コントラクト・ガーディアン─Over the World─   作:tea4

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第五章―合縁と奇縁―#2

 

 ここまで接近していても、その気配を察することのできなかったネイロさんと『アドラムの絆』の面々は、驚愕を隠せない。

 

 レド様、ジグ、レナス、ミュリア、アーシャは気づいていたのだろう、驚いた様子はなかった。

 

「アノラ……。────“暴風のアノラ”?」

 

 ネイロさんはアノラさんとは初対面ようで────欺かれたことに未だに呆然としながらも、呟いた。

 

「久しぶりだね、リゼ」

「お久しぶりです、アノラさん」

 

 ネイロさんやキドたちは後回しにすることにしたらしく、アノラさんは私に話しかける。

 

「変異種が出たっていう現場は、ここではないようだね」

「ええ。少し離れた所になります。もしかして、助っ人をしに来てくださったのですか?」

「ああ。行商人の一行に同行して、ついさっきこの街についたばかりなんだが────ギルドに行ったら、受付嬢に変異種討伐の後片付けで出払っていると聞いてね。それなら、私も手伝おうかと思って来たんだ。

そうしたら、何やら深刻そうに話しているアンタたちがいるじゃないか。つい、話を聴きたくなってしまったんだよ」

 

 悪びれもなく言うアノラさんに、相変わらずだな────と苦笑が浮かぶ。

 

「アノラさん、こちらはガイラム支部のギルドマスター、ネイロさんです。

────ネイロさん、こちらはBランカーのアノラさんです」

「Bランカーのアノラだ。よろしく」

「ネイロです。────お噂はかねがね」

 

 

 アノラさんは、“暴風のアノラ”という二つ名を持つベテラン冒険者だ。

 

 剣術や弓術だけでなく、武具全般をそれなり以上に使いこなし、前衛、中衛、後衛のいずれも担うことのできる、いわゆる“オールラウンダー”だ。

 

 知識も経験も豊富で視野も広く、Bランクに留まってはいるが、総合的な実力はAランクに相当すると私は思っている。

 

 それに、昇格試験に臨めばSランカーになれるくらいに、人望もある。

 

 

「ところで────皇都では派手に大暴れしたそうじゃないか。おまけに、恋人ができたんだって?」

 

 アノラさんの顔にニマニマ笑いが浮かぶ。揶揄われる予感に襲われつつも、レド様や仲間たちを紹介しようとしたとき、レド様が先に口を開いた。

 

「リゼ───()()()とはどういった関係だ?」

 

 レド様の言い方に、ちょっと引っかかりを覚えたものの、私は答える。

 

「彼女は、アノラさんと言いまして────私に、冒険者稼業の基本を教えてくれた人なんです。マイコニドに遭遇した際、対処法を教えてくれたのも、アノラさんです」

「では、リゼにとっては師匠のような存在ということか…。────まさか、冒険者になっていたとは……」

 

 レド様が思わずといったように零した呟きに、アノラさんの顔からニマニマ笑いが消える。

 

「もしかして────私のことを覚えているのかい?」

 

「……レド様、アノラさんとお知り合いなんですか?」

 

 アノラさんの言葉で確信を得て問いかけると、レド様は伺うような視線をアノラさんに向けた。

 

「話しても構わないよ。別に知られたところで困ることでもないしね」

 

 アノラさんにあっけらかんと返され、レド様が私の問いに答える。

 

「この方は、皇王陛下の亡くなった姉君────つまり、俺の伯母の親衛騎士を務めていた方だ」

 

「えっ、そうなんですか…?!」

 

 つい最近噂をしたばかりのアノラさんに再会しただけでも驚きなのに────アノラさんが、皇族の親衛騎士だったなんて、驚きの事実だ。

 

「しかし…、よく私のことを覚えていたもんだ。ロアドの奴に会わせてもらったのは一度きりだったし、あの時アンタは三歳くらいだったのに」

 

 ロアド────ファルリエム辺境伯が二人を会わせたのか。

 

 それにしても、アノラさんの言う通り、レド様は三歳のときに会ったきりでよく判ったな────と、そこまで考えて閃く。

 

≪もしかして…、“一度目の人生”で関わりがあったのですか?≫

≪ああ。伯母上は女だてらに“護国の将軍”に就かれていて、アノラ女史は親衛騎士として伯母上を護衛するだけでなく、補佐官も務めていた。伯母上が亡くなられた後も国防に寄与され、十年弱の空位を経て俺が“護国の将軍”となった際には、指南役を担ってくれたんだ≫

 

 ということは────“一度目の人生”でのレド様にとって、アノラさんは“師匠”のような存在ということ?

 

≪“一度目の人生”で俺の師匠だったアノラ女史が、今世ではリゼの師匠とは────何とも、不思議な縁だ≫

 

 

◇◇◇

 

 

「それで────そこの坊主どもを引率する件だけどね。引き受けてもいいよ」

 

 アノラさんは、軽い口調であっさりと告げる。

 

「ホ、ホントですか…?!」

 

 キドが上擦った声を上げ、他のメンバーたちも喜色に顔を輝かせる。

 

「ありがとうございます…!」

「「「「ありがとうございます…!」」」」

「だけど、覚悟しておくんだね。私は厳しいよ」

「は、はい!よろしくお願いします…!」

「「「「よろしくお願いします!」」」」

 

 これで、ダルの村については一安心かな。

 

「ネイロさん、これでどうですか?」

「……まあ、あの“暴風のアノラ”が引率してくれるのなら安心です。解りました。街を出立予定だったCランクパーティーが前言を撤回したら、『アドラムの絆』にダルの村の護衛依頼を任せましょう。

ただ───こちらの都合で人員を増やすのですから、報酬に関しては考慮する必要があります」

 

「アノラさんへの報酬は、私が出します。『アドラムの絆』の引率と指導を、私の依頼という形にしてください」

「いいのですか?」

「ええ。ダルの村にはお世話になりましたし────私が言い出したことですから」

 

 バジを譲ってくれたことへのお礼にもなる。

 

「え、でも、そこまでしてもらうのは…!」

 

 ネイロさんと私の会話を聞いていたキドが、慌てた様子で口を挟んだ。

 

「私は、貴方たちのためではなく、ダルの村のためにお金を出すんです。だから、その点に関しては気にしないでください」

 

 だけど────と、私は続ける。

 

「ダルの村は、私が初めて護衛を務めた村です。当時だけでなく、今回の滞在でも、とても良くしてもらいました。

そのお世話になった村を、貴方たちが危険に曝したことを────私は、正直、怒っています。貴方たちがいれば、ボルさんたちがマイコニドの被害に遭うのを防げたかもしれないと知っては、猶更です」

 

 私の怒りを垣間見た『アドラムの絆』の面々は、僅かに身を強張らせた。

 

「でも、貴方たちが後悔して…、ちゃんと反省していると思えたから、手助けしたんです。どうか────手助けしたことを後悔させないでください」

 

 今回の教訓が深く身に沁みているようだし、同じ失態を繰り返すことはないと思うが────それでも、言わずにはいられなかった。

 

「……ありがとうございます。あなたがしてくれたことを…、絶対に無駄にはしません」

 

 キドはそれだけ述べて、深々と頭を下げた。キドに倣うように、一泊遅れて、『アドラムの絆』の他のメンバーも深く頭を下げた。

 

 

◇◇◇

 

 

「それでは、今度こそ、私は警戒任務の依頼の草案を作りに街に戻ります」

「ああ、頼んだ」

 

 ネイロさんはレド様とそう言い交わすと、踵を返した。

 

 続いて───『アドラムの絆』が、最後にもう一度揃って頭を下げた後、ネイロさんを追うように街の城門へと向かう。

 

 困窮していたキドたちは、防具や武具の一部を手放してしまったらしく、装備を調え直さなければならない。

 

 そのための資金は私が用立てるつもりだったけど、アノラさんが立て替えてくれた。後で、きっちり本人たちに返してもらうとのことだ。

 

 アノラさんは、何か私に話があるみたいで、この場に残った。

 

 

「それにしても────リゼも立派になったもんだ」

 

 ネイロさんと『アドラムの絆』の後姿を何となく見送ってから、アノラさんがしみじみと呟いた。そして、ふと何か気づいたような表情になる。

 

「ああ…、そういえば、リゼは成人したんだったね。────成人おめでとう、リゼ」

「ありがとうございます、アノラさん」

 

「まあ、リゼは出逢った当初から大人びていたから、正直、今更みたいな気がするけどね」

「…そうですか?」

 

 私としては、もう少しで成人という年齢で生まれ変わったためか、前世も併せた長い子供時代を経て、ようやく成人として認められたという思いだ。

 

「それで、私にお話とは?」

 

 私がそう促すと、アノラさんの顔から朗らかだった表情が抜け落ちた。

 

「魔物の減少については、さっきの会話でも言及していたし、言うまでもないね?」

「……ええ」

「では────ゴブリン以外の二足歩行の魔物の異変については…、気づいているかい?」

 

 ゴブリン以外────オーガ、オーク、コボルトの三種ということ?

 

「二足歩行の魔物の異変…、ですか?」

「ああ。今期が始まってから、私が繁殖を確認できたのは、エイプ系、四足歩行型の魔物、鳥型の魔物、それにゴブリンだけだ。この時期には一番警戒しなければならない、集落を造るような魔物────オーガ、オーク、コボルトに関しては、“膨張期”のピークが過ぎた今でも、繁殖が始まった群れに一つも遭遇していない」

 

 言われてみれば────今期、何件かの集落潰しに関わっているが、子供が生まれていた集落はなかった。例年なら、すでに繁殖の始まった集落に何度も当たっているところだ。

 

「……私たちも、繁殖の始まった群れには一度も遭遇していません」

「やはりか…。繁殖の始まった群れが“少ない”だけならともかく、一度も“遭遇しない”というのは異常だ。

それがどうにも気になってね。“神の(きざはし)”ではどうなのか確かめるために、久しぶりに“大掃討”に参加しようと思って、この街を通りかかったんだよ」

「そうだったんですか……」

 

「アンタたち、これから“大掃討”に向かうつもりなんだろ?」

「はい、そのつもりです」

「だったら、今私が言ったことを踏まえて、魔物の状態や状況を観察してきて欲しいんだ。アンタは視野が広いし、他人とは観点が違う。何か判るかもしれない」

「………解りました」

 

 それは、こちらとしても気になる問題だ。

 

 もしかしたら、エルフや黒い魔物、それに【魔導巨兵(マギアギガス)】に関係している可能性もあり得る。

 

 アノラさんには、“黒い魔獣”や“防壁を張る魔獣”について話しておいた方がいいような気がする。

 

 そう思いレド様の方を窺うと、私の考えていることを察して頷いてくださったので、私はそれらの件をアノラさんに打ち明けるべく、口を開いた。

 

 

 

 アノラさんとの情報交換が一通り終わった頃には、すでに日が昇り詰めていた。

 

 アノラさんは昼食がてら、共に来た行商人の一行がダルの村を経由するらしいので、同行をお願いするために、ガイラムの街へと戻っていった。

 

 私たちも、仲間たちが戻ってくるまでに昼食の用意をしておこうと動き始める。

 

 この旅では初めて食事の準備に参加するレド様は、心なしか上機嫌だ。

 

「昼食はどうするんだ?」

「さっきから冒険者たちがひっきりなしに近くを行ったり来たりしていますし────見られても不審がられないようなものがいいですね。スープを作っている時間はなさそうですし…、またバーベキューでもしましょうか」

 

 鉄板を見かけたことがないとはいえ、肉や野菜をただ焼くだけなら、そこまで不審がられないはずだ。

 

 それに、ここの冒険者たちには、レド様が皇子であることは知れ渡っている。

 

 もし鉄板を珍しがられたとしても、黒鉄(ブラックアイアン)を円盤状にしただけの代物だし、特注で造らせたと考えてくれるだろう。

 

「ジグ、レナス───火を熾して、五徳と鉄板を設置してくれる?」

「「かしこまりました」」

 

「ミュリアとアーシャは、お皿やカトラリーのセッティングをお願い」

「かしこまりました」

「うん、わかった」

 

「レド様は、食材の下拵えを手伝っていただけますか?」

「解った」

 

 肉類はオーガの肉とソーセージだけでいいかな。

 野菜はジャガイモだけにして、葉物野菜はやめておこう。

 

 後は探索ついでに採取した茸を幾つか焼くことにして────あ、念のため、お醤油に付けるのはやめて、塩と胡椒を振ることにしよう。

 

 

 キドたちが朝食でテーブルとイス代わりにしていた荷箱を陣取って、レド様と手分けしてジャガイモの皮を剥く。

 

 しばらくは二人とも皮剥きに集中していたが────私が次に剥くジャガイモを手に取ったとき、ふとレド様が皮を剥く手は止めずに口を開いた。

 

「食事と言えば────アノラ女史は、料理が苦手だったような記憶があるのだが…」

「ああ…、確かにそうでした。アノラさんは、武器としてのナイフや短剣の扱いは上手いのに、料理の下拵えとなると、途端に壊滅的になるんですよね…。それに、手持ちの調味料を適当に入れてしまうので、微妙な味付けでしたし…。

私と旅をしている間は、料理は私が担当していました。

でも、ナイフに肉塊を突き刺して炙るのだけは、何故か絶妙な焼き加減で上手かったですよ」

 

「やっぱり、そこは同じなのか……」

「そうなのですか?」

「ああ。伯母上からそんなことを聞いた覚えがある。アノラ女史は伯母上を鍛えるために魔物狩りに連れ出していたらしいのだが────その間、肉しか食べられなかったようでな。

行きたくないと断っても連れていかれるから、伯母上は皇女であったにも関わらず、仕方なく野営料理について学んだんだそうだ」

 

 さもありなん────と考えて、あれ、と疑問に思う。

 

「皇族の親衛騎士に任命されたということは、アノラさんは貴族子女だったのではないのですか?それなら、料理ができなくても仕方がないのでは?」

「いや、アノラ女史は、伯母上の専属侍女だった者の娘だ。まあ、母であるその侍女は没落貴族の出で────聞いた話では、母親からマナーや言葉遣いなども教え込まれていたそうだ。皇宮の侍従だった父親は平民出と言えど、一応は貴族の血筋と言えるかもしれない」

「………嫌がる皇女殿下を危険な場所に何度も連れ出して、よく咎められませんでしたね」

「“護国の将軍”を務めるにあたって、騎士や辺境伯と渡り合えるよう鍛えて欲しいと、伯母上からお願いしたらしいからな。────まあ…、伯母上としては、鍛えたいのは精神であって、肉体ではなかったみたいだが」

 

 察して余りある…。

 

「そういえば────リゼは、集落潰しのやり方なども、アノラ女史から指導を受けたされたのか?」

「そうですね。攻め方や注意点などを教わっただけでなく、アノラさんが指揮する集落潰しにも参加して、そのやり方を間近で見学させてもらいました」

「では…、集落潰しを指揮する際は、アノラ女史のやり方を参考にしているのか?」

「ええ。参考にさせてもらっています」

 

「それでか……」

 

 得心がいったという態で呟いたレド様に、私は首を傾げる。

 

「それが何か?」

「いや、ほら────以前、ディンドがリゼのことを『騎士を率いるべく育てられた』と評していただろう?“護国の将軍”の補佐官を務めたアノラ女史に師事したのなら、強ち間違いではなかったと思ってな」

「ああ…、なるほど」

 

 アノラさんのやり方が補佐官時代の戦法や経験を基にしているのならば、確かに、そういう印象を受けるのかもしれないな。

 




ここまで読んでくださて、ありがとうございます。
今回の投稿はここまでとなります。第五章の後半は書き終わり次第、投稿するつもりです。今回ほどはお待たせすることにはならないとは思いますが、お待ちいただけたら幸いです。
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