女の子が苦しんでいるのを肩代わりしてしまう少年の話 作:二本角
高評価を付けてくださりまことにありがとうございました。大変励みになりました!
そして千恋万花がアニメ化するそうですが、サノバウィッチは無理だろうなぁ。
センターヒロインがモザイク必須になってしまう。
場面は、昨夜の風呂上りにさかのぼる。
全身濡れネズミのアカギを柊史が目をつぶったまま捕獲し、バスタオルでミノムシにして着替えさせた後のことだ。
「そういえば小僧。気になっておることがあるのじゃが」
「なんだよ?っていうか、ちゃんと着替えたか?」
「うむ。少しぶかぶかだがな」
「そのくらいは我慢しろよ。はぁ、オレの子供の頃の服、とっといてよかった」
何気に、手をつなぐ、お泊りするに続いて彼シャツまで紬に先んじたアカギであるが、柊史もアカギも大して気にしてはいない。
それよりも、アカギの話の方に関心があった。
「で、なんだよ?」
「ああ。お前が契約してる紬ではない魔女のことだ・・・その魔女の代償はなんだ?」
アカギが気になっているのは、少し前に公園で見た異様な雰囲気の柊史だ。
魔女の代償を肩代わりした結果ああなったということだが、一体どんな代償ならばあんなことになるのか。
(小僧は、あっちと紬に手を出せない契約、縛りを結んでいる。じゃが、それでもあれを放っておく気にはなれん。七緒と契約している魔女ならまず大丈夫だとは思うが、念のためな)
アカギと柊史が初めて会った際に、柊史はアカギと紬に危害を加えないという縛りを結んでいる。
だが、呪術師ではないアカギにとって、縛りの強制力を完全に信じ切るのは難しかったのだ。
そして、アカギの抱くその危機感は柊史にも伝わっていた。
「悪いけど、言えない。これはオレだけの問題じゃなくて綾・・・その魔女の問題だからな」
だが、正直に言えるハズもない。
確かに、あのときはアカギと紬を怖がらせることになってしまったが・・・
(さすがに、代償が発情だなんて本人の許可なく言えないよな・・・)
寧々の代償は、あまりにもセンシティブな内容だ。
本人の許可なくバラせば報復で殺されても文句は言えない。
柊史としても墓までもっていく覚悟である。
しかし、アカギとしても引き下がるワケにはいかなかった。
七緒のことを知っているためにそこまで危険視はしていないが、無視できるほどでもない。
なにより、今は手札を増やす絶好の機会だ。
(もう十分情報は聞けたが、手土産は多い方がいいからの)
ここ最近の紬が発する禍々しいオーラはアカギの神経をゴリゴリと削っており、それを少しでもなんとかできるなら労は惜しまない。
ちょうど、柊史が自分に対して甘くなっていることだし・・・と、アカギは考えていた。
契約相手の年下の人間に怯えてそこまでするほどアルプとしてのプライドはボコボコになっているようだが、アカギはまだそこには気づいていないようである。
「・・・相手はあの堅物の七緒と契約しておるくらいじゃ。悪いヤツではないのじゃろう。じゃが、お前があのようになったのじゃ。一体どんな願いを持っていればああなる?」
魔女の代償は、その魔女の資質に大きく影響され、その資質には願いの内容も含まれる。
あのときのようなことを引き起こす願いとなれば、一体何を望んだというのか。
「そういえば、綾地さんの願いはオレも知らないな」
「ん?そうなのか?」
「ああ。オレが椎葉さんの願いを聞いたときに少し気まずいことになっちゃってさ。聞かないようにしてたんだよ」
以前、紬の願いに対して柊史がコメントしたとき、うっかり紬を怒らせてしまったことがある。
その後はどういうワケか、紬が怒りを引っ込めて心配するようなまなざしを向けて来たが・・・同じようなことを繰り返さないためにあえて寧々に問わなかったのだ。
「でも、綾・・・その魔女が邪悪な願いを持ってるなんてのはあり得ないと思うけどなぁ。改めて言っておくけど、オレって人の感情が読めるんだぜ?その魔女、椎葉さん並みにいい人だぞ」
「一応聞いておくが、お前、その魔女に弱みかなにか握られて無理やり言うことを聞かされているワケではあるまいな?」
「は?なんでそんな話になるんだ?」
(まあ、そうじゃろうな)
柊史の反応はアカギの予想通りであった。
件の魔女が邪悪だというのは紬の思い込みに過ぎない。
なんらかの方法で脅しているに違いないと紬は言っていたが、アカギから見て目の前の自然災害に匹敵する人間をどうしたら脅せるというのか。
しかし、それはそれで『公園での異様な様子の柊史』に説明がつかないのが引っ掛かる。
「苦痛を伴う代償は、邪悪な資質を持つ魔女に現れる特徴じゃ。あのときのお前はとてもまともではなかったぞ。つまり、その魔女がタチの悪いヤツじゃという疑いを持つのはおかしくあるまい?」
アカギとしては紬の妄言などバカバカしいと思っているが、さりとて完全に否定することはできていない。
やはり、件の代償を肩代わりしたときの柊史の様子がネックであった。
「それを言われればそうなんだが・・・う~ん、なんて言えばいいか」
今の柊史は、木月千穂子の件もあってアカギに対して真摯であろうと心がけていた。
故に、代償の内容は言えないにしても寧々が危険な魔女ではないことはきっちり証明しようと考えた。
それに、アカギが気にしている内容はもっともでもある。
紬を危険な目に遭わせかけたのだから注意を払って当然だ。
「そうだな・・・その魔女の代償は、人によって危険度が違うんだ」
「どういうことじゃ?」
「その魔女自身が代償を払っているときは周りに危害を加えるものじゃないけど、オレの場合はあのときみたいになるって感じだな。とくにあのときは、めちゃくちゃ波が大きかったし」
「???」
柊史は、可能な限りぼかして真実を伝えることにした。
柊史の言うことに嘘はない。
寧々ならば自慰で済ませるところを、柊史の場合は目の前にいた
柊史の名誉のために言うのなら、寧々に正体がバレる前までに肩代わりしていた分は自分で処理できていた。
紬を襲いそうになったのは、寧々にとっても五指に入るほど発情の波が大きかったのと、目の前に柊史にとって非常に好ましい紬がいたからからである。
「よくわからん・・・」
「あ~、まあ、代償の内容は詳しくは言えないけど、それそのものが邪悪かって言われたら違うとは思うな。多かれ少なかれ、誰だって持ってるモノが大きくなるというか・・・オレの予想だと、あの大きさの代償を肩代わりしたら、男、いや、世の中の半分くらいの人はオレみたいになって、もう半分は1人でなんとかすると思う」
アカギはよくわかっていないようだが、やはり嘘はついていない。
発情の代償はそれそのものは邪悪と呼べるモノではないだろう。
あまり行き過ぎれば柊史のように他者に襲い掛かるリスクはあるが、あれは代償の肩代わりというイレギュラーがあってこそのモノ。
寧々ならば、基本はすべて1人で処理してしまえるハズだ。
代償を決定するシステムの全貌は明らかになっていないが、発情の代償が他者を傷つけるようなリスクを孕みつつも心優しい寧々に課せられたのは、その辺りの気質も加味されたのではないかと柊史は思っている。
「まあ、何が言いたいかって言うと、その魔女は邪悪なんかじゃなくてめちゃくちゃいい人だってこと。願いについては知らないけどな。なんなら、嘘を付けないって縛りを結ぼうか?」
「う~む、そうじゃな。頼む。それではっきりするじゃろ」
「わかった。じゃあ、行くぞ。『保科柊史は今から10秒間アカギに嘘は付けない』・・・」
そうして、アカギは柊史の言っていたことが真実だと納得したのだった。
なお。
『しゅ、柊史がこんな小さな子を家に連れ込んで・・・!?お前、ロリコンだったのか!?しかも自分の服を着せるなんて、マニアック過ぎだろう・・・せめて中学生にしておけ!!小学生はマズい!!』
『違う!!っていうか中学生もマズいだろ!!この子はアルプだよ!!』
『なんじゃやかましいのぉ~、せっかく寝ておったのに』
客間で寝ていたところを帰って来た太一に見つかり、柊史にロリコン疑惑がかけられたのだが、アカギの変身後の姿を見たことで疑いは晴れたのだった。
これにより、柊史の親に面識ができた順番でも紬を抜いてしまったが、それが明らかになるのはだいぶ後のことである。
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「・・・開店前の店に来て、一体何の用だ、アカギ。見ての通り私は忙しいんだ」
「なぁに、少し聞きたいことがあってな。お前が契約している魔女のことじゃ」
「寧々の?」
鳥類の朝は早い。
朝の5時に起きて寝ている柊史を叩き起こしてから朝食を作らせた後、アカギは配下のカラスたちの報告を聞いて、昨日追跡させた寧々と和奏の家の場所を確認。
さらにその後、シュヴァルツ・カッツェを訪れていた。
「ああ。あっちとあっちが契約している魔女は、お前のところの魔女のせいで大変なことになりそうだったのじゃ。その落とし前を付けさせてもらおうか」
「・・・もしや、保科君が肩代わりした代償のことか?お前が姫松に来たのも、それが理由か?」
「さてのぉ?ま、昨日の夜にあっちに何一つ言い返せなかった負け犬ならぬ負け猫を見に来ただけかもしれんがなぁ?」
「アカギ、お前・・・!!」
アカギがここに来た理由は、柊史から聞き出せなかった代償のことを聞けるかもしれないと思ったからだが、本命は昨晩言い負かしてやったいけ好かないアルプのほえ面を拝むためだ。
これまでは散々七緒に先輩風を吹かされてきたアカギだが、今回は珍しく柊史を味方に付けているアカギが優位な立場にある。
しかも、寧々に悪気は一切なく、柊史が引き金を引いたようなモノとはいえ、迷惑をかけられたのは事実なのだ。
積年の恨みを返す絶好の機会を逃すつもりは毛頭なかった。
「ほれ、さっさと戸を開けんか。あとミルクもな」
「・・・早く入れ。ミルクを出すかはお前の話次第だがな」
「ふん。けち臭いヤツじゃの」
そうして、アカギは店内に入り、自分たちの身に起きたことを説明した。
「・・・そんなことが」
「ふん。やはり小僧は言っていなかったか」
多少誇張はしたが、柊史に確認されればすぐにバレるためにほぼ事実を語ると、七緒は苦い顔をしていた。
かなり大きな代償の波があったことは柊史からの補填で知っていた七緒だったが、柊史からは『取り返しのつかないことにはならなかった』としか聞かされていない。
だが、柊史が濁すくらいのことはあったのだろうと予想していたために、アカギの言うことを嘘と断定することはなかった。
「・・・それで、お前は何を聞きたいんだ」
「お前の魔女の代償と願いを教えろ。それで水に流してやる」
しばらくして、苦虫を嚙み潰したような表情で手打ちの条件を伺う七緒。
それに対してご満悦と言わんばかりの表情でミルクのカップを傾けながら要求を突きつけるアカギがいた。
「・・・それはできない。保科君が言わなかったのだろう?ならば、それは私が口を挟めることではない」
「ほう?お前、自分がどんな立場かわかっておらんのか?」
「もともとの原因が私の魔女にあることは申し訳ないと謝罪させてもらう。だが、当の保科君の意思を私は尊重するという話だ。それを覆すには、まず保科君に確認を取らねばならないだろう?」
「・・・ふん」
言外に、『ここに来ているのは柊史ではなくアカギの独断だろう?』とほのめかす七緒。
アカギとしても、ここで無理やり七緒から情報を聞き出したことがバレれば、せっかく自分に甘くなっている柊史の負い目を帳消しにしかねない。
そのデメリットを被ってまで聞く必要があることでもない。
気に入らない先輩である七緒から謝罪を引き出し、ついでにミルクまで奢らせた時点でだいぶ溜飲は下がっていた。
「まあいい。なら他のことを聞くとしよう。お前の魔女は、邪悪な願いを持っているワケではないのだな?」
「普段なら私の魔女への侮辱としてつまみ出してやるところだが、状況的にお前が疑うのも無理はないから答えてやる。間違いなく、私の魔女の願いは至って普通の願いだよ。人を傷つける類ではない」
「では、お前の魔女が小僧を脅して縛りを結ばせたワケではないのじゃな?」
「ああ。完全に保科君の善意だよ。保科君にも打算を含めていろいろ思惑はあるだろうが、大部分は私の魔女を放っておけなかったからだろう。今時珍しいくらい善良な人間だよ」
「ふん。まあ、それに異論は言わないでおいてやる」
アカギも七緒も、柊史から術式反転で代償の肩代わりによる補填を受けている。
そのために、柊史の善性についても共通認識となっていた。
「しかし、それはそれで面倒じゃのう・・・紬をどうやって納得させるか。あっちの魔女は、お前のところの魔女を邪悪なヤツだと決めつけてしまっておるからの。えらく怒っておるわ」
「それも無理のない話だとは思うが、そんなにか?」
「うむ。目の前にいれば、殴りかかりに行くくらいはするじゃろうな。なにせ、あっちの魔女は小僧とつがいになりたがっておる。自分の雄に妙な真似をされれば怒るのも仕方ないじゃろ」
「つがいにか・・・そういえば、寧々も」
「ん?」
柊史から聞いた話の裏付けが取れたアカギだが、それは紬の妄想が完全に誤解であることを意味していた。
さて、一体どうやってその誤解を解くか、あるいはそのままにしておくかと悩ましいところだ。
誤解が解ければあの身の危険を感じるほどの怒りも収まるか、さらに悪化するかまったく予想がつかない。
生き物というのは、自分のつがいが絡むと冷静な考えができないものだというのは、一夫一妻が多い鳥類であるアカギにはよくわかっていたからだ。
そんなアカギのぼやきを聞いて、七緒もふと思い当たることがあった。
「いや、私の魔女も、おそらく保科君に気があるように見えているんだ。この前、私が夜にここで保科君に代償の補填のことで会っていたことを話したら、ずいぶんと気が立っていた」
「・・・そうか」
(七緒。お前もか)
アカギは七緒のことをいけ好かないと思っているが、契約している魔女から雄を盗られないか威嚇されていると聞き、強い共感を覚えていた。
アカギは服のポケットをゴソゴソとあさり、紬から持たされた紙幣を取り出して七緒に突き付けた。
「ミルクの代金じゃ。釣りはいらん。取っておけ」
「・・・明日は槍でも降るのか?それとも、ミルクが痛んでいたか?おいアカギ、お前どこかに頭でも・・・」
「やはりやめじゃ・・・おい、体温計を持ってくるな!!あっちは病気などもっておらんわ!!」
それまで横暴極まりないアカギが急にしおらしくなったことに不気味を通り越して心配になった七緒が救急箱を持ってくると、アカギは再び怒り出し、それを見た七緒は逆に安堵するのであった。
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「と、そんなことがあったのじゃ」
そして時は現在に戻る。
当初は絶句したまま目を見開いて動かない紬相手にどうしたものかと思っていたが、邪魔をされないうちに話せるだけ話してしまおうと思ったら、なんとかすべて言い切ることができていた。
そのまま、恐る恐る紬の反応を伺うと。
「そんな、そんなの、嘘だよ・・・」
うわごとのように、紬はそう呟いていた。
紬にとって、柊史と契約を結んだ綾地某は邪悪で、狡猾で、柊史を道具扱いする痴女だった。
その前提が崩れたのだ。
だが、その事実を信じ切ることなどできなかった。
「だって、だって・・・保科君が傷ついたことは確かなんだよ?なのに、保科君がそれでも契約を続けるなんて、脅されてでもなければあり得ないよ」
アカギの証言が正しいのならば、あり得ないことがある。
それは、柊史が指を自分で食いちぎるような凶行に及んだあとも件の魔女と契約を結び続けていることだ。
「もしもワタシがその魔女だったら、保科君にそんなことをさせるなんて絶対無理だよ・・・」
その魔女の代償が、柊史にとってのみ危険なものに変わるというのが正しいとしよう。
だが、それならば即刻自分から契約を解消するように訴えかけるのが普通だろう。
少なくとも紬なら必ずそうする。
そうしないということは、それは柊史が傷つくことを許容しているということだ。
そしてなによりも。
「保科君が、それでも契約を結び続ける理由なんてあるワケない・・・!!」
柊史の側が、その状況をよしとしていること。
脅されているのでもなければ、そこまでの傷を負ってまでその魔女の側に立ち続ける理由など・・・
(その魔女が、よっぽど大事な人でもなければ・・・っ!?)
チラリと頭の中をかすめた可能性。
それを認識した瞬間、紬の胸中にドス黒い感情が沸き上がる。
(違う!!アカギは、保科君がワタシと手をつないだときにすごく喜んだって言ってた。それに、その魔女のアルプが『放っておけなかったからだろう』って・・・そうだよ、保科君はすごく優しいから)
思い浮かんだ懸念を、必死に拙いロジックで塗りつぶす。
常識的に考えて、いくら聖人君子であってもそこらの他人を助けるために自分の身体を切り売りするような真似などできるワケがない。
しかし、奇しくもその考えは正解であった。
「ま、まあ、小僧にとっては内臓破裂だの腕や足が吹き飛ぶなどよくあることだそうじゃからの。指の一本くらいは何とも思っておらんのではないか?」
「・・・ちょっと待って、アカギ。それ、どういうこと?」
「う、うむ。これも前に聞いたことなのじゃが・・・」
アカギから飛び出した件の魔女のこと以上に衝撃的な発言に、紬の思考がいったんわきに逸れた。
・・・これは呪術にまったく縁のない紬には想像もできない話であるが、高レベルの反転術式を使える術師にとって、呪術的な意味でも持たせるのでなければ脳と丹田以外の欠損は致命傷にならない。
とある史上最強の術師は心臓の欠損(それも自分ではなく他者)を治してみせたし、その最強の術師との闘いでは参戦した術師たちの腕やらなにやらがポンポン吹っ飛び、そのたびに再生していた。
本来味方であるのに縛りでとある少年を殺さなければならなくなった術師は、殺した後に即反転術式を使うことで蘇生させ、縛りを踏み倒したことすらある。
なお、このとき殺された少年は上述の心臓を蘇生された人物と同一である。
さすがに心臓を再生したことはないが、柊史とその師匠である夏油にとって四肢欠損くらいでは戦闘不能とみなさない。
ましてや指一本程度、『ちょっとミスったな』としか思っていないのだ。
「そ、その先生って人も保科君も何考えてるの・・・?」
「そんなのあっちにもわからん。じゃが、小僧が指をあっという間に治したのは事実なのじゃし、本当に気にしてないのではないか?ただ、あっちにはその修行とやらの話をしている小僧は楽しそうに見えたのぅ」
「・・・はぁ」
アカギから断片的にではあるが日頃どういう修行をしているのか聞き、紬は深いため息をついた。
柊史が呪術を使うことに楽しさを見出していることにはそんな気もしていたので、悪い意味で信ぴょう性がある。
しかし。
(そうだよね。保科君にとっては、綾地って人の代償の肩代わりは大したことないんだ。だから、今も契約を続けてるんだよね)
それは、紬にとって実に都合のいい理由でもあった。
柊史にとって、寧々の代償の肩代わりは大きな負担ではないから、その気質故に見捨てるという判断ができていないだけであると。
(さすがの紬も、これは効いたようじゃの)
落ち着いた紬を見ながら、アカギは内心でほくそ笑んだ。
今まで完全に外敵だと思っていた相手が自分と同じ人間を好いており、自分よりも物理的に近い距離に居座っている。
その事実は『我こそ最強!!』と慢心していた紬にとっていい薬となったようである。
「ほれ、これでわかったじゃろ?小僧の近くには油断ならない雌がおるのじゃ。お前もうかうかしてられんぞ?」
和奏の方はともかく、寧々は柊史と関わり始めた時期を考えても紬と立場がよく似ている。
そして、紬とアカギは柊史が取り出した寧々産の欠片を見ている。
あんな欠片を作れるほどのプラスの感情を送れるとなれば、七緒の言う通り柊史のことを好いているのは間違いないとみていい。
「うん。ワタシは絶対に負けないよ、アカギ」
紬は、力強く答えた。
アカギの思惑通り、危機感を大いに刺激されたのだ。
しかし、それだけではない。
「ワタシは、保科君に怪我をさせて喜ぶ変態さんには負けないから」
「・・・は?」
脈絡なく飛び出した『変態』という言葉に、アカギの反応が遅れた。
そんなアカギの様子を知ってか知らずか、紬はいかに綾地某が柊史に相応しくないのか語り始める。
「だってそうでしょ?公園のときに肩代わりしたのが特別大きな代償だったとしても、普段からやってもらってるのなら、それで何が起きたのかくらいはわかるよね?保科君が契約を打ち切らないのは保科君が優しいからだと思うけど、綾地って人の方から断ってないのは絶対におかしいよ」
紬は自身の代償を重いと思っている。
気を付ければ回避できるとはいえ、猛烈な吐き気はキツイし、TPOを無視した男装によって世間体を切り売りしなければならない。
だが、それでも寧々の代償に比べれば遥かにマシだ。
いくら治せるし気にしないといっても、自分のせいで柊史の身体を欠損させるような事態になるなど、紬には耐えられない。
それなのに柊史との契約を続けており、それでいて柊史に抱く好意も間違いないと言うのなら、答えは一つ。
「アカギ。世の中にはね、人を痛めつけるのが好きっていう趣味の人がいるんだよ」
数日前、寧々を痴女と判断したのは紬が文明の利器を用いて情報を集めた結果だった。
そしてそのとき集積した情報はまだ紬の脳内に残っているのだ。
世間には、嬉々として他人を鞭で打ち据えるのを好む類の変態がいるということも。
「そ、そうなのか・・・?」
当然、まだまだ人間社会に疎いアカギがそんなことを知るはずもない。
しかし、こんな場面で紬が嘘をつく理由もない。
(あっち、このまま人間を目指して大丈夫なのかのぅ・・・)
アカギには、揺るがぬ願いがある。
今は千穂子のことに注力しているが、自分がアルプとして生きていく目標を忘れたことはない。
だが、そのショッキングな情報によって、ほんの刹那の間、自分の行く末が不安になった。
一方の紬といえば。
(保科君。絶対に、ワタシが助けるから!そういう趣味は、ちゃんとお互いの好みが合った人どうしでやらなきゃダメ!!押しつけはよくないよ!!)
紬は、他人の趣味にいちいち口出しするほど狭量ではない。
だがそれが自分の大事な人に危害を及ぼすのなら話は別だ。
結局、やることは変わらない。
相手が狡猾な痴女から、粘着質な変態に変わっただけのこと。
紬の脳内では、ベルトを巻き付けたような、いわゆるボンテージを纏った女が柊史に鞭をふるうヴィジョンが浮かんでいた。無論、変態の象徴であるコートのようなマントもセットである。
とはいえだ。
(これからは、もっと積極的にならなきゃ・・・でも、どうすれば)
紬はまだ自分の恋心を自覚したばかりの初心者だ。
攻撃は最大の防御。
柊史が変態に捕まる前に自分が捕まえてしまうのが一番だとは思うが、そのために何をすればいいのかはわからない。
交尾交尾とアカギは言うが、さすがにそれは最終手段である。
そう、あくまで最終手段だ。
だが、その
(・・・っ!!そうだっ!!)
紬の脳内に電流走る。
ちょうど、もうすぐ時期ということで自分も困っていたことがある。
その検証のために、柊史に協力してもらえばそれだけでアピールになるかもしれない。
(こ、これはワタシが学生生活を送るためにやらなきゃいけないことだから、保科君に手伝ってもらうのも不可抗力ってやつだよね・・・)
そんな紬の視線の先には、『プール開き』と書かれたカレンダーが壁にかかっていたのであった。
作者としてはどっちかって言うと、椎葉さんの方がSっ気あると思います。
引き続き、高評価、お気に入り、感想をお待ちしております。
pixiv版もよろしくです。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=28733495
また、今回はpixivにのみR18のおまけを投稿しております(リンクの次の話)。
初めてR18を書きましたが、まだまだ修行が足りないです。
こちらも応援していただければ幸いです。
この作品をご存じでしょうか?①ダークギャザリング、②死印、③東方Project
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すべて知っている
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①と②を知ってる
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①と③を知ってる
-
②と③を知ってる
-
①だけ知ってる
-
②だけ知ってる
-
③だけ知ってる
-
すべて知らない