女の子が苦しんでいるのを肩代わりしてしまう少年の話 作:二本角
ところで、やっとモジュロを全部読みました。
なんというか、断片的なことは知っていたのですが、最後の方の展開は知らなかったので参考になると言えばいいのか、困ったことになったと言えばいいのか複雑な心境です。
「代償って、結局何なのでしょうか?」
「ん?」
ぽつりと、綾地さんが呟いた。
「さっきの保科君のお話だと、あらかじめ大量の心の欠片を集めておけばすぐに願いを叶えられるから代償を受けなくても済むというのなら、それって願いを叶えるために代償を支払う必要はないということですよね?それなら、私はどうしてあんな・・・うぅ」
「あ、綾地さん?大丈夫?」
さっき、オレは願いを簡単に叶える方法として、アルプと契約する前に心の欠片を用意しておけばよいと言ったが、綾地さんはそこが気になっていたようだ。
まあ確かに、綾地さんならそう思うのも無理はない。
代償をスルーできるということは、願いを叶えるための条件に代償を受けることは入っていないということだ。
必須ではないことのためにあんな代償を背負わされていることを思えば、文句の一つは言いたくもなるだろう。
もしも代償をアルプが外すことができていたなら、欠片集めにおける社会的なデメリットの大きさを鑑みて外していたに違いない。
そんなことは無理なワケだが。
そうして顔を真っ赤に染めて机に突っ伏した綾地さんに、仮屋が心配そうに声をかけていた。
「一応言っておくけど、代償を受けなくても済むかもっているのは予想で、本当に試したことはないよ?でもまあ、合っているとは思うけど」
契約直後に支払いを終えれば代償をスルーできるというのは、オレと先生の推測に過ぎない。
しかし、当たっている可能性は高いと見ている。
この説を聞いた当時は先生の言うことなのだから合っているだろうとしか思っていなかったが、今は椎葉さんの例を知っているからだ。
椎葉さんの場合は願いの前借というイレギュラーを挟んでしまっているので代償が重くなっているが、本来はもっと軽いモノであったらしい。
極論、今の状態でもずっと男装、あるいは服を着ていなければ回避できるのだ。
今より代償が軽いと言うなら、さらに避けるのは簡単だろう。
契約を結んだ直後に女子らしい恰好をしていればその分だけは仕方がないが、言い換えればそこだけしか代償を受けないということ。
理論上、そんな短い間だけ代償を支払えばあとは回避できると言うのなら、やはり代償そのものは願いを叶えるうえで重要な要素ではないと言っていい。
そして、先生の推測にはまだ続きがあるのだ。
綾地さんがこぼしていたように、そもそも代償とは何のためにあるのかという話。
「先生が言うには、代償っていうのは『ツールのレンタル料金』だそうだよ」
「ツール?」
「それって、何の・・・って、魔女のチカラのことですか?心の欠片を回収するための道具とかの」
「そう。願いを叶えることに対してじゃない。その前段階・・・異能のチカラを持っていない人間が、異能のチカラを持つことに対するレンタル料金が代償なんだって」
この世界に存在する人間は、オレのように先天的に魔法に関わるチカラを持っていない限り、『一度だけ、心の欠片を使うことで願いを叶える』権利を持つ。
魔法のチカラで運命を書き換えることそのものにペナルティや料金はない。
ただし、そこに至るまでの過程で異能のチカラを持つことそのもののレンタル代が代償、というのが先生の説だ。
ここで言う異能のチカラとは、魔女が持つ不可視化や、心の欠片を回収するための道具、綾地さんで言うなら銃、椎葉さんならハンマーといった具合だ。欠片を溜める瓶も含まれるだろう。
さらに言うなら、魔女のシステムそのものへのアクセス権もか。
例えばオレが術式反転で大量の心の欠片を作って、なにか願いを持ってる普通の人に渡したところで、それで願いが叶うことはないだろう。
願いを叶えることにペナルティはなくとも、願いを叶える魔女のシステムへの繋がりを持つことは普通の人間が持っていない異能であり、代償が必要になる。
その対価が代償なのだ。
そして、その対価の重さは願いの大きさ、すなわち願いを叶えるために必要な心の欠片の量、ひいてはそれを集めるためのレンタル期間の長さに比例すると考えれば筋が通る。
あるいは容量という線もあるだろう。大量の心の欠片をストックできる道具ほど高性能であるだろうし、性能がいいモノを借りようとすれば高くつくのは当たり前だ。
そう考えれば、個々人の事情や運で変動するレンタル期間よりもこちらの方が可能性が高いか。
「まあ、願いを叶える権利は生まれつきあるのに、そこにアクセスするためにはアルプに仲介を頼んで異能を貸してもらわなきゃいけないっていうのは悪辣だと思うけどね」
ゲームソフトを無料でダウンロードする権利は持っているのに、そのゲームソフトが掲載されているサイトには利用料金を払わなければいけないようなものだ。
まあ、そこでアルプが絡むから、この世界のルールと思われる『異能を持っていない者が異能を貸し与えられること』で生じる代償によるエネルギーをアルプがもらえるのだろうが。
「ねぇ保科。それだと、呪術は・・・って、確か呪術は生物学的な要素で決まるって言ってたっけ。魔女みたいなシステムじゃなくて」
「ああ。呪術は生物の多様性の一種だからな。この世界のルールは関係ない。まあ、呪術も呪術で全くコストがかからないワケじゃないけど」
さっきの話では、あくまでもともと異能を持っていない者が異能を借りた場合の話だ。
オレや先生は生まれつき魔法ないしは呪術は使える素養を持っていた。
さらに言うなら、オレの母さんは魔法で『感情を読めるチカラ』を手に入れていたようだが、そのチカラを振るうことに代償はなかったと思われる。
チカラを手に入れるまでの道のりは借り物でも、それで手に入れたチカラはもう母さんのモノだ。
借りたのではなく、魔女のシステムという世界のルールに則って買ったという形ならば、レンタル料金は発生しない。
なお、呪術師であることにはまったく制限などないが、呪術の使用には呪力という有限のエネルギーが必要だ。
さらに、術式の場合には独自の縛りによって常に何らかの対価を支払わなければならないモノもある。
特に縛りを課した覚えもないのに肉体的苦痛を肩代わりしたり、飢餓感に襲われる心喰呪法など典型的だろう。
オレからすればマイナスの感情を吸収したときの味からして罰ゲームだ。
「異能のチカラを借りるレンタル料金ですか・・・それならまだ納得が・・・いえ、できません。できるわけないじゃないですか・・・!!」
「・・・・・」
綾地さんがなにごとかをぶつぶつと呟いていると思ったら、代償の正体に検討が付いたことで受け入れようとしていたらしい。
結局無理だったようだが。
術式のせいか、綾地さん単独で呪霊を生み出せそうなくらいドロドロとしたマイナスの感情が漂っているのが見える。
「あ、そうだ。思い出した。綾地さん、ちょっといい?」
「事前に代償の中身がわかっていれば・・・でも、私はお父さんとお母さんを・・・はい?」
正直言って今の綾地さんに声をかけるのは少し勇気が必要だったが、幸いなことに今回は暴走させずに済んだようだ。
「さっきまでの代償の話で思い出したんだけど、これを渡しておこうと思って」
「これは・・・ペンダント、ですか?」
「うん。前に遠隔での肩代わりのためにキーホルダーを渡したけど、あれはあくまで試作品で適当なモノを選んじゃったからさ。これも試作品二号ってことで」
オレが綾地さんに渡したのは、三日月を模したペンダントだ。
前回のベースのキーホルダーは椎葉さんへのお守りを探す際の副産物であり、間に合わせの品とはいえ罪悪感があったのだ。
これでも先生のアルバイトに付き合ってそれなりに懐には余裕のある身なので、今回は素材にもこだわってそれなりの値段のモノを選んだ。
(なんとなくなんだけど・・・綾地さんて『月』って感じのイメージがあるんだよな)
物静かで落ち着いた雰囲気の綾地さんのことを考えながらアクセサリーショップを物色していたとき、たまたま目についたのがこの三日月のペンダントだった。
美的センスに自信があるとは言えないが、なんとなく綾地さんと似たイメージを抱いたのである。
ちなみに、明るく温かな椎葉さんには天体から選ぶなら太陽が一番合っていると思っている。
「あ、ありがとうございます!これ
綾地さんは嬉しそうに、ペンダントを手首に通した。
ウチの学院は因幡さんを見てわかるように風紀は緩いので没収はされないと思うが、まあ、このオカ研でなら綾地さんが好きなところに付けるのが一番だろう。
(それにしても、すごいプラスの感情の量だな。質も高い)
ニコニコとした笑顔で自分の手首を眺める綾地さんからは、さきほどの陰鬱な空気が嘘のように非常に質の良い喜びの感情が伝わってくる。
オレとしてはありがたい限りだが、ペンダントに憑けた呪霊が祓われないか不安になるレベルだ。
「一応、そのペンダントについて説明すると、今回のヤツは前のよりちょっと強い呪霊を憑けてあるんだ」
「え?これに呪霊が憑いてるんですか?何も見えませんが・・・」
「強いっていっても三級呪霊だからね。前に見せた軍曹とは比べ物にならないくらい弱いよ」
オレが一昨日の夜に椎葉さんに代償の肩代わりを申し出た理由は、遠隔肩代わりの仕様をもう少し知りたいと思ったからだ。
あの短時間だけでわかったことは少ないが、気になったことがある。
(なんていうか、タイムラグがあった気がしたんだよな)
椎葉さんとアプリで通話しながら実験をしたワケだが、椎葉さんが何らかの行動をしてから、オレに代償が届くまで少しラグがあったように思えたのだ。
今、椎葉さんや綾地さんに持ってもらっているお守りの呪霊は最下級の蠅頭だ。
呪霊が回線のような役割を果たしているとすると、等級の大きさは回線の強度にも影響があるかもしれないと思ったのである。
そこで、美少女である2人のボディーガードも兼ねて少し強い呪霊を憑けようと思い、万が一のときの危険性も考えて三級を選んだのだ。
一応、呪霊はオレが完全に支配し、クソ人形と違って反逆の意思を持てないモノを選び、そのうえで『椎葉紬(綾地寧々)に一切の危害を加えてはならない』、『同人物から強いマイナスの感情を感じ、そのうえで接触しようとした生物がいた場合はその生物を攻撃してよい。ただし、殺害は禁止。また、それ以外で他者を害することは禁じる』という命令を出してある。
これなら、誤って周囲の人間を巻き込むことはないだろう。
たとえ加害者がクズのような人間でも殺すのはいろいろ面倒くさそうだし、仮にやるとしても証拠隠滅を考えて色々と準備をしてからにしたいことだし。
だがそれも、すべては綾地さんの意思が一番だ。
「どうする?もしも不安なら、呪霊はこれまでと同じ一番弱いヤツにするけど」
「いえ、大丈夫ですよ。保科君を信じてますから」
「そ、そう?そう言われると、責任重大だなぁ・・・いや本当に」
念のため、強めの呪霊で問題ないか聞いてみれば、綾地さんは満面の笑みのままだった。
信用してくれるのは光栄だが、こうも本気で言われると責任の重さをヒシヒシと感じる。
そのときだった。
--チクリ
「ん?」
一瞬だけ、顔に虫にでも刺されたような痛みを感じた。
これは・・・
「・・・・・」
--ジー
(これ、仮屋か・・・なんかすごい見てるな)
いつの間にか、仮屋がどこかじっとりとした視線でオレ、ではないな。
綾地さんが付けているペンダントを見つめていた。
一体どうしたのだろうか。
「仮屋?どうかしたのか?」
「・・・別に」
声もなんだかぶっきらぼうというか、『アタシ不機嫌ですよ』という感じの不満が滲んでいる。
いつもオレから感情を隠すのがうまい仮屋にしては、ここまで露骨なのは珍しい。
「っ!!あ、あげませんよっ!?」
「いや、さすがに綾地さんがもらったヤツはいらないって」
ペンダントに意識を集中していた綾地さんもその視線に気づいたようで、自分の大好物を隠そうとする小動物のようにペンダントを抱え込んだ。
っていうか。
「なんだ、仮屋も欲しかったのか?呪術に興味あるんだもんな。でも、綾地さんの前で言うのはなんだけど、それ呪いのペンダントだぞ?呪霊憑いてるんだから」
なんというか、意外だ。
仮屋はサバサバしてて、オレや海道ともよくつるんでいるから、こういうアクセサリーには興味がないと思っていた。
「保科・・・」
「保科君・・・」
「え?何?・・・って、ごめん綾地さん。やっぱり綾地さんの前で言うことじゃなかった」
「「・・・はぁ」」
「?」
どういうワケか、仮屋と綾地さんの双方から呆れたような、責めるような視線で見られた。
確かに、もらった綾地さんの前で言ったのはデリカシーが足りなかっただろう。
そう思って謝ったのだが、2人は顔を見合わせてため息をついていた。
一体どうしたというのだろう。
「なんていうか、ごめんね綾地さん。せっかくのプレゼントだったのに」
「いえ、仮屋さんこそ。さすがに同情しますよ・・・」
「わかっていたけど、これは本当に難敵だね」
「ええ・・・」
怪訝な顔をするオレを尻目に、2人はお互いを慰めあっていた。
なぜかはわからないが、なんとなくオレが貶されているような気がする。
(でも、ボディーガード用って考えたら仮屋にも渡しておくか?可愛い方だとは思うし)
三級呪霊を憑けたのは、綾地さんや椎葉さんが低く見積もっても美少女という括りに収まるからであり、もしかしたらちょっかいをかける馬鹿な連中がいるかもしれないと思ったからだ。
椎葉さんが男物の水着を着るかもしれないと考えてしまったときのこともある。
それでいうと、仮屋もまあ同じカテゴリに分類されるだろう。
まあ、綾地さん、椎葉さんに比べるとある部分のボリュームが足りてないが。
「何考えてるか知らないけど、女子って視線には敏感だから気を付けた方がいいよ、保科」
「保科君・・・?」
「ご、ごめんなさい・・・」
そんなことを考えていると、仮屋から怒気が吹き上がり、綾地さんの視線の温度が下がっていた。
普段は女子の身体を見ないように気を付けているのだが、仮屋が相手だったからか、ボリュームの足りない部分に目を向けてしまっていたようだ。
オレは頭を下げて謝った。
こういうときは素直に謝るのが一番だ。
誠意を見せるのが大事である。
「じゃ、じゃあ、今度仮屋にも持ってくるよ。ボディーガード用に」
「別にいいよ~だ。そんなとってつけたような理由でもらっても嬉しくないし。っていうか、アタシそこまでさもしくないから」
「う・・・」
確かに仮屋の言う通りだ。
この流れでは、まるで仮屋が駄々をこねたからプレゼントをあげると言っているようなものだ。
なにか、仮屋だからこそという理由を用意しなければならないだろう。
(考えろ、オレ!!仮屋だからこそできる実験内容を!!)
オレは、思考を戦闘用に切り替えて考えた。
これまで先生から教わったこと。
戦闘の中で自分で気づいたことを。
そして、記憶を掘り起こした。
「・・・式神。そうだ、式神だ!!」
「「?」」
突然テンションの上がったオレを2人が不思議そうに見ているが、それが気にならなくなるくらいオレは興奮していた。
なにせ、これが成功すれば、遠隔でプラスの感情をやり取りすることができるかもしれないからだ。
そして、その実験をするのなら魔女の代償を抱えていない仮屋が一番安全だ。
「仮屋!!実験に付き合ってくれ!!これは仮屋が一番向いてる!!」
「ちょ、ちょっと落ち着きなよ保科!!一体どうしたのさ!?」
「あ、ああ、悪い」
ややあって、落ち着いたオレは考えていたことを話すことにした。
とはいえ、冷静になってみると中々ハードルが高そうだ。
「えっと、遠隔肩代わりの仕組みは話したことあったっけ?そのペンダントに憑けてある呪霊と術者のオレの繋がりを利用して視覚や聴覚を共有できるんだけど、その応用でオレの術式を呪霊に貸し出して感情を伝えるってやり方なんだ」
呪霊操術を使える先生も同じだが、オレは自分が使役する呪霊と感覚を共有することができる。
そして、その応用でオレの術式を一時的に共有させ、感情を送らせていたというワケだ。
だが、これには欠点があり、プラスの感情を呪霊を介して伝達することはできない。
なぜなら、呪霊はマイナスの感情を元にした呪力で構成された存在であり、プラスの感情は猛毒に等しいからだ。
「けど、式神は別だ。式神は術式がない術師でも扱える存在で、プラスのエネルギーを使えるヤツもいるらしい」
術師の腕前というと、ほとんどは術式によるものが大きいが、それでは術式を持っていない術師はどうやって戦っているのか?
先生によると、身体や道具の強化に、帳や簡易領域といった結界といった術式に依らない呪力操作の基礎を鍛えることで武器にしているということだ。
その基礎の中に式神も含まれる。
そして、式神も術師が扱う以上呪力で構成された存在のハズなのだが、どういうワケかプラスのエネルギーを使い反転術式が使えるモノもいるのだとか。
「そんな式神なら、プラスの感情を伝えることもできると思う。それで、この実験をやるなら魔女の代償がない仮屋が一番リスクが少ない。だから協力してほしいってことなんだ」
「なるほど。それなら、確かにアタシしかいないね。そういうことなら、協力したげるよ」
「ありがとう、仮屋。でもさ・・・」
オレが事情を説明すると、さっきまで不貞腐れていた感じだったのが、打って変わってやる気を出す仮屋。
そんな風に思ってくれるのはオレとしてはありがたいとしか言えないのだが、問題があるのだ。
「オレ、式神使えないんだよね」
「え?そうなの?」
「保科君、呪術に関することはほとんどなんでもできると思ってましたけど・・・できないこともあったんですか?」
意外そうな顔をする2人だが、オレは式神を使えない。
正確には、使ったことがない。
術式を持たない術師でも構築できるのだから、オレも頑張ればできるようになるとは思うのだが、試そうと思ったことがなかったのだ。
「オレ、自前で呪霊を使役できるから。わざわざ式神を作る必要がなかったんだよね。これは先生も同じだと思うけど」
式神は普通、術式を持たない術師が使う技術であり、式神とセットになった術式でもない限り、術式を持った術師が時間を割いてまで習得するメリットは薄い。
そうするくらいなら、自分の術式を鍛えた方が強くなれるし、もしも術式以外を鍛えるのなら式神より使い勝手のいい結界術の方が恩恵が大きい(結界には才能がいるそうだが)。
そして、式神の必要性が最も小さいのは間違いなく呪霊操術の使い手。次点でオレの心喰呪法だろう。
なぜなら、その二つの術式は数の違いはあれど特級呪霊すら従えることができるからだ。
ほとんどの場面で、式神よりも一級以上の呪霊の方ができることの幅が広い。
特級呪霊一体で、並みの式神が束になってもお釣りがくる。
それなのにわざわざ式神を一から作るなど時間の無駄である。
「やってみる価値がある実験だけど、反転術式に適性がある式神を用意するのは骨が折れそうなんだよな。でも、どのみちその式神を憑けるマーカーは必要になるだろうから、今度オレが持ってくる物を受け取ってくれないか?その、センスにはあんま自信ないけど」
「最後のはいらないでしょ。そこは、自信をもって堂々と渡しなよ・・・ま、よほど変なのじゃなければ喜んでもらってあげるから、期待してるよ?」
「が、頑張ります・・・」
よほど呪術に関わる物がもらえるのが嬉しいのか、それとも自意識過剰だが、朝のようにこのことがオレの心の穴を埋める役に立つからだというのか。
まるでプレゼントを渡したときの綾地さんのように、仮屋も機嫌よさげに笑うのだった。
「・・・むぅ。私だけがもらえたと思ってたのに」
これまたよくわからないことに、逆に綾地さんが少し不機嫌になっていたけど。
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おまけ1
「ところで綾地さん。前渡したキーホルダー、返してもらってもいい?」
「えっ!?」
また少ししてからそう言うと、綾地さんは大きくビクリと震えた。
「ど、どうしてですか?」
「いや、そのキーホルダー、呪霊を憑けてあるから。一番弱い蠅頭だけど、何個もそんなの持ってるのは嫌じゃない?」
「そ、そんなことないですよ!?」
「・・・?」
前に渡した楽器のベースの形をしたキーホルダーには、蠅頭を監視役として憑けてあった。
人を呪う力もないとはいえ、呪霊が取り憑いている物をいくつも持つなど嫌だろうからすぐに返してくると思ったのだが、綾地さんは取り出したキーホルダーを握りしめて死守する構えだ。
(適当に選んだガチャガチャのおまけだったんだけど、そんなに気に入ったのか?)
品物そのものはチープなキーホルダーであり、女子への贈り物としては落第だろうというのはオシャレに疎いオレにもわかる。
だが、人の好みは千差万別だし、そういうのが好きな人もいるということだろう。
「保科。やめてあげなよ。せっかくもらった物を取り上げるなんてひどいと思うよ?」
「仮屋さん・・・」
オレが不思議に思っていると、仮屋が綾地さんの側に立った。
まあ、言われてみれば勝手にいらない物だと判断して、送られた本人が気に入っている物を取り上げようとしているワケだし、感じのいいモノではないだろう。
そんなに気に入っているというなら、返してもらうのは忍びない。
別にオレが欲しいと思っているということでもないし、贈り物が大事にされるのは送った側として悪い気はしない。
ただ。
「わかった。そんなに気に入ってもらってるなら、それは綾地さんが持ってて。でも、少しだけ見せて欲しいんだ。確認したいことがある」
別にオレも意地悪でこんなことを言い出したのではない。
綾地さんがいらないと思っているだろうと思い込んでいたのもあるが、本命は別にある。
「弱いとはいえ呪霊が憑いてたから、残穢が付いてるかもしれない。別にそれですぐに悪いことになるとは思わないけど、祓っておいた方がいいのは間違いないからね」
残穢は呪力の微かな残りカスであり、それが人体に直ちに悪影響を及ぼすことはないだろうが、どう考えても良いことには繋がらない。
祓っておくことに越したことはないのだ。
「だから綾地さん。少しでいいから、返してもらえないかな?」
「う、うう・・・わ、わかり、ました」
(綾地さん、なんでこんなに恥ずかしがってるんだ?)
事情を聞いて断り切れないと判断したのか、綾地さんがゆっくりとした動作でキーホルダーを差し出してくる。
その顔はなぜか真っ赤だ。
伝わってくる感情も、キーホルダーを返すのが嫌だという嫌悪ではなく、羞恥の感情のソレである。
ともかく、オレは綾地さんからキーホルダーを受け取った。
「っ!!」
(ほ、保科君が、私が私のナカに挿れたモノを、手で・・・)
「?」
オレがキーホルダーを手に取った瞬間、綾地さんがビクリと震えたが・・・まあ、早く返して欲しいみたいだし、さっさとやってしまおう。
「まずは蠅頭を回収して、と。それから・・・」
憑いていた呪霊には人間に危害を加えてはいけないという縛り以外にも、『設定された条件を満たす・術者の許可を得る以外に媒介から離れられない』という縛りも付けて念のため逃げられないようにしてあった。
オレはキーホルダーの中にいる蠅頭に許可を出して、呪霊玉に戻してから、それを口の中に押し込んだ。
「っ!?い、今何をしたんですかっ!?保科君っ!?」
「? ど、どうしたの綾地さん?別に、これに憑けてた呪霊をオレの中に戻しただけだよ?」
「ほ、保科君の中!?そ、そこに、わ、私のナカに入ってたモノがっ!?」
「???」
なんだ?さっきから綾地さんは何をこんなにおかしなことになってるんだ?
「・・・?」
チラリと仮屋の方を見たが、仮屋も怪訝な顔をしている。
どうやら仮屋にも綾地さんがおかしくなっている理由はわからないみたいだ。
「・・・まあ、いいか。えっと、次は残穢の確認だな。どれどれ」
考えてもわかりそうにないので、やはり手早く済ませるのが正解だろう。
オレは、術式も利用してキーホルダーの表面をよく観察する。
「み、見られてます・・・私のナカに入ってたのが、保科君に・・・じっくり・・・摘ままれて、顔の近くに」
綾地さんの高速詠唱が聞こえてきたが、早口すぎて聞き取れなかったのでスルーする。
「やっぱり、少しだけど付いてるな。臭う」
弱くとも呪霊であるからか、ごくわずかとはいえ残穢が付いていた。
オレの心喰呪法は感情を五感で感じ取ることができるが、マイナスの感情由来の呪力もその対象だ。
オレの場合、味覚が一番強いので舐めれば一発でどんなに微かな残穢でも見逃さないが、さすがに他人の物にそんなことはできない。
幸い、二番目に鋭いのは嗅覚なので、顔を近づけただけですぐにわかった。
「そ、そんなっ!?ちゃんと洗ったのにっ!?」
綾地さんがなにやら衝撃を受けたように固まっている。
チャンスだ。今の内に祓ってしまおう。
オレは、キーホルダーをしっかり握りこんで、術式を順転で回す。
すると、残っていた呪力は一瞬でオレの中に吸い込まれた。
「はい、終わったよ。これで、このキーホルダーは普通の物になったから・・・綾地さん?」
「はっ!?はいっ!?」
用事も済んだのでキーホルダーを返そうとしたのだが、綾地さんはまだ謎のショックから立ち直れていないようだった。
声をかけると返事をしたので意識を失っていたのではないようだが。
「あの、これ。もう終わったから」
「は、はい・・・」
なぜか悲し気な雰囲気をした綾地さんにキーホルダーを返すと、綾地さんは静かに受け取った。
そして。
「あ、あの保科君。その、に、臭ったりしたんですか・・・?」
「え?いやまあ、オレの術式なら呪力も臭いでわかるから、そういう意味でならほんの少し臭ったかな」
「そ、そうなんですか・・・」
「???」
オレの説明の意味を理解しているのかどうなのか。
意気消沈してしまった綾地さんを、オレは怪訝な顔をしたままの仮屋とともに慰めるのだった。
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おまけ2
(しかし、呪霊が心の欠片の代わりに使えるかっていうのはちょっと気になるな・・・)
さっき思いついたことだが、先生が使えるかもしれないこととは全く関係なく、純粋な知的好奇心から呪霊が心の欠片の代わりになるかは気になった。
だが、これを椎葉さんや綾地さんで試す気にはなれない。
なにせ、呪霊だ。
呪霊玉の状態なら食べでもしない限りは無害だが、それでもそんなものを願いを叶えるエネルギー源にして何か悪影響を及ぼさないかは断言できない。
いくら呪霊が足しになるとしてもだ・・・いや、待て。
(あ、いいこと思いついた。結局はもともとのやり方だけど・・・)
そこで、オレは思いついたことがあった。
「ねぇ綾地さん。話は変わるんだけど、綾地さんって、心の欠片はとどれくらいで溜まりきるの?少しならオレが貸せるけど」
呪霊を心の欠片の代わりにできるかは気になるが、試すことはできない。
しかし、回りくどいと言ったやり方に戻るようだが、オレは心の欠片を作れるし、実際椎葉さんには欠片集めの時間を奪ってしまっていることへの対価として渡している。
綾地さんの場合は、発生が突発的ということもあって純粋に代償を肩代わりすることそのものが報酬となっていたから渡していなかったが、別に渡してはいけないということもない。
まあ、すでに相馬さんにいくらか迷惑料として支払ってはいるが。
「貸す、ですか?」
「うん。返済は、綾地さんが願いを叶えた後でしてくれればいいから。これなら、綾地さんは代償を払わなくてよくなるし、オレが肩代わりする必要もなくなるでしょ?」
綾地さんの代償を知るオレの視点であるが、あの代償からは一刻も早く解放されたいハズだ。
そして、綾地さんが代償から解放されれば、オレが肩代わりしなくてもよくなる。
お互いにwin-winな取引だろう。
「・・・保科君。その場合、保科君は代わりに何を支払わなければならなくなるんですか?」
「え?オレ?」
しかし、綾地さんは咎めるような、いや、心配そうな顔でそう聞いてきた。
オレが支払うモノか・・・
「う~ん、そんな大したものじゃないよ?綾地さんからもらってるプラスの感情を反転術式に使っちゃうくらいだし」
「その感情を使ってしまうと、どうなりますか?」
「その場合はストックがなくなるかもしれないけど、まあ、オレが少しの間おやつを我慢すればいいみたいな感じかな。オレにとってのプラスの感情って嗜好品みたいなモノだし。ストックはもともと綾地さんの代償で大きいのが来たとき用って考えてたから、代償がなくなれば緊急で使うことはないと思うよ。それに、後から返してくれればいいワケだしね」
「・・・・・」
オレの話を聞いて、綾地さんはしばらく考え込んでいるようだった。
そして。
「あの、これ、私が集めて来た欠片なんですが・・・」
「おおっ!?すごいな。ほとんど集まってるじゃん」
綾地さんが心の欠片が詰まった瓶を取り出した。
この瓶も魔女のチカラと同じく支給品であり、渡された瓶を満杯にすることで願いを叶えられる。
願いの大きさによって瓶の大きさが変わることはないが、溜まっていくペースは異なるということなのだが・・・綾地さんの瓶は目測で九割は溜まっているようであった。
「これなら、オレがいくつか欠片を作ればそれで達成できるんじゃない?そうすれば・・・」
「そうかもしれませんが・・・すみません、保科君。せっかくのお話なんですけど、お断りさせてください」
「え?なんで?」
だが、綾地さんは申し訳なさそうな顔でオレの提案を断った。
「あと、もう少しですから。この前、大きな代償を肩代わりしてくれたことがありましたけど、楽観的な見方かもしれませんが、あそこまで大きいのはあまりないと思うんです。それなら、保科君に一時無理をさせてしまうより、今のままの方がいいんじゃないかと・・・あ!もちろん、保科君がそうしたいのならその意見を尊重します」
「う~ん・・・」
今度は、オレが考える番だった。
オレが進めようとした方法だと、オレは一時、綾地さんからもらえるプラスの感情を反転術式に費やさねばならない。そうなると、ストックも使うし、マイナスの感情ばかりで苦しいときに我慢しなければいけない状況もでてくる。
その代わり、オレも綾地さんも発情の代償から永続的に逃れられるし、綾地さんはすぐにでも願いを叶えられる。
一方の綾地さんの案はその逆の現状維持だ。
代償で苦しまなくてはならないが、オレは綾地さんのプラスの感情も、そこから作れるストックである心の欠片を失わずに済む。
綾地さんの代償は来るかもしれないし、来ないかもしれない。
来たとしても、それに備えたストックを使えばこの前のような事態は最低限回避できる。
そして、心の欠片の溜まり具合から、契約の満了まではそこまでの日数はかからない。
(これは・・・オレの提案は綾地さんにメリットが多くて、現状維持ならオレの方は損をする可能性が低いのか?)
オレの提案では、最終的に収支はプラマイ0。
現状維持なら、前のような大きな代償が連発でもしない限りはプラス。
若干の希望的観測が混ざっているが、それでも残り期間の短さを考えれば勝率の高い賭けだ。
だがまあ、大差はない。
そして、大差がないというのなら、綾地さんが断っているのに無理に勧めることもないか。
一応、最後の確認はしておこう。
「本当にいいの?どっちかって言うとオレに得が多いままだけど」
「はい。大丈夫です。私は、これまで保科君にはたくさん助けてもらってましたから・・・少しでも返させてください」
「そういうことなら、わかったよ。現状維持でいこう」
「はい!」
考えてみれば、綾地さんの性格上、オレの方が損をしている状況では無理をして穴埋めしそうだ。
あまりいい結果に繋がりそうな気はしない。
それなら、今のままでいいだろう。
なにせ。
(あとほんの数回・・・多くても十回か?それで綾地さんの願いは叶うんだから)
綾地さんの願いに必要な心の欠片はあとわずか。
ほんの少しの間で集まるだろう。
無理をすることはない。
(でも、残念と言えば残念だな。今の縛りが満了になったら、こうやって会う機会は減るだろうし・・・いや、綾地さんならそれでもプラスの感情が減ることはないか)
オレと綾地さんはついこの間縛りを結んだばかり。
だが、その縛りもそう長い間は続かない。
それで綾地さんがオレに冷たくなったりすることはまずないだろうが、人気者の綾地さんがオレに積極的に関わろうとする理由はなくなってしまう。
プラスの感情をくれる云々を抜きにしても、椎葉さん並みのいい人である綾地さんと話すのはマイナスの感情に囲まれたオレにとって憩いの時なのだ。
それだけは残念だと思いながら、オレは貴重な今のひと時を噛みしめるように昼休みを過ごすのだった。
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そして、時は過ぎていく。
朝は和奏と過ごし、昼は寧々と和奏の2人にオカ研で呪術の講義。
放課後は紬とついでにアカギを加えて癒しを得る。
夜は、しばしば七緒のところに向かって、頼れる大人に日頃の小さな悩みを相談してみたり。
そうして、柊史は夏油と修行に明け暮れていたときとは違う方向で充実した日々を過ごし・・・
「あれ?君たちは、川上君と前田さん?どうしたの?」
ある日、二年生の教室の前で一年の2人が誰かを探すようにウロウロしていたので、知り合いである柊史は声をかけ。
「あ!保科先輩!!見つけた!!」
「あ、あの保科先輩!!」
目的の人物を見つけた2人は柊史のもとに駆け寄って、心配と不安の色に染まった顔で口を開いた。
「保科先輩。因幡さんから、連絡は来てないですか?」
「因幡、最近学院に来てなくて・・・」
「え?」
その不穏な問いかけに、柊史は茫然と声を漏らしたのだった。
評価・感想・推薦お待ちしております。
やっと因幡さんの話を進められる。まあ、グダグダと世界観について書きたいことを書いていたから遅くなったのですが・・・
次はハロウィンに投稿したいところですが、難しそうです・・・
pixiv版もよろしくです。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=29481699
この作品をご存じでしょうか?①ダークギャザリング、②死印、③東方Project
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