コントラクト・ガーディアン─Over the World─   作:tea4

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2ヵ月以上もご無沙汰してしまいまして、大変申し訳ございません。
遅ればせながら、今年もよろしくお願いいたします。

今回の投稿は、第二章分全6話となります。少しでも楽しんでいただけたら幸いです。


第二章―あわいの記憶―#1

 

 皇都から出た私たちは、大型の馬車3台が並んで走っても余裕のある───道幅が広く取られた街道を、北方に向かって進んでいた。

 

 今は、レド様、私、ジグ、レナス、ディンド卿、ミュリアが、それぞれ馬型の精霊獣に騎乗して、列を成し────ヴァイスがそれに並走して、後ろからブランとグレナの牽く中型の馬車が随行する形となっている。

 

 馭者台にはヴァルト、ラギ、ヴィドの三人が座っていて────ラギとヴィドに教えがてら、ヴァルトが馬車を操縦していた。

 

 

 馬車は箱型で、全面黒塗りとなっている。念のため、個章や貴族章など、レド様の存在を示すものはつけていない。

 

 前後に仕切られていて────前方は左側面にある片開きの出入口を除く壁にソファが造り付けられた乗車スペース(キャビン)、後方は背面に両開きの扉がついたトランクルームとなっている。

 

 背面の扉前のスペースは広くとられ、庇と腰壁、座面と背面が革製クッションのベンチを設けてあって────今は、ハルドとバレス、セレナさんとアーシャ、それにノルンが座っていた。

 

 ちなみに、ネロはキャビンのソファで夢の中だ。

 

 馬車には私が【最適化(オプティマイズ)】を施したので、車輪は黒い“ゴム”っぽい“タイヤ”を履き────従来なら革紐で吊り下げ板バネを組み込んで揺れを軽減する“サスペンション”の構造が、前世の“自動車”に使われていたものか古代魔術帝国の技術か、もしくはその両方を参考に創り変えられているらしく、揺れをほとんど感じない。

 

 加えて、キャビンに設えたソファは柔らかすぎず硬すぎない程よい座り心地で、深く座るだけでなく姿勢を変えやすいように、ハイバックで座面も広くとってある。

 

 長時間座っていても辛くはならないはずだ。

 

 尤も、この大陸に張り巡らされた主街道は古代魔術帝国が築いたもので、“アスファルト”のような素材で舗装されていて、従来の馬車でもそれほど乗り心地は悪くはなかったのだけれど。

 

 古代魔術帝国崩壊後に整備された石畳か砂利を敷かれた新街道や支道を走れば、その差を顕著に感じるのかもしれない。

 

 

 精霊獣たちもこの街道は走りやすいのか、軽快な足取りだ。

 

 街道の両側に広がる景色には、果てしない草原と点在する雑木林しかない。時折、草原の遥か向こうに横たわる森や山々が眼の端を流れていくのみだ。

 

 不意に、ずっと変わり映えしなかった街道の前方に、道幅が左右に広がっている個所が現れた。

 

 馬車を寄せて一時的に休息できる、いわゆる“休憩スペース”だ。

 

≪目標地点が視界に入った。少し早いが、予定通りに昼食を摂る≫

 

 レド様の【念話(テレパス)】を受けて、私は精霊獣たちに停止位置を指示した。ブランとグレナには指示を出さずに、ヴァルトの操縦に委ねる。

 

 一斉に速度が落ち始め、休憩スペースに辿り着いたときにはゆっくりとした足取りとなっていた。休憩スペースの一角に寄って、精霊獣たちが立ち止まる。後方で、ヴァルトがブランとグレナを停止させた。

 

 私は乗せてくれていた精霊獣―――ノワールから降りて、面前へと回り込む。

 

 “水晶角馬(クォーツコーン)”の姿をとるノワールたち精霊獣は、前世で接した馬の大きさに近く、ブランとグレナに比べたら仔馬かと思うくらい小さく感じる。

 

 

 ブランとグレナには(くつわ)を噛ませているが、精霊獣たちには噛ませていない。

 

 ただ、手綱をつけるために“頭路”という耳元と口元に巻くベルトだけは、つけさせてもらっている。これには、仲間たち以外の者が近づいても、通常の馬具との違いを意識しないよう、【認識妨害(ジャミング)】を施してある。

 

 それと、精霊獣の頭上に生えている魔水晶(マナ・クォーツ)のような角には、遠くから見ても認識されないよう、【認識妨害(ジャミング)】の上位互換である【隠蔽(ハイディング)】を施している。

 

 

「ご苦労様、ノワール」

 

 ノワールが、嬉しそうに首を擡げて私に近づけてくる。

 

 同じく仲間たちを背から降ろした、他の精霊獣───シュヴァルツ、ニゲル、メラン、マヴロ、アスワドも次々にやって来て、私に詰め寄る。

 

「おい、近寄り過ぎだ」

「神竜の御子の言う通りだ。我が姫を困らせるな」

 

 レド様とヴァイスの苦言が聞こえる。

 

 私は小さく苦笑して、精霊獣たちを労う。

 

「皆、ご苦労様。私たちが昼食を摂っている間、ゆっくり休んで」

 

 精霊獣は魔素を糧としているらしく、食事を摂ることはない。

 

 周囲の魔素が少ないときには、果物や草花などに含まれる魔素を摂取するために“食べる”こともあるようだが、今は私の魔力を常に摂り続けていることもあり、まったく食べる必要はないとのことだ。

 

 

「ブランとグレナもご苦労様」

 

 私は精霊獣たちを一通り撫でてから離れ、馬車に繋がれているために来ることができなかったブランとグレナに近寄って、声をかける。

 

 ブランとグレナは、嬉しそうに鼻を鳴らして、もっと私に近づこうとして踏み出した。

 

「あ、こら、動くなよ」

 

 ブランとグレナのベルトを馬車から外そうとしていたヴァルトが、慌てて制止する。

 

「ごめんなさい、ヴァルト。私が話しかけたから…」

 

 ちゃんと状況を見て、声をかけるべきだった。

 

「いえ」

「引き続き、ブランとグレナのお世話、ラギとヴィドへの指導、お願いします」

「は、お任せください」

 

 正式にレド様の騎士となったためか、それとも婚約したことで気負っているのか────ヴァルトは、以前よりも畏まって応える。

 

「ラギ、ヴィド───ブランとグレナのお世話、お願いね」

 

 ラギとヴィドにも声をかけて二人が肯くのを見届けてから、私はレド様の許へ戻る。

 

「それでは、昼食にしようか───リゼ」

「はい、レド様」

 

 

◇◇◇

 

 

 昼食は、ホットドッグと野菜スープだ。

 

 昼食に時間をかけるつもりはないので、アイテムボックスに入れてある作り置きを取り寄せる。だから、火も熾さない。

 

 トランクルームから、蓋部分がクッションになっていて座ることができる木箱を外に運び出して楕円状に並べる。

 

 次いで、取っ手をつけていない大型のトランクも運んでもらって、テーブル代わりに真ん中に置く。

 

 

 今のところ、左右の休憩スペースだけでなく、街道の進行方向にも後続にも他の団体は見当たらないが────念のため、配膳はトランクルーム内の木箱を運び出すことによって空いたスペースで行うことにした。

 

 いつもの円テーブルとホットドッグの入った籠、野菜スープの入った鍋、皿とマグカップを取り寄せる。レド様と私のは、勿論、仲間たちが成人祝いに贈ってくれたものだ。

 

「リゼラさん、ここは私たちがします。リゼラさんは先に殿下と共に(くつろ)いでください」

 

 配膳をするために腰までしかないフード付きのショートマントを脱ごうとした私に、セレナさんがそう言ってくれた。

 

 お言葉に甘え、私はその場をセレナさんとアーシャ、ハルドとバレスに任せて、ミュリアと共にトランクルームから出る。扉の前に控えていたヴァイス、それに今日の私の護衛担当であるレナスが黙って付き従う。

 

 レナスとジグは、騎乗での随行は人目に付くこともあるため、いつもの姿ではなく、先日渡したブローチを早速利用して青い騎士服姿をとっていた。

 

 

 レド様は荷箱を兼ねたイスに腰かけ、テーブル代わりのトランクを挟んで向かいに座るディンド卿とヴァルトと何やら話していたが、近づく私に気づき、振り向いて顔を綻ばせた。

 

「リゼ」

 

 話を中断させてしまったことを申し訳なく思いつつも嬉しくなって、私は足を速める。

 

 レド様の右隣のイスにはジグが座っているので、空いている左隣に腰を下ろす。私の左側のイスにミュリアが座り、その隣───ちょうどジグの向かいとなる位置にレナスが座る。

 

 すかさず、ヴァイスが私の足元に伏せた。

 

「今、ディンドたちと話していたんだが────思っていたより進行が速いから、予定より先へ進めそうだ。ここを発つ前に、旅程を練り直さないか?」

「確かに、そうした方が良さそうですね」

 

 グローブを僅かに寄せて腕時計を確認すると、正午まで1時間以上あった。

 

 想定より、かなり速く進んだことになる。この分では、昼下がりには宿泊予定地に到達してしまうだろう。

 

 

「お待たせ致しました」

 

 落ち着いたその声に振り向くと、バレスがホットドッグと野菜スープを載せたトレーを手にして佇んでいる。すぐ後ろにはセレナさんが同様に立っていた。

 

 バレスがレド様の前に、ホットドッグが載った皿と野菜スープの入ったマグカップを音を立てないように置く。同時に、セレナさんが同じものを私の前にそっと置いた。

 

「ありがとう、バレス」

「ありがとうございます、セレナさん」

 

 バレスとセレナさんが配膳を終えたのを見計らって、セレナさんたちの後ろでトレーを手に控えていたアーシャとハルドが、ミュリアとレナス、ディンド卿とヴァルトとジグの前に、それぞれ皿とマグカップを置いていく。

 

「ご苦労だったな。何かあれば呼ぶから、お前たちも食べて休憩していてくれ」

「かしこまりました」

 

 バレスが代表して応えた後、全員で一礼して踵を返した。

 

 

 セレナさんが私の使用人となったので、現在、レド様の新規の使用人の中ではバレスが最年長だ。

 

 勤務日数は、アーシャやハルドの方が長いが────バレスは伯爵令息だったこともあって目上への対応は覚えるまでもなかったし、元々物覚えが良かったらしいことに加えて、【魔力循環】を活用したことが功を奏して、この短期間でレド様の給仕を任せられるレベルに達していた。

 

 そのため、ラムルやカデア、ラナ姉さんのいない状況では、バレスが代表を務めることとなった。

 

 勿論、ハルドとアーシャには、後から仲間入りしたバレスに従う形になることに関して、それとなく心情を確認している。

 

 どちらも自分が率先する方が気が引けるみたいで、特に不満はなさそうだ。

 

 

「慌ただしい中で侍従となって、ゆっくり修行させてやれなかったが────大丈夫そうだな」

 

 レド様も同じようなことを考えていたらしく、バレスの後ろ姿を見ながら小さく安堵の息を吐いた。

 

 

 

「さて───腹ごしらえも済んだことだし…、この後のことを話し合うとするか」

 

 昼食を終え、空になった皿とマグカップをバレスたちに下げてもらったところで、レド様が私たちを見回して告げる。

 

「リゼ」

 

 私はレド様に頷いて、念のため周囲を確認してから、自作の地図を取り寄せた。テーブル代わりのトランクに地図を広げると、共に昼食を摂っていた仲間たちが覗き込む。

 

「今日はこの街で宿をとるつもりだったが────やはり、地図で確認してみても、かなり早く到着してしまいそうだな…」

 

 地図の一点を指さし、レド様が呟く。

 

「だが、この街の先となると…、ちょうどいい距離に町も村もないな」

「そうですね。野営に向いた場所はあるようですが、そこに到着する頃には日が暮れている状態になりそうです。野営の支度を考慮すれば、もっと早くに到着したいところですが…」

 

 ディンド卿が相槌を打つ。

 

「まだ初日だし────時間を持て余してしまうとしても、予定通りこの街に宿泊するか?」

「しかし…、すでに出発したことを気づかれる前に少しでも距離を稼いだ方がいいのでは?」

「確かにそうだな。それに────ダラリス伯爵の執念深さを考えたら、集落に滞在するのは、もう少し先に進むまで避けた方がいいかもしれないな…」

 

「それでは、今日は野営することにしませんか?夕食は作り置きのもので済ませれば、火を熾してテントを張るだけですから────皆で手分けすれば、それほど時間はかからないはずです」

 

 レド様とディンド卿の発言を鑑みて、そう提案する。

 

 一番の心配は視界の悪さだが、今日は幸い晴れている。二つの月が雲に覆われてしまわない限り、そこまで暗くはならないだろう。

 

 簡易拠点を取り寄せる方が手っ取り早いのだけれど、他に野営する集団がいなくても、街道脇の開けた場所なので通りかかった集団に目撃されてしまう可能性がある。

 

 【結界】か【認識妨害(ジャミング)】で目くらましすることも出来るものの、タイミングが悪ければ、野営している様子はなかったのに突然現れたと不審に思われる恐れもある。

 

 

「他に意見はないか?なければ、リゼの意見を採用しようと思うが────どうだ?」

「俺はリゼラ様のご意見に賛成です」

「ワシも賛成です」

「私も、リゼラ様のご意見に賛成します」

 

 ディンド卿、ヴァルト、ミュリアが続けて答え、ジグとレナスが肯く。ヴァイスは頭を浮かせて、ちらりと視線を向けただけに留める。

 

「それでは決まりだな。今日はこの地点まで進み、野営を行うこととする」

 

 レド様が私たちにそう宣言したとき、ちょうどバレスたちが食後のお茶を手に戻って来た。

 

 バレスたちがお茶を配り終えるのを待って、レド様が口を開く。

 

「今日は予定していた宿泊地点より先に進んで、野営することになった。おそらく、どこかで一度休憩をとることにもなる。そのつもりでいてくれ」

「承知いたしました」

「ラギとヴィド────それにノルンにも、その旨を伝えておいてくれ」

「かしこまりました」

「それから…、そうだな───30分後には出発したいと思うが、何か支障はあるか?」

 

 バレスがセレナさんに僅かに目線を向ける。セレナさんは小さく頷いた。

 

「ございません」

「そうか。それでは、30分後に出発することにする」

「かしこまりました」

 

 

◇◇◇

 

 

「バレスは、うまくやっていけそうか?」

 

 バレスたちが馬車の後方に回って姿が見えなくなってから、レド様がヴァルトに訊ねる。

 

 ラムルやカデアではなく、ヴァルトに訊くからには、暗にセレナさんやハルドとの仲を心配されているのだろう。

 

「今のところ、特に問題なさそうです。まあ、多少のぎこちなさはあるみたいですが───おじょ、…セレナ、と、ハルドとは、仕事の話だけでなく他愛のない会話もしているようです」

「それは良い傾向だ」

 

 深い笑みを湛えるレド様に、ヴァルトはちょっと拗ねたような表情になる。

 

 レド様の笑みには、セレナさんの名を呼ぶのを躊躇ったヴァルトへの揶揄いも含まれているのが一目瞭然だ。これまで散々私たちのことをニマニマ眺めていたのだから、文句は言えないよね。

 

「それにしても────この地図は、何度見ても素晴らしいですね」

 

 揶揄われるヴァルトを気の毒に思ったのか、ディンド卿がマグカップに口をつけながら、未だ広げたままの地図に目線を遣って話題を変えた。

 

「本当に。さすがはリゼラ様です!」

 

 私に対する熱が未だ冷めていないミュリアが、興奮気味に追従する。

 

 ………お願いだから、それに関して、あんまり褒めないでください、二人とも。

 

「そうだな────と言いたいところだが、俺としては複雑だ。リゼが危険を冒した結果だと知った後だからな」

 

 レド様は私を大事に思われるあまり、もう、過保護どころではなくなっている。

 

 まあ、でも、レド様がろくな装備を与えられないまま何度も魔獣討伐に従事させられていたことを考えると、私も同じような心境になるから、そのお気持ちは解らないでもないし────レド様が私を大事に思ってくださっていることは嬉しいのだけれども。

 

「ええっと…、レド様?本当に危険なことはしていませんよ?それに、逆です。危険を冒して地図を作製したのではなく、地図があるから一人で行動できたんです」

「………つまりは、危険行為の原動だと」

 

 嘆息するレド様に、サヴァルさんとの遣り取りを知らないヴァルトが首を傾げる。

 

「話が見えないのですが────リゼラ様が何か危険なことをしていた、ということで?」

「リゼは、通常なら魔物や盗賊を警戒して集団で移動するところを、単独で移動していたのだそうだ」

「それは、冒険者ならば普通のことでは?」

 

 ヴァルトにきょとんとした表情で返されて、沈黙が降りる。

 

「……つまり、お前も単独で移動していた、と?」

「同行者が見つからない場合、単独で移動するしかないと思いますが…」

 

 そうですよね────と思わず頷きそうになったけど、思い(とど)まる。

 

「……サヴァルの言い分から、一人で移動するのは危険なことだと思っていたのだが────もしかして、違うのか?」

「いえ。ルガレド様のお考え通り、一人で長距離を移動するのは危険な行為です。商人は勿論、冒険者や傭兵すら致しません。リゼラ様とヴァルトがおかしい────あ、いえ、特別なだけです」

 

 ディンド卿がすかさず答える。

 

「ある程度の実力がある者なら、森を拓いて造られたような支道や新街道を避け、周囲を整備された主街道のみを使うようにすれば、近場の街に移動することは一人でもそれほど危険なことではありません」

 

 そういえば、ディンド卿も一人で皇都を出ようとしていたな───と思い出す。おそらく、主街道を使って隣街まで移動するだけのつもりだったのだろうけど。

 

「ですが────主街道から外れての野営となると、魔物や盗賊を警戒しながら、寝床の確保や食事の準備、就寝をしなければなりません。特に就寝については、単独では見張りを立てられないため、かなり難しくなります。

万全な体調を確保できなければ、いかに実力者だろうと命取りです」

 

「やはり、そうだよな…。────リゼ、ヴァルト、野営はどうしていたんだ?」

「私の場合は地中からある程度は様子を探れましたし────幸いなことに私が購入した馬はどの子も賢くて、魔物や盗賊が近づけば察知して教えてくれたので、それほど野営は難しくなかったですよ。夜もちゃんと眠れていました」

「……馬にも効果があるのか」

 

 ─────効果…って何の?

 

「ほう───馬での移動には、そういったメリットもあるんですな」

「………ヴァルトも馬に乗れますよね?」

 

 何で、そんなコメントが出るの?

 

「いやぁ、ワシはいつも徒歩で移動していたもので」

「ええ?それじゃ、荷物なんかはどうしていたんですか?」

 

 いつかのディンド卿のように背嚢(リュックサック)で運ぶのでは、限りがある。

 

「武具と防具は身に着けていましたし、水を入れる革袋と火打石さえあれば何とかなりますから」

「えっ───テントや毛布は?」

 

 調理しなくていい携帯食しか持たないなら調理器具はいらないかもしれないけど、テントや毛布は必要だろう。

 

「持っていませんでした。雨さえ降ってなきゃ、マントに包まって寝るだけで十分でしたので。まあ、雨が降っていたところで、木陰や洞窟を探すだけですが」

 

「………携帯食だけは、ちゃんと持ち歩いていたんですよね?」

「偶に、貰い物の干し肉とかドライフルーツとか携帯していました。まあ、でも、魔物を倒せば肉が手に入りますし、それがダメでも、森にはいくらでも果物やキノコが生えていますし────自腹で購入してまで持ち歩くことはありませんでしたね」

 

 ………いくら何でも、サバイバル過ぎない?

 

「ヴァルトは魔物の解体ができるのか?」

 

 レド様の問いに、ヴァルトはあっさりと返す。

 

「いえ、できません」

「それでは、魔物の肉はどうやって食べていたんだ?」

「適当に切り分けて、皮を剥いで、食べられそうな部分を削り取って木の枝に刺して炙って、食べていました」

 

 まあ、売却するつもりがないのなら、素材を損なう心配をする必要もないし────解体の知識がなくても、肉を切り分けるのはできないこともない。

 

 ただ、魔物によっては毒素がある部位もあったりするから、あまり推奨できることではないけど…。

 

「………植物には詳しいのか?」

「いえ、まったく」

 

「え、それなのに茸を採って食べていたんですか?」

 

 私は思わず口を挟んだ。

 

 この世界では“菌類”という概念がなく、茸も植物と見做されている。植物に詳しくないということは、当然、茸についても知識がないということだ。

 

 毒茸を口にすれば、死に至ることだってあるのに。まさか、そんな危険なことをしていたなんて────エデルよりも酷い。

 

「毒茸の見分けが難しいことは、俺だって知っているぞ。お前…、よく無事でいられたな」

「いえ、何度も腹を下しました。身体が痺れて身動きとれなくなったときは、もうダメかと思いましたよ」

 

 笑って言うことではないですよ…。

 

「まさかと思いますけど────セレナさんとハルドにも、同じことをさせていたわけではありませんよね…?」

「頑丈なワシならともかく、箱入りで育ったお嬢や成長期のハルドにはそんなことはさせられませんよ。ちゃんと食糧もテントも毛布も携帯していました。町や村などにも頻繁に寄るようにしていましたしね」

 

 ………それは、一人のときは、あまり集落には寄らずに森でサバイバルをしていた、ということですか?

 

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