コントラクト・ガーディアン─Over the World─   作:tea4

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第四章―知られざる因果―#6

 

 一通り調査や探索を終えて馬車へと戻ると、もう夜半を過ぎていた。

 

 ディンド卿を始めとした仲間たちは、すでに夕食は済ませたようだったが、それでも寝ずに私たちを待っていてくれた。

 

「お疲れ様でした───ルガレド様、リゼラ様」

「ああ、ありがとう。遅くなってすまなかったな」

「お言葉に甘え、食事は摂らせていただきましたので、お気になさらず」

「そうか。────合流した冒険者たちは?」

「どうも、食事をろくに摂れないまま、睡眠も十分にとれていなかったようで────分け与えた食事を残らずたいらげ、今はテントの中で眠っております」

 

 見ると、馬車のすぐ側に長方形を成す魔玄製のテントが張られている。

 

 彼らのテントでは5人全員が横になるのは難しかったため、予備のテントを設置することにしたのだ。

 

「話は聞けたか?」

「少しだけですが。予想に違わず、彼らは冒険者で────5人で『アドラムの絆』というパーティーを組んでおり、パーティーランクはCランクとのことです」

「何故、街から出て野営しているかは聞いたか?」

「魔物の減少に伴い依頼が減っているだけでなく、どうやら、あまり仕事を回してもらえずに困窮していたようです」

「……解った。詳しい事情は明日本人たちから聴くとしよう。────ご苦労だった」

 

 レド様がディンド卿を始めとした待っていてくれた仲間たちを労い、ディンド卿との会話を締める。

 

「リゼ、ミュリア、ジグ、レナス───ご苦労だったな。食事を摂って、休もう」

「はい。レド様もお疲れ様でした」

「ああ、ありがとう」

 

 

◇◇◇

 

 

 翌朝────

 

 仲間たちと朝食の準備をしていると、物音で目が覚めたのか、『アドラムの絆』のメンバーがテントから出てきた。

 

 私たちの姿を認めると、5人は慌ててこちらへと寄ってくる。

 

 最年長の青年と、彼より年少の───つまりは私と同じ年頃の少年が二人と少女が二人。

 

「あ、あの───昨日は助けてくれてありがとうございました!お礼も言わずに、先に寝てしまってすいません!」

 

 レド様はまだキャビンで就寝中なので、5人は私に向かって頭を下げる。

 

 メンバー全員が十代のCランクパーティー───彼らは、十中八九、ダルの村の護衛任務を放棄した冒険者パーティーだろう。

 

 仕事を回してもらえなかったというのは、おそらく任務放棄に起因している。

 

 私のお世話になった人たちに迷惑をかけたことや、同じ冒険者としてその無責任さに思うところはあったものの、この第一声に加えて、完全には消えていない眼の下の隈と頬のやつれた顔に、気遣う心が芽生える。

 

「気にしないでください。少しは休めましたか?」

「おかげさまで、久しぶりにぐっすり眠れました。ホントにありがとうございます」

「「「「ありがとうございます」」」」

「それなら、良かったです。ところで────夕食は不足していたようでしたが、朝食になりそうな食糧はあるのですか?」

 

 念のため私が訊ねると、最年長の青年は僅かに顔を俯かせ、消え入りそうな声で答える。

 

「いえ…、ないです…」

「そうですか。それでは、私の食糧をお分けします。その代わり、出来ることだけでいいので、仲間たちの作業を手伝ってもらえますか?」

 

 彼らが任務放棄する元凶となった雑用だ。背に腹は代えられないだろうから断ることはなくても、少しは嫌な顔を見せるかな────と思ったけど、彼らは嫌がるどころか顔を輝かせた。

 

 困窮してみて、雑用でも仕事にありつける有難みが身に沁みたのかもしれない。

 

 

 

 しばらくして、陽光が辺りを完全に満たした頃、レド様がキャビンから出て来られたのが眼に入る。

 

 すでに朝食の準備が済んで、席に着いていた私たちは立ち上がって出迎える。

 

「おはよう、リゼ」

「おはようございます、アレド」

 

 レド様は、他の仲間たちとも朝の挨拶を交わしつつ、すっかり準備の整った食卓を見て眉を下げた。

 

「すまない、起きるのが少し遅くなった」

「いえ。昨日は就寝するのが遅かったですし、気になさらないでください」

 

 それに、遅いと言うほどでもない。

 

「ありがとう。────リゼはちゃんと休んだか?」

 

 レド様は、私ではなく、隣にいるミュリアに訊く。

 

「はい。リゼラ様は、トランクルームに入ってすぐに就寝されました」

「そうか」

 

「………ええっと、とにかく朝食にしましょう」

「そうだな」

 

 レド様は、私たちとは別の一団───テントの補強に利用していた荷箱をベンチにして座る『アドラムの絆』の面々と、テーブル代わりの荷箱に置かれた彼らの朝食を一瞥する。

 

≪朝食も提供したのか?≫

≪はい。雑用の手伝いの報酬としました≫

()()()()食糧を分けたんだな?≫

≪ええっと…≫

≪リゼ?≫

≪……共有の食糧から出すことにします≫

 

 諦めてそう答えた私に、レド様は溜息を()く。

 

「とにかく、食べるか」

「そうですね」

 

 ディンド卿が応えレド様が席に着くと共に、立ち上がっていた仲間たちも再び腰を下ろす。入れ替わるように、『アドラムの絆』の面々が立ち上がった。

 

「昨日は助けてくれてありがとうございました」

 

 最年長の青年が代表してお礼を述べ、5人はレド様に向かって頭を下げた。

 

 レド様は僅かに表情を和らげる。

 

「いや。間に合ってよかった。────皆、待たせて悪かった。それでは、いただくとしよう」

 

 今日の朝食は、パンと焼いたソーセージ、それに果実水のみで────『アドラムの絆』の手前、スープはなしだ。

 

 こういった野営では、スープなど手間のかかる料理を作るのは夕食だけで、朝食と昼食にはパンと干し肉くらいしか出さない。

 

「このパン、味付けしてあるんですね。甘いのに、ほんのりバターの塩味が利いていて美味しい…!」

 

 パンを一口齧って、ミュリアが興奮気味に言う。

 

 出したのは、人前で食べることを前提に用意したパンだ。

 

 ダルの村でもらったパンにしようかと思ったけど、どうも『アドラムの絆』の面々には食べさせる気になれなくて、こちらにした。

 

 

 このパンは二度焼きしてあって、食感は硬くなってしまうものの日持ちがするので、携帯食の一つとして定番となっている。

 

 本来はただ二度焼きするだけの代物なのだが、それでは味気ない。

 

 そこで、前世の世界のお菓子───“ラスク”を参考に、バターと砂糖で味付けをしてから焼いてみたのだ。

 

 スープと一緒に出すことができる場合は、スープに浸して食べるため、本来の味付けしていないものを出すつもりだ。

 

 

「美味しいですよね、これ」

 

 夢中になってパンを齧るミュリアに、セレナさんがそう言って微笑みを浮かべた。セレナさんは、すでに試作で味見をしている。

 

 ミュリアはパンを頬張りながら、セレナさんにコクコクと頷く。その様子に、笑みが零れる。

 

「ふふ、気に入ってもらえたなら良かった」

 

 ミュリアとは逆側に座るレド様に眼を向けると、レド様も美味しそうに食べていて安堵する。

 

 表情を見るに、他の仲間たちも気に入ったようだ。ほっとしつつ、私も自分の皿に載った朝食に手を付ける。

 

「………」

 

 この“ラスク”もどき、確かに美味しく出来上がってはいるけど、ちょっとソーセージとは合わなかったかも…。

 

 まあ、でも、パンだけでは物足りなかったし、仕方がない。次回出すまでに、このラスクもどきと一緒に出すなら何がいいか考えておこう。

 

 

◇◇◇

 

 

 昨晩討伐した変異種の後始末に関しては、ガイラムの冒険者ギルドに持ち込むことになった。

 

 私かレド様が解体して、ギルドまで運んでしまってもよかったが────魔物の減少で冒険者の稼ぎも減っていることを考慮して、冒険者たちに割り振ることにしたのだ。

 

 ヴァルトとセレナさん、ハルドの3人が、応援要請をすべくガイラムの街に───ディンド卿、バレス、ラギ、ヴィドの4人が変異種の遺骸を見張るべく、それぞれ向かった。

 

 変異種の遺骸と、その変異種が拠点としていたと思しき泉は、念のため、昨晩から精霊獣に見張ってもらっている。

 

 今のところ、変異種の遺骸が魔物に食い荒らされることも、泉にマイコニドが発生したり新たな魔物が陣取るようなこともなく────どちらにも、何の異常も見られないとのことだ。

 

 

 馬車で待機することとなったレド様と私は、Cランクパーティー『アドラムの絆』に詳しい事情を聴くことにした。

 

 その武装姿から察するに、リーダー的存在らしい最年長の青年は槍使い、私と同じ年頃の少年の一人が斧使いで、もう一人がタンク────それから、少女の一人がアーチャー、もう一人の少女が斥候を担っているようだ。

 

「その…、改めて、昨日は助けてくれてありがとうございました」

「「「「ありがとうございました」」」」

 

 5人は全員でお礼を述べて、また頭を下げた。

 

「いや。無事で何よりだ」

 

 レド様の言葉を受けて、最年長の青年───キドは、意を決した表情で口を開いた。

 

「あの…、あなたたちは“大掃討”に行くんですか?」

「……ああ、そのつもりだ」

「それなら────オレたちも一緒に連れてってくれませんか?」

 

 彼らがそう言い出すことは、予想していた。レド様は表情を落として、首を横に振る。

 

「悪いが…、連れて行くことはできない」

「…っ」

 

 キドは一瞬歯を食いしばってから、すぐにまた口を開く。

 

「お願いです!雑用でも何でもします!だから、どうか連れてってください…!」

「「「「お願いします!」」」」

 

 他の4人も、必死な形相で頭を下げる。

 

 

 彼らはCランクパーティーだ。個人にしろパーティーにしろ、Cランクともなれば、それなりに経験を積んで実力がついたと判断される。

 

 それなのに、ろくに仕事を回してもらえないというのは、ダルの村の件で干されているのだろう。

 

 放棄したのが護衛任務だから、行商人の護衛任務を回してもらえないのは勿論、商隊の護衛にも参加させてもらえないはずだ。そうなると、他の街に移動するのも難しい。

 

 仕事もなく、拠点を移すこともできない。これでは、どうしようもない。彼らが必死になるのも当然だ。

 

 

「俺たちはこの支道を辿って、ガイラムへと来た。ダルの村も経由している」

 

 キドを始めとした『アドラムの絆』の面々の顔が強張った。

 

「お前たちがどうしようもない状況に陥っているだろうことも、俺たちにすがりつきたいその気持ちも想像できる。反省しているだろうことも、その態度から見て取れる。だが────だからといって、連れて行くことはできない」

 

 レド様はそこで言葉を切ったものの、それでも諦めきれていない様子のキドたちに、また続ける。

 

「俺が、どういった立場なのか────聞いているはずだ」

 

 イダルの定期報告によれば、スタンピードの一件とその概要は、すでにガイラムの冒険者ギルドにもたらされているらしく────まだギルド内という狭い範囲でだが、噂になっているとのことだった。

 

 ガイラムの街中の宿に泊まることはできなくても、ギルドに出入りはしているだろうし────Sランカーの私ではなくレド様が仕切っていることや、今朝の私たちの遣り取りに疑問を感じている様子もなかったから、レド様が同じくSランカーであることも、この国の皇子であることも知っていると考えて間違いない。

 

 やはりというべきか、キドたちから否定の言葉は出なかった。

 

「俺たちは、ただの旅団ではない。リゼを始め、行動を共にしている仲間たちは冒険者ではあるが────同時に、俺の配下でもある。皆、覚悟を持って俺に付き従ってくれているんだ。何の覚悟もないお前たちを、同情だけで安易に仲間に加えることはできない。

それに、俺には宿敵と呼ぶべき相手がいる。危機的状況で咄嗟に行動をとれなかったお前たちを連れていては、支障を来たす可能性もある。護るべき大事な仲間たちを危険に曝すわけにはいかない」

 

 キドたちは、悔しそうに表情を歪める。

 

 彼らにはCランクに相応の実力があると、ボルさんは言っていた。突然現れた変異種に反応できなかったのは、もしかしたら、空腹や睡眠不足のせいだったのかもしれない。

 

 

 レド様の仰る通り、彼らには反省している様子が見て取れる。

 

 朝食との引き換えに雑用を手伝ってもらった際も、見た限り、手を抜くことなく真面目にこなしていた。

 

 加えて、彼らはまだ十代半ばだ。前世の記憶を持つ私とは違って、生きてきた年数は年齢通りでしかないだろう。

 

 幸いにも、ダルの村の件は取り返しのつかない事態にはならなかった。

 

 メンバーの中に性根が濁っている者はいないし────彼らがその気なら、やり直すことはできるはずだ。

 

「貴方たちは、これからどうしたいですか?諦めて故郷に帰りたいですか?それとも────まだ冒険者を続けたいですか?」

 

 私の問いかけに、キドとその仲間たちは視線を交わした。無言の意思確認の後、キドは私に視線を向けて答える。

 

「できれば、諦めたくない…。冒険者を続けたいです…」

 

 レド様の言葉に打ちひしがれたキドの声は、弱々しかった。だけど、キドを始めとした彼らの双眸には、その意思が感じ取れた。

 

「解りました。それでは…、仕事を回してもらえるよう、私がギルドに掛け合います」

 

 メンバーの誰かが、「えっ」と声を上げた。

 

 キドは眼を見開いて、信じられないといったように返す。

 

「………ホントに?」

「ええ。ただ───私は掛け合うだけです。信頼を取り戻せるかどうかは貴方たち次第です」

 

「っいえ、掛け合ってくれるだけでありがたいです!ホントにありがとうございます…!」

「「「「ありがとうございます…!」」」」

 

 涙ぐみ、深々と頭を下げた彼らの声音は震えていた。

 

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