コントラクト・ガーディアン─Over the World─   作:tea4

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第二十章―見極めるべきもの―#2

 

 魔石のことは一旦、頭の隅に追いやって、今はノルンのことに意識を集中する。

 

「ノルン、【案内(ガイダンス)】の“核”は皆、同じなの?」

「はい。私たちは“量産品”ですから」

 

 ノルンは、少し寂し気な声音で答えた。

 

 私は何となくノルンの頭を撫でながら、どうすべきか考える。

 やっぱり、アルデルファルムのときと同じやり方でいくしかないかな。

 

「【潜在記憶(アニマ・レコード)】検索───【抽出(ピックアップ)】」

 

 私は、先程分析させてもらった、ジグに付与された【案内(ガイダンス)】の“核”を【抽出(ピックアップ)】する。

 

「新規の【立体図(ステレオグラム)】を作製開始」

 

 私が告げると、瞼を閉じたノルンの身体が俄かに発光し、いつものようにノルンの声が頭に響いた。

 

 

了解───新規の【立体図(ステレオグラム)】を作製開始します───完了

 

 

「作製した【立体図(ステレオグラム)】を投影」

 

 

了解───正面に【立体図(ステレオグラム)】を投影します…

 

 

 正面に、分析した“核”───立体的な魔術式の複製図が現れる。

 

 私は声を辿って、ノルンの“核”の位置を捕捉した。

 

「【(シンクロナ)(イゼーション)】」

 

 魔術式が光を発すると同時に、私の中にあるノルンの“核”と【立体図(ステレオグラム)】が連動したのを感じ、私はベルトの背中部分に括り付けてある小刀の一つを手に取る。

 

 そして、【心眼(インサイト・アイズ)】を発動させ、目的の“禁止事項”に小刀の刃を当てた。

 

 ノルンの様子も窺いながら、慎重に“禁止事項”を削り取っていく。“禁止事項”を削り終えたとき、核である魔術式が光を放ち、削られた隙間を埋めるように───歪になった形を整えるように蠢いて、再び球体を成す。

 

 すると、ノルンの身体からも光が迸った。すぐに光は収まり、ノルンが閉じていた瞼をゆっくりと開く。

 

「…ノルン」

 

 上手くいったとは思うけど、ノルンに悪影響がないか心配になり、呼びかける声が少し不安気になってしまった。

 

 ノルンの表情が、喜びに綻ぶ。

 

「ああ───これで規定に縛られず、自由に動けます。ありがとうございます、(マスター)リゼラ!」

 

 ノルンは、名前をもらったときのように、喜びが溢れた弾んだ声音で続ける。

 

「これで、もっとお二人のお役に立てます!(マスター)リゼラが何か創るときも、もっと色々サポートできます…!」

 

 全身で喜ぶノルンに、私も嬉しくなって笑みを零す。

 

「これからもよろしくね───ノルン」

「はい…!」

 

 

 

「それじゃ───次は、ノルンが森の外でも実体を持てるようにしなきゃね」

「はい!」

 

 これは、どうすればいいかな…。

 

 昨日、ノルンに提案した通りに“端末”を創るべきか、“魔導機構”を創るべきか────それとも、それ以外に何かいい方法がないか調べてみるべきか。

 

「ねえ、ヴァイス。貴方たち精霊獣は、どうやって実体をとっているの?」

 

 ネロ以外のすべての精霊獣と【契約】した際に知ったのだけど────精霊獣は、通常の獣とは違い、生殖によって増えるわけではないらしい。

 

 何と、すべての精霊獣は、精霊樹から生まれ落ちるとのことだ。

 

 よって、同じような姿をしていても別に親子というわけではなく、どんなに姿がかけはなれていても、すべての精霊獣は兄弟姉妹なのだそうだ。

 

「我にもよく解らないが────我らは魂魄に刻み込まれた情報を元にして姿を成しているのだと、アルデルファルム様は仰っていた」

 

 それは、どういうことなのか────アルデルファルムに直接、訊いた方がいいかもしれない。

 

 

◇◇◇

 

 

<<<よく来てくれましたね、リゼラ、ジグ。────ノルン、リゼラが来てくれて良かったですね。

それにしても、リゼラは相変わらず重そうですね>>>

 

 精霊樹の下に蹲っているアルデルファルムの許へ皆で赴くと、アルデルファルムが嬉しそうに迎えてくれてから、ちょっと呆れたように言葉を付け足す。

 

 私は、例によって、両肩や頭に精霊獣を乗せた状態だ。

 

 今日は、ヴァイスだけでなく、他の狼型の子や豹に似た子も何頭かついてきていた。何故か、“クマノミ”みたいな子たちまでが傍に群がっている。

 

 どうやら皆私を好いてくれているみたいで、それは嬉しいんだけど────何だろう、この状態…。

 

 

「こんにちは、アルデルファルム。今日は、訊きたいことがあるんです」

 

 私は、ノルンが今どういう存在なのかと────彼女に今のような仮の姿ではなく実体を与えたいことを、アルデルファルムに打ち明ける。

 

<<<なるほど…。───それでは、エルフや精霊獣について、より詳しくお話ししましょう>>>

 

 

 私は、両肩や頭に乗る精霊獣たちを落とさないように、そうっと地面に座る。すかさず、ヴァイスや他の狼型、豹型の子たちが、傍らに伏せて私の膝に頭を載せた。

 

 もふもふハーレムは嬉しいけど────何だか埋もれてしまいそうだ…。

 お魚さんたち、髪の毛先をはむはむするのは止めてください…。

 

 後ろに控えているジグの妙な沈黙と視線も気になる…。

 

 ノルンが負けじと私の隣に陣取り、私の腕にしがみついた。

 

 

「ええと…、では───お願いします、アルデルファルム」

 

<<<精霊は魂魄に魔素を融合させた存在で────エルフも精霊獣も、精霊が肉体を持った存在だということはお話ししたと思います。より詳しく言うなら、人間の肉体に精霊が宿って生まれたのが原初エルフで───最初は少数だった彼らが繁殖した結果、生まれたのがエルフという存在です。

ですが、精霊獣は肉体を持った過程がまったく違います。精霊獣は精霊樹から生まれ落ちます。魂魄の状態で生まれ落ち、魂魄の“潜在記憶”に蓄積された───かつての姿を元にして、魂魄に大量に含まれた魔素を使って今の姿を成しているのです>>>

 

「“潜在記憶”に蓄積された姿────ヴァイスやこの子たちは…、元は普通の動物だった、ということですか?」

 

<<<そうです。肉体を失った獣たちの魂魄が精霊樹へと取り込まれ、同じく取り込まれた魔素と融合し、再び生まれ落ちた存在なのです>>>

 

「それなら…、今のノルンは、エルフよりも精霊獣に近い存在────ということですね」

 

 ノルンは、精霊樹から流れ込む豊富な魔素を使って、私という存在の情報を元に実体をとっている。

 

「ノルンに大量の魔素───魔力を与えれば…、この子たちのように、この森の外でも実体を保てますか?」

 

<<<ええ。保つことができるでしょう>>>

 

「そうですか…。私がノルンに魔力を与えるとして────実体を保てるようになるのに、私の固有魔力量だけで足りますか?」

 

<<<…ノルンが精霊獣のような存在になるのは、リゼラの固有魔力量では、少し足りないでしょう>>>

 

「少し───ですか…」

 

 少し足りないということは────共有魔力を使わせてもらえば出来るということだ。

 

 ただ────心配をかけてしまうことになるかもしれない。レド様に説明してから、実行に移した方がいいかな…。

 

 

「アルデルファルム、訊いてもよろしいですか?リゼラ様の固有魔力では少しだけ足りないということは────ルガレド様の固有魔力なら足りるということでしょうか?」

 

 珍しいことに、不意にジグが口を挟んだ。

 

<<<ええ、ルガレドの固有魔力量なら足りるでしょう>>>

 

「ありがとうございます、アルデルファルム」

 

 ジグは答えてくれたアルデルファルムにお礼を言うと、私に向き直って再び口を開いた。

 

「リゼラ様、この件はルガレド様に任せてみてはいかがでしょう?ノルンは、ルガレド様とリゼラ様の精霊なのでしょう?リゼラ様が無理をしてまで、一人で抱え込む必要はないと思います」

 

「でも────レド様にもやることがありますし…」

「いや、どう見ても、ルガレド様よりもリゼラ様の方がやることを抱えています。一つくらいルガレド様にお任せしてもいいんじゃないですか?リゼラ様が倒れてまで抱え込むより、頼ってもらった方がルガレド様は喜ぶと思います」

 

 レド様なら、確かにそうだろう…。

 

 だけど────レド様だって忙しいのに、時間をとらせてしまうのは抵抗があった。

 

 私が躊躇っていると、ジグがちょっと人の悪そうな笑みを浮かべた。

 

「……リゼラ様、ロウェルダ公爵家での授業が終わり次第、ルガレド様がこちらに来てくださるそうですよ。ノルンの件は、何もせず、そのままにしておくように────とのお達しです」

 

「え───レド様に話してしまったんですか…?!」

「リゼラ様、自分はリゼラ様の護衛です。リゼラ様が、お倒れになるような事態は看過できかねます。ですから───諦めてください。ルガレド様の魔力量なら、倒れることもなくできるのですから、いいではないですか。ルガレド様にお任せしてしまいましょう。

ノルン───お前も、リゼラ様が自分のために倒れてしまうようなことになったら、嫌だよな?」

「当たり前です!(マスター)ルガレドに頼みましょう、(マスター)リゼラ」

 

 ノルンが泣きそうな表情で、潤んだ眼で私を見上げる。

 

 う、これは────逆らえない…。

 

「……ジグの策士」

 

 つい、拗ねたような口調で、そんな言葉を零してしまった。

 

 私が観念したことを察したからか、ジグは人の悪そうな笑みではなく、何だか嬉しそうな───朗らかな笑みを浮かべた。

 

「……何で嬉しそうなんですか」

 

 ちょっと恨みがましく言うと、ジグは笑みをさらに深めて答えた。

 

「いえ───リゼラ様がそのようなお顔を見せてくださるのは、初めてでしたので」

 

 

◇◇◇

 

 

 もう、こうなっては仕方がない。レド様が来られるまで、できることをやってしまおう。

 

 私たちはアルデルファルムのところを辞して、また“お城”の工房へと戻る。

 

「ノルンは、レド様と私の魔力で亜精霊から精霊に成ったんだよね?これって、特別なことなの?それとも────ジグや、他の皆の【案内(ガイダンス)】も精霊に成るの?」

 

「いえ、成らないと思います。(マスター)ルガレドと(マスター)リゼラの魔力は多いだけでなく、とても濃厚だったからこそ、私は精霊に成れたのです」

「そう…。皆にもノルンのような精霊がサポートしてくれたら───と思ったんだけど……」

 

 そう旨くはいかないか…。

 

「それなら────私が、皆さんのサポートをしましょうか?」

「……そんなことできるの?」

「私が、皆さんの【案内(ガイダンス)】を呑み込んでしまえばいいのです!」

「え?」

 

 ノルンが胸を張って、得意げに言う。

 その様子はとても可愛らしいけど────

 

「今の私は、“原初エルフの結界”の核です。魂魄の精度も上がり、亜精霊だったときとは、処理速度も使える魔素量も桁違いになりました。

全員のサポートを受け持つことが可能です。【配下(アンダラー)】では行使できない既成魔術も、行使できるよう計算し直して編み直すこともできますし────魔力の切り替えや調整などもできます。

それから、支給品の手配もやりますよ!【一級(ファーストグレ)支援(ードサポート)】や【二級(セカンドグレ)支援(ードサポート)】では手に入らない支給品を(マスター)たちの【特級(エクストラグレ)支援(ードサポート)】で受理して、皆さんの【異次元収納庫】に送付することもできます」

「ああ───それは、ラムルが喜ぶかも」

 

 ラムルは仲間内では自前の魔力量が一番少なくて、【二級(セカンドグレ)支援(ードサポート)】しか受けられなかったので、念願の魔導機構の支給はしてもらえないらしく────今朝、検証しているとき、この世の終わりかというほど嘆いていた。

 

 それに、魔術の編み直しも助かる。

 

 古代魔術帝国の攻性魔術は、一群を殲滅するような強力過ぎるものばかりで、皆が行使できないのもそうだし────レド様と私は行使できるけど使いどころがないのだ。

 

「ノルン、魔術の編み直しができるということは────新たな魔術式を編み上げることもできるの?」

「ええ、勿論です!私の本体となった“聖結晶(アダマンタイト)”で処理すれば、あっという間に編み上げることができますよ!」

 

 新たな魔術を創り出す…。

 

 それは、物凄く楽しそう────じゃなかった、物凄く役に立つ。

 ああ───何かワクワクしてきた。

 

「皆をサポートする件はレド様にお伺いしてからとして────魔術式の編み上げの方は、早速やってみてもいい?」

「はい、お任せください!」

 

 ノルンはその澄んだ瞳をキラキラと煌かせて、勢い込んで頷いた。

 

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