コントラクト・ガーディアン─Over the World─   作:tea4

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第十二章―忠臣の帰還―#4

 

 4m近い巨体を持つオークが───オークにしては俊敏な動きで腕を振り回し、周囲の木々を薙ぎ倒す。

 

 オークは、異常なまでに発達した牙が邪魔して、口を閉じていられないらしく、涎に塗れた硬そうな舌が、開いたままの口から垂れ下がっている。

 

「あれは、魔獣化しているな…」

 

 レド様が、変異オークを───おそらく神眼で()ながら、呟いた。

 私も【(アストラル)(・ヴィジョン)】で視ながら、頷く。

 

 レド様に討伐していただくとして─────どうしようかな。

 

 普通にいつもの両手剣で討伐するなら、あの程度の魔獣、レド様ならきっと造作もない。

 

 だけど、せっかくだから、何かレド様の経験になるようなことをしたい。

 

 あ───そうだ。

 

「レド様、せっかくですし、弓を(ため)してみませんか?」

「弓を?」

 

 

 レド様は、ファルリエム辺境伯に師事して、ファルリエム辺境伯家に伝わる武術を修めている。

 

 その武術の中に弓術もあって、レド様は弓も扱えるのだけど────皇子という立場ゆえ、これまで実戦で使ったことはないらしい。

 

 鍛練で験したところ、レド様の弓術の腕前は剣術に劣らない。このまま使うことがないのは勿体ない。

 

 

 レド様が、【遠隔(リモート・)管理(コントロール)】で専用の弓を取り寄せる。

 

 レド様の弓は、私のものよりも一回りほど大きく、弦も硬く張っている。使う矢も通常よりも大きくて太い。

 

 この弓も矢も、膂力(りょりょく)があるレド様だからこそ、扱うことができる代物だ。

 

「あの変異オークは、魔力で皮膚を強化しています。だから、眼を狙ってください。眼から脳を貫いてください」

「解った」

 

 レド様は私の言葉に頷くと、弓を構えた。すかさず矢が現れ、レド様は右手で矢を掴んで番えた。

 

 後は────レド様のタイミングに任せる。

 

 不意にレド様が、矢羽根と弦を放った。矢が風を切って、物凄い勢いで飛んでいく。

 

 レド様の狙いは的確で────矢は変異オークの眼球に命中し、眼より大きい矢羽根が引っかかるまで、深くのめり込んでいった。

 

 変異オークは断末魔を上げることなく、ただ───その重量を感じさせないあっけなさで倒れ込んだ。さすがに接地した瞬間は、地響きが上がり、地面が抉れて土埃が舞い上がったが。

 

「一撃…」

「矢だけで魔獣を屠るとは…」

 

 ジグとレナスが、呆れたように言葉を零す。

 

 まあ、これには私も驚きですけども…。でも、レド様だもの。これくらい、当然のような気もしてしまう…。

 

 念のため、【(アストラル)(・ヴィジョン)】で確認する。うん、絶命してますね…。

 

「これは、ギルドに援助要請しなければいけない案件です。解体もギルドでしてもらいます。ですが、今日はギルドに応援を要請する前に、周辺を探索します」

「何故だ?」

 

 私は、例によって変異オークの血を凝縮しながら、レド様に説明する。

 

「あの変異オークがはぐれなら良いのですが────あれが“オークロード”などであった場合、集落がある可能性があるからです」

 

 膨大な魔素に侵され魔獣化することを考えると、はぐれのオークが魔獣化するより、すでに魔力を大量に持つオークロードが魔獣化する方がありえる。

 

 もっとも───その場合はオークロードが魔獣化した際に集落を潰してしまっている可能性が高いが、絶対ではないので確認しないといけない。

 

 もし集落が無事に残っているなら、潰さなくてはならない。

 

「なるほど」

 

 

 

 オークの集落はすぐに見つかった。集落は私が潰したものよりも小さかったが、オークロードに潰されることなく存在していた。

 

 これもレド様に対処してもらい────レド様は、短時間で難なく集落を壊滅させた。

 

 今日は、レド様がギルドに戻って、援助要請をしてきてもらうことにした。レナスがレド様について行き、私はジグと二人で待つことになった。

 

 正直、ジグとレナスの両方にレド様についていってもらいたかったけど、レド様だけでなく、何故かジグとレナスまで私が一人残ることに難色を示すので、仕方なく承諾するしかなかったのだ。

 

「皆、私に対して、過保護すぎませんか?私はこれでもSランカー冒険者ですよ?」

 

 オークの血を凝縮しながら、ジグに零す。

 

「それだけ────皆、リゼラ様を大事に想っているのですよ」

 

 茶化すのでもなく、真剣な声音でジグにそう言われ、私はちょっと驚いてしまった。

 

 ギニスさんの件で怒ってくれたレナスといい────もしかして、ジグもレナスも、私が思っている以上に私を認めてくれているのかな。

 

「ありがとう…、ジグ」

 

 何だかすごく嬉しくなって、私は溢れる感情のまま笑みで返した。

 

 

◇◇◇

 

 

 私がオークの集落を壊滅したときは、依頼でもなく、ギルドの査定も必要なかったので、自分で解体してしまったが────

 

 今日はレド様の評価のためにギルドの査定が必要なので、解体はしないで、血を抜いただけの状態で援助を待っていた。

 

「リゼ、待たせた」

 

 荷馬車から降りたレド様が、真っ直ぐに私の許まで歩み寄って言う。

 

「いいえ。お疲れ様です、アレド。無事、助っ人を連れてこられたみたいですね」

 

 後で、何事もなかったか、レナスに確認しておこう。

 

「これまた────すごいな…。今は魔物の繁殖期寸前だから集落も増えてるし、魔素も増える時期で魔獣の出現率が上がっているから、また魔獣や集落に遭遇したってのは解る。が…、一人でこれをやったってか?」

 

 今回もついて来たらしいガレスさんが、前回同様、呆然とした態で呟く。

 

「今回はリゼは手を出してないんだろ…?」

「ええ。これくらいなら、アレド一人で十分ですから」

「はは…、マジか。────まあ、お前さんもこれくらい一人でやっちまうもんな」

 

 ええ、まあ───ついこの間、オークの集落の壊滅も魔獣の討伐も一人でやりましたが。

 

「でも、ガレスさんだって────現役のときなら、これくらいできたんじゃないんですか?」

「バカ言え。仲間と協力してならともかく、一人でそんなことできるわけねぇだろ」

 

 え───そうなの…?

 

 

 

 オーガのときより、集落も小さかったし数も少なかったせいか、今回は日が沈む前にすべてを終えられた。

 

 それでも、やっぱり解体は明日以降で、清算も解体と査定が終わり次第となったけど。

 

 それにしても────今日もレド様に解体を教えることができなかったな。

 

 依頼とは別の魔物を狩って、解体を経験してもらおうと思っているが、なかなか上手くいかない。

 

 まあ、でも、解体技術は冒険者として必須なわけではない。覚えておくと、費用が浮いて獲物を持ち帰るのに便利だというだけだ。

 

 大抵の冒険者はパーティーを組んでいるので、獲物を皆で抱えて持って帰ってくる。

 

 ただレド様の場合、何かあって────例えば、追われて森の中を徘徊するような事態になったとき、解体できれば食糧を調達できて生存率が上がるから、覚えておいて欲しいと考えている。

 

「では、戻るか」

「そうですね」

「何処か、寄っていくところはあるか?」

「いいえ、特には。食材も十分残っていますし」

 

 食材などの調達もラムルがしてくれることになったので、私はジグとレナスの分だけ気にしていれば良くなった。

 

「それなら、帰って────二人でお茶でも飲んでゆっくりするか」

「ふふ、いいですね。夕食まで少し時間がありますし、まったりしましょう」

 

 レド様と笑い合う。

 

「それでは、セラさん。また明後日来ますね」

「……ええ。またのお越しをお待ちしております」

 

 何だか呪いでも含んでそうな低く唸るような声音とは裏腹に、満面の笑顔でセラさんが私たちを見送ってくれる。

 

 セラさんの背後に立つ般若のようなナニカの幻覚を追い払いつつ、私はレド様の後に続いて、扉へと向かう。

 

 何だか、いつもより視線を感じる…。

 

 レド様が見ない顔だから、きっと珍しいんだろうな────そんなことを考えながら歩いていると、扉が開いて、若い冒険者の集団が入って来た。

 

 あれ、あの子────

 

「リゼ姉さん…!」

 

 一団の中から抜け出してきた背の低い一人の少女が、こちらへと駆け寄ってくる。

 

「…アーシャ?」

 

 それは────私の所有するあの孤児院に身を置く、アーシャという名の少女だった。

 

「リゼ姉さん、やっと会えた…!」

 

 レド様を通り越したアーシャは、私に抱き着く。何故か、何年も会えなかったかのような風情のアーシャに、困惑する。

 

 私とすれ違いにアーシャが冒険者の仕事で皇都から出ていたから、1ヶ月ほど会えていなかったのは確かだけど…。

 

「お願い、リゼ姉さん、わたしも連れていって…!」

 

 ……何処に?

 

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