女の子が苦しんでいるのを肩代わりしてしまう少年の話 作:二本角
そして、更新が遅れてしまっており申し訳ありません。
今回のお話は私も書いていて気分が沈んでしまい、中々筆が進まず・・・次からはもう少し早くお出しできると思います。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
「ん・・・?」
ゲーム機や漫画の収まった本棚、古いゲームのポスターが貼られた自室で、因幡めぐるは目を覚ました。
「ふわぁ・・・顔、洗わなきゃ」
目が覚めたばかりでぼんやりとした思考のまま、めぐるはベッドの上で『う~ん』と、伸びをしてから部屋を出た。
そのまま顔を洗い、髪を整え、校則違反にならない程度かつお洒落に見えるくらいという絶妙な塩梅で制服を着崩してから、朝食を食べる。
「~~~♪」
そうして、家族に『行ってきます!』と声をかけてから、めぐるは元気よく家を出た。
家族への挨拶もそうだが、知らず知らずのうちに奏でる鼻唄からも、めぐるが内に秘める快活なエネルギーがあふれ出ているようだった。
その姿は、少し前までのめぐるからは想像もできないモノだっただろう。
「~~~♪♪」
今でこそ花の女子高生と言わんばかりにエネルギッシュなめぐるであるが、ほんの少し前まではいつもいつも気分が重く、気楽でいられるのは自室でゲームをするときくらいだった。
学院に行っても1人で愛想笑いをしながら時が過ぎるのを待つしかなかった。
友達と一緒に帰ったり、部活の話をするクラスメイトたちを見ながら、どうにもならない焦りを抱えて独りぼっちで帰る家路は虚しかったことはよく覚えている。
「・・・センパイ」
そんなどん詰まりの状況が、たった1人と出会ってから変わった。
昼休みに人気のない特別棟の空き教室で、自分と同じように1人でゲームをしていた柊史と会ったその日から。
自慢にもならないと思っていたゲームの腕を見いだされ、自らを道化役に貶めてでもめぐるをクラスの輪に入れてくれたのだ。
おかげで、クラスの中に居場所ができた。
まだまだ目標である『人気者』には遠いかもしれないが、それまでから確かな一歩を踏み出すことができた。
中学を卒業してからずっとくすぶり続けていた胸の内の焦りも、少しずつ弱くなっているように思える。
本人に言えば『そんなことないって。因幡さんの実力だよ』と返されるだろうが、それもこれも、すべて柊史のおかげだとめぐるは思っている。
表だって言うのは恥ずかしいから普段は割と辛辣な物言いをしてしまうときもあるが、めぐるは柊史に感謝をしているのだ。
・・・時折、半ば無意識に呟いてしまうくらいには。
ともかく、最近のめぐるは朝起きて一日が始まり、学院に行くのが楽しみになっていたのだ。
「あ、もう学院に着いてたんだ」
何もせずともどこからか湧き上がってくる楽しさに浮かれているうちに、気が付けば学院に到着していたようだ。
いつの間にか、めぐるは自分のクラスのドアの前に立っていた。
「まあ、いっか。よし!」
『いくらちょっと成績に自信のない自分でも、ここまで歩いてきた記憶すら曖昧なのはさすがにどうなんだ』と思いつつ、めぐるはドアを開けようとして。
「・・・あれ?」
手が、動かなかった。
「え?なんで?」
ドアに鍵がかかっているワケではない。
教室のドアは引き戸で、少し手をかけただけで鍵がかかっているかどうかくらいわかる。
そもそも、この朝の時間帯に鍵がかかっているハズがない。
動かないのはドアではなく、あくまでめぐるの手だ。
「どうして・・・」
一体全体、いかなる理由で自分の身体が動かないのか。
突然起きた異常事態に、めぐるの頭の中が混乱で一杯になる・・・その最中だった。
--自分は、何かを忘れている
「・・・え?」
不意に、自分の中から声が聞こえてきたような気がした。
「めぐるが、何かを忘れてる・・・?」
--思い出して。ナニカがおかしい。自分は今日そんなご機嫌でここまで来れるような気分だった?
「・・・・・」
めぐるは、どうして自分の手が動かないのか、その理由がわかった。
違和感だ。
「何か・・・何かがおかしい」
めぐるは、朝起きてからハイテンションに、ご機嫌な気分で登校してきた。
だが、自分は昨日、さっきまでのような浮かれた気分になれるような心持ちだったろうか?
「昨日・・・そう、昨日、何があったんだっけ・・・?」
思い出せない。
昨日、自分に何かがあったはずなのだ。
それも、致命的と言えるような何かが。
だが、今はそれを思い出せないでいる。
その思い出せないもどかしさと、今の不自然なほどの愉快な心境が生み出す猛烈な違和感が、めぐるに警鐘を鳴らしていた。
しかし。
--・・・・・
「まあ、いっか」
一瞬、肩が重くなったような気がしたが、それは本当にわずかな間だった。
だが、その『ナニカが肩に乗っているような感覚』が消えると、さきほどまであった奇妙な違和感は綺麗さっぱり消えていた。
めぐるの心の中を再び根拠のない楽しさが満たし、まるで導かれるように、めぐるは教室のドアを開けた。
「おはよう、みんな!」
以前までならば、めぐるは教室に入るときに声をかけるなんてことはできなかった。
ひっそりと、空気のようにこそこそ自分の席にまで歩いて行くだけだった。
だが、今は違う。
クラスに居場所を持てた今のめぐるならば、返事をしてくれる者が何人かいるのだ。
それは、自分が前に進めていることの証明であり、毎日の密かな楽しみになっていた。
今日も今日とて、期待を込めて声を出しながらドアを開けて・・・
『『『・・・・・』』』
「え?」
めぐるに返ってきたのは、温かな声ではなく、視線のみだった。
--この子、いきなりどうしたんだ?
そんな不審と怪訝な心境が多分に含まれた、まるで異物を見るような視線。
自分たちとは異なる存在との間に『壁』を構築する目に見えない圧力が籠もった空気が瞬く間に立ち上がる。
それは、めぐるにとって実になじみ深いモノだった。
ここまで露骨なことはなかったが、この雰囲気は何度も味わったことがある。
この学院に来る前も、そしてこの学院に来た後にも。
保科柊史に出会う前までは。
「え?え?み、みんな、どうしたの・・・?」
『『『・・・・・』』』
震える声で問い掛けるも、それに応える者はいない。
興味を失ったかのように、近くにいる他のクラスメイトと話したり、スマホをイジり出すばかり。
おかしい。
昨日までは、こんなことにはならなかった。
めぐるが挨拶すれば、返事をしてくれる者がいたのだ。
そう。
「前田さん!!川上君!!」
柊史が最初に結びつけてくれた友人たち。
クラスの中でもとくによく話す2人。
縋るような眼差しで教室を見回して2人を見つけためぐるは、席をかき分けて2人のもとに駆け寄った。
「ね、ねぇ!!なんかクラスのみんなの様子がおかしいんだけど、なんかあった!?なにかあったなら教えて!!お願い!!」
この2人ならば、このクラスで起きている不可解な出来事の答えを教えてくれるに違いない。
そんな信頼をもとに必死な形相で問いかける。
『え、えっと・・・?』
『いや、なんもないけど・・・?』
「え?」
2人から返ってきたのも、他の者と同じだった。
すなわち、不審と疑念の視線。
それを理解した瞬間、めぐるの身体から力が抜けた。
そんなめぐるに追い打ちをかけるように。
『っていうか・・・お前、誰だっけ?』
『か、川上君!!さすがに失礼だよ!ええと、因幡さん、だったよね?』
「っ!!」
もう限界だった。
萎えきっていためぐるの身体のどこに眠っていたのかというくらいの勢いで、めぐるはその場を走り去る。
呼び止める声は、聞こえてこなかった。
-----
(おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい!!)
まだHRが始まる前にも関わらず、人気のない廊下をめぐるはひた走る。
その頭の中は、これまでの人生で経験したことがないほどに乱れきっていた。
「はっ、はっ、はっ・・・!!」
運動に縁のなかった身であるためにすぐに息が切れてへたり込んでしまったが、息が乱れているのは疲れのせいか、それともさきほどから起きている異常事態への恐怖からか。
「おかしい、絶対におかしいよ・・・」
めぐるは混乱のただ中にあったが、それでも思考は回っていた。
否、考えなければ気が狂いそうだったのだ。
「いくらなんでも、前田さんと川上君がめぐるのことを忘れているなんて、あり得ない・・・」
他のクラスメイトはまだ百歩譲って理解はできる。
めぐるは居場所を持てたとはいえ、男子に交じってゲームに興じているからか、一部の女子には反感を買っていた。
そんな女子たちを経由して、めぐるへの悪感情が伝わった可能性はゼロではない。
だが、だとしても前田と川上の態度は意味がわからない。
あの2人とは、なんども一緒にゲームをしていたから、それが理由で嫌われるハズがない。
それ以上に、あの2人のさっきの様子は悪感情を持っている以前に、めぐるのことを忘れているかのようだった。
つい昨日まで、仲良く話せていたというのに。
「そう。そうだよ・・・昨日だって・・・昨日?」
--自分は、何かを忘れている
「・・・・・」
教室に入る前に覚えた違和感。
それが再び、めぐるの中に湧き上がっていた。
「昨日・・・昨日、何があったんだっけ?」
--思い出して!!
--ダメ!!思い出したくない!!
「・・・・・?」
今起きている不可解な事態を探るために、思い出さなくてはならないことがある・・・そんな強迫観念にも似た焦燥感があった。
だが、同時に『思い出したくない』という恐怖も滲んでいる。
自分が忘れてしまっていることは一体何なのか。
そのことに意識を向けようとして。
--ミシっ!!
「痛っ!?」
不意に、肩が痛んだ。
「な、何っ!?」
まるで重いモノがのしかかってきたような圧迫感を覚え、慌てて肩に手をやるも、そこには何もない。
狐につままれたような心持ちで手を離したときには、めぐるの頭の中からさきほどまであった疑念は霧散していた。
教室に入る前とまったく同じように。
「な、何が起きてるの?さっきから・・・あれ?」
ふと、めぐるはあることに気が付いた。
「ここ、特別棟?それに、この教室は・・・」
いつの間にか、周りの風景が変わっていた。
とはいっても、見覚えのある場所だ。
めぐるは、柊史と出会った空き教室の前にいた。
「・・・センパイ」
ふらふらと、誘われるかのようにめぐるは教室のドアに手をかけていた。
--ダメ!!そこだけは入っちゃダメ!!
自分の教室に入る前とは比べものにならないほどけたたましい警告音が頭の中で響く。
だが、めぐるは手を止められなかった。
「前田さんや川上君はああだったけど、でも、センパイなら」
このドアの向こうに、柊史がいるという確信があった。
自分を救ってくれた恩人ならば、この異常事態でも自分の味方になってくれるという希望があった。
そのまま、めぐるはドアを開いて。
『『ん・・・』』
柊史と、見知らぬ女が唇を重ねていた。
「・・・え?」
めぐるの頭の中が瞬時にフリーズする。
・・・それからどのくらい経ったのか、短かったのか長かったのかわからないが、柊史とその女の間に銀色の橋がかかったところで、2人の視線がめぐるを捉えた。
『あ、み、見つかっちゃいました!?ど、どうしましょう、保科君!?』
『大丈夫だよ、綾地さん』
腰のあたりまで伸びた艶やかな銀髪をなびかせながら、慌てたような口調で柊史に話しかける女。
そんな女を安心させるように抱き寄せながら、柊史は女の名前を呼んだ。
その瞬間、めぐるは思い出した。
「綾地、先輩・・・あ、ああ・・!!」
--あんな美人な先輩と、保科先輩が付き合ってるだなんて
--あんな美人が彼女だったら、めぐると一緒にいるよりずっとあの人といるのを選ぶよね?
--センパイ・・・めぐると、めぐるだけと、もっと一緒にいてくれないかなぁ
昨日の放課後、教室で前田と川上の2人と話していたときにやってきた、驚くほど美人な先輩。
その美人な先輩と、柊史が付き合っていると川上が口を滑らせたのだ。
それを聞いてめぐるの心に浮かんできたのは、かつて親友を傷つけてしまったときと変わらない幼稚な独占欲。
そのことを自覚してしまっためぐるは、自分を抑えられずに飛び出してしまった。
・・・一体全体、どうして忘れることができたのだと思えるほどの衝撃的な出来事だった。
二重の意味でショックを受けて固まるめぐる。
そんなめぐるのことなど視界に入っていないように、目の前の2人は会話を続ける。
『オレたちが付き合って、結構経つでしょ?そろそろ、みんなに言ってもいいと思うんだ』
『そ、そうでしょうか?いえ、保科君がそう言うんですから、その通りですよね』
『でしょ?だからさ、因幡さん』
そこで、柊史はめぐるの方に目を向けた。
『センパイ、めぐると会ったときにはもう綾地先輩と付き合ってたの・・・?』と、さらなる衝撃を受けていためぐるに。
そして。
『オレたちが付き合ってるってこと、因幡さんにも広めて欲しいんだ。いいよね?』
「・・・え?」
満面の笑みを浮かべながら、そんなことを口にした。
ただでさえ情報を処理できず固まっていためぐるにとって、その言葉の意味を咀嚼することは困難だった。
だが。
(・・・それは、イヤ)
心の中で、チクリと針を刺すような痛みが走った。
そんなめぐるの内心を知ってか知らずか、柊史は続ける。
『いいよね、因幡さん?だって、因幡さんにはオレのおかげで友達がたくさんできたでしょ?その友達に、本当のことを伝えるだけでいいんだ。簡単だよね?』
「っ!!」
--っていうか・・・お前、誰だっけ?
--か、川上君!!さすがに失礼だよ!ええと、因幡さん、だったよね?
教室を去る前に友人が、いや、友人『だった』クラスメイトが残した言葉がめぐるの脳裏に蘇る。
知らず知らずのうちに自分が息を呑んだのを、呼吸音から知った。
そして、その変化は柊史にも伝わっていたようだ。
『因幡さん、まさか・・・友達、できてないの?』
満面の笑みだったのが一転、眉をしかめて不快なモノを見たような顔に変わる。
『なんだ、使えないなぁ・・・せっかくオレが骨を折ってお膳立てしてあげたっていうのに。これで考えてたことがパァだ』
「え?」
失望が滲む柊史の言葉の意味がわからなかった。
一体何を言っているのだろう。
まるで、めぐるを利用するために近づいてきたと言っているようではないか。
『オレがなんのためにキミに近づいたと思ってるんだ?後輩の中に都合のいいヤツが欲しかったからに決まってるだろ?そうじゃなきゃ、誰がキミみたいなのに関わるって言うんだ?ぼっちに友達ができるようにしてあげれば手っ取り早く恩が売れると思ってたけど、所詮はコミュ障の陰キャじゃあダメか・・・ああ、そう考えればキミは悪くないか。キミみたいなのを選んだオレがバカだったんだ。なにせ』
そこで、柊史の表情が変わった。
失望に満ちていた、つまらないモノに向ける顔が、軽蔑と、嘲笑へと。
『なにせキミは、前科持ちだもんな。コミュ障で、デリカシーがなくて、人の気持ちがわからないから・・・』
「う、あ、ああ・・・」
めぐるは動けない。
朝から続く異常事態に加えて、柊史が寧々とキスをしていたこと。
さらに、自分を救ってくれた恩人だと思っていた相手から投げつけられる凶器のような言葉の数々。
柊史はめぐるのことなどなんとも思っておらず、それどころか見下してただの都合のいい駒だとしか見ていなかったという事実。
そのすべてがめぐるという存在を粉々に砕いたのだ。
そんなめぐるを見て、柊史はその顔にさきほどまでとはまったく別の笑みを浮かべる。
顔の片側だけに偏った、歪な笑み。
それは、目の前の相手を見下す証拠。
明らかに、柊史は今の状況を愉しんでいた。
猫がネズミをいたぶるように、自分よりも圧倒的に『下』の存在を踏みにじるのが面白くてたまらないと言うかのように、柊史は。
『『ちーちゃん』はいなくなってしまったんだもんな?』
めぐるの心の奥底にあり続ける、最大の『
「う、あ、ああ、あああああああアアアアアアアアアアアアっ!?」
-----
「うわぁぁああああああっ!?」
ゲーム機や漫画の収まった本棚、古いゲームのポスターが貼られた自室で、因幡めぐるは目を覚ました。
「・・・え?あれ?ここ、めぐるの部屋?」
寝汗をびっしょりとかいていて、気持ちが悪い。
吐息は荒く、心臓が全力疾走をした後のようにうるさい。
だが、その気持ち悪さと鼓動があったから、めぐるは気が付いた。
「さっきまでのは・・・夢、だったの?」
チュンチュンと小鳥がさえずる声が聞こえてくる。
漂ってくる食欲をそそる香りは、階下で母親が朝食を作っているからだろう。
不快感を与えてくる服も寝る前に着ていたパジャマであり、今が現実だということを伝えてくる。
「夢、夢・・・本当に?」
だが、めぐるにはにわかには信じられなかった。
さきほどまでの光景を夢と断ずるには、あまりにもリアルだったから。
体感ではほんの三十分かそこら前にも、めぐるはこの部屋で目覚め、朝食を食べて家を出たのだ。
着替えるときの服の感触や、口に運んだ料理の味も、現実としか思えなかった。
「夢、うん、そうだよ・・・夢、だったんだ」
だが、反証もある。
思い出したくはない。
だが、記憶に染みついて離れないさきほどまでの夢の光景と、耳に残る言葉がその証拠だった。
「めぐる、センパイにちーちゃんのこと教えてない・・・」
柊史が恩人であるのは確か。
だが、恩人だからといって自分のすべてを教えられるというワケではない。
めぐるにとって最も後悔している過去。
めぐるが高校デビューなんてモノを目指した理由の根幹である『ちーちゃん』のことについては、一言も漏らしていない。
柊史が知っているハズがないのだ。
ならば、さきほどの柊史の言葉はあり得るモノではない。
「そう、そうだよ。さっきまでのは夢。夢、夢、夢・・・」
自分に言い聞かせるように、めぐるはさきほどまでのことは夢であったのだと繰り返す。
「夢夢夢夢夢・・・痛っ!?」
--ミシミシミシっ!!
「う、ああ・・・痛、い」
その最中、突然肩が痛んだ。
まるで重いモノが乗っているかのようで、反射的にそこに手をやるが、何もない。
「はぁ、はぁ・・・収まった?」
しばらくすると、痛みは消えた。
まだ包帯をグルグルに巻き付けたような圧迫感はあるが、痛みというほどではなくなっている。
「この肩の変な感じ・・・昨日からだけど、何なの・・・?」
悪夢のことで頭がいっぱいだったが、この謎の感覚も不気味だ。
昨日は柊史のことがショックでそちらの方を気にしていたが、この痛みは普通ではない。
「何なの・・・?ちーちゃん・・・」
かつての親友の名前を呟いてみるも、答えが返ってくるハズがない。
「センパ・・・、っ!!」
--『ちーちゃん』はいなくなってしまったんだもんな?
無意識に、もっとも頼りにしている人のことを想おうとして、そのイメージはかき消えた。
代わりに蘇ったのは、さきほどまでの悪夢。
自分の心を抉ったその言葉。
「・・・・・っ!」
言いかけた名前は最後まで言えなかった。
「学院、行かなきゃ・・・」
ややあって、めぐるは夢の中よりも遙かに緩慢な動作で朝の支度を始めた。
今のめぐるを動かしているモノは、奇しくもその言葉だった。
「そうだよ、めぐるのせいで、ちーちゃんはいなくなっちゃった・・・なら、もうちーちゃんに顔向けできないことなんて、しちゃダメだよ・・・」
悪夢の中の柊史が告げた言葉は、正しい。
めぐるが原因となったせいで、親友は姿を消してしまったのだ。
だから、めぐるは親友と再会できたときに胸を張っていられるように努力をした。
今更、その事実を突き付けられたからと言って、歩みを止めるワケにはいかない。
正直言って、学院に行くのは怖い。
だが、ここで引きこもってしまえば、それこそ親友に会わせる顔がない。
・・・それは、傍から見れば虚勢を張っているようにしか見えなかっただろう。
事実、めぐるの動作は鈍く、身体は未だに震えている。
前に進む理由こそあれ、その心はきしみを上げていた。
--ヒヒッ!!
めぐるしかいない部屋の中。
めぐるには聞こえない嗤い声が木霊した。
-----
「因幡さん、どうしたの?」
「っ!?」
前田は、怪訝な表情を浮かべながら教室のドアの前で固まっている友人に声をかけた。
最近できた趣味の合う友人、因幡めぐるは後ろから声をかけられたのに驚いたのか、ビクリと震え、ぎこちない動作で振り返った。
「ま、前田さん・・・?」
「う、うん。そうだけど・・・因幡さん、体調悪いの?」
前田は、つい聞いてしまった。
そう聞かずにはいられないくらい、めぐるの様子がおかしかったからだ。
元々色白だが、いつにも増して顔色が青白く、声はか細い。
いつも気合いを入れているコギャル風の服装も、今日はなんだかおざなりだ。
「ま、前田さん、めぐるのこと、わかるの?」
「え?」
しかし、めぐるから返ってきたのは体調についてではなく、要領を得ない内容だった。
「わかるって、その、どういう・・・」
「ん?前田と因幡、そんなとこで何してんだ?」
「っ!?」
「あ、川上君」
どういう意味か聞き返そうとしたところで、そこに共通の友人である川上がやってきた。
自分と同じように川上ももう見知った間柄であるはずだが、またもめぐるは怯えたような反応を見せる。
だが、川上はその様子には気が付かなかったようだ。
というよりも、他に気にしていることあったのだ。
昨日、めぐるが取り乱してしまったのは己の不用意な発言が原因だった。
そのことをフォローしたかったのである。
「因幡、昨日俺が言ったのは、ただの噂だからな?本当かどうかわからないし、あんま気にしなくていいと思うぞ」
「・・・・・」
川上がそう言うも、めぐるは怯えた表情のままだ。
川上はその様子にさすがに違和感を覚えたが、そのまま続けた。
「なんなら、俺が保科先輩に確認して・・・」
「せ、センパイのことは大丈夫だから!!」
「い、因幡さん?」
「・・・因幡?」
それは劇的な変化だった。
柊史の名を口にした瞬間、めぐるは目に見えてわかるくらいに身体を震わせた。
それまでもどこか怯えているようだったが、今はそれに輪をかけたような・・・まるでパニックでも起こしたようにすら見える。
「センパイのことは、もう気にしてないから大丈夫!!だから、その話はもういいよ!!」
--センパイに関わりたくない!!怖い!!
柊史に関わることを全力で拒絶するような、トラウマでも植え付けられたのかと思えるような強い恐怖。
そして、その恐怖から逃れるためなら常識も倫理も投げ捨ててしまいそうな危うさ。
それを肌身で感じ取った前田と川上の2人は、無意識に一歩後ずさった。
「う、うん」
「お、おう・・・わかった」
2人は一瞬顔を見合わせたが・・・めぐるの尋常でない気迫に押され、それ以上会話を続けることはできなかったのであった。
--ヒヒヒヒっ!!
朝の廊下に悍ましい嗤い声が響いたが、それに気が付く者は誰もいない。
因幡めぐるの悪夢は、まだ始まったばかりだ。
めぐるの問題が解決するまではまだ少し時間がかかると思われますが、頑張ってエタらないようにしたいと思います。
遅筆ですが、どうぞ応援お願いいたします・・・
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この作品をご存じでしょうか?①ダークギャザリング、②死印、③東方Project
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