女の子が苦しんでいるのを肩代わりしてしまう少年の話 作:二本角
4/18までに今回の続き。4/18当日にも一話あげたいですね・・・
「じゃあ、行くよ保科!!」
「おいおい、あんま急かすなよ」
「あれ?柊史に和奏ちゃん、どっか行くなら俺も・・・いや、やっぱナシ。俺も用事あったわ」
「?おい海道。なんで親指立ててるんだ?」
「いや、なんでもないって。まあ、頑張ってな?」
「なんなんだ、海道のやつ。って、仮屋もなんだその微妙な顔。海道に怒ってるのか?」
「・・・別に。変な勘違いしてるからシメてやりたいのと、助かったってお礼を言うので迷ってるだけ・・・そんなことより、早く行くよ!!」
「お、おう・・・」
(あ!!2人が出ていく。私も行かなきゃ!!)
昼休み。
朝の会話から柊史と和奏が連れ立って出ていくタイミングを見張っていた寧々は、ガタッという音を立てて席から立ちあがった。
(保科君、バイトのことを話すって言ってました・・・2人に着いていけば、保科君のバイトのことがわかるかも・・・!!)
寧々がそんなストーカーに片足を突っ込むような真似をしていた理由はただ一つ。
柊史が和奏に、自分のやっているバイトのことを話す・・・すなわち、呪術師に関わる仕事の内容を知るチャンスであるからだ。
(保科君の心の穴を埋める・・・保科君に報いるには、保科君のことをもっと知らなきゃいけない。そのために、これは見逃せません!!)
寧々の両肩には、柊史からの恩が極大の重りとなって積み重なっている。
これを返すためには柊史のことをよく知る必要があると考えた寧々であるが、保科柊史のパーソナリティにおいて大きなウェイトを占めるであろう呪術に関することについて、柊史は異様にガードが堅い。
呪術師ではないが、魔女という異能を知る存在である寧々に対してもだ。
だからこそ、今回のことは千載一遇の機会であり、逃す手はない。
朝の2人の会話からは話をする場所はわからなかったので、まずは2人の気づかれないように尾行する必要があるのだが、使命に燃える寧々にとっては些細な問題だった。
心の底から湧き上がる衝動に身を任せ、今にも教室から出ていこうとして・・・
「あ、綾地さん。お昼一緒に食べない?」
「え?」
突然、背後から声をかけられた。
反射的に反応して振り向いた寧々の目に映ったのは、クラスメイトのよく話す女子だった。
「あ、えっと・・・」
普段の寧々ならば、とくに反対することなく話を受けていただろう。
しかし、今はどうしても外せない用事がある。
ここは断らなければいけない場面だ。
だが、寧々の心優しい性格が、あるいは魔女としてのお悩み相談の癖が、NOという返事を出させるのを若干遅らせる。
そして、そのわずかな間の迷いが致命的だった。
「あ、今から教室でご飯?じゃ、ウチも混ぜて~」
「私も私も」
寧々は朝もそうだったように、クラスでは非常に高い人気を誇る。
昼休みに昼食を一緒にと誘われることもしょっちゅうであり、これまでも何度かクラスメイトと教室で過ごしたことはあった。
そんな寧々であるために、朝と同じように寧々を囲む人間の壁ができてしまっていたのだ。
おまけに、寧々の近く以外でも昼休みとなったことで生徒たちが自由に動き回っており、ドアまで行くのも骨が折れそうな有様。
さらに、肝心の柊史と和奏はもう教室を出て行ってしまっていた。
今から寧々が追いつくには、まず目の前のクラスメイトの誘いに断りを入れてから人垣をかきわけ、なんとか2人が移動していった方向を突き止めるしかない。
(こ、これじゃあ、もう・・・)
寧々は聡明で成績優秀ではあるが、体力面は平均的だ。
そんな寧々に柊史たちを追いかけろというのはなかなかの無茶であり、本人にもそれはよくわかっていた。
「あ、あれ?綾地さん?」
「もしかして、なんか用事あったりする?」
寧々の雰囲気が一気に沈んだことで、周りのクラスメイトも普段の寧々とは様子が違うことに気が付いたようだ。
用事があったのに呼び止めてしまったのかと、申し訳なさそうな顔になる。
「あ、い、いえ!!大丈夫です、よ」
どのみち、もう柊史たちを追いかけても見つけられる可能性は低い。
ならば、ここは諦めてクラスメイトたちのお誘いに乗るしかない。
合理性と善性から導き出した答えに、それしかないと寧々は自分で自分を納得させるほかなかったのであった。
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「それで、最近おいしいケーキのお店見つけたんだけど、今度行ってみない?」
「おお、いいね!!行ってみたい!」
「そういうお店、あんまり知らないからな~・・・情報めっちゃ助かる。綾地さんも、なんかいいお店知ってる?」
「えっと、そういうことならシュヴァルツ・カッツェってお店がおすすめです。ケーキもありますが、一番のウリはパフェだそうですよ」
「へぇ~、シュヴァルツ・カッツェか。じゃあ、次はそこに行ってみようかな」
寧々を含めたクラスメイト女子たちによる会話は、一見いつも通りなごやかに進んでいた。
寧々は意外というべきか当然というべきか、サブカルを含めた多分野の知識が豊富だ。
女子が知りたがっているスイーツのお店や、最新のファッション、メイクの方法から、流行りのアニメや漫画に関することまでなんでもござれ。
それは、寧々本人がそうした知識をストックしておける頭脳を持っているのもあるが、普段魔女として心の欠片を集めるためにお悩み相談室を開いているのも大きい。
ある意味で接客業であり、会話が下手な人間に務まるものであるはずもなく、様々な会話で相手の悩みを解消するためには、同様に広く浅い知識が必要であるからだ。
そして、そうした知識を放つ話術も天性の才能と、オカ研での実践によって磨かれている。
そんな寧々だからこそ、多くの人間に慕われているのだ。
寧々に相談を聞いてもらって不快になる相談者など、滅多にいないことだろう。
だが。
「はぁ・・・」
「「「・・・・・」」」
その日の昼食に関しては、その例外と言っていいだろう。
いや、別に共に席を囲むクラスメイトたちは不快になっているというワケではない。
彼女たちは、心配していたのだ。
「えっと、綾地さん。なんかあったの?」
「朝も様子ちょっとおかしかったけど、今はもっと、なんていうか」
「えっ!?い、いえ別に!!別に全然大丈夫ですから!!」
「「「・・・・・」」」
さきほどから、ずっとこのような感じだ。
会話に的確な反応を返すも、自分が話すターン以外で、時折どんよりとした空気をまとって小さくため息をつく。
無論、意図的ではなく無意識に。
クラスメイトたちも、寧々がいかにも『私は不機嫌です』と言外にアピールするような幼稚な人柄をしていないのは知っている。
だから、このため息も自然と出てしまったものなのだろうと。
だがこれで何もないと言っても信じられないのは当然だろう。
「えっと、その・・・綾地さん。私でよければ相談乗るよ?」
「そ、そうだよ!!普段はウチらがお悩み相談とかしてもらってるんだし!!」
「た、たまにはあたしたちもお返ししなきゃね!!綾地さんほど立派にはできないかもだけど!!」
クラスメイトたちは察していた。
(((これ、絶対に私たちが綾地さんの予定を邪魔しちゃったやつだよね・・・)
朝のときも少々上の空ではあったが、これほど沈んではいなかった。
授業中の休み時間まではわからないが、クラスで特別寧々が気にするようなことがあったとは思えない。
ならば、その帰結として寧々が思い悩んでいるのは昼休みが始まった時点での未来のことであり、過去ではない。
そうなると、自分たちが話しかけてしまったせいで、寧々の邪魔をしてしまったというのが答えだろう。
それも、寧々がここまで沈むほどの大事な要件を。
それがわかれば、罪悪感の一つや二つ抱くのが普通というものだ。
「・・・お返し?」
「「「っ!?」」」
ピクッと、寧々の眉間にシワがよった。
同時に、寧々の周囲から発せられる暗い雰囲気がさらに重みを増した。
(な、なにっ!?綾地さんが怒ってる!?)
(なんで!?何が地雷踏んだの!?)
「・・・・・」
寧々は無言だ。
しかし、その心の中では様々な負の感情が渦巻いていた。
焦燥、罪悪感、怒り、苛立ち、そして・・・一つ一つの感情に名前はあれど、それぞれははっきりとした輪郭を持つには淡い。
だが、確かに存在していた。
--今、一番「お返し」をしなきゃいけないのは私なのに
--今、こんなところで話している場合じゃないのに
--ごめんなさい、保科君
--どうして、私はここにいるんだろう?
--どうして、私は目の前のこの人たちを保科君より優先してるんだろう?
--この人たちが、さっき話しかけてこなければ・・・
「・・・・・」
明確な言葉となったワケではない。
故に、自覚もできていない。
だが、間違いなく自分をここに引き止めた者たちへの苛立ちや怒りがそこにあった。
しかし。
(・・・私は、何をしてるんでしょうか)
寧々の善性が、その負の感情の方向を他者に向けさせることだけは食い止めた。
その代わりというように、彼女たちを振り払うことができなかった、己への不甲斐なさにこそ目が向く。
たいていの場合、自分の不幸を人のせいにするのはよくないことだ。
だが、自分を責めることは他人に迷惑をかけない。
だから、他人への苛立ちは自覚できなくとも、自分へのマイナスの感情ははっきりとわかった。
綾地寧々は間違いなく聖人君子と言えるほど心の清い少女である。
他人に負の感情はそうそう抱かない。
逆に、他人への感謝、思いやりは人一倍だ。
そうであるがために、保科柊史に向ける想いは大きい。
今優先するべきは間違いなく柊史の方であり、優柔不断な自分自身への嫌悪もそれに比例して大きなモノになっていた。
「はぁ・・・」
「「「・・・・・」」」
自己嫌悪に陥ったことで、プレッシャーはなくなったものの湿度が増したような気がする寧々。
そんな寧々を見て、クラスメイトたちは思った。
(((こ、これは重症だ・・・)))
理由はわからないが、ここまで落ち込んだ寧々を見るのは初めてのことだった。
同時に、「早く何とかしなきゃ」という焦りも湧いてくる。
よく話す間柄だからこそ解決してあげたいという善意が半分。
自分たちがこの事態を招いてしまったという罪悪感が四割。
学年のアイドルたる寧々に妙な真似をしてしまったことによる焦りが一割。
ともかく、彼女たちも腹をくくった。
「あ、綾地さん!!ごめん!!何か用事があったんだよね!?」
「本当にごめん!!う、埋め合わせはちゃんとするよ!!」
「じ、事情を話してくれれば協力できることは何でもするからさ!!」
「・・・埋め合わせ、協力?」
沈んでいた寧々が、その言葉にまたしてもピクリと反応した。
だが、それはさきほどのように重苦しいリアクションではない。
(協力・・・そう、ですね)
寧々の今の目的は、柊史への莫大な恩を返すこと。
ひいては、廃人になりかねない心の穴を埋めることだ。
初めて心の穴の話を聞いたとき、寧々は七緒に協力を頼んだ・・・というより相談したが、その答えは『全力で感謝してあげること』。
柊史の術式の効果から、質の高いプラスの感情こそが最高のお礼となり、心の穴を埋める最短ルートであると。
寧々も、それには納得している。
しかし、それだけでは足りないのではないか?とも思うのだ。
七緒は、あのときこうも言っていた。
--心の穴を埋めるには、短期的でいいなら心の欠片を吸わせるという方法があるが、根治療するなら心にかかる負荷を取り除いた上で本人が心を癒やす必要がある
--彼に術式がある以上、周囲の感情のせいで心に負荷がかかるのは避けられない。ならば、癒やす方向を重視すればいい
(心を癒す・・・保科君の術式だと、傷つくことは避けられない。プラスの感情で傷を治すことはできても、それだけじゃまだ足りないかもしれません。保科君自身が、心の穴を埋められるようにならなければ)
傷の治療と同じだ。
薬を塗って包帯を巻いて傷口を保護しても、最後に傷を癒すのは本人の治癒力だ。
柊史自身の回復力が貧弱では、いくらプラスの感情を渡しても穴の開いたバケツに水を注ぐのと変わらない。
すなわち。
(ただ、私の感謝を送るだけじゃダメ・・・保科君自身が嬉しいとか、楽しいとか、そういう風に思えるようにならないと根治療とは言えないんじゃないでしょうか)
心に穴が空くのは、強い悲しみや苦しみといった負の感情を抱いたとき。
そして、穴が空いたままなのは、本人に自分で穴を埋めるだけの余裕がないから。
その余裕を取り戻すところまで行って、やっとゴールなのだ。
そして、それは正解である。
原作というべき世界線でも、柊史はただ与えられるだけでなく、本人が人間として成長することによって自身の穴を塞いだのだから。
(だから、私は知りたいんです。保科君のことを全部)
だから寧々は、柊史について知れることはすべて知りたいと思った。
誰かに喜んでもらうのならば、その人のことをよく知っているか知らないか、どちらが有利かなど論ずるまでもない。
呪術師のことについて知りたいと思ったのも、その一環である。
しかし、ことここに至って・・・同年代の女子から『協力する』と言われて、ふと思いついたのだ。
自分は、柊史の中で大きな比率を占めているだろうと思ったからこそ、呪術のことから攻めようと思ったわけだが、もう一つ、自分にはまったく知見のない分野があると。
理知的とはいえ、なんだかんだ動物的本能の残るアルプである七緒には相談しようとも思わなかったこと。
(男の子って、どういうことを喜んでくれるんでしょうか?)
寧々はオカ研にてお悩み相談室を開いている。
寧々自身の才能もあって、悩みを見抜き、解決に至る手助けをすることについてはプロと言っても過言ではない。
だが、寧々が相談に乗るのは、代償のこともあってほとんどが女子だ。
同性であるために女子の悩みについてはいくつも解決した実績を持つ寧々であるが、反面男子の悩みはほとんど経験がない。
さらに言うと、女子からの相談であっても恋愛のこととなると的確なアドバイスは難しかった。
なぜなら、恋愛方面は寧々も未経験なことばかりだから。
つまり、1人の男の子としての保科柊史が喜んでくれそうなことに、具体的なイメージが持てなかったのである。
(でも、この人たちなら・・・)
柊史と寧々のクラスには秋田という恋愛方面に対してバリバリ行ける女子がいるが、目の前の彼女たちも秋田と一緒に合コンに行ったと話していたことがあった。
その時点で、その分野において寧々よりレベルが上だ。
ならば、自分がやるべきことは一つ。
「あの・・・協力してほしい、というか、相談に乗ってほしいことがあるんですが・・・」
「「「っ!?」」」
そう切り出して驚いたのは、そう言われた彼女たちの方である。
相談に乗るとは言ったが、あの才色兼備な綾地寧々が本当に相談してくるとは思わなかったのである。
だが、一度吐いた唾は吞めない。
彼女たちは、いったい何を言われるのかと戦々恐々としていると。
「お、男の子って、どんなことをしてあげたら喜ぶんでしょうか?」
「「「っ!!!!!????」」」
(((そ、そうきたか~~~っ!!)))
その質問に抱いた驚愕はさきほど以上。
だが、同時に納得のいくことでもあった。
(あ~、そういうこと。完全にわかった)
(ここ最近、ずっと騒ぎになってたし・・・)
(保科君、か)
--あの綾地寧々が、オカルト研究部の部室に自分から男子を誘った
その一報は、姫松学園全体を混乱の渦に突き落とした。
男子は『どこのクソ野郎だ、その羨ましいヤツは!!』と嫉妬し、女子は『あの綾地さんが興味持った男子って誰!?』と好奇心全開で噂話に興じることとなったが・・・寧々と同じクラスにいた3人は、その男子の正体を知っていた。
何を隠そう、保科柊史である。
だが。
(((ここで、それって保科君のことだよね?とは言えない・・・!!)))
「?」
寧々の様子を見るに、本人として「これは知り合いのことなんだけど・・・」という体で話しているのは確実。
ここで、「いやその男の子って保科君でしょ?」と言えば、寧々は口をつぐんでしまうだろう。
せっかく寧々が相談をもちかけてくれたのだし、こんな機会は滅多にない。
それをフイにするのはさすがにないというものだ。
すなわち、「件の男子は保科柊史であるとわかったうえで、一般的な男子の喜ばせ方という名目で的確なアドバイスをする必要がある」ということだ。
とはいえ。
「えっと・・・これは一般論なんだけどさ。綾地さんになら何をされても男子は喜ぶと思うよ?」
「「うんうん」」
「え?」
きょとんとする寧々だが、3人からすれば寧々の悩みなど杞憂もいいところだ。
寧々の性格を知る3人は、今の寧々が素で驚いているのがわかるが、これがほかの女子なら「イヤミか貴様ッッ」と怒っても仕方がないくらいである。
「いや、綾地さん、お世辞なんか抜きでめちゃくちゃ美人だし・・・」
「そんな美人の綾地さんのすることなら、大抵のことは喜んでもらえるって」
「言っておくけど、別にからかってるとかじゃないよ?本気で言ってるからね?」
「は、はあ・・・」
「もしかしてからかわれているのか?」と、一瞬またプレッシャーを醸し出した寧々であるが、今度は逆に3人が真剣な表情で詰め寄って押し返した。
事実、彼女たちの言うことは本心であり、一般論で言うなら正解だ。
そこらのアイドル顔負けの寧々にしてもらえることであれば、どんな些細なことでも男子は喜ぶだろう。
それで喜ばないのは、すでに操を立てていると言えるレベルの彼女持ちか、極度の人間不信。もしくは生物学上の雌に興味のない特殊な趣味の持ち主しかいないと言っていい。
「で、でも、なんでもと言われると、逆に何ならいいのか・・・」
「それはそう」
「選択肢がたくさんあると迷うもんね」
「贅沢な悩みだとは思うけどね・・・」
しかし、「なんでもいい」というのはある意味で禁句だ。
あまりに多くの選択肢は、逆に人を悩ませる。
これでは、答えとは言えないだろう。
「まあ、本当に一般論で言うと・・・相手の趣味とか好みに合わせた話をするとか?」
ここで、相談者が寧々であるという前提を捨てることにする。
あくまで一般論であるが、自分の好きなモノを同じように好む相手というのは好意的にみられやすい。
それが異性からのものなら猶更だ。
「そ、それが・・・私、ほし・・・コホンっ!!そ、その人の趣味とかよく知らなくて。まずはそこから調べようと思ってたんです」
「へ、へえ、そうなんだ・・・」
(調べるって・・・)
(ガチじゃん、綾地さん・・・)
寧々の口調は、まるで未知なる新種を前にした生物学者のよう。
応用研究に進む前の基礎研究は欠かせないというかの如くだ。
「えっと・・・それ、本人に聞くのはダメなの?自分の好きなことって、聞かれたら教えたくなるけどな」
「それなんですけど、教えてくれなくて・・・どうしようって思ってるんです」
「ふ、ふ~ん、ま、まあそこはどんな趣味によるかもあるんじゃない?」
(綾地さんに聞かれて教えられない趣味、か・・・)
(保科君、いったいどんな趣味を・・・?)
ここで寧々の言う趣味とは、無論呪術のことだ。
当然、柊史は詳しく話そうとはしない。
だが、そんなことを知らないクラスメイトたちにとって、「保科柊史は女子に言えない趣味を持っている」と認識された。
「じゃ、じゃあ!!一緒にご飯食べに行くとかは?最初は一対一だと露骨だから他にも誰か誘うとして・・・女子からそういうお誘い受けるのって、男子的にポイント高いと思うよ?」
「あ~、そういうところあるよね、男子はさ」
「うんうん。女の子から誘われたとかどこ行ったとかでマウント取るっていうか」
これも一般論であるが、異性にモテるというのは大きく自尊心をくすぐることでもある。
どれくらいモテるのかというのは、一種のステータスであるとも言えるだろう。
ましてや、寧々が相手なのだから、少なくともこの学院においてそれ以上のステータスは3年生の生徒会長くらいのものだ。
ほとんどの男子は光栄だと思うに違いない。
大した面識もないのに初めから2人きりだと、警戒させてしまうだろうが、そこは徐々にガードを緩めていけばよい。
これは中々良いアドバイスだと思った3人であるが・・・
「ご飯・・・シュバルツ・カッツェにはもう行きましたし、お弁当も渡したけど・・・でも、お弁当は喜んでくれてましたね。よし、お弁当はこれからも続けます!!」
「「「っ!?」」」
3人にさきほどぶりの緊張が走る。
(お弁当!?もうそこまで行ってるの!?)
(それなのに「喜んでもらうことを教えてほしい」って、まさか・・・)
(いきなりお弁当渡したの・・・?あ、綾地さんって)
ここで、3人の思いが一致した。
(((綾地さん重っ!!)))
というより、一般論のはずだったのにいつの間にか寧々がアプローチすることが明らかになってしまっているが、そこにメスを入れる気は3人にはなかった。
「あ、あはは。お役に立てたならよかったよ・・・」
「そ、そうだよね!!綾地さんの手作りお弁当もらって喜ばない男子はいないよ・・・」
(保科君、これがバレたら大変だろうなぁ・・・やっかみで)
(っていうか、これでくっついてないってマジ?)
寧々の話からして、寧々はまだ柊史に探りを入れている段階のハズであるが、もういきなりお弁当を渡すというかなりハードルの高いことをこなしていた。
しかも、当たり前のように2人きりでさっき話していたパフェのおいしいお店に行っている始末。
実際に2人がどこまで進んでいるのか知らないが、もしも寧々の話の通りであるのなら、柊史はさぞ驚いたことだろう。
まあ、寧々本人が「喜んでいた」と言っているのだからそれでいいのだ。
「あ、あの!!ほかにもいい方法はないでしょうか?」
「ええ・・・?あの、綾地さん。そこまで行ってるならもういいんじゃないかな?」
「そうだよ。外堀が埋まってるどころか本丸が炎上してるレベルだよ」
「ウチが殿様なら大人しく切腹するね」
話を聞くに、寧々はもう十分なくらい攻めまくっている。
ここでさらに押すのはやりすぎて引かれるだろう。
というか、寧々の自認がおかしいだけでもう柊史はとっくに陥落しているのではなかろうか。
「いえ、まだ全然足りてないです!!保科君のこと、私、知らないことばかりですし・・・保科君も、私にどうしても踏み込ませてくれない一線があるというか・・・」
(((堂々と保科君って言っちゃってるよ綾地さん)))
いつの間にか柊史の名前を口に出しているが、やはり3人はここでも突っ込みはいれなかった。
それに、寧々の言うことには思い当たるフシがあったのだ。
(そういえば、保科君は綾地さんのこと避けてる感じがしたな・・・)
(何か嫌な目にあわされて嫌いになった・・・って感じじゃなかったけど)
(保科君、別に悪い人じゃないし、綾地さんを避けるような性格じゃないと思うけどな。っていうか、それなら)
このクラスに限らず、寧々は男子たちに高い人気を誇る。
だが、どういうわけか保科柊史だけは、寧々になびく様子を見せなかった。
むしろ、なるべく関わるのを避けてすらいた。
もちろん、露骨に嫌うようなことはしていなかったし、避けているのに気付いているのは寧々とそれなりに接する機会のある3人だからこそだったが。
そして、柊史が寧々を避けるも不思議であるが、もっと気になることがある。
(((どうして、綾地さんは保科君にこんなにアタックしてるんだろう?)))
保科柊史は確かに性格の悪い人間ではない。
だが、寧々を避けていたのは確かだ。
そんな柊史を、どうして寧々はこんなにも気にしているのか。
(なんか弱みでも握られてる・・・わけないか)
(脅されてる相手に手作り弁当差し入れはないよねぇ)
(っていうか、今の綾地さんなんか怖いし・・・なにかされてるの保科君のほうじゃないのこれ?)
あの綾地寧々をここまで執心させるとなると、なにか汚い手でも使ったのか?と思う3人だったが、即座に否定する。
というより、避けていた相手からいきなりここまでの攻めを受ける柊史の方がいろいろキツいのではないだろうか。
いや、お弁当は喜んでいたということだから、そうでもないないのだろうか。でも、寧々視点の情報だし・・・
と、3人はしばし黙り込んだ。
「あの、みなさん?」
「あ、ごめん・・・」
「えっと・・・綾地さんから見て、保科君とはまだそんなに仲良くはなれてないんだよね?」
「だったら、まあ、本当に今のままでいいんじゃないかな。あんまり押すと向こうも疲れちゃうよ」
「そうですか・・・」
寧々から不安そうに声をかけられて我に返る3人。
そんな3人の答えは至って常識的なモノだ。
現状でもオーバーキルなレベル。
しかも、もともとは寧々を避けていた相手だ。
むしろほどほどにまで手加減してあげてと言いたくなる。
だが、寧々は悲しそう、あるいは不満そうで、また重い空気を纏いだしていた。
「じゃ、じゃあさ!!もういっそのことアレとかどう?」
「アレ、ですか?アレって・・・?」
「ちょっと!!もしかして・・・」
「いやいや、今の綾地さんにはシャレにならないでしょ」
重い空気をどうにかしようと、1人が冗談めかして、親指と人差し指で輪を作り、そこにもう片方の手で指を入れるお下品なジェスチャーを決める。
残り2人は今の寧々相手では危ないのではないかと、慌てた様子で止めにかかるが、幸いにも寧々はその意味がわからなかったようだ。
「あの、アレってなんですか?」
「いやいや!!気にしないで綾地さん!!」
「今のはこの子の冗談だから冗談!!」
「いや、ちょっと待ってよ!!男なんてエロで釣れば一発でしょ」
「お昼休み中にそんなお下品なこと言うんじゃないよ!!」
「綾地さんが本気にしたらどうすんの!!」
しかし、冗談とはいえ自分の意見を頭ごなしに否定されたのが気に食わなかったのか、意見を出した女子が唇を尖らせる。
そんな言い出しっぺに2人は先生よろしくお説教をかますが・・・
「え、エロ・・・うう、そ、そういえば私、見られて・・・でもあれは私が悪いし・・・けど、保科君も見たいって思ってるんでしょうか・・・効果があるのなら、でも、うう」
「「「・・・・・」」」
ぽつりと呟かれた寧々の言葉に、3人はピタリと動きを止めた。
言い争いをしていたというのに、3人の心が再び一つにまとまる。
(((いや保科君何してんの!?っていうか何があった!?)))
顔を赤くしてもじもじする寧々。
しかし、恥ずかしがっているだけで、年頃の女子にありがちな男性への無自覚な嫌悪や恐怖はそこにない。
ならば、寧々と柊史の間に一体何があったのか・・・?
(((これ以上の深入りはやめよう。手に負えない)))
瞬時にアイコンタクトを交わし、3人は意思の統一を図った。
年頃の女子として、コイバナには興味津々だ。
だが、それはあくまで普通の恋愛沙汰についてである。
さきほどの寧々との会話に漂っているような危険な香りはお呼びじゃないのだ。
この件に深入りすると、今後のクラスでのカーストというか立ち位置が変わる、否、それどころか生徒指導とか停学とか、教育委員会とか、その辺りが関わってきそうな気すらする。
(っていうか、そこまでやってダメならもう脈ナシなんじゃ・・・まあ、頑張ってとしか言えないなぁ)
(綾地さんの猛攻を凌いでる保科君に敬意を表するよウチは)
(保科君、もしかして彼女いるのかな。もしかして、仮屋さん?いや、大穴で海道君の可能性も)
危険もさることながら、思い思いに寧々と柊史の戦力差を測るが、あまり旗色はよくなさそうだ。
3人は、柊史に敬意を抱きつつも、寧々の健闘を祈った。
そんな3人を差し置いて・・・
「あ、あの・・・お、覚えて、おきます。ありがとうございます・・・」
「「「あっ、はい・・・」」」
顔を赤くしながらも、小さく頭を下げた。
そんな寧々に、3人は短く返事をするしかなかったのであった。
今回登場するクラスメイト3人は名無しのモブオリキャラですがなんかキャラが濃くなってしまった・・・悪い子たちではありませんが、次の話では損な役回りをさせてしまうかも。綾地さんの中の黒い種を育てるために。
私、純愛ゲーキャラでのNTRとかそっち系は反吐が出るほど嫌いなんですが、この作品はこの作品で、別ベクトルでゆずソフトキャラでやっちゃいけないことをやってる同じ穴の貉な気がしてます・・・
pixivの方もブクマよろしくです。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=27691580
↓のXでの読了報告もお待ちしております!!
この作品をご存じでしょうか?①ダークギャザリング、②死印、③東方Project
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すべて知っている
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①と②を知ってる
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①と③を知ってる
-
②と③を知ってる
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①だけ知ってる
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②だけ知ってる
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③だけ知ってる
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すべて知らない