コントラクト・ガーディアン─Over the World─   作:tea4

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第二十章―見極めるべきもの―#5

 

「ご苦労様です、皆さん」

「あれ、リゼさん?」

 

 エイルさんとディドルさんが到着した後、時間を置かずに、もう一人のソロ冒険者、『リブルの集い』、『暁の泉』が続けて到着して────フェドさんの案内で、無事『黄金の鳥』と合流した。

 

 『黄金の鳥』の斥候のレナさんが、不思議そうに私を見遣る。

 

「今回は、私が指揮を執ります。よろしくお願いします」

「ぁ、いや───こ、こちらこそ…」

 

 『黄金の鳥』のリーダーである剣士のドギさんが代表して、何故かしどろもどろに応えた。

 

 ドギさんは、ヴァルトさんやディドルさんほどではないが体格が良く、いかにも冒険者といった風情の壮年にさしかかった年齢のベテランだ。

 

「ちょっと、リーダー。何どもってんのよ。もっとしっかりしてよ」

 

 レナさんが、茶々を入れる。厳しい言葉とは裏腹に、レナさんは何だか楽しそうに笑っている。

 

 

「早速ですが、状況は?」

 

 私が訊くと、ドギさんがレナさんに目配せし、それを受けたレナさんは表情を引き締めてから口を開いた。

 

「集落に関しては、報告通りよ。総数は────120近いわ」

「成体でその数ということですか?」

「ええ。まだ繁殖は始まっていないようよ。成体しか見当たらなかった」

「変異種は?」

「確認できていないわ」

「……そうですか、解りました。ありがとうございます」

 

 この規模の集落で、オーガロードがいないはずがない。いると想定しておいた方がいいだろう。

 

「『黄金の鳥』の皆さんの状態は?ケガをしている人、体調の悪い人はいますか?」

「大丈夫よ」

 

 メンバーが首を横に振ったのを見て、レナさんが答えた。

 

≪レナス、集落を【索敵】してみてくれますか?≫

≪かしこまりました≫

 

≪ノルン、レナスのサポートをお願い≫

 

───はい、(マスター)リゼラ!───

 

 ノルンの弾んだ声が頭に響く。

 

 

 この【索敵】という魔術は、昨日、私がノルンと共に編み上げたオリジナルの魔術だ。

 

 といっても、特殊能力【地図製作(マッピング)】と私の【技能】である【測地】を参考にして魔術を編み上げ、それに【解析(アナライズ)】を加えただけだけど。

 

 レド様と私の“眼”を併用した【地図製作(マッピング)】に比べたら性能は劣るが、私とレド様以外【地図製作(マッピング)】自体を発動できないので、レナスたちでも行使が可能なのが利点だ。

 

 【認識妨害(ジャミング)】を使えば、周囲に悟られることなく、魔術を行使することができる。

 

 だけど、どうやら私とレド様以外には能力や魔術を同時発動できないらしいので────レナスには冒険者ギルドで、私が創り上げた腕時計に仕込んだ【認識妨害(ジャミング)】に切り替えてもらっている。

 

 

≪リゼラ様、報告します。オーガは124頭いるようです。変異種───オーガロードは見当たりません≫

 

 この規模で、オーガロードがいない────?

 

≪レナス、集落の塀が崩れた───もしくは壊れているような箇所はありますか?≫

≪はい。オレたちがいるちょうど反対側に、塀が奇妙に歪曲(わいきょく)している箇所があります≫

 

 考えられるのは、オーガロードが魔獣化して飛び出していった───という状況だ。

 

 何にせよ、そちらは後回しだ。まずは、集落を潰してしまわなくては。

 

≪解りました。ありがとうございます、レナス。ノルンもありがとう≫

 

 

 『黄金の鳥』は───タンク、剣士、斧使い、アーチャー、斥候の計5人。

 『暁の泉』は───タンク二人、剣士二人、槍使い兼アーチャー、斥候の計6人。

 『リブルの集い』は───タンク、剣士、斧使い、槍使い、アーチャー兼斥候の計5人。

 

 どのパーティーも、オーソドックスで堅実なラインナップだ。

 

 ゲームやラノベなどとは違い、魔術師は希少で、“回復術士”や“赤魔導士”みたいなジョブが存在しないため、大抵のパーティーは物理攻撃が主となる。

 

 ただ、この世界の人間は魔力を体内に宿しているせいか、前世の人間より、はるかに丈夫で身体能力も高いので────私のように身体能力の底上げをしていなくても、ある程度は生身で魔物と渡り合える。

 

 『氷姫』は少人数のチームだが、先程ガレスさんに確認した限りでは、火力の高い魔術師がいるおかげで───魔獣でもある程度なら、チーム単独で撃破できる実力があるとのことだ。

 ランクがBなのは、それほど実績を積んでいないからのようだ。

 

 ソロのBランカー・ディドルさんは、“戦闘狂のディドル”で間違いないなら、単独で魔物の群れを殲滅できるだけの実力を持っているはずだ。見た限り、その実力はあるように思える。

 

 もう一人の初見だったソロのBランカー、ジスさんは、エイルさんと同じくサポーターで────得物は両手剣と片手剣。やはり体格が良く、“柔和なシロクマ”のような人で、盾持ち───タンク役もするようだ。

 

 

「作戦としては単純です。三手に分かれて、それぞれの出入り口から攻め入ります。

まずは、こちら側の出入り口───ここは『黄金の鳥』とディドルさんに任せます。エイルさん、ジスさんは、『黄金の鳥』にサポーターとして入ってください。

次、こちらから見て右側の出入り口───こっちは『リブルの集い』と『氷姫』に任せます。

そして、こちらから見て左側の出入り口───こっちは『暁の泉』と私、アーシャで攻めます。

見張り台のアーチャーは、私が攻め入る直前に弓で射殺します。その後、一斉に攻め入りたいと思います」

 

「一斉にって────どうやって?」

 

 レナさんが口を挟んだ。

 

「時計を持っている人は?」

 

 私が訊くと、幾人かが持っている旨を口々に宣告する。各班、誰かしら持っていて────誰も持っていないということはないようだ。

 

「時間を決めて、その時間に一斉に攻め入るつもりです。時間を確認する係を決めてください」

 

 私の班は、アーシャが担当することになった。

 

 アーシャは、懐中時計を持っていないので────私はマジックバッグから、以前使っていた懐中時計を取り出し、アーシャに渡す。

 

 腕時計はあるが、【認識妨害(ジャミング)】が働いているため、腕時計で確認するのは人前では不自然になる。

 

「アーシャ、懐中時計持っていないよね。これを使って」

「解った。借りるね」

 

「返さなくていいよ。これからも必要になることはあるだろうから、そのまま持ってて」

「いいの?」

 

 この懐中時計は思い入れがあるものだけど────きっと、もう使わない。しまいこんでおくよりも、アーシャに使ってもらった方がいい。

 

「うん。その代わり、大事に使ってね」

「勿論、大事にするよ!ありがとう、リゼ姉さん」

 

 アーシャは、嬉しそうに破顔して頷いた。喜んでくれたことに、私も嬉しくなる。

 

 他の班も、それぞれ時計係を決められたようだ。

 

 念のため、使う懐中時計が遅れていたりしないか、見合わせて確認する。

 

「時計が30分を指したときに、攻め入りを開始します。────何か、質問などはありますか?」

 

 皆一様に首を横に振る。誰も、何もないみたいだ。

 

「それでは────移動を開始しましょう」

 

 

◇◇◇

 

 

 私はアーシャを伴って、攻め入る予定の出入り口から少し離れた箇所の───見張り台が見える位置についた。

 

 共に攻め入る『暁の泉』には、担当する出入り口の側で、すでに待機してもらっている。

 

「アーシャ、今、何分?」

「21分だよ」

 

 さて───そろそろ、始めるかな。

 

 私は【心眼(インサイト・アイズ)】を発動させてから、【遠隔(リモート・)管理(コントロール)】で手鏡を取り寄せる。

 

 そして、ちょうど真向いに昇っている太陽の光を手鏡で捉えた後、手鏡の角度を変えて────見張り台にいる一番手前のアーチャーに向けて、陽光を反射させた。

 

 光に気づいたアーチャーが、こちらに向かって身を乗り出す。私は手鏡をアイテムボックスへ送り、弓を手に取った。

 

 構えると矢が現れ、身を乗り出しているアーチャーを狙って、矢と弦を放つ。眉間に矢が突き立ち、アーチャーは見張り台から墜ちていった。

 

 アーチャーが地面に叩きつけられる前に、私は第二射、第三射を、立て続けに放った。それぞれの矢が、残りの2頭のアーチャーの頭に突き刺さる。

 

 2頭ともその場に崩れ落ちそうだったので、続けて二射放つ。

 

 1頭は額に矢を受け後ろに───もう1頭はこめかみに矢が突き刺さり右側に、それぞれ墜ちていく。

 

 これで、ある程度、オーガが分散してくれればいいけど。

 

「アーシャ、行くよ」

「うん!」

 

 私は【遠隔(リモート・)管理(コントロール)】で弓をアイテムボックスに送りながら、アーシャと共に走り出す。

 

 

 私もアーシャも身体能力を強化しているから、それほどかからず『暁の泉』が待機している場所へと辿り着いた。

 

「アーシャ、今、何分?」

「28分」

 

「それでは、『暁の泉』の皆さん、準備はいいですか?」

 

 私が『暁の泉』のメンバーの顔を見回すと、皆こっくりと頷く。

 

「アーシャ───10秒前になったら、カウントダウンをお願い」

「解った」

 

 アーシャは見逃すまいと、真剣な表情で懐中時計を凝視する。

 

「10秒前!…8、7、6────」

 

 『暁の泉』のメンバーは、武具を握り締め、すぐに走り出せるように重心を低くして、表情を引き締める。

 

「5、4────」

 

 アーシャはカウントダウンを続けながら、懐中時計の蓋を締めて、腰に提げたポーチにしまう。

 

「────1!」

 

 一斉に出入り口に向かって奔り出す。やはりというべきか、一番乗りは私だ。

 

 集落内に走り込むと、オーガたちは墜ちてきたアーチャーを囲んでいるようだった。

 

 私の目論見通り、それぞれのアーチャーに群がり────どうやら、平等とはいかないものの、オーガたちをある程度は分散させられたみたいだ。

 

 私は、スピードを緩めずに近くの群れに突っ込む。

 

 【対の小太刀】を抜き放ち、手前のオーガに斬り込んだ。

 

 そのまま、オーガを数頭斬り伏せたとき────アーシャが走り込みざま双剣を抜いて、私の側に立っている個体に斬りつけた。

 

 オーガが私とアーシャを敵と認識し、こちらに向かって来る。

 

 別のアーチャーの死体に群がっているオーガたちも、私たちに向かって来ようと踏み出した。

 

 そこへ、『暁の泉』が───真向いのオーガの群れの背後に『リブルの集い』と『氷姫』が───右方向の群れの背後には『黄金の鳥』とディドルさんが到着した。

 

 それぞれ、パーティー、チームごとに分かれて展開し、戦闘を開始する。

 

 ディドルさんはその大剣を振るい、私の予想に違わず、単身で魔物を次々屠っていく。

 

 私は自分たちを囲うオーガの群れをアーシャと共に瓦解させると、残りを『暁の泉』とアーシャに任せ、遊撃に転じる。

 

 『リブルの集い』に群がるオーガの数が多く、手間取り始めているようだったので、そちらへと斬り込む。

 

 ある程度数を減らすと、また別の場所へと向かった。

 

 

 不意に、閃光が迸る。

 

 視線を遣れば、『氷姫』を囲っていたオーガが3人を中心にして扇状に倒れ伏していた。オーガの上半身には、無数の氷片が突き刺さっている。

 

 あれが────セレナさんの魔術か。

 

 魔術の範囲外にいて無事だったオーガがセレナさんに襲い掛かろうとするが、ヴァルトさんとハルド君がそれをさせない。

 

 特に、ヴァルトさんはその膂力で一刀の下、瞬く間に数頭のオーガを斬り倒していった。

 

 

◇◇◇

 

 

「よう、お疲れさん」

 

 オーガの殲滅をし終えて、少し離れた所で待機していた荷馬車数台と後片付けの助っ人たちを招き入れると、同伴していたガレスさんに声をかけられた。

 

「他の奴らは?」

「あちらで休んでもらってます」

 

 私以外の参加者は、中央の見張り台の周囲で、それぞれパーティーもしくはチームごとに座り込んで、応急手当をしている。

 

 エイルさんとジスさんは『黄金の鳥』と一緒に座り、ディドルさんは皆から少し離れたところに一人で座っていた。

 

 アーシャもさすがに消耗していたので、『黄金の鳥』のレナさんの傍で休ませている。

 

「…皆、無事のようだな」

「いえ───5人ほど、ケガ人が出てしまいました」

 

 幸いなのが、骨折や裂傷だけで────四肢が切断したり、内臓が潰れるような酷いケガではなかったことだ。

 これなら、“施療院”で治療してもらえば、すぐに復帰できるだろう。

 

 “施療院”は、回復を促進させる魔術陣を使って治療をしてくれる、“病院”のような施設だ。自然治癒などより、はるかに治りが早い。ただ───その分、治療費はちょっと高くつくけど。

 

「いや、この規模の集落だ。下手すりゃ死人が出たっておかしくない。よくこの程度のケガ人だけで済んだものだ」

 

 ガレスさんは、安堵したように息を吐き、しみじみと呟いた。

 

「ええ、さすが、皆さんBランカーですよね。ガレスさん、存分に労ってあげてください。きっと、喜びますよ」

 

「……お前さんは、休まなくていいのか?」

「私は、家や塀の解体を手伝ってきます」

「それは、オレたちに任せておけ。お前さんだって疲れているだろう?」

「気遣ってくれてありがとうございます。だけど────撤去作業を急いだ方がいいと思うんです」

 

 私がそう言うと、ガレスさんは顔色を変えた。

 

「どうしてだ?」

「この規模の集落なのに、オーガロードが見当たらなかったんです」

「…稀だが、いないことだってある」

「ええ。ですが────あちらを見てください」

「……塀が歪んでいるな」

「巨体が跨いでいくときに、ぶつかったら、ああなると思いませんか?」

「……作業を急がせよう。悪い、リゼ、手伝ってくれ」

 

 私は、ガレスさんの言葉に頷いて、解体作業を始めた人たちの許へと歩いていった。

 

 

「ご苦労様です、私もやります」

「ぇ、は、はい、お願いします」

 

 助っ人として来てくれた冒険者たちに断って、私はマジックバッグから汎用大型ナイフを取り出した。

 

 そして───荒い造りのログハウスの丸太を括っている、蔦を編んで作られたロープを切ろうとした瞬間だった。

 

 突如、意味を成さない───ただの唸るような叫び声が、何処からか響いた。森の木々だけでなく、目の前にあるログハウスまで震える。

 

 地面が小さく揺れ始め、揺れが段々と大きくなってきたとき────それは、現れた。

 

 近くで作業していた冒険者から、言葉が零れる。

 

「ま───魔獣…」

 

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