女の子が苦しんでいるのを肩代わりしてしまう少年の話 作:二本角
考えてみれば、絶望や苦痛、恐怖の感情を回収できるのならすぐに心の欠片って集まりそうですよね・・・
『保科君。今日も昼休みにオカ研の部室に集合でいいですか?』
「あれ?綾地さんがアプリで連絡?本人が教室にいるのに・・・?」
朝の教室。
昨日と同じように仮屋と手をつないで話した後に教室に来たのだが、席に着いて少ししてからアプリで綾地さんが話しかけて来た。
本人も同じ教室にいるというのに、どうしてアプリを使ったのか。
「・・・・・」
綾地さんの方を見ると、小さくこちらに会釈をしたが、直接話すつもりはないようだ。
メッセージの内容もこれまでからすると当たり障りのないものなのに、これは一体どういうことなのか。
(まあ、助かるけど。綾地さんと話すと、やっぱり周りの目が気になるからなぁ・・・)
綾地さんがくれるプラスの感情は大変質が良く、少々のマイナスなら収支はプラスになる。
しかし、マイナスを減らせるのならそれに越したことはない。
とくに男子からの嫉妬混じりの視線には食傷気味だ。
『わかった。行けるよ。あと、連絡ありがとう』
『こちらこそありがとうございます。それでは昼休みに』
オレが返事をすると、綾地から即座に返信が来て、チラリと伺うと綾地さんはまた小さく頷いていた。
「おはよう~」
スマホをしまうと、仮屋が教室に入って来た。
朝に特別棟で会っていたオレたちだが、昨日も今日も仮屋は『ちょっとお手洗い』とオレと教室に向かうタイミングをズラしていたのだ。
薬臭さを感じたから何か事情があるのだろうが、悪意は感じないので放っておいてある。
いつもなら、そのまま自分の席に座る仮屋だが、今日はそのまま綾地さんのところにまで歩き出した。
「綾地さん、おはよう」
「はい。おはようございます、仮屋さん」
(・・・あれ?)
綾地さんとあいさつをする仮屋だが、オレはそこに違和感を覚えた。
(なんか、昨日までと空気が違うな。仮屋も、綾地さんも)
昨日までは、仮屋と綾地さんの間には、喧嘩をしているとまでは言わないが、どこかピリピリした空気が漂っていた。
当然、お互いにわざわざ挨拶をしになど行かない。
だというのに、今日は仮屋から挨拶をしているし、2人の間の空気も穏やかだ。
「じゃあ仮屋さん。今日も昼休みはオカ研にお願いします。入部のこともありますし」
「わかったよ。久島先生に話すのはHR終わった後にしよっかな」
「ええ。私も行きますよ。オカ研のこととは別に頼まれていることとかで連絡しておくこともありますから」
「おお、なんというか、さすが綾地さん・・・そこらの生徒とは信頼度が違うね」
「はい?」
それから少し話して、仮屋は自分の席に戻った。
距離が離れていたし、わざわざ盗み聞きするつもりもなかったので内容はわからなかったが・・・
(まあ、何があったか知らないけど、あの2人の仲がいいことは良いことだよな)
綾地さんと話したときの周りの視線もそうだが、仮屋と綾地さんが醸し出す微妙に険悪なオーラもマイナスの感情だ。
なくなってくれるのならそれが一番である。
そんなことを思いながら、オレはぼんやりとHRまでを過ごしたのだった。
「う~ん、遅刻ギリギリで香苗ちゃんからお叱りの言葉を受けようかと思ってたけど、まさか一緒に教室まで行けるとは。これも日頃の行いがいいからだよな?なっ?香苗ちゃん」
「どの口が言ってんだ海道。お前の日頃の行いがいいなら、ウチのクラスは全員聖人だぞバカタレ」
「おうっ!?これこれ!!これを待ってた!!うん、やっぱり日頃の行いがいいって神様も思ってくれてるってワケだ!!」
「・・・もしもコイツが将来ド変態の性犯罪者になったら、アタシの責任もあるのか・・・?」
ちなみに、海道と久島先生は一緒に教室に入って来た。
満面の笑みを浮かべる海道とは対照的に、真剣に何事かを悩む久島先生の顔が印象的だった。
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「仮屋、オカ研に入ることにしたのか?」
「うん。今もここを使わせてもらってるし、オカ研って部員が少なくて困ってるんでしょ?それなら名前を貸すくらいはしないと」
「本当に助かります、仮屋さん」
「いいよいいよ。幽霊部員になるつもりだからさ」
そうして昼休み。
今日も集まったオレたち3人だが、仮屋が正式にオカ研に入部することに決めたらしい。
前に綾地さんがオカ研の部員が少なくて、このままだと部室がなくなるかもしれないと言っていたが、3人もいれば大丈夫だろう。
それにしてもだ。
「ところで2人とも、昨日の放課後に何かあった?なんか、仲が良くなったように見えるんだけど」
「え?」
「・・・・・」
昨日の放課後までとは打って変わったような2人の空気。
それに、仮屋の入部や、関係ないかもしれないが、綾地さんが口頭ではなくアプリで話しかけてきたこと。
2人の仲の良さは演技ではなく本当のモノだとオレの術式でわかっているが、どうしてそうなったのかは気になる。
だから尋ねてみたのだが。
「・・・まあ、あったと言えばあったかな」
「・・・そうですね」
「?」
2人は少し視線を交わしてから、歯切れが悪そうにそう言った。
仲がよくなるのはいいことだと思うが、どうして気まずそうなのだろう。
「あと、アタシたち、仲良くなったってワケじゃないっていうか、友達になったんじゃないから」
「はい。私と仮屋さんは友達ではないですよ。同盟です」
「??」
同盟とはどういう関係なんだろう。
あまり日常で使う関係性ではないと思うが、2人とも答える気はなさそうだ。
(何かあったのは本当みたいだけど、まあ、前に比べればよくなってるんだからいいか)
オレのこれまでの人生の処世術において、『隠したがっていることを無理に聞き出さない』というものがある。
まず間違いなく悪感情が返ってくるし、綾地さんと仮屋という貴重なプラスの感情の供給源から悪く思われたくない。
というか、それ以前にオレとしては珍しく仲良くできていると思っている人間関係を壊したくないのは当然のことだ。
オレはそれ以上深堀しないことにした。
「それより保科。昼休みもそんなに長くないんだから、今日も呪術のこと教えてよ」
「そうだな・・・っていうか、仮屋。お前幽霊部員になるつもりって言ってたけど、今のオレたちがやってることって普通にオカ研の活動にピッタリだと思うぞ」
「言われてみればそうですね・・・呪術のことをまとめて発表なんてことはできませんけど」
「絶対頭おかしいって思われるよ・・・まあ、オカルトってそういうものか」
それはそれとして、今日も呪術のことについて2人に教えることにした。
仮屋はオカ研の活動にまで参加するつもりはないと言っていたが、呪術について知ろうとすることはまさにオカ研にふさわしいことのような気がする。
「それじゃあ、今日は何について話すか・・・呪霊のことは話したし、昨日は呪力について話したっけ」
「はい。呪力はマイナスの感情のエネルギーで、心の欠片によく似てるってことも」
「っていうか、魔法と呪術って何が違うのさ?」
「そうだな、今日はその辺話すか」
初日は呪霊について話した。
昨日は初日に鬼軍曹を出して気絶させてしまったので話せなかった分と、呪力とは何か、そして心の欠片との類似性について。
今日は昨日の続きでいいだろう。
「まず、魔法っていうのはこの世界のシステム、物理法則とかそういうモノに近いらしい。呪術は違う。これは先生の受け売りだけど、人間の中に生まれた突然変異種みたいなモノなんだってさ」
魔法とは、この世界に組み込まれたシステムの一つだ。
基本的に誰でも一度は行使する権利を持ち、心の欠片を集めきれば『どんな願いでも』叶えることができる。
これは画一の仕様であり、仲介者であるアルプが誰であっても同じ。
契約した魔女に降りかかる代償は異なるが、それは『契約した魔女の願いおよび資質による』というルールの範疇だ。
一方の呪術は、才能があるものしか使えない。
一般的な魔法や超能力という意味合いでは呪術の方が『それらしい』だろう。
先生によると脳の一部が呪術師と非術師で異なっていて、その部分が影響しているらしいが、詳しいことはオレにもわからない。
そして、呪術は遺伝する。
魔法も、術式を持つ前のオレのように能力の一部が受け継がれることがあるようだが、それは特殊な能力を願った場合のみ。
親が魔女だったから魔法を使える回数が増えるとかそういったことはないし、むしろ魔法の影響を持って生まれたオレは魔女の契約ができないらしい。
少し話が逸れたが、呪術は一族で同じ術式が発現することが多く、呪力もまた同じ。
要は、呪術師とは生物学的に決定される存在であり、特異的な能力を発現させた人間ということだ。
はっきりわかっているワケではないが、その祖先は人間の中に発生した突然変異なのでは?と先生は言っていた。
『この星の外から来た地球外生命体が地球人を改造したか、交配でもしたっていうのも・・・いや、さすがにこれは三流のSFか』と冗談みたいなことも言っていたが。
「人間の突然変異種・・・その理屈で言うと、保科は人間じゃないってこと?」
そこまで話すと、仮屋が恐る恐るという風に聞いてきた。
「いや。人間だよ。ほら、アルビノって身体が生まれつき白い蛇とかいるだろ?あれと同じで、身体の一部の遺伝子が違ってるだけらしいから。それに先生の話だと、呪術師と非術師で子供ができることなんて当たり前だし、先生自身も両親は非術師らしいから」
「そうなの!?アタシが・・・んんっ!!アタシがマスターに聞いた感じだと、保科の先生ってものすごい浮世離れしてるらしいから、てっきりそういう一族的な何かだと思ってたよ」
(あの夏油ってヤツ、家族とうまくやれてるのかなぁ?普通の人を見下しまくってる感じがしたけど)
呪術師が人間か否かより、先生のことの方が驚きのようだ。
術式もそうだが、仮屋の言葉から言いたいことを何重にもオブラートに包んだような感じがする。
「はは・・・」
驚く仮屋に対し、オレは苦笑を浮かべることしかできなかった。
思い当たるフシがありすぎるからだ。
(人間の上位種・・・っていうのは、驕りすぎた考えだけど間違ってはいないんだろうなぁ)
きちんと言葉にされたことはないが、間違いなく先生はかつてのオレが持っていたこの考えを抱えているだろう。
先生は非術師が嫌いだが、その根底には『自分とは生物学的に違う』ということもあるのかもしれない。
「あの、呪術ってどこまでのことができるんでしょうか?保科君の話だと、才能があれば何でもできるんですか?」
そこで、それまで黙って話を聞いていた綾地さんがおずおずと手を挙げて聞いてきた。
綾地さんらしい丁寧で礼儀正しい所作だ。
そして、実にいい質問である。
「綾地さん、いい質問だよ。魔法と呪術の一番の違いはそこだと思ってる」
魔法と呪術は世界の法則と才能による個人技能の違いであるというのがメインではある。
だが、できることのスケールの違いも非常に大きい。
呪術の才能があったとしてもだ。
「これに関しては、魔法の方が圧倒的に上だね。魔法は願いの内容を自分で決められるし、それに見合う心の欠片を集めることさえできれば叶えられる。たとえ小さな願いでも、呪術で再現できないことがほとんどだと思う」
最初に先生が、『魔法とは世界に組み込まれたシステムであり、アルプはその仲介者に過ぎない』と結論付けた理由だ。
アルプは簡単な魔法ならば人間と違って何度でも制約なく使えるようだが、人間の感情ひいては自身の感情に対する理解が浅く動物的な本能から抜け出しきれていないのがアルプという生き物。
感情がないワケではないが、人間に比べるとその発露は未発達だ。
それすなわち、魔法の元になる感情のエネルギーに乏しいということであり、だから簡単な魔法しか使えないのだ。
呪術師でいえば、呪力の練り方が甘く、呪力量が少ない術師と言えるだろうが、それではどんなに優れた術式を持っていても大したことはできない。
そんなアルプに、『心の欠片次第でどんな願いでも叶えられるようにする』などという神の領域に片足を突っ込んだようなシステムを編み出すことができるとは思えない。
もともとそのような仕組みがこの世界にあり、心の欠片を認識できるアルプがそれを発見し、利用するようになったのではないかというのが先生の推測だ。
故に、大本のシステムそのものをアルプがいじることもできず、『代償による感情の放出』か、『心の欠片を集めきった後の成功報酬』でしか感情のエネルギーを得ることができないし、『心の欠片集めに不利な代償を避けることができない』、『欠片集めに有利な能力を与えることもできない』などという、アルプにとっても不便な点がそのままになっているのだろう。
そして、そうした『世界に組み込まれたシステム』という大がかりなモノであるからこそ、大それたことができる。
「一回限定とはいえ魔法はそれこそなんでもできる。言ってしまえば、やってることは世界の改ざんだ」
オレは椎葉さんと綾地さん、そして会ったことはないが因幡さんに魔法をかけた木月さんという3人の魔女を知っている。
綾地さんの願いはわからない。
推測に過ぎないが、木月さんの願いは因幡さんの命を救うこと。
椎葉さんの願いは欲しいと思っていた服をもう一度店頭に並べてもらうこと。
木月さんと椎葉さんの願いはそのスケールも方向性も何もかも違うが、同じ『魔女のシステム』で叶えられている。
そして、一見大したことのない椎葉さんの願いすら、呪術で叶えることは不可能だろう。
例えば呪霊を操ってどこかにしまってある服を探し出して盗んでくることはできるかもしれない。
しかし、椎葉さんの願いでは、『正規のルートを通って』再び販売されていた。
つまり、一度片づけられた服を探し、運んで、店頭に並べるという様々な人間が関わる工程をクリアさせたということだ。
人間を意のままに操るなどという呪力出力すらコントロールできるようなチート術式があったとしても、実現させるのは難しい。
もしも服が処分されていたとすれば、そんな術式があったとしてもどうしようもない。
それなのに実現したとなれば、それはもう、『そうなるように運命を書き換えた』としか言えないだろう。
言うまでもなく、そんなことは呪術にはできない。
「オレはもう何度か術式って単語を言っちゃってるけど、実は呪術師って術式を持ってるかどうかは関係ないんだ。だから、一口に呪術だとか呪術師だとか言っても、できることの範囲は術師ごとにだいぶ違うし、魔法みたいな汎用性はないね」
呪術とは、『呪力によって引き起こされる超常現象』であり、呪力そのものが持つ強化の性質すらその範疇だ。
先生によれば呪力が扱えれば呪術師であり、術式を持っていなくとも術師といえるが、そういった術師は当然できることの幅が狭くなる(オレは先生以外の術者に会ったことはないが)。
そもそも、仮に術式を持っている術師であっても、一つの術式でできることなど高が知れている。
炎を出す術式は炎に関わることしかできないし、基本的な呪力放出を強化するしかできない術式もある。
呪術師であれ呪霊であれ、どんな術式を持って生まれるかは運の要素が大きく、何の役に立つのかわからないハズレ術式になる可能性もあるらしい。
仮に『料理』などという術式があっても、とても戦闘には使えないだろう。
(その点で言うと、先生の呪霊操術やオレの心喰呪法は大当たりの部類なのかな・・・オレの場合は術式反転の方だけど)
数多の呪霊を操ることで疑似的に複数の術式を扱える呪霊操術は最も万能に近い術式に違いない。
だが、それでも決して万能で完全無欠なモノにはなりえないのだ。
呪術の根幹にある『原則』によって。
「呪術は『何かを得るためには何かを捨てなければならない』っていう等価交換の縛りがある。オレに言わせれば、呪術ほど夢のないファンタジーはないね」
呪術において『強い術式』というのは、『厳しい縛りがある代わりに莫大なリターンがある術式』と『威力はそこそこだが大した制限もなく使えるコストパフォーマンスの良いモノ』とに大別できるが、そのほとんどは前者に当てはまるだろう。
以前、オレは『あらゆる物の間に『無限』を生み出すことでどんな攻撃も届かなくなる術式を知ってるけど、呪力制御がとんでもなく難しいらしくてね。特殊な体質を持っていなければまともに扱うこともできない代物さ』と、先生が遠い目で話していたのを聞いたことがある。
(あのとき、『じゃあその特殊な体質と無限の術式を併せ持ってる人がいたらどうやって勝つんですか?』って聞いても答えてもらえなかったなぁ・・・)
まあ、それは存在しない仮定の人のことを話しても仕方がないからであろうが、何を言いたいかと言えば、強い術式だからといって、それだけで最強になれるワケではないということだ。
強い術式ほど縛りも重く、扱いが難しい。
それはどんな強者でも逃れられない。
例外があるとすれば、一部の特級呪霊。
先生に聞いただけだが、自然呪霊がその代表か。
(その成り立ちからして特殊な呪霊・・・自然への畏怖がもとになってるから、自然災害みたいな術式を呪力をコストにするだけで使える連中)
自然災害の具現化ともいえる存在であり、その身体の構成からしてもととなった災害の特徴を持つ。
それゆえに自然の脅威を扱う上で特に制限がない。
火山噴火ならば火山そのもの。
樹海ならば古木。
大海ならば深海に棲む異形。
もしも人間が火山にまつわる術式を使えば肉体が耐えられないだろうが、自然呪霊にはその心配がない。
先生が言っていた『特殊な体質』と『リスクのある術式』をかけ合わせることでデメリットを潰したようなモノだ。
まあ、これは特級呪霊にはしばしば見られる特徴であるが。
(・・・『アイツ』も、そのタイプだったのかな)
--俺はオマエが●を憎み、恐れた腹から生まれた××だよ
--いちいちキレんなよ、××の戯言だろ?
--お前は俺だ、保科柊史
かつて、オレが犯してしまった過ち。
その最中に出会った『アイツ』の悪魔のような術式。
アレにはデメリットらしいデメリットが見られなかった。
強いて言うなら、直接触れなければ発動できないくらいだが、その程度の制約で好き勝手に使ってよいレベルの術式ではなかった。
先生の操る千体近い特級呪霊と戦ったことがあるオレだが、その中にもあそこまでおぞましい術式を持つ者はいなかったのだ。
呪霊全体で見ても相当希少な部類だろう。
今はもういないが。
(オレは、どうしてあんな・・・)
たまにふと疑問に思うことがある。
なぜ、オレは『アイツ』と出会うことになったのか。
それは、オレという人間が・・・
「保科?」
「保科君?」
「・・・あ、ごめん、話の途中だったよね」
しばらく黙って考え事をしていたからか。
仮屋と綾地さんが心配そうな顔でオレを見ていた。
「あの、保科君、大丈夫ですか?」
「え?」
「保科、自覚ないかもしれないけど顔色悪いよ?」
すぐに話に戻ろうとしたのだが、2人とも不安そうな顔のままだ。
そんなにひどい顔をしているのだろうか。
「大丈夫だよ。ただ、連想ゲームみたいに嫌なことを思い出しただけ。話の続きとは関係ないから」
本当に、それだけだ。
間違っても、オレは『アイツ』のことをオレ以外の誰にも、先生にすら教えるつもりはない。
だから、さっきの考えはただの連想の産物であり、2人には話さない。
「・・・話が逸れたけど、要は呪術の自由度なんて魔法に比べれば狭いってこと。術式っていうのは呪術師がそれぞれ持ってる超能力みたいなモノなんだけど、持ってない人もいるらしいし、持っていても一つの術式でできるのは基本的に一つのことだけ。しかも、すごい術式には大抵それ相応のデメリットがある・・・これは魔法と同じかな」
「「・・・・・」」
2人ともいまだに心配そうな表情を崩さないが、オレが努めていつも通りに話そうとしているのを見てそれ以上深追いするのは諦めてくれたようだ。
その方がオレとしてもありがたい。
「長々と話したけど、まとめると魔法と呪術の違いは、世界のシステムと生物学的な多様性の一種の違い。その分、魔法は一回しか使えないっていうデメリット込みで自由度が高いっていうのが大きな特徴だね」
仮屋と綾地さんの質問への回答はここに行きつく。
その源が感情のエネルギーであることなどの似ている点も多いが、違うところもあるのだ。
「生物学的な多様性・・・それなら、保科と夏油、さんって人以外にも呪術師っているの?例えば保科の親戚とか」
「いないとは言えないな。でも、先生はオレを見つけるのにもだいぶかかったらしいし、その後もオレの血縁含めて全国に呪霊を走らせて探したけど見つかってないっていうから、日本にはいないと思う」
仮屋からだが、これもいい質問だと思う。
先生は手持ちの呪霊を総動員して日本全国を探し回ったようだが成果がないというから、オレと先生以外はいない可能性が非常に高い。
どうやって調べたのかは地味に怖くて聞いていないが、オレの両親の家系を特定して会いに行ってもハズレ。
最近は先生も諦めたのか、呪術師探しはそこそこ程度にしかしていないらしい。
まあ、『ま、今は柊史がいるからね。闇雲に探して回るより、キミと切磋琢磨する方が有意義かな』と、オレが見つかったからそこまで気にしていないようだけど。
「最初に保科君も言ってましたけど、私たちが呪術を覚えるのは無理なんでしょうか?」
今度は綾地さんだ。
これについては答えることをもう決めている。
「はっきり言って、無理だ。オレが呪術師になったのも、かなり運の要素が大きい。まず、オレが母さんの魔法を胎児の頃から受け継いでいたっていう前提があるし、そのうえでめちゃくちゃヤバい橋を渡ったからね。それ以上は言えない」
(死に近づくことで呪力が目覚めるかも・・・なんて言って本当に実行されたら取り返しがつかないしな)
先生曰く、オレは極めて特殊な例だ。
生まれつき感情にまつわる類の魔法の一部を持ち、呪霊玉を取り込んで死の淵をさまよった結果が今のオレ。
まず間違いなく参考にならない。
一応、死に近づくことで呪力が目覚めるケースもあると言っていたけど、それで呪術師になった者をオレが知らない以上、その末路はお察しだ。
ただし。
(『あの術式』なら、厳密にいえば不可能ではない・・・とは思う。でも、危険なことに変わりはない)
オレの知るあの術式ならば、普通の人を呪術師に変えることもできるかもしれない。
だが、取り返しのつかないことになるリスクがあるのは同じなので、やはり教えるつもりはない。
結論、普通の人は呪術師にはなれないのだ。
「そうですか・・・」
心なしか残念そうな綾地さん。
一昨日にあのクソ人形の呪いを仮屋に使ったときも同じような反応をしていたところを見ると、呪術に憧れでもあるのだろうか。
「ねぇ保科。それって、例えばアタシがオーナーに頼んで魔女にしてもらった場合でも叶わないの?」
「・・・仮屋、よく思いついたな」
「!!」
オレは本気で驚いた。
魔女ではない仮屋ならではの発想かもしれない。
綾地さんも、『まさか』と言わんばかりに驚いて・・・いや、心配しているのだろうか。
しかし、だ。
「確かに、そのやり方でなら呪術師になれると思う。けど、やめておいた方がいいぞ。綾地さんの前で言うことじゃないけど、魔女の契約は基本手を出さない方がいい」
「それは、私も本当にそう思います。絶対にやめておいた方がいいですよ、仮屋さん!!」
綾地さんがうんうんと頷いているが、それも当然か。
なにせ、綾地さんは代償が代償だ。
「魔女の契約に頼るのは、自分の人生を犠牲にしても叶えたい願いがある場合だけだ。そうでもないなら絶対に代償で後悔することになる」
オレは3人の魔女の代償を知っている。
綾地さんと椎葉さんの代償・・・椎葉さんの場合は願いの先払いなどのイレギュラー込みによるモノだが、は傍から見ればしょうもないが、当事者にしてみればたまったものではない。
日常でならともかく、模試や受験、冠婚葬祭などの大事なイベントの最中ならまさしく人生が悪い意味で変わってしまうこともあるだろう。
それに見合う覚悟もなしにやることではない。
(なにより、木月さんの代償・・・万が一あんな代償になったら)
強制的な記憶の喪失。
内容があまりに重く、かつプライベートなことなので言うつもりはないが、この類の代償になってしまえば下手をすれば死ぬよりひどいことにもなりえる。
ただ『呪術師になりたい』などという願いのために魔女になるのなら、オレは全力で止めるつもりだ。
そもそも相馬さんが受けはしないだろうが。
「わかってるよ。言ってみただけ・・・アタシも、代償がヤバいモノだっていうのは知ってるつもりだから」
「それならいいが・・・ん?お前、綾地さんの代償知ってるのか?」
「っ!?」
神妙な顔で仮屋が綾地さんの方を見ると、当の綾地さんがビクリと震えた。
この反応、何かあったのだろうか。
「詳しくは知らないよ。でも・・・体調が悪くなる感じで合ってる?」
「あ~・・・まあ、当たらずとも遠からずっていうか・・・だいたいそんな感じ」
「っ!!っ!!」
綾地さんがブンブンとすごい勢いで首を縦に振っている。
これは・・・もしかして、昨日仮屋と綾地さんの間にあったのは綾地さんの代償が関係しているのか。
何があったのか知らないが、勘の鋭い仮屋にこれ以上ヒントは与えない方がいいだろう。
持ち前の推理力で正解にたどり着きかねない。
それか、綾地さんがうっかりポロリするか。
ろくでなしの自負があるオレにも人としてのわずかな良心くらいはある。
綾地さんの代償は墓の下まで持っていくべき内容だ。
綾地さんが身投げする事態を避けるためにも、ここは話題を変えてしまおう。
「それにしても、驚いたよ。まさか仮屋が先生と同じことを言うなんて」
「え゛!?」
仮屋が露骨に顔をしかめた。
先生と同じことを言ったのがそんなにイヤなのだろうか。
「保科。それって、どういうこと?」
「あ~・・・前に先生が言っていたんだよ。『恐怖や絶望が心の欠片にならない仕様だからこの世界は平和なんだ』って」
「・・・どういう意味?」
「あんまり気持ちのいい話じゃないけど、それでも聞きたいか?」
「・・・うん」
「・・・はい」
仮屋だけではなく綾地さんの方も見てみるが、綾地さんも興味深そうな顔をしていた。
・・・発端がオレの若気の至りとしか思えない、呪術師として調子に乗りまくっていた頃の思想だからそこは保身のためにぼかすとして、綾地さんの代償のことを誤魔化すならそれくらいインパクトのある話の方がいいか。
「わかった。それじゃあ話すよ。これは、先生と昔に話してたことなんだけど・・・」
オレは、当時のことを思い出しながら口を開いた。
「邪悪なアルプが心の欠片を集めるための、最も効率のいい方法は何か?って話だ」
この作品をご存じでしょうか?①ダークギャザリング、②死印、③東方Project
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すべて知っている
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①と②を知ってる
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①と③を知ってる
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②と③を知ってる
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①だけ知ってる
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②だけ知ってる
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③だけ知ってる
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すべて知らない