コントラクト・ガーディアン─Over the World─ 作:tea4
ネロがノルンとヴァイスを伴って転移した先は────何処か“聖廟”を思わせる全面真っ白な広い空間だった。
中央に、10人掛けのダイニングテーブル並みの───おそらく
それ以外は何もなく、壁も床も天井も同じ素材でできているのか、すべて一様に白一色で、模様も凹凸もない。
私は、ネロと視覚を共有したまま、【
≪ネロ、なるべくゆっくりと部屋の中を見回してみて。床と天井もね≫
≪うん、わかった≫
ネロは、私の言う通りに、床、壁、天井、白い台座、
床も壁も天井も台座も、どうやら、すべて
この空間には出入口らしきものは一つもないので、おそらく、【
そして────
≪ノルン、その“制御盤”に近づいてみてくれる?ヴァイスとネロは、ノルンの援護をお願い≫
≪解りました、
≪了解した、我が姫≫
≪わかった~≫
ネロはノルンの肩に乗り、ヴァイスはノルンと並んだ状態で、
制御盤に触れたノルンの身体が淡い光を纏う。
ノルンの指が触れている箇所から制御盤に幾つもの細い光が走り始め、やがて制御盤全体に光のラインが蜘蛛の巣のように広がると───
≪
古代魔術帝国のシステムを────誰かが、手動に切り替えた?
≪ノルン、手動に切り替えた人物は解る?≫
≪はい。このシステムの“暫定管理者”です≫
≪“暫定管理者”?────それは?≫
≪【
◇◇◇
「ディルカリダ=バイレウム…」
この地に遷都を促したディルカリダ側妃と同じ名前────これが、偶然なはずがない。称号からして、古代魔術帝国の人間だろう。
だけど、一体どういうこと…?
ディルカリダ側妃が存在したのは、約900年前────古代魔術帝国が滅亡して600年近く経ってからだ。滅亡寸前に不老長寿となり、秘かに生存していたということ…?
それとも────
「リゼ?どうした、何かあったのか?」
レド様に声をかけられて、私は我に返る。
無意識にネロとの視覚の共有を解いて、瞼も開けていたらしく、レド様の心配そうな表情が視界に入った。
「いえ…、ちょっと気になることがありまして────後で、調べてからお話しします」
【青髪の魔女】の件と併せて、文献を当たってみよう。
「…それなら、俺も一緒に調べる」
「あの、無理はしませんよ?ちょっと検索したり、文献を読むだけですから」
レド様の頭には、魔石を分析したときのことが残っているようだけれど───おそらく、あれは“祝福”の影響だ。
あのときは、どうしてもやらなければいけない気がしたからで、今回は無理するつもりは、本当にない。
「………絶対だな?」
低い声音でそう訊ねるレド様に、私は、いつかのアーシャのようにカクカクと頷く。
とにかく今は、地下遺跡のことが優先だ。私は、再び、ネロと視覚を共有すると、ノルンに【
≪ノルン───制御システムを掌握することはできる?≫
≪はい、できると思います。手動に切り替えた際に防御システムがすべて解除されていますので───権限を保有していなくても、管理者の書き換えは容易です≫
≪では、制御システムの掌握をお願い≫
≪解りました、
ノルンが発する光が強くなる。私はその様子を、ノルンの肩に乗るネロの眼を通して、じっと見ていた。
≪完了しました、
“原初エルフの結界”のときのことが頭を過り、また何か起こるのではないかと心配していたが───今回は何事もなく終えたようだ。
≪ご苦労様、ノルン。それじゃ───今度は後ろにある【
≪解りました、
しばらく待っていると、ノルンから完了した旨の【
地上と地下遺跡を分かつこの特殊な合板のせいで、地下施設の【
◇◇◇
「ここが────リゼラ様が仰っていた古代魔術帝国の遺跡…」
地下遺跡へと跳ぶと、皆、かなり驚いてはいたが────中でも一番驚愕した様子を見せ、そう呟いたのはディンド卿だった。
かくいう私も、ネロの眼を通してすでに見ていたものの───この白い空間と宙に浮かぶ
「ノルン、ネロ、ヴァイス────ご苦労様」
傍に寄って来たノルン、ネロ、ヴァイスを労うと、三者三様に喜ぶ表情が浮かぶ。
「それでは、ノルン───状況を報告してくれる?」
「はい、
「解った。それで────この地下施設の状況は把握してるの?」
「いいえ、
「そう…」
となると────【
「リゼ、俺がやる」
「え?」
「【
「ええっと…、それではお願いします」
どの道、レド様に【千里眼】の使用をお願いしようと思っていたところだ。
私のことを物凄く心配してくださっているようだし、ここはレド様にお任せした方がいいよね…。
「ノルン、この地下施設の【
「はい、
正面に、地下施設を模した半透明の立体図が現れる。私の想定は正しかったようで、円形を成している。
レド様が【索敵】を発動し、周囲をゆっくり見回すと───徐々に立体図が様相を変えていった。大きさが大きさなだけに、瞬く間に、レド様の魔力がかなり減っていくのが感じ取れる。
「崩れた個所は埋め立てられているようですね…」
ラムルの言う通り、崩壊した箇所の大部分は埋め立てられているみたいだ。その上に皇都が築かれ、森が広がっているらしい。
そして────レド様の視線がある箇所に辿り着いたときだった。
「!?」
崩れて埋め立てられたのではなく───造り替えられたように、その空間の一部が形を変える。それに加え、駒のようなものが複数、忽然と現れた。
これは────何人かの人間と…、何頭もの魔獣だ。
「リゼの予想が当たったな。ここが────ディルカリドたちの拠点というわけだ」
レド様が表情を険しくして言う。
「ええ」
「どうする、リゼ」
「そうですね…、出入り───または魔獣を放すことができないように、【
中途半端に封鎖して、刺激するのはまずいな。やるなら、【
「ノルン、この地下施設を拠点登録して、【
「はい、可能です、
問題は────魔力か。
【索敵】だけで、レド様でさえかなりの魔力量を消費している。【
ちらりとレド様を伺うと────あ、反対なんですね。解ります。
「…ノルン、“結界の間”を【
「それはできますが───この地下遺跡は広大ですし、特殊な建材を使用していますから、修復には膨大な魔素が必要になります。そうしますと、“結界”が維持できません」
あの森にはアルデルファルムがいる。それに、“デファルの森域”には、固定魔法【結界】を施してあるから────少しの間なら、“結界”が解除されても支障はないはずだ。
「その場合───“結界”が解除される時間はどれくらい?」
「不測の事態がなければ、半日程度になります」
「それは、つまり───【
「その通りです、
半日────結構、長いな…。
「レド様、精霊樹の魔素を借りて、【
「ああ───俺も、それが最善だと思う」
それまで黙って聴いていたディンド卿が、口を開いた。
「ですが、ディルカリド伯爵や魔獣はどうするのですか?」
「封鎖して閉じ込めた状態にしてから、魔獣討伐───それから、ディルカリド伯爵たちの捕縛をするつもりです」
「その際は、ラナとエデルを除いた全員で事に当たる」
「かしこまりました」
私の答えにレド様がそう付け加えると、ディンド卿は私たち二人に向かって頷き───続いて、ラムル、ジグ、レナスも頷いた。
「リゼ───今から、始めるか?」
レド様に訊かれ、私は首を横に振る。
今はまだ正午前だ。これから昼食を摂り、その後に始めても、順当に済めば夕方には終わるが────
「今日は、おじ様と面会の約束をしています。もし───不測の事態が起これば、その約束に間に合わなくなる可能性があります」
「そうだな───そちらを優先すべきだな」
冒険者ギルドと6ヵ所の【
レド様が表情を改め───私たちにその神秘的な淡い紫色の眼を向ける。
「それでは────この地下遺跡の件は、明日に決行することにする」