女の子が苦しんでいるのを肩代わりしてしまう少年の話 作:二本角
しかし、ミスティ様@ 減産中様にまた前話の椎葉さんのイラストを描いていただきました!!細かいところも見てくれて素晴らしいイラストですので、ぜひご覧になってください!!
https://www.pixiv.net/artworks/136102816
「それじゃあ、ちょっと出かけてくるよ、父さん」
「こんな時間にでかけるのか?」
いろいろ衝撃的だった椎葉さんとの一時を終えて、家に帰った後。
今の時刻は夜の9時前。
オレは家を出る前に父さんに声をかけた。
父さんはこの時間でも帰ってきていないことはちょくちょくあるが、今日は少し前に家に戻っていたのだ。
既にあらかたの家事は済ませており、父さんにやってもらいたいこともないが、この時間に出かけるのだから一声かける必要はあるだろう。
そんなことを思いながら靴を履いていると、父さんが不思議そうな顔で近づいてきた。
・・・表情には出ていないが、わずかだけどオレを心配するような感情が滲んでいる。
「言っておくけど、全然危ないこととかじゃないからね?オレのチカラに関係してることではあるけど」
「そうなのか?・・・ん?いや、もしかして、お前が前に言ってたプラスの感情をくれる子に関係があるのか?」
「うん。まあそんなとこ」
「ほう?ほうほう?こんな時間にお前のことを慕ってくれる女の子に会いに行くのか?ほう?」
「・・・・・」
オレがそう言うと、父さんは心配から一転してニヤつきながらからかってくる。
(父さんがオレのことをすごく大事に思ってくれてるのはよくわかってるけど、こういうときはウザいな・・・)
オレの父親である保科太一。
父さんは、息子のオレから見てもかなり人間ができていると思う。
普段はおちゃらけた所が目立つが、それでもいつもオレのことを心から心配してくれているし、オレに向ける愛情も本物だということを、オレより理解できる人間はいない。
--柊史から離れろ!!
オレが呪術師になった日。
オレが昏倒した原因が先生だと知って、先生に向かって殴りかかった父さんは、心の底から怒っていた。
同時に、本気でオレのことを心配していた。
あのときのオレは小学生だったが、今に至ってもあれほどの怒りと心配の感情は味わったことがない。
それは、それほどまでにオレのことを大事に想っていてくれたということの証明だ。
だから、オレは父さんを心配させないように『なるべく』呪術や魔法の関係でオレがやっていることを教えるようにしていて、それで最近、『プラスの感情をもらう代わりに魔女の代償を肩代わりする縛りを結んだ』ことも伝えたのだが・・・
「いや、最近の柊史はいい顔をするようになったと思っていたが、まさか春が来るとはなぁ・・・父さん、嬉しいぞ!」
「そんなんじゃないって・・・」
当初は代償の肩代わりのことを不安に思っていたが、いつからか、オレにプラスの感情をくれる女の子ができたことを喜ぶようになった。
『死んだ魚みたいな目をしていたのがだいぶ目が生き返ってきた』とか言っていたが、自分ではよくわからない。
ただ、最近ことあるごとに『柊史もそういう年頃か・・・』としみじみしたり、生暖かい目で見てくるのはマジで止めて欲しいと思っている。
「今から行くのは、魔女と契約しているアルプの方だよ。その人、喫茶店をやってるんだけど、なるべく他の人の目がない方がいいんだ」
「・・・アルプって、人間になりたがってる動物のことだったよな?動物が、喫茶店?・・・大丈夫なのか?その、経営とか食品衛生法とかいろいろ」
「オレもまだ一回しか会ったことないけど、すごいちゃんとした大人だったよ。っていうか、普段人間の姿になってるみたいだから、その辺は大丈夫なんじゃない?」
父さんは先生から魔女やアルプ、呪術師のことを聞いているから、そういう存在が実在するのは知っている。
しかし、会ったことはないからか訝しげな顔をしていた。
・・・実を言うと、オレもアルプに会ったのはアカギが初めてで、相馬さんと話したときはその品の良さに驚いたものだ。
(でも、考えてみれば猫が喫茶店をやってるって、どうなんだろう?相馬さんはほとんど人間の姿のままらしいけど、うっかり元に戻ったら毛とか入ったりしそう・・・いや、やめよう。これ以上考えるのは)
相馬さんと話している時に『そういえば、相馬さんって料理してるときに体毛とか入ったりしないんですか?』なんてうっかり聞いてしまったら、さすがの相馬さんでも契約を打ち切られるかもしれない。
「っと、そろそろシュヴァルツ・カッツェが閉まる時間か。ごめん、もう行くよ。そんなに長くはかからないと思うから」
オレが行こうと思っているのは、他のお客さんがいないであろう閉店時間ギリギリ。
あまりここで話していると、移動に虹龍を使わなくてはならなくなる。
椎葉さんや綾地さんに会えるのならともかく、そうでないなら口直しができないので呪霊はあまり呼びたくないのだ。
「わかった・・・気をつけてな」
「うん」
オレが背を向けると、父さんは一声かけてきた。
その声は明るかったが、やはり、不安の感情が混ざっている。
オレは少々の罪悪感を覚えながら返事をして、家を出るのだった。
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(父さん、やっぱり心配してたな)
夜の街を歩きながら、オレはさきほどの父さんの様子を思い出していた。
努めて明るく振る舞っているようで、オレのことをいつもどこかで心配してくれている。
それが上辺だけのものでないことはオレの術式が証明してくれているが、オレとしてはそれが嬉しくもあり申し訳なくもあった。
(オレは、なるべく父さんには本当のことを話しているけど、それでも話せないこともあるしな)
父さんは、先生のおかげでオレの術式のことや魔法の存在を知っている。
オレが先生の手伝いで術式を活かしたバイトをしていることや、先生に訓練を付けてもらっていること、他の魔女と出会ったこともオレから伝えた。
だが、なんでもかんでも教えているワケではない。
当然、言えないことだってある。
オレが肩代わりしてる魔女の代償については、『本人の許可が取れていないから』ということで内容は言っていないし、一時は先生と四肢欠損や内臓破裂上等な過酷過ぎるトレーニングをしていたことなど口が裂けても言えない。
先生が邪悪なアルプや魔女を殺したことがあることも・・・それになにより。
(昔、オレがやらかしたことを)
父さんがオレを心配していたのは、『一度は立ち直ったハズのオレが』もう一度ナイーブになったのが大きいと思っている。
それは昔調子に乗っていたオレが、とあるとんでもないやらかしをしたからだが・・・オレはそのことを誰にも言えていない。
父さんどころか、先生でさえも。
(あの頃のオレは、本当にイキってたな・・・)
先生と出会ってから、オレは自分がだいぶ明るくなった、というより自信が付いた自覚がある。
出会いが出会いであるために、父さんは先生のことをあまりよく思っていないが、それでもオレと先生が関わることを止めないのは、オレが術式に振り回されないように鍛える必要があったのもあるが、先生といることでオレがいい方向に変わったからだ。
確かに先生との訓練は血反吐を吐くほどに辛いが、それでも非日常の世界に触れるのはワクワクするものがあった。
周りの人間が持っていない、オレだけの『特別なチカラ』。
そのチカラを鍛え、メキメキと自分がレベルアップしていく感覚。
今でも心から尊敬できる先生に『柊史、キミには途轍もない才能がある!!ああ、前にいた場所でキミに会えていれば・・・』と手放しで称賛される経験。
そのすべてが、オレにとって黄金のように輝いていた。
オレの術式は歴とした『呪い』であるが、オレからすれば術式に目覚める前に持っていた、オレに苦しみを与えるためだけに存在していたかのようなチカラこそが本物の呪いであり、術式は『祝福』だったのだ。
そのおかげで・・・いや、そのせいと言うべきか、オレは一時かなり自信過剰だったのである。
その自信がいかに醜悪なモノなのかをまざまざと見せつけられるまでは。
(・・・・・)
あのとき以降、オレはまたかつてのようにひっそりと目立たないように、周りから悪感情を抱かれないように、他人と関わり過ぎることがないように振る舞うようになった。
その変わりようを父さんはひどく心配していたが、オレは何も言えなくて、それで、さっきのようにことあるごとに父さんはオレのことを気にかけてくれるようになったのだ。
経緯が経緯だから、オレとしては申し訳なさしか感じないけど。
(椎葉さんや綾地さんと会う前に痛い目を見れたことは、不幸中の幸いかもな)
あのやらかしで良かったことと言えば、それで早くに自分の身の程を知れたことだろう。
特別なチカラを持っていようと、オレは堂々と表舞台を胸を張って歩けるような主役なのではなく、隅のほうで目立たないようにしている脇役なのだと。
もしもかつてのオレが椎葉さんや綾地さんと出会っていても、決して今のような良い関係は築けていないに違いない。
・・・そう考えでもしなければ、やっていられない気分だった。
「・・・あ、もうこんなとこまで来てたのか」
鬱々と1人で考え事をしながら歩いていると、見覚えのある店が見えるところまで来ていたようだ。
「よし、じゃあもう一度相馬さんに連絡してから行くか」
オレはスマホを取り出し、『お店の前まで来ました』とメッセージを送るのだった。
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「すみません、こんな遅くに。どうしても、相談したいことがあって」
「いや、構わないよ。概要はもうメールで教えてもらっている・・・確かに、この時間に来るのが一番手っ取り早い」
『CLOSED』の看板がかかったシュヴァルツ・カッツェの中で、オレと相馬さんはテーブルを挟んで向かい合って座っていた。
どうしてオレがこんな時間に来たのかは、相馬さんに事前にメールで伝えており、相馬さんも了承してくれたのだが、オレは一言謝った。
喫茶店の業務は知らないが、閉店直後となれば色々やることがあるだろうに。
「しかし、寧々も保科君の事情はわかっているだろうに、どうしてこの店のバイトを紹介したのやら」
オレがこの時間に来た理由は、綾地さんが仮屋にこの店のアルバイトを紹介したからだ。
オレは縛りもあって相馬さんに綾地さんの代償を肩代わりした分の感情を渡す必要があるのだが、それにはどうしても手を繋ぐくらい近づかなければいけない。
見た目妙齢の美人である相馬さんとそれなりの時間手を繋いでいるところを、こちらの事情を話すワケにはいかない仮屋に見られるのは、一度や二度ならともかく毎回は少々問題がある。
仮屋のシフトを避けて来るようにすればいいが、何度も続けていれば不自然だし、仮屋も気を悪くするかもしれない。
「一応聞いておくが・・・保科君はその仮屋さんがここでバイトすることは別に構わないんだね?」
「はい。オレの事情で仮屋を落すのは、さすがにちょっと・・・」
「ふむ・・・まあ、私としては人手が欲しかったのは事実だし、寧々と保科君の友達だというのなら信頼できる子なのは間違いなさそうだからありがたい。キミには余計な手間を取らせてしまうことになって申し訳ないが」
「いえいえ、こちらこそ!!」
そもそも相馬さんが仮屋を不採用にすればいいじゃないか・・・というのはあまりに酷だろう。
綾地さんが紹介するのだから、相馬さんも断りにくいだろうし、仮屋は別に何も悪くないのだ。
綾地さんだって、仮屋がバイトを探しているのを知って放っておけなかった結果だというのなら、それは仕方がないことだ。
オレの事情で綾地さんと仮屋が決めたことを無碍にするというのは、心苦しい。
綾地さんがここを紹介したのが、相馬さんが人手を欲しがっていたのもあるのなら、尚更だ。
ならばどうする?と考えて思いついたのが、バイトも帰る閉店後に来ることというワケだ。
「しかし、本当に保科君はいいのかい?あまり夜遅くになるとご両親も心配するだろう?」
「ああ、大丈夫ですよ。父さんはオレが呪術師なのを知ってますから。オレをどうにかするなら一個師団でも足りません」
「そ、そうなのかい・・・?いやまあ、親ならばキミが特殊なチカラを持っていることには気付いているか。しかし、キミはとてもいい親御さんに恵まれたんだね」
「はい・・・自慢の父です」
相馬さんは、オレが危ないことに巻き込まれないか親が心配するのでは?という意味で聞いたのだろうが、その点については父さんも心配していないだろう。
オレを倒すには、本当に一国の軍隊を連れてきて足りるか?といったところであるし。
父さんが不安に思っているのは、オレの内面のことだが、それを相馬さんに言う必要はない。
しかし、相馬さんの言うとおり、オレは本当にいい親に恵まれたと思う。
オレのチカラが術式になる前から、『周囲と違う』ということはそれだけで周りから排斥される理由になるとよく知っているから。
オレが呪術師だと知っても本気でオレを愛してくれる父さんがどれほどありがたいか。
オレがその立場だったら同じことができるか正直わからない。
「父?・・・その、不躾な質問だが、保科君のご両親は・・・」
「母は、オレが小さい頃になくなりました。ほとんど覚えてないですね」
「そうか・・・すまない」
「いえ。本当に、オレは母さんのことをよく覚えてないので・・・」
オレが父さんのことしか言わなかったせいか、相馬さんに余計な気遣いをさせてしまった。
この手のやり取りはよくあるから、もうオレも慣れたものなのだが、向こうからしたら気まずいだろう。
よし、ここは違う話を振るとしよう。
「母のことと言えば、オレの母は魔女だったんです。相馬さんは知っていますか?」
「そういえば、前に来たときにそう言っていたね・・・ふむ、保科君の母君の名前を聞いてもいいかい?」
「唯です。保科唯・・・あ、でも父さんと結婚する前の名字は、なんだったかな・・・」
「う~ん、唯か。申し訳ないが聞いたことがないな」
「そうですか・・・」
母繋がり、魔女としての母さんを知らないか聞いてみたが、相馬さんも心当たりはないようだった。
まあ、父さんと母さんがこの街で出会ったのかどうかもオレは知らないし、相馬さんが知らなくても無理はない。
オレもどうしても知りたいというワケではない。
それに、ここに来た目的も果たしていないし、そろそろ始めた方がいいだろう。
「あの、あまりお仕事の邪魔をしても悪いですし、感情の受け渡しをしても大丈夫ですか?」
「ああ。こっちも、いつまでも保科君を縛り付けるのもどうかと思っていた。お願いするよ」
「わかりました」
オレは、相馬さんが差し出してきた手を握る。
椎葉さんと同じ、人間の女性の柔らかい手だった。
(・・・相馬さん、見た目は本当に美人だからな・・・なんか緊張するけど、やるか)
そして、オレは意識を集中して。
「術式反転」
「っ!!」
オレが術式反転を発動させると、相馬さんの顔に驚きが浮かぶ。
「う~む、前にも味わったが、不思議な感覚だ。寧々の代償で流れてくる感情とは違う」
「アカギもなんか驚いてたんですが、そんなに違うんですか?」
「ああ。寧々の代償のときに流れ込んでくるのは、熱いというか身体がかゆくなる感じというか、どちらかと言えばあまり味わいたいものじゃない。だが、今保科君から送ってもらっている感情は・・・うん。温かくて、とても落ち着くよ」
椎葉さんにせよ綾地さんにせよ、アルプに感情が流れるのは2人が代償を支払っているとき。
すなわち、椎葉さんならば吐き気を堪える苦しみであり、綾地さんなら発情である。
その100%がアルプに伝わっているのかはわからないが、どっちもあまり受け取りたいとは思えない。
一方で、オレが今流しているのは椎葉さんからもらったプラスの感情を元に生成したエネルギーだ。
そのおかげなのか、相馬さんはなんだかリラックスした様子だった。
「・・・・・」
「・・・・・」
そのまましばらく、オレは感情を流すのに集中し、綾地さんから昨日肩代わりした分を返し終えた頃、術式反転を止めた。
「ふぅ、こんなもんですかね」
「ああ、ありがとう」
術式反転は、集中力をかなり使う。
オレは一息ついて、椅子の背もたれに身体を預けた。
「保科君?どうかしたのかい?疲れているように見えるが・・・」
「ああ、大丈夫です。確かにちょっと疲れてますけど慣れてるので。先生との訓練のときに反転切らしたら腕か足がなくなりますし」
「そ、そうかい」
相馬さんは少し引きつった顔をしているが、事実である。
特級呪具『游雲』を装備した先生と、先生の術式反転『呪霊躁術』でランクアップした一級と特級呪霊の群れを相手取っているとき、一瞬でも気が抜ければその時点で身体の一部がなくなっているのはよくあったことだ。
しかし、先生はオレと戦っているときは喜色満面であり、プラスの感情を奪うのは簡単だったので反転術式の発動には困らなかった。
オレの心喰呪法は呪力のコントロールが完璧な呪術師の感情を読むことはできないが、それはあくまでデフォルトでの話。
オレの制御次第、もしくは初めて先生に会ったときのように『極度の飢餓状態』になった場合にはきちんと呪力のコントロールができている相手であっても感情や呪力を能動的に『喰らう』ことができる。
呪力で構成されている呪霊にとっては致命的なため、先生の呪霊相手には使えないが、先生自身は別。
呪力でガードしてもそのガードそのものを吸収できるため、先生の持つプラスの感情を喰いまくることができたのである。
(先生が反転術式を使ってるときなら、めちゃくちゃプラスの感情を奪えるんだよな。オレが術式反転の練習するときにも先生が協力してくれたからできたんだし)
椎葉さんの前で心の欠片を作ったことがあったが、あれはこれまでにも何度もやったことがあるからすんなりできたのだ。
プラスのエネルギーを心の欠片という形でストックするなら、反転術式が使える術師に協力してもらえるのが一番効率がいいのである。
(まあ、最近先生がどこに行ってるのか知らないけど・・・本当にどこにいるんだろう、先生)
「保科君がそう言うのなら大丈夫なのだろうが・・・そうだな。もしも時間が許すなら、コーヒーを飲んでいくかい?ここは喫茶店だからね」
「え?でも、悪いですよ。もう閉店してますよね?」
「閉店したばかりで片付けもまだだから、コーヒーを淹れても手間は変わらないさ。これは、私からのお礼だよ。お代もいらない。前もそうだったが、キミから感情を受け取ると、より人間に近づけたような気がするんだ」
相馬さんの言葉に嘘はないが、今はどこかテンションが上がっているように見える
人間に近づけたのが本当かはわからないが、相馬さん的にいいことだったのは間違いないようだ。
・・・今の相馬さんの提案を断るのも、かえって水を差すようで悪いかもしれない。
(それに、せっかくだから相談したいこともあるしな)
「わかりました。いただきます。それと、オレからも相談したいことがまだあって・・・実は、バイトに来る仮屋のことなんですけど、ちょっと作り話を考える必要があって」
「わかった、話を聞こう。コーヒーを淹れてくるから少し待っていてくれ」
そうして、オレはしばらくコーヒーを飲みながら相馬さんに相談に乗ってもらうのだった。
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「なるほど、それならそんなに不自然じゃないかも」
「保科君は夏油氏のやっている『仕事』について詳しく話すつもりはないんだろう?しかも、プラスの感情を得られるのは一回か二回が限度というなら、多少粗があっても誤魔化せるさ」
相馬さんに相談してみた結果、かなりいい案を考えてもらった。
やはり、客商売をやっているだけあって、オレが思いつかなかった視点を持っていた。
「相馬さんに相談してよかったです。ありがとうございました」
「いや、気にしないでくれ。さっきも言ったがこれは私からのお礼だからね。お役に立てたのなら何よりだよ。さて、そろそろだいぶ遅くなってきたが、最後に私からも一つ聞いてもいいだろうか?」
「はい?なんでしょうか?」
そんなに長時間話していたワケではなかったが、もともと遅めの時間に来ていたこともあって時刻は10時を過ぎている。
さすがにもう帰らなくてはいけないが、相馬さんは真剣な顔でオレに向き直った。
「さきほど言った夏油氏の仕事の件繋がりで、話せなければ話さなくてもいいんだが・・・保科君。キミは、夏油氏の目的を知っているのかい?」
「目的、ですか?」
「ああ。夏油氏は、邪悪なアルプや魔女を退治したことが何度もあるようだが、どうしてそんなことをしているのかと思ってね。他にも、噂ではかなり羽振りのいい人間たちの悩み相談にも乗っていると聞いてもいる。それは、なんのためなんだい?」
相馬さんからは、真剣さと、恐怖の感情が伝わってくる。
(先生がアルプにいい感情を持っていないのは知っているけど・・・相馬さんと会ったときに一体なにをしたんだ・・・まあ、ここは正直に答えていいか)
オレにお礼がしたいという気持ちは本当だったが、話を持ちかけてきたのはこのことを聞きたかったのもあるのかもしれない。
だが、オレとしても相馬さんにはお礼をしたいと思っていたところだし、何より別に隠すほどのことではないから答えても別に構わないだろう。
「目的については、とくにありませんよ。というより、術式の運用を錆びさせないのが目的です。そのお偉い人たちも、元魔女とかその知り合いで魔法のことを知っているから術式のことを隠さなくてもいいので楽なんだそうです。先生が言ってましたけど、暇つぶしだって」
「ひ、暇つぶし・・?あれが、か」
(・・・先生、本当に相馬さんに何をしたんだ?)
相馬さんが頬をひくつかせながら遠い目をしていた。
恐怖や嫌悪の感情が伝わってくるが、本当に先生は相馬さんに何を見せたのだろう。
「保科君、キミは知って・・・いや、なんでもない」
「は、はあ・・・」
相馬さんは何かを言いかけたが、結局何も言わなかった。
「あとは・・・探し物もありますね」
「探し物?」
先生は邪悪なアルプを狩るうちに元魔女のキャリア組と繋がりを得たそうだが、その人脈を使って情報を集めていたこともある。
今はもうそこまでではないようだが・・・
「先生は、オレみたいな呪術師を探しているんです。それで、偉い人と繋がりを持ったって聞いたことがあります。まあ、結局オレしか見つからなかったみたいだから今はたまにしかやってないみたいですけど」
--私の最近の楽しみはね、柊史。キミの成長を見ることなんだよ。なにせ、私の唯一の教え子にして同類だからね。
前に、先生からそんなことを言ってもらえたことがある。
あれは先生の本心だったろうが、他の呪術師が見つからないこともあったからじゃないかと思っている。
探しても見つからないものに労力を割くよりも、見つかったオレに注力した方がいいという考え方だ。
「呪術師を探す?それは、なんのために?」
「・・・そこには、大それた理由はないと思いますよ」
未だに不安そうな相馬さんだが、オレは先生が呪術師を探す理由は一つだけだと思っている。
これは、先生に見つけてもらえたオレだからこそわかるのだが・・・
「先生は、きっと寂しいんだと思います。だから、同類を探している・・・オレも、その気持ちはよくわかりますから」
椎葉さんや綾地さんは魔女。
相馬さんはアルプだし、父さんは特別なチカラは使えないが魔法や呪術のことは知っている。
この人たちの前で、オレは自分が呪術師であることを隠す必要はない。
そういう意味では、彼らと過ごすのは気楽だ。
だが、彼らは異能のチカラを使える、あるいは知っていても、オレとまったく『同じ』ではない。
オレと本当の意味で同類と言えるのは、先生ただ1人だけ。
そしてそれは、先生から見ても同じ。
だから、オレに出会う前の先生は呪術師を探すことに力を入れていていたのだと思う。
「・・・そうか」
オレがそう言うと、相馬さんは小さく呟いた。
まだ恐怖や不安の感情は伝わってくるが、さっきよりは薄らいだような気がする。
「あ、そうだ」
「?どうしたんだい?」
「いえ、もう一つ先生が集めてるモノがあって」
先生が力を入れていたのは呪術師の捜索だが、それ以外にもついでに集めているモノがあった。
少ししんみりした後に言うのもなんだが、先生が探しているのは呪術師だけではない。
これは呪術師探しと違ってそこそこ成果も出ているのだけど。
「先生は、呪霊も集めているんです。先生の術式は呪霊を操る術式ですから、手数は多ければ多いほどいい。呪霊を集めるのはもう習慣みたいになってるって言ってました」
「呪霊・・・人間の負の感情が具現化した存在だったか。確か、ほとんど最下級のモノしかいないんじゃなかったかな?」
「はい。呪霊は最下級の蠅頭から四級、三級、準二級、二級、準一級、一級、特級の順に強くなりますけど、いるのはほとんど蠅頭です。蠅頭は人を呪える力もないですね。先生も蠅頭をいちいち集めるようなことはしてないです」
「・・・そうなると、それより上の呪霊も近くにいたりするのかい?」
「たまにですけどね。オレも三級より上がうろついているのは見たことがないですし、その三級も一回だけ。だから、集めているのはほとんど四級ですね」
様々な人脈を使って、先生は『幽霊に悩まされている人』の情報も探している。
ほとんどは精神的な病気や狂言だったりするが、たまに『本物』がいることもある。
そうして見つけた呪霊を、先生は集めているようなのだ。
とは言っても、先生が本格的に情報を集め出したのはオレを見つけてからだそうなのだが。
--呪霊操術で支配した呪霊は、成長が止まる。
--だが私の『呪霊『躁』術』は、私が支配した特級より下の呪霊に限り、その呪霊を一度解き放つことでその階級を最低でも二ランクは上げることができる。
--呪霊躁術を使えるのは、呪霊一体につき一度だけ。そして、当然調伏はやり直しだ。力が強まり、暴走状態にある呪霊ともう一度戦う必要がある。
--しかしこれを使えば、三級以下の呪霊に術式を持たせることも、もともと持っていた術式をさらに成長させることが可能だ。
先生の術式反転である呪霊躁術は、呪霊を暴走状態にする代わりに成長させる術式だ。
そして、最低でも二ランクアップのため、土台となる呪霊の階級は高いほどいい。
蠅頭が成長して三級になってもうま味は少ないが、三級呪霊を成長させれば確実に術式を持った準一級以上になる。
だから、先生はオレとの訓練に彩りを添えるために、新たな術式持ちの呪霊を作るべく蠅頭より上の呪霊を集めているようなのだ。
「その四級呪霊というのは、どれくらい強いんだい?」
「物理攻撃が通じるのなら、バットで余裕なくらいですね。そんなに大したことはできません。そうですね、せいぜい・・・」
まあ、四級呪霊は一つの街に一体いるかどうかといったところなので、出会うことはほぼないだろうけど・・・
オレは、不安そうにしている相馬さんに、少し考え込んでから答えた。
「うん。せいぜいが、悪夢を見せるくらいだと思いますよ」
この作品をご存じでしょうか?①ダークギャザリング、②死印、③東方Project
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