コントラクト・ガーディアン─Over the World─   作:tea4

234 / 241
三か月以上もご無沙汰しておりまして、申し訳ございません。その間、覗きに来てくれた方や、ブックマーク登録を外さずにお待ちくださっていた方、本当にありがとうございます。

今回は、第四章全6話と第五章2話分の計8話、エピソード的に切りのいいところまでの投稿となります。
一場面でも楽しんでいただけたなら、幸いです。

※エメラルドの表記を「緑柱石」→「翠玉石」に変更しました。
手持ちの図鑑によればエメラルドはベリルの一種とのことだったので「緑柱石」の表記にしてしまったのですが、どうにも違和感が拭えなかったので、変えることにしました。



第四章―知られざる因果―#1

 

「やっぱり、思った通りになりましたね」

「だから、言ったじゃないですか───ルガレド様」

 

 村人たちに見送られながらダルの村を出て、支道を少し進んだところで今日の野営予定地へと到着し、その場の安全確認が済むと、ジグとレナスがレド様に向かって言った。どうも、ずっと言いたくて我慢していたみたいだ。

 

 視線の先には、レニがいる。

 

「鋭いリゼラ様をごまかせるわけがないでしょう。結局、お手間をかけさせて」

「まったく───これじゃ、セアラ邸のときの二の舞じゃないですか」

「村人が困るからとか、仲間たちの負担が増えるからとか───勝手に決め込んで断念する前に、ちゃんと状況確認をして相談すべきだったんですよ」

「ぅ、それはその通り…なの、だが……」

 

 確かにジグの苦言には同意だし、相談してもらえなかったことに寂しく思うけれど────仲間たちに迷惑をかけたくないというレド様のお気持ちは理解できる。

 

 放浪生活をさせることに負い目を感じているようだから、それが拍車をかけたのかもしれない。

 村に滞在できる時間が短かったのも、早々に断念してしまった理由の一つではないかと思う。

 

 レド様が諦めてしまうのを傍らで見ていたジグとレナスは、もどかしくて仕方がなかったのだろう。

 

「ジグ、レナス───貴方たちの気持ちも解るけど、そこまでにしてあげて」

 

 私がそう言うと、二人は渋々といった感じで口を噤んだ。

 

「とにかく、野営の準備に取り掛かる前に、レニとバジと【使い魔契約】をしてしまいましょう」

 

 今夜の野営地であるこの空き地にも、支道にも人影は見当たらない。

 

 ダルの村では村人の手前、契約だけでなく、頭路と鞍を創ることもできなかったので────他人の目がないうちに済ませておきたかった。

 

 レニは私の所有ではあるが、当然、レド様の専任にするつもりだ。

 

 シュヴァルツには、すでにレド様の担当を外れることを説明して承諾してもらった。いずれ、別の仲間を担当してもらおうと思っている。

 

 旅の準備段階では、特に担当を決めずに持ち回りで仲間たちを乗せてもらうことも考えていたのだけれど────騎手との連携をとるには、きちんと担当を決めてくれた方がいいと、当のノワールたちに言われたため、それぞれ担当を割り当てていた。

 

 ノワールは私、ニゲルはジグ、マヴロはレナス、メランはミュリア、アスワドはディンド卿の担当だ。

 

 バジに関しては、人を乗せる訓練もしていたとのことなので────ある程度慣らしたら、しばらくの間は、アーシャ、ハルド、ラギ、ヴィドの騎乗訓練を担当してもらいたいと考えている。

 

 

「レニ、バジ」

 

 私が呼ぶと、レニとバジがこちらへと歩み寄ってくる。

 

 レニは程よい距離で立ち止まったが、バジは私のすぐ傍まで来て、嬉しそうに頬を擦り付ける。

 

 それを見たブランとグレナが、こちらに向かって踏み出しそうとした。

 

「あ、おい!」

 

 馬車と繋ぐベルトを外そうとしていたラギが焦った声で咎めるが、それでもブランとグレナは進み出る。

 

 おもむろにレニが振り向き、鼻を鳴らして睥睨すると────ブランとグレナは、ぴたりと動きを止めた。

 

 レニは再び正面を向く。そして、重々しく溜息を()いた。すると、私に頬ずりをしていたバジの動きが一瞬止まった。バジが擡げていた首を起こして、一歩後ろに下がる。

 

 レニは満足げに息を吐くと、私を見遣った。

 

 まさか、眼差しと溜息だけで従えるとは。さすがは、レド様の騎馬に選ばれただけある。

 

 誇らしげなレド様に思わず笑みを零してから、私はお礼を口にした。

 

「ありがとう、レニ」

 

 馬型の精霊獣はノワールがまとめている。それ以外の馬は、レニに任せてもいいかもしれない。

 

 

 精霊獣とは違い、動物との【使い魔契約】は【主従契約】に近いみたいで────額に魔水晶(マナ・クォーツ)が埋め込まれるのではなく、右耳の端に<主従の証>と同様のイヤーカフが嵌め込まれる。

 

 【使い魔契約】のメリットは、明確に意思疎通ができるようになることだ。精霊獣のように喋ることはできないが、お互いの考えをダイレクトに伝えられる。

 

 それに、私の魔力を分け与えられることに加えて、イヤーカフに【魔力循環】の機能を追加すれば、大幅な身体能力強化も可能になる。

 

 ブランとグレナが、重量のある馬車を牽引しながらも精霊獣の速度についていけるのは、その恩恵だ。

 

 

「では────まずは、レニから…」

「待ってくれ、我が姫」

 

 傍らで成り行きを見守っていたヴァイスが、私の言葉を遮って口を挟んだ。

 

「その白馬───名は“レニ”だったな。レニとは、姫ではなく、神竜の御子が契約した方がいい」

「……どうして?」

 

 ブランとグレナと契約する際に、精霊獣と連携するために私が主となる方がいいと助言してくれたのはヴァイスだ。

 

「そちらの馬───“バジ”は姫の“眷属”だから姫が契約すべきだが、レニは神竜の御子の“眷属”だからな。主である神竜の御子が契約するのが道理だ」

「……え?」

 

 レニともバジとも、昨日再会したばかりだ。

 

 それなのに、すでにレド様と私の“眷属”になっている────?

 

「……どういうこと?」

 

 質問の意図を図りかねたらしく、ヴァイスが首を傾げたので、私は言い換えて再度問いかける。

 

「“眷属”とは、そんな簡単になれるものなの?」

「いや。本来ならば、主の魔力によって徐々に存在を造り替えられていくものだが────神竜の御子も、我が姫も、【神聖術】とやらを用いて、レニとバジを癒しただろう?【契約】によって繋がることなく、その存在の根源に干渉し、神竜の御子や姫の魔力を一挙に注ぎ込んだことで、レニとバジは“眷属化”したのだ」

 

 バレスの手足を再生したのも、【主従契約】を交わす前だった。つまりは────私とレド様が“配下(アンダラー)”や“使い魔(アガシオン)”以外に【神聖術】を施すとなると、加護を与えるのと同然だということかな。

 

「元より、【神聖術】はおいそれと使用できないとは考えていたが────やはり、余程のことがない限り、使うべきではないな。特に、俺とリゼは」

「そうですね。ただ───加護を授けていない仲間たちに【神聖術】を施しても、すぐに“眷属化”してしまうわけではなさそうなので、それだけは朗報です」

 

 勿論、即“眷属化”してしまうのだとしても、命の危険に晒されたときは【神聖術】を行使するつもりではいた。身体の成長は止まってしまうが、命を失っては元も子もない。

 

 だけど────これで躊躇わなくて済む。

 

「それにしても────レニとバジに一緒に来てもらうことにしてよかったですね。あのまま村に置いてきていたら、いずれ村人たちに訝しがられることになっていたかもしれません」

「ああ、そうだな…。本当にありがとう、リゼ」

「いえ。レド様こそ、バジを一緒に連れて行こうと言ってくださってありがとうございます」

 

 

◇◇◇

 

 

「お帰りなさいませ。森の様子はどうでしたか?」

 

 早々にレニとバジとの契約を済ませた私たちは、ディンド卿と年少者たちに野営の準備を任せて、周囲の森を偵察しに向かった。

 

 特に戦闘になるようなこともなく、支道の両側にそれぞれ広がる森をある程度探索して戻ると、すでにテントの展開や焚火台などの設置が終わっていた。

 

「この辺りにマイコニドや魔獣が発生している様子はありません。それから────やはり…、魔物も点在している程度でした。念のため、ヴァルトに【直観】を行使してもらいましたが、何らかの異変を感知することもなかったです」

「そうですか…」

 

 ディンド卿は思案気にそう呟いて、腕時計に眼を遣る。

 

「夕食の支度にとりかかるまで時間に余裕があります。今のうちに、ルガレド様の“一度目の人生”と今世との比較検証をいたしませんか?」

 

 まだ昼下がりと言っていい時間帯だ。正午に比べたら日は傾いたものの、沈むまでには時間があった。

 

 

 支道の先にある、エデルが先行して情報収集をしている街───ガイラムの街に行き着くまでに、二つの村と一つの町が存在している。

 

 私たちの移動速度なら、日没前に次の村まで辿り着くことができたはずだが────ダルの村と同じく小さな村で、宿屋などはない。

 

 どうせテント泊となるのなら、人目がない方がいいということで手前で野営することにした。

 

 今夜はここで一泊して────明日は、村や町には滞在することなく先を進み、ガイラムの街の手前で野営をすることになっている。

 

 ただ、村や町で宿泊はしなくても、念のためマイコニドが出現した旨と対処法を伝えるべく、素通りせずに寄っていくつもりだ。

 

 それと───道中、支道や集落付近の森を探索して、マイコニドに限らず、一介の冒険者には脅威となりそうな魔物の対処もするつもりでいる。

 

 ディンド卿の提案通り、時間が空いた今のうちに、レド様の記憶の比較検証をした方がいいかもしれない。

 

「────そうだな…、そうするか」

 

 レド様は少しだけ考え込んだ後、頷かれた。

 

 

 

「わざわざ来てもらってすまないな───ラムル、カデア」

 

 セアラ様から直接事情を聴いていて、行動を共にすることもあったラムルとカデアにも、この比較検証に参加してもらうとことになった。

 

 レド様の労いの言葉に、ラムルとカデアは首を横に振る。二人は孤児院での子供たちの指導を切り上げて、合流してくれたみたいだ。

 

 今朝会ったばかりだから挨拶もそこそこに、馬車の傍に並べたイス代わりの荷箱に腰を下ろす。

 

 バレスとセレナさん、ハルドとアーシャが、お茶の入ったマグカップをテーブル代わりのトランクの私たちが取りやすい位置に置いていく。

 

「まずは、前提からだな。────母上についてだ。

母上は“一度目の人生”では、剣術を修めて辺境伯領で経験を積んだ後、騎士見習いとして皇城に上がり、ロレナ前皇妃の輿入れの際に親衛騎士を任されるに至った。そして、皇王陛下に見初められ、側妃として後宮に入り────やがて、俺を生んだ。

今世では、脆弱だったために騎士として伺候するどころか剣術を修めることすら適わなかったが────自ら側妃に立候補して後宮へと入り、後に俺を生んだ」

 

「確か────“一度目の人生”と今世では、レド様がお生まれになられた時期に6年の差があるというお話でしたよね?」

「ああ。奇しくも、成人した時期は同じとなったが」

 

 そうか───6年遅れて生誕されたのだから、今年18歳だったはずだ。あれ、そうなると────

 

「“一度目の人生”では、ゼアルム殿下は弟ではなく兄だった───ということですか?」

「いや。“一度目の人生”では、“ゼアルム”は俺よりも2年あとに生まれている」

 

「“ずれ込んだ”───ということですか?」

「“ずれ込んだ”というより────皇室の慣例に則って名付けられたために同じ“ゼアルム”という名ではあるが…、“一度目の人生”と今世のアルは、おそらくは────別人だ」

「……そうなのですか?」

「ああ。前の人生では第二側妃は別の方で、アルの生母は“第三側妃”であったし────そもそも、その第三側妃も、今世のアルの生母である現第二側妃ウィリア=ラス・ル・レーウェンエルダ────先代ゲルリオル伯爵の長女ではなく、その妹である次女だった」

 

「なるほど────通常、皇妃殿下のご懐妊後、もしくは皇妃殿下とのご成婚後三年が経過してから、後宮に側妃候補を集められるのでしたね。そこが“ずれ込んだ”ということですか」

 

 ミュリアが、得心がいったというように呟く。

 

「その通りだ。確か────前の人生ではロレナ様…、ロレナ前皇妃は最初のご懐妊では流産されたと聞いている。そして、次のご懐妊───兄上を身籠られたのはその4年後だった、と。

そのため、ロレナ様が兄上を出産される1年前には側妃候補が集められたのだそうだ。母上はその時点で側妃となられたらしい。

今世では流産されることなく、臨月までは無事に過ごされ────出産直前に、お腹の御子と共に命を落とされている。そのため、ロレナ前皇妃のご懐妊判明後すぐに、母上は側妃候補として後宮に上がられたからな。ゲルリオル伯爵家からは、今世では未婚だったウィリア妃が候補として上がられた───というわけだ」

 

「では────もし、ロレナ前皇妃が命を落とされることなく、お腹の御子が無事にお生まれになられたとしても、レド様の“一度目の人生”でのロゼルト皇子とは別人だった───ということですか?」

 

「どうだろうな…。アルの場合は、生母が違ったためか顔の造作や髪色も違っている。それに、言動や性分にも違いが見られる。言動も性分も育った環境にも左右されるものだから、多少違っていてもおかしくないとは思うが────おそらく、そういった相違ではなく…、宿る“魂魄”が違っているような気がする。

俺は前の人生と今世では生まれた年月日は違うが、人相は酷似している。育った環境や受けた教育、それに取り巻く環境が違うから考え方などに多少の違いはあるが、性分に関してはそう変わりはないような気がする。おそらく、生母と宿す“魂魄”が同じだからだろう。

そう考えると────兄上の場合は生母が同じロレナ前皇妃であるし、もし同じ“魂魄”が宿っていたら、生まれた時期が違ったとしても、別人だとは言い切れないのではないかと思う」

 

 そう語るレド様は、複雑そうな表情を浮かべている。

 

 魂魄の在り方やどう宿るのかが不明である以上、レド様の説を否定も肯定もできないが────私としては、別人であって欲しいな。同じ魂魄の持ち主だからといって、まだ何の罪も犯していない胎児の死を喜びたくはない。

 

「我が姫、“流産”とは子はできたが生まれることはなかった───という認識で合っているか?」

 

 不意に足元で伏せていたヴァイスが頭を上げて、私に訊ねる。私が頷くと、今度はレド様に訊ねる。

 

「神竜の御子、そのロレナ前皇妃とやらが流産してしまったのは、子供に魂魄が宿ってからなのか?それなら、宿った魂魄が母体に留まって次の子に宿るという可能性はあるかもしれないが────そうでないのなら、別の魂魄を宿していると考えてよいと思うぞ」

「……そうなのか?」

「ああ。魂魄は肉体を失くした時点で、皆等しく“源河”に一度帰るのだそうだ。我ら精霊獣は例外で、この“源河”に帰るところを精霊樹に取り込まれた存在なのだと、アルデルファルム様は仰っていた」

 

「……“源河”?」

 

 その内容だけでなく、聞いたことがない言葉に私たちは一様に首を傾げる。そんな私たちに、ヴァイスも首を傾げた。

 

「もしや、人間は“源河”を知らないのか?」

「ああ、聞いたことがないな」

 

「“源河”とは、世界の核を成す魔素の大河だ。地中深くに存在していると、我は聞いている。肉体を失った魂魄は、この“源河”にて修復されてから再び肉体を得るとのことだ。そこに法則はなく、魂魄と肉体の組み合わせは偶発的に決まるようだから、時期が違ったのなら別の魂魄を宿していたはずだ」

 

 肉体を失った魂魄が帰りつく大河、か────前世の世界でも似たような伝承があったな。

 

「……“三途の川”みたいですね」

 

 同じ連想をしたらしいレナスが呟く。ヴァイスがまたもや首を傾げる。

 

「サンズノカワ?」

「私とレナスの前世の故郷に伝わる、“死者が辿り着く川”のことだよ」

「そうなのか」

 

 “三途の川”だけじゃない。前世の世界では、他の神話にも似たような───“死後の世界に流れる川”に関する伝承があったと記憶している。

 

 確か、“渡れば記憶を失う川”なんていうのもあった気がする。

 

 

 “川”は生活や文明の発展に欠かせないものであっただろうし、そういった理由から“川”に対して“信仰”のようなものが持たれやすかったか、もしくはどれかが大元で各地に伝播したのかな────なんて、前世の私は漠然とそんな風に考えていたけれど────もしかしたら、前世の世界にも、本当にそういった何かが存在していたのかもしれない。

 




※馬の群れについて、第二章♯6の記述では誤解を招きそうなので、捕捉しておきます。
馬は基本、ハーレム社会なのだそうです。ハーレムを築くオスが群れのボスとなって、群れを護り───ボスとは別にリーダー的存在のメスがいて、水場や休息できるような安全な場所まで群れを率いるのだそうです。
リゼラは、この“リーダー的存在のメス”にレニがなっていたかもしれないと思ったということになります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。