女の子が苦しんでいるのを肩代わりしてしまう少年の話 作:二本角
「因幡さんが、学院に来てない?」
「はい・・・」
「ちょっと前から調子が悪そうだとは思ってたんだけど、もう三日も来てなくて・・・しかも、俺たちから連絡しても返事がないんです」
「保科先輩は、因幡さんから何か聞いてませんか?」
「いや、悪いけど何もない。オレも何度か連絡入れたことはあったけど、全部既読スルーされてるんだ」
「保科先輩もか・・・」
一年生であり、因幡さんの友人である川上君と前田さんが、どうして二年生の教室付近にまで来たのかと思えば、因幡さんがここ数日休んでいるという。
2人から連絡しても何も返事がないようで、ならばオレはどうなのかと思って来たとのことだ。
そういえば、オレはこの2人とは連絡先を交換していなかったな。
「あれ?保科先輩は因幡さんが来ていないことを今知ったんですよね?それなのに、既読スルーされてた?」
「あ、そういえばおかしいな。因幡が俺たちに返信しなくなったのは休んでからだし・・・保科先輩はいつから既読スルーされてたんですか?」
「ここしばらくだな。少なくとも三日よりも前だ」
「それは・・・」
「も、もしかして、俺のせいか?俺があんなことを言ったから?」
「? 何を言ったのかは知らないけど、川上君のせいではないと思うぞ?因幡さんには申し訳ないけど、心当たりがあるし・・・」
「そ、そうなんですか?」
オレが因幡さんから返事をもらえていないのは、呪術師として鍛えた身体能力で調子に乗り、逆立ちに失敗して下着を覗いてしまったあの日からだ。
因幡さんが怒るのは当然であり、ブロックせずに既読を付けてくれるだけ温情というものだろう。
川上君がどんなことを言ったのかはわからないが、さすがにオレのセクハラを越えることはあるまい。
「保科先輩、因幡と何があったんですか!?」
「教えてください、保科先輩!私たち、今少しでも手がかりが欲しいんです!!」
「え、えっと、それは・・・」
掴みかかる寸前の勢いで迫ってくる2人。
それだけ因幡さんのことを気にかけているというのは、彼らがとても友達思いのいい人だということであり、心喰呪法を持つオレとしては大変好ましいのだが、いかんせん、理由が理由だ。
2人が必死で、困っているのもわかるが、さすがにこの場で口に出すのははばかられた。
答えてあげたいのはやまやまなのだが・・・そう思っていたときだ。
「保科君、どうしたんですか?」
「一年生だよね?保科になんか用でもあるの?」
「綾地さん、仮屋」
「「っ!!」」
教室のすぐそばで話していたからか、中にいた綾地さんと仮屋がオレたちの様子に気付いたようだ。
しかし。
(なんだ?2人とも、少し怒ってる?オレじゃなくて、川上君と前田さんに?)
どういうわけか、綾地さんと仮屋は少しピリピリしており、しかもその苛立ちはオレではなくオレに迫る2人に向いているようだ。
基本的に人当たりのいいこの2人にしては珍しい。
だが、そのせいなのか、一年生の2人は気圧されてしまっているみたいだ。
(まあ、顔が整ってる人が怒ると怖いって言うしなぁ)
綾地さんは言わずもがな、仮屋も男のオレから見て中々可愛い方だと思う。
その2人から敵意を向けられては、委縮してしまうのも仕方がない。
ただでさえ先輩後輩なのだ。
けれど、オレが『いい人』と断じることができる人どうしがいがみ合うところなど、見たくはない。
「ああ、この2人はオレの一年生の友達の友達なんだ。今、その友達が連絡が取れなくなってるみたいで、何か知らないかって聞きに来たところなんだよ」
「そういえば、前に一年で仲がいい子ができたって言ってたか。その子のこと?」
「そうだよ。友達がそんなことになってるんだ。焦るのも仕方ないだろ?」
「ほ、保科君に後輩のお友達なんていたんですか・・・?仮屋さんも、知ってたんですか?」
「教えてないこともあるって言ったでしょ?まあ、このことはアタシも忘れてたけど。でもなるほど、そういうことか」
なにやら綾地さんがショックを受けているが、そういえば仮屋には教えていたけど綾地さんには教えていなかった。
別にわざわざ言う必要のあることではないというか、言う機会がないから言わなかっただけなのだが、どうして衝撃を受けているのだろうか。
「・・・あの、綾地先輩。綾地先輩って、お悩み相談をやってるって本当ですか?」
「はい?」
「お、おい前田」
「川上君の気が進まないのはわかるけど、このことは保科先輩だけじゃなくて専門家に相談した方がいいと思う。綾地先輩、すごく評判がいいし、私たちじゃわからないことも気づいてもらえるかもしれないよ?」
「それはそうだけど・・・」
綾地さんが呆け、仮屋が納得している間に、一年の2人が綾地さんに標的を変更していた。
綾地さんのお悩み相談のウワサは、もう一年にまで広まっているのかとオレは驚くばかりである。
「どうする?綾地さん?アタシとしては、受けておいた方がいい気がするけど。その保科の後輩のこと、聞いておいて損はないんじゃない?」
「・・・そうですね。知りたいことができましたし、それを抜きにしても困っているのは本当みたいですし」
今度は仮屋と綾地さんが何やら話していた。
またしてもこの2人しては珍しく、何か企んでいるような不穏な感情が滲んでいる。
まあ、一年の2人を助けてあげたいという気持ちもあるみたいだけど。
(っていうか、さっきからオレが置いてけぼりになってるな・・・)
いつの間にか、オレを置いて事態が進行していた。
戦闘でならイニシアティブを取ることを見逃すなどありえないが、普段の会話でのオレのコミュ力では目まぐるしく動く話の流れについていくなど不可能であった。
そうこうしている内に・・・
「それでは、急いでいるようですし、今日のお昼休みにオカ研まで来てください」
「わかりました。綾地先輩。それに保科先輩も、よろしくお願いします」
「あ、うん・・・」
そういうワケで、この場にいる面々で昼休みに集まることが決定してしまっていたのであった。
(あれ?これもしかして、オレが因幡さんのパンツ見たの綾地さんたちにも言わなきゃならない流れか・・・?)
遅れて、己の恥ずべき罪を告白しなければならないという時限爆弾がセットされたことにようやく気が付いたが、もはや後の祭りであった。
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昼休みのオカ研。
集まったメンバーの自己紹介を済ませてから、まず因幡さんについて説明した。
因幡さんは一年生で、オレと川上君、前田さんと同じクラス。
しかし、入学してすぐに体調を崩してしまい、グループ形成からあぶれてしまったこと。
そこでオレがボッチ飯の最中に出会い、モン狩を通じて仲良くなったこと。
放っておけなくて、オレが協力し、ゲームを通して川上君たちと仲良くなるきっかけを作ったこと。
そして、そんな因幡さんがここ数日休んでおり、連絡に返事がないこと。
「ひとまず、経緯はわかりました・・・」
「そういうことなら、焦るのもわかるよ」
一通り、どうしてあんなに川上君たちが慌ててオレに迫っていたかを話すと、綾地さんも仮屋も納得してくれたようだ。
しかし・・・
「それで?保科はその因幡さんって子が連絡返さないことに心当たりあるんだって?」
「どんなことがあったのかお話してくれませんか?」
なぜか、話を持ち掛けて来た一年生2人より、今さっき事情を知ったばかりのオレの同級生の方がやる気に満ち溢れていた。
いや、これはやる気を通り越してもはや戦意だ。
訓練の前に呪力が昂った先生がたまにこんな風になっていたからわかる。
「いや、その、えっと・・・」
「「・・・・・」」
助けを求めるように一年の2人を見るが、こちらも真剣な目で見つめてくる。
確かに、彼らからすれば友人を助ける一助になりえる情報はどんな些細なモノでも欲しいというのはわかるが・・・
「ど、どうしても言わなきゃダメ、かな・・・?」
結局うまい言い訳など思いつかなかったオレには、許しを乞うしかなく。
「「ダメ(です)」」
「お願いします、保科先輩!!」」
「わ、わかったよ・・・」
四方向から発せられる気迫を術式ごしに感じ取ったオレは、抵抗を諦めた。
「その、決してワザとじゃないんだけど・・・」
そうして、オレは白状した。
モン狩の最中にプレイヤースキルの低さに苛立ち、現実の自分の方がうまく狩れると傍から聞けばイタイとしか思えないことを言ったこと。
それを聞いた因幡さんが煽るどころかドン引きし、先輩としての威厳を見せなければならなくなったこと。
宙返りしても目の錯覚だと信じなかったので、宙返りからの逆立ちを披露したところ、因幡さんの下着をバッチリ、それも二回も見てしまったこと。
しかも、二回目はスカートの真下からガッツリと。
そして当然の帰結として、因幡さんを怒らせてしまったこと。
下着を見たくだりを誤魔化そうとしてみたが、心喰呪法を持ってるワケでもないのに綾地さんと仮屋に『ウソをついてますよね?』『さっさと全部ゲロっちゃいなよ』と見破られ、オレは正直にすべてを話した。
「保科君・・・」
「保科・・・」
オレの予想通り、同級生2人は冷たい視線がレーザーのように飛んできて。
「えぇ・・・」
「・・・・・」
一年の2人は普通に引いていた。
「そ、そういうワケで、因幡さんを怒らせちゃったから、返信がないのも仕方がないし、頑張って耐えてたけど、ショックがひどくなって学院に来なくなったのも、あり得るかなぁ・・・と。はい」
改めて口に出してみれば、普通にセクハラというか性犯罪だと思う。
よく因幡さんは、『なんかいい感じのお店でスイーツを奢らせる』程度の約束で手打ちにしてくれたモノである。
(っていうか、それで言うと椎葉さんの方がヤバいよな・・・因幡さんは下だけだったけど、椎葉さんは、その上まで見ちゃったし・・・でも、あんまりそっち方面では印象に残ってないなぁ。姿勢が堂々とし過ぎて)
思えば、オレは椎葉さんには因幡さんがお話にならないレベルでセクハラを複数回かましている。
もはや腹を切って詫びた方がいいのでは?という感じだが、ほぼ毎日会っている椎葉さんから嫌悪の感情を感じたことは一度もない。
『聖人』という言葉ですら椎葉さんの懐の深さを言い表すことはできないだろう。
なお、自己弁護ではないが、上下を見てしまった際の記憶はエロかったというより、逞しかったという印象の方が強い。
あり得ない話だが、まるでオレにすべてを見せつけることが目的だったようにすら思えるほどだった。
あの仁王像を彷彿とさせる立ち姿は、そんじょそこらの格闘家にも不可能だったと思う。
「保科、またなんか変なこと考えてない?」
「そうですよ。今は真剣な場なんです。しっかりしてください」
「ご、ごめん・・・」
いかん。下着を見たことから連想して完全に関係のない椎葉さんのことを考えてしまっていた。
それを見透かしたかのように、仮屋と綾地さんの視線の温度がさらに低下した。
呪術師に興味があるみたいだったが、もう術式としてなんか持ってるんじゃないだろうか。
「まさかとは思いますが、の、覗きをしたくて逆立ちしたんじゃないですよね?」
「わ、わざとなんかじゃないって!!なんなら、縛りを結んでも・・・」
「ちょ、ちょっとちょっと!!保科!!縛りとか言わないでよ!!」
「あ・・・ご、ごめん」
危ない危ない。
己の無実を証明したくて、呪術のことを知らない一年の2人の前で縛りを実践するところだった。
「そ、その、ごめんなさい。保科君がそんなことするハズないですよね・・・しば、コホンっ!!そのことまで持ち出すのなら、本当に保科君は潔白なんだって、信じます」
「いや、綾地さんが疑うのも無理はないよ。オレがそっちの立場なら絶対疑ってる」
仮屋のおかげで頭が冷えたのか、綾地さんから罪悪感が伝わってくるが、この件に関しては綾地さんの方が真っ当である。
「あの、先輩たち、さっきから何の話を?」
「縛り?モン狩の縛りプレイのこと?それに何の関係が?」
(ま、マズい・・・)
脱線してしまったからか、一年の2人が不審な顔でオレたちを見ていた。
ここはどうやって誤魔化すか・・・
「って、っていうより、そんなことした子にどんなメッセージ送ったのさ!!」
(っ!!ナイスだ仮屋!!)
そう思っているところに、うまいこと仮屋が次の話題を差し込んでくれた。
話を元に戻すのにも都合がいいファインプレーだ。
「あ、ああ。実は、そのことがあった後、因幡さんにめちゃくちゃ怒られたんだけど、そのときお詫びに甘いものを奢る約束をしたんだ。オレも申し訳なく思ってたから、早く謝りたくて日程のことを相談しようと思って」
「甘いものを、奢る・・・?」
「セクハラされた女の子が、そんな約束を・・・?」
(な、なんだ?なんでこんな疑われてるんだ?・・・いや、疑われてるのは、オレじゃない?)
綾地さんと仮屋から、急に強い疑念が沸いてきていた。
てっきり、オレの言うことを疑っているのかと思いきや、術式でわかる感情の向きが違う。
これは、誰に向かってるんだ?
「「・・・あ~」」
一方の一年生は、二年生とは対照的に何かを察したような顔をしていた。
「あ~、その、保科先輩。因幡が今連絡取れなくなってるのは、その件は関係ないと思います」
「因幡さんのことだから狙ったワケじゃないんだろうけど・・・そうでなかったら中々策士だね」
「? どうしてそう言えるんだ?」
「いえ、保科先輩の話を聞いて思い出したんですけど、因幡の調子が悪くなる直前までは、割と普通な感じで保科先輩のことを愚痴ってたんですよ」
「愚痴って言っても、陰湿な感じじゃなくて・・・ほら。前に保科先輩が要介護プレイをしてたときに文句を言いながら巧い感じにサポートしてるときみたいな」
「そう言われると普通に想像できるというか、思い出せるな・・・」
なんでも、因幡さんの様子がおかしくなる直前まで、因幡さんはいつものようにオレのプレイヤースキルのことを煽るときみたいにオレに対して文句を言っていたらしい。
いつものことなのでその様子が目に浮かぶオレとしては、それで因幡さんのことを陰湿だとは思わないし、むしろ因幡さんらしいとすら感じる。
文句を言っていたのも、オレが下着を見たことが原因だったようなので、それで因幡さんの心が休まるのなら好きなだけ言って欲しいと思うくらいだ。
「怒ってるって言っても、本気じゃなくて、『まったくしょうがないなぁ、保科先輩は』って感じで・・・」
「そんな感じだったから、保科先輩に下着を見られたことがトラウマになってたとは思えないんです」
「だいたい、いくらお詫びだからってセクハラの加害者に何か奢ってもらったら許すなんて約束、本気で嫌ってたらしないでしょうし」
「あ~・・・まあ、それはそうか」
言われてみれば、本気でオレのことを嫌っていたのなら二度と関わらないようにするだろうし、そもそもそこまでの嫌悪は感じなかった。
いやまあ、男子に下着見られてその反応というのも危機管理的にどうなんだとは思うが。
「・・・念のため聞いておきますけど、保科先輩。因幡さんのパンツ、変じゃなかったです?」
「前田!?」
「前田さんっ!?何聞いてんの!?」
見た目大人しい感じの前田さんから発せられた突然の爆弾発言に、オレだけでなく友達の川上君まで驚いていた。
しかし、その発言のぶっ飛び具合とは裏腹に、前田さんは至って真剣であった。
正直に言わないと許さないというプレッシャーを感じる。
「川上君、保科先輩。これは大事なことなんです。女の子が下着を見られるってだけでも人によっては辛いのに、そのとき履いてたのが年季が入ってクタクタになってたのだったら・・・切腹を決意しても不思議じゃないんですよ?」
「え、ええ・・・?」
「そ、そうなの・・・?」
「「・・・・・」」
引いている様子の川上君を横目に、つい綾地さんと仮屋の方を見れば、2人とも気まずそうに眼をそらした。
伝わってくる感情からすると、どうやら図星のようだ。
「それで、どうだったんですか?保科先輩」
「え、いや・・・これ答えていいヤツなの?いやまあ、変じゃなかったとは思うし、むしろ可愛い感じだっと思ったけど」
「うわ、保科サイテー」
「保科君・・・エロです」
(オレにどうしろってんだよ・・・)
正直に答えたのに、同級生からの視線が痛い。
比喩ではなく、本当に針で刺されたような痛みがする。
というより、これは因幡さんだけでなく、オレに対してもセクハラが成立するのではないか?
昨今は男女平等。
この場面を弁護士が見ていたら、間違いなくオレを無罪にしてくれるハズだ。
『
「すげぇ・・・この状況で正直に言えるなんて、保科先輩マジすげえ。勇者・・・いや、ブレイブマンだ」
「そのキラキラした目はやめてくれないかな川上君」
この場において唯一味方になってくれそうな男子の川上君が、オレに勇者を見るような尊敬の念を放っていた。
味方になってくれているのかもしれないが、全然嬉しくない。
「正直に答えてくれてありがとうございます、保科先輩。因幡さんがもしそうだったら、本当に気にしていたとは思うので」
「い、いや、どういたしまして?」
「っていうか、女子ってマジでそこは気にするのな」
「そうだよ?当たり前でしょ?川上君も保科先輩も、よく覚えてくださいね。とくに川上君は念入りに」
「お、おう・・・覚えとく」
(あれ?この2人・・・)
大人しそうな前田さんと、活発そうな川上君という一見合わなそうなペアだが、今はまるで川上君が前田さんの尻に敷かれているようだった。
それでいて、川上君からは嫌な感情を感じない。
むしろ、今の川上君から、恥ずかしさに混じって少しだが嬉しさや期待のような感情が出ている。
因幡さんの友人ということで女子の前田さんだけで来るのではなく、2人そろって来たということは、これはもしや・・・
「なるほど、川上君。キミは前田さんのことが・・・いや、みなまでは言わないよ」
「は、はぁっ!?何を言ってんですか保科先輩!!」
さっきのブレイブマンに対する意趣返しも兼ねてカマをかけてみたが、どうやら図星のようだ。
「「・・・じ~」」
さっきまでオレに冷たい感情を向けて来た綾地さんと仮屋も、今は微笑ましいモノでも見るような視線を向けている。
狙ったつもりはないが、これは好都合だ。
「いや、オレはこう見えて、世界で一番人の感情の機微に詳しいと言っていい男だからね。そのくらいはすぐにわかるさ」
これは本当のことだ。
なにせ、オレには生まれつき感情を読み取るチカラが備わっていて、今では心喰呪法という強力な術式になっているのだ。
感情を読むという点において、世界でオレよりも優れた人間はいない。
これは、あのできないことはないのではないかと思える先生が相手でも同じだ。
そう自信をもってオレは言い放ち。
「あの、そういうのマジでいいんで」
「保科先輩、空気を読んでください」
「保科・・・アンタにだけはそれを言う資格はないでしょ」
「そうですよ。反省してください保科君」
「え?なんで・・・?」
さっきまでキラキラとした視線を向けていた川上君含め、この場にいる全員から絶対零度の視線を向けられ、オレはひどく困惑するのだった。
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「とにかく、保科先輩は因幡さんが休んでいる理由ではないと思います」
「ああ。それはないと思うぜ」
オレとしては納得がいかなかったのだが、そこにこだわって話が進まないのはマズいという大人の判断で批判を甘んじて受けた後のこと。
状況的に、オレが原因で因幡さんがトラウマを抱えたというのはまずないと見ていいという結論が出た。
「そうなると、申し訳ないけどオレには心当たりがないな・・・」
しかし、オレが持っている情報は少ない。
因幡さんの下着を見て怒らせてしまった後は、申し訳なさと気まずさから直接会うことができず、メッセージでのやり取りもナシのつぶてという有様だったからだ。
正直お手上げである。
「他に、何か思い当たることはありませんか?どんな小さなことでもいいですから」
さすが、こういう相談事に慣れているからか、綾地さんが落ち着いて一年生2人に問いかけていた。
綾地さんが関わって来たのは成り行きだが、この2人にとっては運が良かったと思う。
オレだけでは無理だったことだし。
「実は、あるんです・・・」
「その、綾地先輩にも聞いて欲しいと思ったのは、お悩み相談室のことだけじゃなくて・・・」
「そうなんですか?」
少しの間、2人は顔を見合わせていたが、やがておずおずとそう言った。
どうやら、心当たりが最初からあったようだ。
(そういえば、川上君が何か言っちゃったとか、そんな話をしていたな・・・)
最初にオレのところに来たとき、川上君から強い罪悪感を感じることがあったが、その『何か』を言ってしまったことが原因なのだろう。
しかし、オレの術式で判断しても善人と判定の出る川上君が、ひどいことを言うとは思えないが・・・
というか、綾地さんに用があったかのような言い方だが、一体何なのだろう。
綾地さんと因幡さんに接点はないハズだが。
「その、綾地先輩と保科先輩って付き合ってるんですか?」
「いや、全然?」
「「「っ!?」」」
「うわぁ・・・」
何を言うかと思えば、
意を決したかのように前田さんがそう言ってきたが、オレは即座に返した。
そんなオレに、川上君と前田さん・・・そしてなぜか綾地さんがひどく驚いている。
というか、綾地さんはどうしてそんなに驚いているのだろう。
せっかくカバーストーリーまで共有しているというのに。
・・・なぜか仮屋がドン引きしているが、関係はないだろうからスルーすることにする。
「最近は落ち着いてきたけど、一時はだいぶ妙な噂が流れてたから誤解するのもしょうがないかな」
綾地さんがオレをオカ研に誘った際は、クラスメイトに見られながらということもあり、すぐさま学院中に広まった。
それで、しばらくは『あの綾地さんがどこの馬の骨とも知れない陰キャに気があるみたいだ』とか、『いや、あんな冴えないヤツが綾地さんのお眼鏡にかなうワケがない。何か弱みでも握ったんだ』というオレからすれば綾地さんに対して失礼極まりない尾ひれ背びれが付いた噂が流れたのだ。
中にはオレに直接聞いてくる連中もいて、そのたびに考えついたカバーストーリーを話すことになり、本当に面倒くさかったものである。
同学年ではもう下火になっているが、一年の間には訂正も行き渡っていないということだろう。
「いい?あんな噂が流れたのは、綾地さんの親しい人がオレのバイト先の顧客になったからで、それでオレと綾地さんの間に少し縁ができたってだけだから。ね?綾地さん・・・綾地さん?」
「え?あ・・・はい」
同意を得ようと綾地さんの方を見れば、眼からハイライトが消えていた。
強い悲しみと、諦観の感情を感じるが、どうしたのだろう。
何も悲しむようなことなど起きていないハズだが・・・いや。
(そりゃそうだよな。オレみたいな最低なヤツと付き合ってるって噂がまだ残ってるってことだもんな。ショックを受けるのも当たり前か)
考えてみれば、オレのようなクズと恋人関係にあるという噴飯もののウワサが下級生、もしかしたら上級生にまで広まっているということだ。
絶望してしまうのも無理はない。
その絶望を晴らすべく、ここはもっとオレが頑張るべきだ。
「だいたい、オレみたいな陰キャと綾地さんが釣り合うと思う?ねぇ、川上君。正直に言ってみてよ」
「え?あ~、まあ、言っちゃ悪いですけど、釣り合ってはいない、ですかね?・・・ヒッ!?」
「でしょ?・・・って、どうしたの、川上君。ん?」
オレなどとあの学院のアイドルたる綾地さんが釣り合うなどあり得ない。
同じ男子の目線から証言してもらうべく川上君に話を振ったが、オレの目論見通り、否、至極当然の理として、不釣り合いであると言ってくれた。
これで綾地さんも少しは安心してくれるだろうと思ったのだが、何やら川上君が怯えていた。
一体どうしたのだろうと思ったが、誤解を解こうと必死になっていたからか、遅れてその理由に気が付いた。
(なんだ?綾地さんがすごく怒ってる?)
オレの術式に、すぐに気が付かなかったのが不思議なほどビンビンに反応が来ていた。
その発生源はどこかと思えば、さっきまで怒る気力すら残っていないような綾地さんであった。
「保科君・・・」
「え?どうしたの、綾地さん」
怒っている理由が欠片もわからず困惑するオレに、綾地さんが地の底から響くような声で。
「絶対に・・・絶対にその誤解を解いて見せますから!!覚悟してくださいね!!」
「? あ、ああそうだね。誤解は解かないとだね」
改めて、オレに向かって決意を表明してきた。
オレとしても反対する気は毛頭ない。
綾地さんのためにも、全力を尽くす所存である。
そんなオレに、綾地さんを労わるかのようにその肩に手を乗せていた仮屋が、何かに耐えかねるように口を開いた。
「保科・・・アタシの立場から言うのはすごい微妙なんだけど、さすがにアタシも同情しててさ・・・アンタ、人の心とかないの?」
「急に何言ってんだ、仮屋?」
今日は他の人が口にしている台詞の文脈がよくわからないことばかりだ。
綾地さんばかりか、仮屋の言うことの意図も察することができず、オレは今日幾度目かの疑問符を浮かべるのだった。
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おまけ
「そういえば保科先輩。逆立ちなんてできたんですか?」
どういうワケか綾地さんが急に相談不可能なくらい気が立ってしまっており、これ以上はいない方が良いと判断したオレと川上君、前田さんは廊下を歩いていた。
ちなみに仮屋は綾地さんを放っておけなかったのか、オカ研に残った。
なにやら『アタシと綾地さんで作戦会議するから、保科はその子たち連れてさっさと帰れ』と言っていたが、一体何についての作戦なのだろう。
「いきなり失礼な。余裕だよ余裕」
「え~、本当ですか?因幡の前でやったら失敗したんですよね?」
「あのときは、因幡さんの下着が見えちゃったから、オレも慌てちゃったんだよ・・・っていうか、最初はもっとリスクが少ない方法でオレの身体能力のすごさを見せようとしたんだ。でも、目の前でやったのに信じてくれなくてさ」
「目の前でやったのに?保科先輩、因幡さんの前で何をしたんですか?」
なんとなくだが、さっきから一年生2人のオレに対する態度がぞんざいというか、『コイツは少しくらい痛い目に遭った方がいい』と言われてるかのような舐めた空気を感じる。
大人しそうな前田さんも、『どうせ因幡さんの前でくだらないことをしたんだろうな』という疑いの視線で見ていた。
これはよくない。
ここは、先輩としての威厳をはっきりさせておくべきだろう。
・・・前も因幡さんを相手に全く同じことを考えたような気がするが、答えは同じだ。
「何って、これだよ・・・よっと」
「「え?」」
オレはその場で飛び上がり、空中で一回転。
そのまま天井を蹴ってもう一回転し、元の直立姿勢に戻った。
「こんな感じ。でも因幡さん、『目の錯覚だ』って言っててさ。もっとわかりやすいようにジャンプしてからの逆立ちをやったって流れだよ」
「「・・・・・」」
2人の反応がない。
いや、眼を見開いているし、術式ごしに驚きの感情を感じる。
ただ驚愕がすごすぎて反応が驚いていないようだ。
「言っておくけど、前田さんがいるから逆立ちはしないよ?宙返りならやるけど」
「い、いえ!!いいです!!信じますから!!」
「うわ・・・因幡が言ってたこと、マジだったんだ。保科先輩が運動神経いいって。っていうか、運動ができるとかのレベルじゃないな」
(おお、わかりやすく驚いてる。これだよこれ。こういうのでいいんだよ)
因幡さん相手には失敗してしまったが、目の前の2人からさっきまでの舐めた空気が消えていた。
それを察し、オレは内心でガッツポーズを決める。
しかし。
「でも、これは因幡が不安に思うのもわかるわ。運動部入ってたら、というか運動部にバレたらゲームどころじゃなかったろ」
「それに、さっきの綾地先輩と、もう1人の仮屋先輩の反応・・・川上君が因幡さんに言ったこと、半分は正解だったんじゃないかな」
「だな・・・肝心の保科先輩側が速攻で否定してたけど」
「あ、あれは・・・綾地先輩が可哀そうだったよ」
「ああ。思わず俺もそう思っちまったよ・・・」
「?」
何を話しているのか、2人で小声でやり取りしているうちに、2人から漂う感情が重くなっていた。
これは、心配、不安、それに諦観と納得だろうか?
(よし、せっかく先輩の威厳を取り戻せたんだ。ここは、もっと頼りになるところ見せなきゃな。結局川上君が因幡さんに何を言ったのかも聞き出せてないし)
2人の中に沈んでいるマイナスの感情を払拭すべく、オレは努めて明るく声を出した。
「2人ともどうしたんだ?さっきは役に立てなかったけど、話すだけで楽になるかもだし、相談に乗るよ?」
「「・・・・・」」
そして、2人はそんなオレを見て。
「「はぁ~・・・」」
「??? 2人とも?」
「あ~、すみません保科先輩。気持ちだけ受け取っておきます」
「私も、遠慮しておきますね」
「そ、そう?」
2人で息を合わせたように深くため息をつき、にわかに元の軽い空気が戻るのだった。
この作品をご存じでしょうか?①ダークギャザリング、②死印、③東方Project
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すべて知っている
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①と②を知ってる
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①と③を知ってる
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②と③を知ってる
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①だけ知ってる
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②だけ知ってる
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③だけ知ってる
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すべて知らない