女の子が苦しんでいるのを肩代わりしてしまう少年の話   作:二本角

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そろそろヤンデレタグに仕事させますかね・・・


芽生えつつある気持ち

「さてと、椎葉さんにはまず謝らないとな」

 

 昼休みにオカ研で綾地さんと話してからの放課後。

 今日も虹龍に乗って移動中だが、椎葉さんに会ったら謝らねばと心に決めていた。

 すでにメッセージアプリでは謝ってあるし、椎葉さんも怒ってはいないようだったが、こういうのはやはり直接言うものだろう。

 

「それに、綾地さんと会ったことも伝えないと」

 

 色々と複雑なので、昨日のうちに詳しいことは今日話すとも伝えてあった。

 綾地さんには色々と理由があって椎葉さんのことは話さなかったが、付き合いのある椎葉さんにはしっかり伝えねばなるまい。

 まあ、相馬さんにはオレが他のアルプや魔女と付き合いがあることがバレているようだった上に、周辺のアルプのまとめ役でもあるとのことだったので、下手に誤魔化さずにアカギのことは話してしまったが、それでも椎葉さんの見た目や代償に関わることは一切漏らしていない。

 相馬さん経由で綾地さんにもオレが他の魔女とも縛りを結んでいることは知られてしまうだろうが、まあ、それが放課後オカ研に行けない理由であると確定させることはできないだろう。

 綾地さんには悪いが、同じクラスにいるために普段から代償を肩代わりできる綾地さんと、遠方にいる椎葉さんとでは、どうしても椎葉さんを優先してしまうのは許して欲しい。

 

「そういえば、相馬さんとアカギは知り合いだったんだな。名前出しちゃったけど、そのことも言っておくか」

 

 ついでに、相馬さんにアカギの名前を出してしまったことも言っておいた方がいいだろう。

 アルプの個体数が少ないからなのか、アルプの世界が狭いからなのか、相馬さんとアカギは知り合いのようなので、オレが言わずとも、もしかしたらアカギから伝わることもあったかもしれないが。

 もともと代償の補填のために今日はアカギも来ることだし、ちょうどいい。

 

「お?今日は椎葉さんの方が早かったのか」

 

 そんなことを考ている内にいつもの公園に到着していたようだ。

 下を見てみれば、小柄な女の子とさらに小さな幼女がいるのが見えた。

 オレは虹龍に地上まで降りるように指示して、張っていた帳を解いた。

 

「こんにちは、椎葉さん」

「あ、保科君!!」

「やっと来たか。遅いぞ小僧」

 

 虹龍から飛び降りて挨拶すると、椎葉さんが駆け寄ってきた。

 そのすぐ後を、アカギが続く。

 

「あ、ごめん。待たせちゃってた?」

「ううん。そんなことないよ。五分くらい」

「五分でもあっちらが待たされたのは変わらんじゃろ」

「もう、アカギ!!そんなに細かいことで怒らなくてもいいでしょ!!」

「いや、そこはアカギの言うとおりだよ。待たせちゃってごめん、椎葉さん・・・あと、アカギも」

 

 オレが謝ると、椎葉さんは『自分の方こそ申し訳ない』というような顔をし、アカギは『ふん』と鼻を鳴らしていた。

 

「あと、昨日もごめんね。いきなり来れなくなっちゃって」

「・・・保科君、そのことなんだけど、詳しく話してくれるんだよね?」

「え?あ、ああ、うん・・・その、本当にごめんね?」

 

 流れに乗っておこうというワケでもないが、昨日来れなかったことも謝ったが、椎葉さんの顔が恐ろしく真剣になっていた。

 

「大丈夫。来れなかったこと『は』気にしてないから。それよりも、理由の方を教えて欲しいな?」

「う、うん。話すよ。今日はそのつもりで来たから」

 

 当然と言うべきか、椎葉さんは昨日オレが来なかった理由が気になるらしい。

 まあ、アプリでも『詳しいことは明日話す』なんて送られたらそうもなるだろう。

 ただ、それを含めて考えても気迫が尋常ではない。

 気圧されてついもう一度謝ってしまったが、椎葉さんとしては謝罪よりも理由の方が知りたいようである。

 ・・・椎葉さん相手におこがましいが、まるでドラマで浮気を疑われている彼氏役になった気分だ。

 オレの身の安全のためにも、さっさと話してしまった方がいいと直感的にそう思った。

 

「えっと、実は、昨日オレの学校で魔女に会ったんだよ」

「ええ~~っ!?」

「し、椎葉さん?」

 

 椎葉さんの反応は劇的だった。

 その大きな瞳をさらに見開いて叫んだかと思えば、サッと顔から血の気が引いていく。

 

「む。まさか本当に当たるとは」

 

 対照的に、アカギは落ち着いていた。

 まるで、オレが魔女に遭遇するのを知っていたかのようだ。

 

「なんだよアカギ。お前、オレが昨日来れないのを知ってたのか?」

「そこまで知るわけなかろう。じゃが、そのうちお前に会いたがる魔女が出てくるとは思っておったのじゃ。ここまで早いとは思わなかったがな」

「オレに会いたがるって、なんで・・・」

 

 オレが初めて会った魔女は椎葉さんで、その次が綾地さんだが、この2人との出会いは偶然だ。

 しかし、アカギの口調では魔女の方からオレに会うために来るのが自然というような感じだ。

 その理由に予想が付かず、さらに聞こうとしたのだが。

 

「ほ、保科君!!保科君大丈夫!?その魔女に変なことされてない!?」

「ちょっ!?し、椎葉さんっ!?」

 

 突然、椎葉さんが猛烈な勢いで突っ込んできて、オレの両肩を掴もうとして・・・身長差で届かなかったのか、代わりにオレの両腕を取ってガクガク揺さぶってきた。

 

「ど、どうしよう!?どうしようどうしようどうしよう!?ほ、保科君がワタシじゃない魔女の毒牙にっ!?」

「し、椎葉さん!!椎葉さん落ち着いて!!うぷっ!?」

「お、おい紬。小僧が白目をむきかけておるぞ。話を聞けなくなるのはよくないのではないか?」

「え?・・・・・あ!!ご、ごめんなさい保科君!!」

「い、いや大丈夫!!全然大したことなかったから!!あ、アカギもありがとな・・・」

「ふん。話が聞けなくなるのが面倒だっただけじゃ。お前が他の魔女と関わるのは、あっちにも影響があるかもしれんからな」

 

 椎葉さん相手に手荒な真似をするワケにもいかず、されるがままになっていたのだが、アカギが後ろから引っ張ったことで現状に気が付いてくれたようだ。

 正直、あのままだとお昼に食べた綾地さんの弁当を戻してしまっていたかもしれないから、本当に助かった。

 それにしても。

 

「椎葉さんとアカギで何かよくない予想でも立ててたの?すごい慌ててたけど」

「う゛!?・・・え、えっと、その」

 

 さっきの椎葉さんの荒れようは異常だった。

 アカギの反応といい、オレと別の魔女が出会うとよくないことが起きる予想でもしていたのだろうか。

 現に、今の椎葉さん、目が泳ぎまくってるし。

 

「なんじゃ紬、さっさと言えばよいではないか。魔女の中には小僧と交尾・・・」

「わぁー!!わぁー!!わぁー!!ほ、保科君!!何も聞いてないよね!?」

「う、うん・・・」

「も、もがもががが!!」

 

 アカギが何かを言いかけた瞬間、獲物を捕らえるカマキリのような速度でアカギの口を塞いだ椎葉さん。

 その間も椎葉さんが大声を上げていたので、アカギが何を言おうとしていたのかはわからなかった。

 突然口を塞がれてアカギが腕を振り回して大暴れしているが、ホールドが緩む気配がまったくない辺り、椎葉さんの腕力はかなりのものに違いない。

 

「えっと、椎葉さん?」

「あぅ・・・その、あの、そう!!保科君、心の欠片を造れるでしょ?そのことを知った魔女が保科君を脅したりしないか心配で・・・」

「脅す?オレを?そんなの・・・いや」

 

 一瞬どういう意味かわからなかったが、考えてみればあり得ない話ではないか。

 綾地さんや相馬さんには心の欠片を用意できることは言っていないが、アルプに感情のエネルギーを流せることは知られている。そもそも、代償を肩代わりできることさえ、それで苦しむ魔女にとっては救いの糸たり得るのだ。相馬さんがやるとは思えないが、仮にそれが噂で広まったとしたら、よからぬことを考える魔女やアルプもいるかもしれない。

 

(まあ、もしもオレに襲いかかってくるようなアルプがいても、返り討ちにできるとは思うけど)

 

 オレは、過去にやらかしたある一件以来、人間にはよほどの事情がない限り心喰呪法の縛り以外で呪術は使わないと決めている。

 だが、オレに直接殴り込んでくるようなヤツはさすがに話が別だ。

 まあ、手加減の度合いを考えなければならないから単純に倒すよりも難しそうではあるが。

 とりあえず、椎葉さんを安心させるためにもしっかり言っておくべきだろう。

 

「大丈夫大丈夫!!先生が言ってたけど、オレは特級術師レベル・・・えっと、呪術師の中でも最強クラスだからね。術式があるから不意打ちも効かないし、魔女やアルプが束になってもなんともないよ」

 

 特級術師とは、呪術師の上澄み。

 先生が知る限り、先生を含めて4人しかいないらしいが、先生がいた場所でならオレは5人目として数えられていただろうとのことだ。

 

(特級術師の基準は『単独で国家転覆が可能なこと』みたいだけど・・・まあ、やろうと思えばできるしね。やらないけど)

 

 先生が特級術師として認められた理由は、一般人には視認できない、個々で現代兵器並みの破壊力をもった軍勢を完璧に統率できているからだったとのこと。

 オレも、ストック数は先生には遠く及ばないが、戦闘能力あるいは殺戮能力ならば先生の持つ『数千の特級呪霊』の上澄みと遜色ない特級呪霊を数体従えている。

 

(女子供相手だとやる気出さないけど、アイツはめちゃくちゃ強いし戦闘範囲も広い。それに、別のヤツも直接的な戦闘能力はそこそこだけど、呪いの持続時間は永続な上に効果もえげつない)

 

 オレがストックできる呪霊はかなり少なく、しかも等級が高いほど容量を食う。

 だが、その分凄まじい能力をもった呪霊たちであり、特にオレの手持ちの中でも強力な2体の特級呪霊。

 オレが今まで味わってきた『飢え』と『苦しみ』の体現者と、『呪い』を刻印として刻み、恐怖を啜る悪意のインフルエンサー。

 どちらか片方だけでも解き放てば、首都の制圧すら余裕だろう。

 まあ、そんなことをしてこの国を混乱させたところで普段の生活が不便になるだけなのでやるつもりはないが。

 ともかく、そんなオレなので、たかが魔女やアルプ程度なら一個師団が相手でも負ける気がしない。

 殺せるかどうかは別として。

 

「・・・そういう意味での心配じゃないんだけどなぁ」

 

 しかし、オレの大丈夫という言葉を聞いても椎葉さんは浮かない顔だ。

 

(オレの実力が信用できない・・・ってワケじゃなさそうだな。何か別に心配してることがあるのか?って言っても、魔女やアルプにできることなんてタカが知れて・・・いや、待てよ?)

 

 そこで、オレはふと気が付いた。

 

(確かにオレ本人や先生なら軍隊に襲われても返り討ちにできるけど、椎葉さんや父さん、それに因幡さんや綾地さんを人質にとられたらマズいな・・・いや、綾地さんと相馬さんはアレを渡してあるから大丈夫か)

 

 なるほど、オレ自身は問題ない。

 だが、オレの周りはどうかと言われれば、不安が残るのも確かだ。

 そこまでやるヤツがいるかどうかは置いておいて。

 

(まあ、ならまだ実験は済んでないけど、渡しておこうかな)

 

 オレは、ポケットの中に入れておいたモノに手を伸ばした。

 

「椎葉さん、ちょっと渡したいモノがあるんだけど、いいかな?」

「え?渡したいモノ?今?」

「うん。椎葉さんも不安に思ってるみたいだから、早めにと思ってさ・・・はい」

 

 そしてオレは、手に持っていた小さな熊のぬいぐるみを渡した。

 ぬいぐるみと言っても本当に小さいモノで、スマホや鞄のキーホルダーとして売っていたものだ。

 

「わぁ、かわいい・・・ありがとう!」

「どういたしまして・・・大丈夫だとは思うけど、それなら椎葉さんの代償には引っかからないよね?」

「うん。これくらいなら全然平気だよ」

「よかった・・・」

 

 これを選ぶときは地味に大変だったのだ。

 なにせ、椎葉さんには代償があるから、椎葉さんが好みそうな女の子らしいモノを渡すわけにはいかない。

 かと言って、センスのないヤツだと思われたくもない。

 オレは全力で商店街やショッピングモールを歩き回り、椎葉さんの代償に引っかからなそうなギリギリのラインで、良さそうな小物を見つけ出したのである。

 ちなみに綾地さんに渡したキーホルダーも、このときに手に入ったモノだ。

 

(この熊のぬいぐるみ、見た瞬間なんかビビってきたんだよな。椎葉さんに似合いそうだって)

 

 色々あったが、椎葉さんが喜んでくれたのなら何よりだ。

 オレの直感も捨てたもんじゃないな。

 

「でも保科君。どうして今これをワタシに?」

「ああ・・・」

 

 オレが過去のオレを労っていると、椎葉さんが不思議そうな顔をしていた。

 まあ確かに、今さっきの話の流れでコレを渡すのは不自然ではある。

 だが、関係だってあるのだ。

 このぬいぐるみのもともとの目的は別のことであり、そちらの検証はできていないが、椎葉さんの不安を取り除けるなら渡してもいいだろう。

 

「このぬいぐるみは、オレの術式を遠隔で使えるようになるためのモノなんだ。椎葉さんがこれを持ってれば、オレが傍にいなくても椎葉さんの代償の肩代わりができるんだけど・・・」

「え?」

「おまけに・・・ん?」

 

 それは突然のことだった。

 オレの術式に、刺すような酸味が入り込んでくる。

 酸味は悲しみの味だ。

 一体どこからそんな感情が?・・・と思ったが、その発生源はオレの術式が教えてくれていた。

 しかし、オレにはその結果が信じられなかった。

 

「ほ、保科君・・・それって、まさか」

「え!?」

 

 椎葉さんが泣いていたのだ。

 さっきまで、オレの贈り物を喜んでくれていたはずなのに。

 咄嗟のことに呆然とするオレの前で、椎葉さんは目に涙を溜めながらも、小さく口を開こうとしていた。

 

「保科君はワ、ワタシを・・・す、すて」

「し、椎葉さんっ!?」

(なんでだ!?なんで椎葉さんは泣いているんだ!?オレの贈り物がそんなに気に入らなかったのか!?)

 

 オレは頭の中が真っ白になった。

 椎葉さんが何かを言いかけているが、それすら分からなくなるほどに。

 オレの術式は相手の感情を読むことはできるが、どうしてその感情を抱くようになったのかはわからない。

 だから、椎葉さんが突然泣き出した理由もわからないのだ。

 そうして、オレが棒立ちで固まっていると。

 

「小僧!!お前、つい一昨日に縛りまで結んだ癖に紬を捨てる気か!!」

「は?」

 

 突如、腰に衝撃が走った。

 何かと思えば、アカギがオレの腰を殴りつけたらしい。

 見た目によらず重い一撃だったが、反射的に呪力を巡らせることで耐えきった。

 しかし。

 

「捨てるって・・・そんな訳ないだろ!?なんでそんな話になるんだよ!?」

 

 アカギの言っていることの意味がわからなかったオレは、怒りをぶつけるようにアカギに食ってかかった。

 そう、まるで意味が分からないのだ。

 このオレが、よりにもよって椎葉さんを捨てるなどと。

 オレの方が捨てられることはあっても、逆はあり得ないと言うのに。

 

「別の魔女に会った話の途中で紬の傍にいなくてもよくなる道具を渡せば、そっちの魔女に乗り換えるつもりだと思うじゃろうが!!」

「・・・あ」

 

 頭から冷水をぶっかけられたような気分になった。

 言われてみれば確かにそうだ。

 オレが言ったことは『キミじゃない魔女に会ったんだけど、それはそれとしてキミと直接会わなくてもいいようになる道具をあげるよ』ということである。

 『キミと会うより別の魔女と会っていたいんだよね』と捉えられても何も言えない。

 オレにそんなことを言う気はまったくないが、タイミングが最悪だったと我ながら思うしかない。

 

「保科君・・・保科、くん」

「っ!!」

 

 あまりにも無神経だった己を百回殺したいと思ったが、か細い椎葉さんの声を聞いて我に返った。

 そうだ。

 

(今はそんなこと考えてる場合じゃないだろオレ!!)

 

 悔やむのは後でいい。

 今はとにかく椎葉さんに弁解をせねば。

 

「ち、違うんだ椎葉さん!!椎葉さんと会うのを止める気なんてない!!これからも毎日会いに来るよ!!オレが椎葉さんに捨てられるならともかく、オレが椎葉さんを見放すなんて何があってもあり得ないから!!」

「・・・ほ、本当?でも、それならなんでコレを、ワタシに?」

「そのぬいぐるみは遠隔で術式が使えるようになるのがメインだけど、護身用にも使えるんだよ。それを持ってる人に危険があったら、オレに伝わるようになってる。もしも他の魔女やアルプが襲ってくることがあっても、すぐにオレが駆けつけられるようにって思ったんだ」

「・・・そうだったんだ」

 

 慌ててオレが贈り物を渡した理由を説明すると、オレの必死な様子に納得してくれたのか、椎葉さんはなんとか泣き止んでくれた。

 それでもまだ不安なようで、ぬいぐるみをギュッと握りしめているが。

 

「このぬいぐるみを持って、保科君に来て欲しいって思ったら、保科君はいつでも来てくれるの?」

「うん。絶対に。例えオレが死にかけてても行く」

 

 オレは即答した。

 そのぬいぐるみにそんな機能は付けていないが、なければ付けるまで。

 オレは公園を出るまでに追加で蠅頭を一匹憑けることに決めた。

 椎葉さんがオレに感情を向ければ、どんなときでもわかるように。

 例えそれが先生との訓練で内臓に穴を空けられていても、椎葉さんが望むなら全力で向かうことをオレ自身に縛った。

 

「さ、さすがに死にかけてるときは自分を優先してほしいかな・・・うん。でも、よかった」

 

 冗談ではなく本気で言ったのだが、椎葉さんは場を和ませるためのジョークとして受け取ったようだ。

 クスリと笑うと、安心したように微笑み・・・そしてすぐにまた真剣な表情になった。

 そして。

 

「ねぇ、保科君。保科君は、その魔女とも縛りを結んだりした?」

「え?それはまあ、結んだよ」

「そう、やっぱり・・・それは、どうして?」

「ああ、話が途中だったもんね。じゃあ、続きを話すよ」

 

 盛大に脇道に逸れてしまっていたが、ここで軌道修正をする。

 そうして、オレは綾地さんと縛りを結んだ経緯を話し出した。

 勿論、綾地さんの名前や代償は伏せた上で。

 

 

-----

 

 

「っていうワケなんだ」

「ふ~ん、そっか。その魔女、同じクラスにいたんだ・・・今まで本当に気が付かなかったの?」

「うん。魔女は、変身していないと普通の人と見分けが付かないからね。まあでも、これまでも教室で様子がおかしくなることがあったから、変だなとは思ってたんだけどさ。昨日、変身した姿のときに偶然出くわして、オレが見えてることに気付かれちゃったから、仕方がないなって」

「そうなんだ・・・ふ~ん」

 

 紬は、柊史が話す事情を聞いていた。

 前々から、教室の中で様子がおかしくなることがあったために変な子だなとは思っていたこと。

 昨日偶然、魔女に変身した姿と遭遇し、一般人には見えないはずの魔女を見えていることに気付かれてしまったこと。

 その子の代償は紬のモノと違って本人にもわからないタイミングで発動し、さらには教室の雰囲気を悪い方向に変えかねないモノなので、正体がバレてしまった以上は縛りを結んだ方がお互いのためにもよさそうだったこと。  

 前からその子の様子が変なときにはこっそり肩代わりしていたらしいことも。

 

(その子の代償について聞いたときの保科君、目が泳いでたな・・・なんか怪しい)

 

 女の勘と言うべきか。

 クラスの雰囲気を悪くしてしまうような代償とは何なのか聞いたとき、柊史は挙動不審になってなんとか誤魔化そうとしていたのだが、その姿に紬の中の何かが『ワタシにとって大事なことを隠してる!!』と警鐘を挙げたのだ。

 結局、『その子にも、その子のアルプにも椎葉さんのことは言ってないから代償について聞くのは勘弁してください』と頭を下げられたので引き下がったが。

 どうやら、よほどその魔女の代償について話したくないらしい。

 

(あんなに一生懸命に庇うだなんて、どんな代償なんだろう?)

 

 紬自身も、柊史に代償を肩代わりしてもらって、大好きな趣味を楽しませてもらっている身だ。

 柊史の優しい性格ならその魔女の代償も肩代わりするのが自然だと思うし、そんな柊史だからこそ今の紬との関係が続いているわけで、その優しさを好ましいとも感じる。

 それで、苦しんでいる魔女が一時でも救われるというのなら、それはとてもいいことだとすら思う。

 だが。

 

(なのに・・・何でだろう?なんか、モヤモヤする)

 

 だと言うのに、柊史がその魔女を庇う様子があまりにも必死で、それがなんとなく気に入らなかった。

 椎葉紬というこのご時世の中で信じられないくらい純真な心を持つ少女にとって、それは初めてのことだったのだ。

 誰かが救われたというのに、それを素直に喜べないときなど。

 

「・・・その子とは、どんな縛りを結んだの?ワタシと同じ?なんか、変な条件はつけてないよね?」

 

 無性に、その魔女のことが気になった。

 自分と同じように契約をしたのなら、お互いが等価交換になるようにするはず。

 ならば、柊史が差し出すモノは代償の肩代わりとして、代わりにその魔女は柊史に何を渡すのだろう。

 柊史が受け取っているモノの中身が、知りたくて知りたくてしょうがなかった。

 

「細かいところは違うけど、基本は同じだよ。オレが代償を肩代わりするから、代わりにオレに感謝してほしいってヤツ」

「ワタシと同じ・・・」

 

 そう答える柊史に、さっきのように後ろめたい何かを隠す様子はない。

 言葉通り、紬と同じように感謝をしてもらうだけなのはその通りなのだろう。

 一瞬、紬が想定していた最悪のケースではなさそうなことに安堵したが、それでもモヤモヤは晴れなかった。

 もう一つ、気になることができたのだ。

 

「その子は・・・その子『も』、保科君にしっかり感謝してくれてるの?」

 

 柊史の術式の都合上、肩代わりをしても十分なプラスの感情がもらえなければ、柊史だけがかなりの負担を強いられることになる。

 逆に言うと、柊史がその魔女と契約したことを失敗だと思っていないように見えるということは・・・

 

「うん。昨日縛りを結んだばっかりなんだけど、すごい質のいい感謝をしてくれてて、オレもびっくりしたよ。まあ、代償がアレじゃあ、そうなるのも理解はできるけど」

 

 遠い眼をしている柊史。

 最後の方の独り言はその魔女の代償についてのモノのようだったが、そんなことはどうでもよくなっていた。

 紬が気になるのは、ただ一つ。

 

「へぇ、それって・・・ワタシと同じくらい?」

「う~ん、そうだな・・・うん。同じくらいかな。椎葉さんも綾地さんも、どっちも甲乙付けがたいってくらいオレに感謝してくれてる。オレなんかには勿体ないくらいだよ、ホント」

「・・・ふぅん。そうなんだ」

(ワタシと同じくらい、か・・・それに、『綾地』って言うんだ、その子)

 

 柊史はうっかり零したことに気付いていないようだが、紬はその名字を忘れないように脳裏に刻んだ。

 自分と『同じくらいの』感謝を柊史に捧げる女の子がいるという事実とともに。

 

「・・・ねぇ、保科君。ワタシは、保科君にとって『理想の契約者』なんだよね?ワタシは、保科君にもらってるモノをちゃんと返せてるよね?」

「え?ああ、うん。それは間違いないよ。椎葉さんのプラスの感情は、すごい美味しいから。これを味わうためなら、オレは毎日だって通えるね」

「そっか・・・うん。ならよかった」

 

 事実を認識した途端、衝動的に紬の奥底から湧き上がってきた、その問い。

 柊史の言葉は、紬が期待していた答えであった。

 柊史が自分の言葉を肯定したことで、紬は再び安心を得るとともに、自尊心が満たされていくのを自覚する。

 だが、心のどこかで、ひりつく焦りのような何かを感じてもいた。

 柊史の様子が変わらないから、それはきっと微々たるモノなのだろうけども。

 

(綾地って子のことを、ワタシは知らない。でも・・・保科君の理想の契約者は、ワタシだから)

 

 他ならぬ柊史が肯定したのだから、それ以上の答えはない。

 それでも、胸の中の何かが消えることはなかった。

 椎葉紬は、無意識に確信しつつあったのだ。

 己の中に芽生えようとしている、あるいはもう目覚めているかもしれない気持ち。

 それと同じモノを抱く女の子が現われるであろうことに。

 今はまだ、そこに自覚はない。 

 柊史が零した『綾地』という女の子のことだって知ってることはほとんどない。

 しかし、自分が保科柊史に捧げている感情の重さは、他ならぬ己のことだからこそ知っているのだ。

 それと『同じくらい』というのがどれほどの意味を持つのかも。

 

「保科君。保科君はさっき、『椎葉さんに捨てられるならともかく、オレが椎葉さんを見放すなんてありえない』って言ってたよね?」

「うん、言ったけど・・・あれは間違いなくオレの本心だよ。オレは、絶対に椎葉さんを見捨てるようなことなんてしない・・・でも、それがどうしたの?」

「ワタシも言っておこうと思って。あのね、保科君。ワタシも・・・」

 

 だから。

 

「ワタシも、保科君を見放すようなことなんて、絶対に・・・何があってもあり得ないから。絶対に、忘れないでね?」

「う、うん・・・」

 

 まるで『誰か』に対抗するかのように、紬はそう言い放つのであった。

 

 

-----

 

 

おまけ

 

 椎葉さんが知らない綾地さんのこと。

 

 ① 超絶美少女

 ② 代償が発情。無論、保科君が肩代わりしていたのもコレ。

 ③ 存在そのものがハニートラップ

 




ちなみに、保科君が言及している2体の特級呪霊は両方とも呪術廻戦ではない他作品ネタです。
ただし、それぞれ違う原作に登場するキャラを元にしてます。
まあ、そいつらを出す機会なんて本作でも夏油と殺し合いにでもならなければないと思いますが。

あと、またPixivの方もブクマとかいいね押してくれると励みになります!!

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24586396

この作品をご存じでしょうか?①ダークギャザリング、②死印、③東方Project

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