さんに遭遇したのである。
(あれは、もう何て言うか、『痴女』としか言い様がないよな・・・)
マントととんがり帽子はいい。
それは、魔女と言えばオーソドックなものだからだ。
だが、下半身は結構きわどいミニスカートで上半身に至ってはベルトみたいなものを申し訳程度に巻き付けただけというのは、もう何と言えばいいのか。
オレも男なので、同級生のエロい姿に興味がないと言えば嘘になるが、いくらなんでも段階と言うモノがある。
パンチラだの着替えの途中をうっかり見てしまうとかなら、オレもなんというか、ラッキーと思ってしまうかもしれないが、初手で見るのが痴女丸だしの格好は、普通に引く。
想像してみて欲しい。
クラスの隣の席の女の子が、夜中にコート以外何も身につけずに出歩くのが趣味の変態だったらと。
ラノベやゲームならそこから始まるストーリーもあるのだろうが、現実で感じるのは『コイツやべーな』という恐怖と警戒だけだ。
下心があったとしても、それ以上に関わり合いになりたくない。
下手をしたら、青い服を着た公的権力の方々のお世話になってしまうんじゃないかというヴィジョンまで見えてくる。
見る側のオレですらそう思っているのだ。
見られた側の綾地さんがショックを受けて凹むのも宜なるかな。
これでも今の綾地さんは落ち着いている方で、図書室前では窓から身投げしようとしていたくらいだ。
どうにかこうにかマントを引っ張って押さえ込み、目に付いた教室に連れ込んだら、そこがこのオカ研だったのである。
自分のホームグラウンドに帰れたことがよかったのか、そこで少し落ち着いた綾地さんとテーブルを挟んでいたのがさっきまでの光景というわけだ。
しかし、それにしても・・・
(薄々そうじゃないかとは思ってたけど、やっぱり魔女だったのか)
綾地さんはさっきオレが言った『魔女』という単語になんの驚きも見せていなかった。
・・・呪術師は負の感情を以て戦うが、心を燃えたぎらせることはあっても頭は常に冷静でなければならない。
確かにオレも驚きはしたが、今はもう情報を引き出すべきだと考えられるくらいには、オレの頭はまともに戻っていた。
(けど、オレが呪術師だとは、いや、魔女と関わりがあることも知らなかった。なら、綾地さんと契約してるアルプもオレが綾地さんの近くにいることは知らないと見るべきか・・・)
変身していたこと、魔女という単語への反応から、綾地さんが魔女だというのは確定。
しかし、教室での様子や今の受け答えを見るに、オレが呪術師であることには気が付いていなかった。
アカギの台詞から、オレはアルプの中ではそれなりに有名なようだし、もしもオレと綾地さんが同じクラスにいることを知っていれば綾地さんに警告くらいはするだろう。
となるとだ。
(この話合いの落とし所をどうするかが重要だな)
『もう、もうダメです・・・おうちかえるぅ』と嘆くのを通り越して幼児退行しつつある綾地さんを見ながら、オレはどうするべきか考える。
(オレが、綾地さんが魔女であることを知っている人間であることがバレた。そこで、オレが呪術師であることを綾地さんとそのアルプに言うべきか・・・)
オレが魔女と関わりのある人間であることは知られてしまったが、どこまでを話すべきか。
オレの術式の関係上、綾地さんの発情を肩代わりしないというのは選択肢から除外する。
しかし、それでは代償で発生する感情を横取りしてしまうことになり、アルプに迷惑がかかるし、無駄に敵意を持たれることになるだろう。
そうなると、綾地さんとそのアルプにはきちんと事情を説明しておく方がいいか・・・
(よし、言うか。あと、綾地さんのアルプと繋ぎを取ってもらおう)
「え~と、綾地さん?」
「う~・・・もう本当にやだぁ・・・」
「・・・・・」
事情を説明すべく綾地さんに話しかけるも、幼児退行中の綾地さんには届いていないようだ。
こうなれば仕方がない。
(・・・術式、順転)
オレは、警戒しながら術式を開放する。
綾地さんの発情が魔女の代償であると確認を取ったワケではないが、もしも代償ならば椎葉さんと違って発動は完全にランダムの可能性が高い。
つまり、今この瞬間にも爆発する可能性のある不発弾のようなものであり、オレが綾地さんとなるべく距離を取るのもそのためだ。
だが、今のままでは話合いもできないので、綾地さんの中に渦巻く感情を吸い取ってしまうことにする。
「うぷっ・・・」
「う~、う~~・・・あ、あれ?私、さっきまで何を?」
「お、落ち着いた?綾地さん?」
「あ、保科君・・・えっと、ごめんなさい。私、さっきまで混乱してたみたいで」
羞恥、恐怖、悲しみ、絶望。
自分の正体を知られたのと、恥ずかしい格好を見られたことでこれから先の人生を悲観でもしたのだろう。
味は最悪極まるが、どうにかこうにか感情を吸収し、平常心に戻った綾地さん。
これなら、話合いもできそうだ。
「綾地さん。綾地さんが契約してるアルプとオレを会わせることってできる?」
「え?七緒・・・えっと、私が契約してるアルプと保科君をですか?」
「うん。まず最初に言っておくけど、オレは綾地さんが魔女だってことを言いふらすつもりはないよ。そんなことを普通の人に言っても頭がおかしくなったって思われるだけだし」
「それは、そうだとは思いますけど・・・」
オレの言葉はもっともだろうが、『どうしてそんなことを言うのだろう?アルプと何の関係が?』というオレの意図が分からない様子の綾地さん。
しかし、ここからが本番なのだ。
「・・・スゥ~」
「?」
これを言えばオレはこの先の高校生活を針のむしろの上で過ごさなければならなくなるかもしれない。
だがバレてしまったのならばしょうがないし、アルプが受け取る感情を横取りしてしまってると知った以上、なるべく早くにこちらから言わなければならなかったことでもある。
オレは覚悟を決めた。
「その・・・綾地さんの代償のことなんだけど」
「っ!?」
反応は劇的だった。
さきほど感情を吸い取ったはずなのに、濁流のような羞恥と焦りが湧き上がっているのがわかる。
「ち、違います!!違いますからね!?私の代償は全然普通のヤツですから!!は、発情なんてしないし、お、オナニーだってしません!!さっきも図書室の机の角が一番いいなんて思ってませんから!!」
「・・・・・」
どうしよう。
この状況、綾地さんの完全なる自爆で一番デリケートな部分を図らずもオレの方から聞く前に知ってしまった。
っていうか。
「さっき、図書室の前で変身してたのはそういう・・・」
どうしてあんな場所で魔女になっていたんだとは思っていたが、まさか自力で発情を解消するためだったとは。
綾地さんの代償のキツさは肩代わりしたことのあるオレとしてもよく分かるし、オナ・・・まあ、自慰行為をしないと収まらないのも知ってはいるが。
普通、そういうのはトイレとかでやるものじゃないのだろうか。
そりゃあ、魔女の姿なら普通の人には見えないから図書室でシてもリスクが小さいと言えば小さいけども。
というより、机の角っていうのは何のこと・・・いや、深く考えている暇はない。
「ぽわぁっ!?」
オレがポツリと呟いたことで、自分が何を口走ってしまったのか気が付いたのか、文字に起こしづらい奇声を上げる綾地さん。
そして。
「もう、もうっ!!おうちかえるぅ~~~!!!」
「ちょっ!?ええいっ!!」
おうちかえると言いながら、オカ研の部室の窓を開けて身を乗り出す綾地さん。
その先に待っているのはおうちではなくあの世だが、テーブルを挟んでいたせいで手が届かない。
・・・仕方がない。
「闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え!!」
「え!?っぅぅぅ~~~~~!!!?」
早口で祝詞を唱え、帳を展開する。
条件は、『一定以上の呪力を持たない人間は通過できない』というオーソドックスで特に細かく考えずとも設定できるもの。
オレが唱えた瞬間に、オカ研の部室を外殻とした帳が展開され、綾地さんが窓から外に出ることはできなくなった。
飛びだそうとしたところに突然壁ができて、思いっきり頭をぶつけてしまったようだが。
「えっと、綾地さん、大丈夫?」
「ぅぅぅ・・・い、痛いです・・・で、でも、大丈夫、です」
頭を押さえてうずくまる綾地さんに声をかけると、涙目になりながらもヨロヨロと立ち上がった。
混乱していたところに物理的な衝撃を受けて逆に落ち着いたのか、もう窓に向かおうとはせず、いきなり様子が変わった周りを恐る恐るというように見回している。
「あ、あの、保科君。これは・・・?いきなり夜になったみたいに暗くなりましたし、窓から出られなくなったり・・・これは、もしかして保科君が?」
「うん、そうだよ。これはオレが張った結界だよ。綾地さん、あのままだと窓から落ちそうだったから、咄嗟に張っちゃったんだ。頭ぶつけちゃってごめんね」
「い、いえ・・・元はと言えば私が悪いので・・・私が図書室でオナニーしたって言わなければ・・・ばばばっばっ!?わ、私またっ!?」
「・・・・・」
落ち着いたと思ったら、またも自爆してショートする綾地さん。
これでは話が進まない。
・・・こうなったら、もう本当にしょうがない。
オレは、もう一度術式を回しながら、綾地さんに話しかけた。
「あ、あれ?また急にスッキリして・・・?」
「綾地さん、落ち着いて聞いて欲しい」
「保科君?」
綾地さんは自分の姿のことや代償のことを本気で恥ずかしがっており、そこを突くと自爆してしまう。
「今から、オレは本当に気持ちが悪いことを言う。本当は黙っておきたかったけど、いつかは話さなきゃいけないことだから言うけどね?」
「は、はぁ・・・?」
ならば。
「実はオレ、教室で綾地さんが発情してるとき、その発情を肩代わりして、オレが代わりに興奮してたんだ」
「へ?」
ならば、オレから先に自爆してしまえばいい。
綾地さんの秘密よりもさらにドン引きする内容を言ってしまえば、綾地さんが恥じらうことはない・・・はず。
「え?えっと、保科君?それってどういうことですか?」
「この結界もそうだけど、オレは呪術・・・いや、超能力みたいなチカラを使えるんだよ。その中の一つに、『他人の身体的苦痛を肩代わりする』っていうチカラがある。そうだな・・・綾地さん、ちょっと自分のおでこにデコピンしてもらっていい?」
「で、デコピン?」
「うん。手っ取り早く証拠を見せるよ。オレの言っていることが本当なら、デコピンしても綾地さんは痛みを感じなくなるからね」
「は、はぁ・・・えっと、それじゃあ、えいっ」
半信半疑というか、この場の雰囲気に流されたように綾地さんは自分のおでこにデコピンをする。
その直前に、オレは術式を発動させた。
「あ、あれ?何も感じない?」
「これでわかったでしょ?オレには、他人の痛みとかを肩代わりするチカラがあるって・・・あと、あんまり強くやると痛いからもう少しソフトにお願い」
「は、はい、ごめんなさい」
何度デコピンしても痛みがないのを不思議に思ったのか、結構強い力でビシビシとデコピンを続行する綾地さん。
地味に痛いので、ちょっと力を弱めてもらったところで術式を切る。
「あ痛っ!?・・・元に戻った?」
「あ、ごめん。言ってから切ればよかった。まあ、体験してもらった通り、オレはこの肩代わりのチカラで綾地さんが教室で発情してたときに肩代わりをしていたんだよ」
「そ、そうだったんですか・・・保科君が私の代償のことで何かをしているとは思っていたんですが、肩代わりだったんですね」
「あれ?気付いてたの?」
「いえ、そうじゃないかなって思っていただけですよ。私がその、発じょ・・・だ、代償で困っているとき、保科君が通りかかってくれたら楽になることが何回かありましたから」
「あ~・・・そっか。そう考えればそうだな。迂闊だった」
どうやら、綾地さんはオレが代償のことで何かをしているのには気が付いていたらしい。
まあ、思い返してみれば廊下で教師と話しているときにきてた発情を、たまたま通りかかったオレが肩代わりしたこともあったし、ヒントはあったのか。
しかし・・・
「綾地さん、気持ち悪くないの?」
「え?何がですか?」
「いや、オレが代償の肩代わりを勝手にしてたこと。自分で言うのもなんだけど、教室に発情した男がいるのって普通に怖くない?」
オレの術式は、遠隔で発動できるから、直接触れたりする必要はない。
しかし、女の子の発情を男が横からかっさらい、自分で発情するというのは言葉にするとどうにもインモラルというか、端的に言うとキモイと思う。
それを置いておいても、教室の中に自分が発情していたことを知っていて、それでいて発情した男子がいるとなれば、プラスのイメージなど何もないと思うが。
だと言うのに、綾地さんからはこれといった悪感情を抱いているようには見えない。
「・・・確かに、それはちょっと怖いとは思いますが、私はこれまで何度も保科君に助けてもらってた身ですから。私が国語の授業で朗読していて困っていたときも、保科君が助けてくれたんですよね?」
「国語の授業?ああ、あのときか。うん、そうだよ」
オレが初めて、自分の意志で綾地さんの代償を肩代わりしようと思ったときだ。
「なら、私はむしろ保科君にお礼を言わなきゃいけません。あれからも、何度も代償がすぐ消えたり、弱くなることがありましたし・・・本当に、ありがとうございます、保科君」
「う、うん・・・」
気持ち悪く思うどころか、オレに笑顔でお礼を言ってくる綾地さん。
試しに術式を開いてみれば、混じりけのない感謝の気持ちが流れ込んでくる。
(う゛・・・今のオレに、この感謝の味は効くなぁ)
実を言うと、昨日からオレは空腹が続いていて、それを悪感情で無理矢理誤魔化していた。
と言うのも、椎葉さんに心の欠片を造ったとき、その元になったのは椎葉さんのくれたプラスの感情だったからだ。
心の欠片にして外に出してしまえば、その分空腹になる。
しかも、因幡さんからはどういうわけか感情の実入りが乏しい。
そうなると、ここまで純度の高い感謝の感情をもらうのは、空腹のときに自分の大好物を山盛りで出されたようなものだ。
綾地さんが突然発情するリスクを知っていても、術式を開いたままにするのを止められない。
っていうか、こんなに感謝してくれるとなると、今まで余所余所しく避けていたのが申し訳なくなってくる。
そもそもオレだって・・・
(まあ、オレは綾地さんはいつ爆発するかわからない爆弾みたいで苦手ではあるけど・・・決して嫌いじゃないしなぁ)
綾地さんは確かにオレにとって危険だが、その心は珍しいくらいに綺麗なのだ。
それこそ、椎葉さん並みに。
術式の関係で裏表のある人間が嫌いなオレから見れば、とても好ましい人柄であると言える。
あくまで苦手ではあるが、嫌いではない。
苦手と嫌いの差は大きいのだ。
(今思うのは言い訳がましいけどさ。それに、オレには別の目的もあったわけだし)
上質な感謝の感情をもらってから今更そんなことを考えるのは、とても言い訳がましいと我ながら思う。
オレはその後ろめたさから、綾地さんの『誤解』を解くべく口を開いた。
「で、でも、オレが綾地さんの代償を肩代わりしたのは、打算目的でもあるんだ。だから、そこまでありがたく思ってもらってもオレとしては後ろめたいかな」
「打算目的、ですか?」
「うん。オレの持ってるチカラのメインは、『他人の感情を吸い込んでエネルギーに変えることができる』っていうチカラなんだけど、代償があってね。『他人の身体的苦痛を強制的に肩代わりしなくてはいけない』、『一定時間感情を吸わないと、とてつもない飢餓感が出てくる』っていうのがあるんだ。綾地さんの代償の肩代わりは、オレ自身の代償を利用したって感じだね」
「じゃあ、私の代償を肩代わりしたのは、保科君のお腹が空いたからということですか?」
「それは目的の半分かな。オレのチカラは、感情を吸収するときに感情を味覚で感じ取ることができるんだけど・・・マイナスの感情ってすごい味が悪いんだ」
「???」
またも疑問符を浮かべる綾地さん。
オレの話す内容と行動がいまいち繋がらないらしい。
・・・言いにくいと言えば言いにくいが、ここまで来たのなら言ってしまおう。
「それで、その・・・綾地さんが教室のど真ん中で代償で困ってたら、クラスの雰囲気がマズくなるよね?オレは、それが嫌だったんだ。いやまあ、廊下ですれ違ったときみたいに、綾地さんが困ってるのを知ってて放っておくのもどうかなって思ってたのもあるけどね」
「そうだったんですね・・・」
綾地さんは少し考え込んでから、納得するように小さく呟いた。
自分が発情したときの周りの様子を思い出していたのだろう。
あのときはクラスの男子が暴走寸前で、あのままだったらとんでもないことになっていた可能性があるというのは綾地さんも自覚があったのかもしれない。
しかし、これでやっと本題に入れる。
「ところで綾地さん。オレがさっき言った、アルプへ繋ぎを取れるかどうか聞いた理由なんだけどね。この代償の肩代わりって、アルプがもらうはずだった感情を横取りしちゃうんだよ」
「ええっ!?そうだったんですか!?」
「うん。そうなんだ・・・綾地さんのアルプから、何か言われたりしてない?」
「い、いえ・・・最近は私の方が順調だったので特に連絡は入れてませんでしたし、向こうも色々と忙しいみたいでしたから」
「そう・・・」
どうやら、アルプの方から苦情が来ていたりはしないらしい。
一応、オレも綾地さんの代償を100%肩代わりすることはそこまでないし、肩代わりできるのも学院でだけだ。
アルプからは気にするほどの量ではなかったのかもしれないが、まあ、それでも筋は通すべきだろう。
「オレとしては、オレ自身のためにも綾地さんの代償の肩代わりは続けたい。でも、綾地さんのアルプはそのままだと困ることになる。だから、アルプと話し合う場を設けて欲しいんだ」
「り、理由はわかりました。でも、そういう理由だと七緒も応じてくれるかどうか・・・」
(綾地さんの契約してるアルプ、七緒って言うんだ・・・どっかで名前を聞いたような?まあいいか)
綾地さんとしても、オレが代償を肩代わりするのは生活する上でありがたいのは確かだろう。
しかし、アルプとしては損をすることになる。
そうなれば、素直に頼んだところで代償の肩代わりの許可をもらうのは難しい・・・と思っているのかもしれない。
だが、こちらには交渉材料もある。
「そこは、まあ大丈夫。その分の感情を補填する方法があるんだ。綾地さんの協力がいるけどね」
「私の協力ですか?」
「うん。綾地さんに協力してもらいたいところは、綾地さんのアルプと会えたときに教えるよ。そのアルプに会えないと、実証もできないから」
「わかりました・・・じゃあ、電話してみますね」
「そのアルプ、電話持ってるんだ・・・ああ、ちょっと待って」
「?」
アルプが電話を持っていることに驚くオレを横目に、綾地さんが電話をかけ始める。
そんな綾地さんを呼び止めて、オレは言った。
「そのアルプに伝えて欲しい。『夏油傑の弟子ですが、そちらにも綾地さんにも危害は一切加えません』って」
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「え?どうしたんですか、七緒?そんなに慌てて・・・え?私は大丈夫かって・・・別になんともありませんよ?」
綾地さんが電話をして、すぐに相手に繋がった。
そこで、綾地さんは『会わせたい人がいる』と言い、先ほどオレが言った夏油傑の弟子云々を伝えたのだが、電話先の相手はひどく慌てているようだ。
「替わってくれって・・・それは構いませんが。じゃあ、すぐに・・・あの、保科君。七緒、あ、私が契約してるアルプなんですが、保科君と話したいって」
「わかったよ」
薄々こうなると思っていたオレは、綾地さんが差し出してくれた電話を受け取って耳に当てた。
「もしもし」
『・・・キミが、あのアルプ殺しの弟子かい?』
「ああ、やっぱり先生を知ってたんですか・・・そうです。オレは夏油傑先生の弟子で、保科柊史と言います」
電話から聞こえてきたのは、若い女の声だった。
しかし、年齢はオレや綾地さんより年上だろう。
警戒心の滲んだ声音だが大人の女性という感じで、オレはつい敬語を使ってしまう。
『保科君か・・・私は、相馬七緒と言う。それで?私に話があるということだが、一体何の話をしたいんだい?』
「・・・その前に、一つ。綾地さんにも伝えましたが、オレは綾地さんにもあなたにも危害を加えるつもりはありません。縛りを結んでもいいです」
『縛り・・・魔女とアルプの関係とはまた異なる契約だったか。それでどんな縛りを結ぶつもりだい?』
「そうですね・・・シンプルに保科柊史は綾地寧々と相馬七緒に直接的、間接的に危害を加えない、でしょうか。あ、偶然肩がぶつかったみたいな、明らかに危害を加える意志がない行動は省きますよ?」
『一応聞くが、それはこうして電話越しでも効果はあるのかい?』
「試したことはありませんが、恐らくは」
縛りを遠隔で結ぶというのは聞いたことはないが、不可能ではないだろう。
お互いの同意が得られていれば成立するはずだ。
『・・・わかった。その言葉を信じよう。キミに私や寧々を傷つける意志があるのなら、わざわざ寧々に電話をかけさせる必要もない・・・それで、私に用とは何かな?』
「はい。綾地さんの代償のことでお話が。えっと、相馬さん、でいいでしょうか?相馬さんは、最近綾地さんから伝わってくる感情が弱くなったと思ったりしませんでしたか?」
『確かに、ここ最近は急に寧々からの感情が途切れたり、弱くなったりすることがあったが・・・まさか、あれはキミが?』
「大変申し訳ありませんでした・・・!!犯人はオレです!!」
『そ、そうだったのか・・・つまりキミは、そのことについて謝罪をしたいということかい?』
「はい。でもそれだけじゃなくて・・・これからもオレは、綾地さんから相馬さんに送られるはずだった感情を横取りしてしまうことになると思います。でもこれからは、その補填をさせてほしいんです」
『・・・ふむ、わかった。何やら複雑な事情があるようだが、このことについてわざわざ正直に私に打ち明けてからだまし討ちする理由もないだろう。寧々の後に付いて、シュヴァルツ・カッツェという店にまで来て欲しい。そこで話を聞こう。寧々に電話を返してもらえるかい?』
「わかりました。それでは、後ほど伺います・・・はい、ありがとう綾地さん」
そうして、オレは綾地さんに携帯を返した。
綾地さんはそれから二言三言相馬さんと話していたが、すぐに電話を切る。
「えっと、七緒が言っていましたけど、保科君を待っていると・・・」
「わかった。綾地さん、案内をお願いしていい?」
「はい。大丈夫です。私もそのつもりでしたし、七緒も私に任せると言っていましたから」
「ありがとう」
綾地さんにも、オレを案内して欲しいと伝えていたようだ。
しかし、アカギと違って相馬さんはずいぶんと大人びているというか、落ち着いた印象だった。
アカギもアカギでただのバカではないようだったが、相馬さんからは先生のような『大人』という感じがした。
縛りのことも知っているようだったし、冷静だったのはもしかしたら先生に会ったことがあって、人となりや呪術のことを把握していたのかもしれない。
「それでは、向かいましょう」
「うん。よろしく・・・あ、ちょっと待ってて」
そうして、オレは綾地さんとオカ研の外に出ようとして、直前で気が付いた。
(椎葉さんに、今日は行けないって連絡しなきゃ)
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同時刻。
いつもの公園に向かう道中にて。
「あ、保科君からメッセージが来てる・・・え!?今日は急用が入って来られない!?」
「なんじゃ。あの小僧は今日は来ないのか」
公園を目指して歩いていた紬とアカギは、柊史から届いたメッセージを確認していた。
それによると、今日は本当は来る予定だったが、急用が入って来られないとのことだった。
「・・・保科君、大丈夫かな?これまで、こんなことは一度もなかったんだけど・・・」
「あの小僧なら大丈夫じゃろ。車にはねられようが絶対に死なんぞアイツは」
「もう!!そういう問題じゃないでしょ!!怪我は大丈夫でも、病気とか周りの人に不幸があったとかそういうのかもしれないし・・・」
「周りの人・・・ふむ、もしや、あの小僧の近くに魔女がいて、その魔女にバレたとかかのう?」
「!?」
紬は固まった。
つい昨日、柊史が他の魔女に誘惑されるかもという懸念に気が付いたばかりのところで今日のコレだ。
『まさか・・・』と思ってしまうのはしょうがないだろう。
「だ、大丈夫だよね?ねぇ、アカギ。魔女って、そんなにたくさんはいないよね?」
「まあ、確かに魔女はそう転がっているようなモノではないが・・・アルプには縄張りがある。あの小僧がどこに住んでいるのかは知らんが、そこもどこぞのアルプの縄張りの中ではあるじゃろうよ」
「・・・保科君は、姫松っていう街に住んでるみたいだけど」
「姫松・・・?」
「アカギ?」
その地名を聞いたアカギの眉間にしわが寄る。
その地の名前は、アカギにとって『二重の意味で』いい思い出がない。
だが、今関わりがあるのはあの場所を縄張りとするアルプのことだけだ。
「・・・姫松と言えばあの七緒の縄張りか」
「な、七緒?知っているアルプなの?」
「うむ!!あの猫は、あっちの膝を逆向きに折り曲げて、偉そうに説教を垂れてきたのじゃ!!確か、七緒のところにも1人魔女がいたはずじゃ。会ったことはないが、姫松にいるのは間違いない」
「・・・保科君」
それを聞いて、紬は悲しそうな顔でスマホの画面を見た。
そして、小さく呟く。
「大丈夫だよね?他の魔女に変な目に遭わされたり、してないよね?」
その声は、どこにも届かず消えていくのだった。
次回は七緒さん回。またエミュの難しい人です・・・
この作品をご存じでしょうか?①ダークギャザリング、②死印、③東方Project
-
すべて知っている
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①と②を知ってる
-
①と③を知ってる
-
②と③を知ってる
-
①だけ知ってる
-
②だけ知ってる
-
③だけ知ってる
-
すべて知らない