女の子が苦しんでいるのを肩代わりしてしまう少年の話   作:二本角

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今回は他作品ネタが複数混じっています。苦手な方はご注意ください。

あと、最近ハンターハンターを読み始めました。
私の思うサノバウィッチヒロインの念能力系統


綾地さん・・・具現化系
因幡さん・・・放出系
椎葉さん・・・操作系
戸隠先輩・・・特質系
仮屋さん・・・強化系
保科君・・・変化系


聞くところによると、操作系は自分を律するタイプか、他者を支配したがるタイプに分かれるのだとか。


非日常への入り口

『おはよう、めぐちゃん』

「ん?あ、うん、おはよう『ちーちゃん』」

 

 朝、家を出るとそこには親友の木月千穂子がいたので、めぐるはまだ目覚めきっていないぼんやりとした頭であいさつした。

 

『もう、また遅くまでゲームしてたでしょ?あんまりやってるとテストで悪い点とっちゃうよ?』

「う゛・・・だ、大丈夫だよ!!まだテストまで期間あるし」

 

 他愛のない話をしながら、2人は学院へと向かう。

 2人とも姫松学院の制服に身を包んでおり、同じクラスだ。

 元いた中学から姫松に進学したのは2人だけであり、中学のときのように毎朝2人で登校するのが当たり前になっている。

 

(・・・あれ?なにか、おかしいような)

 

 一瞬、千穂子と話しながら歩くめぐるの脳裏に違和感がよぎった。

 

(中学は毎日こうやって一緒に歩いたけど、姫松学院にちーちゃんは進学してたっけ?)

 

 めぐると千穂子は親友であり、中学のときは通学時も常に一緒だったが、姫松学院でもそうだっただろうか?

 そもそも、姫松学院に千穂子は進学していたのだったか。

 

(まあ、いいか。今こうして歩いてるんだから、それが正しいよね)

 

 だが、その違和感はすぐに消えた。

 今こうして2人は一緒に通学しているのだ。

 そうである以上、それこそが正しいに決まっている。

 

『そういえばさ』

「ん?」

 

 めぐるが少しの間足を止めていたのに気が付いていなかったのか、数歩先を歩いていた千穂子が振り返った。

 

『今日も、昼休みに会いに行くの?保科先輩に』

「え?」

 

 めぐるの歩みが再び止まる。

 今の千穂子の発言は、明確におかしかったからだ。

 

「ち、ちーちゃん、保科センパイのこと知ってるの?」

『うん。知ってるよ?』

(おかしい。それはおかしいよ・・・)

 

 めぐるは、保科柊史に千穂子のことを教えられていない。

 だから、まだ柊史は千穂子と面識がないハズなのだ。

 なのに、千穂子が柊史のことを知っているのはおかしい。

 柊史は大恩のある人だが、いや、大恩ある相手だからこそ、かつて自分と千穂子の間にあったことは教えられない・・・

 

「あ、あれ?」

 

 そこで、めぐるは今まで自覚していなかった違和感に気が付いてしまった。

 

「ち、ちーちゃん、どうしてここにいるの・・・?」

 

 そうだ。千穂子がここにいるハズがない。

 なぜなら、自分は千穂子と喧嘩別れをしてしまい、さらには千穂子が夜逃げ同然に引っ越してしまったことでそれ以降の消息を知らなかったのだから。

 その千穂子が姫松の制服を着て一緒に通学していることなどありえないのだ。

 ならば、ここにいる千穂子は何なのだ?

 

『なんだ。今日はもうバレちゃったのか。保科ってヤツのことを話したからかな?』

「ち、ちーちゃん?」

 

 千穂子は、めぐるより数歩先を歩いていた。

 ちょうど、朝日が逆光となる位置。

 めぐるから千穂子の顔はよく見えない。

 しかし、その口元がグニャリと歪んだのはよくわかった。

 その口から放たれた言葉に宿る、冷気すら感じられるほどの嘲りも。

 

『ねぇめぐちゃん。どうして私がここにいるかだっけ?』

 

 クスクスと、千穂子は嗤う。

 めぐるがかつてよく見た穏やかな笑い方とは似ても似つかない雰囲気で。

 

 

--聞いてはいけない!!

 

 

 めぐるの本能が千穂子の放つ言葉を聞いてはいけないと警告を出す。

 だが、それは遅かった。

 

『教えてあげる。それはね、仕返しがしたいから』

「し、仕返し?」

 

 めぐるには、千穂子の言葉をオウム返しすることしかできなかった。

 そんなめぐるの反応を楽しむように、千穂子は続ける。

 

『めぐちゃんさぁ、私にひどいこと言ったよね?あれ、すごく傷ついたんだよ?』

「ご、ごめん!!ごめんねちーちゃん!」

 

 めぐるは即座に謝った。

 千穂子の言うことは正しかったから。

 

 

--めぐるはちーちゃん以外と上手く仲良くできないから

 

 

--友達はずっとちーちゃんだけでいい

 

 

--ちーちゃんも同じだよね?

 

 

--だから、ずっとめぐると友達でいてね

 

 

 言ってしまえば、『お前は自分と同じボッチで今後友達なんてできないんだから、ボッチどうし仲良くやろうぜ』とレッテルを貼ったに等しい。

 

『勝手に私のことお前みたいな根暗陰キャと同類扱いしないでくれる?そもそも、私はお前のこと友達だと思ったことなんてないから。ただ、お前が哀れだったから同情してやってただけ』

「ごめん、ごめん!!ごめんなさい!!」

 

 千穂子の言葉は実体のないナイフ同然だった。

 言葉の刃が、めぐるの心を切り裂き、突き刺し、えぐり取る。

 だがめぐるに反論することなどできなかった。

 なぜなら、めぐるには千穂子の言葉を否定できる根拠がない。

 千穂子の言う通り、友達だと思っていたのは自分だけで、ただお情けで付き合っていただけだったのかもしれない。

 そもそも、めぐるが千穂子に反論する資格などない。

 あんな言葉を送った時点で、そんな資格は消失してしまっているのだから。

 めぐるにできることは、ひたすらに千穂子の言葉に耐え、謝り続けることだけだった。

 

『ねぇめぐちゃん。楽しかった?』

「・・・え?」

 

 唐突に、千穂子の声音からとげが消えた。

 話も、急に脈絡のないモノに変わる。

 

「な、なにが?」

『察しが悪いなぁ・・・保科先輩と一緒にいるときだよ。それで、楽しかったの?』

「う、うん。センパイといるときは、楽しかったよ」

『ふぅん』

 

 今のめぐるに、千穂子に対して嘘をつこう、誤魔化そうなどという発想はなかった。

 だからそれは、めぐるの正直な気持ちだ。

 

『いい気なもんだよね。私にはひどい言葉をぶつけて傷つけた癖に、自分は新しいお気に入りを見つけて楽しんじゃってさ。私のことなんて忘れてたんじゃないの?』

「ち、違う!!それだけはないよ!!」

 

 初めて、めぐるは言い返した。

 確かに、千穂子の側がめぐるを友達だと思っていなかった可能性はある。

 しかし、めぐる自身が千穂子のことを忘れたことなど片時もない。

 無論、柊史と一緒にいるときだって。

 それだけは真実だからこそ、めぐるは反論した。

 だが。

 

『へぇ、そうなんだ。ありがとう。でもそれって、保科先輩に失礼じゃない?』

「え?」

『だってそうでしょ?保科先輩って、めぐちゃんにとって恩人なんでしょ?その恩人と一緒にいたのに、別の人のことを考え続けてたなんて。保科先輩にきちんと向き合ってなかったってことじゃないの?』

「そ、それは・・・」

 

 もしも、柊史といるときに千穂子のことを忘れていたのなら、それは千穂子への裏切り。

 だが、柊史といるときに当の柊史を見ていなかったのなら、それは柊史への侮辱。

 ・・・ほんの少しでも落ち着いて考えれば、それが詭弁だとすぐにわかっただろう。

 24時間四六時中、誰かのことを考え続けるなどまともな人間のすることではない。

 ある人を大事な友人と思いながら、別の誰かと新しく友達になるなどごく普通のことだ。

 しかし、今のめぐるにそれは不可能だった。

 

『まあ、でもいいんじゃない?どうせ保科先輩も私と同じだよ』

「お、同じ?それって」

『さっき言ったでしょ?私と同じ。保科先輩も、お前とは同情で付き合ってあげてたってこと』

「っ!!」

 

 

--オレがなんのためにキミに近づいたと思ってるんだ?

 

 

--後輩の中に都合のいいヤツが欲しかったからに決まってるだろ?

 

 

 柊史の声がめぐるの脳裏に響いた。

 

(違う!!あれは夢だった!!センパイはそんなこと言ってない!!)

 

 あれは前に見た夢でのことだった。

 現実のことではない。

 

『でも、それが保科先輩の本心じゃないって保証は誰がしてくれるの?』

「・・・・・」

 

 めぐるの内心を見透かしたかのように、千穂子は言う。

 めぐるはそれを否定できない。

 千穂子が自分に同情心で接してくれていた可能性を捨てきれないように、柊史も同じ理由で一緒にいたのかもしれない。

 めぐるは、とうとう黙り込んでしまった。

 そんなめぐるを見て、千穂子は告げる。

 

『結局さ。めぐちゃんの味方なんて1人もいないんだよ』

「やめて・・・」

『当然だよね。友達だと思ってる相手にあんなひどいこと言えるんだもん』

「もう、もうやめて・・・」

 

 めぐるは、耳を塞いでその場にうずくまる。

 しかし、声はそんな無駄な抵抗をあざ笑うように、頭の中に響いた。

 

『めぐちゃんはね、一生独りぼっちで生きていくの。それが私と、保科先輩への贖罪なんだよ』

 

 

----

 

 

「やめてっ!!」

 

 叫び声をあげながら、めぐるは目を覚ました。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・また、夢?はぁぁぁぁ~・・・・」

 

 部屋に差し込む朝日と、見慣れた自室の光景を見て、めぐるは先ほどまでの光景が夢だと気が付いた。

 

「これで、三日目だ・・・」

 

 ぽつりと呟く。

 めぐるの言う通り、悪夢を見るのはこれで連続三日目だった。

 そして。

 

 

--ミシミシっ!!

 

 

「痛ぅ・・・!!」

 

 思わず肩を押さえる。

 しかし、そこに何もない。

 

「重いの、全然よくならない・・・」

 

 悪夢を見始めたのと同じ日から続く、正体不明の肩の重み。

 触ってもそこに何もないのに、特大のバーベルでも据え付けられているかのような重さだけがある。

 しかも、日に日にその重さが増しているような気がする。

 

「学院、行かなきゃ・・・」

 

 絞り出すように、めぐるは口にする。

 かつて千穂子を傷つけてしまったことの罪滅ぼしとして、めぐるは千穂子に胸を張って会えるようになると心に誓った。

 たかだか悪夢を見たくらいで躓くなど、あまりにも情けないし、申し訳ない。

 

 

--ただ、お前が哀れだったから同情してやってただけ

 

 

--めぐちゃんはね、一生独りぼっちで生きていくの。それが私と、保科先輩への贖罪なんだよ

 

 

「っ!!」

 

 夢の中の千穂子の言葉が頭をよぎった。

 

(ちーちゃんは、本当にめぐるが人気者になることを喜んでくれるのかな?)

 

 さっきのは、ただの悪夢だ。

 しかし、もしも千穂子が本当にめぐるのことを恨んでいるのなら。

 果たして、めぐるがやろうとしていることに意味があるのか。

 むしろ、より怒らせてしまうのではないか。

 

「は、早く行かなきゃ!!遅刻しちゃう」

 

 そんな益体もない考えを頭を振って振り払い、めぐるは朝の支度にとりかかるのだった。

 

 

----

 

 

「魔女、アルプ、心の欠片、呪術に呪霊。呪術師かぁ・・・」

「やっぱり信じられないか?」

「いや、信じるよ。っていうか、オーナーが黒猫っていうのは見せてもらったし」

「七緒、そこまでしたんですか・・・」

 

 昼休みのオカ研部室。

 そこに、オレと綾地さん。それに仮屋の3人が集まっていた。

 部長である綾地さんと、幽霊部員のオレはともかく仮屋がここにいるのは、昨夜相馬さんに勧められたようにオレが呪術師だということを伝えるためだ。

 まさかそんな内容を教室で教えるわけにもいかず、部外者をシャットアウトできるオカ研を選んだのである。

 

「あのときはびっくりしたよ。なんか光ったと思ったらオーナーがいなくなって代わりに黒猫がいるし、なんでか知らないけど黒猫が考えてることが伝わってきたし」

「へ~。動物の姿をしたアルプには会ったことないけど、テレパシーみたいなの使えるんだな。呪霊でもあんまりいないぞ」

 

 オレが会ったことのあるアルプは相馬さんとアカギだけだが、ほとんど人の姿しか見たことがない。一応アカギは初めて見たときや昨日虹龍をけしかけたときはカラスの姿だったが、その状態で話したことはないし。

 人間の感情への理解が浅いアルプはあまり大きな魔法は使えないということだが、あくまで戦闘能力の話であってそれ以外では中々多彩なのかもしれない。

 

「それにしても、保科はともかく綾地さんも魔女だったなんて。いや、なんか怪しいなとは思ってたけど」

「私も驚きましたよ。まさか気づかれているなんて思いませんでした。本当に、保科君や私のことをよく見ていたんですね」

「う・・・なんかそう言われるとストーカーみたい。否定はできないけど・・・」

「小学校のころに付き合いあったオレならともかく、綾地さんのことに気付いたのはマジですごいと思うぞ。相馬さんも誉めてた。っていうか、オレとしても小学校のときにボロ出した覚えはないんだけど、どうして気づいたんだ?」

 

 綾地さんのことに気付いた仮屋は相馬さんの言う通り探偵の素質があると思う。

 だが、オレが不思議なチカラを持っているのに気付けたのはどうしてなのかも気になる。

 呪術は一般人の仮屋には見えないし、そもそも他人に使ったこともほとんどないのだが。

 

「いやいや、保科小学校のころはだいぶ目立ってたからね?『お前、なんで機嫌悪いのに笑ってんの?』とか、『テストでいい点取ったなら素直に喜べばいいのに』とか、隠してる本心をストレートにズバズバ言ってたし」

「うぅ・・・そういやそんなこともあったな。けど、それだけじゃ不思議なチカラを持ってることには繋がらないだろ?」

「それはそうだけど、それが何度も何度も続けばおかしいって思うでしょ?さすがに小学校のときは気付かなかったけど、この学院で会ったときも似たようなことしてたし」

「え?そうか?」

「そうだよ。普通そうにしてる人のところに行って、『なんか困ってる?』って聞いて回ってたでしょ?さっきのオーナーの話じゃないけどテレパシーでも使えるのかと思ったよ」

「あ~、学院入ったばかりのころか・・・」

 

 オレが姫松に入学したばかりのころ、人間関係のもめ事を起こさないように恩を売ろうと、やや積極的に困ってる人を探していたことがある。

 傍目から見れば、オレがどうやって困りごとに気付いたのか疑問に思えるかもしれない。

 

(ま、そんな風に思ったのも夏油に脅されたことがあったからだけど。あれがなければ不思議なチカラがあるとまでは気づけなかっただろうし)

 

「ん?仮屋、なんか言ったか?」

「何も言ってないよ」

「・・・そうか」

 

 一瞬、仮屋から妙な感情が漂ってきた気がしたが、あっさり否定される。

 ・・・薬臭さを感じるが、悪意はないようだし、放っておいていいか。

 

「そ、それより!!仮屋さんはどうやって私のことに気が付いたんですか!?」

「わわっ!?綾地さん!?」

 

 オレと仮屋が過去を振り返りながら話し込んでいると、綾地さんが話を振ってきた。

 マイナスの感情を感じるし、もしかしたら疎外感があったのかもしれない。

 

「えっと、綾地さんは案外わかりやすかったよ?一時、保科って周りからヤバいヤツ扱いされてたけど、アタシや海道みたいに前から付き合いがあったならともかく、綾地さんだけは保科に優しかったし」

「あ~、そういえばそうだな。あの頃は仮屋と綾地さん以外の女子からの視線がめちゃくちゃ痛かったよ」

「保科の、えっと、術式?だっけ?感情が五感でわかるって、そういうときヤバくない?」

「めちゃくちゃヤバいぞ。全身針で刺されるみたいな感じだった」

「うわっ・・・」

 

 綾地さんの代償を肩代わりし始めたころは本当にヤバかった。

 女子の視線がまさしくツララのようで、痛みと冷たさのダブルパンチを学院にいる間受け続けることになったのだから。

 オレの正直な感想を聞いた仮屋がドン引きしている。

 

「ほ、保科君!!あのときは本当にごめんなさいっ!!」

「あ、綾地さん!?いや、いいよ頭なんか下げなくて。もう済んだことだし」

 

 その一方で、綾地さんは顔を青くして椅子から立ち上がり、オレに頭を下げてきた。

 凄まじい濃度の罪悪感だ。

 まるで口の中に梅干しをいっぱいに詰め込まれたような酸味がしたので、慌ててフォローする。

 

「で、でも・・・」

『いやいや大丈夫!!今はそんなこともないし、綾地さんからは十分プラスの感情もらってるから!!』

「は、はい」

 

 心喰からの術式反転。

 ここしばらくの定番コンボによって綾地さんの心が安定したので、オレはホッと一息ついた。

 同時に心配になる。

 最終的にプラスに偏るとはいえ、ここまで感情がブレブレで綾地さんは大丈夫なのだろうか。

 

「・・・ねぇ保科。今、綾地さんに何かした?なんか、いきなり綾地さんの様子が変わったように見えたんだけど」

「え?」

 

 オレが綾地さんのことを心配していると、仮屋が訝し気な目でオレのことを見ていた。

 さっきも思ったが、観察眼の鋭いヤツである。

 まあ、オレが呪術師であることも、どういう術式かの説明もしたし、術式反転のことも教えていいか。

 

「ああ、実は・・・」

「ほ、保科君は何もしてないです!!私が勝手に立ち直っただけですから!!」

「え、ええ?」

 

 オレが説明しようとすると、綾地さんが声を張り上げて遮ってきた。

 そのまま、オレに顔を近づけてくる。

 ・・・綾地さんくらいの美人が急接近してくるのは心臓に悪いな。

 

(保科君!!術式反転のことは呪術を知ってる人でもあまり言わない方がいいと思います!!)

(え、そ、そうかな?)

(はい!!昨日も言いましたけど、人の心に土足で踏み入るようなものですから!!さすがにハードルが高いと思いますよ。私は大丈夫ですけど)

(う、う~ん、それはそうかも・・・?)

 

 人間を思い通りに操るなんてことはできないが、まあ確かに感情に干渉するチカラではある。

 仮屋に教えるのはもう少し他の事を教えて慣れてもらってからの方がいいか。

 

「保科?綾地さん?」

「あ~、仮屋。さっきのは本当に綾地さんが超スピードで立ち直っただけだから」

「っ!!っ!!」

 

 眉を顰める仮屋にオレが弁解すると、追従するように綾地さんがコクコクと首を縦に振る。

 

(これに誤魔化されると思われてるのかな・・・まあ、いいか。アタシも隠し事はしてるし)

 

「あ~、うん。そういうことにしておいてあげる」

 

(綾地さんには、アタシが昼休みにやってる『バイト』のこと、言わない方がいい気がするなぁ~・・・まあ、アタシも言いたくないし。痛い腹を探られたくないのはお互い様みたいだね)

 

 呆れたような顔をする仮屋だが追及を諦めてくれたようだ。

 さっきので誤魔化せたとは思えないが、よく見逃してくれたものだ。

 一体どういう心境の変化なのだろう。

 

「っていうか、仮屋。今更だけど、気持ち悪くないのか?オレの術式って感情を読めるんだけど」

 

 綾地さんに言われて改めて自覚するが、術式反転でなくとも、オレのチカラは感情に干渉するチカラだ。

 その時点で気味悪がられるかもと思っていたが、今のところ仮屋からそうしたマイナスの感情は感じない。

 

「ん?別に?何を考えてるのかはわからないんでしょ?だったらアタシはそんなに気にならないよ」

「え?なんでだ?」

「そりゃ・・・相手の感情を察するって、割と必須スキルじゃない?空気を読めない人って嫌われるし。その点で言うと、なんで保科はそんな術式持ってるのに空気読めない言動するの?」

 

 ぐうの音も出ないほどの正論が返ってきた。

 いや、オレも昔、周りの人にはオレのようなチカラを持っていないと気づいたときには『どうやって相手の気持ちを知るのだろう?』と不思議に思ったものだが。

 オレからすれば術式もないのに感情を察するスキルの方がよほど超能力じみている。

 

「お、おお・・・いや、オレの場合は感情がわかってるからこそ、下手に誤魔化すのは裏目に出そうというか、どう動けばいいかわからなくなる感じでさ」

「ふ~ん。情報過多ってヤツ?そう言われればわかるかも・・・ま、さっきも言ったけどアタシは保科にそんなチカラがあっても気にしないよ。むしろ、教えてくれてスッキリしたっていうか、ありがとうって感じ」

「そ、そうか・・・オレこそ、ありがとう」

「?なんで保科がお礼を言うの?」

「いや、まあ、なんとなく?」

「ふ~ん?」

 

 正直に『オレのことを気味悪がらないでくれてありがとう』というのは気恥ずかしくてお礼しか言えなかったから、仮屋はそれがどういう意図がわからないようだ。

 だが、オレの感謝は本心からのものである。

 やはり、それは正面からは言えないけれど。

 

「あの、話題がそれてませんか?今ここで話し合ってるのは、仮屋さんに保科君の事情を教えるためですよね?それはもう終わったと思うんですが」

「あ、ごめん・・・ま、まあ、これでだいたい保科の事情はわかったよ」

 

 なんだか少し棘がある感じの綾地さんに釘を刺され、オレたちは話を打ち切る。

 仮屋の言う通り、呪術のことについての説明はおおよそ終えた。

 相馬さんの言った通り、オレが呪術師だと知っても仮屋は昨日までの仮屋のままだった。

 

(仮屋が今まで通りでいてくれるのは、よかったな・・・でも)

 

 そのことに、オレは内心で胸をなでおろす。

 覚悟はしていたとはいえ、これまで仲良くしてた友達に疎まれるようなことになったら、さすがにショックを受けただろうから。

 相馬さんの勧めに従って、本当によかったと思う。

 しかし、本題はここからだ。

 

「それで、仮屋はこれからどうするんだ?これまで、オレのチカラのことが気になってたんだろ?それがわかったワケだけど」

「う~ん・・・アタシもちょっと悩んでるんだよね」

 

 これまで仮屋がオレのバイトのことをやたら知りたがっていたのは、オレが呪術師であると感づいていたから。

 それがわかった今、仮屋がオレのことを知りたがる理由はないハズだ。

 オレとしては、万が一先生の逆鱗に触れることがないように、呪術のことには関わらないでほしいのだが。

 

「ねぇ、呪術のこと、保科に教えてもらうのはダメ?」

「え?呪術使いたいのか?オレ、そんなこと教えられないぞ」

 

 オレが呪術師になれたのは、生まれつきチカラを持っていたことと、呪霊玉を心の穴に取り込んで生死の境をさまよったからだ。

 

(一応、他にも呪術を使えるようになるかもしれない方法はあるけど、まあ今のオレじゃ使えないしなぁ)

 

「え、そうなの?でも、不思議なチカラがあるっていうのは気になるじゃん。使えるようになれなくていいから教えてよ。ここ、オカルト研究部なんでしょ?」

「オレは幽霊部員だけどな。でも、そっか。う~ん、まあ、オレが教えるのならアリか?その代わり、勝手に調べまわるようなことはするなよ」

「わかってるって!」

 

 オレや相馬さんが心配していたのは、呪術について嗅ぎまわっている仮屋が先生に目を付けられることだが、オレが正式に教えるというのなら、何かあってもオレが悪いで済む。

 仮屋が責められることはないだろう、多分。

 

「あ、あの!!それ、私も教えてもらっていいですか!?」

「え?綾地さんも?」

 

 そこで、綾地さんがオレに迫ってきた。

 これまで、綾地さんはあまり呪術のことに関心を持っているような様子はなかったと思うのだが、実は気になっていたのだろうか。

 

(保科君のことをよく知るチャンスです!!それに、仮屋さんばっかり呪術のことを教えてもらうのは、やっぱり少しズルい気がしますし・・・)

 

「全然いいけど・・・でも、仮屋にも言ったけど呪術を使えるようにするとかはできないよ?」

「はい!それでもです!!」

「そ、そうなんだ・・・わかったよ」

「ありがとうございます!よろしくお願いします!」

 

 1人に教えるのも、2人に教えるのも大差はない。

 ここで綾地さんだけ除け者にするのもかわいそうだし、オレは快諾するのだった。

 

(・・・失敗したかも。これだとアタシのバイトの方が・・・綾地さんの前で言うんじゃなかったなぁ)

 

 どういうわけか、仮屋からモヤモヤとした感情を感じ取ったけども。

 

 

----

 

 

「とはいえ、何から教えるかなぁ」

 

 呪術のことを教えると言っても、何から教えたものか。

 魔女の綾地さんはともかく、仮屋は一般人で、呪力を見ることはできない。

 そんな仮屋にはまず何を言うべきか。

 

「ねぇ保科。さっき話してた呪霊って、この辺にもいるの?アタシにも見えるようになる?」

 

 オレが思い悩んでいると、仮屋の方から質問が来た。

 これはなかなかちょうどいい。

 

「いるぞ。呪霊は弱い順に蠅頭、四級、三級、二級、準・・はまあいいか、一級、特級って強くなるんだけど、一番弱い蠅頭はそこら中にいるな。弱すぎて何もできないけど。四級は、もしかしたらいるかもな。それより上はいない」

 

 蠅頭は探せば割とすぐ見つかる。

 四級は一つの街に一体か二体程度。

 三級より上はまず存在しない。

 そして、呪霊を見る方法についてだが・・・

 

(そうだな。ここで『ヤバい』ヤツを見せておくか。関わっちゃマズいってわかってもらうには荒療治だけど手っ取り早いかもしれない)

 

 オレの手持ちの呪霊の中に、その手の術式を持つヤツがいる。

 性格が最悪であり、こいつを解放することはまずないが、ほんの一瞬術式を使わせるだけなら問題ない。

 オレが調伏した呪霊は、オレに逆らうことができない。

 仮屋に呪霊は本来関わるべき存在ではないというのを教えるにはいい教材だろう。

 

(まあ、それでも『クソ人形』を出すのはさすがにマズいし、ここは・・・)

 

 椎葉さんには見た目がマシな虹龍を見せたが、ここはオカ研の部室だからデカい虹龍は無理。

 格納呪霊は見た目がダメ。

 呪霊を見えるようにできるヤツはいろいろヤバすぎるのでナシ。

 その他は適当にストックしてる有象無象だし、オレ自身どんなのだったかよく覚えてない。

 ならば、『アイツ』がいい。

 オレの手持ちの中で最強で見るからに威圧感があるが、性格はまとも。さらに、女子供の姿をした相手には呪霊でも甘い。

 仮屋や綾地さんに危害を加えることはまずない。

 ・・・戦闘態勢にさえ入らなければ。

 オレは、仮屋に見せる呪霊を決めた。

 

「じゃあ、仮屋。今から呪霊を見えるようにする呪いをかけるから、ビビるなよ?」

「え!?呪い!?そ、それって大丈夫なの!?」

「大丈夫大丈夫。ほんの少ししか使わないようにするし、最悪オレが解けるから」

「・・・まあ、聞いたのはアタシだし、保科がそう言うのなら」

「ほ、保科君!!わ、私は・・・」

「あ、綾地さんは大丈夫。魔女なら格の高いヤツは見えるみたいだから。大丈夫だけど、一応呪いだし、使うのは仮屋にだけね」

「そ、そうですか・・・」

(呪いかけられなくて残念そうにする人なんているんだな・・・)

 

 椎葉さんは蠅頭は見えなくても特級は見えていた。

 ならば、あの術式を使うのは仮屋だけでいい。

 綾地さんは残念そうにしてるが、そもそも使わない方がいい術式なのだ。

 今回は荒療治に使えるというだけで。

 

(よし・・・おい、0.1秒だけ起きろ。あの子にだけ『シルシ』を刻め。ただし、持続は1分だけだ。わかったら早くしろ)

 

『・・・・・』

 

 オレは素早く、『クソ人形』に命令した。

 一瞬、凄まじい怒気を感じたが、オレの命令に逆らう術をコイツは持たない。

 渋々といった風に、ほんの少しの間だけ、『西洋人形の腕』が現れて仮屋を指さした。

 

「熱っ!?」

 

 人形の腕が現れたのはほんの一瞬。

 動体視力に優れた呪術師でもなければ見過ごすほどで、仮屋も綾地さんも気づかなかった。

 しかし、その変化はすぐに現れる。

 

「な、なにこのアザ?」

「そのアザが浮いている間は、普通の人にも呪霊が見えるようになる。今回は1分しか出ないようにしたから安心しろ。それじゃあ、本命行くぞ」

 

 仮屋の手首に、獣が嚙みついた跡のようなアザが浮く。

 あのアザが浮かんでいる間、呪霊の最優先攻撃対象になる代わりに一般人でも呪霊が見えるようになる。

 効果を強めると意識が混濁し、記憶の重大な欠落が起きるのだが、今回はほんの軽くしかかけていない。

 だがこれは前座に過ぎない。

 本命はこれからだ。

 

(『軍曹』。オレの目的はわかってるよな?この子たちに深入りさせないためだ。気は進まないかもしれないけど、この子たちを守るためと思って協力してくれ)

 

 再び念じる。

 オレが調伏した呪霊はオレに服従するが、それでも良い関係が築けるヤツはそうした方がいい。

 特に、今から呼び出そうとしているヤツは善良な部類なのだから。

 

『・・・・・』

(ありがとう)

 

 ややあって、オレの生得領域の中で呆れるような気配がしたが、協力してくれるようだ。

 オレは心の中で礼を言った。

 

「仮屋、綾地さん、よく見ていてほしい。今から出すヤツが、オレの従えてる中で最強。呪霊全体で見てもトップクラスのヤツだ」

「ちょ、保科!?いきなりそんなの出すの!?」

「保科君!?」

「大丈夫。コイツは女子供には甘いから。危害を加えることはないよ」

 

 オレが呼び出そうとしている存在の恐ろしさが生物の生存本能としてわかったのか、怯えだした仮屋と綾地さん。

 しかし、オレは心を鬼にして続ける。

 

「散華しろ・・・殉国禁獄鬼軍曹」

 

 オレが名前を呼ぶと、オカ研の部室の床に鮮血のようなシミが滲み、その中から、ズルリと大柄な男が現れる。

 

『・・・・・』

 

 旧日本軍の軍服を身にまとい、軍刀を携え、その顔と身体にいくつもの古傷を刻んだ男は、少しの間視線をさまよわせ・・・

 

 

--ギロッ!!

 

 

 主以外の存在である、2人の人間を睨みつけた。

 ・・・このとき、オレは一つ見誤っていた。

 

「「ヒっ!?」」

「あ、あれっ!?仮屋?綾地さん!?」

 

 それは、普通の人間である仮屋と、魔女とはいえ戦闘など無縁な綾地さんたち2人と、数年前から特級呪霊相手に戦ってきたオレとでは、『耐性』が全く違うということ。

 

「「・・・・・」」

「き、気絶してる・・・どうしよう」

『・・・・・』

 

 特級の中でも上澄みが放つプレッシャーにあてられて気絶した2人を前にしてうろたえるオレ。

 そんなオレに呆れかえったような視線を向けながら消えていく軍曹。

 

「そ、そうだ!!反転術式!!頼む、起きてくれ2人とも!!」

 

 オレは、慌てて反転術式を回して2人を起こそうと全力を尽くすのだった。

 ・・・昼休みが長くて本当によかった。

 

 

----

 

 

「おかえり、アカギ。心配したんだよ?」

 

 アカギは、野生を生き抜いてきた経験を持つアルプだ。

 そこそこ腕は立つという自負がある。

 修羅場もいくつかぬけてきた。

 そういう者にだけ働く勘がある。

 その勘が言ってる。

 

(あっちは・・・ここで死ぬ・・・・・!!)

 

 紬の住むマンション。

 扉を開けてすぐの場所に待ち構えていた紬。

 紬の顔には笑顔が浮かんでいたが、瞳には一切の光がない。

 その吸い込まれそうな闇を見て、アカギはそこに自分の運命を幻視するのだった。




次の話は、pixiv版でR18のおまけを書こうかなと思ってます。書けるかわかりませんが。
燃料になるように、感想や評価お待ちしております。

pixiv版でのブクマやいいねもお待ちしております。

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=28487205

この作品をご存じでしょうか?①ダークギャザリング、②死印、③東方Project

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