女の子が苦しんでいるのを肩代わりしてしまう少年の話   作:二本角

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お盆休みってなんですか?食べられるものですか?

今回のお話はタイトルがすべてです。
サノバウィッチはヒロインどうしの仲がとてもいいですが、この作品にそこは一切の期待をしないでください。

そしてka20様、Juarat様、評価ありがとうございました!!励みになります!!


この作品にヒロインどうしの友情は存在しません

「昨日の椎葉さん、一体何があったんだ・・・?」

 

 昨日はいろいろあった。

 仮屋にオレが呪術師であることを教えたり、綾地さんも交えて鬼軍曹を見せて気絶させてしまったり、夜中に椎葉さんに連絡したらよくわからない代償の肩代わりを頼まれたり。

 その中でも最後の肩代わりは詳細がまったくわかっていない。

 オレとしては、遠隔肩代わりの検証をほとんどしていなかったから、以前のような惨事を回避するためにやっておこうというつもりだったのだが、それにしては椎葉さんの反応は妙だった。

 一体どんな服を着たのかは知らないが、そこそこ重めの代償だったことはわかる。

 しかし、それよりも気になったのは椎葉さんの反応だ。

 遠隔では呪霊を介するという仕様上、マイナスの感情しか感じ取れないのだが、椎葉さんからはすさまじい罪悪感が伝わって来た。

 しかも、今後の参考とするためにどれほど女の子らしい服を着たのか聞いた際には、『絶対に教えない』という強い拒絶の感情も込みでだ。

 椎葉さんからそこまでの拒絶を感じ取ったのは初めてだったので、地味にショックである。

 だが、普段物腰柔らかだがあれで頑固なところもある椎葉さんなので、頼んだところで教えてはくれまい。

 正解を確かめる方法がないのに考えたところで無駄だろう。

 それよりも、もっと考えるべきことがオレにはある。

 そもそも、どうしてオレがいきなり遠隔肩代わりのことを夜中に検証しようと思ったのか。

 それは、前々から確かめておくべきと思っていたのもあるが、オレの呪術の腕前を見る指標として使えると判断しからだ。

 ではなぜ、急に呪術のレベルを確認したいと思ったのか。

 

「使ってみたら、案外普通に使えたな、『アレ』」

 

 どうしても、習熟しておきたい術式ができたからだ。

 

 

--千穂子さんのことをなんとかできるかもしれない方法はある

 

 

 アカギから木月千穂子さんのことを聞いたのは一昨日の夜だ。

 木月さんは因幡さんを救うために魔女となり、記憶を失うという重い代償を支払ってその願いを完遂した。

 だが、願いを叶えてもその記憶は戻っていないという。

 

「それは、よくないよな」

 

 オレには、信念(ポリシー)が一つある。

 それは、『善人が傷つくことを見逃さないこと』。

 オレの術式が術式となる前から、オレには感情を感じ取るチカラがあった。

 オレの人生には常に他人の感情があったのと同義である。

 そんなオレからすれば、世間というのはプラスの感情よりもマイナスの感情で満ちている。

 プラスの感情はオレにとって有益なモノで、マイナスの感情はその逆。

 心から誰かを想える人間は希少で、だからこそオレはそうした人間が他の悪意を持った人間に利用されたり、苦しめられていることが許せない。

 単純な打算、頑張っている人が報われて欲しいという気持ちもあるが、それ以上に他者を好んで苦しめるような腐った人間を心の底から嫌悪しているのが大きい。

 

 

--キミのその意見は正しいと、この私が認めよう。その考え方は忘れてはいけないよ・・・(普通の人間)から呪術師(自分)を守るためにもね

 

 

----キミは特別な呪術師(にんげん)だ。周りの猿ども(うぞうむぞう)とは違う

 

 

 かつて先生が口にしていた言葉。

 オレはそれを昔から繰り返し耳にしてきた。

 多分に選民思想に塗れた考えだと頭では思うが、心の中にいるオレはその言葉を肯定している。

 いや、厳密にはその範囲が違うだろう。

 先生の場合は術師と非術師。

 オレの場合、それが善人と悪人になっているのだ。

 なぜなら、過去のオレにとって善人とは父さんと先生だけであり、あとは似たり寄ったりの有象無象か腐ったヤツしかいなかったから。

 父さんは肉親ということもあって例外とすると、善人=先生=術師であった。

 だから、オレと先生の価値観は結果的に非常に似通っている。

 そのことが、オレの悪人嫌いを助長しているのではないかと自己分析したこともあるが・・・今大事なのは、因幡さんを救った木月さんを苦しめているモノが許せないということだ。

 オレには、木月さんを救える可能性がある。

 これまで、オレはその手段を嫌悪していてろくに使うことがなかったが、アカギの話を聞いてじっとしたままでいることもできなかったのだ。

 そして昨日、オレ自身を対象に使ってみたのだが、思ったよりコントロールができていた。

 

「まあ、オレに使ってるからかもしれないけど」

 

 例の方法は非常に危険な術式だ。

 おいそれと他人に使うことなど考えられない。

 自分に使ってみて大丈夫だったのは、単にオレが術者本人だったからなのか、あるいは『これで死んでも別に構わない』と思いながらやったからかもしれないのだ。

 この術式を使う上で最もネックなのはオレ自身のトラウマだが、こと自分に使う場合、それはある種の『罰』であり、失敗しても構わないと思っていたためにうまく制御できていた可能性がある。

 

「・・・・・」

 

 オレは、スマホを取り出して通話アプリを開いた。

 そこには、前から登録されていた人もいれば、つい最近になって増えた人もいる。

 前からいたのは、父さんに先生、仮屋に海道。

 新しく増えたのは、椎葉さんに綾地さんに因幡さん・・・因幡さんは、数日前から既読すら付いていないがオレにはどうすべきかわからずそのままになっているけども。

 

「・・・・・」

 

 そう。オレは、オレのことを大事に思ってくれている人がいることを知っている。

 これは自惚れではなく、術式が示す事実である。

 オレにもし何かあれば、きっと悲しませてしまうだろう。

 そうなったら、本当に申し訳なく思う。

 しかし、オレは例の術式を使うとき、どうしても思ってしまうのだ。

 

 

--こんなモノを抱えてしまっているオレに、誰かに大切にされる資格があるのか?

 

 

 呪いを扱う呪術師であるオレですら忌まわしいと思うほどの呪い。

 そんなモノが魂に刻まれたオレはなんなのか。

 オレこそがオレが嫌う悪人そのものではないのか。

 一刻も早く、消え去るべきではないのか。

 その呪いを抱えることとなった経緯もあって、そう思わずにいられない。

 

「まあ、いい練習台がいると思えばいいか」

 

 オレの心の病が一番の障害だとしても、術式そのものの扱いや修行不足なのも不安要素だ。

 それを潰せる機会に恵まれていることに感謝すらすべきかもしれない。

 下手をすれば自分の命を失いかねないというのに、オレにはそうとしか思えなかったのであった。

 

 

----

 

 

「プラスの感情をくれるのはありがたいけどさ。朝に会うのは仮屋も大変なんじゃないのか?っていうか、オレが言うのもなんだけど昨日呪霊見て気絶しておいてよくその次の日に会おうと思ったな」

「別に・・・もとはと言えばアタシが見せてほしいって言ったからだし。それに、大変って言えば大変だけど・・・放課後はダメなんでしょ?じゃあ朝しかないじゃん」

 

 朝の特別棟。

 前に仮屋と昼休み中に会ったときの空き教室にオレと仮屋はいた。

 時刻はHRが始まる30分ほど前で、文科系の部活で朝から活動している生徒たちの出す物音が聞こえてくる。

 どうしてそんな時間に帰宅部(オレは一応オカ研の幽霊部員だが)のオレたちがいるのかと言えば、昨夜術式の練習をした後くらいに仮屋から『明日の朝に会えない?』と連絡があったからだ。

 曰く、前にオレから持ち掛けたバイトの手伝い、もといオレへのプラスの感情の供出をやりたいと仮屋の方から提案があったのである。

 オレとしては一回もらえた時点でもう元は取れたと思っていたのでやんわりと断ったのだが、どうにも譲らなかったのでこちらが折れた形だ。

 仮屋は放課後にやるつもりだったようだが、その時間帯は椎葉さんに会いに行く用事があるので不可能。

 断ったら、『じゃあ朝で』ということになった。

 プラスの感情がもらえるのなら、多少の早起きは大して苦労でもないが、それは感情を受け取る側のオレの意見であり、仮屋には結構キツイと思うのだが。

 

「別にそんな無理をする必要なんかないぞ?っていうか、どうして昼休み中じゃないんだよ?前はそうだったのに」

「保科、アンタね・・・それ綾地さんが見てる前でアンタとしばらく手をつないでろって言ってるのわかってる?」

「なんか問題あるのか?プラスの感情の受け渡しのためって事情があるなら、綾地さんなら何も言わないだろ」

「・・・はぁ~」

 

 仮屋は何も言わず、ひたすら呆れたようにため息をついた。

 オレはそんなにおかしいことを言っただろうか。

 

(綾地さんの前で不用意に保科と手をつないだりしたら、何が起きるのか考えるのも怖いよ。っていうか、保科って本当に感情を読めるチカラ持ってるのかな)

 

「保科。一つ聞くけどさ。アタシと手をつないだのって、なんか意味があったからしたんだよね?なんで?」

「ああ。プラスの感情はマイナスに比べると取り込むのが難しいんだ。オレの術式は距離が近いほど効果が大きくなるから、貴重なプラスの感情は取りこぼしがないようにしたいって思って」

「やっぱり、呪術として意味があることだったんだよね?それ、綾地さんには教えてないでしょ」

「・・・すごいな。なんでわかったんだ?」

「綾地さんの性格なら、知ってたら絶対に積極的に手をつなごうとするでしょ。それなのにしてないから」

「あ~、綾地さん、責任感すごいからな・・・いやでも、そこまでするか?彼氏でもない男の手を?」

「・・・はぁ~」

 

 仮屋は再び大きなため息をついた。

 

「ねぇ保科。話変わるけどさ。感情を読めるチカラがあるなら、最近は辛くないの?男子からのやっかみとか」

「本当に唐突だな・・・別に心配してくれなくても大丈夫だよ。まったく感じないワケじゃないけど、これくらいなら中学の頃の方がキツかった。それに、お前や綾地さんがプラスの感情をくれるからな。差し引きプラスだよ」

「・・・・・」

「仮屋?」

 

 確かに仮屋の言う通り、最近になって綾地さんと関わるようになってから男子からは嫉妬、女子からは不審の視線を向けられることが増えた。

 だが、これくらいはオレが調子に乗りまくっていた中学の頃に比べれば大したモノではないし、なにより椎葉さんを筆頭にプラスの感情をくれる人が増えたこともあってトータルではプラスが勝っているくらいだ。

 心配されるほどのことではない・・・と思ったのだが、仮屋がいつの間にか神妙な顔をしていた。

 同時に口の中に広がる酸味と渋みに熱い旨味・・・これは、罪悪感と心配、そしてそれらを塗りつぶすほどのオレに対する熱意だろう。

 一体全体、どうしてそんな感情をオレに向けているのかはわからないが。

 

「保科。わかってると思うけど、綾地さんに手をつないだ方が効果があること言っちゃダメだよ」

「お、おう・・・そのつもりだけど」

「言っておくけど、綾地さんに聞かれてもだからね?綾地さんだと、どこまでのことするかわかんないし」

「ええ?そうかぁ?」

「そうなの!!ほら、わかったら手を出す!!プラスの感情あげないよ?HRまであんまり時間ないんだから」

「それは仮屋が喋ってたからで・・・」

「余計な口答えしない!!ほら!!」

「おおっ!?」

 

 実を言うと、オレは仮屋と前のように手をつないでプラスの感情をやり取りするつもりはなかった。

 前は、こちらの事情を話せなかったとはいえオレが騙して手をつないだのは事実だったからだ。

 仮屋が理由を知ったからと言ってなおも体に触れるのは普通に後ろめたい。

 だが仮屋はそんなオレの内心など知ったことかとばかりにオレの手を何のためらいもなく掴んで自分の方に引き寄せる。

 

「いや、仮屋・・・お前は気にしないのか?」

「何が?もしかして、プラスの感情渡せてない?」

「いや、かなり質のいい感情が伝わってきてるよ。オレが言いたいのはそのことじゃなくて、その・・・オレ、前は仮屋に嘘をついて手を握ったんだし、事情があったとはいえ女子にそれはなんかさ」

「・・・アンタ、そういう気遣いは思いつくのになんで綾地さんのことにはぞんざいなのさ」

「え?なんで綾地さん?」

「はぁ・・・いいよ、それは忘れて。っていうか、前は保科の言う通り事情があったワケじゃん?なら仕方ないでしょ。それに、オーナーに聞いたけど心の穴って下手すると廃人になるんでしょ?それなのに放っておけるほど薄情じゃないつもりなんだけど?」

「あ、悪い。別にお前が冷たいとか言いたいワケじゃなくて・・・」

「そのくらいはわかってるよ。保科はそんな風に思うヤツじゃないって。とにかく!!アタシが何も気にしてないんだから保科はアタシからのプラスの感情を受け取っておけばいいの!!別に減るもんじゃないんだし」

「でもプラスの感情は・・・いや、そうだな。わかった。ありがたくいただくよ」

 

 オレの経験上、プラスの感情はだんだんと減っていくものなのだが、今の熱いほどやる気を出している仮屋にわざわざ水を差す必要はないだろう。

 オレの術式も、仮屋がオレに対して含むものがないと教えてくれている。

 それならば、仮屋の提案を断るのはその善意を無下にするのと同じだ。

 ただ。

 

(綾地さんには教えるなって言ったのに、仮屋はオレと手をつなぐのは気にしてないのか?)

 

 もともとオレは綾地さんに、距離が近いほどプラスの感情を伝える効率が上がることを教えるつもりはない。

 いかに事情があるとはいえ、オレからそんなことを言い出すのは下心があると思われても仕方がないからだ。

 ただ、仮屋はオレが考えていることと同じことを言ってきたのに、自分自身がオレと触れることに忌避感を一切覚えていないように見える。

 実はオレが仮屋と触れ合えることに性的な興奮を覚えているかもしれないというのにだ・・・いや、実際そんなことはまったくないのだが。

 なんというか、あべこべなのである。

 伝わってくるオレへの心配とか、オレを助けたいという熱意といったプラスの感情の質が高いのが本当に意味不明である。

 

(ダメだ、オレが考えてもわかる気がしない・・・感情が読めるのに女の子の気持ちって難し過ぎだろ)

 

 やがて、オレには答えが出せないと悟り、オレは考えるのをやめるのだった。

 

 

----

 

 

(中学の頃の方がキツかった、か・・・)

 

 和奏は柊史の手を握りながら、柊史の言葉のことを考えていた。

 和奏は、数日前に七緒から柊史の事情を聞いてからずっと考えていることがあった。

 

(アタシが保科から離れなかったら、心の穴が空くことはなかったのかな・・・いや、ダメか。だって、今の保科の心にも穴が空いてるんだから)

 

 和奏は、ずっと柊史を見捨ててしまったと思い込んでいた。

 実際には和奏が危険人物と判断した夏油は柊史のよき師匠であったようで杞憂だったのだが、新たに柊史の心の穴のことがそこに代わって和奏を悩ませている。

 しかも、この件は姫松で柊史に再開した後の一年間も評価に入っているのだ。

 今も柊史の心に穴が空いているというのなら、それは去年の和奏ではその穴を埋めることができなかったということを意味する。

 平たく言うと、和奏は自分という存在の価値に無力感を覚えているのである。

 

(でも、今のアタシは保科の事情を前よりもずっとよく知ってる。プラスの感情をあげることだってできてるんだし、やれることはある!)

 

 とはいえ、和奏は原作と呼べる世界線において柊史の周りに現れる5人の少女の中で、もっともサバサバした、切り替えの早い性格をしている。

 後悔はすれど、そこにとどまり続けずあがく。

 『敗者復活』という言葉がよく似合う。

 そんな和奏だからこそ、無力感を覚えはしても立ち止まりはしない。

 過去の自分と比較して、現在の自分は前に進めているのは確かなのだから。

 今の和奏は昔の自分が知らなかった柊史の正体を知り、どんなことが柊史を傷つけ、逆に何が柊史を癒すのかを学び、実践できている。

 去年一年で柊史の心の穴を埋めることができなくても、今からならばできるかもしれない。

 そのためには何が必要なのかを考えるのだ。

 

(オーナーが言うには、保科の心の穴への対処は怪我の治療と同じ・・・傷口を手当して、守る。あとは本人の力で治癒させる)

 

 ここでいう手当とは、プラスの感情を与えることだ。

 空いた穴を埋めるための補強材の提供。さらには、本人の治癒力を高めることにも繋がる。

 これは現時点の和奏にもできている。

 問題は次だ。

 

(傷口を守る。つまりは・・・保科になるべく悪感情が向かないようにすればいいってことだよね)

 

 心の穴は悲しいこと、辛いことが起きると空くという。

 少しの穴ならそのうちに塞がるが、今の柊史の場合は継続的にマイナスの感情を感じ取ってしまうために癒えることがないのだろう。

 ここにプラスの感情を流し込んでも、それは穴の開いたバケツに水を注いで一時的に水位を維持しているのと同じだ。

 ただでさえ柊史は自分に向けられたモノでなくともマイナスの感情を感じ取ってしまうらしいのに、それが柊史自身に向いているとなればどれほどのダメージになるだろうか。

 具体的な数値にすることはできなくても、それが到底放っておけるモノでないのは明らかだ。

 そして、柊史にマイナスの感情が向けられる大きな要因を和奏は知っていた。

 

(絶対に、綾地さんだよね)

 

 学年が上がり、今年も柊史と同じクラスになった和奏であるが、元来目立たないように振舞っている柊史が突如として奇行に走り、奇異の目を向けられることがあった。

 当時は柊史に聞いてもその理由を教えてもらうことは叶わず、精々周りに対して柊史のフォローをするくらいしかできなかったが、事情を知った今はそのような事態に陥った理由も理解ができている。

 それは、柊史が寧々の魔女の代償を肩代わりしていたからだ。

 

(保科がそうした理由はわかるよ?そのままにしてたら大変なことになってただろうから、放っておけなかったのはしょうがない)

 

 和奏は寧々の代償の内容を知らない。

 それでも、いつぞやの授業中の様子を見るに、もしも寧々の代償をそのままにしていたら、確実にクラスの雰囲気がおかしなことになっていたと予想はできる。

 そうなれば、その空気は柊史に牙をむいたに違いない。

 そもそも、柊史は打算などなくても苦しんでいる女の子を放っておけるような人間ではない。

 

(でも、それで保科だけが矢面に立たされたのは、理解はできても納得できない)

 

 和奏だって、柊史が呪術師で寧々が魔女だと知ったのはほんの数日前のことだ。

 周りのクラスメイトにそんなことを言えるハズもない。

 だから、もとはと言えば寧々が原因であるのに柊史だけが忌避されるようなことになったのは当然。

 そこまでわかっていても、感情が納得できないのだ。

 そのとき柊史の近くにいた和奏は、どれほどの悪感情が柊史に向けられたのかよく知っているから。

 それが、間違いなく柊史の心の穴を拡げたであろうことも。

 だが、ここまではそれでもまだいい(・・・・)のだ。

 そこに至る理由が理解できるものであるから。

 なにより、寧々が本気でそのことを悔やんでいるのがわかるから。

 過去の自分の行動によって柊史を傷つけてしまったかもしれないと後悔することについては、和奏としても大いに共感できる。

 

(それなのに、なんで綾地さんは保科にわざわざ近づくのかな・・・自分の影響力とかわかってないのかな?わかってないんだろうな)

 

 問題は、ここ最近の寧々の動向だ。

 学年どころか学院、いやもしかすればこの地域全体で一二を争えるレベルの美少女である寧々が、少し前までヤバい奇行に興じていた冴えない男子にアタックを仕掛けた、というのが、この学院で今もっとも熱い噂である。

 この噂のせいで柊史に再び不審や疑念、さらには新しく嫉妬の視線が向けられていることは、心喰呪法を持っていない和奏ですら知っている。

 しかも、つい一昨日には教室で柊史のことで他の女子と言い争いをする始末。

 それによってクラスの中での柊史への印象が悪化したのは既に調査済だ。

 寧々の代償がどんなものかは知らないが、代償のことならば仕方がないと飲み込むことができた。

 だが、これは寧々が気を付けていれば防げた事態だ。

 それを、『自分があまりにも美少女であることに気が付いていないから』などという傍から見たらあまりにもくだらない理由でミスしたことは、さすがに腹に据えかねていた。

 和奏も七緒と柊史に事情を話してもらうまでは気が付いていなかったが、それでも、寧々は和奏よりも前に柊史から術式のことなどを聞いていたのだから。

 罪悪感で苦しいのは理解するが、それでさらに柊史を苦しめては意味がないだろうに。

 

(やっぱり、アタシから言うしかないか。保科は気にしてなさそうだけど、今のままは絶対よくないし。っていうか、距離が近いほどプラスの感情を渡しやすくなること、絶対に教えちゃダメだよね)

 

 寧々ほどの高嶺の花が、無遠慮に柊史に近づくべきではない。

 柊史に心喰呪法がなければ好きにすればいいし、そこに口をはさむのは野暮だと思うが、実際問題として寧々が柊史に関わることで確実に悪影響があるのだ。

 であるならば、柊史を守るために自分が悪役になってもそこははっきりさせておくべきだろう。

 ましてや、柊史と手をつなぐほど近づくことで術式の効率が上がることは絶対に教えてはいけない。

 今の罪悪感で暴走気味の寧々にそんなことを教えれば、本当に何をしでかすかわかったものではない。

 教室にいる間ずっと触れようとしても不思議でないし・・・柊史は手をつなぐ程度にとどめており、それよりもっと距離を詰めた場合のことは言っていないが、間違いなくさらに効果が大きくなるのではないだろうか。

 寧々がそこに気が付いてしまえば、それこそ退学モノになるようなことをしても不思議ではないのだ。

 ・・・人を廃人に導きかねない心の穴、感情を感じ取るチカラ、マイナスの感情が心の穴に与える悪影響。

 これらの知識を得てから、和奏の中で寧々に対する敵意に近い感情が芽生えつつあったが、和奏自身はまだその存在に気付いてはいなかった。

 

「そういえば保科。なんで放課後はダメなの?」

「え?」

 

 寧々にはっきり口出しするなら、柊史がいないタイミングが望ましい。

 それならば、柊史本人が用事があると言っていた放課後がベストなワケだが、その用事とは何なのだろうか。

 昨夜は夜で時間も押していたし、文章でのやり取りでさりげなく聞くこともできなかったが、今ならいいだろう。

 そう思った和奏は手を握ったまま柊史に問いかけたが、柊史はどこか気まずい顔をしていた。

 

「いや、用事は用事というか・・・まあ、オレにもプライベートってものがあるし?」

「ふ~ん?もしかして、それも呪術に関係あること?」

「っ!?」

(・・・怪しい)

 

 痛みや苦しみを隠すのは得意だが、腹芸は苦手な柊史だ。

 和奏の問いかけに答えこそしなかったが、その動揺ぶりから何かを隠しているのは明らかだった。

 少なくとも、呪術が関わることなのは間違いないようである。

 そうなると、和奏に追及しないという選択肢はなかった。

 柊史にとって不幸だったのは、この質問をしてきたのが奥ゆかしいところのある寧々ではなく、これまでの経験で勘が鋭く、かつ寧々のこともあって柊史の危機に関して一切妥協するつもりのない和奏であったことだろう。

 

「その用事、なんか危ないことしてるワケじゃないよね?」

「いやいや、全然違うって。むしろオレの癒しのひと時だぞ」

「癒しのひと時ぃ?え~、なんか怪しいんだけど」

「いや、本当だって。めちゃくちゃプラスの感情もらってるからな」

「え?・・・保科、もしかして」

 

 もしや和奏の知らないところで呪術にまつわる危険なことでもしているのではないかと思ったが、どうも違うらしい。

 それどころか、プラスの感情をもらっているのだという。

 そこまで聞いて、和奏は年頃の女子として一つの可能性に行き当たった。

 

「もしかして、彼女できたの・・・?」

「はぁっ!?」

 

 プラスの感情を得るのは難しいとは、昨日柊史本人から聞いたことだ。

 出会ったばかりで信頼関係のない相手からはまず不可能。

 魔女であり、柊史に大恩のある寧々。

 柊史に対して数年の積み重ねがある和奏。

 自分も含めたこの2人はわかる。

 だが、それ以外で柊史にプラスの感情を渡せそうな人物など、家族か大穴で海道くらいしか思いつかない。

 そして、家で会える家族に癒しのひと時などという言葉を使うのは不自然だし、海道はなんか、こう、ないだろう。

 そうなると、その言葉が似合うのは家族でも友人でもない誰かということになり、消去法で自分の知らないうちにできた彼女なのではないかと推測したのである。

 

「そ、そんなワケないだろ!!こんな術式持ってて彼女なんて作れないって!」

「ええ・・・?でも、プラスの感情をくれるなんて、よほど信頼関係ないと無理なんでしょ?それなら」

「だから違うって!!・・・正直に言うと、その子も魔女なんだよ」

「え!?綾地さん以外にも魔女っていたの!?」

「かなり遠くの街に住んでるけどな。オレ、遠出が好きだから呪霊に乗って散歩することがあるんだけど、そのときに会ったんだよ・・・あれ?そういえば、オレが綾地さん以外の魔女と縛りを結んでるのは相馬さんも知ってるけど、聞いてなかったか?」

「う、うん。初耳だよ」

 

 七緒には前に紬と縛りを結んだことを伝えたことがある柊史だったが、七緒は黙っていてくれたようだ。

 特に口止めはしていなかったから、柊史としては話されていたとしても少し恥ずかしいと思う程度だったが。

 

「とにかく、そういうことだから。別に彼女じゃないよ。綾地さんと同じように代償の肩代わりをする代わりにプラスの感情をもらってるだけ」

「え、でも」

 

 そう言って、柊史は無理やり話を終わらせた。

 その魔女の代償の肩代わりは危険なことではないのかとか、遠くに住んでるのに毎日会いに行ってるのかとか、聞きたいことがたくさんある和奏だったが。

 

「だいたい、あまりにもおこがましいんだよ。オレみたいなのなんかじゃ、到底釣り合うような子じゃないから」

「・・・!!」

 

 どこか寂し気な、それでいて自嘲するかのような顔をしてそう口にする柊史を見て、反射的に和奏は柊史の手を離した。

 

「・・・仮屋?」

 

 突然の行動に、訝し気な顔をする柊史。

 そんな柊史に気付かないフリをするかのように、和奏は荷物を持って教室を出る準備を始めた。

 

「保科。気付いてる?もうだいぶ時間経ってる。このままだと遅刻するよ」

「あ、本当だ・・・いや、でも仮屋」

 

 和奏に言われてスマホの画面を見ると、確かにもういい時間だった。

 

「ほら、行くよ。久島先生に怒られて喜ぶのなんて海道くらいなもんなんだから」

「・・・そうだな。あいつ、わざと怒られるために久島先生にちょっかいかけてるところあるからな・・・」

「ええ?そこまで行ったら筋金入りじゃん。マジでキモイんだけど」

 

 いつも通りの軽快な会話。

 柊史は術式で和奏から急に複雑な感情の奔流が溢れて来たことに驚いたが、その中に触れてほしくないという拒絶の感情を感じ取って詮索するのをやめた。

 少なからずショックは受けていたが、同時に感じた自身への慈しみと、『柊史ではない誰か』へのすさまじい業火のような義憤があったから、和奏が自分を嫌ったワケではないことがわかったからでもあったが。

 そうして、2人は自分たちの教室へと歩き出したのだった。

 

 

----

 

 

(保科、もしかして・・・いや、もしかしなくても)

 

 廊下を歩きながら、和奏はさきほどの柊史を見て気づいたことを反芻していた。

 和奏は、恋愛への機微についてはそれなりに鋭い。

 少なくとも、寧々、めぐる、紬よりは上だろう。

 そんな和奏だからこそ、気が付いた。

 

(その魔女のことが・・・)

 

 それに気が付いた瞬間、柊史の手を離していたのは、無意識にでも己の感情が伝わることを避けたかったからなのか。

 距離が近いほど術式の効果が強まるのなら、胸の奥に沸き上がったソレもより強く伝わるハズだから。

 もっとも、ソレはほんの一瞬のことで、すぐに別の感情に塗りつぶされてしまったから気づかれることはなかったのだが。

 

(なんで、その魔女は・・・)

 

 そう、和奏は女としての本能で理解していたのだ。

 

 

--その魔女ならば、柊史の心の穴を埋めることができる

 

 

 だが、七緒に心の穴を聞いたのはほんの数日前。

 つまり柊史にはいまだに穴が空いたまま。

 その魔女が、柊史の想いを汲んであげればすぐにでも埋めることができるというのに。

 そうなっていないのは、それが叶いそうにないのは、アルプでない和奏でも柊史の顔を見れば一発でわかった。

 

(・・・っ!!)

 

 柊史を救う手段を持っているのに、それを使わないこと。

 それは柊史を見捨てていることと同義。

 そのことに対する怒り。

 その怒りが、和奏の心を埋め尽くしたのだ。

 

(誰だか知らないけど、その魔女が保科を見捨てるのはソイツの自由。アタシはアタシができることをやるだけ)

 

 和奏は自身の決意を新たにする。

 柊史を傷つける者、見捨てる者への怒りを燃料にして。

 ・・・その怒りに義憤ではない別のナニカが混ざっているかどうかは、本人にもわからなかったけども。

 

 

----

 

 

「・・・話って何ですか?」

 

 放課後のオカ研。

 オレンジ色に変わりつつある光を浴びながら、2人の少女がそこにいた。

 

「別にそう大した話じゃないよ」

 

 そのうちの1人、仮屋和奏は前置きをして対面に座る綾地寧々に向かって答えた。

 

「ただ、保科への接し方を考えてほしいってだけ。綾地さん、教室で保科に話しかけるの、控えた方が保科のためだよ」

「・・・は?」

 




感想、評価お待ちしております!

pixiv版もよろしくです(R18はpixiv版のみ)
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=28894517

この作品をご存じでしょうか?①ダークギャザリング、②死印、③東方Project

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