コントラクト・ガーディアン─Over the World─   作:tea4

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この章より、皇都編締めの話となります。


第二十二章―明かされる因縁―#1

 

「今日の鍛練は───ここまでにするか」

 

 調練用の刃を潰した片手剣を下げ───レド様が告げる。私も両手の剣を下げ、頷く。

 

「そうですね。お邸に帰って、朝食にしましょう」

 

 早朝、下級兵士用の調練場での鍛練を終えて、レド様と二人、お邸へと帰るべく踵を返す。

 

 後宮を横切り、その先にある───子を生した妃たちの邸が並ぶ広場を抜け、その奥に広がる庭園へと踏み込む。

 

 庭園を突っ切ると、ようやく私たちのお邸が目に入った。

 

 つい先日改修し終えたばかりの───私たちの新しいお邸が、眩い朝日に照らされ、皇城の壁を背にして、くっきりと浮かび上がっている。

 

 豪商が建てたというこのお邸は、三角屋根の建物の両脇にそれより低めの四角い建物がくっついていて、偶然にもレド様のお邸にシルエットが似通っていたので───バルコニーを取っ払い、玄関ポーチをレド様のお邸と同じデザインのものに設え直し、外壁と窓枠を同じような素材と色合いに変えただけで済んだ。

 

 窓は前に比べたら少し大きめだが、同じ箇所にシンメトリーに配置されているので、印象は大きく違わないはずだ。

 

 玄関ポーチに足をかける。

 

 レド様のお邸の玄関ポーチは、古代魔術帝国のセキュリティーによって、私たちや配下となった仲間以外は弾き飛ばされるような仕様となっていたが───セキュリティーが高度過ぎることを不審に思われても困るので、今回は施さなかった。

 

 その代わり、玄関扉自体と鍵、それに窓───というか建物全体に、念入りに【防衛(プロテクション)】をかけて頑丈にしてある。

 

 扉を開けて踏み入ると、私は、扉の前に仕込んである魔導機構【洗浄(ウォッシュ)】を起動させた。レド様のお邸のものは自動で起動していたが、今度のは、ノルンに手伝ってもらい任意で起動するよう改造したのだ。

 

 

「お帰りなさいませ、旦那様、リゼラ様」

 

 私たちの帰還に気づいたラムルが、寄って来る。

 

「朝食のご用意ができております。どうぞ、ダイニングルームへ」

 

 新しいお邸も、1階部分の間取りはレド様のお邸と大差ない。

 

 玄関ホールは吹き抜けになっており、玄関の正面に2階へと続く大きな階段、その左右にダイニングルームへの扉が設えられ、左側に応接室があり、右側に使用人用の部屋と各作業室が並ぶ。

 

 ただ、玄関ホールは、大きな窓はなく、大掛かりなシャンデリアが吊り下がっており───そのせいで少し狭く感じる。

 

 レド様のお邸のように、窓型ライトを施すことも考えたけれど、誰かに入り込まれた場合を考え、止めた。

 

 その代わり、窓はすべて、すりガラスへと替え、孤児院と同じ“半窓型ライト”を施し光を補足してある。これは、辺境に赴くときには撤去するつもりだ。

 

「行こう、リゼ」

「はい、レド様」

 

 

◇◇◇

 

 

 朝食と食休みを終え、玄関ホールに戻って───ダイニングルームから向かって左隅に仕込んである【転移門(ゲート)】に向かう。

 

 地下に設えた調練場に跳ぶと、私たちの朝食の後片付けをしているカデアとラムル以外───ディンド卿、アーシャ、ラナ姉さん、セレナさん、ヴァルトさん、ハルド君、それから───ノルンが、すでに揃っていた。

 

 レド様と私の後ろに控えているジグとレナスも、【認識妨害(ジャミング)】を解除して、姿を現す。

 

「おはようございます、ルガレド様、リゼラ様」

 

 ディンド卿が進み出て、代表して挨拶を口にする。

 

「おはよう」

「おはようございます、皆さん」

 

 アーシャ以外の面々は、昨夜からこのお邸へと移り、全員揃って鍛練をするのはこれが初めてになる。

 

 レド様は、何処か感慨深げに皆を見回すと────口を開いた。

 

「それでは────鍛練を始めようか」

 

 

 

 男性陣+アーシャと───私、セレナさん、ラナ姉さんに分かれて、早速、鍛練を開始する。

 

 セレナさんとラナ姉さんは、武術は修めていないため、魔術を特化する予定なので、事前に私が指導することを決めてあった。

 

 私とどうしても手合わせをしたいらしいヴァルトさんは、不満そうだったけど。

 

 

「セレナさん、新しい部屋はどうでしたか?休めましたか?」

 

 レド様に改修を手伝ってもらったことにより、時間をかける間もなく終わってしまった。

 

 セレナさんの部屋について、シェリアやラナ姉さんに相談する時間もなかったので、私の自室───セアラ様の部屋を参考に創り上げたのだけれど────

 

「はい、生家の自室より落ち着きました。とても素敵な部屋で───すごく気に入っています」

 

 良かった。セレナさんの嬉しそうな笑顔に、私も嬉しくなって笑みを零す。

 

 

「ラナ姉さんは?」

「勿論、気に入ったわよ!あんないい部屋もらえると思わなかった」

「ふふ、それなら良かった」

 

 ラナ姉さんは可愛らしい容姿に反して、落ち着いた色合いのシックなものが好みなので、部屋にも反映させた。

 

 どうやら、気に入ってくれたようで────嬉しい限りだ。

 

 

「それでは────私たちも、鍛練を始めましょうか」

「はい、よろしくお願いします」

「よろしく、リゼ」

 

 

「では、まずはセレナさんから。セレナさんは魔力も多いですし───冒険者として活動するときは“氷姫”を用いるとしても、非常時は、古代魔術帝国の魔術を施行するようにしましょう」

 

 そうすれば、魔術陣を取り寄せる必要はなくなる。

 

 そのためには、【魔力炉(マナ・リアクター)】と【魔術駆動核(マギ・エンジン)】を、セレナさんの魔力で起動するように切り替えておかないと。

 

「ノルン───セレナさんの【魔力炉(マナ・リアクター)】と【魔術駆動核(マギ・エンジン)】の凍結を解いて、セレナさんが単独で起動できるよう切り替えてくれる?」

「解りました、(マスター)リゼラ」

 

 今日のノルンは、淡い色合いのフリルのついたエプロンドレスに身を包んでいて、“アリス”のようで本当に可愛い。

 

 勿論、このエプロンドレスを作ったのはラナ姉さんだ。昨日、ノルンを紹介したとき、簡素なワンピースを着ているのを見かねて、即座に作ってくれたのだ。

 

 今のラナ姉さんは、魂魄の位階が上がり技術が【技能】として昇華したので、今まで手掛けたことのあるパターンなら、材料があれば一瞬で服に作り替えることができる。

 

 

 ノルンが目を瞑った直後、全身が仄かに光を纏う。すぐに終わるかと思いきや、ノルンの表情が微かに動いた。

 

「ノルン?」

 

 何かあったように見えたので、私はノルンに声をかける。

 

「……(マスター)リゼラ、配下(アンダラー)セレナには───すでに独自の【魔力炉(マナ・リアクター)】が備わっています」

「それは…、どういうこと?」

 

 思わず問い返してから、セレナさんの方を見遣ると───当のセレナさんは、驚愕の表情を浮かべている。

 

 私は、【心眼(インサイト・アイズ)】を発動させて、セレナさんを視る。

 

 【心眼(インサイト・アイズ)】には段階があり、時間をかけて凝視すればするほど、対象を深く分析できる。

 

 集落潰しの際に視たときは、コンディションと心根を確認するためだったので、どちらも軽く視ただけだった。

 

 確かに───セレナさんには、【魔力炉(マナ・リアクター)】と同様の働きを持つ、魔術式が内包されている。それは、私たちの体内に搭載されている魔導機構よりも、ノルンの【案内(ガイダンス)】としての核に似ていた。

 

 さらに、じっと視ていると────分析結果が現れる。

 

 

魔力炉(マナ・リアクター):初期型ver.2】

 後期のインプラントタイプとは違い、魂魄に直接、魔術式をインストールするタイプ。身体に書き込まれた魔術核から、魂魄にインストールされるよう設計されている。身体を形作る核に書き込まれているので、子へと遺伝する。しかし、旨く遺伝されなかったり、遺伝はされても旨くインストールされないことや、旨く作動しないことも多く、後にこのタイプは廃れ、インプラントタイプが主流となった。

 

 

「何これ……」

 

 それじゃ────セレナさんの祖先は、古代魔術帝国時代に【魔力炉(マナ・リアクター)】を、体内に書き込まれた、ということ…?

 

「ノルンは、【契約】したとき、この【魔力炉(マナ・リアクター)】の存在には気づかなかったの?」

「はい、(マスター)リゼラ。この初期型は───魔術核は身体を形作る核に埋め込まれ、魔術式は魂魄に直接インストールされています。私たち【案内(ガイダンス)】には初期型のことは念頭になく、契約時、体内に【魔力炉(マナ・リアクター)】がインプラントされていないか確認するだけなのです」

 

 それで───ノルンでさえも、気づかなかったのか…。

 

 【魔力炉(マナ・リアクター)】は、魔力───体内に潜在する魔素を集めて純粋な塊を捻出して、【魔術駆動核(マギ・エンジン)】へと送り込む装置だ。

 

 これがないのとあるのとでは、魔術の発動速度も、魔術行使に使用できる魔力量も違ってくる。

 

 道理で、セレナさんの固有魔力量が人並み外れているわけだ。体質的にも内包する魔素の量が多いのだろうけど、【魔力炉(マナ・リアクター)】の存在は大きい。

 

 セレナさんを落ち零れ呼ばわりしていたという父親や兄弟たちも、先天的に【魔力炉(マナ・リアクター)】を持っていたのだろう。

 

 

「あの…、一体…?」

 

 セレナさんが、不安げに口を挟む。

 私がそれに答えようとしたとき────

 

「リゼ?何かあったのか?」

 

 レド様に問いかけられた。

 

 私たちの様子に気づいたらしいレド様が、いつの間にか近寄ってきていた。レド様だけでなく、他の皆も───ラムルとカデアもいるようだ。

 

 皆に解るように────【魔力炉(マナ・リアクター)】がどういうものなのかと、セレナさんの状況を説明すると────レド様は少し考え込んだ後、セレナさんに向かって口を開いた。

 

「セレナ────出身は、ディルカリド伯爵家だったな?」

「は、はい」

 

 ディルカリド伯爵家────レーウェンエルダ皇国の前身であるエルダニア王国時代から続く古い家柄で、武門が大多数を占めるレーウェンエルダでは珍しく、魔術で身代を築いた名門だ。

 

「家には、何か────伝わっていなかったのか?」

「…ディルカリド家は、エルダニア王国時代に勃興した、としか。ただ───私には伝えられていなかっただけの可能性もあります」

 

「ヴァルトやハルドは、何も聞いていないか?」

「ワシも、お嬢と同じようにしか聞いていませんね。エルダニア王国時代、並外れた魔力量によって、のし上がったらしいですよ」

「オレも───同じです」

「そうか…」

 

 レド様は呟くようにそう応えると、ノルンに顔を向ける。

 

「ノルン、その初期型の【魔力炉(マナ・リアクター)】とやらは、大丈夫なのか?廃れたからには、相応の理由があるのだろう?」

配下(アンダラー)セレナの身体に害をなす心配はありません。ですが、うまく遺伝されなかったようで、魔術核が一部歪んでいて───【魔力炉(マナ・リアクター)】が不完全な状態でインストールされてしまっています」

「それは、直せないのか?」

「無理です、(マスター)ルガレド。下手をしたら、配下(アンダラー)セレナを形作る核を傷つけてしまいます」

 

 『身体を形作る核』というのは、もしかして“遺伝子”のことだろうか。確かに、それを傷つけてしまうのは怖いな。

 

 だったら────

 

「ノルン、セレナさんにインストールされている【魔力炉(マナ・リアクター)】を凍結することはできる?」

 

 私が口を挟むと、ノルンが私に向き直って答えた。

 

「はい、それならばできますが…」

 

「では───そちらは凍結してしまって、インプラントした方の【魔力炉(マナ・リアクター)】を使うようにしたらどうでしょう?」

「そうだな。ノルン、できるか?」

「はい!」

 

「セレナ、それでいいか?」

「…そちらの【魔力炉(マナ・リアクター)】を使うようにしたら────使える魔力量が増えるのでしょうか?」

「はい。配下(アンダラー)セレナなら────おそらく、Sクラスに届くと思います」

 

 セレナさんは表情を引き締めると、ノルンに向かって頭を下げた。

 

「それなら…、どうか───お願いします」

 

 ノルンは、レド様と私を伺う。レド様も、私も───セレナさんの希望に応えるよう、ノルンに向かって頷いた。

 

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