女の子が苦しんでいるのを肩代わりしてしまう少年の話   作:二本角

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タイトルとあらすじをちょっと変えました。


残穢を纏う後輩

「ふぅ~・・・あと半分か」

 

 4限終了のチャイムが鳴る。

 オレは今日も午前中を乗り切ったことを喜びつつ、まだ午後の授業が残っていることに憂鬱になる。

 そんなオレに、声をかけてくるヤツらがいた。

 

「なんだよ柊史。今日も教室で食わないのか?」

「ああ。最近学食にハマっちゃってな」

「また学食~?いくら安いって言っても毎日はキツくない?」

 

 オレを下の名前で呼ぶのは、海道秀明。

 その隣にいる小柄な女子は仮屋和奏。

 大変奇特なことに、オレなんかの友人をやってくれている気のいいヤツらだ。

 クラス替えをしてすぐに色々とやらかしたオレだが、去年からの付き合いのこの2人にはいたく心配されたものだ。

 

「そこは心配しなくてもいいぞ。オレ、バイトしてるし」

「あ~、たまに休みに出かけてるってヤツか」

「たまに出るだけでお金の心配しなくていいって、どんなバイトしてんのさ」

「それは企業秘密。まあ、身内のコネでかなり色を付けてもらってるってのが大きいな」

「かぁ~、コネかぁ~・・・結局は縁故採用って、世知辛いな」

「ね~。アタシも欲しいギターあるし、バイト探そっかな」

 

 ここのところ、教室には歩く地雷(綾地さん)がいるため、オレは昼休みを教室で過ごすのを避けるようになっていた。

 それで、教室を抜ける口実も兼ねて学食に行くようにしているのだが、仮屋に言ったように資金にはかなりの余裕がある。

 

(先生のバイト、かなり割がいいしな)

 

 先生はアルプや魔女が経済的、社会的にトラブルを起こさないよう、全国を飛び回っている。

 また、アルプや魔女のことを知る人間の中には社会的に影響力を持つ者もいるのだが、そういった人たちは経済的な援助はできてもオカルト方面はからきしで、先生はその関係で助けに入ることが多いのだ。

 先生曰く『昔の私には『大義』があったが・・・こちらに来たばかりの頃に同じことをすればただの自己満足だったからね。宙ぶらりんになっていたところに偶々アルプ関係の揉め事に首を突っ込んでからの成り行きさ』とのことだが、関わっている人たちが大物なことも多く、報酬はかなりのものらしい。

 オレもその手伝いをしたときにそのおこぼれにあずかっているということである。

 まあ、オレが直接アルプに会ったことはまだないが。

 

「まあ、また弁当持ってきたときは教室で食べるよ。そのときは一緒に食おう」

「おう!!柊史がいないと寂しいからな」

「アタシとしても、海道と2人ってのはちょっとアレだからね。なるべく早く弁当持ってきてよ?」

「え!?和奏ちゃん、それどういう意味!?」

「え?単純にキモいって話だけど?」

「おいおい仮屋。いくら本当のことでも正直に言わないことがいいってこともあるんだぞ?」

「いや、保科も保科でドストレートにひどいこと言ってるじゃん?」

「はぁはぁ・・・2人がかりの容赦ない罵倒・・・悪くないな!!」

「「そういうところだよ」」

 

 海道がドMなのはいつものことなので、オレたちの対応もそれ相応だ。

 そんな雑な反応で快楽が得られるのだから、Mというのは社会的な尊厳に傷が付くことに目をつむれば楽しいのかもしれない。羨ましいとは欠片も思わないが。

 

「じゃあ、そういうわけでまた午後の授業でな」

「おう」

「いってら~」

 

 オレは海道と仮屋に見送られながら教室を出る。

 

「・・・・・」

(保科君、最近は昼休み教室にいませんけど、どこに行ってるんでしょう?)

 

 他の女子のグループに話しかけられているクラスの人気者の少女がこっちを見ていた気がするが、オレはスルーした。

 

 

-----

 

 

「まあ、今日はオカズ作りすぎて本当は弁当なんだけど」

『ゲェェェプ』

 

 オレは、特別棟の空き教室で、ストックしていた呪霊に閉まっていた弁当箱を取り出しながら呟く。

 ・・・この芋虫型の気色悪い呪霊は戦闘能力こそ皆無だが、体内にほぼ無限にモノが入るという四次元ポケットのような術式を持っており、移動手段として使う虹龍と並んで便利なヤツだ。

 コイツの中に仕舞っていると出すときに唾液まみれになるというのが玉に瑕だが、利便性には代えられない。

 一応、弁当箱はビニール袋に包んであったから、中身は無傷である。

 

「う~ん、適当に詰めてきたからちょっと微妙だな」

 

 オレの家は父さんが忙しいので、家事はオレが担当している。

 そして、今日は昨日作りすぎてしまったオカズを弁当箱に入れてきたのだが、時間が経ったせいか味が微妙になっていた。

 まあ、食べるのがオレ1人だけだからいいか。

 

「そういえば、椎葉さんも家事は自分でやってるって言ってたな。オレより料理も上手そうだし、レシピ教えてもらおうかな」

 

 ここ最近はほぼ毎日のように椎葉さんところに通っているが、これまでの人生で人付き合いが得意などとは口が裂けても言えないようなオレでも、ずいぶんと打ち解けたと思う。

 その中で、料理の話になることもあったのだが、話を聞くに椎葉さんの料理スキルはオレよりも上だ。

 今度教えを請いたいものである。

 

「しかし、本当によく仲良くなれたもんだな」

 

 考えてみると、椎葉さんとこれほど良好な関係をよく続けられていると自分を褒めてやりたい気分だ。

 まあ、きちんとした理由があるからオレとしても不思議ではないのだが。

 

「やっぱり、オレと椎葉さんの縛りだよな」

 

 まず、オレと椎葉さんの間に結んだ縛りは、双方にメリットがあるため、会えば必ず2人とも満足できるというのは大きい。

 どちらかだけが得をするのではなく、両方とも得をする。

 他にも。

 

「やっぱり、他の人には言えないことを言い合えるっていうのは気楽でいい」

 

 オレは呪術師で、椎葉さんは魔女。

 そこらの人にはとても言えない内容だ。

 オレの場合は父さんや先生もいるが、その2人は忙しかったりして会えないことも多いし、椎葉さんはそもそも親にも魔女のことは黙っているらしい。

 そうなると、気兼ねなく秘密を共有できるのはオレと椎葉さんだけだ。

 オレも、椎葉さんだってすべてを話したわけじゃないだろうが、お互いの正体を知っているというだけで隠し事をしているという後ろめたさがないので格段に話しやすい。

 あと、これはオレの推測だが。

 

「多分だけど、椎葉さん。学校生活があんまりうまく行ってないっぽいんだよな」

 

 オレも好んで学校でのことを話したいと思わないが、椎葉さんはさらに露骨に普段の学校生活のことを口に出さない。

 まあ、椎葉さんは代償で男装しなければならないから悪目立ちしてしまうのは仕方がない。

 普段からオレが肩代わりできるのならいいのだが・・・イジメでも起きないか心配である。

 

「一級呪霊でもこっそり護衛につけるか?椎葉さん、帳は見えるけど呪霊はどうなんだろう?・・・今日会ったときにでも聞いてみるか」

 

 オレが支配下に置いた呪霊は遠隔操作可能だ。

 先生は東京にいながら京都に放った呪霊の大群を操ったこともあるそうだが、オレの場合でも姫松から椎葉さんがいる街くらいならオレの指示通りに動かせる。

 目や耳の感覚も共有できるので、何かあればすぐに察知できるし、真剣に考えてもいいだろう。

 ・・・というか、先生はなんで京都に呪霊を大量に放ったりしたんだろうか。

 それと、思いつきだが常に肩代わりできるようにするというのはアリかもしれない。

 

「術式の拡張次第でなんとかならないかな。いや、でもそれができるようになったら直接会う回数が減りそうだなぁ・・・まあ、考えてみればそれが自然と言えば自然、か」

 

 ふと、そんなことが思い浮かんだ。

 オレは、スマホのアルバムに収められた制服姿の椎葉さんの写真を見る。

 写真の中の椎葉さんは、嬉しそうに笑っていた。

 けど、この笑顔だって本来はオレが独占していいものではないはずなのだ。

 本当なら、椎葉さんクラスの可愛い子とオレなどに接点ができるはずもないし、そもそも椎葉さんが魔女でいるのも一時的なものだ。

 心の欠片を集めきればオレたちの縛りも解消となる。

 

「会えるのが減るのはちょっと嫌だけど・・・椎葉さんのことを考えれば、こっちも考えておいた方がいいのかな・・・はぁ」

 

 そのうち、オレたちの関係は終わる。

 今のうちに椎葉さん出会う前に逆戻りすることに備えておいた方がいいのは確かだろう。

 

「はぁ・・・まあ、これはそのうち考えよう。そのうち」

 

 椎葉さんの写真は見ているだけで幸せな気分になれるが、先のことを考えると気分が沈んでしまう。

 縛りの解消だって今すぐというワケではないので、未来のオレに任せよう。

 オレは問題の先送りをすることにして、気分を変えるべく空になった弁当箱を格納呪霊に放り込み、代わりにゲーム機、3DWを取り出した。

 

「モン狩りでもするか・・・」

 

 オレが取り出したゲーム機のソフトは『モンスター猟人』。

 近年流行のハンティングアクションゲームであり、後数ヶ月で新規ナンバリングが発売する。

 今オレがやっている『3rd』は発売されたからだいぶ時間が経っているが、新作前の慣しのために引っ張り出して遊んでいるヤツは結構多い。

 オレもご多分に漏れず、ブランクを解消するためにプレイしているといわけだ。

 

「あ~・・・やっぱり久しぶりだから鈍ってるな」

 

 クエストを開始してしばらく。

 前までならミスしなかったような操作でミスしてしまい、クエスト失敗になってしまった。

 

「でも、やるからには勝ちたいんだよな~・・・オレ、この武器作るの途中で止めちゃってたのか」

 

 以前は貴重な素材が要求される武器を作ろうとして面倒になって止めてしまっていたようだが、改めてやり返すと気になってくる。

 

「そうだ。今ならこのゲームやってるヤツいるかもしれないし、探してみるか」

 

 オレはワイヤレスのスイッチをONにする。

 すると、1人プレイヤーがいた。

 オレの推測通りだったようだ。

 

「えっと、『ラビー』さんか。よし、『こんにちは、クエスト手伝ってもらうことはできますか?』と」

 

 オレはメールやチャットでのやりとりは好きだ。

 直接会わなければオレの術式は効果を発揮しない。

 だから、人見知りのオレでも気軽に話しかけに行けるのだが、ラビーさんからは『いいですよ。何行きます?』と返ってきた。

 

「いい人っぽいな・・・じゃあ、このクエストを・・・」

 

 そうして、オレとラビーさんはクエストに出発したのだが・・・

 

「・・・この人、めっちゃ上手いな」

 

 オレはラビーさんのプレイヤースキルの上手さに舌を巻いていた。

 オレから手伝いを依頼しておいて情けないが、ほとんど寄生プレイヤーみたいになってしまっている。

 というか、オレだけだったらとっくに三乙していたところをラビーさんの回復弾に何度も救われている。

 一回助けてもらった後にお礼を打とうとしたところを狙われ、さらに助けてもらうというお手本のような足手まといっぷりを見せてしまっていた。

 

「リアルだったら、雷を落してくるだけの相手なんてどうとでもなるのに・・・あ」

 

 このゲームの操作キャラより、オレ自身の方が確実に強い。

 ただの槍や銃弾で傷つくような相手なら、オレの呪力砲で消し飛ばしてしまえるのに。

 ・・・そんな下らないことを考えていたら、オレの操作キャラがベースキャンプに運ばれていた。

 

「や、やっちまった~!!」

 

 とんでもない大ポカだ。

 『ごめんなさいラビーさん』と謝罪のメッセージを打つより前に、オレはつい大声で叫んでしまった。

 

 

--ガタッ!!

 

 

「ん?」

 

 オレがいる教室の隣から物音がした。

 今の時間帯、この辺の教室が無人であるということは術式の関係で1人飯の達人であるオレが既にリサーチ済み。

 だからこそ、1人で過ごすには最適なこの場所を選んだのだが、同じことを考えている人がいたのだろうか。

 

「というか、オレの声で驚かせちゃったか・・・?」

 

 オレが咄嗟に叫んでしまったことで驚かせてしまったのなら、申し訳ないことをした。

 だが、謝りに行くのはこんな人気のない場所を選ぶような人相手ならむしろ迷惑な気がする。

 

「あ、そうだ!!ラビーさん!!」

 

 

-ガタガタッ!!

 

 

 物音に気を取られていて忘れていたが、ラビーさんに謝っていなかった。

 なんか隣の教室からまたガタガタ音がしたが、それを気にするよりも早くお詫びのメッセージを打たねば。

 そう思ってディスプレイを見ると・・・

 

「あれ?ラビーさんも乙ってる?」

 

 ベースキャンプにいるオレの操作キャラの隣にラビーさんがいた。

 そうなると、ラビーさんもやられたのだろうが、足手まといのオレが消えたくらいであれほどのプレイヤースキルの持ち主が倒されるとは思えない。

 一体何が・・・いや、まさか。

 

「もしかして、隣にいるのって・・・」

 

 オレが叫んだタイミングで驚いた隣の教室にいる人。

 さっきも、ラビーさんの名前を言ってしまったときに物音がしたが・・・

 オレは、そろそろと音を立てないように教室を出る。

 そのまま、隣の教室を確かめようとして。

 

「あ」

「なっ!?」

 

 ちょうど隣の教室から、女の子が1人出てくるところだった。

 明るいオレンジ色のふわふわした感じのロングヘアを、右側だけ短めのサイドテールにしている。

 全体的に制服を少し着崩していて、なんというかコギャル風という感じがする。

 校章の色からして一年生か。

 そんな女の子の手に握られているのは、オレと同じ3DW。

 状況的に、まず間違いなくこの子がラビーさんなのだろうが・・・オレはそんなことがどうでも良くなるくらいのモノを目にしてつい叫んでしまった。

 

(『残穢(ざんえ)』がある!?なんだこの子!?)

 

 『残穢』とは、呪術師や呪霊が術式を使った後に残る呪力の残滓だ。

 呪力は個々人によって微妙に性質が異なるため、残穢を見ることで誰が術式を使ったのか辿ることもできる。

 先生によれば残穢は非常に微量の呪力で、呪術師でも注意深く見ないとわからないらしいのだが、オレの『心喰呪法』は呪力の感知能力を飛躍的に高める効果もあり、また女の子に付いている残穢が『かなり濃い』のもあって、軽く見ただけでわかったのだ。

 いや、しかし。

 

(・・・残穢とはちょっと感覚が違う?呪力というより、椎葉さんからプラスの感情をもらったときと似てる・・・もしかして)

 

 女の子に付着している残穢は、先生が残すモノ、あるいはオレ自身が付ける呪力とは異なる感覚がした。

 呪力には個人差があるが、プラスの感情に似ているのならば呪力ではないのだろう。

 そうなれば、正体は一つだ。

 

「あ、あの・・・」

「あ・・・」

 

 オレが彼女に纏わり付くモノの正体に気が付いたのと同時に、女の子が声をかけてきた。

 伝わってくるのはキツイ炭酸でも舌に垂らしたような痛み。

 どうやら怖がっているらしい。

 まあ、会って早々叫ぶ男がいたら気味が悪いだろう。

 オレは釈明をしようとして・・・

 

「「えっと・・・」」

 

 

--・・・・・

 

 

 2人同時に喋ろうとしてタイミングが被り、双方沈黙する。

 その瞬間、オレは悟った。

 

(この子、オレと同じだ。人付き合いがめちゃくちゃ苦手だろ)

 

 昼休みにこんなところで1人でゲームをしていたのだ。

 間違いなくオレの同類。

 そして、伝わってくる感情が少し温かくなった。

 恐らく、向こうもオレに親近感を覚えたのだろう。

 

「その、ごめん。いきなり会ったから驚いちゃって・・・君、ラビーさん?」

「は、はい!!私がラビーです・・・えっと、ウナジさんですよね?」

「うん。オレがウナジ。本名が保科柊史だから、ちょっともじったんだ」

「保科センパイ・・・あっ!!私、因幡めぐるって言います!!」

「因幡さんだね・・・よろしく」

「「・・・・・」」

 

 そしてまたも訪れる沈黙。

 人見知りに特有だと思うのだが、初対面の相手に自己紹介だけ饒舌になれるのは何でだろう。

 次に会うときには会釈するので精一杯になるのに。

 

「えっと・・・」

「その・・・」

 

 オレとしては、聞きたいことが結構ある。

 その身に纏う残穢、いや、『魔法の残り香』は何なのか。

 君は魔女なのか、それとも『元』魔女なのか。

 呪霊という存在を知っているのか。

 そして何より・・・

 

(なんだ?この子の感覚?針で身体の奥深く・・・心臓でも刺されたみたいな痛みがする)

 

 オレの術式による肩代わり。

 それによって、今まで感じたことのない感覚を味わっていた。

 これまでも視線を向けられたときにもチクリとした痛みを味わったことはあるが、今のコレは別物だ。

 身体の表面ではなく、『芯』とでも言うべき部分を刺されたような。

 こんなのは初めての経験だ。

 しかし、魔法や魔女、呪霊に痛みのことも、術式を持つオレにしかわからないこと。

 因幡さんが一般人だった場合、そんなことを聞けば中二病と思われるか、頭がおかしいと敬遠されるかのどちらかだろう。

 つい聞こうとしてしまったが、その前にオレは喋るのを止めた。

 因幡さんの方からも、『話しかけた方がいいのかな?』という感じの迷いが伝わってくる。

 またも気まずい沈黙が降りてしまったときだった。

 

 

--『セイヤッ』

 

 

「「あ」」

 

 手に持ったままだった3DWから声がした。

 どうやら、知らない間にボタンを押してしまったらしく、攻撃モーション時のボイスが出てしまったらしい。

 オレは画面に目をやるが・・・

 

「やばっ!!残り時間10分切ってるじゃん!!」

「あ!!本当だ!!」

 

 因幡さんも自分の3DWを見て驚いていた。

 オレたちは、どちらからということもなく目を合わせる。

 

「「とりあえず・・・」」

 

 またハモった。

 オレと因幡さん、変なところで相性がいいのだろうか。

 だが、今お互いが考えていることは術式なしでもわかる。

 オレたちは、つい笑ってしまった。

 

「ははっ・・・と、とりあえずクエストの続きやろうか。足引っ張っちゃうかもだけど」

「わかりました!!大丈夫です!!保科センパイが足を引っ張っても勝ちますから!!」

「言うじゃないか・・・いや、でも本当にヘルプお願いします」

 

 そうして、オレたちは因幡さんがいた教室に入り、ゲームの続きをするのだった。

 

 

-----

 

 

「ふぅ~・・・なんとか時間内にクリアできた」

「お疲れさまです、保科センパイ。まあ、ほとんど私が倒したようなもんですけど」

「いや、本当に面目ない・・・でも、本当に上手いね」

「ま、まあ・・・プレイ時間700時間超えるくらいやりこんでますし」

「700!?廃人じゃん!!え?勲章いくつ持ってるの?」

「勲章ですか?フルコンプですよ?」

「す、すげぇ・・・神だ。狩人の神がいる」

「いやぁ?それほどでもありますけど?」

「あ、そこは普通に認めるんだ」

(なんか、不思議な人だな、このセンパイ)

 

 保科柊史と因幡めぐるはクエストの続きをやり終え、一息ついていた。

 まあ、めぐるの言うとおり、実質的にめぐる1人で倒したようなものだったが。

 そしてその中で、めぐるは目の前の先輩に不思議な感覚を抱いていた。

 

(何でだろう?・・・会ったばかりの人なのに、一緒にいると気持ちが落ち着く)

 

 因幡めぐるという少女には、ある悩みがある。

 それは、強い『焦燥感』。

 そして、ふとした時に思いだしてしまう、『悲しみ』と『後悔』。

 

 

--自分を変えなければいけない。誰とでも仲良くなれるような『人気者』にならなければいけない

 

 

 元々、めぐるは言っては何だが地味な少女だった。

 そんなめぐるには、1人だけ親友と胸を張って言えるほどの友達がいた。

 しかし、その親友はある日、何も言わずにいなくなってしまった。

 いつの間にか引っ越しまで済ませており、別れの挨拶も何もなかった。

 親友がいなくなる前に彼女に向けて言った、『ある一言』・・・めぐるとしては貶す意図など一切ないその言葉がその原因かもしれないと、後悔と悲しみが心に突き刺さったトゲのようにめぐるの中に残っている。

 

 『私は人付き合いが苦手で、あなたしか友達が作れない。だから、友達はあなただけでいい。あなたもそうでしょう?だから、ずっと友達でいて欲しい』

 

 確かに捉えようによっては、『あなたも私以外に友達いないよね』と言えないこともない。

 だが、それ以上にずっと友達でありたいという友情が籠もった言葉だ。

 しかし、めぐるの親友がいなくなってしまったのは事実。

 あの言葉こそが親友を傷つけてしまったのだと、めぐるは深く後悔した。

 同時に、決意したのだ。

 

 

--二度とこんなことがあってはいけない。また親友と再会できたときに謝れるように。あのときとは違うと堂々と言えるようにならなくちゃ!!

 

 

 そうして、めぐるは高校デビューに挑んだのだ。

 それまでファッションなど興味がなかったが、雑誌を読みふけり、ネットも調べ、イメチェンを果たしたのである。

 もっとも、この姫松学院に入学した一週間後に体調を崩し、一週間ほど休んでしまったことで新学期特有のグループ形成のタイミングを逃してしまったのだが。

 そのことと、気合いの入れようが裏目に出たのか空回りしてしまい、孤立とまではいかないが未だに仲の良い友達がいない。

 だからこそ、昼休みに1人だけで過ごすという寂しい生活を続けてしまっている。

 それがさらに焦りにつながり、悪循環に陥っていると自分でもわかるくらいで、誰かに相談したいとも考えているのにそもそも相談する相手がいないという八方ふさがり。

 メンタル的にはゲームにでも逃避しなければやってられない状態だった。

 だからこそ、今の自分に驚いてすらいた。

 

(保科センパイ、めぐると同じくらい人付き合いが苦手そうなのに、すごい話しやすい)

 

 自分を変えたいと外見こそ可憐と言っていいレベルにまで仕上がったが、中身までは早々変えられない。

 人付き合いに苦手意識があるままで、初対面の相手とは全く話せないか、痛々しいくらいハイテンションになってしまうかのどちらか。

 おまけに今は焦りもあるはずだというのに、目の前にいる先輩とはスラスラと話せている。

 確かに人付き合いが苦手で、同じゲームをやっているということで親近感は覚える。

 だが、ここまでフラットに話せるとは。

 まるで、『抱えていたモヤモヤ』がどこかに行ってしまったかのよう。

 

「やっぱり、因幡さんも新作は買うの?」

「それは当然ですよ!!買わなきゃハンターじゃないですって!!」

「おお、すごい気合いだ。オレも頑張んなきゃなぁ・・・」

「確かに。保科先輩はもう少し腕を磨いた方がいいですね・・・なんでランスなのにガード系じゃなくて回避性能付けてるんですか?」

「いや、動画でバックステップだけで粉塵爆発回避してるのがかっこよくて・・・」

「尻尾回転も避けられないのに付けてるのはもう地雷と同じじゃないですか・・・」

「・・・っス。ガード性能の装備に替えるわ。持ってないけど」

「じゃあ、素材集めないとですね・・・よかったら手伝いますよ?」

「マジで!?助かるよ!!それじゃあ、どのクエストがいいかな・・・」

「これなんかいいと思いますよ?二体同時クエで確定報酬もありますし」

「すごいな。まるでモン猟博士だ」

「おっ!?あの漫画の台詞ですね?・・・『調べたさ。モンスターを倒すためにな』」

「え?あの台詞の後ってそんなこと言ってたの?コラしか見たことなかったから知らなかった」

「・・・センパイ。ネタとはいえエアプで漫画の台詞を振るのはかなりウザがられるから止めた方がいいですって」

「・・・何も言えねぇ」

 

 ゲームが潤滑油となっているのは大きい。

 それに、めぐるは勿論どちらかと言えばインドア派気質な柊史もサブカルに詳しく、そういう面でも気があった。

 しかし、楽しい時間というのはすぐに終わる。

 

「あ、もうすぐ昼休み終わるな」

「あ・・・本当ですね」

 

 気が付けば、昼休みが終わりそうになっていた。

 ここは特別棟なので、そろそろ移動しなければ間に合わない。

 

「今日はありがとう。すごいためになったよ」

「い、いえ。自分も楽しかったですし・・・」

 

 

--また、会ってもいいですか?

 

 

 その一言はめぐるの中から出てくることはなかった。

 さっきまではゲームのことで盛り上がっていたが、チャイムが鳴って現実に引き戻されてしまったようだ。

 お昼前までに心の中にあった焦りはない。

 だが、またいつもの人付き合いが苦手な因幡めぐるが戻ってきてしまっていた。

 焦りの代わりに、にわかに心の中に『何か』が湧き上がる。

 1人でお昼休みを過ごすようになってから、いや、親友がいなくなった後からずっと続いていた孤独がわずかにでも癒やされた。

 それがなくなってしまうことへの『寂しさ』が。

 

「・・・因幡さん」

「え?」

 

 まさかめぐるの内心がわかった訳ではないだろうに、出口へと歩いて行こうとした柊史が振り向いた。

 そして。

 

「その、オレ、やっぱりゲームが下手だからさ。また教えてもらっていいかな?昼休みは、オレもよくこの辺りで食べてるから・・・因幡さんが良ければ」

「は、はい!!よろしくお願いします!!・・・び、ビシバシ教えてあげますから!!」

 

 柊史の方から、お誘いの言葉がやってきた。

 願ってもない展開に、食いつくように反応してしまい、なんだか気恥ずかしくなって、つい調子に乗ったような台詞を言ってしまう。

 こういうところが他人に避けられる要因でもあるのだが、柊史は気にしなかった。

 まるで、めぐるの本心がわかっているかのように。

 

「ははっ、お手柔らかにね」

「はい!!」

「っと!!そろそろ本当に急がないとマズいな。行こう因幡さん」

「わわっ!!そうだった!!」

 

 そうして、2人は慌ただしく教室を出て行くのだった。

 ・・・なお、次のモン猟の新作である4thでは回避ランスが猛威を振るうことをこの2人は知らない。

 

 

-----

 

 

(因幡さん・・・ついこっちから誘っちゃったけど、やっぱり気になるな)

 

 教室に戻り、なんとか授業に間に合ったオレは、さっき出会った後輩のことを考えていた。

 

(残穢のこともそうだけど、今までに感じたことのない痛み・・・しかも、飢餓感があまり減ってない)

 

 空き教室を出る間際、因幡さんから寂しさの感情が湧いてきたのがわかって、昼休みに1人飯という境遇に共感と同情を覚えたのは確か。

 だが、オレはそれ以上に呪術師として因幡さんに興味があった。

 だから、オレは自分からまた会う約束をしたのである。

 

(これまで、感情を吸えば飢餓感を減らすことができた。そして、因幡さんからは強い焦りや悲しみ、寂しさがあった・・・オレとゲームしてるときは楽しんでたみたいだから味はプラマイ0くらいだけど、それで飢餓感が完全になくなってないのはおかしい。そもそも、あのときに感じた感情の味と、胸の奥が痛くなるような痛みはまったく別物だ)

 

 オレの心喰呪法は、他人の感情を喰らうことで呪力に変換する術式だが、長時間感情を吸わないと途轍もない飢餓感に襲われる。

 この飢餓感は突然膨れ上がるケースもあるが、大抵は少しずつ増えていく。

 そして、因幡さんと話しているときはオレに感情が向いていることもあってかなりの量を取り込むことができたのだが、飢餓感はなくなっていない。

 普段ならばもう吸わなくていいと思える量を吸ったにも関わらず。

 

(まるで、オレの『穴』が広がったみたいな・・・まさか、心の穴が空いてる?焦りとかよくない感情をため込んでいたのもあるからあり得なくもないけど、そこまで追い込まれているようには見えなかったな。ともかく)

 

 ともかく、因幡めぐるという少女は色々と気にかかる点が多い。

 その境遇を心配しているというのも嘘ではないが、それを抜きにしても興味深い。

 どうせ昼休みに教室にいたくないのだし、『後輩と親交を深めている』というまっとうな理由もできるのだから、オレにとっても悪い話じゃない。ゲームを楽しみたいのも本当だし。

 ただ・・・

 

(オレ、遊び人になってないよな?なってないよね、椎葉さん・・・)

 

 オレの脳内でデフォルメされた椎葉さんが『保科君の遊び人!!』とプラカードを振り回している。

 椎葉さんが、オレが服装を褒めるたびに言っていることが本当のことになりそうな気がして、少し罪悪感を感じるのだった。




あのキャラと会わせる前にどうしても因幡さんは出しておきたかったので書きました。
次は異能力バトルの方を更新予定です。

この作品をご存じでしょうか?①ダークギャザリング、②死印、③東方Project

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